デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

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今回で夏休みは終了で御座います。
次からはA's編になるとおもいます。それではどうぞ。


第二十九話

「ハムッ、ハフハフ、ハフッ!!」

 

---カカカッ ガツガツモグモグ・・・

 

「ンマァァ~~~イッ!これが隠しメニューの味!!これほど・・・!これほど旨い丼モノがあっただなんて・・・感謝するぜグルメキングッ!!」

「ング、ウグ、ング・・・ンフフフ~~、さあさあどんどん食べなよ。同じグルメを極めんとする者同士、これくらいの助力は当然なんだからさぁ~♪」

「ああ、遠慮なく食べるさ!食べないでか!{ガツガツモグモグ・・・}ンマァァ~~~イッ!」

 

11:50・・・俺こと梶原泰寛は・・・ようやく、ようやくはがくれ丼を食べる事(メインミッション)に成功していた。

 

 

 

バイツァ・ダストッ!

 

 

 

9:26 ===ワイルダック・バーガー===

 

「ハァ・・・やべえ・・・マジでどうしよう・・・・・・・いやほんとどうしようこれ・・・」

 

あの奇妙な謎の塔を抜け出してから十数分後(現実の時計はなぜか全部止まっていたから体感時間)、同じく奇妙な血だまりと棺桶だらけの世界から自然とはじき出された俺は、色んな意味で異様な疲れを感じて一度ベッドに入り・・・そして起きた後は、朝食のために訪れたワイルダック・バーガーで黄昏ていた・・・

まあ理由はもちろんある。あの奇妙な空間に入っている間、すでに十日も時間が過ぎていたということだ。

多少予定が狂う程度ならまだ許せたが・・・これはもう今日中にでも出発しなければ、予定していた地域を全部回り切ることは不可能と言ってもいい。

本当・・・泣けてくる・・・本当に・・・・・・貴重な夏休みがあんなゴミ屑みたいな連中のために費やされてしまっていただなんて・・・手に入った拳銃二丁と他に塔の中で見つけた宝石とか、妙な力を感じる石とか、金とか、ガラクタ程度じゃ到底割に合わない。

本当、なんでこうなったのか・・・まああの対戦車ライフルみたいな拳銃が手に入ったのは純粋にうれしかったけどね。いやほんと・・・すごい威力だよあれ。実弾が使えるかどうかはこれから検討しないとまだわからないけど、少なくとも俺の精神力か体力みたいなのも使う仕様だし、コストも大体アライブの全力パンチ一回分であの威力をそのまま出せるのだから反動を除けば使い勝手は最高だし、イヤホント、あれだけが唯一得をしたと思う点だね。

ボタンに関しては・・・・・・・・・自分でも何で持ってきたのかわからない。

多分あれだよ・・・冒険者の性的なゴーストが俺にこれを持って行けと囁いたからかも・・・

 

「・・・・・・・・・ああもうやめだやめ!こんなことしてたって過ぎた時間は戻らない!これからだ!それよりもこれからのことを考えよう!!」

 

嫌な気分を払い飛ばし、これからのことについて考える。

 

(とりあえずあれだ!昼食は最後の思い出にはがくれのラーメンを食って、それで次の街に出発しよう!そしてまた来年ここに来よう!よし決まり!)

 

決断ができたところで、目の前にある注文したハンバーガーのセットを食べ終わって外に出る。開き直るって、結構重要なことだよね。

 

(昼食まではまだ時間があるから・・・よし、とりあえず今は散歩でもしておくか。)

 

そして昼食までの腹ごなしに、取り出したキックボードに乗って適当に寄り道をしながらはがくれに行くことにした。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「しかし都心に近いだけあってなかなかいい具合に発展しているよな、この街・・・あれが無ければ本当に住みやすそうだ。」

 

俺は地面を蹴りながらキックボードの上でそう呟く。

俺が生まれる数年ほど前に、桐条グループと言う財閥じみた権力を持つ会社を主体に近海を埋め立てて造られたこの巌戸台含むポートアイランドでは、二、三年ほど前に研究所の爆発事故と『原因不明の無気力症』という突発的な精神病が起こった。

当時はそのせいで結構な数の人がこの土地から離れて行ったとされているが・・・それもまた、桐条グループの驚くべき采配のもと、元の活気を取り戻したらしい。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

・・・・・・・・・あくまで憶測の範囲を出ない考えだが、その爆発事故、あの塔になにか関係があると考えてしまうのは俺の気のせいだろうか?

ネットで調べてみたところ、無気力症がこのあたりで騒がれるようになったのは、時間は少なくとも件の爆発事故が起こった直後、場所はあの塔があった位置に本来ある学園を中心とした地域だったそうだ。

あの規模の大手企業ともなるとその影響力も馬鹿に出来ない。大っぴらに出来ない様な隠し事をしやすい環境なんていくらでも作れそうだし、どうもキナ臭すぎる・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・ま、自分の生活を優先してる俺がそんなこと考えても仕方ないんだがな・・・大体ここ遠過ぎるし。」

 

正直なところ、あの塔や奇妙な空間には嫌な予感しかしない。確実に何かとてつもなく恐ろしい何かを秘めていることは間違いないことだろう・・・

が、生憎俺にも俺の生活基盤ってものがある。

高校を卒業した後か、ここに住居を移すなんてことがあれば目先の不安を取り除く意味を込めていくらでも調べようはあるが、生憎と俺の居場所は距離的にも俺の力量的な意味でもここに容易く来れるようなところではない。

よって非常に不気味な案件ではあるが、俺の地域にまで影響が広がっているわけではないし、今のところ矢島達の様に転移魔法でポンポン移動出来る訳ではないからここについてはいったん保留とさせてもらおう。

 

「・・・・・・・あ、そろそろ見えてきたな。」

 

道なりにずっと進んでいると、はがくれの暖簾が視界に入った。

 

(やれやれ、何時か食べられるようにしたいな、隠しメニュー・・・)

 

そんなことを考えながら近くの物陰に入り、周りに見えないよう倉庫にキックボードを仕舞ってからはがくれの前に立って・・・

 

 

 

「ちょっとそこのチミ!スタァ――プッ!」

「?」

扉を開こうとした瞬間、誰かの呼び止める様な声を聴いてその方向へと振り向く。

その方向からは、どっかで見たような覚えのある小太りの男子が汗だくになりながらこちらに走り寄ってきていた。

 

「ぜぇ~~、はぁ~~~、ぜぇ~~~、はぁ~~~・・・ちょ、ちょっとタンマ・・・い、息が・・・」

「は、ハァ・・・(この人・・・どっかで見え憶えがあったような・・・)」

 

取り敢えず立ち位置的に他の人の邪魔になるから、走ってきた子供を誘導して道の端っこに移動する。

 

「ぜぇ~・・・ひゅぅ~~・・・ぜぇ~~・・・ひゅぅ~~・・・ふう、やっと落ち着いた・・・」

 

というかマジで誰だっけ。こっちで関わり合いのある人なんて・・・あ!

 

「は、ははは。それは何よりで。とりあえずお水でも飲みますか?末光望美さん。」

 

そうそう思い出した。この前食中毒で倒れた子供のお兄さんだこの人。

久々・・・と言った方がいいのだろうか。

「やだなぁ~~泰寛君、チミとボクとの仲じゃあないか。気軽に望美って呼んでくれてもいいんだよぉ?あ、でもボクとしては『グルメキング』の方がいいかなぁ~。」

「ハハハ、それじゃあそう呼ばせてもらいますよ、グルメキング。」

「フッフッフ、くるしゅうなぁ~~い♪」

 

ちなみにこの人がここまで俺に親しく話しかけて来るのは、弟さんの入院した病院で検査結果を聞いた後、盛大にお腹を鳴らしたこの人にいくつか料理を振舞ったことが要因である。

そこから短い時間だけどグルメネタで意気投合、お互いに交流を深めて行ったという訳だ。そして今この人が言ったグルメキングというのは、この辺の商店街や飲食店の食品を抜け目なく食い漁り続けた結果、商店街の人たちから公認でつけられた通り名らしい。話では証明書まであるのだとか。

「フッフッフゥ~~。ところでチミ、ここに来たということは・・・当然、ア・レ・狙いなんだろぉ?」

「あ、アレ?」

「惚けるなよ~~。あれだよあれ!・・・隠しメニュー・・・」

「・・・・・・・・・・・・!?ま、まさか・・・」

まさか・・・・・・・・本当に?マジで?信じていいのこれ?からかってるだけだったらあれだよ?コークスクリューブロウだよ?

「そう!正にそのまさか!食べたいんだろ~?食べたいんだよね~?同じグルメ人として当然だものね~~?」

「・・・{ゴクリ}食べたいです・・・お願いします、グルメキング!」

 

まさかこんな形で叶うなんて・・・は!?ドラゴンズ・ドリームの言っていたことはこの伏線だったのか!?分からねえよこんなもん!

よし、前にドラゴンズ・ドリームは二度と使わないといったが・・・訂正だ。これからはガンガン使っていこう。

 

「ン~~♪そう来なくちゃ!それじゃあ・・・行こうか。ボクたちの聖地に・・・」

「hai!!(誤字に非ず)」

 

グルメキングを先頭に、俺達ははがくれ(アガルタ)へと入っていく・・・目の前まで来ているはがくれ丼(大いなる目的)のために・・・・・・

 

 

 

 

そして話は冒頭に戻り・・・

 

 

 

「ケプ・・・ごちそうさまでした・・・」

 

隠しメニューを大盛りで食べきり、腹もいっぱいになってご満悦となった。

真に美味でございました。もう何も入らん・・・

 

「ふう、ざっと腹八分目かな?」

「マジで!?半端じゃねえ!」

 

隣でありえないことをほざいたグルメキングに思わずそう叫んでしまう。

ちなみにこの人、俺が食ってる間にはがくれ丼にプラスしてラーメンの特盛を二杯も食べちゃってる訳なんだがさすがはグルメキングと言った方がいいのだろうか。

 

「ンッフッフッフ、まだまだ精進が足りないねぇ泰寛君。一流のグルメ人はこの程度の量は物ともしないのだよ。」

「すげぇ、さすがはグルメキング(あの量は今の俺じゃ絶対に食いきれないな・・・)」

 

取り敢えず満足できたので、会計を済ませて二人で店を出て行く。

ふう、ホントに満足満足!

 

「さて・・・・・・・・・そろそろ行かないと・・・」

 

時間は1時過ぎ。夏休み中にすべて回るためにも、このあたりが潮時だろう。

 

「・・・行くのかい?新たなる高みへ。」

「ああ、俺を待っている料理がまだまだたくさんあるからな・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

---ガシッ

 

「・・・・・また何時かここにくるんだよ!チミとは語り合いたいことがたくさんあるんだからね!」

「ええ!今度は土産もたくさん持ってきます!そちらもお元気で!」

「フフフ、もちろんさ!楽しみにしているよ!」

 

グルメキングと強く握手を交わし、別れの挨拶を告げる。

これでもうここに未練はない!また来るとは思うけど!

 

「「それじゃあ・・・また!」」

 

お互いに背を向けて歩きだす。

自らを呼ぶ数多のグルメのもとへと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ~んて格好が付いたままならよかったんだけどね~~。」

 

立ちはだかる野次馬たちの隙間から目の前で燃え盛る建物とそれを消化しようと奮闘する消防隊員の皆様方を見てふとそんなことを呟いてしまう。

なんてことはない。焦げ臭い匂いにつられてホイホイ歩いてきてみればこの光景が目に飛び込んできただけだ。

思いっきり大事件ですはい。

 

(最後の最後でこれか・・・取り敢えずさっさとかたずけちまおう。)

 

野次馬たちが燃えている建物に釘付けになっているうちに懐から携帯傘を取り出して傘を差し、ウェザー・リポートのディスクを取り出して装備する。

 

---ゴロゴロゴロゴロ・・・・・・

 

能力を発動すると、十数秒としないうちに頭上を重苦しいほどの曇天が覆い尽くし・・・

 

---ザザァ――――――――z____ッ

 

夜かと思うほど空が真っ暗になった直後、大型台風も真っ青な土砂降りと暴風が燃えている建物を中心に一斉に襲い掛かる。

 

---ジュァア―――――ッ

 

建物の炎は滝のように降り注ぐ豪雨を前に洗い流されるように消えていき・・・・・・最終的には物見事に鎮火した。

 

(消火作業終了。皆さんお疲れ様でした~~。)

 

頃合いで能力を解除、ディスクを移動用に取り替えた後、何事もなかったようにその場を立ち去った。

さ~て、今度は北上していくか。北海道産の乳製品は特に楽しみだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

===????????===

 

「う~~~ん、最近面白いことが無いな~~」

「?急にどうしたのさ。」

「ん、いやね、最近面白いことが一つもないなぁって思っただけさ。」

「ア~、そう言えば暇つぶしの玩具なりそうなのが最近少なくなったもんね。」

「そうそう、あの爺があぶれた魂を持ってきてくれなくなったから暇潰しになりそうなのが調達できなくなったもん。ホントどこにとんずらしたんだよあいつ。」

「何かカモにしてた同僚の受け持ちを横取りしようとしてたって聞いたけど・・・ばれて左遷でもされたんじゃないか?」

「フ~~ン、確かあの欝な世界ばっかり引き受けてる方の上司だよね・・・・・・・・ま、あの爺さんはこの際どうでもいいよ。というか本当に何か面白いことないかな~」

「{パラパラパラ}・・・・・・じゃあここなんか行ってみるとどうかな?なんか第二次アルマゲドンが起こってる世界らしいんだけど・・・」

「おいやめろやめてください さすがにそっちの系列に関わることだけはしたくねえよ。」

「ははは、そりゃそうだ。どんな善神だって匙を投げる様なこんな終わり同然の案件、手を付ける奴なんてそれこそ気が振れてる。最悪俺達だってヤバくなるんだから。」

「まったくだ。いくら暇でもこれは放置放置・・・・・・・ん?なあ、こいつ面白そうじゃないか?」

「どれどれ・・・・・・へぇ、確かに。」

「・・・いいんじゃない?あ、どうせだからこれをあいつの管理下に放り込んで・・・」

「へぇ・・・・・いいねそれ。あ、ついでだから凶悪な特典もたくさん・・・」

「ほうほう、じゃあついでにこういうのも・・・・・・・ははは!久々に面白くなってきたぞ!」

 

 

 

この世のどことも知れぬどこかで・・・またひとつの災厄が生まれようとしていた。

行く末を知るものは・・・まだ誰もいない・・・・・・

 

 

「{ゾワワッ}なんだろう、今すごく嫌な予感が・・・」

 

害を被るであろう本人・・・いや、本神でさえも・・・

 


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