アナザー・シャングリラ(って呼ばれるようになりたい)   作:マクバ

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遅くなったけど3周年記念。長い割に中身はない。
あとキャラが崩壊してる←いつも通り


Hot Warehouse

「暑いな」

 

 倉庫に閉じ込められて大体20分程度たったか? 

 体育の授業終わりに用具の片付けを頼まれて片しに行ってたら何故か扉を閉められた。 体操服だから当然スマホなんて持ってないから連絡もできない。

 

「そ、そそ、そうですね。窓も閉まってますし」

 

 何故か玲さんもいるという事だ。同じように授業終わりに頼まれたらしい。2人も中に人がいるのに気付かずに鍵をかける教師がいるとか信じられん。

 しかし体操服の女子と倉庫に閉じ込められている。最早エロゲーの状況である。

 いや、勿論エロゲーのような展開にする気はないんだけど。玲さんの言う通り窓は高い位置に小さな窓がついてはいる開けたところで1人ギリギリ通れるかどうかといったところだが。

 

「とりあえずどうにかして出ないと。次の時間って体育の授業あったっけ?」

 

 俺は極力玲さんの方を見ないで聞く。理由? この暑さ、体育終わり、白い体操服、これだけいえば伝わるだろう。

 

「お昼休みが終わった後はなかったと思います」

 

「そっか今昼休みなのか」

 

 え、待って。放課後に体育館部活のヤツらが開けるまでこのまま? てか開けて俺らが居たらどんなリアクションされるんだっ!? 

 

「これ出ないと不味くね?」

 

 一緒に玲さんと登下校しただけで吊るしあげようとする奴らだぞ? 倉庫に一緒に閉じ込められたなんて話しが出たら、俺は屋上から紐なしバンジーの刑に処されかねない。何としてでも出なければ。教師に見つかるのはいい。生徒に見つかる前に脱出するのだっ! 

 大丈夫。あの毎回アイテムがランダム生成されるとかいうクソ仕様の脱出ゲームよりはましだ。なんだよ、アイテム見つけられるところを全部探しても鍵がなくて結局、バールで床を剥がしてそこに隠されてる爆弾で扉を爆破して脱出するって、ハリウッドのB級映画かよみたいな脱出方法ばかりになるとかいうシステム。一応詰まないようにはなってるらしいけど、ランダム性が異次元すぎてルートが見つけられず、阿鼻叫喚のレビューが垂れ流しになってたなぁ。

 

 いやいやいや現実逃避している場合じゃない。とりあえずあの高い窓をこじ開けるしかない。最悪割ればなんとか出れるだろう。

 

「あ、あの〜。ら、楽郎君?」

 

「あ、あぁ悪い。とにかくここから出な……」

 

 現実逃避の思考に耽ってた所に急に声をかけられたから、俺は玲さんの方を見てしまった。薄暗い倉庫とはいえそれなりに近くにいたために俺は直視してしまった。

 

「ピンク」

 

「え? …………ふへぇ!?」

 

 あ、これは死んだ。社会的にも、もしかしたら物理的にも。

 

 ──────────────────────ー

 斉賀玲はいま

 

(な、なんでいま千姉さんの既成事実ってこ、言葉が頭ににっ!?)

 

 非常に切羽詰まっていた。表面上は楽郎と普通に会話(だいぶキョドっているけどそれは普段通り)をしてはいるが、頭の中は暑さのせいもあってかグルグルと既成事実、押し倒す、斉賀の女は恋愛下手今が好機と自らの姉の囁きが響き続けていた。そんな時である。楽郎から

 

「ピンク」

 

 と言われたのは、その時すぐには玲の頭にはピンとこなかった。ただ楽郎の視線が自分の顔より少し下に向いたのに気づいてしまった。

 

「え? …………ふへぇ!?」

 

 気づいた途端に普段の3割増で顔が熱くなる。暑さのせいだけじゃないのは明白だった。なんで体育の日にそんな色の着けて着たんだろうとまず思い。そして先程まで脳裏に過ぎっていた姉の言葉が音量を上げて脳内でリピートし続ける。

 思考がほぼぶっ飛んだまま、脳内で響く姉の、今です、という声かあるいは自らの本能に従って玲は行動した。

 

 ──────────────────────

 

 不意に出る失言ほど危ないものはないと身をもって体感している。俺の言葉に最初は疑問しかでなかった玲さんだが、気づいた途端にリンゴのように真っ赤に顔を染めた。俺はそういえば玲さんに古武術みたいなのやってたんだっけ? と思考を回しながらも玲さんから目を背けられずにいた。

 

「うおっ!?」

 

 目を背けずにいたはずなのに反応できなかった。リアルスペックが違いすぎる。気づいたら天井の方を向いていた。背中に伝わる感触的にこれはマットか? 

 天井と玲さんが視界に写り込む。が体は微塵も動かない。俺は手足を完璧に封じ込められたが、玲さん手が俺の手を押さえ込んでいるため必然的に俺と、玲さんの距離は近くなる。

 

「れ、玲さん!?」

 

 俺の呼びかけに玲さんは反応しない。目がなんか俺を見てるようで見てない。これはガチで怒らせちゃったやつ? いやどちらにしても

 

「で、出来ればもう少し離れていただきたいのですが」

 

 シャンプーだろうか? 玲さんからの仄かにくる甘い香りと、体育終わりのお互いの汗の匂いと、体育倉庫独特の匂いが混ざりあってホントに何かやばい。

 しかし玲さんは相変わらず俺の声には反応しない。その体勢のまま全身を重ね合わせるように玲さんは体を前に傾ける。

 

「マジで体が1ミリも動かないんだけど」

 

 体全体に柔らかいか、感触がっ! 

 

「ちょ、ちょっと! 玲さん!? ホントに!」

 

 俺がかなり全力でシャウトしたからか玲さんの動きがピタりと止まった。もうすでにほとんど抱きつかれてるようなもんだけど。

 抱きつかれたおかげか手足の拘束は緩くなったけれども、さっき以上に動きづらい。いやここは打ち勝て! 俺の理性よ! 

 そこから理性がフルに作用して何とか玲さんを上から退かす。

 

 いやもしよ? もし万が一体育倉庫でそのままGOしたら不味いでしょ。確実に放課後には部活の奴らが来る訳ですし。紐なしバンジーで済まない目に合う。というかもう学校に2人とも来れなくなるだろ。

 

「おーい! 玲さん! 大丈夫!?」

 

 お互い座って向かい合う姿勢まで戻して、玲さんの肩を揺する。これが正しいかは分からないがとりあえず、玲さんをフリーズというかバグから復帰させないと。

 なるべく玲さんの首から下を見ないで揺する。理由? いや、透けてるし、揺れてるし。揺れてるってか俺が揺らしてるんだけど。

 

「……ほわぁ!?」

 

「大丈夫? 熱中症とかになってない?」

 

 さっきまでの声の届かなさはヤバかった。熱中症気味なら部活の時間を待つとかしてられないぞ。

 

「……………………だ、大丈夫です」

 

 玲さんは蚊の鳴くような声でそう言ったが、顔はさっきよりさらに赤みがましている。

 

「だ、大丈夫ですっ! ほ、ホントにっ!!」

 

「おーけー。分かった。とりあえず何とか出ようか」

 

 ってもどうするかな。叫んだところで、体育館の入口と反対にあるここからじゃ教師に気づかれる可能性は低いし。

 俺が思案していると

 

「そ、その先程は失礼致しました! で、出来れば忘れて頂けると非常にありがたく」

 

 玲さんがマットの上で土下座していた。

 

「え、あ、いやさっきのは暑さで頭がやられかけたかなんかでしょ。とりあえず早くどうにかして出よう」

 

 忘れられる気はあんまりしないけど。後々気まずくなっても困る。シャンフロ内でも気まずくなったら外道共に間違いなくバレて煽られ続けるからな。多分玲さんポロッと言うだろうし。

 

「え、えーと頭がやられたのは間違いないんですが……」

 

「ならそういうことにしよう。俺的にこの絵面が続く方がやばい」

 

 考えてみ? 同級生の女の子に密室になった体育倉庫のマットの上で土下座させてる男子の図。犯罪だろ。

 

「だから早く頭上げて。出る方法考えようぜ」

 

 玲さんは頭を上げて、それでも申し訳なさそうな表情はしていたけれど、はいと返事をしてくれた。

 

「とりあえず出れるとしたらあの窓だな」

 

 といっても高い位置にある倉庫の中には跳び箱なんかもあるけど2人でこの物が所狭しと置かれている中で、窓の下まで動かすのは無理だろう。

 

「……そ、そうですねっ」

 

 玲さんはさっきのことを気にしてるのか普段より反応が遅い。この状況だから仕方ないか。とにかく早く出ないと。

 

「俺の上に乗って開けれる? 肩車的な感じで」

 

 多分これが現状1番確実なんだけど。玲さんなら多分開けたとこから出られるだろうし。

 

 ──────────────────────ー

 

 玲の心境は一言でいえばやってしまった、これに尽きるだろう。

 理性をかなぐり捨てて襲いかかったようなものだ。楽郎に止められはしたが止めなかったらどこまでいっていたのか。

 

(護身術まで使って押し倒すなんてっ!)

 

 本能がそれほど楽郎を求めていたといえばいいのだろうか。いやそれで済むようなことではない。

 

(あんなに密着……)

 

 言い訳は幾らでも出来るだろう、多少苦しいかもしれないが、熱に浮かされた、さっき楽郎が言っていた熱中症気味だったでも何でも。なので玲は最上位の謝罪をすることにした。

 流石に恥ずかしすぎる自らの心境を全て打ち明けることはできない。故の土下座だったが、楽郎にそれが伝わる訳もなく、頭を上げるように言われ、それに従わざるをえない。ちなみに楽郎には忘れるように言ったが当の本人が忘れることは多分ない。

 

 そして頭を上げた玲はポロポロと言い訳をしながらぼーっと向かい合って座っている楽郎を見ていた。

 

(……汗でシャツが貼り付いてっ)

 

 乙女の思考回路はこんなものである。自分が密着したせいだということには目を瞑ってそんなことを考えていた。

 

(さ、さっき楽郎君も、わ、私のを見てましたし、これでおあいこでは?)

 

 一周回って開き直りかけていた玲の思考は楽郎の一言でさらにグルグルと回り出す。

 

「俺の上に乗ってあけれる? 肩車的な感じで」

 

「うへぇっ!?」

 

「うん。1人じゃ届きそうにないし」

 

(か、肩車!? 私今日で死んじゃうんですか!?)

 

 今まで距離を詰めるのに苦戦してきたのに、急展開の連続である。玲は混乱していた。

 

(なんかここから出なくてもいいような気が……むしろ居た方が)

 

 そこまで考えて玲は、その思考を追い出すように頭をブンブンと振った。

 

「わ、分かりました! 私頑張ります!」

 

 まだ追い出しきれていない、このまま2人っきりでという思考を振り払うために玲はいつもより少し声を張った。それでもこの窓が開かなくてもいいかも同時に思っていた。

 

 ────────────────────────ー

 

 玲さんも出る気十分ってことで頑張るか! あんまり長くここいるとマジで熱中症で2人とも倒れかねないし。いやホントに蒸し暑い。玲さんの方見れないくらいにはもうね色々とヤバいです。

 

 それはひとまず置いといて

 

「玲さん乗れる?」

 

 壁の方を向き窓の下でしゃがみながら訊ねる。ここで無理ですとか言われたら俺正直泣くんだけど。

 

「ひゃ、ひゃい! いきますっ」

 

「そんなパイロット並に気合い入れなくても大丈夫だよ」

 

 しゃがんだ姿勢の俺に負荷がかかる。といっても玲さん重くないから大した負荷じゃないけど。

 

「玲さん軽いね」

 

「ひぇっ!? ありがとうございますっ! ホントに重くないですか?」

 

 ウェイトは全然問題ないんだけど、太ももの感触がヤバい。間違っても口に出すことはないんだけど。あとさっきより匂いを強く感じる。いやこれも口に出すことはないんだけど。

 

「じゃあ立つよ?」

 

「だ、大丈夫です」

 

 玲さんに声をかけてから立ち上がる。玲さんを落としたら不味いと思って玲さんの足を抱えるように持つ。

 

「うへぁ!?」

 

「ご、ごめん。持たない方がよかった?」

 

「い、いえっ! 大丈夫デスっ! そ、その、そのままでっ!」

 

「おっけー。窓は開けられそう?」

 

 耳にかかる柔らかい圧力と、鼻にくる汗の匂いを無視するために口をまわす。話すことに集中しろ俺。

 

「えっと、ちょっと固くて」

 

 どうやら苦戦している様子。上を向いて玲さんの様子を見てみようとする。

 

「あ」

 

 この角度はあかん。玲さんって以外と大きいんだなとか思ってはいけない。もう体操服が意味無いくらい透けてるとかも思ってはいけない。一瞬で視線を壁に戻す。だけど強烈に焼き付いて離れない。

 

「どうしました?」

 

「い、いや何もないよ。ホントに大丈夫」

 

 壁をひたすら見つめながら答える。まずいぞ。もうしばらく玲さんのこと見れないかもしれない。

 

「開けられそう?」

 

「むっ、難しそうです」

 

 どうにも開けられそうにないらしい。仕方ない。待つしかないかな。

 

「わかった。1回下ろすよ?」

 

「い、いや。も、もう少し頑張ってみます」

 

「玲さんがそう言うなら俺は大丈夫だけど」

 

 嘘です。玲さん軽くてこの姿勢を維持することは問題ないんだけど、肩と耳にくる柔らかい感触がヤバいです。

 

「っん〜!」

 

 玲さんが鍵を開けようと力を入れる度に俺の耳と玲さんの太ももが擦れてやばい。それに段々と玲さんの足による締め付けが強くなってる気がする。

 

「れ、玲さん、足締めすぎっ」

 

「あっ、すっ、すみません!!」

 

「大丈夫。とりあえず1回降ろすよ?」

 

 俺は玲さんの返事を聞かずにしゃがんだ。それがいけなかったんだろう。

 

「あわっ!?」

 

 多分鍵を開けようと奮闘して玲さんが急にしゃがまれたせいでバランスを崩したのだろう。俺の頭に玲さんの手が乗る。

 

「す、すみません!」

 

「こっちこそ急にしゃがんでごめんね」

 

 俺の首から上にかかっていた負荷がなくなる。玲さんが無事に降りたらしい。

 

「開きそうにない感じだった?」

 

「はい。その、すみません」

 

「いや玲さんは何も悪くないでしょ」

 

 2人も中にいるのにとっとと閉めた教師が悪い。これは間違いない。しかし男子高校生には目に毒すぎる。この景色は。

 

「そのあんまりそっち見ない方がいいかな」

 

 俺は玲さんに背中を向けて言う。玲さんがどんな反応をしたか判断出来ないけどこの方がベターだろう。

 玲さんから特に反応はない。まぁ反応に困るか。

 

「あとどれくらい待つことになっ!?」

 

 何故か背中に柔らかい感触ががが、それに玲さんの腕が俺の胸に回されてっ!? 

 

「玲さん!? 大丈夫?」

 

「…………だ、大丈夫です。あの、その、ホントに大丈夫なんです。た、ただ、もうしばらくこうしてていですか?」

 

 お互いの汗でベタついた体操服の感触が俺にこれが夢でなく現実であることを物語っていた。

 

「あ、ああ。いいけど」

 

 なんで? とは口にださなかった。理由はなんでもいいだろう。

 会話はなくただ抱きつかれている。背中にさっきと異なる柔らかい感触の奥から聞こえる鼓動と耳にかかる玲さんの吐息の音だけ聞いていた。

 玲さんがいま何を考えているか聞こうとは思わなかった。というかさっきまでと打って変わって話そうという気持ちがなかった。

 無言の空間が心地よく感じる。

 

 どれほど時が立ったのだろうか? 5分? 10分? 1時間? 自分の中の感覚ではそんなに経ってないような気がする。ふと玲さんが背中から離れた。

 

 

「楽郎君」

 

「どうしたの?」

 

 背中を向けたまま応える。

 

「……こ、こっちを向いてください」

 

 俺はなんとなく迷うことなく玲さんの方を向いた。玲さんの顔は相変わらず真っ赤に染まっていて、でも多分俺の顔も同じくらい真っ赤に染まっている気がする。

 

 段々と玲さんが距離を詰めてくる。俺は玲さんの目を吸い込まれるように見つめていた。そして無意識に同じように玲さんの方に距離を詰めていた。

 

「……玲さん」

 

「……楽郎君」

 

 お互いに目を見続けたまま距離が近づいていく。お互いの吐息を顔に感じるくらいまで距離が近づく。

 

 

「お前ら! 大丈夫か!?」

 

 バンッと体育倉庫の扉が開いた。その音に反応して俺と玲さんは弾かれるように距離をとった。

 

「暑すぎてやばいです」

 

「……はい。大丈夫です」

 

 あと5分だけ遅く来ればよかったのに。

 

 とりあえずこのことは誰にも言えないな。玲さんの口元を何となく見つめながらそう思った。

 ただ、玲さんは俺をどう思っているのだろうか? 自分にとっていいように考えてしまうのは、男の都合のいい勘違いかそれとも。




後日岩巻さんにイジられるまでがセット。

体育倉庫の匂いと汗の匂いとが混じった空間に男女二人がいるってエロいよなって妄想だけで書かれております。

小説の話の順番

  • 投稿順(古いのが上、新しいのが下)
  • シリーズ別(カップリングとか前後編とか)

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