アナザー・シャングリラ(って呼ばれるようになりたい) 作:マクバ
Hじゃないよ。R-15くらいかな。うん。
「折角2人とも休みなのに出かけないのー?」
「んじゃシャンフロやるか?」
「仮想現実の気分じゃないんだよなぁ。乙女心分かってる?」
「わかってるよ。じゃあさ降りてくんね? 準備できないんですけど」
俺の大学入学を機に同棲を始めて、初めての2人ともオフな日。人生のモラトリアムを満喫してる俺はともかく、多忙な永遠も土日にオフがくるなんてのはかなり珍しい。
マスコミの目だけ気にしなきゃいけないが、外にデートも悪くないそんな朝。
だが、出かけようと言う割には永遠はソファに座った俺の上からどかない。むしろ俺に背中を預けるようにして寛いでいる様子。
しゃあなしに永遠のお腹の前まで腕を組むように回している。
「えーそれはヤダ」
「いやどうしろと?」
「そこはほら察して欲しいなぁ……なんて」
首だけこちらに向けながらそう囁いた永遠の顔は赤らんでいた。
「いやまだ朝なんだけど」
俺がまぁ至って理性的な答えを言うと、自爆主義というかゴールまでしか考えないこの女はひと目でわかるくらい私不満です、という顔をした。その顔ですら少し見惚れるのは彼女がモデルだからだろうか。それだけじゃない。そんな当たり前なことを自覚しながらもその誘惑に乗るのはあまり廃退的な休みになると自制していた。
「いいじゃん。誰が見てんのさ」
首だけじゃなく上半身ごとぐるりと向けた永遠は片方の手を俺の胸の上に置きながらなおも言う。あぁ、こんな姿を彼女のファンのティーンの少女や大きなお友達が見たらどう思うか。
案外俺と同じでギャップにやられちまうかもなぁ。この姿を見せる気はないけど。
「誰も見てなくても、さ」
どうしようかと思いつつ視線を部屋に向けると、目の前のテーブルにいちごみるくの飴が置いてあったのが見えた。手を伸ばしてあける。
俺のそんな動きを永遠は不思議そうに見ている。前までの関係なら煽り煽られがすぐ起きていただろうに、最近の俺たちは間にカッツォが入らない限りはお互いの行動をじっと見ることが増えた、そんな気がする。少なくとも俺はそうだった。永遠も多分そうだった。
俺の右手にある甘いピンク色の飴玉を永遠はじっと見ていた。俺は何となしに黙って永遠の口に近づける。すると彼女も無言のままそれを口に含んだ。顔が不満そうな表情から緩む。
「まぁそれでも舐めて落ち着けよ」
永遠の誘惑の言葉からどれくらい無言の時間があっただろうか。テレビすらついていない部屋での無言の空間は俺のそんな一言で壊れた。
「ヘタレ。これで誤魔化せるとでも?」
飴を口にしながらもハッキリとした口調で永遠は言った。その顔はさっきまでと同じく不満げな表情に戻っていた。
「いや朝からはちょっと」
昨日も飲み会でそこそこしんどいのだ。大学生は辛い。付き合いの仕方が馬鹿な遊びばかりになりがちなのだ。ここでそれを言えば間違いなく永遠は不機嫌になるので言わない。たとえ昨日の面子が全員男であろうとだ。
「ふーん。そういうこと言っちゃうんだ?」
不満げな顔の中に何か思案するような表情が浮かんでくる。これは外道ムーブの時と同じ空気。
「飴取ってくれよ。俺も食いたい」
あえてそんな空気を読まずに口にする。このまま永遠のペースになると気づいたらベッドに上に行かねない。
俺の言葉を聞いて永遠は1つ頷くと。俺の方に顔を寄せてきた。飴のある机は俺の前にある。当然いまだに俺の上に乗ってる永遠は俺から離れる必要があるのだがその逆の行為だ。
だが近づいてくる目を逸らせない。何をするかなんて何となく分かりきっているのに。そんな戸惑いの中その瞬間はやってくる。
「んっ」
永遠と俺の唇が触れ合う。そのまま永遠は口を開いて俺の口内に入る。この間も目は合わさったままだった。
「んんっ」
その目の魔力に抗えずにいると、永遠の口から何かが入ってきた。丸い何かだ。それと永遠の舌と俺の舌が絡みあう。
甘い味がした。いつもと違う甘さだ。いちごみるくの飴の味。それと永遠とのキスの味だった。
そのまま1つの飴玉を舐めたまま深く深く口付けをする。
いちごみるくの飴玉は俺と永遠の口内を行き来しつづける。俺はその甘ったるさと永遠の舌の感覚にどんどんと頭が痺れていくように理性が削られていった。
ちゅぱちゅぱと音がお互いの口からひっきりなしに聞こえる。1度も唇を離すことなくどれ程の時間こうしていたか。飴玉は徐々に小さくなっていった。この飴玉を噛み砕くことはなんでかできなかった。
俺たちの目はずっと合わさったままだった。飴玉なんて子供の頃から食べてたものだったのに今はまったく違う酷く卑猥なものに感じた。
冷静ななれば卑猥なのはどう考えても俺たちだったが今はそんな思考にはいたれない。目を合わせたまんまそんな、一種のトリップのような思考に陥っていた。
どれ程の間口付けをしていたのだろうか。飴玉がすっかり溶けたあとようやく俺たちは唇を離した。
「美味しかったかい?」
そう聞いてくる永遠の笑みはテレビや雑誌で見るものもは全く別物で、ただ俺にはとても見なれたものだった。達成感に満ちた顔だ。あるいは征服感に満ちた顔。
「非常に悔しいことにとても」
「どうして悔しいのさ」
俺のそのセリフに永遠はどうしてなんて言いながら酷くSっ気に満ちた満足気な顔をしていた。
「もう一個食べるかい?」
そう聞いてきた永遠の手にはすでにピンク色の甘そうな飴玉が握られていた。
「貰おうかな」
俺がそう言って口を開くと、待っていたように永遠は俺の口に飴玉を放り込んだ。俺は永遠の目を見たまま口付けをした。永遠も俺から目を逸らさなかった。
Hじゃなかったでしょ?
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