デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録 作:enigma
「へぇ~、泰寛ってそんなに料理が上手なんですか?」
「ええ。六歳の頃に料理を教えてほしいって言ってきてね、それで最初の内は簡単なものを教えてたんだけどこの子ったらすごく物覚えが良くて・・・今じゃ私よりもずっとおいしく作っちゃうし作れる料理の数も多いのよ。嬉しいけどちょっと泣けちゃうわ。」
「あ、あはは。確かに女の子としてはちょっとプライドを傷つけられますね。」
「そうなんだよぉ~~、おかげで楽できてるんだけど・・・なんだかねぇ~~~。」
「・・・・・・・・・」ズズゥ
廃ビルから出て、大体ニ時間が経った頃・・・エニグマの紙に収納した遺体を警察の目につくところに置き、通りかかった警察官がその異常を知って大慌てしたのを確認した後、俺はアリサを連れて自分の家に戻ることとなった。(ちなみに本人からの要望で名前で呼ぶことになった。もう一人の方と被るけどそれについてはその時考えることにしよう。)
アリサは家の両親にあってそうそう両親の心をもの見事に掴み、今は母さんと一緒に俺の昔のアルバムを広げながら、俺の昔のことについて話している。
そして俺はその様子を、ジンジャーエールを飲みながら父さんと一緒に眺めていた。
「ははは、なかなか礼儀正しくていい子じゃないか。あんな子を捕まえてくるなんて、お前もなかなか隅に置けないな。」
「何故友達一人連れてきただけでそんなふうにもってくんですかねェ?」
「けど泰寛、お前そもそも今まで家に友達を連れてきたことが無いだろう?」
「ぬ・・・」
「それを考えたらあんな可愛い女の子を連れて来たってのは相当なことだと思うんだが・・・」
ぐ・・・確かに約束とかちょっとした責任感とかそう言うのがあったからとはいえそこを突かれると否定は出来ねえ・・・
「まあなんにしてもこれからが楽しみだ、はっはっは。」
「まったく・・・」
父さんの茶々に肩をすくめながら、残っているジンジャーエールを飲みきる。
ふぅ、それにしても平和な一時だ。できればずっとこんな感じでこれからも毎日やっていきたい・・・
---トゥルルルルル・・・トゥルルルルル・・・
「ぬ?」
そんなことを考えていると、俺のPCに突如着信が入る。
「ちょっと席を外すよ。」
「ああ、わかった。」
俺は断りを入れてその場から離れ、通話に出た。
「はいどうした矢島?例の方法が見つかったのか?」
『ビンゴォ!必要な物も全部そろったぜ!』
「・・・まぁじでぇ!?」
早いなおい!まだ昨日から一日も経ってないぞ!?
「どうしたの?なにかあったの?」
「!ああごめんごめん!なんでもないよ!」
思わず大声を上げたせいでリビングにいるメンバーに心配され、俺はすぐさま返事を返す。
『つう訳でこれから準備しに行くつもりだけどさ、どうする?一緒に来て立ち会うか?』
「あぁ~~~・・・ちと待てよ・・・矢島、それって結構時間がかかったりするのか?」
『いや、必要な物を置いて起動するだけだからそこまではかからねえよ。途中で悪魔に邪魔されなければという言葉も入るけど。』
「なるほどなるほど・・・」
確か神社の異界にヨシツネがいたよな、矢島だけで行くといらんいざこざに発生するかもしれないし・・・
「矢島、神社の異界の方に管理紛いのことを任せた奴が一体いる。俺の友人って証拠になるもの・・・まあムラサマと土産があればたぶん話がスムーズに進むと思うから一回家に来てくれね?今ちょっと家に友達が来てて手が離せなくってさ・・・アリサ・ローウェルは覚えてるか?アリスに『お友達』にされてたそっちのアリサに似た奴だけど・・・」
『?あいつがどうかしたのか?』
「前にもらった予備の世界樹の葉を奴さんに使ったんだ。」
『マジで!?あれ使えたの!?』
「え?」
『えっ』
「・・・どゆこと?」
今の言い方だと、少なくとも現在使うなにかとやばい事が起こるか、使っても意味がないみたいな表現に思えるんだが・・・
『・・・えぇ~っとなぁ、実は・・・』
---説明中・・・・・・説明中・・・・・・説明中・・・・・・
「・・・つまり蘇生系のお仕事はもう無理ということでファイナル・アンサー?」
『・・・ファイナル・アンサー。』
「そっかぁ~~~、それは仕方ないな。」
ということは俺、結構ギリギリのタイミングで使えたってことだったのか。あっぶねぇ・・・
まあぶっちゃけこれは致し方ない。だって便利すぎるもん。下手したら矢島を求めて戦争が起こりそうなくらいには。
むしろ今後の矢島にとっては、これは良いことだったんじゃないかと思う。少なくとも、あのブラックという言葉も生温いアレにより狙われにくくなったという点に関しては・・・
「まあ一応それ、知ってる連中には報告しとけよ。後で諍いが起こってもひたすら面倒臭いし。」
『わかってらぁい、特に管理局メンバーには次会った時言わないとね。それじゃあいうことも言い終わったし、今からそっちに行くぞ。』
「ああ、ちょっと家族に言い訳をしに行くから少し時間はかかるかもしれんけどよろしくな。」
『おう、じゃあ後で。』
---ピッ
「さてと・・・お~い、ちょっと外出てくるわ。」
「なにしに行くの?」
「近くを通りかかった友達が借りたいものがあるんだって。だからちょっと玄関先まで出てくる、すぐ戻ってくるから。」
「わかった。」
「いってらっしゃい。」
「おう。」
父さんとアリサの返事を背に、俺は靴を履いて玄関から外に出て行く。
それから倉庫からムラサマを出しつつ玄関の前で十数秒ほど待っていると、矢島が塀の影から現れた。
「おいーっす昨日ぶり―。」
「おいすー^^ ほいじゃあこれ。」
周りを確認しながら矢島にムラサマを手渡す。
「むき出しで渡すかおい・・・空間圧縮かけて収納しておくか。」
矢島はムラサマを受け取ると、ムラサマを結界で包み込んで小さくし、そのままデバイスに収納した。
「じゃあ後はよろしく頼むわ。他の異界のボスらしい悪魔は昨日のうちに片が付いてるからまあ楽だろ。」
「余計なフラグが立ちそうだからそう言うのはやめなさい!・・・まあまかせとけ、じゃ!」
矢島はそう言うとまた塀の陰に身を隠して、魔方陣を展開して転移魔法でその場から消えた。
後は何かしらの報告を待つことにするか。
「{ガチャ}ただいま~・・・ん?どうしたアリサ。」
家の中に戻ってリビングに戻ると、アリサと母さんが何か言いたげにこっちを見ていた。
「泰寛、よかったらアリサちゃんの分も含めて今晩の料理も作ってくれない?」
「え?まあいいよ。というかアリサ、ここで食べていくのか?」
「まあね。あなたのお母さんから評判は聞いたわ、楽しみにしてるわよ。」
アリサは微笑みながらそう言う。こいつ確か世間的にはまだ行方不明ってことで通ってなかったか?一応コイツの孤児院に送りに行くついでに口裏を合わせてもいいけど・・・なんというかのんびりしてるなおい。
「(まあそのへんの事情は後で摩り合せるとしても・・・)まあいいけどさ・・・けど結構早めに飯を作るとしても時間が遅くならない?少なくとも子供の出歩く時間じゃ・・・」
「大丈夫よ。ご飯が終わったら私が車で送って行ってあげるから。」
俺が聞くと、母さんが代わりにそう答えた。
まあそう言うことなら大丈夫か。
「OKだ。そういうことなら期待に応えられるよう努めさせてもらうよ。」
「ええ、よろしくお願いするわ。」
(今晩の夕食か・・・とりあえずメインのおかずは昨日の晩に仕込んだ鶏肉を使って唐揚げを作って・・・あとは適当にサラダとお吸い物を作れば・・・)
そんなこんなでその後の時間は、全員で話を交えたり、テレビゲームを点けて遊んだり、お互いの学校生活や俺の友達のことを話したりして過ごした。
そして夕食の時間・・・
「ほ、本当においしそうね・・・というかすごい量。」
「でしょう?あ、それとあらかじめ取り置きはしておいた方がいいわよ。多分ほとんどお父さんが食べちゃうかもしれないから。」
「そうなんですか?」
「さあさあ、これで最後の一皿ですよっと。」
母さんとアリサの会話を聞きながら、テーブルに料理を配膳していく。
ちなみに夕食の内容は千切りにしたキャベツとトマトとパプリカと鶏のササミを使ったサラダ、刻み椎茸とワカメと大根の味噌汁(赤味噌)、唐揚げ、白米となっている。
「泰寛、もうちょっとご飯の量を増やしてくれないか?」
「丼サイズのお椀に零れ落ちんほど盛り付けしたというのにまだ足りないとはこれいかに・・・」
「ふふふ、お父さん、ご飯ならあとでお替りすればいいじゃない。」
「む、それもそうだな。」
「どっちにしろこれ以上食べる事には変わりない訳で・・・もういいや\(^o^)/ ああ、アリサ。さっき母さんも言ったと思うけど取り置きはちゃんとしておけよ。」
でかい皿に山盛りにしてあるサラダと唐揚げを指さしながらアリサに忠告する。
「いや、あの、これ結構あるわよ?」
「心配ない。10分もしたら8割以上は父さんの腹に消えてるから・・・」
「そ、そう・・・あなたのお父さんもある意味すごいのね・・・」
ホントにね・・・この量がいったい体のどこに消えていくのかと前々から疑問に思ってる訳ですよ・・・{ブブブブッ}ん?PCが震えてるな?
「なんだ?{ピピッ ピッピッ}」
PCを取り出して操作すると、矢島から一通メールが来ていた。
(えっと、なになに・・・)
【作業が終わったお。これより帰投しますお。】
「(おぉ~~、やっと終わったか・・・)『お疲れ様』っと。」
労いの一文を返信余蘊メールに書いて送り返す。
さて、準備もできたしそろそろ食い始めるか。
「それじゃあ頂きます。」
「「「頂きます。」」」
母さんがあいさつするのを皮切りに、俺達も食事を始めた。
「う・・・これ、ほんとうにおいしい。油っ気がしっかり落ちてるから表面の衣はカリっとしてるし、中の鶏肉は柔らかくて味付けがしっかりしてる。その辺のお店のよりもよっぽどおいしいわ。」
「ホント、今日もいい出来ね。味噌汁の出汁は何を使ったの?」
「昆布と鰹と椎茸。まだまだ検証中だけどねぇ~。」
ちなみに引力操作を使うと灰汁の部分だけ無駄なく取り除ける。いやぁ~ホント便利便利。
「その年ですごいわね、揚げ物って結構危ないはずなのに一人でやってたみたいだし。」
「フッ」ドヤァ
「その顔は腹立つわね・・・」
よしよし、アリサの好みは全然知らなかったがどうやら高評価をいただけたようだ。ドヤ顔は低評価だったけど。
「さあさあ召し上がれ、まだまだたくさんあるから・・・あ、お父さんは張り切らなくていいから。むしろ控えめでオナシャス。」
「{ガツガツガツガツガツ・・・カランッ}おかわり。」
「だから早すぎんよォ!?」
「いつもあんなに食べてるんですか?」
「何時もはもうちょっと少ないんだけど・・・泰寛が女の子を連れてきて張りきっちゃってるのかもね。」
「ふふふ、結構可愛い所もあるんですね。」
「おかげで十合近い炊飯器の中身がみるみる減っていくんですがそれは・・・」
「あらあら、また炊き直さなくちゃいけないわね。」
「あ、あはは・・・ホントにすごいスピード・・・」
それからもみんなで仲良く談笑しながら我が家の食事は進んでいく。
「{カタ パンッ}御馳走様でした。」
「御馳走様でした。」
20分ほど経過した後で、俺とアリサがほぼ同じタイミングで箸をおいて締めの挨拶を言う。
フゥ~食った食った。
「{カタン}御馳走様、みんなよく食べたわね。」
「{カタン}御馳走様、今日もおいしかったよ泰寛。」
次に母さん、父さんの順にご飯が終わる。あれほどあった料理は、机の上から一切消えていた。
やっぱり父さんの腹の中はおかしい(確信
「んじゃまあそろそろ送迎の準備しないと。俺食器かたずけてくるわ。」
「私も手伝うわ。」
「じゃあお母さん、車の用意をしてくるから少し待っててね。」
「「あいよ(はい)」」
俺とアリサは食器を重ね、キッチンの流し台に持っていく。
「流し台に一通りおいたら水をかけるから、それが出来たら帰ってきた後で俺が洗っとくよ。」
「分かったわ。」
---カチャカチャ シャ―――――――――ッ
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう、今日はとっても楽しかったわ。」
長しに置いた更に水をかけていると、アリサが微笑みながらそう言う。
「おう、どういたしまして。こっちとしても楽しんでもらえて何よりだ・・・これでよし。」
粗方水をかけ終わり、蛇口から出る水を止める。
「・・・・・・ねえ・・・」
「なんだ?」
「私・・・これからもこんなふうにしていられるかな?他愛無いことでいいの。あなたや、親しい誰かと一緒に過ごしたり、何気ない一時を楽しんだり・・・そんな『普通』の日常を、私はちゃんと歩んでいけるかな?」
アリサは不安げな表情で、俺にそう言ってくる。
「分からん。」
俺はそれに対し、一言そう返した。
「・・・・・・」
俺は唖然としているアリサを見据え、奥にいる父さんに聞こえないよう淡々と静かに続けて言っていく。
「いろいろ言いたいことがあるかもしれねえけど先に言っておくぞ・・・俺は確かに常人とは呼べないタイプの人間だ。そこらの奴と比べれば出来る事は格段に多い・・・けど所詮それだけだ。出来ないことは出来ない、分からないことは分からない。どれだけ普通と違ってても所詮一人の人間だ。数秒先の出来事さえ、例え自分のことだとしても覚束無い唯の人間だ。だから今の俺はそんなことを聞かれても知らん。理不尽や不条理ってのは往々にして人間の理解の外側にあるものなんだから、そんなもんから守れと言われても無理な時は無理がある。」
「・・・・・・」
「今回の事件だって起こってると気が付いたのは十月の初め、実際には二か月近く前から起こってたってのにまったく気が付かず、最悪の事態こそ防げたが結局この様だ。都合の良いタイミングで現れてくれる正義のヒーローなんて、俺にとっちゃ遥か遠い遠い存在だよ(もっともなる気もないけどな、そんな割に合わないもんには)」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハァ~~~~~~~~~~~~。まあ、その、なんだ。ここまで散々駄目だししたけど、アリサは俺の友達だ。だからなにかあったら必ず協力はするよ。」
---ブォォ~~ンッ
「{ガチャ}二人とも、車の準備ができ・・・どうかしたの?」
「いやなにも。それじゃあ行こうか。」
「え、ええ。そうね。」
母さんの後に続いて、俺達は外へと歩いていく。
ハァ、やっぱこういうのは苦手だ・・・
---グイッ
「ん?どうした?」
アリサに袖を引っ張られて俺は立ち止まる。
「ううん、なんていうか・・・元気づけてくれようとしてたのは伝わったわ。」
「ははは、なさけなくてすんませんね。」
「ほんとよ。てっきり無理にでも元気づけようとすると思ったのに・・・一言目で『分からん』は予想外だったわ。」
「正しい認識って、大事だよね・・・それと『現実』の二文字はそこまで甘くはねえwww まあ代わりに今度俺の頼り甲斐のある友達たちも紹介するからそれでお一つ・・・」
「なにそれ、まったくもう・・・ふふふ。」
自分でもこれは情けないなぁとは思いつつもそこで話は終わり、後は母さんが運転する車に乗ってアリサを孤児院に送り届けた。
「あ~~~、う~~~・・・」
「・・・なんかよくわからんけどお疲れさん。」
そしてその後日、行方不明だったはずの彼女が突然帰ってきたことに対して彼女の周囲が大騒ぎしたことを、彼女から事細かに愚痴られたのは言うまでもない。
「あ、ドクターにも連絡入れとかないと。」
A'sに入る前にいくつか番外の話を書きたいなぁ~と思ってます。
ちなみにどれも、たぶん本編には関係ないです。
それではみなさん、御機嫌よう。