マーリンは精霊になったようです(仮)   作:ややややよ

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お待たせしました。
例のウイルスにより、半ばニートみたいな状況に陥ってしまいましたので、少しずつ話しを進めていこうと思います(希望的観測)




4月10日③

 

 

 旧マーリンみたいな姿の彼女は、現在、現実逃避をしていた。

 この世界、思ったよりも物騒だなぁ。

 

 和気藹々()な現場を見た彼女は、調査を始めてしばらく後、吐き気を覚えて我慢できずに嘔吐。自分が吐いてしまった事実を受け止め切れず、吐瀉物で汚れた地面をマゼンタ色のビーム、略してマゼンタビームで消し、そのまま白い目をしながら膝を抱きかかえるようにして座って、遠くを眺めていた。

 

 青いポニーテールの近未来な感じの子は名前を『崇宮 真那』というらしいことは千里眼を通して調べはついた。

 彼女がDEM社という裏で怪しそうなことしてそうな所の隊員であることも、千里眼によって個人情報を盗み見ることで分かった。本当に千里眼には頼らせてもらっている。ありがとう千里眼。

 他にも調べてみたりしたが彼女、なんか経歴が色々とおかしいなとか、普通の人間には無理な体の動きしているなと思うだけで、戦闘力だけでみれば幻術でどうにでもなりそうだという考えに至った。多分無問題と、ガバガバな思考で結論付けた。

 正直、問題なのは崇宮真那が相対していた方のが危険性が高いと彼女は確信していた。

 

 『時崎 狂三』、〈ナイトメア〉と呼ばれ、最悪の精霊と巷では呼ばれているらしい。何か目的があって人を襲っているみたいだが、それよりも問題なのは彼女が分身のようなことが出来ることだ。

 千里眼でナイトメアに関して調べようとした瞬間に、視界が一瞬にして大きく乱れ、幾つもの風景が目まぐるしく変わり、その風景に必ず映り込む黒髪ツインテール姿の女の子に驚愕しながらも、数瞬で幾度も移り変わる視界に酔い、吐いたのだ。許すまじ分身能力。千里眼で勝手に調べようとした自分も悪いかもしれないが、千里眼で吐き気を催させた時崎狂三に恨みが沸々と湧いていた。

 本体の時崎狂三を指定して視れば、分身に引っかかることもなく視ることはできたが、時間を掛けて調べても大まかな情報しか掴めず、掴んだ情報も少し憂鬱なものしかなかった。

 

 時崎狂三という少女は、どうやら影に関係した能力を持っている。あと分身する。

 これくらいしか判らなかった。なんてこったい。お前の調査ガバガバじゃねーか。

 とは言っても、本体を見ても影から分身が出入りしている所と、古めかしい銃を武器にしていることくらいしか見ることが出来ず、しつこく時崎狂三を追っているようである崇宮真那の本元のDEM社を調べても特に情報は出てこなかった。『殺してもまた出てくる』ということくらいしか判っていないみたいで、逆に自分の方が詳しくなってしまった結果に終わった。

 彼女は「むぅ」と唸り、仕方がないと肩を落とした。

 とりあえず現状としては、時崎狂三はヤバいから、もし出会ったら仲良くなるか全力で逃げる方向性で考えよう。

 彼女は何処までも楽観的だった。

 

 

 そういうことで、「精霊ってヤバいんだ―」という認識から「精霊って本当にヤバいんだね」という認識に変わった彼女は、そのヤバい精霊に僕カテゴライズしてるじゃん!と今更ながらに実感し、海底脱出という目標を一旦横に置いて、安全確保を第一に準備出来ることから手をつけることにした。

 

 遠くなっていた意識を頭を振ることで正気に戻し、頬をパチンと叩くと、安全第一いのちだいじにとこれからを考えることにした。

 

 とは言っても、何から手をつければいいかは分からない。このドーム状に広がっている空間を要塞化して、仮にバレたとしても迎撃出来るようにするとかどうだろうか。いや深海の時点でそう簡単には来られはしないだろうし要塞化は後だろう。

 魔術を応用してあの娘のように分身が出来ないだろうか?……どうやってやるか分からない。無理だな。

 そういえばASTやDEM社の子が使っていた装備、何と言ったか、顕現装置(リアライザ)だっただろうか。科学技術で魔法みたいなことを再現しているようだが、あれを『道具作成』で作れば外出時の安全も確保できるのではないだろうか?あっ、この案は良さそう。

 

 善は急げと千里眼を発動し日本のASTを見てみたところ、何やら忙しそうに例の顕現装置を装着して出撃準備をしているAST隊員を彼女は確認した。

 何だろうかと近くの天宮市を見てみたところ、地下シェルターへの入り口や駐車場、新幹線が地下へと収納されていく様が見て取れた。彼女は元の世界では考えられない技術力に舌を巻いたが、「これって空間震警報か」と警告を今も行う標識を視ながらすごいなーと感嘆していた。

 

 

 顕現装置のことを忘れて街を見渡していると、彼女の視界に人影が映る。

 男の子だ。制服と成長具合から男子高校生だろうか?おいおい空間震警報出ているんだぞ大丈夫かなぁ、と心配になりその男子高校生を千里眼で追い始めた。

 男子高校生が全力で走る様にハラハラしながらも追っていると、少年が十字路に差し掛かった辺りで、異変が起きた。

 

 轟音。

 衝撃。

 

 宇宙から色がそのまま地上に落ちたかのような、黒い球状のエネルギー体が唐突に発生し、周囲の建物はエネルギー体による衝撃波で崩壊していく。

 彼女はこれが空間震というものであることを理解した瞬間に、素早く少年に強化魔術と保護魔術を掛け、その衝撃に耐えうるようにした。

 

 見つけてしまったからには、助けてあげるのも仕方ない。魔術を掛けた彼女は少年が無事であることを確認した後、エネルギー体が収束し、煙が晴れるのを待った。

 

 空間震によって地表が抉れ、そのクレーターの中心に少女が鎮座していた。

 

「ああ、あの娘が〈プリンセス〉か」

 

 精霊の情報を集める際に、無論〈プリンセス〉に関しても調べはついていた。

 膝まで伸びた結われた黒髪に、不思議な輝きを放つ紫の双眸。

 それだけでも奇異に見えるが、彼女を異色足らしめるのは、その装いだ。

 妖しげな光沢を放つ金属と、しなやかな繊維であると思える布が合わさった、〈プリンセス〉の名に恥じない、お姫様のようなアーマードレスを身に着けていた。

 その彼女の隣には、黄金に光る玉座と、その玉座に収められた大剣からは、千里眼越しでも昂然たるオーラが発せられていた。

 

 だが、重要なのはそこじゃない。

 千里眼を用いて覗いていた旧マーリンっぽい精霊は、玉座から剣を引き抜こうとしている様を無視して、彼女のある一部分(・・・・・)を凝視していた。

 

 ――それにしても大きいなぁ!あの胸部装甲!

 

 昔、とあるエロい人は言いました。

 『男は大きな胸を前に、まるで重力のように惹かれてしまう。万乳引力に抵抗するなど普通の男には不可能である』

 精霊になって一日も経っていない彼女にとって、心は未だ男。ならばそのたわわに実った大きな二つのメロンに視線が行くのも仕方の無いことなのである。

 

 顔を緩めて〈プリンセス〉の胸を凝視していた彼女は、異変に気付く。嫌な予感のした彼女は視界を後方へと下げて〈プリンセス〉を見やると、何故か彼女と目が合った。

 訝し気にこちらと視線を合わせる〈プリンセス〉に動揺しつつも、『千里眼』はあちら側から干渉されることは無いはず――と、思っていた次の瞬間。

 

 光波。

 

 紫色に光を放つ剣戟の波動が見えたのを最後に、彼女の視界はブツリと途絶えた。

 

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 

 

 

 ――……すっっっっっごくビックリした。まさか千里眼の視界を切り裂くとは思わなんだ。

 

 無論、深海に住んでいる精霊は特に外傷もなく、無事である。

 少し股辺りが濡れてしまったが、魔術で無かったことにした後、肺の空気を全て吐き出しながら、倒れ込む。

 

 ――あの娘、勘が良すぎじゃないか?

 

 彼女が持つ『千里眼』は、本来なら何者にも感知されることの無い力だ。

 だがしかし、あるゆる物事というのは例外がある。

 

 恐らくだが、〈プリンセス〉は誰かに見られているということに気づき、良く分からないけど斬ってみるかと大剣を振り下ろしたのだろう。

 ……まさか『千里眼』の能力ごと叩き切ることが出来るとは予想外だったが。

 視界が光でいっぱいになったと同時に一瞬にして暗闇になるのは、中々に恐ろしいものだ。

 次からは遠くから眺めることにしよう。

 

 本来の目的である顕現装置を視ることなど忘れ、彼女は『精霊でも時崎狂三はヤバい』から『精霊は全個体が大体ヤバい』という認識に変えた後、バクバクと鳴り響く鼓動が収まるのを待った。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「――状況は?」

 

 真紅の軍服をシャツの上から肩掛けにした少女、五河琴里は、中央にある一番大きな艦橋の大モニターを凝視しつつ言った。

 

「はっ。精霊出現と同時に攻撃が開始されました」

「AST?」

「そのようです」

 

 村雨解析官と話をしていたラタトスクの副司令である神無月は、艦長席に座った司令を確認するや否や、村雨令音との会話をやめ、今朝からまとめていた資料を手に隣へと移動する。

 普段、ドが付くほどの変態が、精霊一体の出現でここまで正しくしている理由に、今朝の太平洋で起きた空間震と関連しているのだろうかと推測しながらも、そのまま状況説明を聞くことにした。

 

「現在確認されているのは一〇名。一名追撃し交戦しているようですが、〈プリンセス〉が現状有利です」

「映像は――、後で確認するわ。それよりも何か問題があったんでしょ?説明して」

「はい」

 

 環境のモニターに、太平洋で発生した大規模空間震の映像が映し出される。

 白波の立つ海原が、突如として発生した空間震によって大きな口でも開いたかのように海面から海底までポッカリと穴が開いたかと思うと――、その数瞬のあと、画像が乱れ海面は元の状態へと戻り、何も無かったかのような平和な海を映し出していた。

 

「四時十一頃、太平洋にて今までにない大規模空間震が発生しました」

「それはこの映像みればわかるわよ。……アレは、一体何か判明してるの?」

 

 琴里は太平洋で起きた空間震については既に知っていた。

 国が地図から消えるほどの空間震をメディアが取り上げないはずがない。朝のテレビ速報でこのことに関しては報道されていたため、空間震については知っている。知っているが……

 

「全くもって不明です。あのような事態が起きれば津波による影響が確実に置きるはずです。……ですが、津波の影響は見られず、海面水位にも特に変化はなく、形容するならばまるで時間が巻き戻った(・・・・・・・・・・・)、でしょうか」

 

 モニターにもその数値やグラフが映し出されるが、別段昨日の数値と変わらず、空間震による影響が一切ないことを示していた。

 琴里は棒付きの丸いキャンディーを口に放り込み、まじまじとモニターを睨み付けた後に、口を開いた。

 

「霊波パターンの解析は?」

「既に。朝の眠気を司令を思うことで跳ね除け、跳ね除けている間に村雨解析官が解析を終了しました」

「…………」

 

 脛めがけて蹴りを放つ。艦橋内に汚い声が漏れたが、その声の出である本人は恍惚の笑みを浮かべてから、直ぐに顔を真剣なときの顔に戻した。

 

「……その後の精霊の動向は?豚」

「ヒン!……失礼、その後海底に出現した精霊は動きを見せず、そのまま約二時間後、六時二二分に消失(ロスト)しました。――ですが」

「まだ何かあるって訳?」

「はい、先程報告に挙げました〈プリンセス〉に関係してきます」

 

 神無月の言葉を受け、モニターの映像が変わり、繁華街から二つ程通りを隔てた十字交差点が映し出される。暫く交差点に異常は見られなかったが、そこに一つの影が映りこむ。

 

「……は?なんであそこに秘密兵器がいるわけ?」

 

 その影は琴里の兄である五河士道の姿だった。

 

「理由はわかりませんが、……この後です」

 

 神無月にモニターを促され、不思議な顔をしたままモニターを眺める。

 何処かへ目掛けて走る士道が交差点へと差し掛かろうとしたその時、〈プリンセス〉による空間震が発生する。

 琴里はその映像を見て一瞬取り乱したが、周りのクルーが特に驚いていない様子から大丈夫なのだろうと平静を取り戻した。

 空間震が落ち着き、土煙が晴れると、空間震によってできたクレーターの中央に鎮座する精霊と、そのクレーターのすぐ横で尻もちをついている士道の姿が見えた。

 

「……で、これの何が問題だったの」

 

 キャンディーを口の中で転がしながら、神無月を睨み付ける。さっさと説明しろよ豚野郎と軽蔑した視線に神無月は歓喜に震えながらも答えた。

 

「問題なのは、――五河士道が生きていることです」

「……は?」

 

 神無月の口から出た言葉に呆気にとられる。しかし、神無月はそのまま言葉を続ける。

 

「あんな近くで空間震に遭えば、その衝撃波により良くて重傷、普通であれば生死の危険に立たされるはずです。ですが――」

 

 神無月はモニターを操作して五河士道にズームをする。

 

「――傷どころか、制服にすら汚れが付いておりません」

 

 また――と神無月は言葉を続ける。

 

「この空間震の発生直後、海洋に出現した精霊と同じ霊波パターンが確認されました。――恐らくですが、その精霊が五河士道に対して何かしらの方法で空間震の衝撃波を無効化したのではと考えております」

 

 琴里は神無月の言葉を噛み砕き、理解する。

 

「それは詰る所、その精霊が私たちフラクシナスの観測から逃れて、挙句の果てに遠距離からの干渉をした――ってこと?」

「その後、全力を以って天宮市近辺の精霊の捜索を行いましたが、精霊の姿が見つからなかったことから、その可能性が考えられます」

 

 琴里はその可能性に驚愕した後、モニターを今一度眺める。

 

 海洋に突如として現れた精霊。一切その姿を見せることなく姿を消したと思ったら、何故か空間震の脅威に晒されようとした士道を守った。

 

 ――これは、警戒しないといけないわね。

 

 琴里は心の中で呟いたあと、そういえばと神無月に口を開く。

 

「そういえば、あの死にそうになった最終兵器は今どうなってるのかしら」

「ああ、彼ならそのあと気絶しましたので隙を見て回収しました。今は令音村雨解析官が診ております」

「そう、それじゃあ起きたらここに来るように言っといて」

「了解しました」

 

 琴里は神無月に命令をすると、そのままキャンディーをまた舐め始めた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 旧マーリンっぽい精霊である彼女は困惑していた。

 

 彼女はそういえば昼過ぎたのに何故かお腹すかないなーとか、眠たくないけど惰眠貪りたいなーと考えながら地面に寝そべり、地面から花を生やして簡易的すぎる寝床を作って寝始めた。特に何かしようとか思ってもいなかったし、強いて言うのであれば仰向けになって寝ると胸が重く感じる……えっちだぁ、としか考えていなかった。

 

 寝転がってそのまま寝たこと、そこまでは覚えている。ならば今の状況は一体何なのか。

 

 

 辺り一面闇の世界だった。

 

 

 光があることの方が罪であると言っているかのような何処までも続く闇の中に彼女はポツンと座っていた。

 

 ぐるりと周囲を見渡してみる。

 前方、特になし。

 右方、特になし。

 左方、特になし。

 後方、特にな――

 

 カチャリ。

 

 彼女は本能的に両手を上げた。

 

「さて、別の私が少し眠っている(死んでいる)間に、どうやってここに来たのかご教授願えませんか?大洋の精霊さん?」

 

 銃口をしっかりと後頭部に付けながら、耳元できひひと可笑しく笑う精霊――識別名〈ナイトメア〉、時崎狂三は話しかけてきた。

 後頭部から感じる金属の重みを感じて、マーリンは苦笑いをした。

 

 




正直、神無月が書いてて一番楽しいです。
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