藤の花の導き   作:ライライ3

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少し遅くなりましたが投稿します。


第九話 日輪刀と刀鍛冶師

「どうした比企谷! こんなものかっ!」

「―――くっ!」

 

 平塚咲の斬撃を受け止めながら、比企谷八幡は焦りの呻きを上げる。

 

 ―――相変わらず速すぎる! まったく隙が見当たらないっ! 

 

 放たれる斬撃は鋭く、そして速い。隙を狙おうにもその隙が見つからない。

 その為、先程から押されっぱなしで反撃の目途がまったくたたないままだ。

 八幡の焦りを読むかのように平塚が動く。

 

「ふっ!」

「―――っ!」

 

 上段からの一撃。それを刀で防くとそのまま力で押し込まれ―――動きが止められる。

 そして止まった隙を付かれ、腹に蹴りを叩き込まれる。

 

「―――そらっ!」

「ぐぉっ!」

 

 強烈な一撃。後ろに蹴り飛ばされ呼吸が乱れる。何とか着地し前を見ると、平塚は既に追撃の構えを取っていた。

 

 ―――雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃

 

 前傾姿勢からの神速の一閃。普通なら此処で終わる。

 

「まだっ!」

 

 ―――雷の呼吸 神速

 

 八幡は神速のスピードで回避し飛び上がる。すると一瞬後に霹靂一閃が通り過ぎる。

 霹靂一閃は強力な技だが、撃ち終われば一瞬だけ動きが止まる。空中で体勢を取り、落下のスピードを利用して技を放つ。

 

「これで!」

「甘いっ!」

 

 ―――風の呼吸 伍ノ型 木枯らし颪

 ―――雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷

 

 螺旋状の風と上昇する雷が激突。風と雷が辺りに衝撃を走らせ、砂ぼこりが舞う。

 そして技の衝撃に耐えきれず、片方が吹きとばされ地面に倒れる。そして一人が瞬時に移動し、首元に刃を突き付けた。

 

 勝ったのは―――

 

「―――私の勝ちだな」

「―――参りました」

 

 比企谷八幡の師匠、平塚咲であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ。予想通り強くなっている。やはり、百の稽古より一の実戦の方が効果的だな」

「そうですか? あまり変わってない気がするんですが」

「こういうものは本人には実感がわかないものだ。心配せずとも君は着実に強くなってるよ」

「……だといいんですが」

 

 小屋の中で首を傾げる八幡。やられっぱなしなので、自分がどの位強いか分からないのだ。

 

「君なら血鬼術さえ気を付ければ大抵の相手は何とかなる。例外はあるけどな」

「血鬼術、ですか。鬼ごとに違うんですよね?」

「ああ、そうだ。身体強化や遠距離攻撃、はたまた精神攻撃するなんてものもある。血鬼術に関しては同じものを使用する鬼はいないと言っていいだろう」

「……反則ですね。こっちは呼吸技しか使えないってのに」

 

 聞けば聞くほどチートもいい所だと八幡は思う。こちらの手札は基本的に接近戦主体なのだから、理不尽もいい所である。

 

「まあ、そういうな。君が雷の呼吸を習ったのは、その対策でもあるんだろう?」

「………さぁ、どうでしょうか?」

「くくくっ、君の選択は間違っていない。そういう所を含めて、私は君を気に入ってるぞ」

「……はぁ」

 

 平塚は上機嫌に笑う。

 誰にも言っていないのに、こちらの考えは読まれているようだ。

 

 そんな風に話をしている―――その時だった。

 

「―――来たようだな」

「どうかしましたか?」

 

 平塚がぽつりと呟いた。

 

「お待ちかねの客が来たようだ。茶の用意をしてくれ、比企谷」

「―――分かりました」

 

 こちらにはまだ分からないが、どうやら誰か来たようだ。自身の未熟さを再認識しながら、八幡は茶の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして。私、鍛冶師の鉄穴森と申します」

 

 ひょっとこのお面を被った男性は、こちらに向かって頭を下げる。

 

「……久しぶりだな、鉄穴森」

「お久しぶりです、咲さん。まさか、あなたがいらっしゃるとは思いませんでしたよ」

 

 どうやらこの二人は知り合いのようだ。

 

「そうか。比企谷の刀はお前が担当か」

「いえ、私ではありません」

「―――なに?」

 

 平塚の眉がぴくりと上がる。そして鉄穴森の隣へと視線を移す。

 

「となると、そっちの彼が担当か」

「はい。こちらの「ふはははっ! お初にお目にかかるな、諸君」」

 

 鉄穴森の隣にいるもう一人の男が口を開く。灰色の髪をして、かなりぽっちゃりな体型をした男だ。

 

「我が名は義輝! 剣豪将軍 足利義輝! 以後、お見知りおき願おう!」

 

 男は高らかに自身の名を宣言した。しかし鉄穴森は即座にそれを訂正する。

 

「えー、彼が比企谷くんの担当である材木座 権兵衛くんです」

「ち、違うぞ。鉄穴森殿。その名は既に捨て去りし名。我が真の名は足利義輝である」

「駄目ですよ、権兵衛くん。自分の担当の方にはきちんと自己紹介をしないと」

「ぐぬぬっ、しかしこれを譲るわけには!」

 

 八幡と平塚を置き去りに、二人は言い争いを始めた。

 

「また変わった奴が来たもんだ。なぁ、比企谷」

「…………」

「どうした比企谷。大丈夫か?」

 

 八幡は自らの胸を押さえる。まるで古傷が痛み出したかのように。

 平塚はそんな八幡に声を掛けるも反応がない。

 

「むっ、どうした。我が魂の契約者よ。元気がないようではないか!」

「……ぐぅぅ」

 

 胸の傷がさらに痛む。それを何とか抑え込もうとするも、追撃は加速する。

 

「ふはははっ! 我が来たからには安心せよ! 我が腕より生み出されし不滅の刃。その刃は必ずや汝の役に立つことを宣言するぞ!」

「ぐほぉぉ!」

「し、しっかりしろ比企谷!」

 

 八幡は耐え切れなかった。彼を見ると思い出してしまうからだ。

 数年前に己に掛かっていた黒歴史―――中二病という病が。

 

「………ろ」

「む、どうした我が契約者よ?」

 

 八幡は何かを呟く。それが気になったのか材木座は八幡へと近付く。

 

「……め……ろ」

「む、聞こえんぞ。何と言っているのだ?」

 

 八幡の呟きを聞こうと材木座は耳を近づける。

 そして―――

 

「その中二病の言い方はやめろ!!」

「ぐぇぇっ」

 

 八幡の腹パン一発で地に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、これは本当に大丈夫なのか。鉄穴森」

「ええ、まあ。言動はアレですが腕はいいですよ。そこは保証します」

「こいつがねぇ」

 

 地に沈んだ材木座を平塚は見る。

 

「……うぅぅ、何故我がこのような目に」

「…………」

「そ、そのような目で見るな。こ、怖いではないか!」

 

 涙目になりながら八幡を見る材木座。しかし八幡は反応しない。虚ろな目で材木座を見つめている。

 心なしか、彼の目はいつもより腐って見えた。

 

「はぁー、材木座だったか。私が現役の時は里で見なかったな。いつ入ったんだ?」

「……四年前です」

「なに!?」

 

 その年数に平塚は驚く。

 

「おいおい。冗談だろう鉄穴森。鍛冶師として一人前として認められるのには十年は掛かる。そう言っていたのはお前だぞ」

「ええ、確かに言いましたね。しかし長は彼を認めました」

「はー、あの長がねぇ」

 

 鉄穴森の肯定に再度驚く。女にだらしない欠点があるものの、長の目利きは確かだ。その彼が認めたのなら立派な鍛冶師なのだろう。

 

「ふっふっふっふっふ。そう! 我こそ鍛冶の里随一の鍛冶師。足利義輝である!」

 

 材木座が復活した。

 

「我の武勇伝を聞かせてやろう! そう! あれは忘れもしない四年前。突如現れた鬼が、無辜な民を襲おうとするのをこの眼で確認した。あれは運命であった!」

「……知らない人を襲おうとした鬼を偶然目撃したんだな」

「はい。正解です」

 

 材木座の言葉を八幡は翻訳し始めた。

 

「しかし我に眠りしその力、覚醒すること敵わず。惜しくも鬼狩りにその手柄を横取りされてしまったのだ!」

「……鬼に全く歯が立たず、鬼殺隊の人の活躍を見ていただけだな」

「はい。これまた正解です」

 

 八幡は中二病を正確に翻訳していく。

 

「そ、そして我は自らの力を覚醒すべく修行の場へと赴いた。しかし、我の才能に嫉妬した輩により追放されてしまったのだ!」

「……育手の所で修業をしたものの、育手に見限られたんだな」

「はい。その通りです。因みに修業期間は三日だったそうです」

「よ、よく今のが理解できるな、君たち」

 

 平塚は二人に感心する。

 

「し、しかし此処からが本番だ! 長に才能を認められた我は、鍛冶師の道へと歩み今に至ったのだ!」

「つまり、最終的には鍛冶師の里へ押し入ったわけだ」

「はい。長の所に無理やり押しかけたそうです。そこで長が認めて鍛冶師見習いになりました。ただ鍛冶師としての腕は長が認めているので、そこはご安心を」

「……そうですか」

 

 漸く話が終わった。とりあえず言動に問題はあるが、鍛冶師としては問題ないようだ。

 

「おい、材木座」

「ち、違う。我の名は足利「―――材木座」は、はい。材木座です」

 

 八幡が凄むと素直に自分の名を認めた。

 

「はぁ、とりあえず刀を出してくれ」

「う、うむ。分かった」

 

 そして一本の刀が八幡の前に出された。八幡はその刀を手に取る。

 

「……これが俺の刀か」

「その通り! 持ち主によって色が変化することから、日輪刀は色変わりの刀と言われている。さあ、八幡よ。その封印を解くがよい!」

「だからその言い方は―――はぁ、まあいい」

 

 八幡は柄を手に持ち、ゆっくりと刀を鞘から抜く。

 刀身が完全に抜かれると徐々に色が変化していく。

 

 そして―――刀身部分が徐々に透明となっていく。

 

「こ、これはどういうことだ!」

「これは一体……」

「刀身部分だけ消えた? いや、これは」

 

 驚く三人を他所に、八幡は刀身部分に手で触れる。

 

「……消えてない。透明で見にくいですが、刀身部分はちゃんと存在しています」

「なるほど。色変わりによって透明色へと変化したということか」

「はい。その通りです」

 

 八幡と平塚は状況を把握する。残る二人は真剣な目で刀身を見つめる。

 

「鉄穴森殿。我が記憶が確かなら、このような色は今まで無かったのでは?」

「はい、権兵衛くん。鬼殺隊の長い歴史の中でも透明の刀は存在していない。これが初の事例です」

「くっくっく、なるほどなるほど」

 

 その言葉に材木座が歓喜する。

 

「素晴らしい! 素晴らしいではないか! 比企谷八幡よ! それでこそ、我が相棒としてふさわしい男だ!」

 

 材木座は八幡に向かって称賛の声を上げる。

 しかし―――

 

「比企谷。やはり君の適正呼吸は派生系だ。間違いないだろう」

「まあ、これを見れば納得できますが……はぁ、生身だけじゃなくて刀すら存在感ねぇのかよ、俺は」

「そう言うな。口で言うほど、この刀を嫌ってはいないように見えるぞ」

 

 平塚の言う通り八幡は一目見てこの刀を気に入っていた。

 理由は一つ。某王様の宝具に似ているからだ。

 

「まあ、有用ですからね。色々と有利に働くでしょう。透明ってのは」

「違いない。いい刀じゃないか。私も気に入ったよ」

 

 二人は全く聞いていなかった。

 

「あの、二人とも。我の話を聞いてもらえると「カァーカァー。任務デス! 任務デス!」

 

 材木座の台詞を遮り、別の声が遠くから聞こえた。そして一匹の鴉が部屋の外から侵入し、八幡の肩へと止まった。

 

 ―――八幡の鎹鴉だ。

 

「北北東ニ鬼ガ出マシタ。比企谷八幡ハソチラニ向カッテクダサイ。繰リ返シマス―――」

 

 鎹鴉が任務を知らせてきた。

 

「―――比企谷。これを」

「これは―――服ですか」

「鬼殺隊の隊服だ。着替えてこい」

「分かりました」

 

 平塚から隊服を受け取り、隣の部屋へと行く。

 そして隊服に着替えて再び戻る。

 

「うん。似合ってるぞ、比企谷」

「……どうも」

 

 平塚のお褒めの言葉に頭を軽く下げる。

 鬼殺隊の隊服は元の時代で言えば学生服によく似ている。しかし見た目通りではない。隊服は特別な繊維でできており、通気性もよく濡れにくくて燃えにくい。雑魚鬼の爪や牙では隊服を傷つけることすら出来ない性能があるのだ。

 

「では、行ってきます。平塚師匠」

「ああ、比企谷。分かっているとは思うが、決して油断はするなよ」

「大丈夫ですよ。逃げるのは得意ですから」

 

 自信満々に八幡は言う。

 

「うん、ならいい。気をつけてな」

「―――はい」

 

 八幡は平塚と別れの挨拶を交わした。

 

「では、比企谷殿。ご武運をお祈りしていますよ」

「はい。鉄穴森さん。ありがとうございます」

 

 鉄穴森とも挨拶を交わす。

 そして残りは―――

 

「ぐすん。やはり我は忘れされる運命なのだな。昔からそうだ。我の言うことなど誰も聞いてはくれないのだ……」

 

 俯きながら、一人悲しむ材木座権兵衛の姿があった。

 

「……はぁ。おい、材木座」

「な、何だ。我のことなど忘れて、他の輩と話しておればいいではないか」

 

 拗ねる材木座。面倒くさいと思いながらも話を進める。

 

「あーーその、だな……お前の打った刀は凄いと思った」

「!」

 

 材木座が顔を上げる。

 

「……だから、今後もよろしく頼む」

 

 八幡は右手を差し出す。その手をじっと見つめていた材木座は―――両手で右手を思いっきり掴んだ。

 

「うむ! うむ! 任せよ! 我が契約者、八幡よ。我が力を其方に為に存分に揮うことを約束するぞ!」

「……まあ、ほどほどにな」

 

 それが比企谷八幡の刀鍛冶師、材木座権兵衛との出会いであった。

 




私生活が少しゴタゴタしているので、今後の投稿は少し遅れ気味になりそうです。


大正コソコソ噂話

材木座くんは剣士としての才能は皆無でしたが、鍛冶師としての才能はずば抜けており、僅か四年で鍛冶師として認められました。実は今回が初めて隊士に刀を打ちました。
因みに、現代で言うところの中二病患者です。その言動故に、彼のいう事を理解できる人は少なく、鉄穴森は数少ない理解者です。



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