デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

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海鳴市 大規模悪魔発生事件
第三十話


200X年、某県某所の拘置所

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

とある拘置所の一角で、数人の男たちが厳格な表情で椅子に座っていた。

まるでこれから、一つの重大な選択をするかのように・・・手元に設置されたボタン、分厚いガラス板で遮られた部屋、そこに置かれている処刑用の絞首台、鉄格子のはまった分厚い扉を静かに見つめながら座っていた。

「これより、死刑囚『伊藤 惟女(のぶめ)』の死刑執行を執り行う。被刑人を刑台へ。」

数分ほど続いたその静寂は、彼らの斜め後ろに立っていた男のアナウンスによって破られた。

そしてさらに数分後、ガラスの向こう側にある鉄格子の扉からここの職員であろう厳格な表情の青年二人と・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・」

まるで人形のように整った顔立ち、体つきをした微笑を浮かべる女性が処敬具の置かれた部屋へと入ってきた。

「ホラ、とっとと歩くんだ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

女性は何も言わず、ただ笑顔を絶やさず、青年たちに促されるまま処刑台を登る。

「被刑人、伊藤 惟女(のぶめ)。これからアナタは絞首刑となる。何か、最後に言い残すことはありますか?」

アナウンスをしていた男は、処刑台に登った女性にそう尋ねる。

「・・・・・・・・・・」

女性はドブ川の様に濁った眼をガラスのある方向に向け、少しばかりの沈黙を保った後・・・

「皆さん、楽ませてくれてありがとう♪」

ただ一言、不気味さと笑顔を崩さないまま、はっきりとそう言った。

「・・・・・・分かりました。被刑人に措置を行ってください。」

男のアナウンスに従い、青年二人は女性に頭がすっぽり入るサイズの頭巾を被せて首にロープをかける。

青年二人はロープをかけ終わった後、その場を離れて部屋の隅に移動した。

そして・・・・・・・

「それでは皆様・・・お願いします。」

「「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」」

---カチッ ガタンッ

幾許かの沈黙の後、全員が手元のボタンを押した。

その直後、女性の足元が扉の様に開かれ、女性はそのまま重力に引かれて首を吊る。

「?!~~~~!!」ビクンビクンッ

女性は首が吊られた直後、頸椎が折れたのか激しく痙攣をし始めた。

だがその行動は現状においてはさしたる意味をなさず・・・・・・・・・・

「――!―!{ビクッビクンビクンッビクッ・・・}・・・・・・・・・・・{ピクッピクッ}」

三十秒ほど経った頃だろうか・・・そのころにはもうほとんど動かなくなり、其処からさらに十数秒ほど経つと瞳孔が完全に開き、股の辺りから汚物を垂らし始めた。

これが・・・この女性の生命活動の終わりが確定した瞬間であった・・・・・・・・

 

 

 

 

 

===??????===

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・?あれ???」

どこまでも、どこまでも広がる真っ黒い空間。

女性の形をした半透明の存在が自分を認識した時、彼女は自分の状態に疑問を持った。

まあそれは当然のことと言えるだろう。彼女はさっき、自分が首を吊って死んだ事を自覚しているのだから。

「ここどこ?」

女性はもっともな疑問を口にしながら何となくそこら辺を歩いてみる。が、どこまで行っても真っ暗な空間は変わらず彼女の眼前に広がり続けていた。

「・・・なにここ、おんなじ景色ばっかりでつまんないなぁ・・・」

女性は幾許か歩き続けた後、飽きたせいか立ち止まってその場に寝転び、何をしようかと目をつぶって考え始めた。

 

「やあやあよく来たねぇ~。」

「・・・?」

その直後、不意に頭の方から聞こえた声を聞き取り、目を開けてその方向を見た。

「・・・あなた誰?」

女性の頭上には、何時からいたのか、何者かはわからないが、一人の男が椅子に座っていた。

「僕かい?僕は・・・そうだね、君たちでいう所の神様、超越者ってところかな?まあこの体勢で話すのは疲れるし・・・まずは座りなよ・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

女性は男の言うとおり、体を起こして男の方に・・・・・・

---ドゴォッ

「!?!?!」

向き直った瞬間、男の首めがけて飛び付いたと思ったらいつの間にか男の座っている椅子の下敷きになっていた。

女性は自分の身に何が起こったのか理解できていないようで、唯々自分にかかっている不可に抗おうと四肢を動かし続ける。

「・・・・・プ、ククク・・・ハハハハハハハハハハ!!イイねぇ!それでこそ君を選んだ甲斐があるってものだ!なぁ、シリアルキラーちゃん?たかが十年ちょっとで100人殺しとは派手にやってたじゃないの。」

「う・・・!この・・・!」

男はそんな女性の様子を見て大笑いしながら言い捨て、女性はそんな男の言葉を聞こうともせず状況を打開しようと絶えずもがき続ける。

「・・・フン、まあいきが良いのは良いんだけどねぇ、生憎とこっちも時間がないから・・・ちょっと黙ってろ。」

---ミシミシミシッ

「が!?あぐ・・・!?」

のしかかっている椅子の重みがそのまま押し潰さんと言わんばかりに急激に増して、女性は抵抗をやめた。

 

「それで結構♪それじゃあ話を始めようか。ああ、別に楽にしてていいよ?君はただ聞いてるだけでいいんだ・・・」

男はそれに気を良くし、話を続けて行く。

「君はこれから僕たちの暇つぶしのために、いくつかの異能や物を持って元いた所とは違う世界へと転生してもらう。別に何をしろとは言わない。気の赴くまま何でもしていい。君ならそれだけで僕たちを楽しませてくれそうだからね。分かった?分かったね?それじゃあ行ってらっしゃい!」

男は早口でそれだけ言うと、手に持っているなにかを女性に叩き込んで手元のスイッチを押す。

すると突然地面と思われる辺りから無数の影のようなものが伸びて、女性は声を上げる間もなくその中に吸い込まれていった・・・

「さ~て、うまくやってくれよ。出来ればこれ以上ないってくらいの地獄をもたらすくらいにはね・・・」

男はそれだけ言うと、座っていた椅子ごと初めからそこにいなかったかのようにその場から消え去った。

 

それから十分後、ここではないどこかで異常を知った者が金切声をあげることになるのはまだ誰も知らない・・・

 

 

 

 

===海鳴市のとある郊外===

「・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」

何時からそこにいたのか・・・道路沿いの林の中で一人の少女が目を覚ます。

「・・・・・さっきからなんなのよ、変な所に出たと思ったら変な奴に踏みつけられたり落ちたり・・・腹立つわね・・・・・」

 

少女はついさっきまでの記憶を振り返り、何が何だかわからないといった様子で周囲を見渡し始める。すると・・・

「・・・?なにこれ?」

不意に自分の左腕にディスプレイついたガントレットのような機械が装着されていることに気が付く。

少女がそれを訝しげに見ながら、画面の部分に触ると・・・

「!?ぎぁ・・・くぅ・・・!!」

すると突然顔を歪め、頭を押さえながらその場に蹲ってしまう。

同時にさっきまで何もついていなかったガントレットの画面が突然点灯し、其処に文字が浮かび上がる。

それから数十秒ほど経つと、少女は体を起こし・・・・・・ドブ川の様に濁った光を目に灯し、にっこりと顔を歪ませる。、

「・・・・・・・フゥ~~~ン、なるほどね。捕まる前は正直飽きがきちゃってたけど・・・久々におねーさんワクワクしてきちゃった♪」

少女がそう言ってるうちに、道の向こう側から一組の家族が楽しそうに歩いてくる。

「フフフフフ・・・牢獄生活でだいぶ感覚も鈍ってたし・・・丁度いい・・・」

少女はその家族を目で捉え、より一層邪悪に微笑みながら・・・

「まずは・・・あそこから始めますか♪」

通り過ぎようとする家族たちを追跡し始める・・・

 

 

8月上旬・・・これは、茹だる様な熱気が猛威を振るう時期の出来事だった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

===一巡後の世界 99階===

Side:梶原 泰寛

 

「ふう、あとちょっとだ・・・ここを乗り切ればなんとか行ける・・・」

 

夏休みが終わって早一か月・・・今日は例の塔で手に入れたおニューの武器を使いこなすためにダンジョンの世界に潜っていた。

 

---シルシルシルシル・・・

 

「・・・ああもう、前やら後ろやら次から次へと・・・アライブ!」

『アアアアアアアアアア!!』

 

---ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン・・・・・・

 

「「「ヤッダーバァァアアアア !!」」」

「「ぐあばああああ!!」」

 

足元で回っている鉄球のソナーで敵の位置を探知し、若干距離の離れているグリーン・ディやプッチ神父、ウロチョロしているチョコラータやリゾット、地面からこちらを強襲しようとしているセッコ、壁一枚向こう側にいる他の敵を壁貫きの要領で素早く、しかし的確に撃ち抜いていく。

 

---ポワァァアア

 

「!クリームかッ!!」

 

視界の端で周囲で舞っていた土埃が円形に消失していくのを捉え、即座に鉄球を回収しながらその場を離れる。

 

---ガオォンッ

 

「まぁ~た厄介な奴が・・・だがしかし!」

 

無くなった地面を見ながら地面に新たに鉄球を投げ、土煙を激しく舞わせる。

暗黒空間の入り口は土煙を綺麗に呑み込んでいき、逆にその軌道を読みやすくしている。

 

「この辺りでそろそろ・・・そこだ!」

『ギルァララララララララララララララァッ!』

 

---ダンダンダンダンダンダンッ

 

暗黒空間から出かけた辺りで拳銃を向け、十分に出た瞬間に全力で連射してクリームを粉砕する。

 

「{キョロキョロ}・・・一応ソナーと土煙の結界は貼っておくとして、当分は大丈夫か。」

 

敵影が無くなったのを確認し、周囲への警戒を続けながら目的の物を探すため歩いていく。

 

「はあ、目的の物は既に見つかってるんだし、早いとこ帰りたい・・・・・・」

 

ちなみに今回の目標は『荒木神様のありがたぁ~いサイン入り色紙』を持って100階まで下り、ディアボロのディスクで拠点まで帰ることである。

え?アイテムの名前が違う?俺の中ではそうなってるんです。

あれ使うと(一定期間だけ)尋常じゃないくらい力が湧いてくるし、もうこれはあのお方の御利益がついているとしか思えないんだよね、いやほんとマジで。

 

「・・・・・・・・・・・・・・あ!あった!」

 

いくつか広場を巡っているうちに念願の階段を見つけ、階段を下りてからディスクを使って拠点に戻った。

これで今日の鍛錬は終了、次は朝食の後で学校に投降することになる。

 

 

キング・クリムゾン!我以外のすべての時間は消し飛ぶゥ――――ッ!

 

 

===海鳴第ニ小学校===

 

---放課後・・・

 

「それではこれでホームルームを終わります。皆さん、なるべく寄り道しないで帰るようにしてください。」

 

---ざわ・・・ざわざわ・・・ざわ・・・

 

「これで今日の授業も終了か。」

 

そんなことを呟きながら教科書をランドセルにしまい、それが終わるとランドセルを担いで出口に向かう。

残暑もそろそろ終わりが近づいてきたこの頃、もう座っているだけで汗が滲んでくるということもなくなり、とても住みやすい気候になった。実にありがたい。

 

(銃の扱いはだいぶ慣れたし、練習は定期的にやれば問題ないとして・・・これからどうするかねぇ・・・)

 

「おーいヤス!一緒に帰ろうぜぇ―!」

「ん?おう、分かったよ川本。けどヤスはやめい!」

 

廊下から出ようとした辺りでクラスメイトに呼びかけられ、俺はこちらに向かってくるクラスメイト数人と合流してから再び歩き始める。

 

「ねえヤス君、少し前から町中で変な噂が流れているの知ってる?」

「?変な噂・・・ああ、時季外れの怪談染みたあれか。それがどうかしたの?」

 

一緒に歩いているクラスメイトの三嶋さんに話題を持ちかけられ、俺は登校日が始まってからクラスで初めて聞いた噂を思い出す。

 

「あ!知ってるぜそれ!郊外の廃ビルにお化けが出るとか、夕方に子供が一人で歩いてると口裂け女に追いかけられるとか、線路の架橋を渡る時に後ろを向くと腰から下が無い女の人に追いかけられる話だよな!」

 

森山が三嶋さんの振った話に反応し、他の話もいろいろ出してくる。

 

「テケテケの事か?またベタな話だなそれ・・・そんなよくある都市伝説がどうかしたのか?」

 

正直アホらしいにもほどがあると思うんだがな、どうせただの噂話だろう。

 

「うん・・・なんかね、私のクラスでさっき言った廃ビルの近くを通った子達が何人か、そこで変なものを見たって話してたの。最初聞いた時は私も馬鹿馬鹿しいって思ったけど、話してた子達があんまりにも・・・その・・・怯えた様子だったから、ちょっと心配になっちゃって・・・」

「変なものって、いったい何を見たの?」

「うん・・・最初は上の階辺りで黄緑色の光をいくつか見て・・・その後ビルの窓からグニョグニョしたものが出たって言ってた。」

「グニョグニョしたもの?」

「うん、昔スライムって玩具があったでしょ?あれみたいな色の液体みたいのが、下の階の窓から出てきたって・・・友達は怖くなってすぐに逃げたらしいんだけど・・・」

 

ほう、そんなことがあったのか・・・

不良グループが溜まり場にしてて、窓からゴミを投げ捨てたってオチなら可愛いもんだがな・・・

 

「何かの見間違いじゃないのか?まあどちらにしろそんな人気のない所は近づかない方が身のためだと思うがね。」

 

一応無難にそう返しておく。都市伝説にしろ何にしろ、そう言う所は近寄らないのが一番だ。君子危うくに近寄らずってね。

「あ、あはは、そうだね。その通りだよね。」

「お前・・・夢もヘッタクレもねえな・・・」

「まあまあ、たしかに僕らみたいな子供は寄らないのが一番だよ。先生が言ってたじゃないか、夏休みの半ば位から行方不明になった人たちが増えてるから早めに帰るようにって。」

ああ、そういえばそんな話もあったな~。

八月の上旬くらいから市内で年齢性別問わず行方不明になってる人たちが増えてるって。確か今もチラホラとだけどそう言うことが起こっているらしいな。

 

「まあ、そうなんだけどよォ~」

 

そんなこんなで、俺達は何時の間にか校門前まで歩いてきていた。

俺達はそのまま、噂話で盛り上がる森山を窘めながら校門を出て行く。

 

「・・・あ!そうだ!さっきテケテケの話したよな?」

「おいおい今度はなんだ?」

「良いから聞けって!実は半月前、隣町の線路沿いで人が死ぬ事件があったんだよ。」

「え?それって確か今朝のニュースでやってた・・・」

「確か・・・人が真っ二つに切断された事件だよね、それ。何人もの人が同じように死んでるって・・・」

「・・・なんだそれ?」

 

ニュースはあまり見ないから知らなかった・・・

 

「おいおい知らないのかよ、しょうがないなぁ~・・・正確には五人だ。大体朝方に、同じ線路の架橋近くで、必ず胴体が横一文字にバッサリ切断された状態で遺体が見つかるらしい。専門家は人間の力で出来る様な真似じゃないって言ってておまけに捜査も難航、未だに事件の解決には至ってないらしいんだ。」

「・・・その話マジか?」

「本当の話だよ。そのせいもあってテケテケの話がすごく広まって・・・そう考えると最近なんだか怖いよね。」

 

・・・・・・その話が本当だとしたら、矢島も招集して少し調べてみる必要があるかもな。仮に人外がその件の犯人だとしたら一般人では太刀打ちできない可能性がある。

 

「なるほどな、確かにそれは怖い話だ。」

「なんか言うほど怖がってない様な・・・」

「ハハハ、でも帰ってヤス君らしくて安心したかも。」

「ヤス言うなし。」

 

その後は森山から事件の起きた時期や線路と架橋の場所を聞き、5つくらい先の交差点でみんなと別れて帰宅した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

---ザッザッザッザッ

 

「{キョロキョロ}さて、確か場所はここだったか。」

「ああ、住所自体はここで間違ってないぞ。」

 

時間は午後八時過ぎ・・・俺は森山から聞いた話を調べるため、矢島に電話をかけて招集した後例の架橋まで来ていた。

ちなみに俺は顔を見られない様にするため、例のスカルマスクをつけている。

 

「・・・けど本当にいるのか?その肝心のお化けってのは・・・」

「それを調べるためにこんな時間に家を抜けてきたんだろ?いないならいないで別にどうってことじゃない。万が一いればサンプル回収をするだけだ。」

「まあそれもそうなんだけどな。お前のクラスメイトが言う通り、確かに九月の頭辺りからこのあたりでそういう事件はあった。俺がその噂を校内で聞いたのもその少し前位から・・・キナ臭いのは確かだ。」

「・・・事件の方は自分で調べたけど、お前らの方も噂が広がってんのか。」

「まあな、メジャーな学校の怪談やらよくある都市伝説やら、実際に話題になってるのはそんなにないが皆結構騒いでるんだよ。」

「ほう、例えばどんな?」

「そうだな・・・確か市内や周辺地域にある廃ビルが化け物の巣窟になってるとか、さっきお前が言ってた口裂け女や俺の聞いた『クリスの車』っていう殺人タクシーとかいろいろ。後はそうだな・・・海鳴市の特定の場所に異世界と繋がってる場所があって、今度のクリスマスにこの世界が異世界と融合しちまうとか、ざっとこんな感じだな。」

「・・・・・・・・・他はどうか知らんが最後のはねえよ。」

 

いやいやどんな噂だよそれ。誰だその噂流した馬鹿は、厨二病全開か?

 

「分かってるよ、俺も自分で言っててそう思った・・・おい、見えてきたぞ。」

「ん?ああ、あれか。」

 

なんだかんだと話をしているうちに、問題の架橋が見えてきた。矢島は俺の後ろでバリアジャケットを装備し、何時でも戦えるようにする。

 

「良いか!押すなよ!絶対だからな!絶対に押すなよ!振りじゃないからな!!」

「いいからはよ行け。」

「(´・ω・`)ショボーン」

 

若干ネタを振ってから空気を和ませ、俺達は階段を上っていく・・・

 

 

・・・一段一段階段を登る度に、妙な圧迫感を体で感じながら・・・

 

「・・・・・・おい、何だこの感じ・・・」

 

矢島も何か感じてはいるようだ。何かうすら寒いものがこの先にいることを。

 

「・・・妙だ。デバイスのセンサーには何も反応が無いのに・・・冷や汗が止まらねえ・・・」

「ははは・・・気張れよ矢島。もしかしたら俺達、結構とんでもないことに手を出してるかもしれないぞ。」

「分かってるよ・・・行くぞ。」

「おおよ。」

 

お互いに頷き、階段を上って架橋の通路までたどり着く。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

何もない・・・ただの一本道・・・なのに場の空気は酷く冷たい。

経験が強く物語ってくる・・・この場は限りなくやばいと。

 

---カツン・・・カツン・・・カツン・・・

 

一歩一歩、確実に前へと進んでいく。

空気が張り詰めているのは相変わらず、緊張感はますます強くなっていく。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

・・・・・・・そして、架橋の中間あたりまで足を進めた時だった・・・

 

---ビュォオオオオッ

 

「「!?」」

 

ほんの少しだけ・・・強い風が吹いた直後、背後に強い気配を感じた。

酷く冷たくて、おぞましい気配・・・今まで感じていた圧迫感がそのまま圧縮されたような感じが、背後からまるで刃の如く当てられている気がした・・・

 

「・・・・・・矢島、この段階からテケテケが追いかけてくる条件は何だったかな・・・」

「・・・確か赤い物を身に着けている・・・だったと思う・・・」

「ほほう・・・」

 

矢島のバリアジャケットには赤いカラーリング、俺の腕時計はベルトが赤い・・・うん、決定的だこれ。

 

---・・・ピキキ・・・

 

「「!!?」」バッ

 

背後から聞こえた物音に反応し素早く後ろを振り向く。

 

「・・・・・・!おい、非殺傷設定はちゃんと切ってあるんだよな・・・」

「たりめえだ・・・いやがるよ、本当に出たよ・・・」

 

今まで俺達が通ってきた架橋・・・その階段の隣にナニかがいた。

 

---ピキキ・・・・・ガシッガシッ

 

何かは不快な音を立てながら、腕のように見えるものをコンクリートに立てて立ち上がり・・・

 

「・・・・・・・・・・」

 

---・・・・・ギロッ

 

顔のようなものをこちらに向け・・・しっかりとこっちを睨み付けてきた。

間違いない、あの容貌は・・・・・・テケテケだ。

 

「矢島!」

「おうよ!」

 

---タタタタタタタッ

 

合図とともに矢島が空に舞い上がり、次いでテケテケがこちらに猛スピードで駆け寄ってくる。

 

「くらいな!」

 

矢島は飛翔しながら手に持ったビームライフルで狙い撃つ。

 

---バッ ブシュンッ

 

テケテケは一度はビームを避けるが、予測したかのように続けて放たれた一閃で撃ち抜かれて片腕を捥ぎ取られる。

 

「行くぜぇおい!!」

『ギルァララララララララララララァッ!』

 

勢いを止められずに転がり込んできたテケテケをすかさずアライブのアッパーで打ち上げ、片腕を手刀で捥ぎ取ってから動けなくなるまでしこたま殴り続けてから・・・

 

『ギィィィイルァアアアアッ!!』

 

---ドグォォオオオッ!!!

 

原形をとどめなくなった顔を掴んでコンクリートに思いっきり叩き付ける。

まだ少々動いてはいるものの、このまま押さえつけていれば問題はないだろう。

 

「・・・・・・・・まさか本当に出るとはな・・・」

『本当ですね。まさかこんな存在がいるなんて・・・いったい何者なのでしょうか?』

 

矢島は架橋に降り立ち、デバイスとともにマジマジとテケテケの姿を見つめる。

 

「ああ・・・だがこれでこれからの方針が大分固まったぞ。矢島、今日の所はもう遅いし、ひとまず解散する。念のためスカリエッティにも依頼を入れられるようにしておいてくれ。」

「大丈夫なのか?はっきり言って俺達金なんて持ってないぞ?」

「その点なら大丈夫だろ。こいつを見せれば多分余計な事をしなくても自分から飛び付いてくるはず。」

「・・・否定はできないな。それじゃあ結界に閉じ込めるから合図を出したら手を放してくれ。ついでに腕もな。」

「アイアイ、サー。」

さっき切り飛ばした腕をこちらに引き寄せ、それも一緒に掴んで矢島に向ける。

「封時結界展開、目標設定・・・今だ!」

「!{バッ}」

---バチバチバチ・・・キィ――ン!

矢島が合図を出した瞬間にアライブに離させると、何重もの蒼い立方体がテケテケを押し潰していき・・・最後は片手サイズの四角い箱になって足元に落ちた。

矢島はそれをデバイス内に収納しバリアジャケットを解除する。

 

「それじゃあ今日の所はこれで解散だな。」

「ああ、明日また話し合おう。」

その後は一度別れ、俺達はそれぞれの家へ帰宅することとなった・・・

 

 

 

「・・・・・・・・なにが起ころうとしてるんだ?この街で・・・」

 

 

 

 


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