ログ・ホライズン-『現実の生産者』 作:サブ職業:小説家 lv.1
「…それで、どうする心算なんです?」
「どうするって…ああ、レイドの事?」
私が椅子に座ってぼーっとしていると、隣に座っていたエリナから少しだけ諦めの入った様な声で話しかけられる。
それを聞いて私は少しだけ首を傾げるが…レイドの難易度について聞いているのだろうと納得し、少しだけ真剣に考え始める。
「…そうだね。アキバ近くの方が良いかな?」
「アキバ近く…ああ、あの難易度なら丁度良さそうですけど…片道1日くらい掛かっちゃいますよ?」
「アキバ近くのダブルレイド…って、平均レベル86のあそこですか!?」
私達の会話を聞いて場所をある程度推測したハヅキが驚いた様な表情でこちらを見つめる。
それを見た白黒姉妹が少しだけ無表情になりつつも…私の方を見て頬を緩めた。
「マスターが居るなら余裕。ぶいっ」
「ハヅキは心配しすぎ。あそこは難易度がレベル負けしてるから絶対余裕」
「で、でも前回のレイドは今までとは違う行動を…」
「…?どういう事?」
白灰姫が首を傾げるのと同時に、アイが大量の紙を持って机の前にやって来た。
それを見た白黒姉妹が口を歪めるが、アイは気にせずに大量の紙束を二人の前に置いていった。
「これを全部読んで下さい。私が考え得る限りの行動を全て書き写して貰いました」
「…考え得る限りの行動?」
私が小さく呟きながらアイが持ってきた書類を見ると、其処には大量の情報がドイツ語で書かれていた。
それを見た黒灰姫が少しだけ考えるのと同時に…
「…ボスの移動、未知の攻撃……合体技…?」
「可能性として考えられるものを幾つか上げましたが、この中のどれかはやってくると言っても過言ではないでしょうね」
黒灰姫とエリナが小声で喋っているのを見ながら、私は少しだけ小さくため息を吐いた。
…今まで見た事ない様な行動から此処まで予測出来るとは、流石はこのギルドの参謀だ。
なんて事を考えながらも、私は疑問に思ったことを首を傾げながらアイに問いかける。
「……アイってドイツ語出来たんだね」
「寧ろマスターが出来る事が吃驚です。運動神経抜群で頭脳明晰とか才能の塊ですか?」
「黒灰姫が読める方はノータッチなんだね…」
少しだけ呆れた様な表情で私がため息を吐くと、アイは苦笑しながら「黒様ですから」と小さく呟いた。
…まぁ、黒灰姫は天才と呼ばれる部類だししょうがないと言えばしょうがないのだろう。
「…因みにアイはこれを書き写してる間、どんな事を思った?」
「……ギルドメンバーに言った方が良いとは思います。…と言っても全員分かっているとは思いますけど」
「?それはどうして?」
私が首を傾げながらそう問いかければ、アイは少しだけ考えた後に…
「…今日来たメンバーで一足先にレイドに行ったらしいんです」
「……えぇ。知らなかった」
「らしいですね。心配を掛けたくなかったらしいです」
そんな事を言いながら小さくウインクをするアイを見て私は思わず苦笑する。
「…まぁ、それで?」
「実はですがレイドボスが移動してきたらしいんです」
「……移動してきた?それはエリアを無視してって事で良い?」
「えぇ。と言っても“エリア”は越えても“フィールド”を跨ぐ事は出来ないらしいですけどね」
籠められたその言葉を聞いて私は少しだけ考えを纏める。
…そもそもレイドダンジョンは1~5階層で別れていて、その階層の部屋を“エリア”と呼ぶのだ。
逆に一階層を纏めて呼ぶ時は“フィールド”と呼ぶ事が多い。
「…成程ね。フィールドを越えないと考えた理由は?」
「全部のボスが集合しなかったかららしいですね」
「……えぇ。ボスが集合したのに勝ったの?」
私がドン引きした様な声で問いかけると、アイがきょとんとした様な表情で私を見つめ返しながら小さく頷いた。
「腐ってもレギオンレイドのメイン盾ですからね。……後、大きな声では言えませんが新しいスキルを習得したとも聞きましたし」
その言葉を聞いて白灰姫の耳がぴくりと動き出した。
…それを見て私は少しだけ考えを纏めつつ、小さく視線を逸らしてから私の真後ろに居る人間に問いかける。
「という事だけど、どうなの?」
「流石はマスター?」
「疑問形なの?」
「今マスターと呼ぶべきかサミダレ様と呼ぶか迷…」
サミダレ様と言う言葉を聞いて私は思わず彼女を睨み付け…その視線に気づいた弓を持った暗殺者…ヒータァ…が慌てて喋り出す。
「じょ、冗談ですよマスター。嫌だなぁ…」
「そう?それで手に入れたの?」
「……まぁ、手に入れたっちゃあ手に入れたんですけれど……うーん」
少しだけ困った様な表情で私の方を見るヒータァを見て、私は思わず苦笑し…優しく手招きをした。
…それを見て小さく頷いたヒータァが、ゆっくりと手を振ってから私を抱きかかえて私が座っていた椅子に座った。
「…えっとですね。先ず初めに新しいスキルの名前は“口伝”って言います」
「……それはスキル名?それとも階級?」
「別のゲームで言うユニークスキルの方が近いと思いますね」
その言葉を聞いて、私は考える様に目を細めた。
…つまり口伝と言うのはプレイヤーによって全く別のスキルになる?
そんな事を考えながらゆっくりとヒータァを見れば、ヒータァは小さく頷いた後にゆっくりと人差し指を天井に差しながら喋り始めた。
「多分そうだと思います。そして、口伝はその時危機に陥った自分が“最も欲しいスキル”を与えられる」
「……」
最も欲しい者、例えばあの時のソウジロウは“防御”に関するスキルが欲しかったのだろうか?
…いや、きっと違う。
もし欲しいのであれば、もっと別の何かだ。あそこまで攻撃に特化した防御スキルを欲しがる理由……
「……先読みのカウンター」
「…?どうしたんですマスター」
「…ソウジロウと戦った時の違和感はそれだったのかと思ってね」
つまりソウジロウは相手の視線を自分に惹き付ける事前提だったのだ。
他人を傷付けさせない様にするには、唯避け続けた所で意味がない。
腐った根本は切り落とさない限り腐食を促すのだ。
「…」
そしてその侵食を0.01%でも抑える方法として、彼は速度を選ぶ。
相手の攻撃の“隙”を見て
「…それで?ヒータァは何を求めたの?」
「速度を」
その言葉と同時に、空になっている矢筒をトンと叩いた。
「…あの時は火力が足りなかった。ボスが二匹も居て、ヒーラーが専属でついてないといけない状態だった」
「……だから、速度?」
私の言葉を聞いて、ヒータァは小さく頷いてから私を宙に投げた。
…それと同時に矢筒には矢が入り、ヒータァは私の目の前で矢を射っていた。
私はそれを全て避けようとするが…後ろに居る人間を守る為に両刀で矢を切り落とした。
「…早業。五本同時?」
「違います。五本“同時”じゃなくて一呼吸の間に五本“連続”で撃ったんです」
「……それが口伝?」
その言葉を聞いて、ヒータァが小さく頷いた。
…それと同時に全員が集い始め、期待する様にヒータァの方を見た。
「私の口伝は“神射”、効果は自分が攻撃速度が速くなる事です」
そう言いながら小さく微笑んだヒータァを見て、全員が少しだけ驚いた様な表情を浮かべる。
…それを見て私が苦笑しつつも、ゆっくりとため息を吐いた。
「…口伝は個人によって違うらしいからね。もし新しく手に入れたら教えて欲しいな」
「マスターは口伝持ってないんですか?」
誰かからの質問を聞いて、私は小さく頷いた。
……いや、手に入れようとすれば多分手に入れられる段階なのだろう。
…私はその一歩を怖がっているだけだ。
「まぁね。まだピンチに陥った事もないしね」
「確かに。でもそれなら明日のレイドで手に入れられないと良いですね」
もし私の口伝が想像通りだったら…
「……そうだね」
もしかしたら、皆が離れてしまうかもしれない。
そんな想いがきっと…口伝習得を妨げているのだろう。