ログ・ホライズン-『現実の生産者』 作:サブ職業:小説家 lv.1
アキバに帰って来て漸く家に戻れると伸びをしながら歩こうとした瞬間、シロエから待ったという声が聞こえる。
片手で耳を抑えている所から察するに、念話中らしい。
「サミダレ。少し残ってくれない?三日月のマリ姐が呼んでる」
「…サミダレさんを…ですか?」
「はい。そうなんですハヅキさん」
「…あー。それパス出来ない?今マリエールに念話繋いでるよね?」
私はマリ姐…普段の三日月同盟のリーダーの話なら一度聞こうとは思っている。
だけど…今の彼女はかなり変わっていると感じていた。
確かに表面は良いかもしれない、けど内面はどうだ?中小ギルド連合を作ろうなんて話を、普段の彼女なら言うだろうか?
それに何時もストッパーのヘンリエッタが止めないのも、それはそれで不思議だ。
「…前回の要件はもう誘わないから観念やぁ~!って言ってるけど?」
「なら行こうかな…だけど…私だけで行く。此処で解散しよう」
「どうしてでしょうかお姉様?」
ツキの言葉に少しだけ悩んだ後に、少しだけため息を吐いてから…
「…前回の要件に関わってるから、言えないかな」
そう言って私はギルドホールに向かって歩き始める。
念話を切ったシロエも、これから起こる事を考えているのか頭に手を当てていた。
◆
「すみません、シロエ様……。って、うっわぁ! アカツキちゃんじゃありませんかっ!」
「おかえりな。三人さん。ちょーっと散らかっとるけど、その辺はお目こぼししたってな。…それと…」
シロエ達に挨拶をしたマリエールが、申し訳なさそうに視線を送るのを見て…私は周囲の状況を見た後に小さくため息を吐いた。
それを見て少しだけビクリとしたマリエールを見た後に、私は口を開く。
「お構いなく。私は要件聞いたらパパっと帰りますので」
「…さよか」
少し寂しそうに何かを口にしかけるが、彼女は此処では口にしなかった。
…リーダーという立場とマリエールの感情がせめぎ合っているのだろう。
その事を隣に居るシロエは気付いているんだろうか?
「何があったんですか。マリ姐」
「まぁ、ま。そう急かさんと。座ってや。水入れたげるからっ。色つきでお茶風味! えへへへ」
散らかっている理由恐らくはススキノに向けての遠征だろう。
治安が悪いとは言え“理由”は今は安全な筈だろう。何故このタイミングで?
「遠征ですか?」
「うん、そや」
「何処に?」
シロエの言葉を聞いて、少しだけ視線を逸らしたマリエールが呟くように喋りだす。
「えーっとな。エッゾっていうか……ススキノ」
「トランスポーターが修理されたって話は聞かねぇよな」
「まだ修理されとらんし。むしろ故障してるかどうかも判らん」
思わず、といった様子で、直継が口を挟む。
その様子に苦笑しつつ、お茶を飲んだマリエールが返答した。
「前にも云うたけど、うちら〈三日月同盟〉は小さなギルドや。メンバーは、いまはちょい増えて24人。殆ど全員は、アキバの街にいるし、いまはこの建物の中におる。
でも一人だけ、ススキノにおる娘がおるねん。名前はセララってゆーんやけど、まぁ、これが可愛い娘でな。森呪遣いや。
うちの中でもまだ駆け出しで、レベルは19。まぁ、そんなのはどうでもええねん。ちょっと気が弱いところがあって、人見知りなんやけどな。商売やりたいってエルダー・テイル始めた変わり種で」
マリエールが視線を落としたまま喋るのを見て、ヘンリエッタがその先を分かったのか引き継いでから喋り始める。
「大災害があった日、セララはススキノにいたのですわ。
ススキノで丁度レベル20くらいのダンジョン攻略プレイの募集がありまして。その時はギルドに手の空いてる人もいなくて、狩りに出掛けて腕を磨きたかったセララは一人でススキノに……。
一時パーティーでした。ススキノで募集をしていたメンバーと合流して遊んでいたらしいのですが、そこで大災害に遭遇しました。
トランスポート・ゲートは動作不良になって、セララは取り残されてしまったのですの」
私は気になった事を質問しようとして、シロエの方に視線を送ると…視線に気が付いたシロエが許可をするように頷いた。
「どうして今?」
「あー。な。うん……。救援は、前々から出す予定だったんよ。あんな北の最果てにひとりぼっちじゃ心細いやろ?」
そんな事を聞きたいんじゃない。
そんな感情を出しながら睨み付けながら、私は情報の手札を一つ切る。
「そう。じゃあそのセララちゃんが、ススキノにてブリガンティアに襲われそうになった事とは関係ない?」
「なっ…なんで知ってるん!?」
マリエールが驚いて立ち上がり、ヘンリエッタも態度には出してないが驚いている。
シロエ達もススキノの情報を知っているとは思わなかったのか、驚いたようにこちらを見ていた。
「…それで?この様子を見るに、行くのは三日月同盟の精鋭…マリエールとヘンリエッタも行くと考えると、残るのは90になっていない人達だけ。私達のお願いは、面倒を見て欲しい…かな?」
私の一言を聞いて、諦めた様に椅子に座る。
そのままゆっくりと私の方を見て、縋る様にこちらを見つめた。
「せ…せや。お願い、出来るか?」
「無理だね。仮にマリエール達が行ったら、この遠征は失敗する」
「…っ!何を根拠に…」
私はシロエを見て…溜息を吐く。
直継に一言耳打ちをしてから、私はマリエール達に現実を突きつけた。
「二ヶ月」
「…え?」
「マリエール達がススキノに到着するまでの日数。二ヶ月、マリエールはどんな準備をしているの?」
「そ…それは…」
「食料だけで約二ヶ月分。次に地図師も筆写師も居ない。地図も無いのにどうやって行くの?」
勿論、食料は二ヶ月分用意出来るだろう。
だがこんなお茶の色をした水に、味のしないご飯を食べて、士気が維持できるのか?
だからこそこの遠征は失敗する…三日月連合にも、私達にも最悪の結末で。
「み、道なりに行けば…」
「ダンジョン、パルムの深き場所をお忘れで?」
「…っ…そんなの…」
私のその言葉を聞いて、膝に置いた手を握る。
それを見て私がため息を吐くのと同時に、シロエの方を見つめた。
「云え、シロ」
「主君の番だ」
こんなにも、背中を押してくれる二人が居る。
もう、茶会に一人取り残された物静かな参謀は居ない。
今いるのは…
「僕らが行きます」
「え?」
「僕らが行くのがベストです」
覚悟を決めてその道に行こうとする、一人の青年だ。
…カナミ、貴女の大好きだったシロエは、唯のバスガイドから進化したよ。
「そんな。シロ坊っ。うちらそんなことねだってるわけやっ」
マリエールの抗議をあっさり無視して仲間を振り返るシロエを、私は見つめる。
「もちのろんだぜ」「主君と我らにお任せあれ」
その言葉と同時に立ち上がり、二人が嬉しそうに言う。
「俺達が遠征に行く。マリエさん達が留守番だよなー。ひよっこの面倒を見るなんて、俺達にゃ無理無理っ」
「忍びの密命に失敗の文字はない」
その言葉と共に、今度は私の方を見つめてくる三人。
…これは、負けたかな。
私も立ち上がり、自分の中で一番格好良く見える様に格好つける。
偶にはこういうのも、良いかもしれない。
「私も…いや、私達も行くよ。『現実の生産者』はマリエール…ううん。マリが作ったこの三日月同盟と一緒に作ったんだ。
それに、セララは私のギルメンが捕まえてくれてる。下手な場所…そうだな…」
私は外に出る扉に指を差してから口を開く。
「今のアキバよりも、安全な事を保障するよ」
「明朝一番で出発する。任せておいて、マリ姐。ヘンリエッタさん」