デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

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第四十三話

===13:00===

「えっと、後はこれとこの魔方陣を解放して・・・これでよし!」

梶原たちが本日二つ目の異界近くで悪魔と対峙していたころ・・・・・・漂うマグネタイトが急激に増加したためか、彼らが最初に入ったころよりもさらに禍々しい雰囲気を放つようになった廃ビルの上で、悪魔を引き連れたガントレットの少女が立っていた。

少女はガントレットの操作を終えると一仕事終えたような満足した表情で、ビルの上から街を一望する。

 

 

 

「ああああああああ!た、助けてくれ!」

「早く逃げろ!こっちに・・・ウワアアアアアア!?」

「ジュルジュル、ナンデ人間ガ?」

「ドッチデモイイ・・・人間ヲ喰ウ絶好ノ機会ダ!!」

「ウルオオオオオオオオオオ!!」

「に、逃げろ!とにかく逃げろおおおおおおお!!」

「な、なんだ!?この壁みたいな・・・あ、ああ!く、来るな・・・」

「ヒッヒッヒ・・・『ザン』!!」

---ドンッ!

「か・・・あ・・・」ドサッ

「いやあああああああ!!」

彼女たちの視線・・・いや、彼女たちのいる廃ビルの外ではまるで世界そのものが変わったかのように血のような赤い景色となり、普通に過ごしていたはずの人々は突然の周囲の変化とどこからともなく現れた悪魔たちの脅威にひたすら恐れ、焦り、混乱し、逃げ惑っている。

対する悪魔たちは最初の内こそ戸惑ったものの、もともと思考が単純な為か目の前に餌(人間)がたくさんいると分かった途端思考を切り替え、目の前の人間へと襲いかかる。

その結果、自分たちを食らおうと襲い掛かる悪魔から人々がただひたすら逃げ惑う、もしくは近くの建物に立てこもるか、逃げきれずに悪魔に蹂躙されていくという地獄絵図が出来上がっていた。

 

 

 

「あっはははははははははははは!!すごいすごい!これだよこれ!これが見たかったんだ!あはははははははははははははは!!」

「ククク、なるほど。これがうちのサマナーのか。なかなかいい趣味してるじゃねえか。」

「やれやれ、我はなかなかぶっ飛んだ人間の元についてしまったらしい。」

「だがそれくらいでなければ困る。我々を従える者ならなおさらな。」

「グルルル・・・」

「オオオオ!人間イッパイ、メシガタクサン!」

「・・・・・・フン・・・」

人々が抗えぬ脅威にひたすら恐怖し、あらゆる負の感情を露わにしながらひたすら絶望していく・・・・・・・そんな地獄のようなことが起きている状況を前に、彼女は新しいおもちゃで遊ぶ子供の様に目を輝かせ、彼女の後ろに立つ六体の悪魔たちはその光景を見て各々の感想を述べる。

その姿は、常人には決して理解し得ぬような・・・この世にあってはならないほどの邪悪すぎる狂気を唯々体現していた。

 

 

 

「あっははははははははははははははは・・・・・・はぁ~~~~、笑い疲れた。じゃ次いこっか。」

「切り替え速いなおい。」

「まあね、これが私の取り柄だよん♪という訳で皆、次の行動に移るよ。」

「よッ!待ってました!」

「フッフッフ~~~♪それじゃあみんな、これ持って!」

少女はどこからともなく六つの柱の様なものを取り出し、その六つをそれぞれ一本ずつ仲間たちに渡していく。

「皆持ったね?それじゃあ私は下で準備してるから、各自行ってらっしゃい!全員置いてきたらいったん戻ってきてね。」

「「「「「「ああ(アア)」」」」」」

柱を持った六体の悪魔たちは少女の命を受けると、それぞれ別の方向を向いて姿を消した。

「みんなぁ~~がんばってねぇ~~~~~・・・・・・ふう、じゃあもうちょっと眺めてから下に行こ。」

少女は意気揚々と立ち去った仲魔たちを見送ると、また眼下で広がっている惨劇に視線を移し、絶望する人々が悪魔に襲われる様をワクワクしながら眺め始めた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:梶原 泰寛

「うう・・・だ、だれか・・・ぐぅう・・・!!」

(おいおいマジかよ・・・)

現状目の前で起きていることに冷や汗をかきつつ、即座に倉庫から塔で拾ったロングバレルの拳銃一丁とセックス・ピストルズ、キング・クリムゾン、ウェザー・リポートを取り出して装備する。

(・・・・・!?なんだこれは・・・いや、今はそれどころじゃない。敵は全部で四体、他に悪魔は今のところいないか・・・ばれないうちにかたずけて怪我している奴らは後ろの警官に任せよう。)

気流の流れから状況確認をして警官たちを襲っている赤鬼以外に近くに悪魔がいないことを把握し、キング・クリムゾンに拳銃を持たせて通路の角から出る。

「何してるんだ君!そっちに行っちゃ・・・うわあああああ!?なんだあれは!?」

「ば、化け物!!」

(あ!ちょ!?そんな大声出したら向こうにばれ・・・いや!このまま一気に距離を詰めるしかねえ!!)

さほど距離が無かったためか追いついてきた警察官の大声に少し危機感を覚えながら、臨戦態勢のまま全力で走っていく。

「ン~~~、マダホカニニンゲンガウロツイテヤガルナァ~~~?」

案の定、悪魔たちは警察官の声でこっちに気が付いてこっちにむこうとしている。

だが油断しているせいか動きがゆっくりで、まだこちらに気が付くまで余裕がある。

 

「キング・クリムゾン!我以外の時間は全て消し飛ぶ!!」

連中に気付かれないようまずは時間を吹き飛ばし、悪魔に破壊されたらしい車の陰に向けて走っていく。曲がり角からこちらに向かってくる警官に見えない

「({ザッ}この辺りでいいか・・・)行け!セックス・ピストルズ!」

車の陰に隠れた段階で次にピストルズを拳銃の弾倉に配置させ、キング・クリムゾンに拳銃を構えさせて能力を解除すると同時に車の陰から真上に連射する。

『野郎ドモ!ヤルゼ!!』

『『『『『イィ~~~~~ッハァァアアア~~~~!!』』』』』

「あ?{パァン ドサッ}」

「ナ!?ドウシ{ドパッ}バハ~~~~・・・」

上方10メートルほど弾丸が進んだところでピストルズが弾丸を蹴り飛ばし、悪魔たちを頭上から撃ち抜く。

悪魔たちは風船のように頭が弾け、体がグズグズになりながらその場に倒れた。

『ウッシャアア!ザットコンナモンダゼ!』

『脳天直撃!即死ダゼェオイ!』

『ヤリィ!』

「{ボソボソ}やっとる場合か!お前ら、見える範囲でいいから今すぐ上空から周囲の状況を確認してこい!嫌な予感がする!」

敵を倒せてはしゃぐピストルズに呼びかけ、俺は俺でウェザー・リポートの気流による探知と、念のために鉄球を回転させたまま地面に当てて状況確認を行う。

(とりあえず警官の方は無事、それと・・・・・・・・・・・・やっぱりだ。かなりの広範囲で人間と明らかに意思を持った人間で無いものが入り乱れて動いている。)

さっきは何かの間違いかと思ったが、この現状と照らし合わせると今度は否応なく一つの予想がはじき出される。

恐らく、想定していた最悪の事態が起こっているということが・・・

『オイ!ヤベーゼヤスヒロ!他ノ所デモ外ニ出テル人間ガバケモンニ襲ワレテルゾ!!』

『何トカ逃ゲテル奴モイルケドコノママジャ時間ノ問題ダゼ!ドウスンダ!』

「そしてこっちも予想通り・・・ご苦労様。後で飯をやるから一先ずお前ら引っ込め。場所を移す。」

ピストルズを引っ込めていつものフルフェイスマスクをつけ、矢島に連絡を入れながら人の目につかない所に移動する。

「早く出ろよぉ~~~・・・・・・よし!かかった!」

『なんだよ梶原、今「悪魔が街中で暴れてるんだ!それもおそらく海鳴市全体で!」・・・はぁ!?どういうことだそりゃ!?』

「原因は今から調査する!それよりお前ら、一段落したら一度家族の確認をしに行け!なのはがこの状況を知ったら間違いなくそっちの・・・」

『ちょ、ちょっと待て!今なのはとも話せるようにするから・・・よし、出来た!』

『泰寛君、なにかあったの?』

「今街の広範囲で悪魔が暴れてるんだ!市内の全域かどうかはまだわからないが少なくともやばい状況には変わらん・・・っと、このあたりがいいか。」

『え!?ど、どういうこと!?』

なのはの方にも報告を入れていると、ちょうど良さそうな空き地を見つける。

一先ず其処に入り、倉庫からディスクをいくつか取り出す。

(この急展開、俺の予想が正しければ・・・)

もう一度周囲の確認をしたところで新たにアンダー・ワールドのディスクを頭に差し込み、地面から記録を掘り起こした。

掘り起こした土の中から覗いたのは・・・

「やっぱりこいつか・・・!」

この事態を引き起こした張本人であろう、どこかのビルの上で大笑いしている例の転生者と奴が連れている悪魔たちだった。

しかも掘り起こしたのは10秒前の記録・・・間違いない、奴は今この海鳴市に来ている!そしてこの状況は、こいつがとうとう動き出したってことで間違いないだろう。

すぐにアンダー・ワールドをハーミット・パープルに入れ替え、奴の場所を地図上に表示させる。

(この位置は・・・アリスのいる廃ビルか!!なんか地形が微妙に変わってる気がしなくもないが・・・しかしここから大分遠いな。これは矢島となのはたちに先行してもらってビルごとあいつらに消し飛ばしてもらった方が早いか?いや、アリスがまだそこにいたらあいつも敵にまわってまずいことになりかねん。まずは合流することが先決か・・・)

『おい梶原!それってまさか・・・』

「ああ、例の犯人が今アリスのいる廃ビルに来ている!お前らは今すぐ家族の安否を確かめてから廃ビルの方に・・・(いや待て・・・)矢島、異界に仕掛けたマーカーの方は今正常に稼働してるか?」

『ちょっと待て・・・・・・ああ、その辺の問題はねえよ。今のところ強い悪魔もいなさそ・・・ちょっと待て、マーカーの一つに強い反応があるんだけどこれって・・・』

「あぁ~~~、さっき神社の方で話をつけて異界の管理を任せた奴がいるんだ。反応が一つだけならたぶんそれだと思う。」

『その悪魔って大丈夫なの?』

「ジャックブラザーズみたいに話の分かりそうで尚且つ腕に自信があったみたいだからな、一悶着あったけど契約は成立したよ。ところで転移はちゃんとできるんだよな?その辺が一番心配なんだけど・・・」

『その辺は問題ねえよ。何かに阻まれてるようでもないし、今のところはすぐに転移することも可能だ。』

「特殊な条件だと使えないってことはないだろうな?例えば結界で周囲を囲まれてる時とか・・・」

『・・・・・・それはあるかもしれん。アリスの時は結界の様なもののせいで出来なかったからな。』

「(となると・・・よし、見通しは何とかつくかもしれん。)取り敢えず家族の安否が確認出来次第廃ビルの近くで集合だ。」

『OK!』

『ま、待って!街の人たちはどうするの?』

「そっちについては・・・確実じゃないが策がないこともない。多分一時凌ぎくらいにはなるはずだ。一番いいのは俺達が手っ取り早く原因の元を絶って事態の収拾に取り組むことだがな。」

『・・・・・・じゃあ、その間他の人たちは・・・』

・・・まあ、見捨てることになるだろうな。だが・・・

「元凶を逃すようなことになったらまた同じことが起こるかもしれないぞ?」

『ッ!!・・・うん、そうなんだけど・・・だけど・・・!』

・・・まあ葛藤するだろうさ。俺だって出来る事なら住民の方を優先したい。だけど残念ながらこっちは使える人員が圧倒的に少なすぎる。こっちの手札をフルに使っても出来ないことは出来ないし、優先順位をはき違えればそれだけで全てが台無しになる。

「・・・いいかお前ら、さっきも言ったがここで犯人を逃せば更なる犠牲と悲劇が生まれることになる!現状真面に動けるのは俺達三人しかいない。奴の居場所は変わり次第逐一報告する。絶対に逃すなよ!」

『勿論だ!』

『・・・・・・うん・・・わかった。気をつけてね、泰寛君。』

「おう、そっちもな・・・あ、そうだ矢島。」

『?どうした。』

「・・・変態博士によろしく伝えといてくれ。やらないよりはましだろ?」

『・・・!ああ、分かった。』

「じゃあな、がんばれよ・・・・・・さてと・・・」

一端通信を切り、ハーミット・パープルを装備し直して現在の父さんと母さんの位置を念写する。

「えっと・・・よし、二人とも家にいるな。」

父さんと母さんがこの事態を知らず、呑気に家で寛いでいる写真を見てとりあえず一安心する。次に周囲に誰もいないことを確認してから倉庫の中をまた覗き・・・

「今回はスピード重視だから、これとこれと・・・よし、これだ。」

倉庫からリトルフィート、ホワイトスネイクのディスクと・・・・・・・・・・・恐る恐る、『人手が足りない時の切り札』というラベルが貼られたホルマジオのビンを6本取り出す。

(こうなることを予想していなかったわけじゃないが・・・まさかこれにまで手を出す日が来るとはな・・・)

 

 

・・・・・・この瓶の中には、かつて俺が伊達酔狂で集めてしまった一巡後の世界でも1000階以降に出てくる・・・ぶっちゃけて言ってしまうと、レクイエム無しでは決して勝つことの叶わない最凶の敵たちが収まっている。

一応ヘブンズ・ドアーで徹底的に俺の兵隊として使えるよう仕上げはしたが・・・使うことになるとは思わなかったな。

「さあ、ウダウダしてないで始めるか・・・出てこい、出番だ。」

ディスクを装備し直し、まずは一本目を開けて入れていた物を出す。

すると中に入れていたもの・・・メイド・イン・ヘブンを使える状態のプッチ神父十体が元の大きさとなって姿を現す。

(次は命令の内容だな。ホワイトスネイクで命令を詰め込んだディスクを作るとしてどうするか・・・)

まずはプッチ一体を俺の家に送るのに一枚。『俺の家の場所』と『両親』の情報を組み込んで、『この二人を最優先護衛対象とし、この二人と余裕があれば他の人間も悪魔たちから守ること』、『人間は絶対に攻撃しないこと』、『人間を襲う悪魔たちの速やかな排除を行うこと』、『俺のことは誰にも伝えないこと』の三つを命令に設定する。

優先順位は一つ目が一番、二つ目が二番で他は同じくらいでいいだろう。

「(大体こんなもんか・・・)ホワイトスネイク、頼むぞ。」

『了解シタ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ホラ、出来タゾ。』

「よし、ありがとう。」

暫くの間時間を置いてようやくホワイトスネイクが作ったディスクを受け取り、ちょうど目の前に立っているプッチにディスクを差し込む。

すると命令が受諾されたのか、瞬時にプッチは俺の目の前からどこかに消えた。

たぶん俺の自宅まで直行したのだろう。

「よし、後の命令は単純だ。他の奴も出すか。」

 

無事に行ったことを確認し、残りの五本も開けて中にいる奴を出す。

「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」

うん、割と結構な頻度で見てる光景だけどそれでもキメェ。

「えっと・・・『ヨシツネという赤い武者姿で二本の刀を持つ悪魔と人間は絶対に攻撃しないこと』、『人間を襲う悪魔たちの速やかな排除を行うこと』『今日の午前零時に誰かに見られないようにしながらまたここに集合すること』、『梶原泰寛とそれに関する一切のことを誰にも伝えないこと』・・・以上が指令だ。さあ散開しろ!」

俺が指令を出すと、全員が一気に散らばっていく。これで街の悪魔については問題ないはずだ。大抵の奴はワンパンどころか掠るだけでアウトだろうからな。

・・・心配なのは俺の気力が深夜まで持つかだが、そこは根性で乗り切るほかないな。休憩したとはいえ既にact4を一発撃っちゃってるし、今回は切り札を惜しみなく使うつもりだから少々心もとないが・・・いや、能力の発動も極力ディスクのエネルギーで賄えばなんとかなるはずだ。

「さて、となると残るは俺の移動だが・・・よし、あの方法を使おう。」

ホルマジオのビンと他の使う予定のないディスクを倉庫にしまい、アクトゥン・ベイビーを装備して体を透明化する。

「えっとキッスのディスクがこれで、弾丸の代替は・・・コンクリの破片でいいか。」バゴォ

次に倉庫の中を漁ってキッスのディスクを装備し、道路のコンクリートを蹴り砕いて手のひらサイズの物をいくつか見繕う。

そしてそれにキッスのシールを張り付けていき、シールを張ったものを俺が、それ以外の物をキング・クリムゾンに持たせる。

「これで良し、方向は・・・確認良し。それじゃあまずは・・・第一投!」

障害物が無いことを確かめ、キング・クリムゾンに石を投擲させる。

石が地平線の向こうへと消えるか消えないかのところで対応する石に張ったシールをはがすと、持っていた石が投げた石の方向へとすごい力で引っ張られる。

石をしっかりと持っていた俺は、石に引っ張られて猛スピードで空を飛んでいった。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:矢島 敬一郎

「{シュパァッ}着いたぞなのは!」

梶原からの急な連絡の後、俺達は転移魔法を使ってまず翠屋の近くに来た。

道を行く人たちは、自分たちの街が異様な雰囲気に包まれたことと空が赤く染まったことに戸惑い、何事かとざわめいている。俺達はいったんバリアジャケットを解除してその人たちを掻い潜りながら、いったん翠屋の前まで移動した。

「(俺達が来た時はなの葉以外の全員がここtの手伝いをしていた。厨房の方まではさすがに見てないが普段なら忙しい時間だ、まだいるはず・・・)俺はここで待ってるから、行って来い!」

「うん、分かった。」

やっぱりというかなんというか、どことなく暗い雰囲気で翠屋に入っていくなのはの後姿をままならないと思いながら見送り、俺はなのはが帰ってくる前にレーダーで周囲の様子を探る。

(この辺りは・・・物陰にうろうろしているのが何体かいやがるな・・・この辺りは時間帯的に人通りが多いから心配なんだが・・・・・・・・・待っている間に家族にとりあえず電話で確認位はしてみるか。俺もそれくらいなら出来るだろうし。)

なのはが戻ってくるまでにまだ時間もあるだろうと思い、俺は携帯電話を取り出して先ず両親がいるであろう自宅にかける。

『{トゥルルルル・・・・・・ガチャッ}はいもしもし、どなたでしょうか?』

「おふくろ!俺だ!敬一郎だ!」

『おや、誰かと思ったら敬一郎じゃない。そんなに慌ててどうしたの?』

「・・・ほぉ、良かった・・・おふくろ、今自宅の周りってどうなってる?なにかこう、変なのがうろついてたりとか、妙に騒がしかったりとか・・・」

『?ちょっと、どうしたのよ急に・・・ひょっとして何かおかしなことに巻きこまれたの?』

「頼む!ちゃんと答えてくれ!今は詳しく話せないけど大事な事なんだ!」

『・・・・・・・・・なんだかよくわからないけど、いったい何をそんなに{パリィンッ}あら、いったい何の音かしら・・・』

「おい待て!そこから動くんじゃない!{プツンッ}・・・くそ!」

嫌な予感がし、俺は転移魔法で自分の部屋に飛ぶ。

「おふくろ!今どこに・・・なに!?」

部屋から出てリビングに出ると、前に廃ビルであったスライムがキッチンの陰から姿を現していた。

『まぐガ・・・まぐガ足リナイ・・・寄越セ・・・寄越セ・・・!』

「あら?敬一郎の声がしたわね、あの子いったい何時の間に帰って・・・え?」

「どうした、さっきから騒がし・・・うわああああ!な、なんだそれは!?」

「おい!こっちにくるんじゃねえ!!」

騒ぎを聞きつけてリビングに来てしまったおふくろと自室から出てきてしまった親父は、俺とキッチンから姿を現したスライムをみて動きが止まってしまった。

そしてスライムはそんな中、おふくろにかろうじで顔と分かる形をした部分を向けて近寄り始めた。

「(まずい!)うおおおおおおおおおおおお!!」

俺はビームサーベルを取り出し、スライムに飛びかかりながらスライムに斬りかかる。

「おふくろにそれ以上寄るな!この悪魔野郎が!」

怯むスライムに隙を与えずそのまま何度も切り裂いていく。

『ウォオオオオ・・・・・・!』

スライムは攻撃を受けて何度か身悶えると、力尽きたかのように次第に水のように溶け、緑色の光となって消失する。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・おふくろ!大丈夫か!」

マグネタイトを回収して少し息を整えた後、後ろで呆然としているおふくろに声をかけた。

「け、けいいち・・・今のは・・・・いったい・・・・・・・・・」

「・・・ハッ!そ、そうだ!ケイイチ!今のはなんなんだ!」

「・・・詳しいことを話してる時間はねえ。ただ・・・絶対におふくろたちは守ってみせる!だから、今はどこかに隠れていてくれ!事情は後でいくらでも話すから!」

「・・・・・・・・」コクコク

「良し・・・いいか、本当にやばいとき以外は絶対に外に出るなよ。出来るだけどこかに隠れてやり過ごしてくれ、とにかく二人とも頼んだぞ!」

「お、おいケイイチ!いったいどこに・・・」

おふくろと親父にそう注意して、念のために結界発生装置を置いて起動し、転移魔法を使ってまた翠屋の前に飛ぶ。

(なのは、そっちはどうだ?)

(うん、昼頃で忙しかったのを皆で手伝い続けてたみたいで、とりあえず皆いたよ!)

(全員の確認は取れたんだな?)

(うん。みんな無事だったけど・・・)

(なら多少強引でもいいから適当に話を切り上げて外に出てきてくれ。あまり時間をかけていられない。)

(・・・何かあったの?)

(ちょっとな・・・それより頼むぞ。)

(うん、わかった。)

なのはとの念話を打ち切り、レーダーで周囲を探りながら翠屋の前で待つ。

「おまたせ。」

少しすると、なのはが翠屋の出口から出てきた。

「話はつけられたか?」

「うん、なんとかね・・・?なにをするの?」

「いや、ちょっと・・・」

翠屋の入り口を少し開き、予備の結界発生装置を置いて起動する。

「これでよし・・・」

「・・・・・・ねえ、さっき何してたの?」

「ん?あぁ~あれか。実は店の入り口近くに結界を発生させる装置を置いて起動してきたんだよ。あんまり数を用意してないし時間もそこまでなかったから町全体に置くなんてのは無理だったけど、あの建物と周囲10メートルちょいくらいなら俺達が戻ってくるまでくらいは悪魔から守ってくれるはずだ。」

「そうだったの・・・ありがとう、ケイイチ君。」

「いえいえ。」

・・・ホントは博士たちと一緒に似たようなの作って市内全体を覆えるようにしたかったんだけど、さすがに時間が足り無かったな・・・

 

「あとは人目のない所に移動してから一気に飛ぶぞ。」

「うん、行こう!」

なのはとともに場所を移動し、そのあと転移魔法で例の廃ビルの近くまで移動した。

 

「う・・・なにあれ・・・」

「うわぁ・・・なんだありゃ・・・」

転移でたどり着いた場所から廃ビルの合った方向を向いてみると・・・大体200メートルほど先に前回来た時よりも見た目がかなりでかくなっていて、前以上の禍々しい気配を放つ建物が、魔王の城のような雰囲気を醸し出しながらそこに聳え立っていた。

(前に来た時よりも大分ヒデェなこりゃ。マジで思ってたよりもやばい・・・梶原は今どこにいるんだ?)

目の前の状況に圧倒されながらもとりあえず辺りを探る・・・・・・・やっぱりあいつまだ来ていないみたいだな。

「・・・泰寛君、もう来てるかな?」

「いや、あいつはまだここには{バゴォッ}うお!?」

なのはと話していると、不意に道路を挟んだ隣の建物の塀が音を立てて壊れた。

「なに!?悪魔が来たの!?」

「何かがぶつかったような音だな、気をつけろなのは!どこから奇襲してくるのか・・・・・・ん?」

周囲を警戒していると、不意に遠くの方から高速でこちらに向かってくるものをデバイスのレーダーが探知する。

その方向をカメラでよく見るが、特に何かがあるようには見えない。

(なんだ?マグネタイトのセンサーには反応が無いから悪魔じゃなさそ・・・・・・・あ。)

「?どうしたの・・・」

なのはが気付かないまま、レーダーに表示された何かは一気に飛来して来て・・・・・・

 

---ザザザァ―――ッ!! 

 

地面を何かが勢いよくすべる音とともに梶原が急に音がしたところから現れた。

「っとっと・・・・・・{ザッ}待たせたな。」

「・・・・・え?あ、あれ?泰寛君?いつからそこに?」

「お前、迷彩を解除してからそのセリフとは・・・やるじゃない。」

「ネタで言ったわけじゃないんですけどねぇ(^^;) さてと・・・・・・・・・チッ、やっぱりあいつと一緒にいやがるな。けどこのメンツなら何とかなるか・・・」

「・・・・・・・」ポカーン

梶原はポケットから取り出したPCを少しの間見て、何かを確認したようなことを言うとすぐさま俺達に向き直る。

「お前ら、今この中に今回の事件の犯人がいる。準備は良いか?」

「当たり前だ。」

 

デバイスは若干損傷している部分があるが、代替手段と切り札はまだ万全の状態だ。十分やっていける。

・・・・・・アリスが敵になるかもしれないと思うと若干の不安は残るが・・・大丈夫、大丈夫なはず・・・!

「あ、あはは・・・な、なんか一気に疲れが・・・」

うん、なのはも気合いばっちりだ。万が一の時はこいつの高火力と制圧力に期待させてもらおう。梶原?言うまでもないな。

「良し・・・行こう。」

「おう!」

「うん、行こっか。」

梶原の合図とともに、俺達は様変わりした廃ビルに向けて進み出した。

 

 


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