デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録 作:enigma
「・・・・・・・・・・ん?」
鳥居に手をついて数秒後・・・徐々に真っ白になっていた視界が靄が晴れるように他の色と形を取り戻していく。
そのまま視界が戻るまで待っていると何時しか俺の目の前には・・・・・・
---ワイワイ
---キャッキャッ
さっきまでのただ雑木林があるばかりの参道ではない・・・数はそこまででもないが木の上に建てられた木製の家が謎の暖かい光に照らされ、その家と家の間を妖精が飛び交うという何とも幻想的というか奇妙な場所があった。
「どう?ここが私たちの秘密の隠れ家、【妖精郷】よ。と言っても私より少し強い妖精が暫定的に主をしてるだけのまだまだ中途半端な所だけどね。」
「・・・・・・お~お・・・」
ハイピクシーの言葉に、思わず感嘆の声が漏れてしまう。
・・・なるほど、こういうのが見られるというのならほんのちょっぴりとだけだがいいかもしれないと思ってしまう。
なかなかいい光景だ。少なくとも現代ではまず見られない。
俺の知らない間に悪魔が街で根付き、それが結果的に俺や町に住む人たちの不幸に繋がる・・・今までそう考え、そこそこ怒りを覚えていた所ではあったがこれを見ていると悪魔というのも少しはいいのではと思えてくる。
「さ、早い所行きましょ。緊急とは言え人間の長居していい所じゃないし、急いでるんでしょ?」
「ああ、頼む。」
俺はハイピクシーに連れられ、宙を浮くピクシーたちの下を通っていく。
(・・・あれ?人間?)
(なんで人間がいるの?)
(それに人間を連れているの、ハイピクシーだよ?)
(なんか怖そうだなぁ・・・)
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
---ジィ――――――――――――――・・・・・・
(・・・・・・・・・・・・・・・・気まずいなぁ~~~・・・・・・)
やはりというかなんというか、道を歩いているとそこかしこから視線を感じる。
好奇心、警戒、疑惑、興味、不安などなど・・・・・・視線に込められた感情は様々である。
正直こういう状況はあまり好きじゃないからさっさと去りたいな。
「ねえねえ、そこの人間どうしたの?」
「ん?ちょっと外でいろいろあって協力することになったのよ。」
とか何とか考えているうちにハイピクシーのもとに複数のピクシーが近寄って話しかけていた。
「へぇ~、そうなんだ。こんにちわ。」
「ん?ああ、こんにちわ。」
気が付けば、俺もよってきたピクシーに囲まれている。
「ねえねえ、なんでこんな所に来たの?」
「ちょっとここのある場所に用事があるのさ。」
「ねえねえ何かお菓子もってない?」
「・・・チョコレートケーキがワンホールほど・・・」
「えぇ~~嘘だ~~~。」
「・・・・・・」
俺は俺を取り囲んでいるピクシーたちの前に一枚の折り畳まれた紙を取り出す。
「?なにそれ~?」
「よく見てな・・・」
俺は取り出した紙を不思議そうに見ているピクシーたちにそういい・・・
---ピラッ
紙を開いて、その中に入れていたいかにもおいしそうな雰囲気を放つ皿に乗った状態のザッハトルテを手に取った。
「え!?何今の!」
「わぁ~~!おいしそう、それにすごく大きいよこれ!」
「すごいすごい!今何したの!」
「ハハハ、それは自分で考えるんだな。はいはい、これ上げるからみんな他所に行って。俺は今忙しいの。」
「う~~~~・・・・・・わかった!じゃあこれもらっていくね!」
「ばいばぁ~~~い!」
ピクシーたちはそういうと俺からケーキを受け取り、ご機嫌な様子で離れて行った。
「ハイピクシー、早く行くぞ。また絡まれたらますます遅くな・・・・・・あとで別のお菓子でもなんでもやるから恨めしそうな顔をするなよ。」
「{ビクッ}ちっちちちちちちがうかりゃ!そう言うんじゃにゃいから!」
「ハイハイワロスワロスwww ホラ、早く案内をしてくれ。」
「だぁ~~~~~かぁ~~~~~らぁ~~~~~!!違うっての――――――!!」
ハイピクシーの反論の声をBGMに俺は妖精郷の大地を踏みしめ先を急いでいく・・・
---ザッザッザッザッ・・・
「・・・・・・・・・・・・・」ムスゥ
「なぁ、からかい過ぎたのは悪かったよ。俺もさすがにやり過ぎた、必要ならいくらでも謝る。だからよぉ~・・・頼むから機嫌直してくれない?」
「違うもん・・・そう言うんじゃないもん・・・」
「やれやれ(ちとやり過ぎたか)・・・・・・ん?」
すっかりむくれてしまったハイピクシーを宥めながら歩いていると、さっき入り口として使った祠と同じようなものの前に着いた。
辺りを見渡してみると、他に特に目立った者もない。
「なあ、あれってもしかして別の出口?」
「{ムスゥ}・・・そうよ、ここの主の意向でいくつか用意されてるの。どこから悪魔がやってきても逃げられるようにって・・・」
「ほう、ここに来る前の迷路と言いトラップと言いなかなか作りこんでるな。」
「まあね・・・焦ってアンタを入れちゃったけど、外の奴らにはばらさないでよ。」
「当たり前だ。よっぽどの相手じゃなきゃわざわざ自分から関係を壊すような真似はしないよ。」
こいつらは見たところ、普通に敬意を払って対応すれば友好関係が築ける。わざわざそんな奴らまで怒らせる意味はないからな。
・・・・・・・・・・・・・・・調子に乗って人に危害を加えなければという条件付きだが。
「そっか・・・それじゃあ出口を開くわよ。」
「ああ、よろしく頼む。」
ハイピクシーは俺に確認を取った後、祠の前で何か念じるような構えを取る。
「・・・・・・・」
---シュォアア~~~
十秒ほど経った後、祠についている鳥居の中心に奇妙な光の渦が発生した。
「・・・ふう、出来たわよ。ほら、さっきみたいに入って。」
ハイピクシーは一仕事やり遂げたような顔をしながら俺の方に向き直り、そう促してくる。
俺はそれに頷き、鳥居の前に立ってそれに手を伸ばした。
「!」
するとさっきと同じように視界が真っ白になり・・・
「・・・戻ってきたか。」
幾許か時間が経つと視界が晴れて、さっきまでのような重苦しい空気に満ちた森が眼前に広がっていた。
「さ、あんまりぼやっとしている訳にもいかないわよ。」
「ああ、わかってる。よろしく頼むよ。」
「当然。」
俺の目の前に移動し、促してくるハイピクシーに続いて俺は雑木林を歩き始めた。
「・・・・・・・・・・・・あ、ほら見えてきたわよ。」
「ぬ?」
こちらの異界に戻ってきて十分もたたない内に、非常に強い圧迫感とともに樹木の合間から見知った感じの建物が見えてきた。
思いのほか近い所に出たんだな。
「・・・これ以上はいけないわ。私もまだこっちでいろいろしたいし。」
「ああ、ここまでくれば十分だ。」
感覚でわかる、あの高速道路の異界で感じたこの気配・・・間違いなく当たりだ。
「ホイ、契約の品だ。」
ハイピクシーに契約達成の報酬ともう一つ渡す。
「どうも・・・?なにこれ?」
「シュークリームとそれに合う紅茶が入ってる。紙を破いたりしなければ中は劣化しないから気が向いたら食べてみてくれ。」
「・・・・・・お礼は言わないわよ?」
「結構結構、ただ次に会った時においしかったかどうか聞かせてほしいね。」
シュークリームは未だに翠屋に並ぶものが出来た気がしないからな・・・はがくれ丼と同じくこれは課題だ。
「・・・死ぬんじゃないわよ。」
ハイピクシーはそれだけ言うと、元来た道へと戻っていった。
「・・・さて、こっから先は俺の仕事だ。コォオオオオオオオオ・・・」
ハイピクシーが離れて見えなくなった直後に神社の方から鳴り響いてきた音を聞き、俺は気を引き締めて音のする方に向き直る。
「ウマソウな・・・ウマソウナニオイガスル・・・」
「ヒヒヒヒ、人間だ。人間がいるぞ。」
「ニンゲン・・・ニンゲンダ・・・ヒィハァハハ、ヒサビサノゴチソウダァァアアア!」
周囲の雑木林の陰から、俺を取り囲むように五体の悪魔が現れる。
見た目はそれぞれガシャドクロの様な姿をしていたり、あるいはカタツムリみたいに目が飛び出て頭から股間まで牙の生えた口になっているクトゥルフ風味の茶色い怪物、両手に剣を持った骸骨やツボに入った青いナニカなど、実にさまざまだった。
(どれもそこまで強いとは思えないな、気を見て一気に片を付けるとしよう。)
透明化したクリームを側に出し、迎撃のために閻魔刀の柄に手をかけ構える。
呼吸も十分、いける。
「「「「「ヒャッハァアアアアア!クワセロ人間――――――――!!」」」」」
「来い!」
好機と思ったのか一斉に襲い掛かってくる悪魔たちを見据え、まずは機動力を奪わんと腕や足を狙って刀を抜き放とうとした。
「待てテメェら・・・」
「「「「「!?」」」」」ビクゥッ
「?」
今まさに刀を振るわんとした瞬間、神社の方から響いてきた凛とした声と鋭い気迫に、悪魔たちが凍りついたようにその動きを止めた。
「まさかこのような人間の子供が・・・この悪魔はびこる異界を歩き回っていられるとはな・・・」
そして少し間をおいて、神社の中から強い威圧感を放つ存在がこちらに移動して来るのを感じ取る。
「・・・・・・・」カチン
悪魔たちが怯えてまったく動かないのを見て俺は刀を鞘にしまい、居合の構えで待機する。
すると・・・
---ギギィ~~~・・・
朽ちそうになっている神社の扉を開いて、片目に傷を負った昔の武者鎧を着ている男が姿を現す。
男は威圧感を放ち、俺を値踏みするかのように見てくる。
「へぇ~・・・・・・その歳にして良き構え、良き面構え、そして良い気迫・・・こんな平和な時代に未だにアンタの様な良き武士(もののふ)と出逢えるとは・・・いやいや、偶には来てみるもんだ。」
「(こいつ、ただものじゃねえ・・・・・・)だれだ?この異界の主か?」
俺は男を睨み返し、そいつに問いかける。
「そう言えば自己紹介がまだだったな・・・が、その前に・・・・・・」
男が俺を囲む悪魔たちを睨み付けると、悪魔たちは怯えてその場を後ずさる。
「マ、マァッテクエェ――――!ウォレタチハソイツゥニ手ヲダサナイィ―――!」
「そ、そうだよ!だから見逃してよ!どうせボク達じゃアンタには勝てないんだ!」
「タ、タノムゥ!!」
・・・見苦しいとは言わんがそんなこと言うくらいなら最初から襲ってくるんじゃねえよ。
「・・・だそうだが、そこの悪魔どもはアンタの獲物だ。判断は任せるがどうする?」
「無論倒させてもらう。こいつらは人の・・・ひいては平和を脅かす俺の敵だ。」
俺相手にすら襲い掛かってくるような奴が他の人間に会って襲わない保証はないからな。生かして帰す理由がない。
「なるほど・・・おいテメェら、もしこの少年に勝つことが出来たら見逃してやろう。」
「ホ、ホントカァ!?」
「く・・・や、やるしかないね!だ、大丈夫!所詮は人間だよ!」
悪魔たちは男の返事を聞き、さっきまでよりも無駄にいい目をして俺を睨み付ける。
「ハハハハハ!ニゲルンジャネェゾオオオ!」
「クワセロォ!まぐヲクワセロヨォオ!」
「カ、覚悟シロヨォ・・・」
「ウォレタチノタメニ・・・シネェエエエエ!!」
マッド系の喋り方をする悪魔のセリフを皮切りに、悪魔たちは突っ込んでくる。
「うるせぇなぁ・・・」
「サッサト終ワルェエ!『瘴毒撃』!」
他の連中に先んじて、剣を持った骸骨の禍々しい剣戟が迫ってくる。
俺はまずそれを無駄なく回避し・・・
「遅い。」サンッ
抜刀しながらそいつを真っ二つに切断する。
「『アギ』!」
「ふん!」
次にツボに入った悪魔の放つ魔法を閻魔刀でからめ捕り・・・
「そらよ!」
「『ウィンドブレ・・・ガペェー!?」
「ぎぴぃ!?」
カタツムリのような眼の悪魔目掛けて斬撃とともに飛ばし、ついでに反す刀でツボの悪魔とその隣にいた奴に駆け寄ってすれ違いざまに断ち切る。
「ヒ、ヒィイイイ!?ナンダァアアコイツゥウゥウ、ツヨスギルゥゥゥウウウ!」
「ほほう、やはりできるな・・・素晴らしい腕前だ。」
これで残すところ後一体・・・いや、あいつを加えたら二体か。
あっけないもんだ。
「さて・・・」ギロッ
「ヒッ!マ、マッテクルェエエ!ナ、ナンデモスルカ「知った事か。」ガ・・・・・・!」
恐らく命乞いをしようとしていたであろうガシャドクロのような悪魔は、透明化したクリームの暗黒空間に頭を飲み込まれて息絶える。
「フゥ――――――――――・・・・・・」
そしてすぐさまクリームを近くに戻し、刀を構え直しながら武者姿の男に向き直る。
俺の戦いを見ていた武者姿の男は、非常に満足したようにこちらに笑みを向けていた。
「{パチパチパチ}天晴れだ少年。実に鮮やかな立ち回りと剣捌き、オレが人間であった時代ならあらゆる豪族や武将がアンタを家来として勧誘していただろうに。」
「そいつはどうもありがとう・・・まあ俺自身はこの通りの現代人だし、そんな大仰なもんに興味はないが。」
「ハハハ、そいつは残念だ。」
男は肩をすくめ、全く残念そうには見えない調子でそう笑う。
「さて、自己紹介がまだだったな。オレは【猛将 ヨシツネ】、この異界の主だ。」
「・・・梶原 泰寛だ。」
一応礼儀を欠かない為に挨拶は返す。
しかし猛将 ヨシツネって・・・間違いなくあの悪魔だよね?
確かこいつ、デビサマ時代の八艘飛びが恐ろしく強かった憶えがあるが・・・
ちなみに八艘飛びというのは本来、義経が敵の攻撃を避ける為、船から船へと飛び移り八艘彼方へと去っていったことから来る名称だ。
「さて、いったいここになんのようでこんな悪魔の巣窟に来たんだ?」
「・・・調査と監視のためだ。こんな本来悪魔と無縁な土地にいきなり現れた異空間、むしろ放置したままにする方がおかしいってものだろ。」
「フッ、まあ確かに人間の力なんぞたかが知れてるからな。少しでも優位に立ちたいと考え立ち回るのは自明の理ってもんだ。」
「そういうことだ・・・次はこっちからの質問だ。その神社の奥にマグネタイトを集めるための術式があるはず・・・それはどこにある?」
「ほう?あんな小細工を探しているのか・・・あれはこの中の床に描かれている。今はオレがいるからさほど関係ないが今もなおこの異界にせっせとマグネタイトを集めてくれているぞ。」
「そうか・・・」
しかしこいつがいるから・・・か。なるほど、アリスの様に自分の力だけで異界を維持できるクチか。
となると・・・こいつをどうにかしない限りこの異界での最低限の目標が果たせないということになる。
「クックック、まあそう睨むな。オレもこうしてアンタの前に姿を現したのは一つ頼みがあるからなんだ。」
「頼みだと・・・」
俺は不敵な笑みを浮かべるヨシツネから、割と嫌な予感をヒシヒシと感じる。
経験からして間違いなく碌なもんじゃないだろう。
「ああ、実はな・・・」
ヨシツネはそう言いながら腰に刺した日本の刀に手をかけ・・・
---スラァッ
「アンタのその腕を見込んで、いっちょこのオレと勝負をしてもらいてぇ!」
(ほ~ら、やっぱり碌なもんじゃなかった。)
一気に引き抜いて構えながら、俺に向かってそんなことをのたまいやがった。
俺は予感が的中したことに思わず顔をしかめてしまう。
「フッ、そう嫌そうな顔をするもんじゃねえぜ?勿論タダでやろうってんじゃない。もしオレに勝つことが出来ればアンタの頼みを何でも一つ引き受けてやる。異界の主に何でもひとつやらせられるんだ、悪い話でもねえだろ?」
「・・・・・・・・」
・・・なるほど、それは確かに魅力的な報酬ではある。
もし俺が勝てば、矢島のマーカーよりもよりリアルタイムでこいつに常に異界の見張りをさせ続けることが出来るのだから。
「・・・・・・それは確約できるんだろうな?」
「無論だ、悪魔にとって契約は何よりも重いもの。例え何者であろうとそれを破ることは出来んよ。」
「なるほど。」
ヨシツネの目は真剣そのものだ。恐らく言っていることは本当なんだろう。
「OK、その勝負受けよう。」
「よし!いい返事だ!」
俺の返答を聞いたヨシツネは、刀を持っていなければその場でガッツポーズをとっていたかもしれないほど喜んだ。
(さて、フルパワーで戦うためにも倉庫は解除しておくか。)
一対一での戦い・・・それも殺し合いを前提としていないのであればアライブがいれば十分だ。
「正直こんな世界で戦える相手なんぞ見つけられないと思っていたが・・・ククク、面白くなってきたじゃねえか!」
倉庫を解除していると、ヨシツネが好戦的な発言をしながらこちらを睨みつけている。
俺はそれを聞き流しながら、手持ちの武器を閻魔刀とムラサマに限定して鉄球は適当にその辺に放って置く。
後はアライブがムラサマを、俺が閻魔刀を持って・・・うし、準備完了。
「クククク、なかなか面白れぇもんを引き連れてるじゃねえか。噂に聞くペルソナというやつか?」
「いいや、それとは若干毛並みが違うよ。」
まあ『ペルソナ』の開発陣曰くぶっちゃけるとほとんど差はないらしいが。
「そうかい。ま、どっちでもいいがね・・・・・・そろそろ良いか?」
準備の終わりとともに、ヨシツネから鋭い殺気が向けられる。
「いつでもどうぞ。」
俺はアライブに刀を抜かせ、自分は静かに動く時を待つ。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
---・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カタンッ
「「!」」
一分ほど経った頃だろうか、どこからか聞こえてきた物音をきっかけにまずはヨシツネが動き出した。
「ハッ!」バシュッ
「!」
力強い叫びとともに、ヨシツネはざっと20メートルはあった間合いを一気に詰めてくる。
俺はその一挙一動を見逃さず、次の動きを神経を研ぎ澄まして見極めにいく。
(これは・・・左からの袈裟切り!)
「『ベノンザッパー』!」
『ギルァ!』
間合いを詰めながら放たれる左からの剣戟をアライブに受け止めさせる。
すると今度は右から逆手に持った刀を振るってきたからそれを右脚で受け止め、受け止めていた刀を弾いてから左脚で顔を狙ったハイキックを繰り出す。
「チッ!」
ヨシツネはこれを寸でのところで回避して右手に握った刀を振りかぶる。
俺はアライブの右脚を防いだままのヨシツネの右腕に乗せて振り上げたままの左脚で踵落としをさせるが、ヨシツネはバックステップをしてそれを躱した。
「うらぁっ!」
『ギルァッ!』
後ろに下がったヨシツネはすぐに間合いを詰めて激しい連撃を繰り出してくる。
俺はアライブに命じてひたすらそれを迎撃し、偶に反撃しながらチャンスを窺う。
「はっはっはっはっは!良い動きだ!」
「ええいうっとおしい!アライブ!」
『ギルァッ!』ガキィンッ
「な!?」
右手の刀を思いっきり跳ね飛ばし、体勢を立て直される前にムラサマを素早く納刀する。
そして・・・
「ぐ、この・・・!」
『ギシャアァアッ!!』
鞘の引き金を引き、装填された爆薬を炸裂させて刀を撃ち出す。
そしてその加速を利用し・・・
---バキィンッ!
「ぐあぁあ!!」
もう一方の刀で防ごうとしたヨシツネを、刀と持っていた腕ごと断ち切る。
「止めだ!」
一応死なれたら骨折り損になるから、寸止めに留めるつもりではあるが本気で斬りかかる。
「くっ・・・『タタミ返し』!」
だが後少しで当たると思った瞬間、突然ヨシツネがそう叫ぶとともに奇妙な壁が現れる。
俺がそれに危機感を感じて刀を止めると、今までとは比にならない速さでさっき跳ね飛ばされた刀の方へと奴は飛んだ。
「(仕掛けてくるつもりか・・・!)アライブ!」
『アイヨォー!』
万全を期して、アライブを側に呼び戻す。
その直後・・・
「『八艘飛び』!」
---ガキィンッ!
「ッ・・・!」
刀を取り戻してそう叫んだヨシツネが一瞬で目の前に移動し、鋭い一撃を見舞ってきた。
アライブでそれを防ぐとスピードはそのままに別方向へ移動し、そこから更に高速移動しながら切りかかってくる。
---ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!
「うおおおおおおおおお!」
飛び交うヨシツネをアライブとともにぎりぎりで視切り、次々と襲いかかる剣戟を防ぎ続ける。
『ギルァッ!!』ギィン ザシュッ
「ぐぁああ!?」
そして八回目でようやく目が慣れ、奴の刀を弾くとともに左脚を斬り飛ばした。
「{ドサッ}ぐ、ううう・・・」
足を斬り飛ばされたヨシツネは刀を手放し、そのまま地面に倒れ込んだ。
よっぽどの回復手段でもない限りこれでもう奴は戦えない・・・はず。
「フゥ―――――――――――――・・・・・・{チンッ}これで・・・俺の勝ちだ。それでいいよな?」
「く、タタミ返しの効果切れを狙ってくるとは・・・ああ、ここまでやられたら・・・・さすがに・・・勝ち目はねえな・・・・・・本当は、お前自身と剣を交え・・・たかったが・・・・・・いや、まいったまいった・・・」
「何言ってやがる。こっちはまだガキもいい所だってのに・・・」
「はっ、嫌味かよそりゃ・・・」
ぶっ倒れているヨシツネはそう言いながらも、満足気に笑う。
俺はさっきおいた鉄球とホルスターを回収しながらそれに苦笑いで返す。
「さて、約束の方は・・・・・・の前に回復が先か。一応聞くけど自分で出来るか?」
「鬼かテメェは・・・自分で出来ればとっくにやってる・・・」
「それもそうだな。宝玉一つでいいか?」
「ああ、すまねえ・・・足と腕と・・・あと折れた刀を持ってきてもらえるか?」
「注文が多いなおい。」
面倒だと思いながら渋々と持っていき、ヨシツネの傍に置いて宝玉を使う。
するとヨシツネの体や折れたはずの刀は見る見るうちに治っていき、最終的に最初にあった時の様な状態に戻った。
「{パァーッ}・・・っと、ありがとうな。」
その場に座り込み、体の調子を確かめる。動きからして問題はなさそうだ。
「どういたしまして・・・で、契約は成立ってことでいいんだよなぁ?」
「まったく、可愛くねえヤローだ・・・ああ、何でも言ってみろ。俺に出来る範囲なら何でもやってやる。」
「OKOK、それなら・・・」
再度確認を取ったところで、俺はまずヨシツネにこれまでの(自分の能力を除く)異界探索の経緯を説明していく。
「ほぅ~~、あそこの魔法陣やこの異界はそんな経緯で出来てたわけか。まあ確かに普通の人間からすれば迷惑極まりないかもな。」
「ああ、そこでお前にはこの異界の監視と警備を任せたい。まあ端的に言えば悪魔の被害にあってる人を元の世界に帰す、ここにわざわざ近づく怪しそうな奴の報告をする、人に害をなそうとする悪魔の退治、あるいは・・・・・・」
俺は懐から顔写真を取り出し、ヨシツネに渡す。
「この顔写真の女や、これ以上異界化を進行させようとする悪魔が現ればそいつらを始末してもらう。頼む内容はこんなところだ。ああ、どうしても勝てなさそうだったら俺に連絡をくれ。連絡方法に関しては後日何とか渡せるようにするから。」
「フム・・・・・・始末ってことは、相手が人間だろうと殺してしまってもいいということか?」
「相手次第だな。人間の場合は異界化を積極的に狙ってくる、あるいはコイツと関わりがありそうなら出来る限り捕獲、出来なければここに近づけさせないでくれ。まあ基本的に誰もここに近づけなくすればいいだけなんだが・・・ああ、それとこの女の場合は見つけ次第確実に始末するようにしてくれ。」
「・・・わかった!古の契約に従い、その頼みを引き受けよう!」
ヨシツネはそう言うと立ち上がり、気合の入った声でそう宣言する。
「俺の名は【猛将 ヨシツネ】、コンゴトモヨロシク・・・てな!」
「今後ともよろしく。」
これで契約は完了。後はちゃんと働いているかちょくちょく確認しに来ればいい。
「あ、これ神社の片隅に置いておくから触るなよ。」
「おう、じゃあな。」
ヨシツネに別れを言い、俺は矢島からもらったマーカーを神社の片隅に置いてこの場を離れる。
「さ~て、後は神社を下りていくだけだな・・・・・・ん?」
---ん~~?人間の匂いがするなぁ~~~?
---コッチカラスルゥ~~・・・ヒヒヒヒヒ・・・
「・・・・・・次に行く前にもう一仕事ありそうだ。」
まったく、めんどくせえ・・・・・・