ログ・ホライズン-『現実の生産者』 作:サブ職業:小説家 lv.1
「…班長、また腕上げた?」
「にゃあ。
「班長は班長のままの料理の方が良いと思うよ?今回の料理、ミントの料理に近づけようとしてちょっと失敗しちゃったでしょ」
私がそういえば、にゃん太班長が小さくにゃあと呟いた後に…
「今まである筈の調味料が無いのも、その失敗の一つですかにゃぁ」
ミントに聞かれたら神殿送りにされそうな事を言っていて、私は思わず微笑みながら肉を食べ始める。
「…それに今回、ちょっと辛味がしつこいかな?塩っ気は合格範囲内なのかな?思い出の料理は結局どうするの?」
「あの時の思い出は、思い出の料理のままにしておくと決めておきましたのにゃ。唯不味かった。それで十分ですにゃ」
「…そっか」
丘陵地帯でキャンプをする事になった私達は、のんびりとご飯を食べながら歓談をしている。
セララの前で声を出した事をコッテリと叱られた私は、全員と離れた所でにゃん太と一緒にお肉を食べていた。
…いやまぁ、確かに怒られてもしょうがないだろうけど…結局私に頼ったのが悪い筈だ。
「班長は」
「いつも通りの呼び方で良いのにゃサミダレ嬢。此処には誰も居ないにゃ」
その言葉を聞いて、私は周囲を見た後に……本当に誰も居ない事が分かり小さく頷いた。
それを見たにゃん太班長…いや、にゃん太が嬉しそうに微笑みながら私の言葉を待つのを見て、私はゆっくりと口を開く。
「…にゃん太は、これからどうするつもりですか?」
「そうだにゃ。サミダレさんが良ければ、シロエちと一緒に行きたい所にゃ」
「それは大丈夫…あー、ミントには何も言わないでおきます」
「…助かるにゃ」
私とにゃん太が、お互いに頭を抱える。
…正直言って、私も何も言わなかった事がバレた時が怖い。
お互いにそんな事を考えながらぼーっとしていると、音を立ててアカツキさんが現れる。
それを見たにゃん太が私の口に手を当てて喋らない様にしてくれたが…
「お話中すまないサミダレ。若輩者のアカツキです、老師」
「これはこれはどうもご丁寧に。我が輩はにゃん太と申しますにゃ」
「…サミダレの事はもう知ってるので大丈夫だ、老師」
首を振って手を外してくれるようにアカツキさんが頼んできた。
ゆっくりと手を外したにゃん太に私は恨むような視線を浴びせるが、特に気にしていない様だ。
「それで、あの筋肉達磨を一瞬で削った技は一体…?」
「……ああ。あれですかにゃ。あれはシロエちとの連携技ですにゃ」
その言葉に少しだけ自分の手を見ながら喋るのは、先の戦闘を思い出しているのだろう。
それを見て少しだけ首を傾げたアカツキさんを見ながら、私は少しだけ目を逸らした。
「ソーンバインドホステージって言う…ああ、アカツキさんは私達のエンチャンターと一緒にシロエが使った茨を知ってるよね?」
「ああ、連携もした」
その言葉と共に、私とにゃん太がお互いに顔を見合わせる。
連携というのが何処までかは分からないが…少なくとも私達が考えている程度には到達出来ていないのだろう。
…私は苦笑しつつも、目の前に居るアカツキに分かりやすい様に説明する為に、頭の中で考えを纏める。
「…まず最初に、デミクァスの体力はどれくらいだった?」
「あんまり見えなかったが…多分9000よりは上だったと思う」
「…班長」
私が少しだけ苦笑しながらにゃん太班長を見れば、にゃん太班長も少しだけ苦笑する。
それを見てアカツキさんが頬を膨らませるが、こればかりはしょうがないだろう。
「正解は9648ですにゃ。これを換算するとなると、約茨10本分で倒せる計算ですにゃ」
「そうだ。だが主君が茨を出せる本数は一回に5本だけ。それ以上はどう転んでも出せない筈だ」
どうだと言わんばかりに胸を張っているアカツキに、私達は苦笑する。
確かに普通の人間ならそういう発想になってもしょうがないとは思うが…まぁ、これも勉強だ。
「そうにゃ。一回で出せる量は五本まで…それは全ての付与術師に言える事ですにゃ」
「うむ」
「其処で連携を組み始めたアカツキさんに
アカツキが考えている時間に、私達は向こうからお肉を持ってきて串を外してお皿に盛りつける。
そして自分の鞄から箸を取り出して食べ始め、それを見たアカツキさんが羨ましそうな表情を浮かべた。
「…えっと…30秒くらいか?」
「残念。正解は15秒ですにゃ」
「そうなのか?」
随分短いな…なんて言っているアカツキさんを見ながら、私は小さくため息を吐いた。
…これでもキャストオンビート等の補助魔法を考慮していない。もしこれを考慮に入れたらアカツキさんはどうなるんだろうか?
……まぁ、どうにもならないだろう。
「えぇ、そして一気にあれを削りきる方法は、その15秒にある」
「…?」
だから何だという顔でこちらを見てくるアカツキを見つつ、私は頭を振ってもう少しだけ簡単に教えるにはどうすれば良いか考える。
それを見たにゃん太班長が自分の顎に手を伸ばしてから、ゆっくりと口を開いた。
「…我が輩は一回目のソーンバインド・ホステージから14秒待って攻撃したのにゃ」
「班長が攻撃した回数はきっちり10回。最初の五回は一回目のソーンバインド・ホステージに当たって弾ける。
その間にシロエがもう一度再使用時間が終わったソーンバインド・ホステージを唱える。そうすれば」
「我が輩の攻撃含めずに10000ダメージの完成ですにゃ」
その言葉を聞いたアカツキが信じられない様な顔でこちらを見つめてくる。
…そりゃあそうだろう。
互いの連携も必要だし、攻撃側は14秒避け続けながらカウントしなければいけない。
付与術師は本来ならその間に支援を掛け続けなければいけない。
「……それは修練で?」
「そうなりますかにゃ」
「……サミダレも出来るのか?」
その言葉を聞いて、私は少しだけ苦笑した。
それはアカツキさんを馬鹿にしている訳ではなく、こんな時代もあったなと言う懐かしさからだ。
「私だけじゃなくて、『現実の生産者』達は全員出来るよ」
「……わたしも練習する」
その言葉と共に向こうに戻っていく彼女を見つつも、私は自分の寝床を魔法の鞄から取り出そうとして…
「…ふむ。折角のキャンプなのに、豪邸を取り出されたら雰囲気台無しだにゃあ?」
にゃん太班長の前で一時間正座をする事になった。
それと同時に、にゃん太班長が取り出された豪邸を見つめながらぼそりと呟き…
「それがあったのなら台所でしっかりとした料理が作れたのににゃあ?」
その言葉と同時に向けられた全員の視線を、私は寝るまで忘れる事が出来なかった。
…食べ物の恨みは、怖いのだ。