ログ・ホライズン-『現実の生産者』   作:サブ職業:小説家 lv.1

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アキバの街に帰ってきた私達は、疲れた身体を限界まで酷使しながら歩いていた。

…そして自分達のギルドハウスに戻ってこれた時に…漸く全員が安堵の溜息を吐いた後に座り込んだ。

 

「まさか此処まで酷いなんて…スラム街かなんかなの?」

「いやまぁ、今のアキバに法なんて無いですしね。多少は諦めるしかありませんよ」

 

そんな事を話しながらエリナが、恐る恐る椅子に座り始める。

私は自分の椅子に付いているマッサージ機能が作動するのかどうかを試しつつも、マッサージの快楽に身を委ねていた。

 

「…さてと、リーダー。その子は誰?」

「…にゅ…?あ、この子の名前は…」

 

ハヅキ…と説明しようとした時に、隣に居たハヅキが一歩踏み出した。

それを見て私は驚くが…ハヅキはそのまま自己紹介を始める。

 

「わ、私はハヅキと言います!え、えっとその…」

「ああ、虐めてる訳じゃないんだ。唯、あたし達のギルドって優秀で有名だから、少しでも恩恵を預かろうって奴らが多くてね。しかも、このリーダーは悪意にも好意にも鈍感だからさ。あたしらがしっかりしないと…ってね?」

「そう。しかもリーダー、かなりのお人好しだから、困る」

 

その言葉を聞いて私が眉を顰めるのと同時に、ハヅキが小さく首を傾げた。

…毎回言っているが私でも人を疑う事はあるのだ。お人好しではない。

 

「お人好しで困るって…何でですか?」

「例えばさハヅキ、全員が持っている椅子、レイドでしか手に入らない素材を使った椅子って言ったらどう思う?」

 

ハヅキはその言葉にううん…と悩みだした。

そして答えが思いついたのか手をポンっと叩いて笑顔になる。

 

「皆で取りに行ったんですよね!」

「はい残念。正解は徹夜で野良のレイドに突っ込んだり大手のギルドのレイドに入って人数分集めた。でした」

「…え?」

「まぁえ?だよね。だってあの頃椅子に座る事も出来ないのにやったんだよ?しかも全員分」

 

その言葉を聞いて有り得ないといった表情を浮かべてハヅキが私の方を見つめた。

それを見て私はそっぽを向きながらも、ゆっくりと口を窄めながら喋った。

 

「…だって、私一人だけなんて駄目だと思って…」

「…あーのーねー…私はあの時一緒に取りに行けば良いって言ったよね?その時無理を押し通して、全員に二個分プレゼントして私のレストランで死にかけたのは誰さ!」

 

ミントからの追撃に私は思わず口を噤んでしまった。

何か言い訳を考えつつも、私は逃げる手段を考えようとして…

 

「はい。ごめんなさい…」

 

諦めて謝る事にした。

それを見たミントが苦笑するのと同時に、エリナが怒った様な表情で私に話しかけてくる。

 

「しかも自分は機工師だから作れないって言って、魔具工匠の私に泣きながら頼んだのを忘れてませんよね?」

 

だって…しょうがないじゃないか。私の我が儘なんだから皆を巻き込めないし。

でもその分人脈は増えたし皆から感謝はされたし、私は正しい事をした気がする。

うん。

 

「…今、人脈増えたから大丈夫とか思ってません?」

「ぅ…」

「あたし達がその人脈の中から悪い人達を弾き出したのは覚えてないのかねぇ~?」

「あうあう…」

 

ハナとエリナの二人から突かれながら、私は小さく悲鳴を出した。

それを見たハナが小さく溜息を吐きつつ、ゆっくりとハヅキの方を見て微笑む。

 

「…あー…という訳で、もしこんなリーダーと付き合っていくんだったら、こんな事もやらなきゃいけないって事を理解しておいてくれ」

「何がこんなですか!私、このギルドのリーダーなんだよ!?」

「「「「形だけね」」」」

 

花鳥風月の皆が声を揃えて言うのと同時に、私は落ち込んで椅子に全体重を掛ける。

皆私のだらけっぷりを見ていたのか恐る恐る自分の椅子のボタンを付けはじめ、それを見て私は小さく微笑んだ。

…やっぱり魔具工匠を取ってたエリナを誘って正解だった。

 

「…空飛ぶ絨毯とかも試したいねー。私も機工師の時計仕掛けとか、機械仕掛けシリーズを使いたいし」

「それだったら私の部屋に置いてあるの使っておこうか?後で色々作りたい」

「うーん。それだったら私が今作るよ。これから自分の手で作れるかどうか試したいし」

 

そういって席から立ったミントを見つつ、私達はそのままお話をしようとして…ハヅキが立ったまま居る事に気付いた。

 

「ハヅキ、私の所座ってて。お客様用の椅子持って来るから」

「…えっ?」

 

そういって立ち上がり、私は椅子を持って来る為に倉庫に行く。

沢山の産廃品の中から椅子を見つけた私は、椅子を持って元に戻ろうとして…

 

「うん?」

 

とある人間から念話が届いている事に気付き、取りあえず出る為にボタンを押す。

 

「…もしもし?」

「サミダレ。今良い?」

「おお、君はミントに言われて危うくフレンド解除されそうになったシロエ君じゃないか」

「…何で今そのネタだしたの?」

 

さっきまでの何かを秘めた声から、一気に呆れた様な声が聞こえて私は思わず苦笑した。

相変わらず話の腰を折ると乗りやすいな…なんて考えつつ、私はそのままシロエに小さく圧を掛ける為に喋りだす。

 

「さっきまで大事なギルドメンバーとそんな話してたの。それで用事って何?」

「あー…えっと、その大事なギルドメンバーの力を貸してほしくて…」

「…私自身なら良いんだけど、ギルメンはちょっとねぇ…理由とかある?」

 

私は思考を集中させて会話に挑み始める。

もし適当に返事していたら、きっと私は後悔するだろうから。

シロエとの関係は其処まで浅くない、だからと言って緊張を解ける相手ではないのだから

 

「えっと…僕達数日後に狩りを始めようと思って、構成は直継と僕だけだから、ヒーラーを一人欲しいな…って」

「…ヒーラーだけ?私達は今日狩りに出かけたけどPKに襲われたし、フルパの方が良いんじゃないの?」

「そうなんだけどさ…流石にそこまで借りる事出来ないでしょ?」

 

その言葉を聞いて、私は小さく目を瞬かせた。

そのまま回避手段を探しつつ、何時も師匠師匠と言ってくる少年を思い出して紹介する。

 

「ならソウジロウの所は?ソウジロウなら喜んで手を貸しそうだけど」

「あー……ソウジロウの所は心が折れた女子の救助に忙しいから…」

「私も一人そういう子を救助してるんだけど…」

 

お互いに無言になる。

別に私は意地悪をする訳じゃなく、自分のキャパシティーが超えそうだから断っているのだ。

この世界の情報について私が知っている事は無い。そんな状態で油断できる奴が居たら、私はその人を軽蔑するだろう。

 

「…不安なんです。〈エルダー・テイル〉の世界が本当になって、しかも神殿から蘇ったという話も聞いたし…」

「それは分かるよ。賢いシロエなら、最悪のパターンを想定してるのも知ってる。だけどさ」

 

言葉を一度切ってから、私は小さく微笑んだ。

それを聞いたシロエが小さく疑問の声を上げるのを聞きつつも、話を纏める為に喋りだす。

 

「…何ですか?」

「楽しもうよ。折角のゲームの世界(ユウキュウ)だもん。何時も頑張っているご褒美として、何も考えず楽しめば良いんだよ」

「…全世界でそんな考え出来るの、サミダレ含めて二人だけだよ」

 

少し声音が優しくなって、安心した様な声になる。

…折角のゲームの大型アップデートなんだから、楽しまないと損だ。

 

「…さて、何の用事なんだっけ?」

「ご飯が不味い。ミントさん貸して?」

「え、この世界ご飯不味いの?」

「うん、どんなものも湿気った味無し煎餅の味がする」

「…えぇ」

 

それは確かに食べたくない。

しかし向こう側から聞こえるのはそんな阿鼻叫喚の悲鳴ではなくおいしいと舌鼓を打っている少女達の声だ。

 

「あー、うん。私のミントは料理が美味しくなる魔法を持ってるらしい」

「え、普通に今行きたいんだけど」

「直継いるじゃん。一人で食べに行くの?」

「あー…連れて行く」

「ほい。わかった」

 

急いで念話を切ったシロエに対して笑いつつ、私は椅子を持ってリビングに向かって歩きだした。

本物の御客様用の椅子を二つ持ってくるのを見て、ミントが更に料理を作り始めた。

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