私、婚約破棄されたはずの王子様に無意識に愛されてたようです。 作:@しおむすび
チュンチュンと小鳥がさえずり、雲ひとつない青空が広がる晴れやかな朝。
でも今はそんな理想的な朝が皮肉でしかない。
「マリーお嬢様、おはようございまー…すぅ!?どうしたんですかその顔色!」
「ああエレノア…おはよぉ。ちょっと眠れなくて」
エレノアは私が小さい頃から一緒にいる侍女だ。年も近いので、侍女というより姉のような存在だ。
「ねえエレノア、私ってハルト殿下と婚約してたりする…?」
「もちろんじゃないですか!」
「そう…そうなのね…っ、あーもう訳わかんないぃぃ!」
「お嬢様ぁぁ!?」
ベッドで突然暴れ出した私にエレノアがあわあわしたり、半泣きになっているところを慰めれられながら着替えさせてもらったり、朝から忙しいことだ。
主に私のせいだけども。エレノアほんとごめんね。
「おはようマリー。…なんだか顔色が悪いな、大丈夫なのか?」
「そうよ、しんどいの!?大変!待っててね、ママすぐお医者さん呼ぶわね!」
「あーもーちょっと待って!大丈夫!大丈夫だから一旦落ち着いて!特にお母様!」
うちの両親と使用人たちはなにかと私に対して過保護だ。使用人たちになんとなく聞いてみたところ、小さい頃からの私を知っているので娘のように見えるらしい。嬉しいような、くすぐったいような…。
「あのねお父様、お母様、私ってハルト殿下と婚約してるの?」
「え?そうだろ?」
「もちろんよ?」
ええ…うっそぉ…。
「ちなみにー、婚約したきっかけってなんだっけぇ…?」
「わたくしよーく覚えてるわよぉ、マリーが小さい頃王宮に行ったときハルト殿下がマリーにいきなり婚約を申し込んだのよ!」
「へ…?」
「あの時の殿下可愛かったのよ、『マリーさんをおよめさんにする!』って真っ赤な顔で!マリーもオッケーしたものだからすぐに正式に婚約したのよ!年甲斐もなくキュンキュンしちゃうわー!」
「そういえば、マリーはあのとき披露宴も会うのも嫌がってたなぁ、恥ずかしかったのか?あの時は王やハルト殿下にその話は通していたが、ちゃんと今では会ってるだろう?」
「…あー、そうだったそうだったー、思い出したー」
「マリー…やっぱりどこか悪いんじゃないか?朝食を食べ終わったら部屋で休んでおきなさい」
「う、うん…そうする」
「やっ、やっぱりお医者さん…!」
「大丈夫大丈夫大丈夫」
頭が回らないせいで全く味の分からない朝食を食べ終わり、フラフラと自室に戻って行儀悪くベッドにダイブする。
ごめん、本当に申し訳ないハルト殿下…。
「…と、言うわけでした…。本当に本当に申し訳ございませんハルト殿下!!」
事実を知った私はなるべく早く王宮に向かいハルト殿下に謝罪することにした。
「いや、頭をあげてくれ…実際マリー嬢とはパーティーで会うくらいで個人的に会っていなかったしな。それにしても、面白いことに…」
思いっきり笑いを堪えている。隠しきれずに肩が震えていた。まぁ、そりゃそうだろうなぁ。
むしろ怒られても当然なことだと身構えていたので笑われる方が助かる。
「さて、俺とマリー嬢はどちらにせよ婚約破棄したわけだが…」
「?はい」
「あ…その…もし…俺がまた君と婚約したい、と言ったら…」
「えっ!?」
「いや、あれだぞ!?王族命令とかではないから、君が嫌なら断ってくれてもいいんだ。…だが」
ハルト殿下と目があった。イアンとはまた違う、一生懸命な目。
「ずっと、小さい頃から君が好きだったんだ。パーティー会場で見かけるたびに目で追ってしまっていた。年々綺麗になる君に夢中になったんだ…」
「…っ!」
少しの沈黙が走る。気まずい。気まずいけども、前みたいな気まずさじゃない。
すごく、甘ずっぱい。むずむずする。なんだか恥ずかしくてお互いに顔をあげられない。
「あの、私、急には…」
「い、いいんだ、ゆっくり考えてくれ。…俺も、ちょっと余裕が持てない」
「わかりましたっ…」
それからは特に話すことはなかった。というより話せなかった。たまにチラッと相手を見てはすぐに目をそらしたり、目があってあわあわしたり。これじゃまるで付き合いたての…と考えて慌てて忘れようとしたり。
なにこれ、なにこれ。
そんなとき、コンコンとドアがノックされた。少しホッとするような、残ね…いやいや、ちがうちがう!
「誰だ?」
「ハルト様、イアンです」
「ああ、入れ」
わぁー…。
このタイミングでハルト殿下とイアン。
私、大丈夫かな…?
「おや、マリー様…」
「ど、どうも、イアン」
「どうも」
イアンがニコリと妖しく微笑む。
あれ、イアンこんなキャラだっけ?なんかもっとおとなしい文学少年だったはずなのに…いや、あの時の夜は…。って、あぁぁっもう!一旦落ち着こう。トリップしかけた。
「それでハルト様、これなんですが…」
「ああ、これは…」
ああして2人が並んでいると、騎士のようなハルト殿下と文官のようなイアンが対照的に見える。
どうやら仕事の話をしているようだ。ちょっと静かにしておこうっと。
なんとなく部屋を見渡す。この間来たときも思ったけどいいところだなぁ。あの日、正直めちゃくちゃテンパることばっかりだった…。
そういえば、アリサ様は塔に軟禁されてるんだっけ?
せっかく力を持ってるなら、いいように使えばいいのに…。
「マリー様、おわりましたよ」
「ああ、そう」
「それで、この間の話なんですが…」
「へっ!?」
「ハルト様とマリー様が婚約してるかどうか、の話ですよ?」
びっくりしたぁ…。ハルト殿下の前であの夜のことを話すとは思えないけど…。
あ、ちょっとニヤニヤしてる。なんか悔しい。
「あ、あぁそれね!それが…」
とりあえずイアンにも同じようにことの顛末を話す。でも、幼いころのハルト殿下からの求婚のことはなんとなく伏せておいた。
「なるほど、そういう…ふふっ」
「あっ、今笑ったわね!」
「いえいえ、とんでもございませんよ」
「ふーん?」
「な、…なんだか2人とも仲がいいな?」
「私とマリー様、この間意気投合したんですよ。ね?」
「そうなんですよ」
「そうか…うん…なんか…まぁ、いいことだな」