藤の花の導き   作:ライライ3

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明日のジャンプを楽しみにしつつ更新します。


第七話 最終選別の開始

 藤襲山

 

 それは鬼殺隊へ入隊を希望する者が訪れる最終選別が行われる山である。その山の特徴は一目見れば一目瞭然だ。

 それは山の麓から中腹にかけて一面に藤の花が咲いていることだ。しかも藤の花は狂い咲きの影響で、一年中枯れることなく咲き続ける、鬼にとっては鬼門の場所である。

 

 そして季節が初夏に差し掛かる頃、毎年この山で鬼殺隊の最終選別が行われている。

 

「皆さま。今宵は最終選別にお集まりくださり、ありがとうございます」

 

 最終選別は、藤の花の柄の着物を着た白髪の少女の説明から始まった。

 隣には同じ柄の着物を着た、同じく白髪の少女が並ぶ。似た顔立ちから察するに恐らく姉妹だろう。

 

「この藤襲山には鬼殺の剣士様方が生け捕りにした鬼が閉じ込めてあり、外に出ることはできません」

 

 少女たちの顔は一見区別がつかない。左側頭と右側頭にそれぞれ紐の髪飾りがあるので、それで区別をつけるしかないだろう。

 

 今度は隣の少女が口を開く。

 

「山の麓から中腹にかけて、鬼共の嫌う藤の花が一年中狂い咲いているからでございます」

 

 二人の少女から少し離れた場所では、最終選別の参加者が真剣な表情でこの話を聞いている。

 参加者はおよそ二十名。年齢は殆どが十代だと思われる。

 

 ―――あんな小さな女の子までいるのか。それにあっちの男は他の参加者と目つきが違うな。

 

 八幡は説明を聞きながらチラリと他の参加者を見渡す。特に印象に残ったのは二人だ。

 一人目は今回唯一の女性の参加者である黒髪の少女。顔に横に狐の顔が彫られた白い面を被っている。そしてもう一人は白い髪の少年だ。その目は血走り、周囲すべてに敵意を向けている。

 

「しかしこれから先には、藤の花が咲いておりませんから鬼共がおります。この七日間を生き抜く――」

 

 少女の説明が終盤に向かうのが分かる。七日間という単語を聞き、持久戦になるなと今回の試験の意図を感じた。

 

「それが最終選別の合格条件でございます。では、行ってらっしゃいませ」

 

 そして最終選別が開始された―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 木々が立ち並ぶ森の中をゆっくりと歩く。周囲に人はいない。開始の合図があると同時に、他の参加者は全員走って散らばってしまったからだ。

 

「複数で協力するのもありだと思ったが、この様子だと無理だな」

 

 八幡は最初に考えた案を否定した。

 七日間生き抜くと聞かされ、初めに思ったのが多人数での協力だ。この山にどれだけの鬼がいるかは分からない。しかし仲間がいれば、いざという時に協力することも可能だと思ったのだが―――

 

「……駄目だな。初対面の、しかも相手の力量も分からないのに協力などできないか。信頼関係などないに等しい……いや、そもそもボッチの俺に協力プレイなんて不可能だわ。そんな事出来たら元の時代でも苦労しなかった」

 

 そもそも自分に協力プレイが無理なことを忘れていた。

 軽く落ち込みながらゆっくりと歩を進める。

 

 ―――まず探すのは水場だな。人は水なしでは七日も生きていけない。試験という名目上、水場は複数用意されているだろう。そこまで鬼畜ではないはずだ……平塚師匠なら水場なしの試験も用意しそうだけどな。

 

 ゆっくりと、ゆっくりと、音を立てずに歩き続ける。

 

 ―――しかし鬼共も水場付近で待機している可能性が高い。鬼だって元は人だ。こっちの弱点も知り尽くしている。

 

 何より地の利は相手にある。こちらは初見の場所だが、相手はそうではないのだ。この差は大きい。

 

「ふぅぅ。風が気持ちいいな……」

 

 そよ風がふわりと流れる。夜に吹く風は、昼と違い気持ちがいい。

 その風に身を任せ―――刀に手を置いた。

 

「獲物が来やがった!」

「久しぶりの人肉だぜ!!」

 

 前後にある茂みから鬼が飛び出してきた。鬼も何も考えず、こちらに突撃してきて―――次の瞬間に一匹の鬼の頸が宙に舞った。

 

 ―――雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃

 

 正面から馬鹿正直に突撃してきた鬼の頸を一瞬で切る。何が起こったかも分からず、鬼の頸が地面に落ちた。後方の鬼が驚愕し、動きが止まったのが気配で分かった。

 

 戦場で足を止める愚か者を見過ごすほど、八幡は甘くない。

 

 ―――雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 二連

 

 距離があるため、通常の霹靂一閃では届かない。その為、二連を使用し一気に加速して鬼の頸を断ち切った。平塚師匠なら通常の霹靂一閃で届いただろうが、この身は未熟。今はこれが限界である。

 

 地面に落ちた鬼の頸は身体と共に間もなく灰となった。それを確認してから、八幡は森の中へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 八幡が森の中に去っていく様子を、反対側の木の上にいる鬼は目撃した。その鬼は一瞬の惨事に恐怖で震えが止まらなかった。

 

「何だ、アイツ。やべぇ、やべぇよ。あんな奴相手にしたら殺される。鬼狩りの受験者にあんな強い奴がいるなんて反則じゃねぇか」

 

 その鬼は冷静だった。鬼が人よりも強いことを理解しつつ、鬼狩りと真正面から戦うのは不利だと考えれるほどには冷静だった。

 

「一刻も早く奴から離れるんだ。いや、待て。奴は強い。今動けば察知されるかもしれない。幸い奴は反対側に行った。ここにいればやり過ごせる」

 

 だからここに残る選択をした。動けば音で察知されるかもしれない。それが正しい判断だと鬼はほくそ笑んだ。

 

 ―――次の瞬間、自身の視覚が回転していた。

 

「だ、だれだ!」

 

 頸を切られた。なぜ切られたのか分からなかった。近くに鬼狩りはもういなかったはずだ。

 宙に回転しながら落下していく自身の視覚が、その下手人を捉えた。

 

「なんで……」

 

 それは先程と同じ鬼狩りだった。無表情でこちら見つめる姿に油断は一切感じられない。地面に落ちた自身の頸が上を見上げ、月明かりに照らされた鬼狩りの顔を見た。

 

 鬼は最後に、あの腐った目はなんなんだ、と思いながら消滅していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――終わりか」

 

 三匹目の鬼が消滅したことを確認して一息つく。二匹目の鬼を片付けた時点で、もう一匹の鬼が潜んでいたことは気付いていた。背中を見せて誘ってみたが、襲い掛かってこなかったので、隠れながら奇襲を試みたのだ。

 

 そして見事に成功した。

 

「鬼といっても色んな奴がいるな。まあ当たり前か。元は人間だしな」

 

 鬼になった者の特徴として、性格が凶暴になるのは間違いない。しかしそれだけではないようだ。

 

「風下から回れば奇襲も可能。肉体的に、それに五感が優れていても、それを活用させなければ倒すのも容易、か。色々勉強になるな」

 

 刀を納刀し地面に音を立てずに着地する。この間にも周囲の索敵を忘れない。風の呼吸で感じ取られる範囲に敵はいない。しかし油断は禁物だ。鬼の中には血鬼術なるチートを使う鬼もいるらしい。この試験にその鬼がいるかは分からないが、気を抜くことは許されない。

 

 何はともあれ

 

「―――倒せたか」

 

 鬼を倒せた。あの日、なにも出来ずなすすべもなかった鬼を倒せた。自身の中で達成感と高揚感が高まっていくのを感じる。このまま勢いに任せ鬼を倒せば―――

 

「……馬鹿か、俺は」

 

 瞬時にその考えを捨て去った。自身の熱くなった心に落ち着かせ、冷静な思考を取り戻す。

 

「なるほど。だから七日間なのか、この試験は。意地が悪いな」

 

 この試験の意図が少し見えた。この試験の参加者の殆どが、鬼に身内を殺された人達だ。彼らはこの試験で初めて鬼を殺し、その高揚感に胸を打たれて自信をつける。そしてその勢いにのって戦うのだろう。

 

 しかし自信は過信へと繋がる。勢いのまま鬼を殺し続けるのはいい。しかし、七日間の試験期間中ずっとその考えを続けるのは危険だ。でなければ、疲れ切った後半、鬼に殺されてしまう結果になりかねない。

 

 体力の消耗を出来るだけ抑え、精神力と気力を平常のまま維持するのがベストだろう。

 

「となると、やはり攻勢に出るのは危険だな。なるべく隠れてやり過ごす。又は見つけた鬼だけ殺すのが無難か」

 

 試験の目的は七日間生き残る事。その条件に鬼を倒すことは含まれていない。

 鬼に一匹も遭遇しないでクリアすることも理論上可能ではあるが、限定されたフィールドの中でそれを達成するのは難しいだろう。

 

「―――久しぶりのステルスヒッキーの出番だ」

 

 意識を抑えて気配を殺す。自身の感覚を周囲と同化するような感覚だ。平塚師匠には通用しなかったが、弱い鬼相手なら通用するだろうというお墨付きだ。

 

「まずは、水。次に食料だ―――行くぞ」

 

 比企谷八幡は、生き残るために行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が明け朝日が昇る。そして眩い光が周囲を照らるのを確認し、隠れていた木の上から飛び降りる。あの後、何匹かの鬼を発見して、気付かれることなくすべて奇襲で片付けることができた。

 

 地面に降り立った八幡は、夜の間に見つけた場所へと急いで走る。

 そこにあったのは―――山から出ている湧き水であった。

 

 辺りには特に気配もなく、人がいる形跡もない。どうやら近くには誰もいないようだ。最も、この時間に鬼の心配をする必要はない。日光を浴びると消滅する鬼は、昼間は暗闇に隠れているのだ。

 

「……鬼が隠れている洞窟が複数ありそうだな、この感じだと」

 

 この山を遠くから見た限りでは、建造物は存在しなかった。となると、鬼が隠れているのは洞窟の奥が一番可能性が高いだろう。そこなら完全な暗闇だ。

 

「入口爆破して閉じ込めるとか出来ないかね。爆発物ないけど」

 

 そもそも鬼が酸欠で死ぬとも思えない。生き埋めにしても、その内脱出しそうだ。

 

 馬鹿なことを考えるのを止めて、目の前の湧き水を見る。勢いよく流れているその水は、澄んでいてとても美味しそうだ。手ですくって一口飲んでみる。

 

「……美味いな。これなら飲める」

 

 水の確保は出来た。手ですくいながら水を飲み、懐に入れた竹筒に水を補給する。

 此処を拠点にすれば水の問題は解決だ。

 

 最も腹を下しても問題ない。全集中の呼吸を使用すれば腹下しも回復できるからだ。平塚師匠に飲まされた水が中り、それが原因で習得したのは苦い思い出だ。

 

「食料はこれでいいか。量も足りないし一週間これだと飽きそうだが、しょうがないな」

 

 食料は自生していた山ぶどうである。此処から離れた場所で群生地を発見し、そこから拝借してきた。

 恐らく鬼殺隊が用意した食料だろう。他の場所にも群生地が存在している可能性が高い。

 

「……渋いし、甘みがまったくないな。だがないよりましだ。貴重な食料だ」

 

 腹が少しでも膨れれば問題ない。そもそも、水さえあれば一週間何もなくても戦えないこともない。だが、進んで試したいとも思わないから却下だ。

 

「さて、そろそろ休むか」

 

 湧き水の近くにある木に移動し、木を背もたれにして腰を下ろす。

 早めに休んで出来るだけ体力を回復させたい。

 

「……残り六日か。先は長いな」

 

 瞼を閉じ身体の力を抜く。するとすぐに睡魔が襲ってくる。どうやら初の実戦で予想以上に疲れが生じているようだ。

 

 やがて比企谷八幡の意識は完全に落ち、一時の休息へと入った。

 




最終選別の時って、水は何とかなるでしょうけど、食料はどうしてるんだろうと、ふと思いました。
多少食料を持っていたとしても、一週間はもたないはずですし。

それとも、全集中の呼吸を習得すれば一週間ぶっ続けで戦えるのかな?
少し気になる所です。


大正コソコソ噂話

今回の最終選別で案内を務めているのは、産屋敷 にちかと産屋敷 ひなきの二人です。
この二人の名前を知ってる方は、かなりの鬼滅ファンと思われます。

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