アナザー・シャングリラ(って呼ばれるようになりたい) 作:マクバ
楽郎が玲氏に惚れてしまったらif
今の俺の心境を一言で表すとこうなるだろう。
マジで不味い。
確かに彼女は同じ学校の人間の中では一、二を争う美人だ。そんな彼女とはココ最近かなりの時間を共にしている。現実ではなくゲームでだが……いや現実でも登下校はよく一緒にしているし。そのせいだろう。俺は、彼女に…………こう……惚れてしまった。
話してて時々読み込みが入ったように固まるのも、急に早口になったりだとか、ちょくちょく噛んだりする所とか一々可愛いのだ。もちろん彼女が育ちのいいお嬢様で俺とは釣り合わないのは知っている。それに彼女はとんでもない廃人だ。そういうギャップも好きなのだ。ただリアルで恋人なんて作る気はさらさらないだろう。俺もそうだったし。ゲームが楽しい間は他のリアルのことはある程度疎かになるものだ。
「という訳でどうしたらいいっすかねぇ? 岩巻さん」
俺は内心を吐露して岩巻さんの方を見る。彼女の顔は肉食獣が獲物を見つけた時のような満面の笑みだった。これは……早まったか? 何となく俺はそう思った。
「楽郎君、貴方ねぇ」
そこまで言って岩巻さんは1度言葉を切って俺に視線をやる。
「もっと早くいいなさいよね。貴方にクソゲー脳以外がインストールされてるなんて!!」
「えー、…………早くって……俺かなり速攻で相談しに来たんですけど……」
俺がそう言うと岩巻さんは顎に手をやりブツブツと何かを言い始めた。何を言っているかは聞き取れないが、先程の発言と関連はあるはず……
「まぁそれはいいわ。なら簡単よ。玲ちゃんをデートに誘いなさい。連絡先は持ってるんでしょ?」
「え? いや持ってはいますけど、いきなりデートに行ったりとかはハードル高いから、相談しに来てるんスけど」
旅狼のSNSもあるし、学校のクラスのSNSもあるしで斎賀氏の連絡先自体は持っている。だがそんなんが出来るのはギャルゲーの世界だけだ。なおクソゲーの世界では、学校で会話をした時に選択をミスしただけでヒロインがイタリアに飛ぶこともある。
「高くないわよ。この日空いてる? おっけー。なら何時に駅集合で。これで終わりよ」
「それはOKが貰える前提の話では?」
ただでさえ斎賀氏は良家の子女だ。習い事なんかもたくさんあるだろう。その上でゲーム廃人ときている。俺なんかと出かける時間を割いてくれるだろうか? いや、シャンフロの中なら有り得るか?
「だからとりあえずシャンフロ内で遊ぼうかなと」
シャンフロの中なら廃人の斎賀氏でもOKしてくれるのではないだろうか? 現に何度か一緒にパーティーを組んでいたわけだし。という俺の名案は岩巻さんの
「何言ってるの。リアルでよ。リ ア ル で !」
との言葉により却下された。さらにそのまま
「今ここでお誘いの連絡しなさい。その調子じゃ1人だと一生出来なさそうよ。大体2人で遊びに行く以外にどうやって距離詰めるのよ」
「まぁ確かにそれもそうッスね。分かりました。今誘います」
「日付は今度の土日にしなさい。どっちか空いてる方で遊びに行こう、って遊びに行くのは決定事項にした上で日付だけ聞きなさい。脈アリならこっちの曜日って返事が来るわ。用事があるって言われたらいつ空いてるか聞き返しなさい。脈があるならこの日ならって言われるわ」
岩巻さんに言われるがまま今日お誘いの連絡をすることを決意する。地味に高等テクニックを教わっている気がするが、それって脈がなかったらこれから入院の予定が……とでも言われるんですかねぇ。そんなの言われたら俺もう立ち直れないんだけど。
サンラク:斎賀さん。急に連絡してごめん。今週の土日どっちか空いてない? 良かったら一緒に遊びに行けたらいいなって思って。
サイガ-0:ひ、陽務君……えっ、えっとー……お誘いありがとうございます!! ど、土曜日なら空いてます!!
送ってから結構早くに返信が来た。それも了承の返事だ!
「岩巻さんOKってきました」
「だから言ったでしょう。まぁ場所は無難に近場にしときなさい。近くのショッピングモールとかが丁度いいと思うわ」
俺は完全に岩巻さんの意見を盲信するマシーンと化していた。確かにいきなりちょっと離れた場所まで行ってテーマパークに、とかよりは近場の方がいいか。
サンラク:ならさ近くのショッピングモールに行かない? 映画館とかあるくらいには広いし。良かったらでいいんだけど。
サイガ-0:ショッ……ショッピングモール!? え、映画館……是非っ!
サンラク:それじゃ10時に○○駅で大丈夫?
サイガ-0:……ひゃい! 大丈夫れす!
サンラク:それじゃあよろしくね
サイガ-0:こ、こちらこそ! よ、よろしくお願いいたします!!
「どうだった?」
連絡が一通り済み、顔を端末から上げると岩巻さんがそう聞いてきた。
「一応、土曜日の10時に○○駅に集まる感じっス」
俺がそう言うと、ウンウンと頷き、
「なら当日のプランもちゃんと考えておきなさい。アドリブで出来るほど経験値ないでしょ?」
「……そりゃそうっスね。まぁ映画見て、その後は適当に雑貨屋回ったりとか? 後はゲーセンとかっスかね」
俺がモールで遊べそうな場所を幾つかあげると岩巻さんは
「なら見たい映画の上映時間は把握しておきなさい。それを軸にコースを決めるの。ゲームセンターより雑貨屋の方が時間の調整がしやすいわ」
「なるほど。そこら辺も込みで考えておきます」
「あと、映画は恋愛モノにしておきなさい。間違ってもホラーとかいったらダメよ」
この後も幾つかアドバイスを貰ってから俺はロックロールを出た。
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その日の夜
『い、岩巻さん!! ……わ、わたし……どうしたら!?』
『玲ちゃん! よく聞きなさい』
『……ひゃい』
『この展開は乙女ゲーで言えば、かなり後半のシチュエーションよ。好きです、って一言いえば勝ちよ!』
『……そんなっ!? ご無体な!?』
『まぁそれが出来るとは思ってないわ。でも楽郎君から誘ってきたってことはかなり意識されてるわ』
『……そ、そうなんでしょうか!? た、たまたま私しか都合が良い人間がいなかったとか…………』
『そんな訳ないでしょ。楽郎君そういうタイプじゃないのは知ってるでしょ』
『……そ、それは…………もちろん』
『なら安心してデートに行ってきなさい』
『デッ! デート!? デ、デ、デートってあのだ、男女がふ、ふ、2人で遊ぶあの!?』
『それ以外このシチュエーション何て言うのよ』
『……あ、あうぅ…………』
両想いとは言わなかった。言ってしまえばそれでゴールインするだろうが、言わなくても無事にゴールするだろうと思ったからだ。ならば言わずに両者の心境をリアルタイムで聞ける立場を活かして存分に味わいたい、そう考えるのも無理のないことだと思うのだ。
閲覧ありがとうございました。私が別に書いた鉛筆ifとデートコース一緒なのは触れないでください。遠出しないって考えたら近場のショッピングモールになるのは必然だから!!仕方ないことだから!
小説の話の順番
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投稿順(古いのが上、新しいのが下)
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シリーズ別(カップリングとか前後編とか)