ログ・ホライズン-『現実の生産者』 作:サブ職業:小説家 lv.1
「…お邪魔します」
「お邪魔する祭り!」
二人がやってくるのを見て、私は小さく顔を戻しながら微笑んだ。
それを見たミントが小さく呆れた様な表情を浮かべるのと同時に、ゆっくりとキッチンへ戻っていく。
それを見て小さく苦笑したエリナを見ながらも、私はハヅキの質問に答える。
「あ、この二人って、さっき話題になった人達ですか?」
「そうそう。ミント、二人来たから料理追加してー」
「はーい!」
手作業で料理を作っていた彼女が、嬉しそうに返事をする。
…現実でも料理作ってたのに、まだ作り足りないんだな…なんて思いつつ、私も細かい作業をして腕を鈍らせたくないなと技師の面からも考えてしまう。
「…シロ、本当に味がするのか?」
「嫌なら食べるな。私達の分が減る」
「そうですよ。リーダーが美味しそうに食べてる姿が観察できたのに、男が来た所為で余所行きの顔になっているんだから」
「…え、そんな顔になってる?」
「「「「なってる!」」」」
花鳥風月の重なった声を聴いて思わず苦笑したシロエを見ながら、私は小さく溜め息を吐いた。
「あはは…皆元気だね。…そう言えば他の人は?」
「『サモナーガーデン』の人達は夜食を持って外に出てます。皆召喚した子達に会いたいって」
「…相変わらずの愛」
「だねぇ…後は…ススキノに居るんだっけ」
その言葉と同時に二人の姉妹を思い出し、少しだけ溜め息を吐く。
出来るなら回収しておきたいが…今ススキノに行く意味もないし、向こう側からの返事を待つしかない。
「そうですね。向こうに居るメンバーからすると、糞治安が悪いらしいですが、サブハウスありますし、大丈夫でしょう」
情報共有しているミントに対して優しく撫でつつ、私はご飯を食べ始める。
私達の椅子をジロジロと見ている二人に対してジッと見つめ返すと、焦った様にシロエが口を開いた。
「い、いや。噂は本当だったんだなって。レイド専用素材から作る、“高性能魔法チェア”がこんなに沢山あるなんて…」
「…リーダーの無茶振りの所為で、ジャグジーバスに高級ベッド、果ての果てには前アップデートまで最高性能を誇っていた作業台までありますよ」
「今の世の中、何があるか分からないからねぇ。備えあれば…」
「憂いなしですか?作業台以外殆ど私が作ったんですけど?」
エリナが立ち上がって、私の頬をビヨーンと伸ばす。
私はその行為に対して頬を緩ませながらも、シロエに対して微笑んだ。
「まぁ、シロエ達もギルド作ったら頼みに来てよ。適正価格よりちょい上で売るから」
「それは酷いぜ祭り…」
「私達は生産最先端だったから良いの。寧ろ安いくらいだよ?」
「まぁね。『現実の生産者』の武器と防具なんて、持ってたら一種のステータスになるくらいだったし」
その言葉を聞いて、何人かの人が目を逸らし始めた。
それを見て私は思わず苦笑するが…シロエは何も分からずに首を傾げた。
「…未だにフェーレースの符から離れられない」
「攻撃手段の無い私には、唯一の攻撃手段だからねぇ…」
それを聞いたシロエが分かったのか小さく頷いた後に、ご飯を食べながらエリナに話を聞く。
「そういえばエリナさん。スキルの構成ってどんな感じなんですか…?」
「あー。私は友人とやるのが確定してたからね。大体は~…」
「私よりも支援よりですね。ソロでやってる時はどうしてたんですか?」
その言葉を聞いてエリナの顔が目を逸らした。
…そしてゆっくりと目を濁らせて小さく呟き始める。
「符術師に頼んで攻撃力強化してぶん殴りだったなぁ…そうでなくても風当たりが強くて…リーダーにギルド誘われるまでが一番つらくて…」
「分かりますその気持ち。大体あいつら、支援も受けた事ないのに必要ないとか色々言いたい放題で…」
「…ああ、シロの付与術師話が始まった祭り…」
「ああ、エリナの愚痴が始まった」
私達がお互いに顔を見合わせて苦笑する。
その様子を見ていたハヅキが、自分の椅子から立ち上がって、私の椅子に座った。
その様子を見たミントが、頬を膨らませながら皿を持ってきた。
「二人共どうしたの?」
「…何でもありません」「何でもない!」
「おお?愛されてるんだなぁ」
「…っ!」
ニコニコ顔の直継の言葉を聞いて、ハヅキの頬が赤く染まった。
私がため息を吐くのを見た直継が小さく首を傾げるのを見て、私はもう一度ため息を吐いてから直継に喋りだした。
「あのね…この子大災害入って泣いてた子なの。私みたいに冗談が通じる訳じゃないんだから、止めてあげなさい」
「…こいつ、こういう所だけはシロそっくりなんだよなぁ…」
直継が頭を抱えている姿を見て、私は首を傾げる。
とりあえずハヅキの頭を撫でていると、何かに苛ついているミントが笑ったままシロエに対して喋り始めた。
「あ、そう言えばシロエ。にゃん太から電話があって、情報交換したら彼ススキノに居るんだって。ご飯欲しいのなら会いに行けば?」
「直継!準備してすぐ行こう!」
「待て待て!準備も何も戦闘経験も連携も何も無いだろ!取り敢えず戦闘に出る事は必須だぜ?」
「…う…」
やっぱりご飯は生きる糧なんだなぁ…なんて思いつつも、私はハヅキが寝る部屋をどうするか考えていた。
このハウスは結構広いから寝る部屋はあるけど…どうしようかな。
「…いやぁ、この家に居たら宿屋なんて泊まりたくなくなるね。直継」
「そうだな!もしこの家に慣れたらその代償として泊まらせてくれ祭り!」
「うーん。子供の教育に悪い人達はちょっと…」
「流石に女子の前では言わないって…」
「慣れって怖いんだよ?」
「女子の前で言わないのも慣れとるわ!」
直継をからかいつつも、私はまたエリナと付与術師談義しているシロエに対して話しかける。
…この情報をどうするかだ。
「さてシロエ。この情報どうする?」
「…そうだね。流石に“今の”僕達には手に余るし…幾ら払って欲しい?」
「家賃三か月分」
「…高いのか低いのか分からねぇ祭り」
その言葉を聞いて、私は少しだけ手を止めて考え始めた。
それを見たシロエが少しだけ呆れた様な表情を浮かべるのを見て…私は小さく微笑む。
「まぁ、ざっと40000位?」
「…それだったら」
「合計120000だね」
「…ごめん、ギルド会館で金持ってきてからで良い?」
それを聞いて二人が小さく頬を引き攣らせるのを見て、私は小さく微笑みながら二人に提案をしだした。
「直継を…ああいや、直継置いて行かれても困るし、かわりに直継が貯金から出して来て?」
「ちょ!なんでだよ!」
「直継ならシロエを見捨て無さそうじゃん?」
「それシロエが俺を見捨てるって言ってるよな?!」
「…直継、お金は怖いんだよ」
しっかり払うよ!なんて言ってくるシロエを無視しつつ、私は直継を追い出した。
…トボトボと歩いて行く様な足音を聞いて、私はメンバーに幾つか指示をしてからシロエに交渉をする。
「…さて、さっきまでは表向きの取引。こっからは裏の取引と行こうじゃないかシロエ君?」
「…まぁ、サミダレが金貨程度で納得する訳無いよね。僕達の貯金合わせてもそっちの方が金有るし」
「まぁ、最近は余ってたぐらいだからねぇ…さてこのアキバ、買えるとしたらどう思う?」
その言葉を噛み砕いて、一つ一つの意味を考えるシロエを見つめる。
…つまりまぁ、私達が本気を出せばアキバ買える位の金は溜まるけどどうするという意味だ。
「不味いと思う。アキバ自体を買えたらそれは…」
「そう、一つのギルドがこの街を独占出来る。しかもゾーン設定で入れない様にも出来る」
「…それを話した訳は?」
シロエからの言葉を聞いて、私は人差し指を立ててから喋りだす。
「この状況を打破する事。私の予想では、この荒れた状態を続ければ何れそう言う状況が起こる気がする。そうでなくても…ミナミではもう大神殿が買われているらしいし」
とある情報源から聞いた情報を流すのを見て、シロエは驚いた様な表情を浮かべながら小さく何かを考え始める。
「…大神殿を買う!?それはつまり…」
「生殺与奪の権利がそいつらの思うがままって訳。まぁ、そんな金は私達とD.D.Dの全員の総資産かき集める程度にしかないんだけどさ」
「…これから、それが起きる可能性がある…と?」
シロエの言葉に対して私は頷く。
そして直継が帰って来た音を聞いて、私は頬を緩ませた。
「お帰り直継、歩いている時に初心者って居た?もっと簡単に言うと30レベル以下の」
「んー…?そういや居なかったな。シロはどうだ…?」
「30…金貨…商売…?何かが足りない様な…」
それを聞いて私はため息を吐き、どうするか迷いだす。
それを見たエリナは少しだけ困った様な表情を浮かべつつ、私の方を見ながら喋りだした。
「…そろそろレベル上げたいですね。流石にレベル90以上の敵に挑むのはきつそうですけど…」
「…ただいまー!ミント、ご飯美味しかったよー!」
「お帰りなさい…って、他の人達はどうしたんですか?」
ミントが態と聞くように情報を引き出してくれる。
帰ってきてすぐの彼女は、頭を働かすのも面倒なのかボーっとしたまま答える。
「えっとねー。怪しい奴らから良い話があるって言ってたかな。確か…EXPポットの予約がどーとか?」
「へぇー、それは怪しいね。因みにギルド名とかは見た?」
「うん、ハーメルンって名前らしいよ?」
その言葉と共に、シロエが漸く気付いたのか立ち上がってこちらを見つめた。
突然立ち上がった事でハヅキがビックリして私に抱きついてくれた。
…可愛い。
「…っ!サミダレはそこまで知ってたの?」
「まぁ、知らないけど推測は立ててたかな。自分達に余裕が無い癖に“初心者救済”なんて掲げているギルド、信用ならないでしょ?…それに」
「…それに?」
私はじっとシロエを見て…溜息を吐く。
この人はなんでこんなに、好意を向けている人に対して鈍感なんだろうと思いながら。
「…ま、気に掛けてた初心者の姉妹が、突然怪しい人達に話しかけられる所を見たら、疑わずにはいられないよね。しかも、他にも話しかけているけど全員
「…っ!」
私は彼の姿を見て、発破をかける事に成功出来たのが分かった。
…なら、後は背中を押して歩ませるだけだ。
「ま、そんなこんなで。あんな外道に偉そうにされるよりは、頼れる参謀にトップを操って貰いたい訳でして。…どう?私の
「…分かりました。唯、協力はしてくださいね」
「ま、書類仕事以外だったら任せてよ。書類仕事はお断りだけど」
「善処します」
そういったシロエと、次いでに直継を追い出して、ゆっくりとご飯を食べ始める。
…絶対にあの眼、私を巻き込むとか考えている眼だった…なんて思いつつも、私は自分の身体を抱きしめているハヅキに対して、風呂に入りなさいと普通に叱った。