一夏×箒 短編集   作:まろ@ファース党

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去年の春についったで呟いたネタをようやく形にできる!
幼少期の一箒のとあるおはなし。
※捏造、キャラ崩壊など色々ご注意ください。

一応原作に準拠した短編になっております。



Untitled (前編)

 手首につけた時計の長針は、ついに12を指した。

 それを確認して、箒は大きくため息を吐いた。

 「…来ない」

 ぽつりとつぶやいたその一言は、雨上がりでじめじめした空き地に大きく響いた。そこへ強い風が舞い込み、ビクッと体を震わせる。昼間では気にならない風の音もかなり大きく聞こえた。

 

 真夜中の2時ちょうど。箒は、外灯もなく薄暗いここでただ一人佇んでいた。

なぜそんなことをしているのか?それは箒自身にも分からない。同じ道場の門下生から、今日の午前1時半、この空き地に来るように呼び出されたのだ。数日前、9歳になったばかりの箒にとって、こんな時間帯まで起きていることは滅多にない。いつもは毎朝五時からの朝練のために9時前には寝ている。こんなに長く起きていたのは初めてのことだった。

 

 (わたしは一体ここで何をしているのだ…)

 箒は、昨日から今日までの経緯を振り返った。

 

 

 経緯といっても、これしか思い当たることがない。

 遡ること数時間前。

 

 

 

 箒は篠ノ之神社境内裏の植え込みの後ろで一人体育座りをしていた。そこは、箒くらいの小学生が二人くらいしか入れないような狭い場所で、箒は何かあるとよくここに来ていた。家の神社に帰れば、姉がすぐに駆け寄ってくるが、ここでは一人になれる秘密の場所だった。

そこで、箒には珍しく何度もため息を吐いていた。

 「はああ~」

 

 

 箒がこうなっている理由。

 それは、さっきの放課後の出来事だった。

 分担された場所の清掃が終わったので教室へ戻ろうとしていた時。

 「アハハハハ」

 教室の掃除が終わらないのだろうか。同級生の笑い声が廊下まで響いていた。それに構わずランドセルを取りに教室の引き戸に手を伸ばしかけた。しかし、

 「しのののさんっ×○△だよね~」

 教室の中で名前が呼ばれるのが聞こえた。慌てて引き戸から手を離す。

心臓をバクバクさせながら、耳を澄ましてみると。

 「あー、たしかにー」

 「しのののって名字、珍しいよねー」

 「めいけだもんねー」

 「めいかだよ(笑)。だから、他に聞いたことないよねー」

 

 (これを聞いていていいのだろうか…)

 立ち聞きしていることになんとなく後ろめたいような気持ちになり、ここから立ち去ろうとしたその瞬間だった。

 

 「いや、それよりよぉー。あいつの名前の方が変じゃね?」

 「え、なんで?」

 「名前が“ほうき”だぞ。オレが今手にもってんとおんなじじゃん。こんなん人の名前じゃねーじゃん」

 「ごみとほこりくっついてるんだぜ。きったねえよなー。他に名前なかったんかよぉ」

 「うわー男子サイテー」

 「でもわかっちゃう。かわいそうだよねー」

 「んー。あたしだったら気にして学校いけなーい」

 「アハハハハ」

 

 箒は文字通り固まった。

 「ってかさー、そんなこといってるけどさー。男子さー、しのののさんのことゼッタイ好きでしょー」

 「みんな知ってるよー。いつもめっちゃ見てるよねー」

 「っっはあ!!!???ば、ばば、ばかじゃねーの!オ、オレがあんな男女のこと、す、すきとか!ありえねーし!」

 「そ、そうだぞ!あ、あんなやつす、すきじゃねーよ!」

 後半の言葉はもう箒の耳には入らなかった。思い切り引き戸を開けると、驚いて真っ青になった同級生には目を合わせず、自分の席へゆきランドセルを背負うと、同級生が声をかけるより前に教室から小走りで出て行き、今に至っている。

 

 

 

 「はあああああ~~」

 箒の口から海よりも深いため息がこぼれた。

 箒も自分の名前がなんでこの名前なのか考えたことがない訳ではなかった。むしろ、よく考えていた。自分の名前はかなり変わっている。

 

 「どうして箒って名前をつけたんですか?」

 あるとき意を決して母さんに聞いたときの悲しそうな顔は忘れられない。

 だから、今までずっと、自分の名前については考えないようにしていて。今日までずっと忘れていた。だが、さっき。自分以外の人からそれが語られたことで、あのときに考えた、感じたことが一気に箒の頭を駆け巡って、頭から離れない。

 

 (ええい!何を弱気になっている!わたしらしくないぞ!)

 

 『常に、己に一本の剣筋があることを意識しろ』

 これは、常に父さんが箒に投げかける言葉だ。

 それを思い出し、目を閉じて木刀を心の中でイメージして手を握ってみたがいつものような力は、沸いてこない。

 

 (どうしてしまったというんだわたしは…)

 

 もしかして、誰かに言ってみたら心が晴れるだろうか。

 一瞬、脳裏に兎耳の姉の姿がよぎるが、すぐに心の中で頭を降った。

 (………ダメだ。このことを、万が一姉さんに話したら、すごく怖いことが起きそうな予感を感じる…。でも、どうしたら――――)

 

 「しののの?」

 「わあ!?」

 頭上から急に声が降ってきて、心臓が止まるほど驚いた。

 しかし、声の正体が分かって一瞬詰まった息がゆるむ。

 「なんだ、おりむらか」

 

 おりむら。

 

 去年から姉の千冬さんと共に篠ノ之道場に入門してきた同じクラスの男子。ほぼ毎日一緒にいるが、仲良いとは言えない。というより、箒は、おりむらがなんとなく苦手だった。箒から見たら、おりむらは超絶マイペースで、脳天気。厳しくて優しい千冬さんにいつも怒られている印象しかない。

 

 特に、剣道をしている時にそれを感じる。

 剣道を始めた頃こそ、強くなっては来ているが、まだおりむらは箒の技量に及ばない。

 それでも、毎回悔しそうな顔をして「明日はおれが勝つ!」と毎日飽きずに勝負をしかけてくるのだ。おりむらが、そうしてくる理由は箒にとって理解しがたいことだった。

 どうして毎日負けると分かっているのに勝負を持ちかけてくるのか。

 ……………いや、おりむらのことだから、本気で勝つと思い込んでいるのかもしれない。

 どちらにせよ、箒には一夏の真意は分からずじまいで、自分と違う何かがあるおりむらに少し嫌悪感を抱いていたようだ。

 

 だから、箒はおりむらには道場以外では極力距離を置いていて、自分から声をかけるということはしなかった。だというのに。

 「なんだってなんだよ。おれじゃ悪いかよ!」

 こいつはいつもうるさいと感じるほど話しかけてくる。

 心の中で、新しくため息を吐くと、おりむらの方へ顔を向けた。

 

 「…特に意味は無い。何か用か?」

 「特に用はねえけど。なんでこんな暗いところでコソコソしてるのかなと思ってさ」

 「コソコソなどしてないっ」

 顔をそむけながら急いで立ち上がろうとした箒の隣におりむらが座る。

 「まあまあ、落ち着けよ」

 「なっ!なんで座るんだ」

 「いや、いいじゃん。ここ座る場所あるし。お前今あれなんだろ、」

 真剣な面持ちで言葉を続けた。

 「腹がいたくなって動けないんだろ」

 「ち、ちがう!そんなヤワではない!」

 「なんだ、ちがうのか。じゃあ、アレか。頭が弱いとか?」

 「だからそんなにヤワでは―――これ以上言うと、殴るぞ?」

 「右手をグーにしてきょーはくするなよ…」

 そう言われ、口をとがらせたまま手を膝に置いて顔を伏せた。

 「すまん…。つい手が…」

 「気にすんなよ。冗談はおいてといて、何か悩み事があるんだろ?おれで良ければきくぞ」

 「なぜ分かる…」

 「そりゃ見てればわかるさ。しののののことは毎日見ているからな」

 「う…でも、」

 (こいつには、こういった悩み事とは無縁だろ…でもせっかく言ってくれてる訳だし…いや、でも、あの「おりむら」だぞ?あいつは筋金入りのバカではなかったか?そんなやつに…)

また気づかぬ間にぐるぐる悩み始めた箒は気づかなかったが、おりむらは急に立ち上がった。

 

 「そうだ!!今からおれは、ここにある庭の植え込みだ!いくらでも話しかけて良いぞ!」

  大声を出し、両手を広げて固まった。

 「………は?」

  突然の行動に思わず箒の口から低い声が出た。それに対して、珍しく反応がない。

 「いや、どういうことなのだ…」

  困惑した声を出しても、無反応のままだ。

 本人の言う通り、植え込みを演じているのか。

試しに腕をツンツンしてみると、少し顔をムッとした顔になったが、それでも声に出そうとしない。

 「こんなわざとらしい植え込みがあるものか…」

考えてることはよくわからないが、これは彼なりの気を遣った結果なのだろう。

 

  箒は、観念して、顔を植え込み(らしきもの)にそむけながら話し始めた。

 「あのな、これは言っておくが……たいしたことではない。わたしの名前が、その、みんなと違うのが気になってだな…」

 そこに植え込みがぽつり。

 「…しのののの下の名前ってなんだっけか…」

 「いや、そこからなのか!?わたしの名前はほうきだ!」

  つい立ち上がり、大きな声でツッコミを入れた。だが、植え込みは黙ったままだ。

 なんなのだと思いながら元の体勢に直るが、自分もおりむらの下の名前が思い出せないことに気がつく。

 (なんだっけか…いちがついたような…?…は!?これではわたしも同レベルではないかっ)

 焦ったのを隠そうとして、箒は少しわざとらしい咳払いをして話をつづけた。

 

 「わたしは、自分の名前が…、両親が名付け、姉さんが呼んでくれる名前ではあるが…、心底嫌だと感じることがあるのだ…どうしてわたしにこの名前をつけたんだろうか?だっておかしいだろう?ほら…掃除道具の名前ではないか…どうして…って大丈夫か!?」

 チラリと目を向けたら、植え込みはいつのまにかうなだれていた。表情を読み取ろうとしたが、長い前髪がそれを邪魔している。口が小さくモニュモニュと動いているが、それもさっぱり分からなかった。

戸惑いながら見ていると、おりむらはすごい早さで顔をあげた。

 その表情は今までみたことないほどキラキラしている。

 「よし!しののの!今夜、こっから10分の踏切近くの空き地に集合な!」

 「は!?お前何を言って、」

 「集合時間は、午前1時半。遅くて午前二時だな!じゃあ道場に戻ろうぜー。そろそろ戻らないと、千冬ねえに叱られちまうしさ」

 「いや、待て!どうしてそうなったのか、わたしに説明し――」

 箒の声は、おりむらの言う通りで、遠くから聞こえる千冬さんの大きな怒声で遮られた。

 

 「一夏!箒!稽古時間はとっくに始まってるぞ!どこにいる!!」

 




束さんに相談したら『箒ちゃんの悪口を言った人は全員タヒね☆』って一瞬で同級生を抹消しそうだよね(小並感)
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