一夏×箒 短編集   作:まろ@ファース党

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今日はいい夫婦(11/22)の日ということで。
結婚して3年目くらいの一箒です。


二人ずっと、これからも(前編)

Morning (a.m. 5:30)

 

 

水面から思いっきり顔を出した時のような勢いを感じて目が覚めた。

首を回して枕もとの時計をみる。5時半。布団に入ってからまだ3時間しか経っていない。

時差ボケなのか、はたまた夜行バスで爆睡してたのが原因か。ちっとも眠気を感じない。

目を閉じてもすぐに眠れないことは明らかだ。

 

「んっ…すぅ……すぅ……」

 

横から一か月振りに聞こえる最愛の人の声。

振り向くと箒の顔がすぐ目の前にあった。

 

俺が箒の寝顔を見ることはめったにない。箒は早起きが得意で俺が起きるともう布団から出て朝ごはんの支度をしているからだ。

そんな箒が今可愛い寝息をたてて寝ている。これは。

(これはまじまじと箒を見れるいいチャンスじゃないか?)

 

雪のように白い肌に柔らかそうな薄桃色の頬。上に向いた糸のように長いまつげ。あまりにも綺麗で見るだけでドキドキしてしまう。そして、紅を塗っていないのに艶やかな唇。反射的に喉を鳴らした。

 

寝込みを襲うのはよくないけど、そっと触れるくらいならいいよな…?

 

手に頬を添えた瞬間布団がもぞもぞ動き出した。これはもしかしなくても、

「にゃーん」

シャイニィか。相変わらず狭いところが好きだなぁ。

 

とりあえず引っ張り出して小声でたしなめる。

「にゃあ」

『おはよう。箒寝てるからもっと静かに…』

「にゃあにゃあ」

そうしている内に箒がうっすら目を開けた。

「い…一夏…?」

起きてしまったか、せっかくのチャンスが…。

邪魔してきた白猫を恨みがましく思いながら、笑顔で挨拶する。

 

「箒。おはよう」

「おはよう…帰ってきていたのだな」

「ああ、ただいま」

 

この一連の会話も一か月振りだと妙に照れくさく感じてしまう。

箒も同じなのか、顔を横に向きながらもじもじと指をからませている。

俺の奥さんとってもかわいい。

 

「一夏…その、メールでも言ったが、モンドクロッゾ大会優勝おめでとう」

「ありがとう。長く家を空けちまって悪かったな、大変じゃなかったか?」

「大丈夫だ、雪子おばさんが手伝いに来てくれたからな。一夏の頑張りが結果として表れて私は…嬉しかったぞ」

「箒達が応援してくれたからな、頑張れたんだ。本当にありがとな」

「お…お礼を言うのはこっちの方だ。よく頑張ったな」

「おう」

 

照れながら純粋に結果を称えてくれる。

俺の奥さんとってもかわいい(2度目)。

 

「今日は日曜日だから道場も休みだ。お昼ごはんも私が用意するからゆっくり寝てていいぞ」

 

「サンキュ…といっても、もう目が覚めてあまり眠くないんだよな」

「いや、寝てろ。寝ないと変な時間に眠くなって辛くなるのは一夏なんだからな」

「そうだよなぁ…でも今朝冷えてるからな、ぬくもりがないと眠れないというかさ~」

腕組みをして大げさに震えるマネをすると箒は呆れてため息をついた。

 

「はぁ…昨日までお前が行ってたトロントの方がもっと寒いだろ!分かりやすい嘘をつくな!」

「ははっ、それもそうだな」

「全く…きょ、今日だけだからな」

そう言って箒は腕を回して俺に全体重を預けてきた。

 

や、やわらけぇ…。

それと同時に伝わってきた箒の体温、鼓動の音。

 

俺がぎゅっと抱きしめ返すと鼓動がトクントクンと速くなった。

ちらりと箒の顔を見ると真っ赤になってうつむいてる。なにこのかわいい生き物。

たまらなくなって箒の髪に顔をうずめた。

 

「ちょっ…一夏!恥ずかしいぞ!」

「箒ってほんといい匂いするな…」

 

清潔なシャンプーの香りと箒自身から発せられる甘い香りが混じった匂い。

1ヶ月しか離れてなかったのにひどく久しぶりに嗅いだ気がした。これは俺にとって世界一安心する匂いだなとしみじみ感じる。

 

「今日だけ…今日だけだぞ…」

うつむきながら言い訳のようにぶつぶつ言ってる姿さえも愛おしい。

 

「一夏は結婚してからよく甘えるようになったな…」

「箒こそ甘やかし上手になったな。いい母親になるんじゃないか?」

「は、母~~~~!!」

箒の顔はさらに真っ赤になった。

 

「一夏……いや、今はいいか」

「なんだ箒」

「なんでもない!とにかく早く寝てくれ」

「おう、寝るまでそばにいてくれよ」

「仕方のないやつだな…」

腕を絡めたまま二人揃って横になる。

 

「おやすみ、一夏」

 

 

 

 

 

 

Around Noon (a.m. 11:10 ~ p.m.1:00 )

 

 

その後安心してすぐ爆睡してしまったのだろうか。とても残念なことに、箒を抱きしめた後の記憶が一切残ってない。次に意識が戻った時に隣のぬくもりはすでになく、時計の針は11時10分を指していた。カーテンの隙間からあふれんばかりの木漏れ日が差し込んでいて絶好のお出かけ日和だというのが窺えた。

布団を押し入れに入れてラフな服に着替える。顔を洗いに洗面所に行くと、歯磨きする場所にメモ書きが置いてあった。

 

『おはよう

今日はいい天気だな

お腹すいたら食卓にみかんがある

1時過ぎにお弁当を持って公園へ行こう』 

 

その言葉通り、台所の塩こうじとしょうがの食欲をそそる香りが漂っている。

早くも鳴るお腹をなだめて、箒に聞こえるように声を張り上げた。

「箒!夕飯の買い出ししてくる!」

 

 

***

 

夕飯は試合前日にホテルで食べた料理を再現することに決めた。

七面鳥のソテー、温かいミネストローネスープ、絶妙のチーズに赤ワイン。特にソテーのがすごくまろやかでそれでいて絶妙にハーブ効いていたあれは、思い出すだけで顔がほころぶ。最初の一口を食べたとき頬が落ちるかと思った。

箒にもできたらあの味を体験してもらいたい。

 

スーパーで一通りの具材を買いそろえたので最後に商店街の精肉店に向かう。途中で今朝の箒のことを思い出していた。

(本当はもっと箒がアワアワしている姿が見たかったのに…)

 

あのまますぐに寝てしまうなんて一生の不覚。箒はすごく恥ずかしがるから夫婦になったった今でもめったに抱きしめさせてくれない。その代わり抱きしめられると大人しくなって、いたずらしても許してくれるし、上目遣いで甘えてくれるときもある。そこが猫みたいでかわいいなと思ってたのに。せっかくのチャンスを無駄にするなんて、俺のバカ!

 

考えているうちに精肉店の入口までたどり着いた。

「こんにちはー」

「へいらっしゃい!って一夏くんじゃねーか!」

「おじさんお久しぶりです」

 

精肉店のおじさん。中学のバイト時代からの長い付き合いだ。今日も真っ赤な顔にきっちりしめた鉢巻がよく似合ってる。

 

「おう!昨日モンなんたら大会優勝したんだってな!おめでとさん!」

「ありがとうございます」

「はー、俺と商店街のやつらで育ててた一夏くんが世界で戦うようになるとはなあ。感慨深えなあ…今日は特別にまけてやるぜ!」

「はは、ありがとうございます。七面鳥まるごと一匹ください」

「七面鳥ね!はいよ!ちょいお待ち!」

そう言ってお店の奥のほうへ引っ込んでいった。

 

相変わらず83歳とは思えないすばやい動きだな。俺も健康には気を遣って80過ぎてもこれくらい元気でいたい。まあ60年後なんて今から想像つかないけどな。

 

「へいお待ち!鶏肉600gもおまけしといたから早いうちに食え!」

「え!ほんとですか!ありがとうございます!」

 

鶏肉といえばからあげ。からあげと言えば箒の作ったからあげ。

その瞬間箒のからあげの味が口いっぱいに広がって思わず涎が垂れそうになる。

いかんいかん、ご飯は家帰るまでおあずけだからな、自制せねば。

 

そういえば。

「俺が留守にしてるとき商店街のみなさんお変わりありませんでしたか」

 

「いんや。相変わらず死ぬとは思えねーほど元気だよ」

「おお、聞けてよかったです」

「おうよ。ただ、お前の家の奥さんが、」

「箒が?」

「最近ここに来てなくてな。外出してる様子もあまりないってきいて、どうしたんか、病気かつって心配してってあれ…何も聞いてないのか?」

「…はい」

「そうだったのか。いやー、言っちゃまずいこと言ったか。俺なんも考えず言っちまうからよぉ。気ぃ悪くしたらわりぃなぁ」

「いえ、大丈夫です」

 

箒が外出をあまりしていない…?箒が病気…?

まさか、今朝見た様子だと機嫌いいし普通に体調良さそうだったぞ、少し眠そうだったけど。

それが、見間違いだったのか?

思案している俺の顔をおじさんがすまなそうにしてのぞき込む。慌てて顔をあげた。

 

「ちょっと家着いたら箒に聞いてみます。多分大丈夫だと思うけど」

「おう。すまんなぁ」

チリンとチャイムの音がしたあと他のお客さんがお店に入って来たのでおじさん会釈して素早くお店を出る。東に向かって歩きだそうと足を一歩踏み出そうとしたその時、後ろで猫の鳴き声がした。

 

「にゃあにゃあ」

振り返ったらシャイニィが地面にちょこんと座っていた。

 

「よおシャイニィ。よくこんな遠くまで来たな」

「にゃあにゃあにゃあ」

目線を合わせて呼びかけても、シャイニィはずっと一点を見つめながら鳴き続けている。壊れたサイレンのように。

 

まるで何かを訴えかけるように。

…もしかして。

 

「もしかして、箒に何かあったのか?」

 

その瞬間シャイニィは一目散に家のほうへ駆けていった。

嘘だろ、まさか本当に。

 

「まて!シャイニィ!箒!今すぐ行く!」

 

 

 

 




後編はこの土日にでもあげる(血涙)
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