魔女を愛した少年   作:銀紬

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はいはい、どうもどうもー。
今回は予告通りキュゥべぇとの遭遇時の回想です。

若干ネタ回気味かもしれませんね。
その一環としてさらっとコネクトの歌詞をどこかに埋めていたりしますが、気付く人は果たして居るかどうか。
ともあれ、それではどうぞ!


遭遇

―――――――――――――――――――

それは一週間ほど前のことであった。

 

 

 

 

「……はぁ……っ……そんな、あんなの……嘘……」

 

少女の目には、未だかつてない絶望の色があった。

 

周囲には沢山の「何か」が蠢いている。

 

人のようなカタチをしていて、それでいて全く生気を感じないそれらの中には、

演奏を続けるものも居れば、ただ踊るだけのものも居た。

 

それらは何時しか周囲を巨大なコンサートホールへと変貌させている。

演奏会はすでに幕を開けていたのだ。

 

 

客席に一人佇む「人魚」へ向けた演奏会が。

 

 

「どうやら、信じられないといった様子だね」

「……! どうしてっ……! あの子は、確かに―――!」

「確かに、君の言う少女の願いは叶えられたのだろう。君がいつも話している概念の話も、筋の通った話だ」

「なら、どうして……!」

 

少女はいつの間にか傍にいた白い生物に、自らの疑念の全てをぶつける。

しかしその返事は少女が望むものではなかった。

 

「さあ、僕にも分からないよ。そもそもこんな生命体を観測するインキュベーターは僕が初めてだろう。

ただ、これが本当に君の言う「魔女」であるのならば」

「希望の対称たる「絶望」の象徴であるならば」

「その絶望の度合いによっては、希望に打ち勝ってもおかしな話ではないかもしれないね」

「そん…………な……」

「まぁ、未知の生命体に対して僕が出来るのは、この生命体が一体どのような過程で生まれたのか、などといった仮説を立て、長い時間を経て確証を得ることくらいだ。

もしも絶望を振りまく魔獣に代わってこの魔女が現れたというのならば、

それをどうにかするのは君たち魔法少女の……聞いているかい?」

 

インキュベーターと名乗る白い生物の言葉は、少女の絶望の許容量を軽くオーバーさせるだけの威力があった。

少女は膝をついたまま意識を失っていた。

 

「なるほど、これがいわゆる「絶望」というものなのかな。

感情を持たない僕たちにとっては実に興味深い……

このまま放っておいてもいいけれど、君に消えてもらうのはまだ早い。聞きたい話もあるからね」

「それじゃあ、きゅっぷい」

 

インキュベーターが言葉を発し終えると、やがて空間は崩れ落ち始める。

 

知ったことかとばかりに演奏は続くが、崩壊が終わるとともに聴覚に訴えるものはなくなった。

 

―――

 

「それでですね、あの教授は私にこう言ったんですよー。……」

「ははは、でもその通りだと僕は思うなあ」

「全く、上条君まで……」

「あぁ、そういうつもりで言ったんじゃなくって……」

 

上条と志筑はこの日、見滝原大付近のカフェに立ち寄っていた。

何かと美味なコーヒーを手ごろな値段で飲めることもあり、学生客に限らず幅広い層の客が訪れる人気カフェテリアであった。

 

「さて、そろそろ時間だから僕は行くね。支払いはしておいたから」

「あら、ありがとうございます。恩に着ますわ」

「それ程でもないさ、それじゃあ、また明日」

 

カフェを出た上条に、初夏の太陽がさんさんと照り付けてくる。

上条はあまり見滝原の夏の暑さは好きではなかった。特に理由はないため、単に暑いのが嫌いなだけかもしれない。

 

今年の夏も例年に増して気温が上がるのだろうかなどと考えつつ歩いていると、上条はふとビルとビルに挟まれた小道に気付いた。

 

―こんな道あっただろうか?

 

十代のうち数ヶ月ほどは確かに病院暮らしではあったが、それを圧倒する位の期間でこの街を歩いてきていたが、見覚えのない道であった。

 

しかし一方でまだ見知らぬ道があったことに好奇心を覚えた上条は、その道がビルの陰に覆われていることもあってかたまには涼みながら帰ってみてもいいかもしれない、そう思いふらりと小道に入っていったのだった。

 

 

「うん、思った通り涼しい…今度からこの道を通って行こうかな」

 

その道は「そういう道」にありがちなペイントなどもなく、決して治安の悪い道ではないようであった。

最も、ところどころにビルへの入り口があることからそういうことをしたところで目撃者は多いのかもしれない。

 

上条が異変に気付いたのは、そこを暫く歩いてからである。

 

道が何時まで経っても終わらないのだ。

 

ビルの見かけ的にとうに道を抜けてもおかしくないはずだったのだが、むしろ影は増していくばかり。

気付けば元の道に差していた陽光も殆ど目に入らなくなってしまう。

 

「おかしいなぁ……」

 

そう呟きながら歩いていると、どこからかかすかな音が聞こえてくる。

初めは殆ど聞こえなかったが、道を進むにつれその音はより鮮明に耳に入る。

 

 

―どうやら、誰かが何らかの演奏をしているみたいだ。

それも一人ではない、何人もかき集めてのオーケストラ。

 

歩みを進めれば進めるほど、その演奏はより勢いを増していく。しかしそれだけではない。

 

一歩進めるたびにその演奏は美しいものへと変化していく。

 

その道のプロと言っても差し支えの無い上条からしても一級品と呼べる演奏であった。

 

多くの曲を聴いてきたが、このような曲は前例がなかった。

 

 

 

―……なんと悲しい、そして美しい曲なのだろう。

 

 

率直な感想であった。

 

ループしているのか、流れてくるのは同じ曲ばかり。

 

おどろおどろしさと悲哀を含んだイントロ、そして自らのアイデンティティと言ってもよいヴァイオリンのソロパート。

殆どコレの繰り返しのようなものであった。

 

しかしそのループすらも愛おしくなるような演奏。

 

まるで、自分へ宛てた曲であるかのような、そんな錯覚を覚えるような演奏でもあった。

 

余りに美しすぎたその演奏は、上条の一人の音楽家としての好奇心を埋めるに値しうる演奏であった。

 

そして、その両脚は音源へと向かう。

 

一歩ずつ、一歩ずつ。

 

 

まるで、彷徨う者が何かに引き寄せられるように――――

 

 

 

 

 

 

 

 

辿り着くことは、なかった。

 

 

 

 

突如演奏は止み、上条は自分がすでにビルとビルの間の道を抜けていることに気が付いた。

 

 

「……いつの間に?」

 

確かにあの演奏はそこにあった。もう少しで手が届くほどの距離に。

 

しかし、気付けばヴァイオリンの音一つ聞こえない。

聞こえるのは、少し気の早い蝉の鳴き声、そして。

 

どさり、と物音がした。

 

上条は物音の主に目をやる。するとそこには、倒れ込んでいる黒髪の少女の姿があった。

 

「! 君、大丈夫か?」

「……」

 

返事はなかった。

心なしか頭の辺りが揺れているような気もしたが、非常に長い黒髪であったため、単に髪が風になびいているだけなのだろう。

そう思い、特に気にしないこととした。

 

「…………うーん……どうしたものかな。熱は……ないみたいだし。

病院に連れていくべきかもしれないけど……ん?」

 

上条は、少女のすぐそばにリボンを見つけた。

色は赤く、見てくれはいたって平凡なリボンであった。

 

「この子のかな……?」

 

その場で体を屈ませ、リボンに手を伸ばす。

そしてリボンに手が触れた、その時である。

 

 

「ほむら、目を覚ましておくれよ。ほむら」

 

上条の目の前に、突如少女の頭を揺り動かす白い小動物が目に入ったのであった。

 

 

 

「!?」

 

突然の出現に一瞬声にならない叫びをあげる上条。

 

白い小動物はそれに気付いたようだ。

 

「……もしかして、君は僕が見えるのかい?」

 

暑さにやられて幻覚でも見ているのだろうか?

 

そう思い、手持ちの水筒の茶で喉を潤してみる。

 

しかし、小動物の姿が視界から消えることは無かった。

 

「……君はいったい何者なんだ?」

「そんなの僕が聞きたいぐらいだよ。君のような人間で僕が見える前例は殆どない。

イレギュラーと言ってしまってもいい……

けれど、今はとりあえずこの子を起こすのに協力してくれないかい? 一向に目を覚まさないんだ」

「あ、それもそうだね……とりあえず、近くに公園があったはずだからそこにこの子を運ぶよ」

「わかった」

 

よいしょ、と少女を背負う上条。

気を失っている人間というものは通常よりも重く感じるもので、日ごろそこまで運動をするわけではない上条には若干荷が重くはあった。

 

しかし、そんな中でも小柄でか弱そうなその見た目に反して、その体は少女のものとは思えないほど引き締まっているように思えた。

一方で背中に当たる感触も世間一般的な少女のものと比較すると柔らかさは少ないようにも思えたが、

そちらの方は心の奥底にしまっておくことにした。

 

「ところで今、君が人間で言う「変なこと」を考えていたように思えたのは僕だけかな?」

「……気のせいだよ。後僕の名前は上条恭介。君の名前は?」

「気のせいだったか。やっぱり感情というものは分からないね。

それはそうと、僕の名前はキュゥべぇ。こう呼んでもらって構わないよ」

「そうか、宜しく」

 

―――――

 

「…………ん、んん……」

「あ、気が付いたみたいだね」

「……貴方、は」

「あ、動かないで。まだ体に障るかもしれないから。

もうそろそろキュゥべぇが飲み物を買ってくるから」

「! 貴方、キュゥべぇが見えるの?」

「あぁ、何故なのは分からないけど。キュゥべぇも前例がないことだって言っていたよ。イレギュラーだって」

「……」

 

ここまで話すと、少女は黙ってしまった。

何か気に障ることを言っただろうか。

 

「えっと……僕の名前は上条恭介。君は?」

「! ……暁美ほむら」

 

暁美は何かに気付いたかのような素振りをするが、やがて平静を取り戻した。

上条も特に気にしてはいなかった。

 

「暁美さん、だね」

「ほむらでいいわ」

「うーん……でも初対面の女の子に下の名前で呼ぶのはちょっと……」

「……貴方、意外とヘタレっていう奴なのね」

「それは言わないでくれよ。それより、なんであんなところで倒れていたんだ?」

「それは……」

 

少女が言いかけると、キュゥべぇが袋を引きずりながら此方にやってきた。

 

「よいしょ……っと。テケリ・スウェットにブロリーメイト、君に言われた通りのものを持ってきたよ」

「ご苦労さん、キュゥべぇ」

 

自らの代わりに持ってきたキュゥべぇを労ってやる。

 

「さ、暁美さん。これを」

「……頂くわ」

「ここ最近暑いだろ? 日射病かもしれないし、水分は取っておいた方が良いよ」

 

手渡されたテケリ・スウェットを静かに口に入れる暁美。

志筑との付き合いでこうした光景は見慣れていたのだが、見知らぬ少女、それもかなりの美少女がそれをやる光景は思わず魅入るものがあった。

ある程度飲んだ後にブロリーメイトを咥えていたが、それもまた妙に扇情的な光景であった。

 

「……私の顔に何かついているかしら?」

「あっ、ごめん……」

 

いつの間にか顔を見つめていていたようだ。

その事実に気づき若干顔を赤らめつつそっぽを向く恭介。

 

「もっと別のことを考えているみたいだね、恭介は」

「へ、変なこと言わないでくれよキュゥべぇ」

「……あなたが人を茶化すだなんて、どういう風の吹き回し?」

「特にそういうつもりで言ったのではないのだけどね」

「そう、まぁいいわ……それより、上条君」

「恭介でいいよ」

「……」

「……」

「君たちはいつもそうだね。異性の名前を下で呼ぶことに抵抗を持つ。訳が分からないよ」

「「お前は黙ってろ(なさい)」」

「そうかい……恭介にはいろいろと聞きたいことがあるけど、それならば今日はもう退散するとしよう。

また会おう、暁美ほむら、そして上条恭介」

 

そう言うと、キュゥべぇは草むらに消えたのを最後に姿を消した。

 

「……なかなか変わっているんだね、キュゥべぇって」

「変わっているどころじゃないわ。ただ変わっているだけの奴ならどれ程マシだったか……。 それより上条君、貴方はキュゥべぇが見えるのよね?」

「そうだけど、それがどうかしたかい?」

「そう……なら、また会うこともあるでしょうから、今日はもう行くわ」

「もう大丈夫なのかい?」

「えぇ。心配する必要はないわ。それじゃあ」

 

そういうと、暁美もまたどこかへ消えてしまった。

 

 

「……今日は僕も帰るとしよう」

 

そうしてその日上条は帰路についたのであった。

 




はい、いかがだったでしょうか。
意外と執筆に時間はかかりましたが、回想はこんなところです。


……3話目の時点でもまだ全体の5分の1にも達してません。春休みまでに完結させたいけど、10話以内に終わらせるのは無理そうです。はい。

まぁ気長に待っていてやってください。

それでは次回、サブタイトルは「ジュゥべぇキュゥべぇオクの船」です。
嘘です。銀紬は何も考えていません。
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