デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録 作:enigma
7月20日火曜日 6:00 天候:曇り
===梶原家===
「~~~~♪~~~♪」
露出する部分に日焼け止めを念入りに塗り、日射病対策にツバが大きく留め紐のついた帽子をかぶる。
持っていく荷物に関しては倉庫の中に収納しているから財布を除けば実質ゼロだ。(一応体裁を保つ意味で書類が入るサイズのカバンを持っていくが)
「よし、準備完了!」
準備ができたのを確認し、俺は玄関に向かう。
すると母さんが挨拶をするためか玄関の前に立っていた。
「変なことに巻き込まれないよう気をつけてね。」
「うん、ありがとう。それじゃあ母さん、行ってくるよ。」
「ええ、いってらっしゃい。」
母さんに挨拶を返し、玄関から外に出て行く。空は雲が厚く覆いかぶさっていて、気温もいつもよりは低く、夏場の外出にはうってつけの状況となっていた。
(フフフ、いよいよ始まる!俺の旅行が!!・・・・・・とまあその前に・・・)
玄関で手を振ってる母さんが見えなくなるまで歩いたあたりで、路地裏の誰にも見えなさそうなところに入っていく。
「今回は高速道路を利用するからな・・・向こうにつく予定の時間を考えるとさすがにちんたら走ってる場合じゃない。と、いう訳で・・・」
人目が無いのを確認してから倉庫を引き寄せ、帽子を脱いだ後で中から三枚のディスクを取り出して頭に差し込む。
「『ホワイト・アルバム』、『アクトゥン・ベイビー』」
---ビキビキビキ・・・シャキィ―z__ンッ
装備したスタンドの内一つの能力を発動させると、全身を瞬時に透明無色の氷が覆い、いつもよりは若干薄めだがアーマースーツのように身体に纏わりついた。
次に、もう一つの能力を使って全身を透明にする。
目の前で手を振ってみるが、まるで本当に何もないかのごとく、向こう側の見え方に一切の歪みもない。
(これで猛スピードで走ってたとしても誰にも見られることはない。暑さ対策もばっちりだ。・・・・・・・なんか帽子要らんかったかも知れんね、これ。)
一度道路に出て、あたりの確認を行う。
・・・よし、行けるな!
---ジャキンッ
(GO!GO!GO!)
今は声に出すわけにはいかないから心の中でそう叫びつつ、スピードスケートのようなブレードを氷で瞬時に足底に作り出し、高速で路上を駆け抜けていく。
時間が早朝のためか、人通りもすごく少なくてどんどんスピードを上げて行ける。
十分も滑り続けていると、あっという間に高速道路のゲート前が見える位置まで来れた。
「限界を超えて飛ばす!ホワイトアルバム・ジェントリーウィープス(静かに泣け)!」
俺はスピードを緩めないまま道路の左端・・・ガードのあるギリギリの位置まで身体を寄せていき・・・
---ビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキッ!!
「おおおおおおおおおおおお!!」
ゲートの上を乗り越えるように、なおかつ透明にしながら氷の橋を作っていき、それを昇っていく。
---ジャッジャッジャッジャッジャッ!シャァア―z__ッ
そしててっぺんに着いたあたりで更に急加速し、最終的に走っている車を楽勝で追い越せるような速度で高速道路に降り立つ。
「イィィィィイイイイヤッホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオイイイイイィィッ!!このまま巌戸台まで驀進だァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
スピードは依然として落とさず、過ぎ去っていく風景に舞い上がりながら走っていった。
え?犯罪?いやあの・・・しかたないじゃん、俺車に乗ってる訳じゃないし。金持ってたってこれじゃあ門前払いだもの。
開き直るな?スィマセーン・・・
◇◇◇スタンド使い長距離移動中・・・◇◇◇
6:00→11:42
===巌戸台近域 高速道路前===
「ぜぇ・・・・・・ぜぇ・・・・・・ゲホゲホ・・・し・・・死ぬ・・・テンション上げ・・・げほ・・・過ぎて・・・ゴフ、走り過ぎた・・・ゲホ、もう・・・フラフr・・・ゴホゴホ・・・」
走行時間およそ五、六時間弱・・・某最速の男の如く移動時間を極限まで短縮するためにほとんど休憩を入れずに走り続けてみたら、高速道路を下りるころにはもう全身がガクガクでいつでもぶっ倒れられそうな状態になっていた。
氷のスーツはとっくに外れていてブレードは罅割れだらけ、いつでもぶっ壊れますよってなものだ。
近くに歩いてる人がいなくて本当によかった・・・
(おかしい、昔なら本気で走り続けても半日はペースを維持できていたはずなのに・・・やはりまだまだ体は子供ということか・・・)
早く成長して体力を取り戻したいと思う半面、人生で一番自由だと胸を張って言える時間が早く過ぎるのは嫌だなと苦笑しながら、一先ず高速道路の下に入ってスタンドディスクを外した後、ゆっくりと目的地まで歩いていく。
(確か父さんの出張先は人工島の商業ビルだったな・・・ハハハ、さすがに電車を使うべきかもしれない・・・)
(高速道路を走行している間に遠くの方で線路みたいなのが見えたし、休憩の意味も込めてあれに乗ることにしよう。)
取り敢えず地面に座って暫く休憩し、呼吸を整えてから再度歩き出す。
しばらく休憩と徒歩を繰り返していると線路沿いの道に出られ、そこから通りすがる人達に道を聞きながら一番近い駅に到着する。
それとどうでもいいがここ・・・走っているのは電車ではなくモノレールだったみたいだ。遠目からだとマジで見分けがつかない・・・
「えっと、俺が行くのは辰巳ポートアイランド駅だから・・・170円ってところか。」
駅の切符販売機に(非常にもったいないが)お金を投入し、切符と領収書をもらって改札口へと行く。
そして改札口に切符を投入し、出てきた切符を再度もらってホームに来た自分の乗るべきモノレールに入って空いている席に座る。
(ハア・・・疲れた・・・・・・)
貴重品はすべて倉庫の中だから特に注意することもなく、俺は座った席に寄りかかりながらゆっくりと目を閉じる・・・
「・・・・・・・・・・」
なんだか・・・・・眠いな・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『・・・・アイランド駅~、ポートアイランド駅~。間もなく、辰巳ポートアイランド駅に着きます。お降りの方は、お忘れ物の無い様お願い申し上げします。』
「・・・・・・・んんん?少し寝てたか・・・」
なんだろう、真っ暗な空間の中ですごく見たことのある立ち入り禁止のテープが、それこそ隙間も見えないくらいに張り巡らされた扉の前に立ってる夢を見てた気がする・・・
それと、扉に一つだけあった覗き穴から光る真っ青な扉が見えたような・・・自分で言っておいてなんだけどどんな夢だよ・・・
「ふう・・・{ペキペキ}全開とまではいかないけどそこそこ良くなったか。」
---キィ――――――――、プシュウ――――ッ
『お疲れ様でした~。辰巳ポートアイランド駅でございます。お降りの方は、お忘れ物の無い様お願い申し上げします。』
「よし、降りるか。」
モノレールが到着したのを確認し、開いたドアからモノレールを降りて、改札口を出た後父さんのいるであろう会社に向かう。
ついでに近くにあったトイレで倉庫から書類の入った鞄を取り出しておく。
---グギュルルルルゥ~~~~~
「うぐぅ、そういえばそろそろ昼だったよな。はァ、さっさと用事を済ませて件のラーメン屋にでも行くか。」
確かもうそろそろ見えてくるはず・・・
「えっと、確かPCの地図だと住所はここらへんに・・・あ、ひょっとしてこれかな?」
暫く周りの建物を見ながら歩いていると、持ってきた書類にかかれている宛先と同じ名前の看板が着いた建物が目に入る。
俺はひとまずそこに入り、受付と思われるところに行って係員の人に話しかけた。
「あの、すみません。ここに○○株式会社の梶原 黒杜ていう人が来ていませんか?その人にこの封筒を渡したいのですが・・・」
「ご家族の方でしょうか?」
「はい、『梶原泰寛が来た』と本人に言えば分ると思います。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
受付の女性がそういって電話をする。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、きた。」
二十分位経過した辺りで、廊下の向こうから父さんが姿を現した。
「すみません!わざわざ呼び出していただいて・・・まさかこんなところまで来るとは思わなかったぞ。」
「いやぁ、ここ一応旅行先の一つだったから、どうせだから届けに来たんだよ。ハイこれ約束の物。」
鞄から書類を出して父さんに渡す。
「ハハハ・・・本当に済まん。お詫びと言ってはなんだけど、ここの会社で仲良くなった人からラーメン屋の食事券をもらったんだ。結構有名らしいしここからそう遠くない所にある。食べに行ってみると良い。」
父さんはそうすまなそうに言うと、胸の内ポケットからその券の束を・・・俺が本来行く予定だった『鍋島ラーメン・葉隠れ』の一玉無料券を取り出す。
俺は少しだけラッキーだな、と思いながらそれを受け取った。
「{グゥウウ~~~~~}うぐ、それじゃあ俺はそろそろ行くよ。」
「ああ、しっかり楽しんでくると良い。ここはなかなか良い処だぞ。」
俺は父さんに別れを言い、会社を出て目的のラーメン屋があるところに移動する。
12:30
===ポロニアンモール===
「ここか、早く何か食べよう。」
十数分後、お腹の具合にかなり限界を感じながら目的の暖簾の前までたどり着いた。
早速中に入り、カウンター前の開いている席に座って注文票を見て・・・
「・・・よし、これだ。すみません、醤油ラーメン一つ、叉焼大盛りでお願いします。」
隠しメニューは条件が分からないから後回しにし、今回はとりあえず醤油ラーメンを頼む。
「・・・・・・・・・・ヘイお待ち。」
それから約十数分後、実においしそうな醤油ラーメンが目の前に出される。
「{パキンッ}いただきます。{ズルルルル}う、うまい!」
最初のあっさりとした風味、そして後から顔を出すこのこってりとした味わい。
味王も口から波動砲を撃ちかねない旨さだ!
---チュルルルルル
箸が全く止まらない。コラーゲンたっぷりなトロ肉や叉焼!持っちりとした歯ごたえが特徴的な麺!具材のおいしさを限界まで引き上げてしまうスープ!疲労と空腹のせいもあって犯罪的な旨さだ!いくらでも食える気がしてならない!
(ううむ、これは奥の深い味わいだ。是非とも自宅で作ってみたいな。)
一先ずスープに使われている材料を調べるために、アライブから鍵を受け取って宝石部分を頭に押し当てる。
そしてアライブにハイウェイ・スターのディスクを一つ持ってこさせ、他の客にわからない様に宝石部分から直接ディスクを差し込んで装備し、スープの匂いを嗅いでいく。
({クンクン}ふむ、出汁は鶏ガラ、昆布と削り節、タマネギ、長ネギ、生姜etcetc・・・この辺りはまあセオリーか。)
さすがはハイウェイ・スターといったところか、少し嗅いだだけでどんどん具材を解析できる・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?
(何だこの匂い、今までに嗅いだことが無いな・・・)
スープの具材を嗅ぎ分けているうちに、ハイウェイ・スターとともに奇妙な匂いを・・・本当に微かではあるが嗅ぎ付ける。
(何だこれは・・・魚介系?野菜?牛のようでもあるがハ虫類でもありそうで、両生類の様な感じも・・・)
駄目だ、全くわからない。前世も今世も結構な量の食材と対峙してきたがこれだけはマジで初めてだ。さっぱりわからない・・・
(う~ん、数日くらいはここに滞在するつもりだし、これはまた後で探ってみるか・・・)
若干の謎を残しながらも一先ずラーメンを一滴たりとも残さず食べ尽くし、一先ず店を出る。
「さて、とにかくまずは情報収集だな。念のためこれもつけて{ズブズブ}・・・よし、行くか。」
その後はあるディスクを装備し、ここの隠しメニューをどうやったら食べられるかを調べることにした。
隠しメニュー・・・是非とも食べてみたいものだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
18:10
隠しメニューについて調べる事約半日・・・今はもう一度はがくれでラーメンを食べながら若干頭を悩ませていた。
ちなみに今食べているのはとんこつラーメンである。
「うぐぐぐぐ、やっぱりポッと出の俺が食べるのは難しいのかな~・・・」
『ダカラヨォ~、ソレハサッキモ言ッタダロウ?マダ時間ジャネェンダヨ。』
「うっせえ、それくらい隠しメニューに期待してるってことなんだよ。」
後ろにいる存在・・・昼ごろに装備したドラゴンズ・ドリームにそう言いながら思わず苦い顔をしてしまう・・・というのも件のはがくれの隠しメニュー、噂ではかなりの常連やお得意さんにしか振舞われないという話で、近辺に住んでいてそこによく行く人でもほとんど見たことが無いらしい。
分かった事と言えば、せいぜいそれが丼ものだってことくらいか。
まして俺はただの観光者。距離が距離なだけにそうそう来られるものでもないから条件を満たすのはよほど難しいのだろう・・・ドラゴンズ・ドリーム等の運を引き上げるスタンドを使ってもこの様なのだから(こいつ曰くまだ時ではないとの事だが、他の予定もあるし早いところ何とかしたい・・・)
「{ゴクゴクゴク}プハァ―、ごちそうさま・・・はあ、どうやったら食べられるかな~・・・」
ラーメンを食べ終わった後、勘定を済ませて店を出ていき、その辺を適当に散歩する。
『・・・ン?!待テよ兄チャン、ソコノ通リヲ左ニ曲ガリナ!ラッキーカラーハ【ジェットブラック】ダゼ!』
「は?・・・まあいいけどよ。」
ドラゴンズ・ドリームの指示に従い、店を出て左に進んでいく。
「まったく、いったいなんなんだ「うう!?{ドサッ}」・・・は?」
「か、奏美!?どうしたんだ!しっかりしろ!」
人通りの中を道なりに進んでいると、たまたま近くを通った数人組の家族のうち、一人の子供が腹を押さえながら急に倒れる。
「おいあんた!なにがあったんだ!」
家族と思わしき人たちが慌てふためく中、俺は倒れた子供の親と思わしき人に話しかける。
「わ、分からない。さっきまでは元気に夕食を食べていたのに「う、うええ・・・」奏美!?しっかりするんだ!」
「おいおい吐いているじゃねえか・・・夕食ねえ・・・おいアンタ!今すぐ近くの病院に連絡を入れるんだ!急げ!」
「わ、分かった!」
取り敢えず症状は・・・腹痛だけなら腹を下しただけで済むが、この異常な発汗、発熱、腸管のグル音に嘔吐・・・食中毒か!?
(やれやれ、これ絶対に幸運じゃねえだろ。ドラゴンズ・ドリームめ、余計なことをしてくれやがって・・・とにかく今は応急処置が先決だ!)
波紋を練り、手のひらに集中させてうずくまっている少年の腹に当てる。
(えっと、まずは肝臓の代謝を促進させて解毒作用を引き上げて・・・よし、次は消化器系の代謝を促進させて出来うる限りの殺菌、毒素がこれ以上入らないように吸収能力は落として・・・)
まったく、せっかくの休みになんでこんなことをしなくちゃならないんだ・・・!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・はあ、今日はひどく疲れた・・・」
結論から言うと・・・・・・あの少年は助かった。
救急車が来るまで波紋で痛みを和らげ、代謝機能を著しく促進させ続けたことが功を成したのか、運ばれた先の病院で何とか安静な状態まで持ち直したそうだ。
俺?一応病院まで付き添ったよ?なんか報告を聞いた後、家族の人からえらく礼を言われていたね。
まあ悪い気はしなかったけどさ・・・はあ、なんというか本気で疲れた・・・あんの馬鹿スタンド、何がこっちに行けだよったく・・・
「・・・もうこんな時間か。何かいつになく早く過ぎ去っていったな・・・」
なんとなく空を見上げてみると、三日月が真上辺りで綺麗に輝いているのが見えた。
時間的にはもう深夜だろうか・・・
「少し休むか・・・ファ~~~~、そう考えたらなんだか眠くなってきた・・・」
丁度通りかかった公園の中に歩いて行く。
公園の時計を見てみると、あと数秒ほどで0時を示そうとしているのが見れた・・・良い子は寝てる時間ですね分かります。
「・・・・・・・・寝るか。」
俺は公園の一角に鍵を置き、倉庫を引き寄せて入っていく。
(明日こそは隠しメニューの情報・・・・・・見つかると良いなぁ~~)
まあこればっかりは願う他ない。
仕方ないね。
---カチッ カチッ カチッ カチッ・・・・・・・・・ガシャァアーz___ンッ
「・・・・・ん?」
何か今妙な感覚が・・・・・・気のせいか?
「・・・・・・・・まあいいや。」