藤の花の導き   作:ライライ3

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誤字報告に感謝しつつ更新します。


第十一話 合同任務

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまー」

「ありがとうございましたー」

 

 店員に挨拶をし二人揃って店を出る。

 

「美味しかったねぇ」

「ああ、中々の味だった」

 

 比企谷八幡と鱗滝真菰。昼餉を取り終えた二人は辺りをふらついていた。

 

「実弥も一緒に来ればよかったのに」

「きっぱりと断られたらな。あれはどうしようもない」

「それはそうだけどさー。折角一緒の任務になったんだから色々お話がしたかったよ」

 

 真菰が不満げに話す。昼餉の前、真菰が三人一緒に食べないか誘ってみたのだが

 

 ―――てめぇらとつるむ気はねェ。勝手にしろォ。

 

 そう言い残し、彼は一人で何処かへと行ってしまったのだ。

 

「むぅ、同期が揃うなんて滅多にないのに、実弥の馬鹿」

「そう剥れるな……ほれ、食後の甘味でも何か食べよう。甘い物を食べれば気が紛れるぞ」

「……そうだね。じゃあ、実弥にもお土産として持って行ってあげよう!」

 

 どうやら真菰の機嫌も直ったようだ。

 

「でも、何の甘味がいいだろう?」

「とりあえず歩いて探してみるか? この町は結構大きいし、探せば色々あるだろう」

「うん、分かった。じゃあ、行こう八幡!」

「―――ああ」

 

 二人は甘味を求め町を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして十分後、八幡と真菰は物陰に隠れていた。

 何故そうなっていたかというと―――

 

「ねぇ、あれって実弥だよね?」

「……多分そうだと思うが」

「いや、絶対そうだって! あの顔の傷。間違いなく本人だよ」

「そう、だよな……」

 

 目の前の光景を疑った二人は、思わずお互いを見る。

 それほどに前方に広がる光景が信じられなかったのだ。

 

 その光景というのは―――

 

「よォ、ばあちゃん。おはぎ五個追加だ」

「こしあんとつぶあん。どっちがいい?」

「……こしあんで頼む」

「あいよ。少し待ってな」

「ああ……」

 

 おはぎを頼む不死川実弥の姿があった。しかもその顔は穏やかで、微かにだが微笑を浮かべている。

 

「凄く意外な光景を見た気がする」

「しかもアレは相当おはぎが好きだね。見てよ八幡」

 

 真菰が指さす方を見る。

 

「既に使われた皿……ちょっと待て。アイツさっきおはぎ注文してなかったか?」

「してたね。多分追加だよ。さっきの注文は」

「マジかよ。どんだけ好きなんだよ」

 

 外に置かれた長椅子には皿が何枚か載っていた。どうやら不死川実弥は極度のおはぎ好きのようだ。

 

「ふっふっふー」

「おい、真菰。何でそんな悪い顔してるんだ、お前」

「えー決まってるじゃん……ねぇ、八幡。私おはぎが食べたくなってきちゃった♪ 八幡はどう?」

「なるほど―――俺もちょうどおはぎが食べたかったところだ」

「でしょでしょ! なら行こうか」

「いや、こういうのは機を見計らうのが重要だ。少し待て」

「分かった。もう少し待ってからだね」

 

 二人は揃って悪い笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたねぇ。おはぎ五個だよ」

「あァ。気にすんな」

 

 追加のおはぎが到着した。実弥はおはぎを手に取り口の中へと運ぶ。

 

「うめェ「何が美味しいの?」!?」

 

 漏れた呟きを被せるように少女の声が聞こえてきた。それが誰かは実弥には心当たりがあった。

 

「やっほー実弥ー」

「美味しそうなおはぎだな、不死川」

「て、てめぇら」

 

 同期である比企谷八幡と鱗滝真菰が現れた。実弥は己の顔が引き攣るのが分かった。

 

「チッ、何の用だ」

 

 不貞腐れるように要件を問いただす。しかしそれで誤魔化せはしない。二人はいい笑顔で実弥に近付く。

 

「えー食後の甘味を探してただけだよ。ねぇ、八幡」

「ああ。そしたらおはぎを発見してな。ちょうどいいと思って立ち寄ったわけだ」

「そうだよー。決して同期の一人が、笑顔でおはぎを食べてるのを見たから来たわけじゃないよー」

「こ、こいつら」

 

 実弥の顔が更に引き攣る。

 

「まあ、実弥を揶揄うのはこの辺にして。おはぎを食べに来たのは本当だよ。あ、ここ失礼するね」

「甘味が欲しかったのは事実だからな」

 

 二人はそれぞれ席に座る。実弥を挟んで両サイドにだ。

 

「……おい。何でそこに座る」

「え、一緒に食べるからだよ。あ、一個貰うね。う~ん、おいしい~」

「ふむ、これは絶品だな」

「おい! それは俺んだぞ! 取るんじゃねェ!」

 

 二人におはぎを取られた実弥が思わず叫ぶ。

 

「ごめんごめん。私たちも注文するから実弥も食べていいよ。おばあちゃーん。こしあん六個追加ー」

「じゃあ、俺はつぶあん十個追加で」

「あいよ~少し待ってねぇ」

 

 二人の注文に老婆は返事を返した。

 

「あれ? 八幡。つぶあんにするんだ?」

「ああ。こしあんよりつぶあん派だからな、俺は」

 

 ぴくりと実弥の眉が動く。

 

「そうなんだ。私はどっちも好きだけどなぁ。後で少しちょうだい」

「いいぞ。というより、それ前提で注文したからな」

「そっか。ありがとう」

「別にいい。こしあんよりつぶあんの方が美味しいと証明できればいいからな」

 

 ぴくりぴくりと実弥の眉が動き、実弥が口を開く。

 

「おィ、ちょっと待てェ」

「うん、なんだ?」

 

 実弥が八幡は睨みつける。

 

「さっきから聞いてりゃ好き放題言ってくれてんなァ」

「なんのことだ?」

 

 心当たりがない八幡は首を傾げる。

 

「―――おはぎはこしあんが至高に決まってんだろうがァ!」

 

 実弥が叫んだ。

 

「ほう。その根拠は一体なんだ? 俺に教えてくれ」

「いいだろォ。こしあんはまず舌触りが違げェ。豆が残ってねぇから滑らかで余韻が残らねェ。それはつぶあんにはない長所だァ」

「ほうほう。それからそれから」

「後は甘さの違いだァ。つぶあんよりこしあんの方が甘みが少ねェ。だが、甘さが少ない分食べやすく、大量に食べられるからなァ。それも長所だァ」

「へーそうなんだぁ」

 

 おはぎの解説に一生懸命な実弥。そんな彼は二人の様子に気付かない。

 

 ―――微笑ましい笑顔で二人が実弥を見つめていることに。

 

「だからこしあんの方が―――おい、何だその顔は?」

 

 実弥が二人の様子に気付いた。

 

「いやーそんなに熱心に語られると。ねぇ、八幡」

「ああ、よっぱど好きなんだな、おはぎが。いや、感心した」

 

 二人がニヤニヤしながら実弥を見る。その顔を見て実弥は気付く。

 自身が何をしていたことに。

 

「……………!?」

 

 実弥の顔が真っ赤に染まる。

 

「いや、俺もおはぎは好きな方だが不死川には勝てないな」

「うん、私も。さっきだって凄い美味しそうに食べてたもん。思わず別人かと思っちゃった」

「…………ら」

 

 実弥が真っ赤になって俯く。己の所業に羞恥したためだ。

 その結果―――

 

「テメェラァァ!!」

「―――逃げるぞ、真菰」

「分かった!」

 

 実弥が激怒し、八幡と真菰は逃げ出した。

 

「待ちやがれェ!!」

「うーん。此処まで怒るとは予想外だな」

「はははっ。鬼さんこちら。手のなる方へ」

 

 追いかける実弥に対し、逃げる二人。そしてその追いかけっこは暫くの間続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が落ちて夜の時間がやってきた。昼の喧騒とは打って変わり、静寂が辺りを包み込む。

 そう。これからが鬼殺隊の仕事の時間だ。

 

「さて、夜になったがどの辺を探せばいいやら」

「鬼は基本潜伏してるからね。簡単には見つからないと思うよ」

「…………」

 

 八幡と真菰は辺りを探るも、鬼の姿は見当たらない。昼に街の住人に確認はしたが、あまり有益な情報は見つからなかったのだ。

 そして二人が話し合う中、一人押し黙る人物がいた。

 

「もう。ごめんって実弥。おはぎの件は謝るからさ」

「俺も興がのってからかいすぎた。すまん」

「………チッ。二度はねぇぞ」

 

 実弥は舌打ち一つして、仕事モードに入った。

 

「鬼を探すのは簡単だ。俺が奴らをおびき寄せる。で、それを仕留めればいい話だァ」

「え? おびき寄せるってどうやって?」

「―――こうするんだよ」

 

 実弥は刀を抜いて自身の腕へと当てる。そして思いっきり刀を引いた。

 

 ―――実弥の腕から鮮血が飛び散った。

 

「ちょ、何やってんのさ、実弥!」

「何で腕を……血か?」

 

 突然の凶行に焦る真菰。八幡はその行動を分析し―――その血に原因があると睨んだ。

 実弥がニヤリと笑う。

 

「正解だ。俺の血は稀血でなァ。それを使えば鬼なんて直ぐにおびき寄せられる」

「あぁ、もう! いいから治療しないと。ほら、腕出して実弥!」

「……その暇はなさそうだぞ、真菰」

「―――え?」

 

 八幡は感じていた。こちらに急接近する何かに。

 

「―――二人とも構えろ。鬼が来る」

 

 その言葉と同時に鬼が上空から降ってきた。三人はそれぞれ距離を取り、降ってきた鬼へと構える。

 

「来やがったかァ。おい! てめぇらは見てるだけでいい。俺が仕留めてやる」

「はぁ、とりあえず治療はアイツを片付けてからだね」

「仕方ない。情報では鬼は複数のはずだ。油断するなよ、二人とも」

「関係ねェ。出てきた鬼は全て片付ける。それで文句はねぇだろォ!」

 

 叫びながら鬼へと突っ込む実弥。だが実弥が鬼へ到着する前に鬼が叫んだ。

 

「―――稀血ぃぃぃ!!」

 

 その叫びと同時に変化が起こる。周囲を霧のようなものが覆っていった。

 

「っ!?」

「なにこれ!?」

「っ! 血鬼術か!」

 

 鬼の血鬼術が発動した。霧のようなものが周辺を覆いつくし視界が遮られる。例えるなら濃霧に覆われた朝のようだ。

 

「ケケケ! 稀血は殺す!」

 

 一瞬の動揺の隙を付き、鬼が実弥から距離を取る。濃霧に遮られ鬼の姿は見えなくなった。

 

「二人とも何処にいる!」

「此処だよ、八幡!」

「こっちだァ!」

 

 八幡の呼びかけに二人が答える。

 

「この霧だと各個撃破される可能性がある。合流して不意打ちを防ぐぞ!」

「分かった!」

「仕方ねェ!」

 

 声の出所を頼りに三人は合流する。それぞれが向かい合わせになり、鬼の奇襲に備える。

 しかし視界が悪く、一メートル先すらおぼつかない。

 

 三人が緊張する中、真菰の正面に鬼が突っ込んできた。

 

「! そこっ!」

 

 ―――水の呼吸 壱ノ型 水面切り

 

 振り払われた刀が鬼の頸を切り払う。その一撃は見事直撃し、鬼の頸が宙に舞いそして消滅する。

 だが―――霧は消えなかった。鬼を斬った真菰は叫ぶ。

 

「何か変だよ、この鬼! 手ごたえが妙だった!」

「霧が消えてねェ。じゃあ今の鬼は何だ!」

「厄介だな……来るぞ、二人とも!」

『!』

 

 動揺が収まらない内に鬼が動く。三人の知らないうちに、周囲を多数の鬼が取り囲んでいた。

 その数―――ざっと二十。

 

「ちぃ、何だこいつら! いつの間に現れやがった!」

「直前まで気配はなかった。それは間違いないよ」

 

 確かに直前まで気配はなかった。それは他の二人も確信している。

 だとしたら答えは一つだ。

 

「これも血鬼術か―――迎撃する! あまり離れるなよ、二人とも!」

「分かったよ!」

「テメェに言われるまでもねェ!」

 

 八幡の叫びに二人は答える。

 

『ケケケケッ!!』

 

 取り囲んだ鬼が一斉に襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 取り囲んだ鬼が同時に襲いかかってくる。一人に対して複数の鬼。普通の隊員なら対処は出来ない。

 だが―――此処にいる三人は普通ではなかった。

 

 ―――水の呼吸 参ノ型 流流舞い

 ―――風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風

 

 真菰と実弥の技が複数の鬼を同時に仕留める。だが技を出した隙を狙って他の鬼が二人に襲い掛かる。

 

 ―――雷の呼吸 弐ノ型 稲魂

 

 しかし八幡がそれをフォローし、襲い掛かった鬼を逆に撃退した。

 三人は再び背中合わせになり、状況を確認する。

 

「こいつら手応えがまるでねェ。全部偽物だ」

「今まで切り捨てた鬼たち。全部同じ顔してるよ。これが血鬼術なら分身かな? まるで忍者だよ」

「そして切った鬼の数が全然減っていない。血鬼術で減らした分を増やしてるぞ、これは」

 

 三人は着実に情報を収集する。だが取り囲む鬼の数はまるで減らない。時間を掛ければこちらが確実に不利になる。だが、一つ妙なことがあることに八幡は気付いた。

 

「しかし妙だな。攻撃がやけに単調だ。数に物をいわせた突撃ばかりで芸がない。どういうことだ?」

 

 その疑問に答えたのは実弥であった。

 

「あァ。それを俺の稀血の影響だろう。俺の稀血は鬼を酔わせる効果がある。その影響だろうなァ」

「へーそれは凄いね」

「そうか。俺も稀血だがそんな効果はない。なるほど、酔っぱらいがいい気になってるだけか」

「……てめぇもか」

 

 軽口を言い合う三人。もし一人なら危ない状況であったが、三人とも実力者だ。連携が取れさえすれば切り抜けられる。三人は無意識にそう感じていた。

 

「二人とも聞いてくれ。俺の勘だが、今相手している鬼とは別に近くに他の鬼がいるはずだ」

「その根拠は?」

「血鬼術を複数使用する鬼がいるのは知ってるが、目の前の鬼は多分違う。弱すぎるからだ。恐らく分身する鬼と霧を出している鬼。それぞれが役割を分担しているはずだ」

「なるほど。じゃあ、最初に仕留めるのは霧の方だね。何処にいると思う?」

 

 真菰は優先的に狙う方の居場所を問う。八幡の考えが正しいと思ったからだ。

 

「恐らく霧の中にはいない。だが近くにいるはずだ。この手の血鬼術は発動する場所を視界に収める必要がある」

「なるほどなァ。じゃあ高い所だ。馬鹿と何とやらは高い所が好きって言うからなァ」

「この辺で高い所だと屋根の上かな。周囲には建物がいっぱいだし」

 

 街中だけあって周囲には建物が多い。そこからならこちらを見渡すのは十分だ。

 状況確認は終わった。後は行動するだけだ。

 

「―――俺が囮になってやらァ。奴らは俺の稀血に引き寄せられるから時間は稼げる」

「じゃあ、私が援護するよ。実弥はすっごい無茶しそうだから」

「けっ、言ってろォ」

 

 どうやら二人が時間を稼ぐことで決定したようだ。

 

「雷の呼吸のてめぇが一番速えェ。しくじるんじゃねぇぞ―――比企谷」

「分かった。後は頼むぞ。不死川、真菰」

「任された! いくよ、実弥!」

「俺に指示すんじゃねぇ、鱗滝!」

 

 八幡を置いて二人が駆け出した。二人は同方向に駆け出し進行方向の鬼をなぎ倒していく。そして二人が開いた道を―――八幡が飛び出した。

 

 ―――まずは霧を抜ける。鬼を探すのはそれからだ! 

 

 雷の呼吸で速度を上げつつ、霧の中を走る。一直線に駆け抜け霧の外へと向かっていく。

 そして二十秒後――――霧の外へと辿り着いた。

 

「―――抜けた!」

 

 霧を抜けると同時にジャンプ。二階建ての屋根の上に登り、周囲を見渡す。だが鬼は見つからない。

 焦る八幡。だがそこに相棒から声がかかった。

 

「八幡! 八幡!」

「小雪か!」

「鬼発見! 案内スル! 案内スル!」

「! 頼む!」

 

 小雪が飛び立ち八幡を先導する。八幡はそれを追いかけ周囲の屋根を飛び移っていく。

 

 そして程なくして―――隠れている鬼を発見した。

 

「―――そこかぁ!」

 

 ―――雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃

 

 神速の一撃が鬼の頸を断ち切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい! それで終わりかァ。大した事ねぇなァ。くそ鬼共!」

「ああ、もう! 無茶は禁物だよ、実弥!」

 

 実弥が突っ込み、真菰がフォローする。役割を分けた二人の動きは強引ではあったが、見事に機能していた。だが所詮は多勢に無勢。三人では持ちこたえていた戦線を二人ではカバーしきれない。徐々に押し込まれていく。

 

「くっ! ちょっと厳しいね」

「これくらい大した事ねェ!」

 

 二人の動きは止まり、周囲を完全に包囲されていた。次に一斉に襲い掛かられて防げるか分からない。二人がそう思った―――その時だった。

 

 ―――周囲を覆っていた濃霧が突如としてその姿を消した。

 

「―――霧が消えた!」

「本体は何処だァ!」

 

 周囲の視界が晴れ鬼の姿が鮮明に見える。二人は辺りを見渡し―――少し離れた場所に一匹だけいる鬼を見つけた。二人はその鬼が目標と確信し駆け出すも、本体を庇うかのように鬼たちが立ちはだかった。

 

 ―――風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ

 

 実弥が繰り出した技が竜巻状の旋風を起こし、前方にいる複数の鬼たちをなぎ倒す。

 そして―――目標への道が開いた。

 

「―――鱗滝ィ!」

「―――分かってる!」

 

 実弥の影から飛び出した真菰が目標へと迫る。その素早い動きをもって急接近した真菰は最後の技を放つ。

 

「これで―――終わりだよ!」

 

 ―――水の呼吸 肆ノ型 打ち潮

 

 波打つ斬撃が鬼の頸を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、何とか終わったな」

「そうだねぇ。一人だとちょっと危なかったかな。今回の任務は」

「どうってことねぇよ。俺一人でも十分だった」

 

 任務をこなし夜が明けた。三人は街外れで今回の任務について話していた。

 

「もう、そんなこと言って。実弥は無茶しすぎ! だからそんなに怪我ばっかりなんだよ」

「確かに。任務の度に自分を傷つけたらきりがないぞ、不死川」

「……チッ。これが一番早いんだよ」

 

 二人が心配しながら実弥を見る。それに対し実弥は舌打ちしながら視線を逸らした。

 だが反省してる様子はない。恐らく誰が言っても無駄だろうと二人は思った。

 

「……そろそろ次の任務へ向かおうかな」

「そうだな。面倒くさいが仕方がない。俺も次に向かうとしよう」

 

 任務が終わって早々だが、三人にはすぐに別の任務が入っていた。

 

「―――じゃあ二人とも、またね!」

 

 真菰が手を振り元気よく駆け出す。

 

「おう、またな」

 

 八幡も真菰に向かって手を振り、そして歩き出す。

 そして最後の一人は―――

 

「比企谷! 鱗滝!」

 

 実弥が二人の名を呼ぶ。呼ばれた二人は実弥を見る。

 

「………死ぬんじゃねぇぞ」

 

 それだけ言って実弥も歩き出した。二人が実弥を見ていると、彼はそっと右手を掲げ歩いていった。

 それは不死川実弥の―――別れの挨拶だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして三人が別れて二日後。任務の報告に向かった小雪が八幡の下へと戻ってきた。

 そして戻ってきた小雪は―――ある知らせを届けに来た。

 

「―――全隊員ニ通達! 通達!」

「うん? なんだ?」

 

 一風変わった出だしに興味を惹かれる八幡。重要なことだと思い小雪に耳を傾ける。

 

「コノ度、新タナ柱ガ就任! 就任!」

「……新しい柱か」

 

 鬼殺隊の最高位の隊士である柱。その新しい人物が決定したとの連絡だった。

 

 そこまでは落ち着いて聞いていた八幡だが―――次の小雪の台詞に驚愕することになった。

 

「新タナ柱ハ花柱! 胡蝶カナエ! 胡蝶カナエ!」

 

「…………は?」

 

 それはこの世界で大事な身内の一人。胡蝶カナエの名前であった。




大正コソコソ噂話

今回登場した鬼は双子の兄弟です。その為、二人で行動していました。
片方が霧を出現させ、片方が分身を生み出す。組み合わせると中々強力な血鬼術です。

だがそれぞれに弱点があります。
霧は発生できる範囲が狭い。分身は数を増やすと、力がその数だけ分散される。

何事も一長一短って感じです。

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