誰が為のツバサ   作:パンド

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翼の気持ち

 

 

 

 最近の自分はダメダメだ。

 伊吹翼には、その自覚があった。

 ダンスも歌も、まるで集中し切れてない。

 授業も頭に入ってこないし、学校では周りから心配されてしまう始末だ。

 しかし自覚はあったけれど、自ら覚ってはいたけれど、ダメダメな自分を変える方法が、今の翼には分からなかった。

 今日だって、来月のライブに向けてのレッスン中だというのに、声がいつものように、思ったように伸びてくれない。

 自分の声なのに、そのはずなのに、自分の思い通りになってくれない歯痒さが、彼女を悩ませていた。

 そんな悩みが表に出ていたのか。

 

「──ストップ。ここまでにしておこうぜ、翼も乗り切れてないみたいだしな」

「ジュリアーノ!! わたしまだ──っ」

「続けられないのは、自分が一番よく分かってるだろ?」

「…………」

 

 ジュリアの鋭い指摘に、翼は反論できなかった。

 確かに自分は、歌に乗り切れていない。

 赤髪のロッカーアイドルは、彼女の不調などとうに見抜いていたらしい。

 けれど、それを理由にレッスンを中断することを良しとできる翼ではない。少し前の彼女なら、これ幸いと休んでいたかも知れないが──あらゆる意味で、翼は変わった。

 以前よりも頑張るようになったし、ワガママも減った。それは彼女の頑張りを誰よりも応援してくれる人がいて、彼女のワガママを誰よりも聞いてくれる人がいたからで。

 すると、ジュリアの言葉に続くように、続きを代弁するかのように。

 

「ジュリアさんの、言うとおりだと思います。伊吹さんの気持ちも分かりますが、今は少し休みませんか? 休憩も大事、だぞ」

「瑞希ちゃん……」

 

 この三人組の最年長、真壁瑞希は場を取りまとめるようにそう言った。

 表情豊かなポーカーフェイスに定評のある彼女は、周りを普段からよく見ている上に、空気を読むことに長けている。

 今回も翼の調子が悪いことは承知の上で、その上で、ジュリアが翼を気遣ってることだって彼女は分かっていた。

 

「ほら、ミズキもこう言ってることだしさ」

「……うん、ちょっと休憩しまーす」

 

 ジュリアに促され、翼も休憩を取ることに同意した。彼女と初めて組んだ時とは大違いだと、ジュリアと瑞希は顔を見合わせて──ジュリアは苦笑し、瑞希は優しく小さな笑みを浮かべる。

 

「気を落とさないでください、伊吹さん。誰にでもこういう日はあります。私も先日、1日に5回も噛んでしまいまして──」

「ミズキのそれはちょっと違うと思う……」

「なんと、それはショックです。がーん」

 

 ちっともショックを受けているようには見えない顔と口調であった。

 ともあれ、いったん小休止である。

 三人はフローリングの床に腰を下ろし、思い思いの体勢で体を休めることにした。

 

「けどさ、こう言っちゃなんだけど。少し以外というか──珍しいよな、翼が分かりやすく調子悪いのって」

 

 壁に背を預け、体育座りの構えから片足を伸ばし、ジュリアは先ほどの会話を続けるように二人へ切り出した。

 

「え〜、そうかな? 瑞希ちゃんもそう思う?」

 

 あぐらをかいた翼に尋ねられ、とんび座りをしていた瑞希はやや思案顔になると。

 

「そうですね、調子の波は誰しもあります。でも、伊吹さんの波は、今回に限り大きいように思いました」

「あたしも、そんな感じだ。いつものとは、やっぱどこか違う」

「もうっ、2人で納得しないでくださいよ〜。どういうこと?」

 

 なにやら勝手に通じ合ってる2人へと、頬を膨らませて翼は抗議する。自分のことなのに、2人の方が分かっている風なのはどういうことなのだと。

 確かにここ一週間ほど、翼の調子が下がり気味であるのは事実だ。その点について、ジュリアと瑞希の見解は一致していた。

 

「ほら、翼の調子が悪い時って、悪い夢を見たとか、好きなアイスが売り切れてたとか──大抵はこういうパターンだろ?」

「ですが、数時間後にはいつもの伊吹さんに戻っています」

「だな、こっちからだと気付きにくいことがあっても、直るのも早い。小さい波だからな」

 

 2人の自身に対する評価を聞いてるうちに、翼はなんだかむず痒くなってきた。

 褒められるのは大好きな彼女だが、この話題に乗ったのも翼本人だが、こうも淡々と分析されていると、妙に気恥ずかしく感じてしまう。

 

「そうなると、今回はとても大きい波が来ている。ということになるのでしょうか」

「あぁ、同感だ──なぁ、翼。もし悩みがあるなら、あたしらで良ければ相談にのるぜ?」

「…………うん」

 

 そんな、通常運転の翼からは考えられないほど萎んだ返事に、ジュリアは内心──こりゃ重症だな、と零す。

 同時に、なんとか力になってやれればとも思った。翼には、この悩める少女には、誰よりも自由でいて欲しいから。

 

「私たちは伊吹さんより、少しだけお姉さんですから。遠慮せずに話してみませんか?」

 

 瑞希も年上として──そしてなにより仲間として、翼の心を晴らせればと、澄んだ声に目一杯の慈愛をこめて笑いかける。

 2人の、自分を気遣う声に、翼は少し考えた。ここ一週間、自分を悩ませているその原因について。

 原因となっている、あの先輩のことを。

 夏祭りのあの日、母親と暮らすために北海道へ行くと行った彼──岩根勇吾のことを、考える。

 なぜ、彼が遠くへ行ってしまうことが、こんなにもショックだったのか。

 

「たとえばね、すごく近くにいた人が、遠くに行っちゃうってなったら──2人はどう思う?」

「ん、それって友達が引っ越すとか、そういう話か? まぁ、ビックリするだろうし……寂しくなるかもな」

 

 けど、とジュリアは付け足す。それこそが大事なのだと言うように。

 

「それ以上に──向こうでも頑張れよって、あたしは思うよ、きっと」

 

 そんなジュリアの言葉に、翼は自分の気持ちを思い出す。彼の話を聞いて、自分はなにを思ったのか。

 遠いところへ行ってしまう岩根勇吾に、なんて言おうとしたのかを。

 

 ──ユーゴ先輩、一緒にいてくれないの?

 

 そうだ、確かに自分はそう思い、言おうとした。彼の事情よりも、自分の気持ちを優先して。

 そのあと、応援したいと伝えたあの言葉に、一体どれだけの本心が込められていたのか。どこか無意識に罪悪感を感じていて、彼のいる喫茶店へも行けなくなってしまったというのに。

 

「じ、じゃあ。そう思えなくって、応援できなくて──行って欲しくないって思うのは、悪いことなの?」

「わ、悪いとは思わないけどさ。えーっと、そのだな……」

 

 もしかしたら、自分の考え方が駄目だから、こんな風になってしまったのかなと、翼の心に冷たい風が吹く。

 自然と言葉にも焦りが出て、まさか翼がこういう反応をするとは思っていなかったジュリアも、それに釣られて微妙な空気が流れてしまう。

 そして、まるでタイミングを測っていたかのように。

 

「──それはきっと、その方が伊吹さんにとって、とても大切な人だからなのだと思います」

「とっても、大切?」

「はい。大切だからこそ、側にいたい、隣にいて欲しい。そう思うのは、想ってしまうのは、自然なことではないのでしょうか」

 

 瑞希の落ち着いた声に、翼はまたもや考える。岩根勇吾のことを、彼に背負われた時に感じた、あの幸福感を思い出す。

 

「……確かに、そうかもな。自分の気持ちにウソはつけない、その気持ちは大切にするべきだと思うぜ」

 

 自分の、気持ち。

 伊吹翼の気持ち。

 彼に触れていた場所から広がっていた、例えようのない暖かさ。それをずっと感じていたいと思った。

 だから、遠くに行って欲しくなくて。

 隣に、側に、一緒にいて欲しくて。

 彼に手を引かれて──彼の手を引いていたい。

 これは翼のワガママなのかも知れないけれど、その気持ちに嘘はなかった。

 

「……わたし、一緒にいたい──ユーゴ先輩に、隣にいて欲しい」

 

 ポツリと、本音が零れる。

 口に出せずに、心の中に仕舞っていた、翼の本心が。

 そして、それを間近で聞いていたジュリアと瑞希は。

 

「──ん、ユーゴ?」

「……先輩、ですか?」

「え??」

 

 聴き逃すに逃せない、聞き捨てならない言葉に食いついた。

 

「お、おい翼。その近くにいた人って、まさか男子……なのか?」

「え〜っと、ユーゴ先輩は男の子だけど、それがどうかしたんですか?」

「いや、どうしたって……なぁ?」

 

 つまりそういうことだろ、と。ジュリアは瑞希に視線で同意を得ようとした。得ようとしたが、肝心の瑞希は顔を赤く染めてしまい、両手を頬にそっと添えながら。

 決定的な、確定的な一言を、口にする。

 

「驚きました……伊吹さんは、恋をしているんですね。ドキドキ」

 

 ──恋。

 恋を、している。

 誰が、誰に?

 そんなことは決まっている。

 伊吹翼が、岩根勇吾にだ。

 伊吹翼は、岩根勇吾に恋をしているのだ。

 不思議なほどに、ストンと。

 その言葉が雨粒のように、彼女の心に落ちてきて、溜まっていく。

 溜まった言葉に、想いに、彼との記憶が映し出されて。

 ゴミ捨て場で、あんなにも一所懸命な顔をしていた彼が。

 自分の夢中になれるものを、一緒に探してくれた彼が。

 雨が降っていたあの時、自分に傘を押し付けて走っていた彼が。

 自分が迷っていた時に、一番側で手を引いてくれた彼が。

 足首を挫いて、蹲っていた自分を助けに来てくれた彼が──岩根勇吾のことが、好きなのだ。

 でも、彼は遠くに行ってしまう。

 せっかく、自分の気持ちに気付けたのに。

 ユーゴ先輩が好きだって、気がつくことが出来たのに。

 簡単には会えないところへ、引っ越してしまう。

 こんなの、あんまりだ。

 翼の目尻に、うっすらと涙が浮かび、やがて収まり切らなくなって零れ落ちていく。

 ぬぐっても、ぬぐっても、止まらない。

 

「つ、翼?! どうした? どっか痛むのか?」

「伊吹さん、大丈夫ですか? 困ったぞ、瑞希……」

 

 急に泣き出してしまった仲間の姿に、ジュリアと瑞希は手を差し伸べようとしつつも、理由が分からずオロオロするしかない。

 

「どうしようジュリアーノ、瑞希ちゃん……ユーゴ先輩が、ユーゴ先輩がいなくなっちゃうよぉ〜!!」

 

 この一週間、我慢してきた感情が、恋心を自覚したことで爆発してしまった翼は、衝動を抑えきれず──右腕でジュリアを、左腕で瑞希を巻き込むように抱きついて、床に押し倒した。

 突然の抱擁に、リアクションを取れずにいる2人を、翼は強く強く抱きしめる。

 まるで、寂しさから逃れるように、強く。

 ジュリアは、そんな泣き崩れた翼を見てから、彼女の頭越しに瑞希へ目線をやった。

 瑞希もまた、翼の様子を伺い、ジュリアと視線を合わせた。

 彼女たちは無言で了承を取り合うと。

 

「とりあえず、さ。なんの解決にもならないけど、あたしらは側にいるよ。翼の側にいる」

「はい。私たちは、伊吹さんのツバサ。ですから」

 

 そう言って力強く、けれど優しく──翼の体を、そして心を抱きしめた。

 

 

 

 ■ □ ■

 

 

 

「それでね、ユーゴ先輩は──ジュリアーノってば、わたしの話聞いてます〜?」

「あぁ、聞いてるよ。もうなんべんも同じ話をなっ!!」

 

 どうしてこうなったと、ジュリアは頭を抱えた。

 たしか泣き疲れて落ち着いてきた翼に、瑞希が『伊吹さんはそのユーゴ先輩という方の、どんなところが好きなのですか?』と訊いたのが、尋ねてしまったのが始まりだった気がする。

 そこから始まったのは怒涛の惚気だ。

 やれユーゴ先輩は優しいだの、勉強を教えてくれるだの、傘を貸してはくれたけど相合傘はしてくれないだの、聞けばアイルの件にも一枚噛んでると言うではないか。

 ジュリアとて、翼が元気になってくれるなら、そのユーゴ先輩とやらの話を聞くのも吝かではない。

 吝かではなかったけれど、こう延々と話されれば流石に耳と心が疲れてくる。

 ついでに言い出しっぺの瑞希が別の予定で抜けてしまった。なので、先程からジュリアは一人で翼の猛攻を受ける羽目になったというわけだ。

 

「──それでね、ユーゴ先輩顔赤くしちゃって、なんだか可愛くて」

「そうだな、うん。カワイイカワイイ」

「……盗っちゃダメですよ?」

「盗らねえよ!! だいたい、あたしの好みじゃない」

 

 少なくとも、翼の話を聞く限りでは。

 

「え〜、じゃあジュリアーノはどういう人が好きなの?」

「……そうだな、たとえば好きな相手でも悪いところはハッキリ言えるような奴なら少しは認めてやっても──いや、なに答えてるんだあたしっ!!」

 

 危ない、知らぬ間に翼のペースに乗せられていた。我に帰ったジュリアは、もはや呆れたような目線を翼へ向けると。

 

「まぁでも、気持ちがハッキリしてよかったな。あとは告るだけだろ?」

「…………」

「……翼?」

 

 あとは告白するだけ。

 果たして、そうだろうか。

ジュリアの言葉に、翼は三度考える。自分自身に対して、問いかける。

 確かに伊吹翼は、岩根勇吾への恋心を自覚した。自身の心に、淡い炎が宿っていることを、今の彼女は知っている。

 けれど。

 彼に告白をして、仮に気持ちを受け入れてもらえて、恋仲になれたとして。

 その先にあるのは、約束された別れだ。

 離れ離れになることは、絶対に避けられない事実だ。

 で、あるのなら。

 そうであるなら、想いを伝えたとしても、辛い思いをすると分かっているのなら。

 告白することは、本当に正しいことなのだろうか?

 翼には、最後までその答えが出せなかった。

 

 

 

 ■ □ ■

 

 

 

 やってしまった。

 やらかしてしまった。

 伊吹翼は、特大の後悔とともに膝を抱えて座り込んだ。

 ジュリアと瑞希に悩みを打ち明け、岩根勇吾への気持ちを自覚したあの日から、早3週間。

 翼は相変わらず、彼の待つ喫茶店へは行けずにいた。会ってしまえば、きっと自分は我慢できないと分かっていたからだ。面と向かってあったら最後、秘めていた想いをぶつけて──たぶん、いや間違いなく言ってしまうだろう。

 行かないで欲しい、側にいて欲しいと。

 そんなことを言ったって、彼を困らせるだけなのに。言ってしまって、自分自身悲しい思いをするのは分かっているのに。

 だから、自分が我慢すれば、そうすれば良いんだと翼は考えた。

 本気で好きだからこそ、先へ進もうとしているあの人の、邪魔をしたくない。

 翼らしくない。と、誰かは言うかも知れない。けれど、そこまで思い詰めるほどに、彼女の気持ちは本物だった。

 

「……ユーゴ、先輩」

 

 放課後、シアターに向かおうとしていた翼は階段を下ってくる人影を──岩根勇吾の姿を見て、逃げるように学校を飛び出してしまった。

 なぜ彼があそこにいたのか、その理由は明白以上に明確だ。

 岩根勇吾は、伊吹翼へ会いに来た。

 そうだ。

 会いに来て、くれたのに。

 結局、シアターに来たは良いものの、誰にも会いたくなくて──翼は一人、倉庫に敷かれたマットレスの上に座り込んでいた。

 こんなことをしてたって、なんの解決にもならないのに。

 自分はいったい、何をしているんだろう。

 いったい何を、したいんだろうか。

 それが分からなくて、辛くて寂しくて、目の端から涙が出そうになる。

 

「あら、見つけちゃった。翼ちゃん、どうしたのよーこんなところで」

「このみさん……」

「もう、カワイイ顔が台無しじゃない」

 

 いつの間に倉庫へ入って来たのか。

 シアター最年長であり、シアター最小級であるアイドル──馬場このみは、体育座りをしていた翼のもとへ歩み寄ると、目尻の涙をハンカチで拭い、そっと笑いかける。

 その姿が、いつもよりずっと大人びて見えた。

 

「このみさん、なんだかお姉ちゃんみたい」

「なによー、私はいつでも皆んなのこのみお姉さんよ?」

 

 ただでさえ小柄なこのみが、頬を膨らませて言うものだから、余計に子供っぽく見えると思いきや、なぜだか今日の彼女からは大人らしさしか感じない。

 ごく自然に、このみは翼の横に腰をおろす。

 チラリと横目で彼女の表情を伺えば、そこにあるのは慈しむような顔で。

 

「──岩根くんのこと、マスターから聞いたわ。北海道へ行くって」

「……はい、そーなんです」

「会いには、行かないの?」

 

 そして、想いを伝えに行かないの?

 暗にそう言われた気が、問いかけられた気がして、翼は言葉に詰まった。

 上手く二の句が繋がらない。

 言いたい言葉と、言えない言葉が、頭の中で迷子になる。

 そのせいで、言い訳じみた言葉ばかりが頭に浮かんでしまう。

 

「でも、ユーゴ先輩は遠くに行っちゃうから、会ったら別れるのがもっと悲しくなるから……だったら、もう会わない方が……」

「翼ちゃん、いいの? 本当にそれでいいの? ──後悔、しない?」

 

 後悔、するんだろうなと翼は思った。

 彼が北海道にいった、その後で、悔いるんだろうなと。

 会っておけばよかったと、告白すればよかったって。

 そう思うんだろう。

 けど、仕方ないじゃないか。

 だってもう、会ったところでどうしようもないのだから。

 後悔することになっても、それでも──

 

「私はね、やらずに後悔するより、やって後悔した方がいいだなんて、無責任なことは言えないわ」

 

 でもね、と馬場このみは翼の両肩に手を乗せ、彼女の瞳を覗きこむ。

 

「翼ちゃんには──やった上で、後悔しないで欲しい」

 

 だから、きちんと会って、話をして。

 その上で、後悔せずに前を向きなさい。と、このみは諭す。

 岩根勇吾が、先へ進んだように。

 翼もまた、勇気を持って一歩踏み出さなくてはならないのだと。

 一歩前に踏み出して。

 自分の本心に、本音で──そして本気で、ぶつかる時がきたんだって。

 

「それにほら、翼ちゃんが会わない方がいいと思っていても──相手も同じとは、限らないでしょ?」

 

 そう言いながら、このみは倉庫の入り口へ翼の視線を誘導する。

 果たして、そこには人影があった。

 まさか、そんな。

 飛び込んできた光景を、心が否定し、頭もそれに追従しようとする。

 しかし、翼の否定を拒否するように。

 

 

「よ、久しぶりだな。伊吹さん」

 

 昨日ぶりみたいな気軽さで、片手を軽く挙げながら、岩根勇吾はそう言った。

 

 

 

 

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