ログ・ホライズン-『現実の生産者』 作:サブ職業:小説家 lv.1
ギルドに帰ってきて、まず初めに私がした事は正座だった。
可笑しい。私はこのギルドのマスターだったんじゃないか?そんな事を考えながらも私は今…
「…と言う感じで、セララの奪還作戦は終わった」
正座をしながらミント達に説明をし続けていた。
どうやら今回、途中で念話を無視してしまった事が相当心配されたらしい。
「…それで?シロエ達はどうしているの?」
「きっと今頃三日月でご飯を食べているんじゃない?」
「……じゃあ、どうしてマスターは戻ってきたんですか?」
「そりゃあもう。皆と一緒に仲良くしたいからに決まっているじゃない」
私のその一言を聞いて、ミントが半目になって呆れた様な表情を浮かべる。
それを見た私は少しだけ焦りつつ…ゆっくりと事情を話した。
「このあたりの情報と、後91レベルになったって情報を聞いたから飛んで帰ってきた」
「ああ…91レベルは正直大変でしたけど、まぁ楽しい遠征でしたよ」
「レベルとしてはどのあたりを狙ってたの?」
「そうですね。レイドの取り巻きを狙い撃ちながら…と言った所でしょうか」
その言葉を聞いてアイの方を見れば、アイは嬉しそうにピースをしていた。
それを見て私が優しく微笑むと…アイが頬を赤らめていた。
その事に少しだけ首を傾げつつも、頬を膨らませながらエリナに向かって意見を出す。
「…この状態でレイド?言ってくれれば私が指示を出したのに」
「何時までもマスターを頼りにしたくないという全員一致の意見です。諦めて下さいな」
その言葉を聞いて、私は少しだけ口を窄めた。
それを見たミントは少しだけ面白そうに微笑んだ後に…ゆっくりと私の耳元で囁いた。
「…特に死亡者は居ません。但し幾つか可笑しな事件が発生しました」
「……可笑しな事件?」
「はい。先ず初めに、レイドボス今までの情報に無い行動をしてきました」
その言葉を聞いて、私は少しだけ眉を潜めた。
つまりそれは、今までとは全く違う行動パターンのボスを相手にしなければいけないという事だろう。
知っている情報で戦えるならまだマシだ。それなら私が無傷で守れるのだから。
でも…もしそれが違うとなると…
「…どれくらい違って見えた?」
「誤差から別次元まで。千差万別と言った所でしょうか」
「支障は?」
ある程度想定された質問だったのか、大量に書かれた書類を見て私は思わず口を歪めた。
それを見たエリナが嬉しそうに微笑んだ後に、真剣な表情で喋り始める。
「全員が対処可能から、一時戦闘不能者が出る程度です」
「……つくづく、良く全員死なないで戻ってこれたね」
「それだけが取り柄ですから」
その言葉を聞いて、私は小さく微笑んだ。
…そして、ゆっくりと全員の顔を見つめる。
「…分かった。今日の報告会は中止!代わりにお食事会にしよう」
私が伸びをしながらそういうのと同時に、
「それ、リーダーが食べたいだけ」
ツキサギがジト目でこちらを見つめた。
それを見た私は小さく目を逸らすのと同時に、少しだけ笑い声が混じる。
ミントが諦めながらゆっくりとキッチンに移動するのを見ながら、私はゆっくりと起き上がった。
「さて。全員準備しよっか!確か大広間だったら全員座れるからそこで良いよね?」
「…リーダー。食い意地はりすぎ」
私はその一言に対してにっこりと微笑みつつも、ゆっくりと階段を下りながら一つのポーションを取り出す。
それを見たツキサギは驚いた様な表情を浮かべた後、全員を下がらせた。
「外観再決定ポーション…」
「…ん。ちょっと自分の姿に戻ってくるね」
「良いの?」
ツキが少しだけ期待した表情を浮かべているのを見て、私は思わず苦笑してしまった。
…まぁ、体質が体質だから現実の身体に戻って欲しいのだろう。
「結構身長とかが違っててね」
「そうだけど…でも」
「一応ミントには許可を貰ってるから大丈夫」
そう言いながら私はポーションを飲みつつ階段を降りていく。
突然の痛みに身体を抑えつつも、私は必死に声を上げずに階段を降り続けた。
…格好良く変身をしようと思ったのに、悲鳴を上げたら示しが付かない。
そして最後の一段を降りたのと同時に…私の視界がかなり低くなるのを感じる。
……それと同時に、
「…わぁ!サミダレちゃん!」
私の小さくなった身体にダイブをしてくる人間もまた居た。
…思わず身体を捻って避けようとしたが、彼女はそれを読んでいたかの様に動いて…私を抱きしめた。
「……おはよう。私が居る時は会わなかったからログインしてないのかと思ったよ」
「そんな事ないってわかってたでしょ?」
「…まぁ。わかっては居たけど…うん」
抱きしめられた瞬間、私は諦めた様に後ろを振り向いた。
其処には私と同じようにポーションを使って身体を戻した一人の女性が私に頬擦りをしている姿があった。
「…睦月」
「はい!何ですかサミダレちゃん!」
「私が居ない間に色々あったみたいだから…」
私はゆっくりと睦月を抱きしめて微笑んだ。
それを見た睦月が頬を赤く染めるのを見て、少しだけ首を傾げながらも優しく頭を撫でた。
「んっ…さみだれ…ちゃん…」
「お疲れ様。ビルドの関係上誘われる事沢山あったでしょ?」
「…うん。私は離れたくないのに…みんな自分勝手だった」
「そっか。本当にお疲れ様」
小さく頭を撫でれば、嬉しそうに頭を差し出す睦月を見て…私は少しだけ息を吐いた。
…私達は良くも悪くもトップギルドだ。
数ではD.D.D所か黒剣にも劣る。けれど私達はその二つにも負けない程度の質がある。
戦闘系の最先端だけじゃなく、生産系の最先端でもあるのがこのギルドだ。
…だから、この機会に乗じて引き抜こうとする所や吸収してやろうという考えはすぐに思いついた。
「…でも、ツキサギさんが皆を守ってくれたから…」
「大口依頼とかの件は?」
「それも大丈夫だった。皆やって欲しそうだったけど、表立っては言ってないよ」
「そりゃそうだよ。こっちの悪口を言い出したら先に居なくなるのは相手の方だからね」
そう言って私が小さく微笑めば、睦月も小さく微笑んだ。
…それと同時に皆が降りてきたのを確認してから…私は小さく伸びをする。
そして大きな姿見の前に立ち…自分の姿をもう一度確認した。
「…うーん。やっぱり誤魔化しをしてアカツキさんよりは身長上の方が良かったかな」
「いえいえ!その身長こそがマスターの黄金比!一番良いと思いますよ!」
そう言いながら睦月が自分で作ったのだろう扇子を取り出し、微笑む。
それと同時に私もゆっくりと手先を確認しながら…道具を取り出して生産系の技を使う前に全員を見つめた。
「…取り敢えず一つだけ聞きたいんだけど、現実との違いってどれくらいあった?」
「全く無かった。自分で打ちたい所に打って…そして温度も調節できる」
刀鍛冶であるツキサギが代表して答えたのを聞いて、私は少しだけ考えを纏めながら時計を作り始める。
「成程なぁ。という事は生産者の技術に左右されるのか」
「そうですね。後は革細工の私と、鎧職人のハナちゃんで色々合わせる事が出来たりもしましたよ?」
「…へぇ」
その言葉に興味を持ちながらも、私は自分自身で短針や長針を作っては嵌め込む。
…そして小さく黒灰姫と白灰姫の二人に目を向けると…二人は頷いてからゆっくりと宝石を時計に入れ込んだ。
その瞬間、時計の長針と短針が動き出し……そしてゆっくりと時を差しながら針が動き続ける。
「…どっちだと思う?」
「恐らくはシロの宝珠」
「……成程。使った宝珠にも対応するのかな?」
その言葉を聞いて、私は動き始めた時計を見ながら結論を出そうと頭を回し始める。
「…かもしれない。でも時計を動かすならあの程度で良いと思う」
「問題はどの程度の宝珠が何時間稼働するか…かな」
私は動いている時計を見つめながら小さく呟く。
…それを見たハヅキが小さく目を瞬かせているのを見て…私は少しだけ微笑んだ。
「どうしたの?」
「えっと…どうしてそんなに早く時計を作る事が出来たのかな…って」
「ああ。コツさえわかれば簡単に作れるよ?」
「そんな訳ないでしょう?」
その言葉と同時に、ミントがご飯を持って現れる。
ミントの言葉に小さく首を傾げると…ミントは呆れた様にこちらを見つめた。
「あれが出来るのは貴女だけよ。というかよく時間を正確に測れたわね」
「まぁ、現実と此処と逆算してかな」
「…本当に可笑しいマスターなんだから…」
「そう?」
ミントの言葉にお道化て返すと、諦めた様な表情で色んな机にご飯を置いていく。
…これ全部ミントが作ったんだから、そっちの方が凄いと思うんだけどなぁ。
「マスター。後で白灰姫と一緒に刀を作りたい。いい?」
「私に聞かなくても大丈夫だよ?」
「一応。報連相は必要。葉酸を取りたい」
それを見てエリナが少しだけ考えた後に、さっきのボケが分かったのかゆっくりと手をポンと叩いた後に口を開く。
「…ホウレン草ですか?」
「そう」
私の周囲には、白灰姫を囲って三人が微笑んでいる。
…きっと良い刀が作れるだろう。
ツキサギも、皆も全員がプロの道に進んだ人なのだ。
「この光景覚えて後で絵を描こうかな」
「寝れる時に寝ないと駄目だよカナタ?」
「そういうカナエだって寝不足になりながら地図を描くでしょ?」
元々仲良しの姉妹を見ながらも、私は警戒する様に二人を見つめた。
…もしかしたら逆スパイかもしれない。
本来ならギルメンにそんな事を思いたくないが、仲間を守る為にはそんな事もしなくてはいけない。
「二人共仲良いですね」
「「……」」
「…あれ?」
向こう側では今日拾った二人が初日に拾った少女に人見知りを発動させている。
…その事に少しだけ微笑みながらも、私は三人に手を振った。
「だからやっぱり愛なんですよ!愛!」
「…うーん…私も愛あると思うけどなぁ…」
「まぁ。根暗ちゃんはかなり愛あるよね」
「本日のお前が言うな?」
「マリアは人形愛というよりギルマス愛だから…」
「否定はしないね」
「うわぁ」
「根暗ちゃんだってそうでしょ?」
「…うん」
向こう側では召喚術師の四人が何かを語っている。
楽しそうに話している事から、召喚の事を話しているのだろうな。
そんな事を見ながらも私は沢山の召喚獣に囲まれて、私は皆の頭を撫でていった。
「あー!ツキ私のお肉食べたでしょ!?」
「取られる方が悪い」
「じゃあこのタルトも取られる方が悪いという事で」
「…ほう。私にその勝負を挑むとは…覚悟があるんだな?」
「最初にやったのそっちでしょう!?」
「おち、落ち着いて…」
「こうなったリーダーとツキは止められない。諦めてこっちで甘いおやつを食べよう」
向こうでは『花鳥風月』のパーティーがワイワイと何かをしている。
…何時も笑顔と喧嘩が絶えないパーティーに、エリナが少しだけ頭を痛めているのを思い出した。
……でももう、もう一度解散する事はない。
それを裏付ける証拠として、四人の腰元には皆で取りに行ったグリフォンの召喚笛が付いていた。
「…相変わらず凄いギルドだね」
「……えぇ。マスターの人徳あっての事ですよ?」
「そうかな?」
「そうですよ」
小さく私が微笑みながらご飯を食べるのと同時に、念話が掛かってきた。
…ご飯を持っていきながら念話を取ると…
「…頼みがあるんだ」
真面目なシロエの声が、私の頭に届いた。