【キャラ視点】
「おーよしよし、飼い主とはぐれちゃったのかな~?」
「その子大丈夫? 噛まれた跡とか」
「えっと……うん、大丈夫みたいですよ。首輪の跡はありますけど」
「なら大丈夫かな」
「ていうか、犬も
「わかんないけど、念のためにね?」
「食べ物でも探してたのかね」
今、彼女たちが居るのは学生食堂を兼ねた調理実習用家庭科室。
「これは”何かあった”うちに入り……ますかね?」
「うーん、特に危険な訳じゃないし、あっちの話が終わるの待ってていいんじゃない?」
「じゃあその間に使えそうなもの探しときましょうか。よしよし、一緒に探そうね~」
「ずっと抱えとく気? まあ、放して変なところに行かれても困るけど」
急に吠えて”彼ら”を呼び寄せたりしないかとやや不安ではあったが、動物の癒し効果というのはよく言われていることだ。実際、満面の笑みで抱きしめている圭はもちろん、見ているだけの貴依も結構癒されている。部で飼うかどうか、他の面々とよく話し合う必要があるだろうな、と考えながら貴依は圭を追って探索を始めた。
「それにしても、大事な話ねぇ……予想はつくけど」
”留守番”の最中、三階で出来ることは無いかと考えていた悠里が職員室に赴いたことを思い出し、ため息をつく。あの後、少しの間だけ様子がおかしかったので、職員室で何かを見たのかもしれない。傍に
「これ、は……」
慈は悠里に渡された冊子を食い入るように見つめる。題名は”職員用緊急避難マニュアル”
巡ヶ丘高校の見取り図や緊急連絡先に関しては、製薬会社が指定されていること以外、普通の避難マニュアルのように思える。
問題はその手前のページだ。
マニュアルで想定されていたのは地震や火災などではなく、まさに今この状況だったのだ。つまりこれを作った者は、このフィクションとしか思えない異常な状況が”実際に起こりうる事態”であると認識していたという事になる。
しかもご丁寧にどこかの組織が研究をしている所謂”細菌兵器”の例が列挙されていた。
「……」
マニュアルそのものではなく、内容を見たことで驚愕し、半ば思考停止して黙り込む慈を見て、悠里は心の中に少しだけあった疑惑が完全に晴れた事に胸を撫で下ろす。
慈が最初からこのことを知っていたのではないか……つまり”そちら側”の人間だったのではないかという疑惑だ。
とはいえ、マニュアルを開封したのは悠里だ。こんな狂ったものを何冊も用意して誰かの目につく確率を上げるとは考えにくい。それに今まで自分たちを必死に守ってくれ、
本気で疑っていたのなら全員で取り囲むか、せめて胡桃や貴依のような戦える仲間くらいは傍にいてもらう。
「私の……せいだ。私がちゃんと、これを見てれば……紋さんは……」
助かったかもしれないのに、と慈が幽鬼のようなかすれた声でつぶやく。どうやら中身までは知らなかったが、マニュアルの存在自体は認知していたらしい。マニュアルには学校の地下に避難施設が設けられていること、そしてそこに感染症を想定した薬が用意されていることが記載されていた。
もし早い段階でこの事を知れていれば。薬とやらを取りに行けていれば。あの時、紋を死なせることは無かったのではないかと、悔やんでも悔やみきれないのだろう。
放っておいたら自害でもしそうな表情になった慈を、悠里は思わず抱きしめていた。
「ゆうり、さん……?」
「めぐねえのせいじゃ、ない」
確かにあの日以前にこのことを知れていれば、とは悠里も思った。しかし三階にいても危険な目に遭っていたようなあの頃の状況で、無事に地下までたどり着けたとは思えない。おそらく、いや確実に、犠牲者が増えるだけの結果に終わっただろう。見ていなかったことで事態はむしろマシになったという見方もできる。
だからと言って心が軽くなる訳ではない。こんなものを見せれば慈がこうなってしまうのは簡単に予想できた。まずは地図の部分だけを切り取って見せるといったことも出来たはずだ。だが悠里は少しだけとはいえ、慈のことを疑ってしまっていたのだ。確かめずにはいられなかった。
「めぐねえの優しさに甘えて、辛いことばかり押し付けて……駄目な部長で、ごめんなさい」
そんな悠里を慈はそっと抱きしめ返してくれる。どこまでも生徒想いで優しい心の持ち主を信じきれなかった弱い自分が不甲斐なくて、悠里は泣いた。
太郎丸生きとったんかワレぇ!
そしてプレイヤーのあずかり知らぬところで地下室フラグ発生です。
書く前から分かってたことですが雨の日以来めぐねえのストレスがマッハですね(ゲス顔)