デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

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第四十二話

―――――地球の外の世界、どこにあるかしれない次元の外にて・・・

 

 

「フンフフゥ~~~ン♪」

そこは泰寛たちが悪魔たちに立ち向かっている異界・・・それよりもさらに強いマグネタイトが渦巻くその廃墟のような場所で、鼻歌を歌いながらガントレットをいじっている少女がいた。

それは今、海鳴市で悪魔の問題の解決しようと動く彼らの第一目標・・・海鳴市に異界を生み出した張本人の姿だった。

「次はぁ~~、これと、これと、コレとでぇ~~~・・・スイッチオン!」

 

---ブゥン・・・ブゥン・・・ブゥン・・・

 

彼女がガントレットに表示されたキーを押すと、彼女のガントレットの画面に二つの六芒星を基準とした魔法陣が形成される。

そしてその魔方陣の上に・・・それぞれ一体ずつ悪魔のビジョンが映し出された。

『フフフフフ、魔界の力が地上を蹂躙し尽くすところが見られないのは残念だけど・・・仕方がないわね、精々合体した後にでも楽しませてもらうとしましょうか。』

 

一つは下半身を氷に覆われ、白い髪と真っ黒い全身、ネコ科のような口を持つ【死神 ヘル】

北欧神話の神【オーディン】によってニブルヘイムと呼ばれる氷の国に追放された女神であり、オーディンによって死者を支配する役目を与えられた存在である。

 

『ふん、お前さんとともに暴れるのはなかなかに楽しかったぞ。また会える日を楽しみにしておるぞ、それまでは寝かせてもらうわい。』

 

そしてもう一つは、顔の部分だけ人のそれに変えたような羊の容姿を持ち、魔方陣の上に座り込んでいる【邪神 トウテツ】

中国神話で伝えられている怪物で、言い伝えでは何でも食べる猛獣というイメージから転じて、魔を喰らう、という考えが生まれ、後代には魔除けの意味を持つようになったとされている。

 

「うん、今までありがとう・・・そして、また会おうね。」

『ええ。』

『無論じゃ。』

少女はガントレットに映っている二体の悪魔に、先ほどまでの狂ったような態度からは考えられないほどに優しい雰囲気でそう言う。

二体の悪魔はそれに応えるとその直後に画面の中で0と1のデータに置き換わって魔方陣に消えていった。

そして間を置く暇もなく、魔方陣は強い閃光とともに画面の中で強い輝きを放ちながら一つになっていく。

 

 

 

 

---バチバチバチバチバチバチ・・・・・・プシュウ~~~~~ッ

 

 

 

 

 

そしてその閃光が消えると・・・画面の中には一つの魔法陣だけが残り、その上にさっきとは別の悪魔が構成され、姿を現した。

『オレの名は【魔王 ロキ】・・・ククク、なかなかいい目をしてるじゃねえかお嬢ちゃん。話は聞いてるぜ?俺とともに混沌を呼び込もうや、この世界によぉ~~~~』

現れた悪魔の名は【ロキ】、古ノルド語で「閉ざす者」、「終わらせる者」の意味を持つ北欧神話のトリックスターであり、邪悪な気質を持つ悪神である。

「フフフ、私は最初からその気だよ?今後ともよろしくね、ロキ♪」

『ククク・・・ああ、今後ともよろしく。』

ロキと少女がお互いに挨拶をし終わると、画面が切り替わってパソコンのデスクトップのような表示が出される。

少女はそれを確認すると、再び画面を操作してガントレットの画面に向けて話しかけた。

「ねえマタドール、そろそろあっちは大丈夫かな?」

---ブゥンッ

『あっちとは・・・お前が散々放置していた地球の異界のことか?』

すると画面にスペインの闘牛士のような姿をした骸骨が映し出され、その少女の問いに答える。

「うん、そうだよ♪地脈のエネルギーや人の不安感とかを大分吸ってるだろうし、そろそろ頃合いだと思わない?」

『頃合いというかかなり遅いだろう。さすがに数日で準備ができるというものではないがこんなに時間が経っていればそろそろまずい。そこの連中の様な奴も駆けつけてくるだろう。』

「うぐ・・・まあいいじゃん。あそこなら魔法文化なんてないからこのカンリキョクってところが嗅ぎ付けるのにも時間がかかるし、少しくらいのんびりしても罰は当たらないと思うでしょ?それにここまで強いのをそろえておかないと変なのに絡まれて時間がかかっちゃうだろうし。」

少女はそう言いながら、自分が立っている場所の後ろに視線を移す。

 

その先にはコートの様なものを着た十数名分の誰かの白骨と、それと同じ数のデバイスと思わしき杖が転がっていた。

『しかしここまで時間をかけるのもどうかと思うぞ。まあ力を持つこと自体はむしろ望ましいことだが、ここまで経っていれば制限を取り外すだけで貴様の言う地獄絵図には十分なはず。』

「むむむ・・・」

『・・・・・・まあいい、今ならば我々までと言わずともそこそこ強い悪魔が顕現しているはずだ。この戦力ならば後はあの陣を本格的に起動する・・・それだけでほぼ望む状況へと向かっていくだろうな。』

「うぅ~~~~・・・フフフ、そうだね・・・・・・これでようやく始められるよ。こんな半端なものじゃない正真正銘の魔界を呼び出すことが、ネ♪」

『ああ、我々の時代が再びやってくる・・・ぬかるなよ。』

「分かってるってば・・・フフフフ♪それじゃあ行こうか♪」

少女はそう言って、マタドールとの会話を終えるとまたガントレットを操作する。

すると彼女の足元に円で囲まれた六角形の魔法陣が現れて・・・

 

 

 

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、地球に悪魔と戦える奴がいないとは限らないがな。この女も人間が相手ならばもはや敵無しの力量だが、はたして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

---ピカァア―――――――――・・・・・・・・・フッ

 

 

強い光とともに異界から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

===12:30 翠屋のテラス===

 

Side:矢島 敬一郎

 

「うごおぉ~~~~~~、まだ一つ目なのに一気に疲れた・・・」

「あ、あはは、そうだね・・・」

アバドンをオーバーキルとも言える火力で吹っ飛ばし、全員で何とか外に出て、現在なのはと翠屋のテラスに座っている。

いやほんと、マジで疲れた。一番心臓に悪かったのがなのはのSLBの余波だった。

あのピンクの波動が当たる直前に転移魔法を決断できたのは・・・・・ホントに良い選択だった、マジで。

「というかお前・・・俺のアサルトアーマーもそうだけどあの閉所でスターライトブレイカーはいかんでしょ。」

「うっ・・・ご、ごめんね。あれくらいしないと倒せないかなって思って・・・」

「まあ確かに強い悪魔ではあったけど・・・あんな核弾頭真っ青の攻撃はだめだって。」

「そ、そんなにはないよ!」

ちなみにあの後、ジャックフロストとジャックランタンはピンク色を見ただけで尋常じゃないくらい震えるようになってしまった。

後であれを忘れられるくらいには遊んでやるか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・変な意味じゃないからな?大体あいつらジャック(男)だし。

「おまたせしました、ジンジャーエールとコーンポタージュになります。」

「あ、ありがとうございます。」

「どうも。」

話し合っているうちに、注文していたものが持ってこられた。

俺はジンジャーエールを、なのははコーンポタージュをそれぞれ口にする。

「ング、ング、ング・・・プハァ!それでなのは、ぶっちゃけもういっちょ行く体力は残ってるか?」

一応怪我や魔力の回復は倒した悪魔から拾い集めたもので全員回復させたが、其れだけでは精神的な疲労までは回復できない。

そのあたりの摺合せも含めて休憩時間を考えていきたいけど・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・異界にあった遺体のことか?」

「!・・・うん・・・」

「・・・気にするなとは言わないが、少なくとも俺達は最善を尽くした。それは間違いないことだ。」

「・・・・・・・・・」

「確かに俺達は、幸か不幸かこんなことに関われる程度の力は持ち合わせている。だがそれでも、過去のことをどれだけ思い悩んだところでどうにもならない。俺達に出来るのは・・・『これからをどうするか』、それについて考えて、行動することだけだ。あの人たちを助けられなかったことについては残念だが、今はそのことはいったんおいておけよ。じゃないと身が持たないからな。」

「・・・・・・・・うん、ありがとう・・・」

「よし・・・もう一度聞くけど、次の異界に行けるか?」

「・・・うん、もう平気だよ。」

「・・・・・・・(GUNDAM、なのはのバイタルサインは?)」

(おおむね良好です。少なくともやせ我慢ということはないでしょう。)

OKOK、少なくとも無理をしてるってわけではないってわけだ。

「OK、それじゃあもうちょっと休憩したら次の所に行こうや。」

「うん。頑張ろうね、ケイイチ君。」

「おうよ。」

相談を終え、俺達は自分の頼んだ飲み物をチビチビと飲みながら最近の話をしていく。

 

 

 

 

「・・・そういやさ、なのは。一つ聞きたいんだけど・・・」

「なに?」

俺はまだどことなく緊張気味のなのはを見てなんとなく、ふと思いついたことをなのはに聞いてみる。

「いやさ、ぶっちゃけ今回俺よりも梶原と組みたかったんじゃなかったのかなって思って。ホラ、お前普段あいつと疎遠じゃん?これを機にフェイトと差をつけておきたかったという気持ちもあったんじゃないのかと・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、えええええええええ!?そ、そそそんなこと!な、にゃいよ!!というか泰寛君とはそんなんじゃ・・・」

「うん、分かった。とりあえず落ち着け。」

この予想以上の慌てっぷり。うん、やっぱりなのははこうでなくちゃな。

・・・・・・・・なんか俺がこの手の話題を俺が持ち出すとおっさん臭い印象になる気がするのは気のせいだろうか。

「も、もう!こんな時にいきなり何言ってるの!」

「悪い悪い。いやさ、前にフェイトが梶原に(未遂だけど)大胆な行動に走ろうとした時の反応とか、あいつが速攻で帰った後に漏らしたセリフを思い出したからつい・・・」

「!!!ううう・・・た、確かにそう言うこともあったけど・・・・・・け、けど!こういう所で話すことじゃないと思うの!!」

「あ~~~分かった分かった!こんな話を無神経に持ち出した俺が悪かったよ!だからいったん落ち着けって!」

さすがにちょっとあれだったかなと反省しながら、予想以上にムキになったなのはを何とか宥める。

「・・・・・・・・・・・・・・・・泰寛君は・・・・・・」

「ん?」

「泰寛君はね、なんていうか、私の憧れなの。まだ小学校に入る前の、いつも一緒に遊んでたころなんだけど、他の子たちや家族の皆とどう接すればわからなかった時、気まずいときにおちゃらけて皆を笑わせてくれたり、我儘を言ってもいいんだって教えてくれたり、辛い時や悲しい時は側で一緒に泣いてくれることもあって・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「私なんかよりずっといろんなことを知ってて、同い年のはずなのにずっと大人な感じで・・・・・・それで、一緒にいるだけで幸せな気持ちになれる、そう言う人なの。」

「そ、そうか・・・」

「うん、だから本当に・・・そんなんじゃ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

あ、甘い!そして気まずい!なんだ、この雰囲気は・・・!やっべ、違う意味で後悔してきた。

「・・・・・・えっと、話題振っといてなんだけど・・・そ、そろそろ行こうか。あんまりのんびりしてる訳にもいかないし、な?」

「う、うん!そうだね!」

気まずい雰囲気から逃れたいがため、なのはとともに席を立つ。

まったく、下世話なことは下手に突っ込むもんじゃないな・・・・・・あ!

---ガタッ ガシャンッ!

「げぇ!?」

「ケ、ケイイチ君!?大丈夫!?」

やっちまった、慌ててコップを落とすとかどんだけ慌ててんだ俺ぁ!

「だ、大丈夫ですか!?」

「ええ、大丈夫です。本当すみません、弁償しますんで。なのは、会計済ませてくるから外で待っといてくんない?」

「う、うん。また後でね。」

なのはを外で待たせ、俺は会計表を持ってレジでお金を払った。

とほほぉ~~~~・・・

 

 

「やれやれ、やっちまったなぁ~~・・・あれ?」

店を出て辺りを見渡すと、なのはがなんとなく厳かな雰囲気を放つ、スーツを着た白髪の男に話しかけられていた。

「おや、どうやらあなたのお友達が来たようですよ。」

「え・・・あ、ケイイチ君。」

「よう、お待たせ・・・この人は?」

「あ、うん。さっきケイイチ君がコップを割った音を聞いて何があったのか聞きに来たらしいよ。」

「ええ、そういうことです。そちらの御嬢さんにも聞きましたが大丈夫ですか?」

「あぁ、はい。俺は大丈夫ですよ。」

「そうですか、それは良かった・・・・・・{ボソッ}ふむ、この二人ではありませんか。惜しい人材ではありますが・・・」

「え?」

「?どうかしましたか?」

「え、あ、いや・・・」

なんか今妙なセリフが聞こえたような気が・・・

「ケイイチ君・・・」

「あ、わるいわるい。それじゃあ僕らはこの辺で失礼します。」

「ええ、二人ともお気をつけて。」

スーツの人と別れ、俺達は人気のない場所を探してそこに身を隠す。

「さ~て、念のため結界を張って・・・・・・これで良し。なのは、準備よろしく。」

「うん。レイジングハート、セットアップ!」

なのはに頼み、バリアジャケットを装着してもらう。

俺もバリアジャケットを装着して、いつでも仲魔を出せるようにしておく。

「よし、じゃあ行くぞ。」

「うん、行こう!」

なのはに確認を取って、転移魔法を使って次の異界の場所に飛ぶ。

次は確かジュエルシード事件で竜巻が起こったとこの近くの海岸だったな、どうなってることやら・・・

 

 

「よっしつい・・・た・・・」

「よっと。ケイイチ君、次はどこに・・・え?」

「&○$●%#×”#!?!」

「%!&*‘△□&$?>?~P$”$#&’!!」

 

転移が終了して視界が晴れた直後、まだ異界に入ってないはずの俺たちの視界に現れたのは・・・・・・・・・異界特有の奇妙な空模様と、海から丁度陸に上がろうとしている名状しがたい魚面だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・え?どゆこと?

「・・・・・・・えっと、こ、こんにちわ~~~~」

「「「「・・・・・・・・・」」」」

「&<>●%#×”#!!」

「「「$#&’!!」」」

「ちょ!プロテクション!」

突然の展開から何とか立ち直り、襲い掛かってきたインスマス顔達をプロテクションで防ぐ。

「出てこいジャックブラザーズ!なのは!呆けてないで戦ってくださいお願いします!」

「え!?う、うん!」

「なんか生臭そうな奴らだホ。早くやっつけるホ!」

「ガッテンだホ!」

再度気合を入れ直し、ビームライフルを握り直して俺はなのはとともに宙に浮く。

 

 

(・・・・・・・けど何でいきなり異界に出てきちゃったんだ?ほんとならワンクッション置いてから入るはずだったのに・・・)

 

 

 

 

 

 

 

===11:51 寂れた神社の参道前===

 

Side:梶原 泰寛

「はぁ~~~・・・・・・ようやく外に出られた・・・」

襲い掛かる悪魔を倒しながら参道を下り続け・・・ようやく入って来たところまで戻ってくることができた。

これで俺の予定はあと二か所・・・あれがいつ来るか分からない以上まだまだ気は抜けないな。早い所終わらせないと。

「さぁ、次だ次。いつまでものんびりしている訳には・・・」

---グゥ~~~~~~~~~・・・

「・・・・・・先にどこかで飯でも食うか。」

そう言えばそろそろお昼時だったな。それに正直ちょいとばかし疲れた。いくら鍛え込んでいるとはいえまだまだガキのままなのは変わらんから、やっぱり一番動きが良かった頃よりは身体が着いて行かないし体力が持ってくれない。

ゆっくりとしていられないのは確かだけど多少は腹に何か入れておいたほうがいいか。勿論適当な息抜きも兼ねて。

「となれば・・・あそこに行くか。えっと・・・」

少し考えた後、倉庫からキックボードを取り出して思いついた場所へと向けて走り出す。

 

 

 

 

「え~~っと確かこのあたりに・・・あった!」

十数分ほど走り続けて目的の場所・・・俺のお気に入りのパン屋に辿り着いた。ここは翠屋みたいに飯を食える場所があるから休憩にはちょうどいい。

俺は人の目につかなそうな場所を探してそこに移動し、キックボードをかたずけて店に入る。

「{クンクン}ン~~~、良い匂い。ますます腹減ってきた。」

店の中に入ると、焼き立てのパンが放つ食欲をそそる良い匂いが香っていた。

取り敢えず入り口近くに置かれているトレイとパールを手にとり、店員さんがちょうど持ってきたばかりの鳥の照り焼きとキャベツのサンドイッチとカツサンドを一つずつトレイに乗せてレジに行く。

「会計、283円となります。」

「はーい・・・・・・ふぅ、ようやく一服できる。」

店員の人に金を渡して会計を済ませ、店の一番奥の方にある一人用の席に座る。

お昼時というのもあってか、他の席は徐々に埋まりつつあった。座っている席の向かい側にあるガラスの向こうでは、道路の向こうからここを目指す人も見られる。

(さてと、まずは・・・)

俺はその平和な光景をぼんやりと眺めながら波紋の呼吸を行って体内で波紋を練り上げ、さらにそれを万遍なく体内に循環させて疲労回復に努める。

この方が精神的な疲労回復もしやすいからだ。それにおいしいご飯をよりおいしく食べられる。

「フゥ~~~~~~~~~~・・・・・・これでよし、いただきま~す。」

疲労が粗方抜けたのを確認したところで、さっき買ったサンドイッチの袋を開けてそれに齧り付く。

「{ガブッ}んん~~うまい。」

(フカフカと柔らかい食パンとシャキシャキとしたキャベツの触感、うまく焼けた鳥と照りを出すタレの旨味・・・やはりこういうのは出来立てのものに限るな。実に良い。)

そんなことを考えつつ、チビチビと二つとも口に入れていく。

少なくともあと30分はこのサンドイッチ二つで粘りたい・・・・・・

 

 

 

 

 

「ねえ、そこの君。よければ隣に座っていいかな?」

(うまい飯を食いながら、当たり前の景色を眺め、ただぼんやりと時間を過ごせる。ン~~、これぞ至福の時。)

「・・・お~~い、聞いてる?隣良いかな?」

(はぁ~~、早いところあのカス現れてくれないかなぁ~~~。とっとと始末をつけてまたぼんやりと毎日を過ごしたいなぁ~~~~~。)

「おぉ~~~い、お願いだから答えてくれない?さすがに無視はつらいなぁ~~~~?」

(・・・・・・あ、子供が転んだ。ちゃんと起きられるかな・・・)

「・・・・・・・・・・・・」

(・・・・・・お、泣かずに起き上った。根性ありそうだな。)

 

---ポンポンッ

 

「ん?」

サンドイッチを食べながらそとをぼぉ~~~~・・・っと見ていると、誰かに左肩を叩かれたような感覚を覚えて思わず左を向く。

すると俺の左後ろに、白いブラウスを着た綺麗な美少女が何時の間にか立っていた。

ちなみに容姿は金髪金眼で体は色白といった感じだ。

「やっと振り向いてくれたね。ここまで気が付いてくれないとさすがにどうしようかと思ったよ。」

美少女は少し不満そうな口調でそう言いながら、その綺麗な金色の瞳・・・あまりに綺麗過ぎて作り物にも見えてしまうそれで俺の目をまっすぐ見据えてくる。

俺はそれを見て一瞬、廃ビルであったアリスの姿がダブって思わずゾッとしてしまった・・・・・・

「・・・・・・えっと、すみません。少し疲れていたものでして・・・」

が、目頭を押さえてさすがに少しぼぉっとし過ぎたかと反省し、目の前の少女に謝る。

あれと比べるとかさすがに失礼だろうしな、存在の違い的に考えて。

「隣、よかったら座っていいかな?」

「・・・いいと思いますよ。他に座る人もいなさそうですし。」

「そうか、それじゃあ失礼するね。」

少女はそう言うと俺の隣の席に座る。

「・・・・・・・・・・・・・・」モシャモシャ

「・・・・・・・・・・・・・・」

・・・・・・・なんだろう、この子。今思ったけど特にパンを食ってる訳でもなさそうだし・・・・・・というか顔はガラスの向こうを見てるはずなのに妙にこっちに向けて視線を感じるんだけど・・・

・・・・・・気が休まらないな。早いとこ食ってどこかでまた休もう。

「少しいいかい?」

そんなことを考えてると、唐突に少女が話しかけてきた。というかさっきから妙な話し方だなこの少女。

「!?なにか・・・?」

「いや、何か思い悩んでることでもあるのかと思ってね。とても気難しい顔をしてるよ。」

「それは多分元からなんでほっといてください。」

「おや、そうなのかい?これでも見る目はある方なんだけど・・・」

「じゃあ今回は当てが外れたんですね。」

「ふん・・・ひょっとしたらそうかもしれないな。」

(・・・なんなんだこいつ・・・・・・)

---ガサッ

(あ、サンドイッチ食い切っちゃった・・・)

・・・・・・・・行くか。何かゆっくりする気分じゃなくなった。

「もう行くのかい?もうちょっとゆっくりしていけばいいのに。」

「もうお腹は膨れましたからね。昼時にいつまでも粘ってたら迷惑でしょ。」

本当はそんなの建前なんだけどな・・・まあゆっくりしてられないのは事実だし。

「フフフ、それもそうだね。私も何か買っていこうかな?」

「・・・・・・ごゆっくりどうぞ。」

俺は相所にそう言い、店の外に出る。

「さてと・・・次のとこに行くか。」

なんか休む気になれなくなったし、いっそのこと次に行くとしよう。

まったく、面倒は嫌いなのになぁ・・・

 

 

 

 

 

「・・・あれがここの悪魔たちの間で話題の異能者・・・その一人か。」

泰寛が店を去った後・・・彼の隣に座った少女は彼の去った後を眺めながらそう呟いた。

まるで何もをも見抜くような、その澄んだ眼差しで、見下すように、嘲笑うように。

「フフフ、面白いな。あんなものが人間の中に現れるなんて。いや、本当に・・・なぜあんなのが人間でいられる?どう見ても枠に収まる様なものじゃないのに・・・『ヤツ』が彼を見れば間違いなく激怒しているだろうな、フフフ。」

少女は去っていく泰寛を眺め、楽しそうに笑いながら呟きを続けていく。その右手には何時の間にか湯気の立つコーヒーの入ったカップが握られていた。

「さあ少年。時は刻一刻と迫っている。一手間違えればこの世のすべてを巻き込んだ終末となり、逆にその一手さえ凌げば君の願いは成就するだろう。」

---ズズ・・・コクッコクッ・・・

「頑張りたまえ、少年。面白そうだからそれとなく応援はしているよ。」

少女はいったん口にしたコーヒーカップを机に置き、自らの独白をいったん終えた。

 

(それにしても・・・ライドウ以来だな、このワクワクとする感じは。奴の悪性に呼び出されただけしかないあの小物にはそこまで期待していなかったが・・・フフフ、あれにはいつかそれとなく持ちかけてみるのもいいか・・・む?)

少女はまたコーヒーを口にしようとした・・・・・・が、コーヒーカップに口が付く直前に何かを感じた様に、彼女はどこかに視線を向けた。

「まったくあいつ、こんなところにまで来たのか。たまにはゆっくりさせてほしいんだがな・・・」

彼女はそう言うと、再びコーヒーを口に含み・・・

---カランカラ~ンッ

店の扉から誰かが入ってくるとともに、座っている席から幻のように消えた。

そしてそのことに、店にいた人々は誰一人として気付くことはなかった・・・

 

 

 

 

 

 

『次ノ道ヲ、左ニ曲ガッテ下サイ。』

「あぁ~~、なんだろ・・・休憩は果たせたはずなのに店に入る前よりもだるくなったような気がするのは・・・」

パン屋を出て、キックボードで移動すること約40分、ペイズリー・パークの指示を聞きながら現在、次の異界があると思われる下水用の地下水道がある場所まで移動している。

『サア?色々ト疲レガ溜マッテル証拠ナンジャナイデスカネェ~~~?ケケケ・・・』

「アライブ・・・お前喋れたのか!?」

『ズット前カラ喋レマシタヨ!?』

「冗談だ・・・・・・・・・・・・・半分くらいは。」

『半分ハ本気!?』

いやだってお前、ここ最近喋ってるところあんま視ないというか・・・ぶっちゃけラッシュのときの掛け声とかくらいしか聞いて無いというか・・・

『ヒデェ、コノ人・・・イヤァ~~~、ニシテモナンダッタンデショウカネェアノ娘サンハ・・・』

「あん?さっきのあの子供か?まあ確かにいろいろ変な奴だったとは思うが・・・」

・・・まさか前に矢島をさらった時のアリサ・ローウェルの様な、悪魔の類だったのか?そう思うとあの妙な雰囲気にも納得が・・・・・・やめとこ、さすがにこれは考え過ぎだ。大体根拠が何一つない。

『マ、ソンナコトハサテオキネ・・・ソロソロ次ノ場所ナンジャアナイデスカ?』

「ん、そうだな・・・」

地図通りならもうそろそろ・・・・・・あれ?道が封鎖されてる。警官も何人か立っているぞ。

「あ、君。ここは通っちゃいかんよ。」

「何かあったんですか?」

取り敢えず封鎖場所まで近寄り、俺に注意してきた警官に訳を聞いてみることにする。

「さっきここで傷害事件が起こったんだ。被害者の人は今病院に担ぎ込まれて、私たちは今ここで現場検証をしているところなんだ。」

「(チッ、ついてねえな。)そうだったんですか・・・わかりました。」

そう言えばわずかだけど血の匂いもするな・・・というかよく見たらテープも張られてるじゃねえか。

となると・・・少しばかり遠回りするか。下水道を通る以上、出来る限りあれと同じ魔方陣がある場所の近くで異界に入りたいし仕方がない。

「それじゃあお元気で。お仕事頑張って下さい。」

「ありがとう。ここ最近物騒なことが多いからね、あんまり人目のつかない所を出歩いちゃだめだよ。」

「はい、それでは。」

警官に挨拶をし、背を向けて別ルートを模索する。

まったく、さっさと帰って寝たい・・・

 

 

 

 

---ズァアアアアアア――――――――――――ッ

 

 

「「「「・・・・・・え?」」」」

なんだこれは・・・景色が急に・・・いや待て、この感じは!

「ぎゃあああああああああ!!」

「な、なんだ!?」

「どうした!なにがあった・・・待て君!」

奥の方から誰かの悲鳴が聞こえ、慌てながら呼び止める警官を放って悲鳴の聞こえた方に走る。

「ヒ、ヒィィィィィッ!!」

「うお!?」

通りの角から出てきた人を寸でで避け、その人が来た角に入る。

 

「ガハハハハハ!逃ゲルナヨ、ニンゲン・・・・・・」

「ウマソウジャネエガマア贅沢言ッテラレナイ、トットトクッチマオウカ・・・」

「ゲゲゲゲ・・・」

 

 

曲がり角の先には・・・・・・破壊されたパトカーと怪我をした人たち、そしてそれを見下ろす棍棒を持った赤鬼のような奴が、何体も佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、楽しい祭りの始まりだよ♪」

 

 

 




来週からテストがあるので、またしばらく遅れるかもしれません。
それではまた。

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