一夏×箒 短編集   作:まろ@ファース党

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お待たせしました!後編です。


二人ずっと、これからも(後編)

七面鳥の持ち方以外は一切考えずとにかく走る。走る。走る。

10分くらい経っただろうか、ようやく家が見えた。

「箒!!!」

思いっきり家の扉を開ける。

そこには、台所で倒れている箒が____いなくて、その代わり布団で横たわっている箒がいた。

「一夏?どうしてそんな慌てて」

とりあえず何事もなかったようでほっと胸を撫で下ろす。

「いや、なんでもない。箒こそどうしたんだ?どうして寝てるんだ?」

「昼飯作り終わった後ちょっと眩暈がしてな…台所で倒れるといけないと思って少し安静にしてただけだ、大したことはない」

そう言って頬笑む箒はいつもと変わらない様子に見えた。

「そうだったのか…でも体調悪いのなら連絡してくれよ」

「ああ、今度からする。…悪いが私と一夏の分の食事をこっちに持ってきてくれないか。後はよそうだけだから」

「…了解」

言われた通り俺はご飯をよそるために部屋を出て障子を閉める。…が、完全には閉めないで箒を障子の隙間から観察した。

俺が出ていくと箒ははーっと小さくため息をついた。そのあと天井の一点を真剣に見つめいてる。さっきは気づかなかったが顔もどこか青白い。

(まじで体調悪そうだな…)

 

台所にはホウレン草のごま和えにきんぴらごぼう、からあげ、カボチャの煮物にできたての味噌汁に、ほかほかのご飯があった。

「さっすが箒、俺の食べたいものを的確に当ててくるなぁ」

1ヶ月和食、特に箒の手料理が食べたくてしょうがなかったもんな。お腹がぎゅるるるるっと盛大に鳴った。

 

「お待たせ」

「ありがとう一夏。助かった」

箒が体をゆっくりと起こす。箒が食べやすいように箸でカボチャの煮物をわった。

「箒、ほれ」

「え!いや、それは…」

急に顔を真っ赤にして慌てだす箒。いやいや、なんでだよ。今までも何回かしてるのに。まあそこが箒のかわいい所だよな。

「いいじゃないか、この方が食べやすいだろ」

「うっ、それはそうだが…」

「体調悪いんだろ」

「だからもう大丈夫だって」

「じゃあ俺が好きでやることにしてくれ。はい、あーん」

そう言うとようやく箒は口を小さく開けてモグモグする。小動物に餌をやるみたいで楽しいんだよな、これが。本人に言ったら怒られるだろうから言わないけど。

しばらく続けたあと箒が言った。

「一夏もう十分だ、ありがとう。朝に何も食べていないんだろ、お前も食べろ」

「おう、じゃあいただくか」

冷めちゃうし、温かいみそ汁から手をつけてって____

「?!」

「一夏どうした!?」

俺が目を白黒してる間に箒が慌てて味噌汁を飲んだ。

「これは…甘い!何故だ!」

「箒…これ砂糖入れたろ…」

「あ、最後に塩をではなく間違えて砂糖を入れてしまったようだな…」

しかも甘いだけではなくて…味噌のしょっぱさを砂糖が懸命に打ち消そうとしているようで、しょっぱいのと甘いの周波が定期的に来る難物。ずっと飲んでたら味覚が麻痺しそうだ。

ちらりと箒を見るとしゅんとしてうなだれている。犬耳があったら耳がだらんと垂れているに違いない。箒は、体調が悪いとだいぶ落ち込みやすくなるからな。よし、織斑一夏、男を見せろ。好きな人に悲しい顔させたくないだろ。

 

味噌汁を一気にかきこみながら飲み干した。

「はー、ごちそうさま」

「一夏!何をしている!」

「何って、味噌汁を全部飲んだだけだ、箒の分も飲まないならもらうぞ」

「あ…」

箒の手から味噌汁を取って全部飲み干す。うーん、未知の味だ。

「ふうごちそうさま、これだけでお腹いっぱいだな」

「おい…」

さっきの申し訳なさ純度100%だったのが変わって、申し訳なさそう半分、俺への呆れ半分になったようで満足する。

 

ふとなつかしい思い出がよみがえった。

「どうしたんだ、急ににやけて…」

やばい、いつの間にか顔に出てたのか。正直に告白する。

「はは、高校時代に箒が作ってくれた味なしチャーハンのことを思い出しちまって」

「なっ!あのまずかったチャーハンか!うう…もう忘れてくれ!」

「まずい?箒、俺はお前の料理をまずいなんて思ったことは一度もないぞ」

戸惑った顔になる箒。それには構わずに続ける。

「だって箒はいつも真心こめてつくってくれるからな。まずいわけがないだろう」

その瞬間箒はまた真っ赤な顔に戻った。めちゃくちゃ照れている。やめろ、こっちまで照れるじゃないか!うーん、確かに考えてみればキザな台詞だったかもしれない。でも、これは本当のことなんだよな。だとしてもこの変な空気があふれる場をどうにか和ませねば。

「あ、ありがとう…本当にやさしいな一夏は…」

「おう。また作ってくれよ、味なしチャーハン」

「それは余計だ、馬鹿!」

あ、失敗したみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

evening (p.m.16:10)

「わあやはりここは見晴らしがいいな!」

「だなー」

その後箒が体調良くなったからと言うので、近くまで散歩しようと、花火がよく見える例の場所に来ていた。周りの紅葉の木々の葉は紅に色づき始めている。それらを夕焼けが照らしていて、なんというか幻想的だ。この場所でたわいのない会話をすることのなんて楽しいことか。やっぱり箒のそばは一番安心する。

 

でも、気がかりなことが一つある。

それは、箒の体の具合について、だ。

箒が体調を崩すことはめったにない。3年暮らしていて分かったことだが箒は超健康優良児だ。いや、子供ではないか。ともかく、箒は毎日朝6時には目覚めて朝稽古をしたあと篠ノ之神社の仕事に従事する。夕方になったら道場に通う子供たちを指導し、夕食を食べ入浴した後10時半にはもう床に着く。食事も3食自炊して栄養バランスにも気を遣っている。この文句のつけようのない生活習慣の前では、どんな病原菌も歯が立たないだろう。

 

さらにおかしいのが、精肉店のおじさんが言っていた「病気」「あまり出歩いていない」という話が箒の口から出てこないことだ。さっきから箒がする話というのが、近所の方からお裾分けでもらった物、道場の子の上達具合の話ばかりで、この一か月の箒自身について何も語られていない。もしかして、箒は俺に何か隠し事を…。

 

「一夏、もうしばらく休んでいかないか」

「そうだな」

 

ハッ!(※ここでベートーヴェンの「運命」が流れる)

もしかして。箒は、未知のウイルスに感染してしまったのではないだろうか。俺がいなくなった後突然倒れて救急車で運ばれる箒。医者に宣告された不治の病。だけど心配かけまいと俺の前ではバレないようにいつも通りに振舞って。しかし一か月後再度倒れてしまい、伝えられなかった愛の言葉。

なんだって、そんなのはいやだ!絶対阻止せねば!

 

「「あの」」

俺と箒の声がぴたりと重なった。

「あ、悪い。なんだ箒?」

「い、いや大丈夫だ。お前からでいいぞ」

「ん、いや、箒からで」

「いや一夏からで」

ああ、これ以上は引き下がれそうにない。さあ織斑一夏、覚悟を決めて箒から真実を引き出すんだ。

「じゃあ箒、聞きたいことがある。それはお前の体の具合についてだ」

「!どうしてそれを…」

箒が大きく目を見開いた。

「俺が夕食を買いにいつもの精肉店に行ったらおじさんに言われたんだ。箒が最近店に来ない。近所の人も、箒があまり出歩いている様子を見ていないって。…その話、さっきからの話で出てこなかったよな。箒、俺になにか隠してないか?重病だとか…」

これ以上は言うのがはばかられて口を閉じた。

箒は俺の話に目を閉じてじっと聞き入っていた。言い終わった後も沈黙が続いた。実際数秒だったかもしれないが、俺には数分のように感じられた。

「箒…?」

俺が呼びかけると、箒は目を再度開いた。なにかを決心したような目つきをしていた。

「一夏、今から話すことをよく聞いてくれ」

自分の胸に手を置くと心臓の鼓動がどんどん速くなっているのが分かる。耳を塞ぎたくなるのをグッとこらえてうなずいた。

「ああ、聞かせてくれ」

「一夏…お前が出国して一週間後に分かったことだが…、私の体に」

 

 

 

 

「一夏との子供が出来たようだ」

 

……………………………………え?

 

「気づくきっかけになったのは眩暈だった。今ではそうではもないが一か月前はもう尋常じゃないぐらいクラクラしていてな。それでまさか…と思って雪子おばさんに相談して産婦人科に一緒に行ったんだ。そしたらなんと陽性反応が出たんだ。計算すると今日で妊娠8週間らしい…だけどお前に心配かけ、きゃっ!」

 

気づいたら箒を思いっきり抱きしめていた。こういう時なんて言ったらいいのか全く分からなくて。が、箒が刻む鼓動の音が俺の心を満たして…あれ?目からなにかが、

「一夏…」

箒が俺の目から溢れたものをゆっくりとなぞった。あ、これは。

涙か。これが涙か。泣いたこと今までなかったからピンと来なかった。涙って悲しい時だけではなく嬉しい時にも出るんだな。これに気づかせてくれたのも、箒が。

「ありがとう箒…うれしいよ…」

そしてごめん。感情が収まりそうにないからしばらくこのままでいさせてくれないか。

 

 

 

***

「一夏…もう大丈夫か…?」

「ああ、すまん」

箒の衝撃の告白から俺は箒を抱きしめて、…そしてずっと涙が止まらず心配した箒に頭を撫でられていた。こんな体験初めてでとても恥ずかしい。

 

「よかった…さっきの話の続きをしていいか?」

「あ、俺遮ってたのか、本当にすまん…!」

「いいんだ。それでだな、私が感じてた眩暈は、妊娠した最初に感じる痛みらしい。いわゆるつわりって言うやつだ。今はたまにだが、これがこの一か月毎日続いていて、雪子おばさんにほぼ毎日食事つくってもらっていたのだ。だから商店街はおろか、外出もままならなかったって訳だ」

「……そうだったのか」

 

とりあえず重病が俺の杞憂だったことは間違いなくて心底安心した。それにしても。

「俺が父親になるのか」

言葉にしてもまだ実感が沸かない。もちろん箒と結婚する前から覚悟は決めていたし、結婚してからも個人的にそれ関連について情報を集めたりはしていた。それなのに、箒がこんなに大変な思いをしたのを話してくれているのに、全くというほど信じられなかった。

ふと記憶の断片が頭の中にちらつく。

光のない真っ暗な部屋。山積みになっておかれたコード番号表。隣に「特殊」とかかれた試験管。大人たちの冷たい目線の数々と殺意。そして____

次々と思い出される記憶を辿っていく内に一つ確信してしまった。

 

 

(そうだ、俺は普通の家族ってものを知らない)

 

 

「どうした…?難しい表情をしているぞ」

箒が俺の頬をつねった。

その手の温かさでハッと我に返った。

「箒…いや、なんでもない」

「なんだ、……もしかして家族のことか?」

…箒はなんでもお見通しだな。

「…ああ。俺は今まで千冬姉がいたけど、マドカのこともあったし…箒に子供ができてすごく嬉しいのに不安になってしまった」

俺、今どういう表情をしているだろう。顔の筋肉が固まってうまく話せない。

「一夏…」

箒は目を細め、俺の髪を優しく触った。

「心配するのはよく分かる。だが、私はこう思うのだ」

 

「人一倍優しく頼れるお前だから、私は家族になりたいと思ったんだ。わ、私が頼りがいのない男を選ぶ訳がないと知っているだろう!だから一夏の今までの境遇を知っていても何も不安ではない。お前も少しずつでいいから不安を捨てて」

そう言うと箒は一呼吸を置いた。

 

「この子の命を受け止めてくれないか?」

 

箒は俺の手を掴んで自分のお腹に押し当てた。そこには小さい鼓動の音が存在していた。それに気づいた瞬間、先ほどまで止まっていた涙がまた大粒になってあふれ出す。

ぼやけはじめた視界の端で箒が微笑をたたえているのが見えた。

 

「完璧な家族ではなくても、これから少しずつ思い描く家族になっていけばいい。まだまだ私たちの人生先は長いんだ。そうだろう一夏?」

 

 

…ああ、もう。

箒が言うと全てその通りのような気がするから不思議だ。

でも実際その通りなんだろう。

俺の奥さんが箒で本当に良かった。

「そうだな、箒、これからもよろしく頼む」




ここまで読んで下さった・リクエスト下さった方ありがとうございました!
果たして前編よんで伏線に気づいた方はどれくらいいらっしゃったのでしょう…?
今回の執筆はつわり・妊娠についての知識を入れながらで私自身とても勉強になりました~。
次の作品も執筆中なので叱咤激励いただけると幸いです。
書いてて改めて思いましたが一夏×箒は最高だ!それでは。

ー追記ー
偶然にも七夕編同様主人公を泣かせてしまいましたね。箒ちゃんは二期の修学旅行編で泣いてるのを見て「あっ泣き顔美しい…もっと泣いてるところ見せて」思ったのは事実ですが(クズ)、一夏くんを泣かせてしまうとは想定外でした。一夏くんってどんなに千冬姉に怒られたりバトルで悔しい思いをしても泣かないような気がします。だから泣くのはこういう場がいいな。彼は愛にあふれた人だと思うから。あと試験管からの描写は最新巻を読んでの私の妄想入ってます。気を悪くさせたらごめんなさい。
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