デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

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一週間ぶり・・・ツカレタ(○o○;)
それではどうぞ。


第十七話

 

武装局員とともに空間転移で移動すると、RPGとかによくある典型的な魔王城のような場所に飛ばされる。

 

(あそこがいいな。ハッ!)

 

俺は周囲の確認が終わると同時に隠れられそうな場所を見つけ、そこに素早く飛び込む。

そしてティナー・サックスを解除して倉庫に戻し、アライブをフルに使える状態に戻す。

自分のスタンドだからというのもあるのだろう、誤差の範囲だがなんだかんだでコイツが一番使い慣れているから扱いも楽だ。

 

『{グッグッ}何時デモ行ケマスヨ。』

(よし。あいつらが門を開けて入った後、俺達も続いて入るぞ。)

『了解。』

 

門の近くの柱に移動し、管理局員が開けるのを待つ・・・

 

「これより時の庭園内部に侵入する!行くぞ!」

「「「「「「おおおおおおおおおおお!!」」」」」」

 

局員たちの声が響き、その後門を開く音がする。

柱の陰から見ると、局員が門を開けて中にはいって行ってるのが見える。

 

(・・・・・・・・今だ!)

 

最後の一人が入ったと同時に柱から離れて、一気に扉から中に侵入する。

そしてその場で大きくジャンプしながら重力を操作して天井に降り立つ。

後は局員を見失わないよう後ろから追いかけた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

暫く走っていると、何やら物々しい感じの扉を発見する。

取り敢えず遠くから局員が扉を開けるのを見ていると、その先に玉座に座っている顔色の悪い女性を発見する。

 

(あれがプレシア・テスタロッサか・・・・・・・・入っていった奴らだけじゃ絶対勝てないな。)

 

経験が俺に訴えかける。あれはただものじゃないと。同時に、もうあいつは長くないことも・・・

 

「総員玉座の間に侵入、目標を発見!」

 

そうこうしてるうちに、時の庭園に突入した武装局員たちが、玉座の間に辿り着き、プレシア・テスタロッサを捕捉していた。

とりあえず俺も、局員たちの後ろに隠れながら一番近い柱の陰へと移動する。

「プレシア・テスタロッサ。時空管理法違反の容疑で逮捕します」

「速やかに武装を解除してください」

 

局員の言葉に、プレシアは動じる事なく玉座に座ってる。

一瞬だけ見せたあの含み笑いは、局員たちを造作もなく始末できるという意思表示なのだろうか。

それに気が付かない局員はプレシアを囲み、数名の局員が後ろの扉に回る。

プレシアはその場から動く気配を見せず、ただ後ろに回った局員を睨みつけていた。

 

そして・・・・・・・

 

(ッ!!殺気!)

 

局員達が『扉の奥』に足を踏み入れた途端、態度が豹変した。

 

「何だ、これは!?」

「…………ッッ!!」

局員達は奥にあった円柱状の光る物体を目にし、息を呑み……手を触れようとした、その時。

 

「ぐあああっ!?」

 

玉座から一瞬で転移したプレシアが局員とそれの間に割って入り、触ろうとした奴を大きく吹っ飛ばす。

 

「アリシアに近寄らないで!!」

「くっ!撃てぇぇ―――!!」

 

残った局員がそれぞれのデバイスを使ってプレシアを攻撃するが、全て防がれてまったく効果を現さなかった。

 

「煩いわ・・・」

 

(!アライブ!)

 

こちらにまで威圧感が飛んできた気がして、咄嗟にアライブを側に出す。

---ズガアァァン!!

 

部屋全体に強力な雷が発生する。

(チッ、周りが見えねえ・・・)

 

能力で俺に直接落ちないようにしているが、辺りが眩しくて見ていられない。

 

(・・・・・・・終わったか・・・)

ようやく雷が納まったと思って辺りを見渡すと・・・

 

 

「やれやれ、これはちとシャレにならねえな……」

 

奥にいた局員達はみんな……黒焦げになって倒れ伏していた。

 

「……他愛もない」

気だるげに、プレシアが言う。

戦闘開始から、たった数分。それだけの時間で、先行部隊はプレシア一人に敗北した。

連中にしても油断はなかったのだろう。

だが今回は相手が悪かった・・・そう言うほかないほどあいつらとプレシアとの実力差は大きかったのだ。

 

---シュンシュンシュンッ

 

局員が急激にその場からいなくなっていく。

おそらく全員回収されるのだろう。

 

「…もうダメね。一応最低限の数があるとはいえこれだけのロストロギアでアルハザードにたどり着けるか分からないけど。

でも、もういいわ。これで終わりにする。

この子を亡くしてからの暗鬱な時間も、この子の身代わりの人形を娘扱いするのも…これで終わり。

聞いていて? 貴方の事よ、フェイト。

せっかくアリシアの記憶を与えてあげたのにそっくりなのは見た目だけ…ちっとも使えない私のお人形…」

 

(何が人形だ、自分で勝手にやった癖してふざけたこと言ってんじゃねえよこのクソアマ・・・)

 

知識として知っていたとはいえ、無責任かつ勝手極まりない発言に自分の思考がどんどん冷めていくのが分かる。

 

「最初の事故の時にね、プレシアは実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしているの。

彼女が最後に行っていた研究は、使い魔を超える人造生命の精製…開発コードは『プロジェクトF.A.T.E』。

そしてその目的は……」

 

怒りとともに思考が冴えわたっていく中、どこからともなく響いてくる声が沈痛な感じで語っている。が、さすがに最後の一線だけは踏みとどまった。

今の状況でそれを言うこと、それはあいつの・・・フェイト・テスタロッサの完全否定。言葉にできないのは当たり前だ。

 

 

だが・・・

 

 

「よく調べたわね。私の目的は、アリシアの蘇生、ただそれだけよ。」

 

プレシアはその最後の一線を・・・躊躇することなく踏み越えやがった・・・

 

(・・・・・・・・・・・・下種が・・・・・・・・)

 

極限まで冷めきった思考が、胸の内でくすぶっていた『モノ』をどす黒く燃え上がらせる。

 

 

「でも駄目ね、ちっとも上手くいかなかった。作り物の命は、所詮作り「黙りやがれクズが・・・!!」……ッ!?」

 

非常に・・・非常に落ち着いた足取りで・・・ゆっくりと柱の影から歩いていく・・・・・・

 

「・・・あら、いつぞやの悪趣味な剣士じゃない。こそこそと隠れて、いきなり姿を現したと思ったら一体何の用かしら?」

 

---ザ・・・ザ・・・ザ・・・ザ・・・

 

「・・・そうだなぁ、やることは特に変わっちゃいない。こうして頭にキてる状態でも、少し手を出したら後は見届け人でいるつもりではある・・・ただし・・・・・・」

 

---・・・ザンッ

 

「手加減できるかどうかは答えかねるがなぁ・・・ええ?おい・・・」

 

広場の中心に立ち、俺は左手をプレシアに向けて力強く指差した。

 

 

 

 

 

 

 

「え!?あの時の仮面の人!?」

「いつからあそこにいたんだ!?」

 

クロノやなのはたちが驚愕している中、俺は画面越しに梶原から放たれる押し潰される様な重圧感に体を震わせる。

 

そして、その感覚の正体がすぐに分かった・・・

 

(ああ…ヤバイ。あいつ絶対キレてる。それも一番恐ろしい状態になる方向のキレ方だあれ…)

 

何時のことだっただろうか・・・そう、確か俺達が高校三年生だった頃、どっかのチンピラが川平を含む三人でいた時に絡んできたときだ。

不良の一人が、びびるどころか自然体しか見せない梶原に腹を立ててスタンガンを打ちこもうとした時・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

---ボキッ!!

『ぎゃああああああああ!?う、腕があああああああ?!』

『な?!てめ!こんなことしてタダで{ベキャッ ドボォッ ボキボキボキッ}すむ・・・と・・・』

『ガ・・・グボ・・・ア・・・』

『ぎゃああああああああ!?あ、足が!足がああッ!』

『こ、こいつ・・・ヒィッ?!』

『おいおい、まさか反撃されないなんて思ってたのか?テメーらは武装付きで数も勝ってる。俺は身一つで人質なんてでかいハンデもついている。付け入る隙をつくのは自明の理じゃねえか、なぁ?』

『ぐ!う・・・うううるせえ!!こここ、こっちはや、ヤクザがついてんだ!テ、テテテテメーらタダで済むと思うなよ!』

『ほう、そりゃいいことを聞いたな。必要なら今度ごあいさつにでも窺ってやるよ。というかそっちこそ大した余裕だな・・・』

『な・・・・・・ッ!?』

---コキッ ペキペキッ

『ここから生きて出られる保証なんざ・・・お前らなんぞにしてくれる奴は誰一人としていねえんだぞ・・・・』

 

 

 

その言葉を皮切りに・・・あれと同じ威圧感が放たれた。

数人が震えながらもあいつに襲い掛かり、中には俺や川平を人質に取ろうとした奴もいたが一瞬で傍まで移動した梶原がまず先にそいつらをかたずけ、その後他の連中を一人ずつ十メートル以上蹴りやパンチだけで吹っ飛ばすという漫画みたいなことをやってのけたのだ。

しかも一番おっかないのが、最初から最後まで息を切らすどころか顔色も態度も一切変わったふうを見せずにやり終えたということだ。

幸い俺や川平、梶原は無傷で死人は一人もでなかったが、代わりに無事なチンピラも誰一人としておらず、全員が何かしらの重傷を負って気絶していたんだ。

 

『・・・二人とも、一応救急車呼んでここから離れるぞ。長居してもいいことがない。』

 

あいつが最後の一人をぶちのめした後、そう言う直前に一瞬だけ見せたあの眼差し・・・あれは間違いなく人殺しが出来る奴の目だった。

その後受験も滞りなく成功して徐々に記憶から薄れていったが・・・あのオバサンのせいで再び思い出すことになるとは・・・

 

 

 

---ビッ

 

「「「「「『ッ!?』」」」」」

 

梶原がプレシアを指した指を上に向け、全員がそれに目を向ける。

 

「おい!とっととあのモブを始末しに「黙ってろ。」{ボゴッ}グハッ!?」

 

・・・訂正、騒ぎ立てるバカ以外の全員がそれに目を向ける。

 

『色々と言いたいことはあるがまずは一つ・・・テメーはフェイト・テスタロッサを娘の偽物だの作り物だのとぬかすが、そもそもそれは前提からして間違ってんだよ。』

『・・・なんですって?』

『似たようなものはこの世には腐るほどあふれかえっている。だがな、【まったく同じもの】なんてのはこの世にただ一組もありはしない。そこらに落ちている小石や宙を舞う空気でさえ、いくら重さをそろえようと形をそろえようと、成分をそろえようと、何をしたとしたところで結局それは別物でしかない。当たり前だ。それは数あるうちの数個であって同じじゃないからな。ましてや人間なんて繊細で複雑な存在、似せただけの見た目や似たような記憶でいくら誤魔化そうが、もっと深い部分・・・魂まで同じものを用意するなんてできるわけないだろうが。お前の行いは、フェイト・テスタロッサという一人の少女に自分の理想を、アリシアという名の幻影を押しつけていたにすぎない。決してかなわない、幻想にも劣る妄想だよ。』

 

---ドゴォ――ンッ

 

梶原の横をフォトンランサーが駆け抜ける。プレシアは何故かそれに驚愕するが、すぐさま顔が怒りで塗り潰される。

 

『・・・このガキが!今すぐその口を閉じなさい!何もわからないくせに!あなたにアリシアの何が分かるというのよ!!』

『お断りしよう。それに何もわかっていないのはお前の方だ。もし仮に蘇生が成功した場合、その結果が後で誰も望まないことになるのになぜ気が付かない?』

『なに・・・ゲホッ!ゴホッ!』

「「「「「なッ!?」」」」」

 

突然プレシアがせき込み、口から血を垂らす。それに俺や界統(むしろこいつはにやけている)を除く全員が驚愕する。

明らかに病んでいるような眼をして自我を手放していたフェイトですらもわずかに反応する。

 

『その体…後どれだけ持つ?半年か?一か月か?いや・・・そのまま進行すればもっと短いだろうな。』

『あなた・・・何時からそれを・・・』

『ついさっき、お前を最初に見た時から大体予想はついた。これでも踏んできた場数は一丁前でね。ちゃんと観察さえすれば相手のコンディションが大体わかるんだよ。』

 

梶原・・・お前いったいどんな人生を送ってたんだ?確か俺の聞いた範囲じゃただのフリーターだったって話なんだが?

 

『そんな状態で・・・何だ?アルハザード?そこにたどり着いたとしてもお前にそれだけのことができるのか?運よく目的を果たしたとしてもその後はさらに悲惨になるだけだ。文字通り母の血反吐を吐く程の努力をもとに生き返った娘は・・・』

『・・・黙れ・・・!!』

『その後すぐに母を失い、心の拠り所を失ったまま孤独に死んでいく・・・という感じにな。』

『黙れええええええええええええええええッ!!!』

 

---バリバリバリバリバリバリバリバリバリィィッ!!

 

怒りが天元突破したようなプレシアが放った、えげつないほど膨大な雷が全てを覆い尽くすように梶原に殺到する。

 

「危ない!」

 

そのすさまじさになのはが悲鳴を上げ、俺もちょっとだけあいつが雷に蹂躙される姿が思い浮かんで思わず息を呑む。

 

 

---ボゴォォォンッ!!

 

「「「「「「『・・・・・・・・・・は?』」」」」」」

 

 

だが思い浮かべた光景にはならなかった・・・殺到した雷がすべて床に叩きつけられ、さらに床と一緒に見えなくなるほど陥没したから・・・

 

---シャッ!

 

『ッ?!{バキャアッ}なっ!?』

 

皆が唖然としているうちに瞬時にプレシアの前に現れ、プレシアはとっさにシールドを張るが梶原はそれを貫手で易々と貫く。

プレシアはかろうじで転移することで回避し、梶原から距離を取った。

 

『{ギャリリ・・・}ふん、まあこんなもんか。』

 

梶原が貫手を放った手を握り締める。その手の中には何時から持っていたのか、かなりの数のジュエルシードをもっていた。

 

『ッ!?{バッ}あなた何時の間に!』

『これで俺の務めは一先ず終わりだ。さすがに15個も同時に発動されたら抑え切る自信がないからな。全部は取れなかったがこれだけ取り戻せば十分・・・もっともまだやるようなら相手する必要があるかもしれんが・・・』

 

『まあ後は本命の方々がどうにかしてくれるだろうよ。』

 

おいおいマジか?局員たちを倒した時とは比べ物にならないものだったんだぞ?それを防いで息一つ切らさない?

その上今の一瞬であれだけのことを・・・梶原、俺は今までお前のことを誤解してた気がするよ。

 

「エイミィ・・・彼から魔力は?」

「いえ、まったく・・・ロストロギアの反応すらも感知できません。何の前触れもなくいきなり・・・」

「どうなってるんだ?あの男は魔導師じゃないのか・・・?」

 

みんなすごい動揺の仕方だ。かくいう俺も似たようなもんだ。

 

 

 

『・・・・・・人形と人間の差なんて、決定的なものは一つだけだ。』

「{ピクッ}」

『どれだけのことを知り得たとしても、どんな体験を経たとしても、《心》がない人形じゃそれに葛藤することはできない。逆に言えば、そういった歩みの中で苦悩を重ね、それに自分の答えを見出せる《心》があれば、そいつは間違いなく《生きている》と言えるんじゃないかな。』

「・・・・・・・・・」

 

あいつが言葉を続けて行くにつれて、ホントに少しずつだがフェイトの目の色が徐々に戻っていく。

 

『まあ・・・おいしい料理を食って笑ったり、空腹音を聞かれて顔を赤くしたり、皮肉を言われてあたふたしたり・・・義務だとか強迫観念とかじゃなく、純粋に親を思って無茶が出来る奴を人形と言うのは無理があると思う。』

「え!?」

「・・・え?・・・何で・・・それを・・・」

『まあお前がどう動くにしろこの事件は間もなく終わりを迎える。そのままそこで座っているのも一つの選択ではあるが・・・時間は少ない。精々後悔だけはしないようにな。』

「・・・・・・・・・・・・・・」

『どこまでも邪魔を・・・もういいわ、こうなったら・・・』

 

プレシアは自分とアリシアの遺体が入ったポッドに転移魔法を使い、その場から姿を消す。

 

そして・・・

 

「艦長!庭園内で多数の巨大なエネルギー反応と同時に次元震が発生しています!」

「この反応、ジュエルシードが多数同時に発動しています!」

「なんですって!?」

 

艦内に警戒音が鳴り響き、危険を知らせている。

気が付くと画面から梶原の姿も消えている。

 

(やれやれ、いろいろとおいしいとこだけ持っていきやがったな。)

 

さて、とりあえずやることやるか。

 

「フェイ「お前はそこで待っていろフェイト!我があの女とモブをぶちのめしてくるさまをじっくりとみていると良い!なのは、早く行くぞ!」ておい!」

 

あの馬鹿毎度毎度セリフを被せやがって・・・!おまけにそのまま行っちまったよ。

 

「クロノ君!?」

「エイミィ!ゲートを開いてくれ!僕もすぐに向かう!」

 

クロノも後に続き、ブリッジから転送ポートに向かった。

 

「あの、フェイトちゃん・・・」

なのはがフェイトに呼びかけるが、未だに迷っている感じがあって動く気配を見せない。

「アルフさん、フェイトを医務室まで連れて行ってもらえますか?」

「わかったよ・・・ほらフェイト、しっかりして。」

「なのは、ユーノ、あの馬鹿はともかく俺達も早いとこ行こう。」

「「わかった(の)!」」

 

 

 

 

 

---バゴッ ゴドォッ ゴシャァアンッ

 

「さて、とりあえずどう動いていく・・・かッ!」

 

---ドグォォッ

 

プレシアを取り逃してしまい、玉座の間を離れてようやく気持ちが落ち着いてきたと思ったら今度は床やら壁からでっかいロボットが出てきて行く道を遮られてしまう。

俺は今、非常に面倒だがそれらを壊しながら進んでいる。

プレシアもどうせ人形呼ばわりするならこんなただの木偶だけにしてほしいものだ。

 

「しかし本当に弱いなこいつら。下手な小細工を使わない分どうとでもなる・・・けどしつこい!」

空を飛ぶ奴を重力を増加して床に叩きつけ、後ろから振り降ろされた斧をバックステップで回避する。

 

『ギルァラァァッ!!』

斧を振り下ろした巨大ロボットをアライブのアッパーで打ち上げ、同時に俺自身も飛び上がる。

 

「{ギュルルルルッ}落ちろ!」

 

---ゴガァァァア――――――ンッ!!

 

ロボットを追い越した後体を思いっきり回転させてアライブが少し先に出るように踵落としをし、ロボットを真っ二つにする。

 

「{ザッ}ふう・・・いっそのことプレシアのいる手前辺りで出待ちでもしていようか?」

 

こいつらの相手ははっきり言って疲れるだけで特に得るものもない。

それよりは出待ち待機の方がよっぽど意味もあるというものだろう。

 

「となると後はプレシアがどこにいるか調べないとな・・・!?」

 

---ダンッ

---ズドドドドドドドドドドドドッ!

 

思いっきり重圧をかけてロボットを押し潰そうと思った時、殺気を感じて天井まで飛びあがる。

その直後、何十本もの刀剣が俺のいた位置から少し外れたところに刺さり、ついでに進行方向のロボットを破壊する。

 

「やめろ界統!まさか本当に殺すつもりか!?」

「黙れこのモブキャラが!俺に指図するんじゃねえ!貴様もモブの分際で避けるんじゃねえぞ!」

 

声の聞こえた方向を見ると、いつぞやの迷惑馬鹿と黒服黒髪(良いセンス)真面(まじめ)そうな男子がそこにいた。

 

「・・・・・・」

 

俺のいた位置だけまったく刺さっていなかったのはヘブンズドアーの効果がちゃんとあったということなのだろう。

なら・・・避ける必要はない。

 

「今度こそ撃ち落してやる!王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!」

 

奴の背後からいくつもの武器が出てきて俺に向けて放たれる。

俺はまったく当たる様子を見せないそれを気にすることなく、ホルスターに手を伸ばして鉄球を取りだし、あいつに投げると同時に足元にゲートを開く。

 

「馬鹿が!こんな物{ドゴォッ}がッ?!{ボゴォッ!}ゲブァッ!?」

 

あいつが金色の盾を出して防ごうとしたところに、あいつの背後に作ったゲートから後頭部に蹴りを繰り出して怯ませる。

そして怯んでいるうちに先ほど投げた鉄球が奴の顔に炸裂し、そのまま気絶してしまう。

 

「やれやれ、こいつこんなところまで来るとはな・・・{ザッ}で、そこのあんたはどうする?」

 

とりあえず天井から降りて唖然としている黒服の少年に声をかけると、少年は気が付いたように態度を改める。

 

「す、すみません。時空管理局のクロノ・ハラオウンです。あなたにお伺いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」

「どうも。俺は梶原 泰寛、生まれも育ちも地球出身だ。あとそんな緊張されてもこっちが話し辛いから普通に頼む。」

 

いきなり敬語で話し始めたハラオウンを落ち着かせる。

 

「・・・分かった。そういうことなら普通に話させてもらうよ。」

 

自分のペースを取り戻したハラオウンは、俺に近寄ってきて話を続ける。

 

「んん・・・いろいろと聞きたいことはあるが今は状況が状況だ。君は今ジュエルシードを持っているな?」

「ああ、ここにあるぞ。」

 

コートのポケットから奪い取ったジュエルシード8つを取り出してハラオウンに渡す。

 

「・・・随分とあっさり渡すんだな。」

「俺は自分の平穏のために戦ってるだけでこんな不良品に用は無いからな。それで?お宅はこれからどうするんだ?どうせ手持無沙汰だから入り用なら手を貸すが・・・」

「なら・・・これから僕はプレシアのいる場所に行って彼女を取り押さえる必要がある。そこまで行く手伝いをしてほしい。」

「了解した。それを引き受けよう。」

「協力感謝する・・・先を急ごう!」

「ああ。」

 

ハラオウンに先陣を切ってもらい、俺は再びプレシアに会いに走ることとなった・・・

 

 

 

 

 

 

「急ぐぞ!其処の突き当りを曲がればもうすぐだ!」

「OK!」

 

暫くの間ひっきりなしに出てくるロボットを破壊しながら走り続けていると、やがてハラオウンからそんな檄が飛んで来る。

俺は返事をしてペースを落とすことなく走る。

すると廊下の向こうから、プレシアと誰かの声が聞こえてくる。

 

「私は取り戻す・・・私とアリシアの、過去と未来を!取り戻すのよ・・・こんなはずじゃなかった、世界のすべてを!」

 

・・・こんなはずじゃなかった、か・・・分からなくはないけどな・・・

 

「!そんなこと・・・!」

 

ハラオウンはそう言い、飛びながらデバイスを構える。

俺はアライブに鉄球を持たせて折り畳んだ紙の一つからカモミールの一部を取り出す。

・・・よし、軌跡は見えた!

 

「ブレイズキャノン!」

『ギルァラァッ!!』

 

ハラオウンの魔法とアライブの投げた鉄球が突き当りの扉に飛んでいき・・・

 

---ドグォォォ―――――ンッ

 

扉を難なく破壊した。俺達は勢いのままその先にはいっていく。

 

「世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだよ!ずっと昔から、いつだって誰だってそうなんだ!こんなはずじゃない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは個人の自由だ!だけど、自分の勝手な悲しみに無関係な人間を巻き込んでいい権利は、どこのだれにもありはしない!」

「そういうことだ。アンタの願いはわからなくもない・・・が、さすがにやり方が他人を蔑ろにし過ぎだ。ここで止めないわけにはいかない。」

 

アリシアの遺体のそばにいるプレシアに対して俺とハラオウンはそう言い放つ。言っている間に上から降りてきたテスタロッサとアルフが地面に立ってプレシアに向き直る。

 

「……母さん。」

「…まだ私の事をそう呼ぶのね。ここへ一体何をしに来たのかしら。」

「あなたに言いたい事があって来ました……」

 

テスタロッサは降り立った場所から一歩前に踏み出し、プレシアに近づく。

 

「私は話をしに来ました、貴女の娘……フェイト・テスタロッサとして…私はアリシア・テスタロッサじゃありません。貴女が作ったただの人形なのかもしれません。」

 

テスタロッサは悲しそうに、だけどそのことを受け止め、噛み締めるように呟いていく。

 

「だけど私は、フェイト・テスタロッサはあなたに生み出してもらって、育ててもらったあなたの娘です。」

 

プレシアはテスタロッサが一言話すたびに、ほんのわずかだが悲しそうに顔を歪めていく。

 

「……だから何だというの?今更あなたの事を娘と思えというの?」

「あなたがそれを望むなら、私は世界中の誰からもどんな出来事からもあなたを守る。私があなたの娘だからじゃない。あなたが私の母さんだからッ!!」

 

テスタロッサははっきりと、ありのままの自分の気持ちを伝えた。

それを聞いたプレシアの表情は、誰が見ても判るほどの『悲しみ』と『喜び』という葛藤の表情を浮かべている。

だが、その表情はすぐに引っ込んだ。

 

「・・・・・・くだらないわ。」

「ッ!?」

 

---カンッ!

 

プレシアがデバイスを床につくと魔方陣が展開され、ジュエルシードの暴走がさらに激化していく。

庭園の揺れも激しくなっていき、徐々に辺りの床も崩れ出していく。

 

「まずい!急いでここを脱出するぞ!フェイト・テスタロッサ!」

 

ハオウンがテスタロッサに呼びかけるが、肝心のあいつはプレシアのことを訴えかけるようにじっと見つめている。

 

「フェイト!」

 

ハラオウンが再び声を荒げて叫ぶも、フェイトは微動だにしない。

 

「私はアルハザードへと旅立つ!そしてすべてを取り戻す!過去も、未来も、たった一つの幸福も!!」

 

---ビシビシビシィッ!

 

プレシアのその言葉の直後、あいつの足元が完全に崩れ、今まさに落ちようとしていた。

 

 

 

「母さんッ!!」

 

 

 

 

「フフフ・・・『――、―――――。』」

 

 

 

 

「・・・え?」

 

 

その時だった・・・本当に小さい声で、微かにそれを口にしたのは・・・

 

 

---ガラッ

 

「!母さんッ!!」

 

そして彼女は落ちていく。娘の悲鳴も虚しく、いかなる魔法も通じない虚数空間へ・・・

 

「一緒に行きましょう・・・アリシア。今度はもう・・・はなれない様に・・・」

 

ただ一つの幸福のために・・・それを掴みとる可能性のために・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・まあ・・・

 

 

 

 

 

 

 

「『幸せにね。』・・・か。良い言葉だな・・・だがアンタの死に場所はそこじゃない。」

 

そんなことはさせないがな!

 

---ドサッ ガシッ

 

「ぐふ!?」

「・・・・・・は?」

 

俺の隣に、先ほど虚数空間に落ちて行ったはずのプレシアがいきなり落ちてきたことに目を点にするハラオウン。

ちなみにアリシアの遺体が入ったポッドはプレシアの次に落ちてきたのをアライブに掴ませている。

 

「母さん・・・母さん・・・え!?」

「フェイト!?うわ!」

 

先ほど俺が繋げた、虚数空間と俺の斜め上にある空間を行き来するゲートの一端を見て呆然とするテスタロッサ。

取り敢えずゲートを閉じてぎりぎりのところにいるテスタロッサとアルフをこちらに引き寄せる。

 

「ここは・・・ッ!!なぜあなたがここに!というか私はさっき・・・」

「{ドサッ}いたたた・・・え?お母さん!?」

「どういうことだい!?え!?だってさっき・・・え?!」

「さて、アンタの覚悟は大体見せてもらったが・・・」

 

こちらに引き寄せ、プレシアがいることに驚くテスタロッサ達を無視して俺は話を続けていく。

 

「アリシアを今すぐ返しなさい!さもないと・・・」

「ほほう、別にそれは構わないんだが・・・もしアルハザードに行くよりも確実に生き返らせる方法があるっていったら「詳しく教えなさい!」・・・分かったから離れろ。まずはここを脱出してからだ。」

 

さっきまでの病弱さなんて最初からなかったようにあっという間に俺の胸ぐらを掴み、目を血走らせて詰め寄ってくるプレシアを引き剥がしながら辺りを見渡す。

 

「(そろそろ来るころだと思うが・・・){ド―――――ンッ}来たか。」

 

天井から爆音が聞こえ、その方向に目を向けると真っ白いバリアジャケットを着たなのはとやや頭身のおかしい人間大のストライクフリーダム、あの迷惑馬鹿を担いでいる民族衣装のようなものを着た少年が落ちてくる。

 

「皆!大丈夫!」

「どうやら全員問題ないみたいだな。」

「皆!ここはもうすぐ崩れる!今すぐ脱出するんだ!」

「わかってる!そこの五人!早く立つんだ!」

「わかった!ほらフェイト、肩を掴んで。」

「う、うん・・・」

「・・・あなた、さっきの言葉を忘れたらただじゃおかないわよ・・・」

「言われるまでもない。立てるか?」

「ええ、心配はいらないわ・・・」

 

 

 

 

 

こうして俺達は、それぞれの思いを抱えながら崩れていく庭園から脱出した・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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