藤の花の導き   作:ライライ3

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鬼滅の刃コミックス、全巻揃えたので続きます。



第三話 鬼の襲撃

 胡蝶家と花見に行ってから二週間の時が過ぎた。

 その間、比企谷八幡は胡蝶家の家の手伝いをしながらある事に没頭していた。

 

 そう。文字の勉強である。

 勿論、現代の義務教育を受けてきた比企谷八幡が、文字を書けないなんてことはない。しかし今いる場所は大正時代。現代とは書式等が微妙に異るため、この時代ではそのまま使用できないことが多いのだ。その為、この時代で使用できる文字を勉強しなおしていた。

 幸いにも、比企谷八幡の元の時代での国語の成績は良いほうだった。下地はあるため、文字の勉強にそこまで苦労はせず、急速に大正時代の文字を覚えることができた。

 因みに教育係は主に胡蝶しのぶである。彼女の熱の入れようが半端ではなく、朝、女学校に行く前に大量の宿題を渡される。

 

 ―――終わらなかったら分かってるでしょうね? 

 

 にっこりと笑いながら大量の宿題を渡してくるその姿に若干の恐怖を覚えた。

 あの花見以降、こちらに対して遠慮というものが感じられない。年下に教えを乞うのは情けない気がしないでもないが、胡蝶家では彼女が一番頭がいいので仕方なしといった感じだ。本人も結構ノリノリで教育しているというのは、胡蝶カナエの言である。

 

 例えばこんなエピソードがある。胡蝶家の人々に現代で使用している文字を見せた所、胡蝶家の面々はとても興味深く見ていた。そんな中、胡蝶しのぶは言った。

 

 ―――もっと詳しく教えなさい。

 

 教えても今は使えないぞと警告したが、それでも教えろと言ったのでとりあえず教えてみた。結果、一度教えれば完璧に使いこなしてしまった。年上の面目丸つぶれである。

 

 因みに、胡蝶しのぶ以外にも胡蝶カナエからも教えてもらっている。内容としては、この時代の常識、文化、礼儀作法等だ。これらも現代とは異なる点が多い。知識としては多少知っていることもあるが、やはり実際に教えてもらうのはとても重要なことだと実感した。

 

 教えてもらってばかりなのは気が引けるので、お礼に何か出来ないかと聞いてみると。

 

 ―――じゃあ、ハチくんの時代のことを教えてほしいな。

 ―――そうね。私も興味があるわ。

 

 と、二人には現代の話をせがまれた。

 胡蝶カナエは平和な話を好む。普段の家での様子や、学校帰りに行く本屋やスーパー、コンビニなどに寄る。そんな何気のない日常の話でも目を輝かせて聞いている。一度、現代の映画館や遊園地の話をした時は興奮しすぎて手を焼いたほどだ。

 逆に胡蝶しのぶの好みは広い。日常生活だけでなく、様々な分野に興味を持っている彼女は、八幡が知りうる限りの知識を要求してくる。特に現代における科学の進化には目を見張っていた。携帯電話や新幹線などの存在はこの時代では想像も出来ないだろう。目の輝き方は姉と一緒であった。さすが姉妹である。

 

 ちなみに二人の共通の好みとして現代の食べ物やファッションがある。大正でも現代でも食べ物や服装に興味が沸くのは女の子らしいと言えるだろう。

 

「こんなものか……」

 

 現代に比べて少し薄暗い明りの中、鉛筆を机の上に下ろす。そのまま右肩を回し、肩の筋肉をほぐす。

 

「ふぅー。とりあえず文字に関しては大丈夫かな」

 

 この時代で暮らしていくにしても文字の習得は必須である。外国語ではなく昔の日本語なので習得に時間がかからなかったのは幸いだ。

 

「今の時代、本は数少ない娯楽だからな。それに大正時代といえば文豪が沢山生まれた時代だ。その人達の作品をリアルタイムで読めるっていうのはある意味凄い贅沢な話だ」

 

 谷崎潤一郎や芥川龍之介、さらには森鴎外や夏目漱石といった、現代でも知られる文豪が誕生したのが大正時代である。この時代で既に頭角を現している人もいれば、まだ無名の人物もいる。もしこの先暇が出来たのなら、直接会いに行ってもいいだろう。もしかしたらサインを貰えるかもしれない。

 

「皆には感謝しかないな、ホントに」

 

 胡蝶家の人達には本当に足を向けて寝られない。文字を完全に覚えたら、胡蝶父の仕事の手伝いをする約束をしているので、少しは恩を返したいところだ。

 

「……さて、もう寝るか」

 

 明りを消し布団に入る。目をつむれば直ぐに眠気が襲ってきた。

 最近は何故か生活が充実している気がする。だらだらと過ごした学生時代より一生懸命生きてるからだろうか。

 

 だが悪くない。そんな自分らしくない考えが浮かびながら、意識がなくなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃぁぁぁぁっ!!」

 

 突然の悲鳴で目が覚め、起き上がる。人の叫び声が聞こえた。声から察するに女の人の声。場所はすぐ近くな気がした。

 

 ―――まさか! 

 

 飛び起きて廊下に出る。すると同じように悲鳴で目覚めたのか、カナエが廊下に顔を出していた。

 

「―――ハチくん!」

「強盗かもしれない。しのぶと一緒に部屋にいろ!」

「で、でも」

「いいな!」

 

 相手が強盗なら女性陣は危ない。カナエに念押しして声の方へと走る。

 目的地はすぐに見つかった。部屋の襖が開いていたからだ。その場所は―――胡蝶夫妻の部屋だ。

 そして入る前から血の匂いが漂ってきた。

 

「おじさん! おばさん!」

 

 八幡が叫びながら部屋に駆け込む。

 そこには―――信じられない光景が広がっていた。

 

 血の匂いが充満している。一人の大男が腕を突き出し、その腕の先は赤く染まり何かを貫いていた。

 ―――それは妻を庇った夫の姿であった。

 

「お、おじさん……」

 

 声が震える。目の前の光景が信じられない。腕が人の身体を貫通していたからだ。そんな事、普通の人間に出来るわけがない。

 八幡の声に反応したのか犯人である大男がこちらに首だけ振り向く。

 

「あぁ、何だ。餌が起きてきたか」

 

 それは異形な存在だった。顔にある無数の血管が異常に膨れ上がっており、額には二本の角らしきものが存在している。そして二つの目玉はとても巨大だった。その血走った目玉でギロリと睨みつけられると、八幡の身体は震え始めた。

 

 相手が人間ではないと―――本能が理解してしまったからだ。

 

「八幡くん! 逃げなさ「黙れ!」ぅぁぁ……」

「おばさん!」

 

 こちらに逃げろと言おうとしたのだろう。だがその言葉を最後まで言えないまま胡蝶母は息絶えた。

 震えが止まらない八幡に、異形の者は聞き捨てならない言葉を放つ。

 

「お前を除いて後二人。この家にはいるみたいだなぁ」

「!?」

 

 カナエとしのぶの事が把握されている! 

 

「はぁぁぁぁ、ふぅぅぅぅ……お前は一体何なんだ。人間じゃないな」

「何だ、餓鬼。俺様の正体が知りたいかぁ」

「…………あぁ」

 

 頷くと異形の者がこちらに振り向く。ニヤリと笑いながらこちらをターゲットにしているのが分かった。

 無理やり息を整え、腰を少しだけ落として動ける準備をする

 

「なら教えてやる―――人食い鬼だよぉ!!」

 

 叫ぶと同時にこちらに加速する鬼。そして上から振り下ろすように爪の一撃を放ってきた。

 

 正面から来るのは分かっていた。そしてそれが驚異的な速さだというのも予測した。だから言葉を発したと同時に横に飛んで避けた。

 

「っ! ぐぁぁっ!?」

 

 だがそれでも避けきれらなかった。鋭い爪の一撃は肩をかすめて鮮血が舞う。

 そして空中で体勢を崩された八幡は、そのまま部屋にある何かの家具にぶつかり、そのまま一緒に倒れこんだ。

 

「はぁっはぁっはぁっ? ……何だ?」

 

 しかし鬼の追撃がすぐに来なかった。今の状態なら直ぐに殺せるはずなのに。

 疑問に思い顔を上げると、鬼が驚いた顔でこちらを見ていた。

 

「妙な気配を感じると思ったら、そうか小僧! お前稀血だなぁ!!」

「……マレチ?」

「なるほどなるほど! これは運がいい! まさか稀血に巡り合えるとはなぁ!」

 

 鬼の言葉の意味は分からない。だがマレチという単語が自分を指していることだけは分かった。

 

「ようし。こいつらから食べようかと思ったが、稀血がいるなら話は別だ。先にお前から喰ってやる!」

「…………」

 

 ゆっくりと近付いてくる鬼。この状態では逃げられない。逃げようとした瞬間、すぐに殺されてしまうだろう。

 しかも状況は更に悪化する。

 

「ハチくん! ……あぁぁ、お父さん! お母さん!」

「お、お父さん。お母さん! いやぁぁぁぁ!!」

 

 八幡が心配になったのだろう。後を追って胡蝶姉妹が部屋に来てしまった。しかも両親の姿を見てしまった二人は

 泣き叫び、そのまま腰を落としてしまう。

 

 ―――状況は最悪だ。

 

「あぁぁ、残り二人はお前らか。女とはこれまた運がいい。そこで大人しくしてろ!」

「っ!?」

「ひっ!?」

 

 鬼に睨まれた二人は震えて動けなくなった。これでは逃げることすらできない! 

 

「さて待たせたな、餓鬼。まずはお前からだ」

「………………」

 

 鬼が近づき八幡の頭を片手で掴む。そして片手でそのまま持ち上げる。そして鬼が八幡に話しかける。

 

「くっくっくっ、なぁ稀血の餓鬼。俺様は今非常に気分がいい。後ろの二人に言い残すことはあるなら聞いてやるぞ?」

「……ぅ……ぁ……」

「何だ、聞こえねぇなぁ。何て言った?」

 

 上機嫌な鬼は八幡の言葉を聞こうと耳を近づける。

 

 ―――次の瞬間、鬼の右目に鋭い物が突き刺さった。

 

「ぐぁぁぁぁぁ!!」

「くぅぅぅ!」

 

 鬼の目に突き刺さったのは簪だった。先程倒れこんだ八幡は傍に合った簪を拾い、鬼の隙を付いて右目に突き刺したのだ。鬼の身体は強靭だ。だが生き物である以上、眼球なら攻撃が効くと八幡は予想したのだ。

 

 必死に力を入れながら八幡は叫ぶ。

 

「カナエ! しのぶ! 逃げろ!」

『!?』

 

 二人が驚いた表情でこちらを見る。

 

「長くは持たない! 走って逃げろ!」

「で、でも……」

「は、はちまん」

 

 だが二人は動かない。この二人に八幡を見捨て逃げるという選択は出来なかった。

 

「離せぇ! このクソ餓鬼がぁぁぁ!」

「ぐぁぁぁぁ! ……は、はやく……」

 

 鬼は自身の身体を振りながらこちらを引き離そうとする。それに対して八幡は鬼にしがみ付き、一秒でも時間を稼ごうと必死に右手に力を込める。

 

 ―――だがそれも大した時間稼ぎにはならなかった。

 

「クソがぁぁ!」

「!?」

 

 鬼と人ではパワーが違いすぎる。ほどなくして右手を掴まれ、そのまま八幡は投げ飛ばされる。

 そして襖をぶち破り、廊下の壁へと激突した。

 

「がはっ!」

「は、ハチくん!」

「八幡!」

 

 二人が八幡に駆け寄った。

 

「ハチくん! しっかりしてハチくん!」

「八幡! 八幡!」

「にげ……ろ……」

 

 倒れこむ八幡。カナエとしのぶが必死に呼びかけるも反応が薄い。意識はあるようだが、起き上がることはもう出来ない。

 そんな三人に鬼がすぐ傍まで近付く。

 

「やってくれたな、クソ餓鬼―――だが無意味だったなぁ」

『!?』

 

 三人は見た。鬼が右目に突き刺さった簪を抜くと、瞬く間に目が再生していく姿を。

 

「これで終わりだ! クソ餓鬼!!」

 

 鬼が自身の右手を振りかざす。数瞬後にはその一撃が直撃し、八幡の命は尽きてしまうだろう。

 そこでカナエが動く。八幡に覆いかぶさり自ら盾になったのだ。

 

 驚く八幡としのぶ。八幡がカナエをどかそうとするも身体が動かない。

 間に合わない。誰もがそう思った―――次の瞬間。

 

 ―――鬼の首が宙を舞っていた。

 

『!!』

 

 鬼の首が飛び床へと落ちる。すると首と身体が徐々に崩れ去っていく。

 そして―――鬼の存在はなかったかのように消滅した。

 

 そして三人は見た。鬼を消滅させた人物を。

 黒の学ランのような服を上下に着ており、背中には何か文字が書かれた羽織を背負っている男だった。

 左手には武器である斧を持ち、それが鎖で繋がれている。そして鎖の先にはトゲ付きの鉄球が括り付けられていた。鉄球の一撃で鬼の首を飛ばしたようだ。

 

 どうやら味方のようだ。

 

「……助かった」

 

 八幡は呟くと、己の意識が急速に薄れていくのを感じた。薄れゆく意識の中、カナエとしのぶがこちらに必死に叫んでいるのが分かった。そんな二人を安心させるかのように、薄っすらと笑みを浮かべ、比企谷八幡は意識を失った。

 




大正コソコソ噂話

胡蝶夫婦はとてもいい人です。突如現れた八幡に対しても下手な同情はせず、優しく見守ることに出来る人物でした。
接した時間は短くても、八幡の中では二人は家族のような存在でした。

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