ログ・ホライズン-『現実の生産者』   作:サブ職業:小説家 lv.1

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ダブルレイド“氷川神社跡地”第一階層。

86レベルという比較的高難易度な、けれど実際はレベル負けしていると言われていたレイドゾーン。

…そう、“言われていた”…つまりは過去形だ。

私は全員のステータスを確認しながら敵の場所を逐一連絡し始める。

 

「撃ち漏らし!2パーティ!」

「雑魚狩りお願い!即死耐性弱!」

「「ゲイジングアイ!キャストオンビート、ブラックアウト!」」

「朦朧1、即死1!」

 

その言葉を聞いて、マスターが刀を引き抜きながら新たな敵に向かっていく。

それを見ながら私は支援を飛ばし、他の敵にバインドをかけ続けた。

それと同時に鈴が私の横に移動するのを見て、私は視線だけで会話を促す。

 

「エリナ。奥開いた」

「…開いたのにも関わらず敵が消えない……という事は…」

「っぽいね。火力上げる?」

 

盗剣士の鈴がそう言いながら投擲武器を投げ、瀕死の敵にぶつかって体力がなくなっていく。

それを見て私は少しだけ考えつつ…マスターの方を見て小さくため息を吐いた。

 

「…いや、まだしない方が良さそうですね」

「どういう事?」

「後方増援。5パーティ!」

 

その言葉と同時に第三と第四パーティが反転して攻撃をし始める。

…それを見ながら私は吟遊詩人の二人を別の場所に移動させつつ、CC役として活躍をする事にした。

それと同時にマスターが更に別の敵を引き付け、メインタンクが暇になって後ろ側へ移動していく。

 

「…流石はマスター。普通のサムライだったらあの量は捌けない」

「……多分ゲーム時代のマスターでも無理でしたね。現実になった弊害…とも言うべきでしょうか」

 

真後ろからの攻撃を捌きながら目の前の敵を倒しているマスターを見つつ、私はマスターに支援を当てて回避率を上げる。

…今の状態で回避率が役に立つかどうかは分からないが、念には念だ。

 

「…流石ダブルレイド。結構きついね」

 

メインタンクが居る第一部隊の方を見ながら、鈴が小さくため息を吐いた。

メインタンクと言いながらも遊撃のマスターが敵の攻撃を捌く機会が多いし、実際は雑魚を集めて耐える部隊だろう。

 

「…第五!マスターの支援!」

『ちょっとこっちは無理!寧ろタンク回して欲しいんだけど!?』

「こっちもタンク回したいんだけど火力が足りてないんです!後衛からの増援にメインタンク部隊が行ってますからもう少し堪えて!」

『無理無理!?もう十分耐えてるって障壁がウヒィ!?』

 

謎の悲鳴を上げながら障壁が割れた音が聞こえ、それと同時に鏑矢が第五部隊の方に向かって飛んでいく。

それを見て私は月影に対してバフを利用しつつ、他のパーティに連絡を入れる。

 

「私が限界まで引き付けます!」

『月影さんありがとう!今急いで向かうから…!』

『ゆっくりでいいよ。あんまり体力減ってないから』

 

マスターの言葉と同時に雷鳴が轟き、マスターの周囲の敵に大量の魔法がぶつかり始める。

…それを見つつ的確に攻撃を捌いていくのを見ながら、私はアストラルヒュプノをし続ける。

 

「…鈴はマスターの周囲を倒した後に再度凧揚げ(カイティング)。反転して七部隊に合流して」

「了解」

『エリナ。最後の敵が死んだからボスの場所に移動する』

 

その言葉と同時に走っていくマスターを見て、私は最大限のバフを渡してからアイに命令を出す。

頷いたアイを見た後に私達第八部隊が走りだし、ボスを相手取っているマスターを二秒待ってから攻撃を開始する。

…それを見たレイドボスが私達の方へ遠距離攻撃をしようとしてきたが…

 

「っ!?」

 

それをマスターが無理矢理上に逸らしたのと同時に、他のメンバーが攻撃をし始める。

今戦っている第一のレイドボス《楽園のヴァルキリー》は順番に倒さないといけない。

先ず初めに此処のボスを倒し7つの門を開く。

しかしその時に倒したパーティはデバフを受け、次の扉のヴァルキリー戦に参加すると有無を言わさずに死ぬ呪いに掛かるのだ。

そして参加しなかったパーティには強化バフが掛かり、次のヴァルキリー戦に対して有利に戦える事になる。

デバフを低人数で受けつつ、何処まで楽に攻略できるかがこの第一階層の議題だ。

 

「…ふむ。行動パターンは変わってないですね」

 

周囲に大量のバフを掛けながら呟くのと同時に、ヴァルキリーの槍が輝き始める。

…それを見た全員が一瞬安堵の息を吐こうとするが…

 

『全員回避行動!名前見ないと痛い目遭うよ!』

「「「「「っ!?」」」」」

 

その言葉と同時に、私達は相手のステータスを確認し……そして漸く理解した。

《楽園のヴァルキリー》ではなく、《失楽園の戦乙女(ヴァルキリア)》。レベルは91。

…余りの余裕から忘れていた…此処は元のゲームじゃない。

それと同時に私達の頭に数字が一瞬だけ現れ、そのまま掻き消える。

 

「えっ今の順番!?マスターしか見てなかった」

「私も見てない!ツキ見てた?」

「見てない見てない!マスター6のエリナ2!」

『ツキエリナタソガレ睦月アンブローズ私!ヘイトの逆順!』

 

マスターからの言葉を聞いて、私達は慌てて攻撃を避けようとするが…既にツキの目の前にはヴァルキリアが現れており…それと同時にマスターが宙を飛んでツキの方に吹き飛ばされていた。

 

「マス…」

 

障壁が割れそうになるのを見て睦月が新しく貼り直し、それを見たマスターが刀を二つ使ってヴァルキリアの攻撃を一瞬だけ抑え込む。

…それを見た瞬間、私は思わず悲鳴を上げそうになった。

 

『ツキ、退避』

「…了解」

 

片方の刀で相手の武器を抑え、もう片方の刀で腕を突き刺して腕を固定させる。

勿論ボスのSTR値の影響で刀を抜かれながら攻撃されるが、その攻撃速度が少しだけ遅くなるのだ。

…そしてそれを受け流しを使って上手くダメージを軽減しつつ…今度は私の方に吹き飛ばされる。

次の瞬間私の下に転移したヴァルキリアが攻撃をしようとするが、それをマスターが同じ様な方法で防ぐ。

 

「……」

 

本当に人間なのだろうか?

そんな事を考えながら、私は癖となったバフを飛ばしていく。

…それと同時にツキの一撃がヴァルキリアに刺さり、体力が少しずつ減っていった。

 

『タソガレは回避後アクセルファングで追撃。そして私に最後の一撃を与えた瞬間にエリナがカルマドライブを使ってタソガレにインフィニティフォース。

アンブローズは回避後直ぐにシンギュラリティ。その後ロバストバッテリー使用してからエンハンスコードとエナジーフラクション使用してから攻撃開始。

ツキは後ろに回り込んでステルス主体で威力特化。睦月は私に常時障壁を貼り続けて最後の一撃時に神楽舞を使ってから防人の加護と禊ぎの障壁の同時使用。攻撃が当たる三秒前に石凝の鏡を使って。

もし倒しきれなかったらエリナがマナチャネリングを使用してからタソガレにフォースステップ使用。次の攻撃を考えてMP吸収優先!』

 

マスターが一斉に喋るのを聞いて、私達は頷きながら行動を開始する。

全員が呟きながら攻撃をしたりしている間にも、マスターは相手の攻撃を捌きながらギミックを考えている。

…その格の違いに打ちひしがれながらも、私は今出来る事を必死にやっていた。

 

『全員に通達。ボスの行動が違ってるからもしかしたらギミックが違うかもしれない。門の前に待機してるだろうけど…全員所定の位置に移動して。もしかしたら何か違ってるかもしれない』

『第一部隊了解。まだ開いてないです』

『第二部隊了解。こちらもまだです』

『第三部隊了解ですー、まだでーす』

『第四、まだ』

『第五もまだです』

『第六はまだ辿り着けてないです。近くの第七確認お願いします!』

『第七了解。両方見たけどまだ開いてないよ。第六部隊は落ち着いて来るように』

 

全員の会話を聞きながらマスターは真顔で刀を振り上げる。

それと同時にヴァルキリアの攻撃が降り注ぎ……障壁が割れた。

 

「…今!」

 

マスターが念話を使わずに叫ぶのと同時に、もう一度マスターに障壁が貼られ……

 

「っ!?」

「空を飛んだ…!?マスター!」

 

私の一言を聞いて、マスターが刀を逆手に構えて警告を飛ばす。

 

「エリナ!さっき言ったバフを全部アンブローズに!アンブローズはヘイト管理全無視して殴れ!タソガレは私に近づくな!死ぬぞ!」

「了解!」

 

マスターの命令を聞いて私達は動き始め、まず初めにアンブローズが攻撃をし続ける。

それを見つつ、私は相手の攻撃を見ようとして……

 

「…えっ?」

 

空中に7体のヴァルキリー達が待機して大技を構えている。

それを見て私は思わず息を呑みマスターに警告を飛ばそうとするが…マスターは既に体勢を低くして構えていた。

 

「…嘘…まさか全員此処に集って…」

「という事はあの門は囮!?…っ!今から連絡を…」

「間に合わないって!どうするのこれ!」

「落ち着いて。マスターは諦めてない…という事は解決策はある筈」

 

ツキがそう言いながら念話を取っている。

どうやら花鳥風月のリーダーに話している様だ。喋っている言葉に棘がある。

 

「…っ!間に合わない…ハナ早く来て!」

『これ以上は無理だって!というか最初に話しかけるなら近場の第五部隊でしょ!』

「だって連絡先それくらいしか知らないし…」

『いい加減フレンド増やせ馬鹿ぁぁ!』

 

花鳥風月の二人が漫才しながらも戦っているのを見て、サミダレの口元に笑みが零れた。

…それと同時に放たれる大量の光を見て……

 

「…叢雲の太刀」

 

マスターが何かを呟くのと同時に…ヴァルキリア達の攻撃が細切れになり粒子へと変わっていく。

…それを見た私達が目を瞬かせるが…地上に降りたヴァルキリアの体力が尽きて突然粒子に変わる。

ツキとアンブローズが何とかしてくれたのだろう。火力馬鹿の二人が一分の間自由に攻撃できるのならあの程度の体力削れるに決まっている。

 

「持ち堪えるよ!」

 

その言葉と同時に空中のヴァルキリー達が一斉にアンブローズに襲いに行く。

それを見たマスターが一騎駆けを使ってからアンブローズに向かって近づき……武士の挑戦を使ってから全てのヘイトを吸い取った。

 

「ヴァルキリアの所為でMPが……」

「受け流し使わないでください!マナチャネリング!」

「…っ!障壁が破られ…」

 

避けきれない攻撃を喰らってマスターの障壁が消える。

それを見た睦月が障壁を貼り直すが殆ど意味がなく、すぐに障壁は破られた。

睦月が急いで近づこうとするが、マスターから少しだけ遠くもし仮に移動しても……マスターは助からない。

 

「……あ、あ、……あああ!」

「エリナ!?」

 

30秒もすればマスターが死ぬ。

これが私の計算結果だ。何度計算しても秒数が変わるだけでマスターが死ぬ結果には違いない。

何が違った?何を間違えた?

 

「エリナが発狂してる!っ!私も間に合わな…」

 

決まってる、全部間違えているのだ。

マスターに頼り切って戦術も何も考えなかったツケが回ってきたのだ。

…そう、最悪の結果を引き連れて。

 

「…させない。そんな事させるもんか!」

 

杖を構え、魔法を唱える。

キャストオンビート、オーバーランナー、リフレックスブースト…ソーンバインド・ホステージ。

どの技を使っても時間を引き延ばすだけでマスターは救えない。

必要なのは新しいスキル、そう…マスターを救う為のスキルが必要なんだ。

 

-「多分そうだと思います。そして、口伝はその時危機に陥った自分が“最も欲しいスキル”を与えられる」

 

チリチリの首の後ろが熱くなる。

…考えろ、口伝とはなんだ?何を持って口伝と呼ばれるのだろう?

システム外の操作(ミントの料理)本来の回避率(マスターのスペック)新たなスキル(口伝“神射”)

私はどれだ?考えろ!私がマスターを救う唯一の方法を!…システム外?スペックか?スキルを入手すれば……

 

『…エリナ』

 

私が思考の深みにハマった瞬間、敵を見ていた筈のマスターから念話が聞こえた。

…念話を取れば、マスターは少しだけ嬉しそうに微笑んでから…

 

『大丈夫だよ。賢くて可愛いエリナならすぐにわかる。エリナだけの口伝を手に入れる方法を』

「…私、だけの…」

-「…口伝は個人によって違うらしいからね。もし新しく手に入れたら教えて欲しいな」

 

ギルドハウスで呟いていた言葉を思い出し、私は力んでいた手をゆっくりと緩める。

…それを見たサミダレが微笑んだ後に…

 

「…“口伝”」

「っ!?まさかエリナ、口伝を手に入れて…」

 

その言葉と同時に、マスターに多重のバフが掛かる。

移動速度増加、攻撃力上昇、命中率上昇、回避力上昇、抵抗力上昇、“ヘイト率軽減”、リミッター解除、使用後硬直時間・再使用規制時間短縮、加速、特技再使用時間加速。

 

「…ただ一人の愛する少女の為に…って!何ですかこのフレーバー!?思い籠めましたけど流石に…いえ、マスターがごういしてくれるなら…えへへ…」

「エリナ、照れてる場合じゃない。というかどうやって口伝を…?」

「無我夢中で、マスターを助けたいと思ったら出来ました!」

 

口伝“who sustain girl”…直訳すれば少女を支える者。

…確か付与術師のスキルにサステナー・スタイルというスキルがあった筈だ。つまり今回の口伝は、それを更に特化させた物だろう。

護符や指輪などに付与するのではなく、一人の少女に全て纏めて付与する。

 

「……だからヘイト率軽減も入ってるのか。ちょっとあれだなぁ…」

 

私がため息を吐くのと同時に、私達の後ろから足音が聞こえ……それと同時にマスターが受け流しを使って敵の攻撃を最大限逸らし始める。

インフィニティフォースのお陰でMPは減っていない。つまりは受け流し使い放題だ。

一気呵成を使って更に別のスキルを使っているマスターを見ながら私達は急いで場所を移動し…

 

「一二三部隊到着!マスターに引っ付いている奴等を二体ずつ離すよ!」

『『『了解!』』』

 

その言葉と同時にアンカーハウルや武士の挑戦と言ったスキルが叩きこまれ、ヴァルキリー達が離れていく。

…それを見た睦月がヒールを使ってマスターを回復し始める。

 

「…レベルが低くて助かった。もしヴァルキリアレベルだったらもっと早く死んでた」

「……まぁ、あのレベルでも死んでたけどね」

「…うん。ちょっと油断してた…ごめん」

 

マスターが踊る様に両刀を動かしながら敵の攻撃を捌き…そして念話を繋いだままサミダレが微笑んでから…

 

『だから…ありがとうエリナ。大好き』

 

その言葉と笑顔を見て、私は思わず頬を赤らめてアストラルヒュプノをヴァルキリーに掛ける。

…それと同時に一瞬だけ眠ったのを見て、サミダレが更に嬉しそうに笑った。

 

『愛してる』

「ぁぁぁ!!にゃぁぁぁ!」

『まって活躍すればサミダレからご褒美が貰えるの!?急いで行くから取り分残せ!』

 

サミダレの駄々洩れの告白にミントが反応して、私が頬を赤らめたまま他の敵にデバフを撒き散らす。

さっきの口伝で更にクールタイムが増えてしまい、デバフしか使えないのだ。

…そして、全員が辿り着いた時には既に敵は半壊しており…それを見たミントが怒りながら敵に突撃したのを機に…

 

【……終わったぁぁ!】

 

第一階層の最期のヴァルキリーが倒れ、下に続く階段と大量の金貨が現れた。

…それを見た全員がため息を吐いた後に、自分が汚れるのも関係なしに床に倒れ込んだ。

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