ログ・ホライズン-『現実の生産者』   作:サブ職業:小説家 lv.1

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グリフォンに4時間乗っては降りるを繰り返して早三日。

シロエ達が話し合い、パルムの深き場所に行く事にした私達は問題なく進んで行った。

 

「この部屋は、そこそこ安全っぽいな。どうする、シロ?」

「えっと……。そだね。休憩にしよう。直継はドアの近くへ。僕はマリ姐に定時連絡をする。アカツキは……」

「偵察してくる」

 

その言葉と同時に音もなく消えたアカツキさんを見ながら、私は立ち上がり…

 

「じゃあ私達は」

「じっとしてて」

 

シロエからの言葉に、私は思わず頬を膨らませながら座った。

野宿も完璧だし、警戒用の道具もあるからお荷物ではない筈なのに何故…?

 

「あのね。サミダレが持ってる道具って全部90レベルで作る野外品だよね?」

「うん」

「ゲームの頃は特に効果も持たなかったから皆作らなかった物だよね?しかも作成する手順が凄く長い奴だし」

「うん」

 

何なら私が作った物もある。

まぁ殆どはエリナ任せだったが…コレクター魂を燃やして沢山作った甲斐があったと思う。

例えば小人達の魔法のお城とか、機械仕掛けの守護戦士とか。

 

「取り出して分かったよね?僕達、初めての豪邸が何でアキバの外の野宿なの?」

「…さぁ」

 

私が分かりませんとばかりに両手を上げると、諦めた様にマリに定期の念話をしていた。

私の方もミノリとハヅキに連絡を入れる…というより入れられているのだが、最近どうも頻度が多い。

別に戦闘だったらタンクしながらでも話せるのだが、叩き起こされて開始一番に念話は本当に辛い。

…でもまぁ、それだけ二人に頼られているというのが分かったから、良しとしている。

ギルメンの皆は全く良いとは言わないだろうけど。

 

「…サミダレ嬢」

「アカツキさん?」

 

私がのんびりご飯を食べようとアイテム欄を開いていると、ちょいちょいとアカツキさんが私の服を引っ張っていた。

 

「どうしたの?」

「あー…えっとだな。さっきメルに話を聞いてだな?その…」

「…私がレズビアンって事?」

 

直継がご飯から一瞬顔を上げ、困った様にこちらを見る。

この世界になって一番の懸念点である方じゃない方を話してくれたのは助かったと思い、私はのんびりと伸びをして気にしてない風に装いつつも話した。

 

「あー…一応自己弁護しておくと、私は別に合意の上でしかしないよ?変な妄想は…まぁ、直継の方がしてるだろうし」

「ふ…甘いなサミダレ。俺レベルになれば妄想を具現化する事も…」

「例えば?」

「おパ」

 

直後アカツキの一撃が入って地面に倒れ込んだ。

…それを見て私が思わず苦笑するのと同時に、アカツキさんが申し訳なさそうな表情でこちらを見つめる。

 

「…もう一つの方も聞いた。サミダレ嬢が生まれ持った特性の事も」

「そっか。それでどうする…?」

 

私の声が震え始めた。

…それは私の弱さなのだろう。そんな事を考えながら自分の手を握る。

 

「私は受け入れる。もしそれで敵が増えるのなら、それはそれだ」

「…ありがとう」

 

アカツキさんに返事をするのと同時に、私は地面に座ってしまった。

…私の特性を話した事は間違ってはない。この世界が現実となった今、私もその特性に引っ張られる可能性が高いだろうから。

だけど…もしかしたら…

 

「…他に何か言ってた?」

「あんまり目を離さない様にと、そうメルに言われた」

「だよねー」

 

私は生まれ持った環境を恨んでしまう。

それでもミントと出会えた理由はこの環境のお陰だし…なんて悩みながら、私はミントが作ってくれたご飯を食べ続ける。

…そして、ご飯を食べている途中アカツキさんが大学生という事でシロエ達が驚いていたり、そんなシロエがアカツキさんを中学生程度に見ていたことがバレたりして…私は思わず苦笑してしまった。

 

「別に身長って云うか――年齢って云うか。……そういう訳じゃなくて、えーっと。ほら、僕とサミダレも……しばらく面倒見てたというか、一緒に遊んでた双子のプレイヤーが居たから」

 

シロエのその一言で私にもアカツキさんのジトっとした視線が来る。

私は苦笑しつつ手を振って私はちゃんとわかってたアピールをしておいた。

 

「ふむ、どんな?」

「そういやそんな話をしていたな」

「別に深い付き合いという訳でもないんだけど。――その話は、道すがらにでもしない? このトンネルは、まだまだ先が長そうだし」

 

 

私達が出会ったのは、偶々シロエと一緒にインクの材料を取りに行くところだった。

偶々予定が空いていたツキサギと、インクの材料が欲しかったシロエ、そしてギルドに居ても声を出せない事に飽き飽きしていた私が、ツキサギに頼んで一緒に着いてきていた。

男のシロエと私の現実を知っているツキサギの三人パーティだから呑気に歩いていた時に

 

「兄ちゃん、姉ちゃん。へい、すとぉっぷ!」

「あのー。すいません。申し訳ありません。お聞きしてよろしいでしょうか? 質問的なことなのですがっ」

 

その言葉を聞いて、私は少しだけ頷いた後に口を開く。

それを聞いた二人が小さく頷くのと同時に、ツキサギとシロエが喋りだした。

 

「良いよ。ね、シロエ?」

「いいけど、どしたの?」

 

少女の声が聞こえたので、私の代わりにツキサギが喋り、私は聞こえない様にツキサギとシロエに対して喋る。

ボソボソと聞こえるのはしょうがないと諦めて、私はチャットで、二人はボイチャで二人の質問に応えた。

 

「魔法が弱くて、トウヤの傷が治らないんです。聞いてみたら、もっと高いの買えって言われたんですけど、何処で売ってるかわからなくて。もしかしたら、販売場所をご存じですか?」

「俺の技も欲しいんだ。兄ちゃん達知ってたら教えてよ。頼むよ~」

 

その言葉を聞いて、私は少しだけ悩んだ後に…指をキーボードに置いて打ち始める。

 

-二人共、今日から始めたの?

「はい」「そうだぜっ」

 

私は二人にチャットで質問をすると、二人が少しだけ驚いた後、元気な声が聞こえる。

それを見た後に私はもう一度キーボードを打ち始める。

 

-私はトウヤ君と同じ武士だから、スキルについて幾つか教えられるよ。私の横に居るツキサギちゃんは神祇官だから、ミノリちゃん教えられるかな?

隣に居るシロエ君は一杯情報知ってるから、お店とか知ってると思う。そうだよね?

「…もうサミダレは…はぁ。まぁそうだね、案内するよ。こっちだよ」

 

そう言って歩いて行くのを、私達は苦笑しながら付いて行く。

別に案内しなくても、本当なら店の場所は此処だよと教えるだけでも良かった筈なのに、本当にお節介だと思いながら歩いて行く。

その途中でミノリとお話していたが…本当に優しい子だったな。

 

「サミダレさんは喋れないんですか?」

-家庭の事情でね。あんまり聞かないと嬉しいな。

「す…すみません」

-あ、えっと…怒っている訳じゃないよ。うーん…文章で伝えるのって難しいね。

 

私がワタワタとしながらキーボードを打っていると、ツキサギからふふっと笑い声が聞こえ始める。

それを聞いて私はゆっくりと怒った様な声を出すと…ツキサギから慌てた様に謝罪の声が聞こえる。

 

「良いじゃん!ツキサギ姉ちゃん言ってたよ?凄く綺麗な声なんだから、一杯喋っちまえば良いのに!」

「そうだよ。サミダレの綺麗な声、聴かせたい」

「トウヤ!」-ツキサギ!

 

私とミノリが同時に怒ると、ツキサギが逃げる様店の方向に行き、それを追いかける様にトウヤが走って行った。

私はツキサギが悪影響与えてごめんね?といい、ミノリはトウヤが無理言ってごめんなさいと言った。

二人で謝った後、私達は笑い合って店に向かって歩き出す。

尚シロエは置いて行かれ、姉妹と別れた後の狩りで最低限の支援しか貰えなかった。

そして初めての冒険は…

 

「行っけぇぇぇ~っ!兜割りッ!!」

「ああっ。トウヤっ。下がって、危ないっ! ううっ。禊ぎの障壁っ!!」

 

トウヤが全力で突っ込み、ミノリが頑張って援護をするという微笑ましい光景を見つめていた。

私もあんな時期が有ったなぁ…なんて考えながらボーっと見ていると…

 

「パルスブリット」

 

後ろで付与術師の懐かしい様なダメージ量が見え、私はマイクをoffにして良かったと思えるぐらい笑った。

それを知っていたツキサギがミント経由でエリナに告げ口をし、私は次のレイドでキーンエッジを掛けて貰えなかった。

 

「さんきゅー! 兄ちゃん! そら、あっちの敵にも突撃だぁ!!」

「待ちなさいよ、トウヤったら!! ほら、HP減ってるんだってばぁ!!」

 

二人が弱い付与術師の術を(知らなかったとは言え)感謝をしているのを見て私は思わず嬉しくなった。

そして数日後、私はトウヤに、ツキサギはミノリに個別チャットを繋いで教える事にした。

 

「声では初めましてかなトウヤ。私はサミダレ、これから声で指導していくね?」

「……」

「トウヤ?」

「す、凄く声が綺麗だ…」

 

褒められた事が少しだけ嬉しくなりつつも私はそれを気取られない様に喋りだす。

 

「ありがとう。今日は家族に頼み込んで(脅して)許可取ったの…まぁ、ミノリちゃんは駄目だったけど…」

「え?なんで俺は良くてミノリは駄目なんだ?」

「うーん…」

 

此処で適当に言葉を濁したとしても、多分トウヤは納得しないだろう。

そう考えた私は、信じて貰えるかは置いておくとして理由を喋りだす。

 

「私は…そうだね。女に愛される体質の父親と、動物に愛される体質の母親と結婚したの。二人共政略結婚だったからあんまり愛していなかったんだけど…そこで私が生まれたの」

「…もしかして…」

 

トウヤが何か納得した様に喋るのと同時に、私は小さく頷いた。

…勿論画面を通じていないので唯PCの前に頷いただけなのに気付き、急いで喋り始める。

 

「うん。私は女に愛される体質と動物に愛される体質を両方受け継いでる。それも両親の体質が思ったより相性良かったのか、両親よりも強くね」

「…ごめん」

「良いの。実際に愛してないって言ってた母親が私を育ててくれるくらい愛してくれたから」

 

そう言うとより一層暗くなった彼の雰囲気を感じて、私は苦笑しながらも手を叩いて喋り始める。

 

「そんな私の個人情報よりも、トウヤに覚えて欲しい事が有ります」

「…なに?」

「その前に、武士で一番大事な事は何でしょう?」

 

それを聞くとトウヤは自慢げに口を開いて喋ってくれた。

 

「そりゃ勿論、火力だ!」

「はい残念」

 

満点回答の不正解を出してくれた。

勿論火力は大事ではあるけど、一番ではない。

 

「む…じゃあ何が大事なんだよ!」

「そうだね。一番大事なのは…冷静な心でも、技術でも無くて…突拍子も無い判断力」

「突拍子も無い…判断力」

 

私の言葉を噛み砕く様に喋っているのを見ながら、私はゆっくりとその言葉を喋り始める。

 

「そう。そしてその判断を決め撃てる為に裏付けもして、そしてそれを信頼してくれる仲間も必要だよ」

「…そんな事出来るの…?」

「…まぁ、大事なのは経験だよね」

「えぇ…」

 

そんな話をしながらも、私達は敵を狩っていく。

お互いがタンクの私達は仲良くなれたと思う。…そう。あの、大災害の日までは。

 

 

「へぇ、そんな双子がいたのかぁ。そんで?」

「それで、って?」

「その双子のその後ことは判らないのか? 主君」

「「…」」

 

その言葉と共に、私達は目を背けて黙ってしまった。

それを不思議に思ったアカツキさんが私達に質問を投げかける。

 

「主君…?」

「フレンド・リストにはいるよ。……実はあの大災害のあとにも何度か見かけた」

「やっぱし巻き込まれたのか」

「直前まで一緒にいたから。……僕も、多分あっちもアキバの街に巻き戻されたから、そこでばらばらになっちゃった訳だけど」

 

そのままゆっくりと目を逸らし、シロエが地面を見つめる。

 

「私も廃墟の中に転移させられた」

「声、かければ良かったのによ。あっちはあっちで大変だったろうに。素人なのにこんな事になっちまって」

 

その言葉と共に、私達は歯を噛み締める。

直継は人に優しくする事はしても、その優しさがこちらに向くとは限らない。

私達が後悔しているのが分かってるからこそ…責めているのだ。

 

「最初の数日、僕たちも精一杯だったし、余裕がなかったんだよ」

「そうだな」

「それに、その次見かけたときは二人ともギルドに入ってて」

「へぇ、そうなのか」

「あの頃は勧誘も激しかった」

 

その言葉を聞いて、私達は小さく頷いた。

そのままゆっくりとメルからの手話に手話で返しながら、三人が喋るのを聞き続ける。

 

「レベル20だっけ? それくらいなんだよな」

「いまではもう少し育って居ると思う」

「じゃぁ、ギルドに入っておくにこしたことはないか。右も左も判らないもんなぁ」

 

そう言ってから直継がニッコリと笑い…

 

「で?そのギルドは何処なんだ?」

 

私達の心に鋭い言葉の刃を突き付けてきた。

 

「…初心者救済ギルド、ハーメルン」

「へぇ、良い所に入ってるじゃねぇか。俺は初心者救済を聞いた事なんてないんだけどな?」

「うん…その実態は…」

 

少しだけ言い淀んだシロエを聞いて、私はゆっくりと目を逸らしながら口を開いた。

 

「EXPポッドの販売による商売。初心者救済はそれの餌…」

「だからあの時30レベル以下がどうとか言ってたのか。胸糞悪いな」

 

そう言ってこちらをジッと見つめる直継、その目はどうして知っていながらとでも言ってそうだ。

けれど私は、その言葉だけには目を逸らさずに見つめ返した。

 

「…はぁ。まぁ良い、取り敢えずこの事はアキバに帰ってからだな」

「そうだね」

 

そう言って私達は無言で進み続ける。

…そして其処ら辺に居た中ボスを倒しつつ、洞窟の出口を出るとキラキラと光る大海原があった。

私達がそれを近くで見る為にゆっくりと歩き始め…そして全員が目を瞬かせながらゆっくりと口を開いた。

 

「綺麗だぞ」

「すっげぇな」

「…海、初めて見ました」

「私もです」

「……きれい」

 

思わず出てしまった言葉を自分の耳で聞いて、私は口を塞ぐ。

それを見たメルが口を塞いだ手を外して、良いんですよと手を繋いでくれた。

…久々に、無意識で喋った気がする。

 

「僕たちが初めてだよ」

 

ボソッと、目の前の太陽を眩しそうに見つめるシロエを見て、私も頷き返す。

 

「僕たちがこの景色を見る、この異世界で最初の冒険者だ」

「そうだな。俺達が一番乗りだ。こんなすごい景色は、〈エルダー・テイル〉でだって見たことはねぇ」

「わたし達の、初めての戦利品」

 

私達はグリフォンの召喚笛を吹いてグリフォンを呼ぶ。

…この世界で生きるのも、良いかもしれないな。

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