デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録 作:enigma
---これは泰寛、敬一郎の両名が目的の次元世界に到着し、その大地に降り立つ数分前後の出来事であった・・・
---ブゥゥン・・・ブゥゥン・・・ブゥゥン・・・
---ゴポ・・・ゴポ・・・
その場所を一般的な印象で表すとすると、『異様で気味が悪い』といった感じだった。
鉄網と鉄板が組み合わされた廊下。
端の方に隙間なく置かれた、時折中で泡が浮き上がり、不気味に輝く大の大人一人が簡単に入りそうな透明なポッド。
壁や天井に張り巡らされた何かの配線やプラグ、パイプなどの束。
天井や隙間から蛍光色に辺りを照らすライト。
どこからともなく鳴り響く機械の音。
100%人工の物で覆い尽くされたその空間は、昔のアニメでよく見られたような悪の軍団の研究施設のような感じであり、どこまで行っても薄暗く、今にも何かが出そうな場所だった。
「~~~♪~~♪」
そんなどことも知れない空間の一画で、鼻歌交じりに何かをしているものがいた。
「ふむ、なるほど、ここをこうして・・・いや違うな、ここをこう・・・{カチッ}うん、素晴らしい♪」
それは一人の男だった。髪の毛は濃紫色、目は金色と非常に特徴的ではあるものの異様とは言えず、容姿については端麗の一言に尽きる。
高身長と思われるその身はスーツの上に丈長の白衣を纏っており、その手には紅い筋が輝く手袋のような奇怪なものをはめていた。
「フフフ、あと少しで出来上がる・・・実に楽しみだ♪」
男は微笑みながら自分の目の前にある分厚いガラス・・・その向こう側にある機械のようなものと、自分の傍の空中に映し出されたホログラムディスプレイを交互に見ながら、しきりに手袋をはめた手を動かしている。
その表情は、見るものによっては『おもちゃで遊ぶ子供』の様にも見えるだろう。
---ウィーン ジジジッ ウィンウィーン バチッ
男の見ているガラスの向こう側では、彼にとっては当たり前のものとなっている数多くのロボットアームが絶えず動いており、男の指の動きに合わせて中央に鎮座している機械を組み立てていた。
---ウィンウィーン ジジジッ ウィンウィン ジジッ キュイ――ン
「・・・・・・よし、これで完成だ。」
ある程度の時間が経った後、作業を終了した男は横のディスプレイでいくつかの確認をする。
「うん、我ながら良い出来だ。後はこれを組み込んで新型のガジェットの動作テストに移るとしよう。」
どうやら男は満足したらしく、再度手袋を何度か動かした。
するとガラスの向こう側にあったロボットアームが退いていき、機械を固定していた留め具が外されると今度は地面に魔方陣が展開される。
「転送完了、と。」
男がディスプレイに表示されていたアイコンを押すと、完成された機械は魔方陣の光に包まれてあっという間に消えてしまった。
「ふう、まだ続けてもいいが・・・{ポキッコキッ}体が若干固まってきたな。ここらで少し休憩を入れるべきか。」
男はそう言うと横にあったディスプレイの表示を消し、手袋を外して白衣のポケットにしまった後軽くストレッチをし始めた。
---キュイ―ン
すると突然、男の横に先ほどとは別のモニターが現れる。
そこには薄紫色の髪と男のような金色の目をしている女性の姿が表示されていた。
『ドクター、少しよろしいでしょうか?』
「ん?ウーノか、どうかしたのかい?」
女性・・・ウーノは、『ドクター』の質問に答え始める。
『つい先ほど、この研究所の入口の近くに小型の次元航行船が着陸したのを偵察用のガジェットが確認いたしました。』
「次元航行船?こんなところへわざわざ足を運ぶとは御足労だね。ひょっとして管理局の人間がここを嗅ぎ付けてきたのかな?」
クックックと愉快気な笑みを浮かべながら、男は女性・・・ウーノの報告に対しそうコメントする。
時空管理局・・・一般的に『管理局』と呼ばれるそれは、ミッドチルダを中心として設立された数多に存在する次元世界を管理・維持するための機関のことである。
そんな機関の人間と思われる者に対し、『嗅ぎ付けてきた』というこの男、何かこの機関に追われる様な後ろ暗いことでもしているのだろうか・・・
『報告によると、小型艇から出てきた人数は二人、いずれも十歳ほどの子供だそうです。また片方の黒髪の子供は魔力値ゼロ、もう片方の茶髪の子供はデバイスを持っており魔力値がAAA+とのことです。いかがいたしましょう?』
「フフフ、そうだね。今その二人は何をしているのかな?」
『はい・・・なにやらこのあたりを嗅ぎまわっている様子です。』
「フフフ、そうかそうか・・・ウーノ、折角の機会だ。彼らに私たちなりの歓迎の挨拶をして差し上げようじゃないか。」
少しだけ考える素振りをした男が、実に楽しそうに自分の決断をウーノに話す。
『よろしいのですか?』
「もちろんさ。この間完成した新しい娘の相手と、新しく作ったAMF発生装置の実験台が欲しかったところだ。おっと、それとトーレやクアットロも一緒に動向させるといい。魔力値だけで実力が図れるわけではないし万が一があったら困るからね。」
『かしこまりました。』
ウーノのその言葉を皮切りにディスプレイの表示が消える。
「フフフ、さてさて・・・精々楽しませてもらうよ、侵入者君たち♪」
誰もいない廊下で・・・男は静かに、狂気的に、笑っていた。
そしてのちに、彼の笑顔はさらに大きく歪むことになる。
全ては彼の中でくすぶっている、無限の欲望を、尽きることの無い探究心を満たすため・・・侵入者たちが示した新たな未知と、それによって生まれた新たな興味を堪能するために。
『それじゃあ三人とも、予定の位置で例の二人の相手をして頂戴。』
「わかった。」
「了解した。」
「はいはい、分かってますよウーノ姉さま。」
時と場所は変わり、泰寛と敬一郎たちの着陸した宇宙船から数十メートルほど離れた位置で、何か話をしている者たちがいた。
「フフフ、それじゃあドクターの崇高な研究を邪魔するおバカちゃんたちをさくっと懲らしめに行きましょうか。」
「クアットロ、相手が子供とは言え実力は未知数だ。油断していると足元を掬われるぞ。」
藍色のボディスーツの上に白いマントを羽織った眼鏡の少女・・・クアットロがどこか小馬鹿にしたような軽い調子でいるのに対し、同じく藍色のボディスーツを着た濃い青色の筋肉質な女性が注意する。
「んもう、トーレ姉さまったら相変わらずお堅いですわ。チンクもそう思わない?」
「私はトーレの言うことはもっともだと思うが・・・まあ戦闘機人相手にそうそう勝てるとも思えないな。」
「むう、二人とも行けずです~。まあいいですわ、それじゃあパパッとやっつけに行きましょう。」
チンクと呼ばれた、ボディスーツの上にシェルコートを着ている少女の発言に少しだけ機嫌が悪くなったようにふるまうも、瞬時に表情を切り替えたクアットロは二人にそう言う。
二人はそれに無言で答え、それぞれに備わった飛行能力で泰寛たちの乗っていた次元航行船の所に向かう。
「船の中にはほかに誰もいないようですわね。まさか本当に二人だけだなんて・・・ひょっとして本物のお馬鹿さんたちでしょうかね?」
「そうとは限らないさ、管理局には基本的に私達と戦える程の腕を持った輩は相当少ないと聞く。おそらく少数精鋭でここに向かわせたのだろう・・・まあ穴を掘ってそこに入った理由はさすがに分からんが。」
「それに関しては同意ですわね~。なんでこんなところに来てまで穴掘りなんてしてたのか・・・墓穴?」
そう言うクアットロとほか二人の視線の先には、先ほど泰寛がアンダー・ワールドで掘った半径一メートルほどの穴があった。
確かにその用途が分からないものからしてみれば、比較的軽度とは言えこんな汚染された地域でわざわざ穴を掘る理由など分かるわけもないだろう。
「しかし二人とも、報告によるとここに入ったガジェットが行方不明になっているそうだぞ。何かの罠や作戦とも考えられるんじゃないか?」
「まあそれについては今から入ればわかると思うわよ。というわけでチンクちゃん、それの処分お願いね。」
「了解した。」
---ジャラララッ シュババッ
チンクはクアットロに従い、どこからともなく複数のナイフを取り出してそれを船に投げる。
ナイフは船の表面にくまなく突き刺さり、まるで逆サボテンのような状態になった。
「IS発動。ランブルデトネイター。」
---キィーン・・・
チンクの手のひらから放たれた幾何学模様の光に呼応し、ナイフの一本一本が同じような幾何学模様を描いて光り出す。
そして・・・
---パチンッ ドドドドドドドドドドォ――ンッ!!
チンクが指を弾いたことにより、それらは一斉に爆発した。
後に残ったのは、見るも無残な残骸となった泰寛たちの帰還方法だった物のみだった。
おそらく敬一郎が戻ってきたら、変わり果てた船の有様に思わず涙することになるだろう。
「さて、これで次は奴らを見つけるだけだ。クアットロはここで待機、チンクは私と付いて来い。」
「了解。」
「了解しました~。」
二人はそう言い、チンクとトーレは穴へと向かっていく。
「二人とも頑張ってね~。フフフ、私はせいぜい高みの見物でも・・・あら?何かしらこれ?」
二人を送り出したクアットロは、自分に備わっている探索機能を使って二人の動向を探る。
すると映し出されたモニターには、彼女にとって不可解な状況が映し出されていた。
「・・・・・・・なあチンク。」
「な、何だ?」
「・・・・・・これはどういうことだ?」
「・・・わからない。こんな事態は私は初めてだ。」
「奇遇だな、私もだ。」
「「・・・・・・・・・・・・・・」」
「「私達、確か穴に入った筈だよな?」」
先ほど穴の中にはいっていったトーレとチンクの二人は、自分たちの目の前に現れたものに対し呆気にとられる。
まあそれはそうだろう、二人はつい数分ほど前に掘られた穴に入った筈なのに、地面に降りたと思ったらそこには立派な廊下があったのだから。
しかもおまけに、先ほど自分たちが入ってきた穴があった位置は、まるで最初からこうなっていたかの如く天井で塞がっていたのだ。
驚かない方がどうかしているというものだろう。
「結界の一種なのか?索敵機能は使えるが外との通信が繋がらない・・・」
「{ガンガンッ}クソ、かなり固い。そう簡単には壊せそうもないな。」
通信を試そうとして失敗しているチンクと、天井を数回ほど本気で殴りつけた後、そうコメントするトーレ。
まあいくら昔のものとはいえ危険な実験をするための施設なのだ。頑丈な造りになっていたのはある意味必然なのかもしれない。
しかもこの研究所、なんと泰寛が突発的な災害などの影響を鑑みて無駄にスタンドパワーを込めて再現しているのだ。
本来戦闘に特化したトーレの攻撃が通らないのは単純に彼女たちが再現された記録に取り込まれている、その部分はまだ壊れる時間ではない、そもそもスタンドパワーで作られているためスタンド以外では有効打にならないなどの理由があるのだが、通信が繋がらないことについてはその無駄に込めた分が電波すらも通れないほどにジャミングしているからである。
まあ入ってくるだけなら自由という設定で再現している以上、雨などの被害は漏れなく受けることになるのだが。
自分が危機と判断しないことに関しては泰寛自身、案外抜けているのではないだろうか。
「どうするトーレ?一度クアットロに報告をした方がいいんじゃないか?」
「それもそうだな・・・おーい!クアットロ!」
トーレは自分の降りてきた位置に向けて声を出す。
しかし、対して離れてもいないはずの肝心のクアットロからは、通信はおろか返事すらまともに帰ってはこなかった。
「おい!どうしたクアットロ!返事をしろ!聞こえないのか!?」
返事が返ってこないことに不信感を抱き、トーレはもう一度叫ぶも、やはり返事は帰ってこない。
仮に彼女たちが命綱でも持って降りてきていたのなら、再現された記録が彼女たちが完全に中に入ってきていないものとして捉え、クアットロに上から引き上げてもらうことで出られたかもしれないが、それがない彼女たちに今の所そこから出る方法はなかった。
「チッ!駄目だ、おそらく聞こえていない。」
「ならどうする?このまま待っていれば不審に思ったドクターたちが何らかの援助をしてくれると思うが・・・」
苛立つトーレに対し、チンクがそう提案するがトーレは首を横に振る。
「いや、それじゃあ駄目だ。ドクターの目的のために生み出された我々がこの程度の事態に対応できないようではドクターを落胆させてしまう。ドクターの期待に応えるためにもここは私達だけで対処するぞ。」
「分かった。それじゃあ私は・・・!?誰か来る!」
チンクがナイフを構えながらそう言ったのに反応し、トーレも自分の武装である、両腕両足につけられている計八本のエネルギー翼『インパルスブレード』を展開する。
---コツ コツ コツ コツ・・・
するとチンクの言った通り、通路の角から白衣を着た男が現れた。
二人は驚きながらも構えを解かず、まずはトーレが男に向けて口を開く。
「其処で止まれ!貴様は何者だ!」
「・・・ん?私かい?私はこの研究所の研究員だよ。」
「研究員だと?馬鹿な、この近辺にはドクターと私たち以外に誰もいないはずだ。」
男の発言にチンクがそう返すと、男は無表情で言葉を続けて行く。
「ああ、そのとおりだ。正確に言うと今ここにいる私は『二十六年前に死んだここの研究員の記録』なんだよ。」
「・・・ふざけているのか?」
男の言うことにトーレは苛立ちながらそう返す。
「いいや、真実さ。今から二十六年ほど前、かつてここからもう少し離れたところに一つの研究所があった。其処では『ヒュードラ』と名付けられた次元航行エネルギー駆動炉を造る為、当時の本人である私を含めた数人から十数人の科学者たちが寝食を惜しんで研究を行っていたんだよ・・・・・・と言っても結局は失敗、駆動炉の魔力が暴走したことにより数人を除いたほとんどの研究者や人員がそこで命を落としたがね。」
「・・・さっきから何を言っているんだ。ここは、お前は一体なんなんだ!答えろ!」
「・・・私については先ほども言った通りだ。私は『二十六年前に死んだここの研究員の記録』・・・そして今私や君たちがいるここは、『かつてヒュードラが造られていた研究所の記録』なのさ。梶原 泰寛の『アンダー・ワールド』によって掘り起こされ、再現された『大地の記録の一部』・・・それが今、君たちが立っている場所なのさ。」
初めて出てきた人名らしき言葉に二人は反応し、チンクが男に尋ねる。
「カジハラヤスヒロ?その男がこの状況を作った犯人なのか?」
「その男は管理局の局員なのか?」
「おいおい、いきなりいっぺんに聞かれても一気に答えられないよ。そうだね、まず彼がこの状況を作ったことは確かだ。彼の能力の一つ・・・『アンダー・ワールド』は、大地が磁気テープのように記録しているあらゆる記憶を、地面を掘り起こすことによって実体化させることができる。君たちが今見ている私のように・・・この研究所の様に、ね。そして再現された記録に入り込んだ者は、彼と彼が選択したものを除いて実体化している記録に取り込まれ、場合によってはその時起こった出来事によって死ぬことになる。例えば昔ここで起こった大爆発の様にね・・・ああ、そう心配しなくてもいいよ。彼が掘り起こしたのは開発が始まる直前の記録だ。彼らも敵対する輩がいるとは思ってなかったしそんな危ない時間までは再現されていないよ。それに能力が解除されれば再現された記録だけが消えるし、少なくとも君たちが死ぬ可能性は今のところない。」
男の発言に、暫く黙っていたトーレとチンクの二人はようやく現状を理解したようで目を丸くする。
(なるほど、原理などは全くわからないが、ようするに私たちは『再現された記録』とやらに取り込まれているという訳か。そしてガジェットが行方不明になった事や、クアットロ達との通信が繋がらない理由は私達が既にこちら側に取り込まれているということ・・・クソ!完全に油断していた!)
実際に泰寛が彼女たちのことを知っていたわけではないのだが、トーレはそんなことは露とも知らず、その場で歯噛みしてしまう。
形はどうあれ自分たちは事実上ここに閉じ込められ、孤立していることになるのだ。ある意味当然と言えば当然かもしれない。
まあ現状を作っている本人からすれば不本意以外の何物でもないのだろうが・・・
「チンク、心してかかるぞ。」
「わかった。おい、そいつは今どこにいる?」
「えっと・・・確か私が最後に見た時は研究室に入って行ってたね・・・」
「それはどっちだ?」
「向こうだよ。」
「よし、行くぞチンク。」
「了解した。」
本人の与り知らない所で勝手に評価が決まり、二人は研究室のある方向へまっすぐ走っていった。
「・・・・・・・・・・・・・」
そして残された記録は、特に思うことも無さ気に本来の自分が進んだ道を歩いて行った・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
暫くは知っていたトーレとチンクの二人は、研究室とミッド語で書かれた扉から数メートルほどの位置で止まる。
「いた、生体センサーに二つの反応を探知、おそらくあの二人だ。」
「よし、それじゃあ入るぞ。」
二人は慎重に扉に近づいていき・・・お互い入口の両側につく。
「「{コクッ}」」
そして二人は確認するように頷き・・・
---ウィーンッ バッ
開いた扉から見えた二つの人影を見据えながら入っていった。
「何者だ貴様ら、管理局の者か?」
そして彼女達は邂逅した。自分たちの勝ち目が、どれほどかもわからないまま・・・