デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

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良く考えたらなのはって親しい人のことは名前で呼ぶよね?
ということで、いまさらですが矢島の名前を愛称で呼ばせることにしました。
さすがに『敬一郎君』は長いし呼びにくいですよね?
これより前話の方も修正を行いました。
重ね重ねすみません。


第十五話

「さて、これでもう用はないしとっとと帰らせてもらおうか!?」

 

帰宅の用意をしようと岸の方へとした瞬間、閻魔刀とアライブを介してジュエルシードとは違う力を感知する。

感じた方向を見ると、あいつらのいる場所の上空・・・真上にあった雲の中から強力な威圧感が放たれていた。

 

「チィッ!まだなにかあるのか!」

 

(なのはたちは・・・だめだ、気づいていない!)

 

いつでも抜けるように刀を構えながら、急いで雲が出来た方向に全力で飛ぶ。

なのはたち・・・特にテスタロッサが何か気づき始めたがあの様子じゃおそらく回避や防御は間に合わないだろう。

自分でも珍しく焦りを覚えながら、一刻も早く行かねばと飛んでいく。

 

(・・・まずいな!さすがに距離が離れ過ぎている!!)

 

しかし、こちらが飛ぶスピードよりも格段に速く雲から感じるパワーが大きくなっていく。

 

(このままじゃ間に合わない!こうなったら・・・)

 

間に合わないと判断した俺はムラサマを抜き、紅く輝く刀身に自分のスタンドエネルギーを圧縮して載せていく。

スタンドエネルギーは能力によって徐々に高密度の重力場へと変換されていき、刀身にそれが黒いオーラの様になって吹き出し始める。

 

---ゴロゴロゴロ・・・

 

上空に紫色の稲光が鳴り始める。もうあまり時間がない!

 

「ジャアアアアアアアッ!!」

『ギルァララララララララララララララララララララララララララララララァッ!!』

 

---ズバシャアアアッ ズババババババババババババババババババッ!

 

雲の中から感じる強力な威圧感・・・その中心部分に向けて圧縮した重力場を放ち、更に連中と威圧感の発信地点との間に盾になるように空間斬りを乱発する。

なのはたちがこちらを見て驚愕しているが今はそんなことを気にしてる場合じゃない。

 

---ズドォ――z______ンッ

 

重力場があいつらの頭上に至ったあたりで、紫色の雷が落ちる。

それは途中で飛ばした重力場に当たって大半がどこかしらへ散り散りになり、残った分の雷も放っている空間斬りにあたってほとんどがなくなってしまった。

 

「きゃあああ!?」

 

「!フェイトちゃん!!」

 

(チッ、少し残っちまったか!)

 

まあそれもあくまでほとんどという範囲で、やはりほんの少しだけ残ってしまった分が空間斬りの中を通過し、テスタロッサに当たってしまう。

 

威力そのものは大したものじゃないと思うがもともとの疲労が大きかったせいもあってかテスタロッサは気絶してしまい、そのまま海へと自由落下し始める。

 

・・・というか俺自身もそろそろきつくなってきた。

重力場を飛ばすなんて慣れないことを、しかもかなりの力を込めてやったせいで割と体力と精神力を持っていかれている。

ぶっちゃけた話、もともとこの芸当は鉄球の回転エネルギーと併用して使うものだから、こういう風にただ集めて飛ばすのには向いていないんだ。

今になって少しミスしたかと反省する。

 

「フェイト――ッ!!」

 

気を取り戻したアルフがテスタロッサを追い、海面すれすれのところで何とかキャッチする。

そしてそのままの勢いで、ジュエルシードを奪取しようと一気に飛んでいく。

 

---ガシィンッ

 

だがあと少しの所で、突如空間転移のようなもので現れた黒い格好の少年によって遮られた。

何気に進行を防ぐと同時にジュエルシードをいくつか掴み取ったあたり、なかなか抜け目のない奴だと少し感心してしまった。

 

(・・・・・・いや待て、いつまで俺はこんな考察をしているんだ?このままいたって無駄に面倒事に巻き込まれるだけじゃないか。そもそもまだ顔出す予定ないしよ。)

 

少年がアルフに吹っ飛ばされるところを見ながら正気に戻ったようにハッとなり、これ以上何かが起こらないうちにさっさと岸の方へ退却させてもらう。

たぶん俺の様子もアースラの誰かしらが見ているだろうから、岸に上がってからは一度完全に身を隠したうえで帰宅する必要があるだろう。

という訳でマン・イン・ザ・ミラー!今回は君に決めた!!

 

 

 

 

 

Side:矢島 敬一郎

 

俺たちを助けた仮面の剣士の背中を、GUNDAMのメインカメラで撮影しながらただ見届ける。

おそらくだが、アースラで見た時と先ほどの合体した竜巻が消えた現象はあいつが引き起こしたのだろう。

 

・・・どうにも気にかかることがある。

あいつ自身が振った、あの見覚えがある紅い刀身を持った刀。

そして次に、誰も持っていないにもかかわらずハイスピードカメラにもほとんど映らない速さで刀が振るわれたこと。

 

「・・・・・・なるほど、そういうことか。」

 

俺の頭に見知った友人の顔が浮かぶ。

一瞬前に俺を転生させた神からあれ以来転生者が来たという話はないし、多分あれはあいつで間違いないだろう。

けどそれじゃああの攻撃は一体なんだったんだ?スタンドだけであんなことができるとは考えにくいし・・・もしかしてまだ隠してる特典があったとか?

 

「あの、ケイイチ君・・・」

 

何時の間にかなのはが傍まで来ており、俺に話しかける。

 

「ん?なんだなのは。」

 

「うん、リンディさんが一度アースラに戻ってって言ってるから、私達も早くアースラに行こう。」

「そうか、解った。」

 

とりあえずあいつのことは黙っていようと考えた俺は、なのはやユーノ、戻ってきたクロノと一緒にアースラに転移した。

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、今回はお疲れ様でした。そして三人とも、あなた達がこちらの指示を無視したことについてですが・・・」

 

何だ?そのことならこちらも理論武装は十分だぞ?ヘイカモンカモーン!

 

「正直な所・・・矢島さんの言うとおりこちらの判断にも誤りがあったと言わざるを得ません。確かにあの状況では、ジュエルシードの封印は彼女達の確保よりも遥かに優先すべき事項だったのですから。」

「ですので、結果的にもいくつか得るところがありましたし、よってこの件に関しては不問といたします。」

 

不問にするという言葉に、ユーノとなのはの顔が一気に明るくなる。

俺としては当然の答えだと思うけどな。

まあ散々馬鹿にするような発言をしたのは本当にちょっぴりとだけ反省はしているが・・・それだけだ。

 

「ただし!指示や命令を守ることは個人だけでなく、集団を守るためのルールです。これからはちゃんとこちらの指示の上で行動してもらいますよ。」

「「はい!」」

「・・・了解しました。」

「それじゃあ、問題はここからね。クロノ、何か事件の大元について心当たりは?」

「はい。エイミィ、モニターに。」

「はいはーい。」

 

そこから先は、クロノがフェイトの母親、プレシア・テスタロッサの経歴などを話していた。

 

あらかたの話を聞いたところでリンディさんはエイミィさんに詳しい情報を調べさせるも、失踪後の情報はほとんどが抹消されていて詳しい情報はもう少し時間がかかるそうだ。

 

「となると、プレシア女史もフェイトちゃんも、あれだけの魔力を放出すればそうそう身動きもとれないでしょう。その間にアースラのシールド強化もしないといけないし・・・後はあの剣士ね・・・」

 

リンディさんの最後の一言に、エイミィさんやクロノが顔を強張らせる。

 

「剣士って言うと・・・あ!そういえばあの仮面の人!」

 

なのはが思い出したように声を上げる。

 

「ええ、エイミィ、そちらの剣士について何か分かったことは?」

「それが・・・あの人物を中心とした数メートル四方でジャミングのようなものを受けてしまって、映像関係以外のあらゆる探知が無力化されていたんです。かろうじで分かった事と言えばそのジャミングに魔力が一切使用されていなかったことと、あの人物が持っていた刀のどれかがロストロギア級の代物であったことくらいしか・・・」

 

・・・あれ?スタンドってそんなに万能だったっけ?

 

「やはりか・・・あれだけの事をやってのけたんだ。魔力が使用されていないというのは気になるがおそらく奴もその手の関係者なんだろう。」

 

いえ、たぶん違います。それうちの友人でスタンド使いです。

 

「ふん、それがどうしたというのだ。たかが雑種一匹にいちいち手を煩わすこともあるまい。」

「いやなに最初からいたかのごとくしれっと立ってんだよお前!」

 

何時の間にかなのはの隣にいた界統に思わず突っ込んでしまう。

なのはの表情も一瞬で嫌悪感MAXになる。

 

「と、とにかく、その後の足取りはどうなっているの?」

「すみません、海岸沿いの公園までは捉えられていたんですけど・・・何かを取り出したかと思った瞬間いきなりその場から消えてしまって・・・」

「消えた?転移魔法を使ったのか?」

「ううん、それがどうも違うみたいで・・・魔力も何も出さずに、まるで最初からそこにいなかったみたいに消えたの。」

「その時の映像は出せますか?」

「はい、ちょっと待ってください・・・」

 

エイミィさんが素早くキーを押し、机の上に画像を出す。

後ろ向きであまりよくわからなかったが、確かにコートの内側から何かを取り出すしぐさをした後、まるで最初からいなかったかのようにその場から消えた。

 

「他に映像は?」

「いえ、システム復旧中の物だったので残念ながらこれ以外には・・・」

「そう、わかったわ。いまだに回収されていないジュエルシードの事と言い、まだまだ問題は多そうね。」

 

そう言うとリンディさんは椅子から立ち上がり、俺達の方を見る。

 

「あなた達は、一休みしておいた方がいいわね。」

「あ、でも・・・」

「お言葉に甘えとけよなのは。たぶん向こうもしばらくは出てこられないだろうし俺達もあんまり学校休んでたらやばいじゃん。」

「おい貴様、俺を差し置いてよm「黙ってて。」{ドボォッ}ガハッ?!」

 

さらっと嫁扱いしようとした界統がなのはのボディブロウでK.Oされる。

俺とユーノだけでなく、それを見ていたクロノの額に多量の冷や汗が浮かんだ。

 

「・・・ンン、ということであなた達の帰宅を一時許可します。ご家族や学校に少し顔を見せた方がいいわ。」

 

気まずい空気の中リンディさんが咳払いをし、そう言った後会議室を離れた。

 

「なのは、とりあえず家に帰ろう。恭也さんたちも心配しているよ。」

「・・・うん。」

「それじゃあ早いとこ帰るか。正直俺もうへとへと・・・早く寝慣れたベッドでだらけたいよ。」

「にゃははは、そうだね・・・」

 

やれやれ、今日は一段と疲れた・・・

 

 

 

 

 

Side:梶原 泰寛

「つ、疲れた・・・」

 

鏡の世界から自宅まで戻り、風呂に入ってさっぱりした後自分のベッドにダイブする。

 

『今日ハマタ一段ト疲レマシタネェ。』

「まったく、ジュエルシードもそうだけど人の目をここまで気にしなきゃならんってのがまたストレスの元だ。」

(けどようやく終盤まで来た。俺の持っているジュエルシードは全部で八つ。海で回収された分は六つ、残りの七つはあいつらの誰かが持っているだろう。)

 

これでようやくこの事件も終わる・・・俺の持っているジュエルシードがかたずけばな。

 

(さて、そろそろ真面目に打ち明けるタイミングについて決心しとかないと・・・)

 

今回の事件以降にあるであろうもう一つの危機・・・それについてより俺が安心して事を進めるためにはこのことは必須だ。

いざというときの協力関係ができていなければ行動が最低でもワンテンポ遅れるし、情報源が矢島一人ってのはあいつにもしものことがあった時の可能性が怖いからな。

 

ただ・・・やはりそのことを念頭に置いても、自分の秘密を他人にさらすのには抵抗がある。

 

自分の特異性、特に情報面を相手にさらすと、どこからともなくそれが漏れて巡り巡って自分を脅かすような気がしてならないからだ。

俺の特異性を(転生者ということだけだが)知っていて、尚且つ一番仲がいいと思われる矢島にも今までスタンドを使えるくらいの事だけで、本当にもらった特典の事や俺自身のスタンド、あの過去については全く話していない。

・・・まあいずれは(どの程度明かすかは別だが)話すことには違いない。覚悟は決めておくべきだろう。

 

(・・・・・・夕飯まで少し寝ておくか。)

 

時計のタイマーを七時にセットし、心を空っぽにして目をつぶる。

 

 

 

---翌日・・・

結局昨日はそれ以降何も起きず、平穏無事に終えることができた。

毎日これならいいのだが・・・まあそれはさておき、

 

「さぁ~て、問題はこの粗大ゴミをどうやってあいつらに渡すかなんだが・・・」

 

学校からの帰り道で、なんだかんだでずっと持ち続けていたジュエルシードについて考える。

 

(いっそのこと「なんか綺麗な石をみつけたんだぜ、やっほーい!」みたいな感じで渡すか?でもそれだと俺のキャラじゃないし大体拾っただけにしては如何せん数が多過ぎるからな~~)

 

今俺が手に入れているジュエルシードは八つ。集めることを目的としていても、普通ここまで集められるのはよっぽどの運か特殊な事情でもない限りはありえないだろう。

 

(矢島経由だとそれはそれでどっから手に入れたみたいな話になるし・・・まじでどうすっかな~)

 

もっと早い段階で渡すんだったと口には出さないが愚痴ってしまう。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

---スタスタスタスタスタ・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

---スタスタスタスタスタスタスタスタスタスタ・・・ピタッ

 

「・・・・・・・・・誰だか知らんがさっさと出てこい。つけまわされて喜ぶ趣味はないんだよ。」

 

人気のないところまで移動した後、さっきから感じていた視線と気配の発生源にこちらから呼びかける。

すると左後ろに建っている電柱からその気配が顕著になる。

 

「・・・フェイトか。」

 

電柱の上を見ると、そこにはバリアジャケットを装備したテスタロッサの姿があった。

わりと今更な話だけど、あの格好って機動力は確かに良さそうだけどかなり見た目は恥ずかしい気がするんだ・・・どうでもいいか。

 

「落ちているジュエルシードはほぼすべて、手の届かない所に渡ってしまった。個人の手に渡ったのは泰寛の持っている分だけ。」

「それで一番倒しやすいと踏んだ俺を狙ってきたという訳か。まあ合理的ではあるわな。」

「・・・・・・・・・・」

 

かなり悲痛そうな顔をしながらこちらを見下ろしてくるテスタロッサ。

しかしその眼は、間違いなく覚悟を決めたもののそれとなっていた。

・・・まあ若干ヤケクソ気味な感じがしなくもないが・・・まあ丁度いい。

 

---ジャキンッ

「これが最後、ジュエルシードを渡して。」

「・・・一つ条件がある。」

「・・・なに?」

「これから先、俺がジュエルシードを集めていた事、および俺の力に関して誰にも伝えないことだ。これが守れるっていうんなら今すぐ渡してやる。」

「・・・分かった、約束する。」

「よし、それじゃあ・・・そらよ!{ヒュッ}」

 

某欲望のメダルで変身するライダーの相方の如く、八つのジュエルシードを絶妙なコントロールで投げてテスタロッサに渡す。

俺からジュエルシードを受け取ると、テスタロッサは手に持っているデバイスにジュエルシードを収納した。

これで俺の持ってるジュエルシードは0個。

これで少しは肩が軽くなったというものだ。

 

「・・・それじゃあ、私行くね。」

 

そう言ってテスタロッサは俺に背を向け、その場から立ち去ろうとした。

俺も自分の家に向かうため、テスタロッサに背を向ける。

 

(ふう、これで今夜もくつろいで熟睡できるな。まあ俺に熟睡できなかった日なんて一日たりとも・・・?)

 

何か違和感を感じ、ふと後ろを振り返る。

 

「・・・・・・・」

「!お、おい!」

 

するとどういう訳か、さっきまで電柱に立っていたテスタロッサが真っ逆さまに落ちていた。

俺は思いっきり踏み込んで咄嗟に落ちてくるテスタロッサをキャッチする。

 

(!体が異様に軽い!コイツこんなになるまで・・・やれやれ、いくら誰かのために頑張ったって自分がこんなになってちゃ世話ないだろうが。)

 

『Mr.Yasuhiro,can you hear me?』

 

テスタロッサのデバイスから低い電子音が出される。

 

「・・・?なんだ?」

 

『I have a favor for you.Could you look after my master?』

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっと・・・

 

「・・・すまん、日本語でしゃべってくれないか?分からないわけじゃないが英語は使い慣れている訳じゃないからな。いちいち頭の中で変換するからどうしても会話がワンテンポ遅れる。」

 

日常的に使ってる訳じゃないから変換しきれないんだよな~、英語そこまで得意じゃないし・・・

 

『All right.Using language change to japanese・・・・・言語の切り替えが完了いたしました。如何でしょうか?』

「OK、それじゃあこいつはいったん俺の家で介抱するぞ。見たところ単なる疲労だけじゃなさそうだしな。」

『よろしくお願いします。』

「ああ、まかされた。」

 

背中のランドセルを前に回し、空いた背中に気絶しているテスタロッサを背負う。

 

(まったく、ジュエルシード押しつけてようやくさよならするはずが・・・えらいことになったな。)

 

背中に出来るだけ衝撃がいかないようにしながら、なるべく急いで自宅に向かった。

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

「ふう、とりあえずはこれで良し。」

 

自室のベッドにテスタロッサを寝かせて毛布を掛ける。

既にクレイジー・ダイヤモンドで外傷の治療は終えてあるから、後は本人の目が覚めるまで待つのみだろう。

 

『Mr.ヤスヒロ、私のマスターを助けて頂いてありがとうございました。』

「構わねえよ、さすがにあのまま放置するのもどうかと思っただけだからな。さて、いつ起きるかもわからんし何か飯でも作ってやるか。」

『ぜひともお願いします。マスターもきっと喜んでくださるでしょうから。』

「ああ。さて、どんなのを作るか・・・」

 

(やっぱり消化が良くて尚且つ元気の出るもの・・・妥当に御粥でも作るかね・・・)

 

 

---プルルルルルルル・・・プルルルルルルル・・・

「ん?電話か?」

 

メニューを考えていると突然家の固定電話が鳴り出す。

誰かと思いながらなっているところまで行き、電話を取った。

 

「もしもし、梶原です。」

『あ、泰寛君!久しぶり!』

 

電話をかけてきたのはなのはだった。

俺としてはむしろ昨日ぶりなわけなんだが・・・

 

「どうかしたのか?」

『うん、これからアリサちゃんのお家にみんなで遊びに行くんだけど、泰寛君もよかったら一緒に遊ばない?』

 

マジで!?チィ、まさかこんな狙ったようなタイミングで誘われるとは・・・

 

「・・・えっと、誘ってくれたのはありがたいんだけど・・・実は家に病人がいてな。そいつの世話をしとかないとならないんだ。だから・・・悪い!今日はちょっと無理だわ。」

 

嘘は言っていない・・・はず。大体いつ起きるか分からんのに今更ほっとくわけにはいかないからな。

 

『そ、そうなの?にゃ、にゃはは。それじゃあ仕方ないね。』

 

明らかに残念そうなトーンで話すなのは。すまんな。

 

「ああ、だからまた次の機会に誘ってくれるとありがたい。」

『・・・うん、わかったの。また今度皆で遊ぼうね。』

「ああ、それじゃあな。」

『うん、また今度。』

 

一先ず別れを告げて電話を切る。

さて、とりあえず野菜切るところから始めるか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を・・・見ていた。母さんと一緒にピクニックに行って、そこで楽しく遊んでいたころの夢だ。

母さん・・・私の母さん。いつも優しかった、私の母さん。私の名前をいつも優しく呼んでくれた母さん。

このころの私たちは、とても楽しそうに笑っていた。

 

「ねえ、とても綺麗ね、アリシア。」

(?アリシア?違うよ母さん。私はフェイトだよ。)

そんな思いを他所に、思い出の中の母さんは私をアリシアと呼び、私は母さんに花の冠をつけてもらって喜んでいた。

 

 

(まあ・・・良いのかな・・・)

 

私は・・・優しい母さんが好きだから・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

意識が浮上する感じを覚え、自分が眠りから覚めた時を実感した時、最初に見えたのは見慣れない天井だった。

辺りは既に暗くなっていて、頭上の方から少しだけ光がこちらを照らしている。

よく見ると、自分が寝ているベッドもいつものそれとは違っていた。

 

「よお、調子はどうだ眠り姫。ぐっすり眠れて絶好調か?」

「え?」

 

聞き覚えのある声を聴き、声がした方向を見る。

 

「泰・・・寛・・・?」

 

薄暗い部屋の中、机の蛍光灯に照らされながら本を読んでいる泰寛の姿があった。

 

「いかにもタコにも、梶原 泰寛でございます。まったく、あれほど体調管理には気を使えと言ったのにこれなんだからよ。」

「・・・何で泰寛が?」

「ここが俺の家だからだよ。覚えてないのか?お前俺からジュエルシードを受け取った後にぶっ倒れたんだぞ。それでまあそのままほっとくわけにもいかないから俺が介抱してたんだよ。」

 

ジュエルシード?・・・そうだ、確かあの後飛ぼうとした時に急に目眩がして・・・

 

---クゥ~~~~~~~~~~~ッ

 

「あっ!」

 

思い出した途端急にお腹が鳴り、恥ずかしくなってお腹を押さえてしまう。

 

「・・・聞いた?」

「ばっちりと。」

「うう・・・」

「いやまあこんな時間まで寝ていれば腹も空くだろうよ。一応御粥作っておいたけど食うか?」

 

顔が恥ずかしさで真っ赤になるのを感じていると、泰寛は当たり前のようにご飯を勧める。

 

「・・・良いの?」

「俺は先に食ったからな。そもそもお前の看病のために作ったんだから良いも何もないし。」

「・・・お願い。」

「グッド!そのまま寝てな。すぐに持ってくる。」

 

そう言うと泰寛は、部屋の電気をつけた後扉を開けて部屋から出て行ってしまう。

 

「・・・はあ、今何時「{ガチャッ}持ってきたぞ。」本当にすぐだった!?」

 

数秒もしないうちに大きなお椀とスプーンを持った泰寛が部屋に入ってきた。

本当にすぐに持ってきたことに対し、思わず驚いてしまう。

 

「思いのほか元気そうだな(^^;)取り敢えず自力で起きられるか?」

「えっと、うん、それは大丈夫。」

 

布団をどけて起き上がる。まだ少し倦怠感があるけど不思議と痛みはない。

 

「ほい、自力で食べられそうか?」

「うん、ありがとう。」

 

さしだされたお椀とスプーンを持つ。

中から出てくる湯気とともに、おいしそうな匂いが鼻の奥に突き抜けてくる。

 

「フゥ―――、フゥ―――・・・はむ・・・おいしい!」

 

前に食べたオムライス以上においしいかもしれない。

そう感じさせるほどに出された御粥はおいしかった。

 

「慌てて食うと火傷するから気をつけろよ。」

「うん♪フゥ―――、フゥ―――・・・はむ。」

 

スプーンですくった分を適度に冷ましながら、どんどん口に運ぶ。

飲み込んだ御粥が喉を通っていって、それがお腹の中から全身を温める。

同時にさっきまでの倦怠感もどんどんなくなっていく。

 

「それじゃあ俺は風呂入れてくるから、食い終わったら入ってくれ。」

「うん、わかった。」

 

泰寛が部屋から出ていくのを見届けながら、私はまたスプーンに乗った御粥を口に入れた。

・・・うん、すごくおいしい♪

 

 

 

 

 

Side:梶原 泰寛

「上がったよ。」

「そうか、さっぱりしたか?」

「うん、もう大丈夫だよ。」

 

食事を終え、風呂から上がってきたテスタロッサを居間に迎える。

その振る舞いに倒れる前の危うさはなかった。

 

「これからどうするんだ?ジュエルシードは俺の渡した分を合わせると結構な数になると思うが・・・」

「うん、後六つで全部のジュエルシードが手に入るよ。残りの場所も特定できている・・・けど・・・」

「けど?」

「・・・ううん、たぶん明日には決着がつくと思う。」

「・・・そうか。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・バルディッシュに聞いたんだ。倒れた私を介抱してた時、すごく心配そうにしてたって。」

 

長い沈黙の後、テスタロッサが聞いてくる。

 

「・・・まあ心配してなきゃ介抱なんてできないわな。」

「そっか・・・泰寛。」

「なんだ?」

「・・・ありがとう♪」

 

子供はおろか大の大人ですら見惚れそうな笑顔を浮かべ、テスタロッサは感謝の言葉を述べる。

 

「・・・ハァ、今度は倒れるなよ。いつでも誰かが助けてくれる程世の中甘くはないからな。」

 

俺とて迷宮に挑む時は、例え一パーセントだろうと確実に生き残る可能性を上げるために常に体調管理には細心の注意を払っていたし挑む前には必ず万全の状態にしていた。

挑むものが困難だからこそ、事前に体勢を整え、策を幾通りも考え、行動を起こす前から常に最善を尽くしておく・・・これは戦う者として当然の責務(つとめ)だ。

寧ろこれを欠かさずできるようになった時、初めてスタート地点に立てるといってもいい。

コイツのように常に無茶ばかりしてしょうもない所でぶっ倒れるのは、もはや大問題を通り越して論外と言ってもいい。

 

「うん、今度はもう大丈夫だよ。」

「どの口が言うんだか・・・」

 

肩をすくめ、ジト目で見ながら言う。

 

「あう・・・そ、それじゃあもう帰るね。あんまり遅くなってもいけないし。」

「そのほうがいいな。おy・・・じゃなくて女子がこんな時間まで人の家にいるのもどうかと思う。(危ない危ない、危うく地雷を踏みかけた。)」

 

テスタロッサを玄関前まで送る。

 

「気を付けて帰れよ。お前なんだかんだで知らない人にホイホイついていきそうだから。」

「そんなことないよ!?私だってそこまで子供じゃないよ!」

「はいはいまたな(笑)」

「むむむ、なんだか納得いかないよ・・・」

「ハハハ、何がむむむだ。」

不満げに去っていくテスタロッサを見送り、俺も家の中に戻る。

 

 

・・・・・・・・さて・・・・・・・

 

---ピッピッピッ・・・・・トゥルルルルルルルルルルル・・・・・・・・・

 

「{ガチャッ}よう矢島、少しいいか?・・・ああ、実は・・・・・・・・・・・そうだ、何とかならないか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし、それじゃあ頼むぞ。」

 

---ピッ

 

(・・・・・残すところはあと明日。進んでやりたいとは思わないが・・・最後まで見届けさせてもらうか。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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