ログ・ホライズン-『現実の生産者』 作:サブ職業:小説家 lv.1
「良いよ。私は別に」
念話の声を聴き、重要度を察した私は依頼も聞かずに返事をした。
…念話越しから息を飲む声が聞こえ、思わず苦笑する。
今回の交渉は絶対に失敗しないように幾つも案を練ってきたに違いないと微笑みながら…私は先に会話の腰を折ってみた。
「…ちょ、ちょっと待って」
「うん」
「……な、なんで話も聞かずに?」
「簡単な事だ友よ?」
「僕はワトソンじゃないです」
「眼鏡してるのに。何時かモノクルに変えて見たらどう?」
「誤魔化さないでください」
その言葉に私は少しだけ微笑み、ゆっくりと話を待つ。
…先手を打ったのはいいが、これからどうするかを考えていない。
それを察したシロエが小さくため息を吐いた後に…ゆっくりと話を始める。
「…先ず初めにやって欲しい事なんだけど…」
「屋台を止めて、依頼の申し込みを止める?」
「……」
「期間は貴方達が目的を達成するまで。そしてその目的を達成するためには私達のギルドが邪魔になる」
「…」
「達成する方法としては、味のする料理。その方法を教える代わりに金を巻き上げる事かな。……最低限の資金。500万枚」
その言葉を聞いて、彼が小さく喉を鳴らした。
…それを聞いた私は少しだけ考えを纏めた後に…ゆっくりと思考を回した。
「…何処まで」
「何処までと言えば、余り?かな」
「……本当に?」
「うん。本当にあんまり分かってはないよ。ギルド会館を買って、大手のギルドを集め、法を裁定する。アキバを戻す。……ううん、新しく作る為に」
「…何処まで分かっているんだ?」
「……さあね。何処までだと思う?ログ・ホライズンのシロエ君」
私のその言葉を聞いて、今度こそ彼が驚いた様な声を出した。
それを聞いて面白そうに微笑みつつ、ゆっくりと伸びをした。
「連絡を入れたタイミング、私達にして欲しい事、それを考えて……ああ、それで?」
「……」
「さて。ギルドメンバーを貸す事は出来ないしそれをシロエは望んでいない。
…ううん。そもそも今回は私達が手を貸す事を望まない」
「うん。『現実の生産者』の名声を今回は望んでない」
その言葉を聞いて、私は少しだけ微笑んだ。
それと同時にメンバーの方を見つめ…ゆっくりとため息を吐いた。
「…さて、何処までにする?」
「金貨500万枚」
「そう。メンバーは?」
「第8商店街、海洋機構、ロデリック商会」
「……最初に得れる金貨、そして三日月同盟の要らない物を売って50万前後。……ふむ、上手くいって一つのギルド当たり150万かな?」
「…そうだね」
「
私の一言を聞いて、彼が今日何度目かの息を飲む。
「…さて、こちら…ううん。私にやって欲しい事の殆どは終わっている。あと少し、何かをやって欲しい事があるんでしょ?」
「……」
「けれどそれは私に断られる事が確定してる。だから言わない」
「…うん。本当は今言った中に
その言葉に私は小さく頷いた。
この世界で縛られる事は、私達にとって何よりも嫌な事だ。
「…だから、基本的には僕達のバックについてほしい」
「…メリットは?」
「僕の口から言うの?全部分かっててそれでしょ?」
その言葉と同時に、私は少しだけ微笑んだ。
「それじゃあ、私達ギルドはレイドの遠征に行くね。これが一番手っ取り早く…そして楽だから」
「…良いんですか?僕は死ねと言ってるんですよ?」
「ううん。素材回収に行ってこい。でしょ?」
その言葉と同時にシロエが小さくため息を吐いた。
そんなシロエに少しだけ苦笑しながらも、私はゆっくりと話を続けようとし…
「マスター。お客様です」
小さく、後ろから声が聞こえた。
私は小さく頷いた後に…シロエに対して話を続ける。
「ごめん。客が来たからこれで」
「ああうん。わかった」
「最短で明後日になる」
「了解」
その言葉と同時に私は念話を切り、客の相手をする為に踵を返した。
…そしてゆっくりとメンバーを見つめてからミントに指示を出し…ゆっくりと客の下に向かった。
客間に向かうと、其処には一人の少年が座っていた。
「…ん?ああ、やぁ」
「こんばんは師匠。夜分遅くにすみません」
「おっと。カズ彦じゃなくて私が師匠なの?」
「はい。二刀流を教えてくれたのは師匠ですから」
その言葉に少しだけ苦笑しながら、私はゆっくりと彼の目を見つめる。
…何かに迷い、縋ろうとする目。
私の持っている情報を使って考えを纏め…そして小さくため息を吐いた。
「…外に行こう。メンバーに心配を掛けたくない」
「……はい」
その言葉を聞いて彼が立ち上がるのを見て…私は小さくため息を吐いた。
そしてゆっくりと刀を撫でた後に…外に出る。
…そして、外に出た瞬間に彼が小さく目を光らせた。
「何かを掴めそうなんです」
「…うん。おいで」
「……手加減はしないでください」
「する気はないよ。……」
小さく、私は刀に手を置く。
…そして、瞬時に構えを取った彼を見て…一言だけ煽る。
「殺す気で来な」
「一騎駆け!」
私の煽りを受け、彼が刀を抜いて私に斬りかかる。
先ず初めに片方の刀で彼の攻撃を逸らしつつ、そのままもう片方の手で居合の構えから反撃をする。
首元に入った刀を見た彼が小さく舌打ちをした後に、刀を逆手で構えて首元の刀を弾いた。
「…」
その逸らし方、斬りこみ方の全てに違和感を持つ。
私はそのままゆっくりと息を吐いた後に…片方の刀を弾く形で地面に落とした。
そして片方の刀を両手で掴み…そのまま一つの刀で戦い始める。
「……違和感がある。何を視てる?」
その言葉には答えず、もう片方の刀を使って両刀で彼が戦い始める。
そして、瞬時に片手の刀で私の刀を逸らそうとするが…
「遅い。それに軽い。姿の所為?」
「っ!」
片方の刀で防ぎきれない事が分かったのか、両方の刀で防ごうとする。
…それを見た私は小さく身体を回転させ、自らの刀を足で押し付ける。
「っ!」
それを見たソウジロウが両方の刀を振りぬき…私の刀を吹き飛ばそうとする。
…私は小さく微笑んだ後に、吹き飛んだ刀を片手で掴んでから構えを取る。
「…火車の太刀」
「っ!」
私が小さく呟くのと同時に、身体が勝手に動き出す。
…そして瞬時にソウジロウに技を撃ち込み、そして瞬時に地面に刺さっていた刀をもう片方の手で掴んで切りつけた。
その無理矢理な事に身体が悲鳴を上げ、技がキャンセルされる。
彼が私の技に対抗するべく受け流しを使おうとしたのだろうが、無駄撃ちになっていた。
「っ!?」
そのまま硬直をしているソウジロウに刀を向ける。
「終わり」
「……」
「何か掴めた?それなら良…」
良かったんだけど…と言う言葉を最後まで言わず、私は瞬時に距離を取った。
…そのまま私に縋る様に地面を刀で削りながら近寄り…そのまま逆袈裟に斬りつけようとする。
私は片手の刀で切っ先を二センチほど後ろにずらさせ、そのままもう片方の刀からの攻撃を庇う。
そしてもう一つの刀を使って首を狙った瞬間…
「!?」
軌道が読まれ、私は力を出し切る前に逸らされた。
思わず距離を取り、瞬時に思考を回しながら彼の今のからくりを解明する。
「……今のは…」
「…これは……」
けれど彼も分かっていない…いや、正確に言えば私に見えないログを見ていることから、今まであった技ではない事がわかる。
…という事は…
「…今なら、師匠に勝てる気がします」
「弟子の伸びた鼻を切り落とすのも師匠の役目だね。…いいよ。新しい技を使いな」
「……はい!」
新しい技を否定しなかった事から、拡張パックに入っている新しい技なのだろう。
…そしてそれは私の刀の軌道を読み、そして瞬時に逸らす技。
発動からそれを学び、弱点を探せ。頭を久々に回転させろ。自分。
これを突破する方法を、全て試せ!
「無駄です師匠!この技なら、フェイントだって見切れる!」
その言葉と同時に、私のフェイントを無視したソウジロウが私に対して刀を振るう。
…そして、それを見て私は瞬時に悟り…行動に出る。
刀を仕舞い、後の先を発動させながら居合を両手で起動した。
片方の刀を抑えたソウジロウは、私に対して小さく目を光らせた。
「ソウジロウ。その技、防御にしか使えないね」
「……さっすが、師匠だ」
両方の刀で左右の鍔迫り合いを行いながら、私達は微笑む。
「そして軌道を読んでから防ぐ為には時間が其処まで無い。という事は…貴方が見れても反応出来ないくらいに速けれ…ばっ!」
その言葉と同時に、私はソウジロウのお腹を蹴り飛ばす。
…瞬時に私に行動の意味を悟ったのか、防御の構えを取るが…
「遅いよ」
スキルを使わず、私は彼の喉元に切っ先を突き付けた。
…相手にスキルを使わせず、そして完璧な詰みになった彼が…小さく両手を挙げた。
「…参りました」
「ん。孤鴉丸とか使ったらまだわからなかったかもよ?」
「……無理ですね。師匠は才能がある」
「そう?私は身体動かすの其処まで好きじゃないけどね」
「好きじゃないだけで出来るんでしょう?」
その言葉に少しだけ微笑みながら、私はソウジロウの頭を撫でる。
少しだけ頬を膨らませたのを見てから…ゆっくりと木陰に居る彼女へ話しかけた。
「さ、もう帰りなさい。其処に居る彼女と一緒にね」
「…へ?」
「いやぁ。バレちゃったかぁ」
そう言いながら反省の色すらなく出てきた彼女を見て、私は少しだけ微笑んだ。
…昔の知り合いの顔を見つめながら…ゆっくりとソウジロウを差し出す。
「後よろしく」
「はいよ。…そうそう、サミダレ防御スキル一切使ってなかったじゃないか」
「そうだっけ?居合の構えは使ってたけど」
「あれはトグルでしょ。リキャスト長い奴とか全然使って無かったじゃないか」
「まあね」
刀を仕舞って微笑んだ私を見て、少しだけため息を吐く。
…それを見て私は首を傾げるが…彼女は小さく首を横に振ってからソウジロウの首根っこを掴んだ。
「…ま、何時かソウジロウが強くなったらもう一度相手をしてあげてよ」
「それは別に何時でも良いんだけど?」
「……なんか、相手にもされてない気がしました」
「そう?私は結構頭回しながら戦ってたよ?」
「それが相手にもしてないって事なんだよ。トップの戦闘職相手して他に気を配りながら戦えるのなんて、サミダレくらいじゃないの?」
「どうかなぁ?」
小さく微笑みながら彼女の言葉を濁せば、彼女も少しだけ微笑んだ。
…そして瞬時に視線を合わせ…頷いた。
「じゃあそういうことで、よろしく」
「そちらもお願いね。取捨選択は任せた」
「あいよ。言う相手は選ぶさ」
その言葉と同時に二人が去っていくのを見てから…私は小さく手を叩いた。
…それと同時に私の真後ろからガサガサと音が聞こえる。
「夕月夜。ちゃんと見てた?」
「…」
小さくコクリと頷いて、私を抱きしめる。
「お眼鏡に適った?」
もう一度頷いて、優しく顔を見つめられる。
…そのまま頬を上気させ、ゆっくりと目を瞑った。
「そっか。…分かった。明後日一緒に行こう」
「…ん…」
小さく微笑んでから私がそう言ったのを、彼女が嬉しそうに微笑む。
…そして私が額にキスをしたのを不機嫌そうに見つめる。
「…口、して」
「駄目」
「……やぁ」
私がそのまま優しく手を握ると、嬉しそうに指を絡めて微笑む。
そしてゆっくりとギルドに戻ってから全員の顔を見て…もう一度息を吐いた。
そのまま夕月夜の手を放して台に乗り…全員に聞こえる様に声を出す。
「さて、急に決まった事だけど…明後日にレイドをする事になった」
「……はい」
「メンバーはフルレイド。つまり24人。構成的にはタンクとヒーラーは全員参加しなければいけない。…そして、今此処に居るメンバーは25人。必然的に一人余る計算になる」
その言葉を聞いて全員が視線を向ける。
…それを見た私は少しだけ息を吸ってから…喋りだした。
「よって明日は一日、メンバーを決める日とする!メンバーが決まり次第連携の練習!」
私の言葉に全員がそれぞれ返事をし、そして冷や汗を掻く。
…それを見て少しだけ微笑んだ後に…解散の合図を出し全員を自由時間にさせてから台を降りた。
「…一人だけ…」
降りる瞬間、小さく呟いたハヅキの姿を…私は見逃さなかった。