デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

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報告もなく長いこと間を開けてしまい、すみませんでした。
定期テストの勉強やらバイトやらで時間がなかなかなかったもので・・・それではどうぞ。


番外その三

---ザザザザザッ!!

 

決闘開始直後、泰寛は白夜叉に一直線に駆け寄りながら自分と被るように出ているアライブにリボルバーを構えさせて、

 

『マズハコレヲ奢ッテヤルゼ御嬢サン!!』

---ドンドンドンドンッ!

 

彼女の胴体や関節部分を機関銃並の連射速度で撃たせた。

 

「分かり易い攻撃よのう。」

 

白夜叉は鼻を鳴らしながら優雅に扇子を軽く振り、自分の目の前に太陽のような光を放つ壁を作る。

 

---ガリガリガリガリガリガリ・・・ガキンッ! ドシュドシュドシュドシュッ

 

「な!?」

 

余裕の態度で泰寛が接近するのを待っていた彼女だが、光の障壁にぶつかった弾丸の三分の一が異常なほどの回転をしながら障壁を削り、障壁を突き抜けて自分の体に当たったことに驚いて思わずその場から後退する。

(妙じゃな、あれくらいなら防ぎれる程度の強度はあった筈じゃが・・・っ!?)

弾丸が想定以上の力を残して自分に当たったことに白夜叉は疑問を持つが、その思考を遮るように突如痙攣するように動きを止めてその場に尻餅をつく。

 

「く!?なんじゃいったい!」

 

白夜叉は突然起こった異変に顔をしかめて自分の体を見る。

すると・・・

 

---ギャルギャルギャルギャルギャルギャルッ

 

(これは・・・服と皮膚が捻じれておる!?)

 

先ほど白夜叉に弾丸が当たった箇所が、螺旋を描くように捻じれて彼女の動きを巧い具合に阻害していた。

 

「こんなもの・・・{ズルリ}!?」

 

体勢を立て直そうとする白夜叉。しかし自分に影が差したのに気が付いて前を見ると、彼女の目前10メートルにはすでに閻魔刀を抜いて構えている泰寛、さらに頭上からは何時の間にか真っ二つになった障壁を越えて、リボルバーを引力操作で背中に張り付け、身体を思いっきり捻って攻撃の態勢に入っているアライブの姿があった。

 

「ジャッ!」

『ギルァア!!』

 

正面から泰寛の袈裟切り、頭上からはアライブの拳が白夜叉に迫る。

遠くで観戦していた十六夜たち五人はそれぞれ様々な思いを胸に秘めながら、これで勝負が決まるのか、決まってしまうのかとその光景を括目していた。

 

 

(!戻れアライブ――)

「喝 ァ ッ !!!!」

 

---ゴォッ!!

 

「!?」

 

しかしさすがに現実はそう甘くはなく、白夜叉は神気の篭った発声をして強力な衝撃波を発生させ、その圧倒的な圧力が泰寛に襲い掛かった。

 

『ウオオオオ!』

 

寸でで気が付いた泰寛はアライブを目の前に戻しつつ閻魔刀を振り切り・・・

 

---ドォオオオオオオオンッ!!!

 

『ウギ!?』

「・・・ッ!」

 

踏み止まる様子を全く見せず、衝撃波を叩きつけられて思いっきり吹っ飛ぶ。

アライブを緩衝剤にしていたから大分ダメージは抑えられたものの、それでもそのダメージは人間である彼の身には決して小さいものではない。

 

「カ・・・ハッ・・・・・・ッ!!」

 

だが唯で転ぶ彼ではなかった。

 

(アライブ!)

『オォオオォオォオオオ!!』

 

泰寛はアライブに命じて吹き飛ぶ方向と白夜叉の後ろにワープゲートを形成し、体勢を立て直して吹き飛ぶ勢いのままそこへ入る。

 

「なんじゃ・・・!?」バッ

 

白夜叉はこの隙に体勢を立て直そうとしていたが、自分の後ろに出来た空間の歪みに気が付いて後ろへ振り返った。

するとさっきので彼方に吹き飛ぼうとしていた泰寛が、今度は後ろから自分を追撃しようとしていた事に顔を顰めた。

なおアライブの左右の手には凄まじい勢いで回る二個の鉄球、泰寛の右手にはどこから取り出したのか分からない何かの葉っぱが握られている。

 

「まだまだぁ!」

「この――」

 

---ブシュウッ!

 

「ぐ!?」

 

白夜叉が泰寛に手を向けようとした瞬間、白夜叉の和服が切れると同時に胸から鮮やかな斬撃痕が現れて血が噴き出す。

傷口は深くは無いものの、白夜叉の動きは僅かに鈍った。

 

『ギルァアッ!!』

「らぁっ!」

 

泰寛はそれを見逃さず、アライブに右手の鉄球を投げさせると同時に自分も空間斬りを放った。

 

(今度こそ・・・)

 

---ピカアァ――z____

「っ!」

 

ようやくまともな一撃が当たる・・・泰寛がそう考えた瞬間、白夜叉からが突然溢れるように光が放たれた。

いきなりのことに泰寛が目を細めると・・・

 

---フッ

 

「!?」

 

ひときわ強い発光の後、白夜叉の姿が泰寛の前から消えた。的を失った鉄球と斬撃は、虚しく彼女のいた場所を通り過ぎてその先の地面を抉る。

 

「{ザッザッザッ}あいつどこに・・・」

 

泰寛は突然のことに驚くがすぐに冷静さを取り戻し、スピードを緩めながら周囲を見渡す。

 

---カッ!

 

「・・・ッ!!」

 

自分の足元の影が急に濃くなったのを見て思いっきり前に飛び込むと、立っていた場所の上空から十数個の光弾が流星のように降り注ぎ、その場を吹っ飛ばした。

彼が避けた方向にも光弾は迫る。

 

「この・・・!」

 

泰寛は爆風と熱気に飲み込まれながらもアライブとともに受け身を取ってすぐに体勢を立て直し、攻撃が来た方向を確認する。

すると彼はすぐに、白夜叉の姿を見つけられた。

 

「なるほどのう、わしに挑んでくるだけのことはあるなおんし。」

 

彼女は口元を扇子で隠し、白夜の光をその背に負って、泰寛を見下しながら優雅に宙に浮かんでいた。

何時の間にか破損していた和服は元に戻っていて、銃創や刀傷はもうほとんど治っている。

 

「チッ、もうちょっとだと思ったんだけどな・・・」

 

泰寛はそう言いながら、戻ってきた鉄球を白夜叉から目を離さないように回収し、二つともホルスターに戻す。

 

「くくく、確かに久々にいい汗をかかせられはしたがのぅ。じゃがこの程度ではまだまだわしの命には程遠いぞ人間?」

(傷の治りが遅い。霊格は問題ないが・・・・・・あの刀、やはり神代の武具じゃの。銃の方もそれに匹敵する何かがあるし、あやつから出た者も奴自身もなかなかどうしてできる。)

「OKOK、確かにこれくらいで倒せるたまなら挑んだ意味がない。まだストレス解消にも埃被りかけてる手札の天日干しにもなってねえからな。」

(とは言うもののさっきのやり取りで与えられたダメージがこの程度か・・・様子見の雰囲気だったからと言ってさすがに手を抜き過ぎてたみたいだな・・・)

 

二人は互いに挑発し合いながら、相手の一挙一動に注意を払いつつ先ほどの手合わせを元に相手の力量を計る。

そして、次にどう出るかを考えていく。

 

(あいつ自身のレベルはまだまだ如何とも言い難いが・・・ざっくりいえば太陽の化身だからな。射程範囲に入ってくれれば勝ちの目は十分あるが今の装備だけじゃど~~もそれ期待してるとただじゃすまなそうだし・・・しゃあねえ、本気だされる前にいくつか使ったら切り札出して終わらせるとしよう。)

(落ち着きようからしてまだ何か隠しておる可能性はあるのう。出来ればそれも見てみたいが・・・・・・・あまり手を抜きすぎてさっきみたいな不覚を取ると黒ウサギや童たちに軽くみられるし、少し本気を出してやるか。)

 

少しすると二人とも考えが同時にまとまり・・・

 

『ウシャア!!』

「ほい。」

 

次の瞬間には泰寛の空間斬りとアライブの銃撃、白夜叉の放った光弾がお互いの視界いっぱいで衝突することによって戦闘が再開した。

 

「(とりあえず切り替える隙を作らねえとな。)降りてこい!」

 

アライブと泰寛が叫びながら白夜叉を睨み、白夜叉に能力を発動する。

 

「そう言われて降りる{ガクンッ}ぬお!?」

 

白夜叉は軽口を叩こうとした途端尋常じゃないほどの負荷がかかったことに驚き、反応する前に勢いよく雪原へと落ちた。

泰寛は白夜叉の墜落地点へと、アライブに銃を撃たせる。

 

---カッ!

 

「っ!」

 

しかし白夜叉は先ほどの様に墜落地点から姿を消し、

 

「はっ!」

 

泰寛の背後に姿を現して、見るからに【くらったらただでは済まない】と思わせるほどに光輝く右拳を振るった。

 

「チィッ!?」

 

泰寛は左に跳ぶことでかろうじで回避する。白夜叉はそれを予見していたかのようにすぐに拳を戻して身体の向きを変え、泰寛の跳んだ方向に立つ。

泰寛が白夜叉と次に視線があった時には、彼女は確実にその凄まじい光と熱を放つ拳を泰寛に振える態勢に入っていた。

 

 

「これにて終わりじゃ♪」

 

白夜叉は着地が間に合わない彼に凄惨な笑顔を眺めながら、轟音が鳴り響くほどの勢いで彼に拳を振るう。

 

『ギルァッ!』

「む!?」

 

しかしその拳はアライブの左脚で腕を思いっきり蹴られて弾かれ、見当違いの方向へと大きく外れた。

 

(っつぅ~~~~!)

 

そしてどういうわけか、アライブの蹴った部分が焼け爛れてそのフィードバックで泰寛にもダメージが入る。

そして彼女が拳を振るいきった瞬間・・・・・・・

 

---ドォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

泰寛の友人にも匹敵する極太のレーザーが拳から放たれた。

レーザーは目標を外し、回避中の泰寛の髪を一部焼いて空の彼方へと消え去っていく。

遠目から眺めていた五人は一人を除いてあんぐりと口を開け、その光景に尋常じゃない量の冷や汗を流した。

 

「フッ!」

 

白夜叉は拳を弾かれた勢いで、その場を薙ぎ払う様に凶悪な熱と光を纏った回し蹴りを繰り出す。

 

『ギルァッ!』

 

それをアライブは、左脚で軸足を払ってバランスを崩し、繰り出される蹴りを右脚で真上に蹴り上げる。

 

---ジュゥウッ!

「っ!?!」

 

白夜叉の蹴りに一瞬とは言え触れたせいで、またアライブの足が焼け爛れる。

そのフィードバックで泰寛の右脚にも火傷の跡が出来た。

 

(まだまだ!アライブ!)

 

それを泰寛は歯をくいしばって耐え、アライブに攻撃を命じる。

『ギルァララララララララァッ!』

「がはぁぁああッ!!!」

 

アライブはそれに応え、切り返される前に銃を背中に張り付けて、宙に浮いてる状態の白夜叉にラッシュを叩き込む。

白夜叉はガードが間に合わず、ラッシュをまともにくらう。

 

(お、重い!だがこの程度、堪えられぬほどでは・・・)

 

白夜叉は体勢を立て直してなんとかガードをしようと手足を動かす。しかし・・・

 

---ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴッ!

 

アライブは白夜叉が動かそうとする部分から徹底的に、それも主に関節を狙って殴打し、防御どころか身動き一つさせないレベルで白夜叉を封殺する。

 

(は、速い!速過ぎる!こやつのギフト、まるでこやつだけ時間の流れが変わったかのようだ!動きがまるで追いつかない!)

 

戦いの理由が理由なために精神的なブレーキ(本人の感覚で殺さない程度)こそかかっているものの、それでも尋常ならざるスピードと正確さを以て叩き込まれるラッシュに白夜叉は再び接近戦を挑んだことを後悔し始めていた。

迂闊に近づかず、遠距離からの攻撃に徹していれば、あるいは彼女が全盛の状態なら、彼女が泰寛を圧倒するのはそう難しいことではなかったであろうに。

 

『ギルァララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララァッ!』

 

殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る。

腹を、胸を、上腕を、手を、大腿を、顔を、頭を、脇を、肩を。

残像なんて刹那も残さないほどに殴る、息つく暇も与えないほどに殴る、血肉や骨の破砕音をBGMに殴る、ひたすら殴る。

 

(この・・・・・・舐め・・・・・・おって・・・!!)

 

---カッ!!

 

『アアァアアァァアァッ!!』

(な!?)

 

---ガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

 

彼らの周囲から強いフラッシュが起こった瞬間、アライブが白夜叉を掴んで振り回し、どこぞの地上最強の様な人間ヌンチャク染みた手捌きで、体勢を立て直した泰寛目掛けて四方八方から飛んできた光弾や光線のほとんどを叩き落とす。

 

「(あっつ・・・!)おおおおおおおおおおお!!」

 

焼けつくような熱気を振り切り、全てを捌き切った後は白夜叉をそのままの勢いで地面に叩き付け、

 

『ギルァララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララァッ!!!』

 

一撃ごとに地面が陥没するほどの、先ほどよりもさらに苛烈なラッシュを叩き込んでいく。

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアア・・・・・・』

 

そして白夜叉が動けなくなったところで彼女を強引に引っ張り上げ・・・

 

『ギィィィィ・・・ルァアアアアアアアアアアアアア!!!』

「カ・・・・ハ・・・・・・・・・・ッ!!!!!」

 

限界まで引き絞り、強力な力場を纏った左拳で白夜叉の腹部を思いっきり飛ばす。

白夜叉は口から血反吐を吐き出し、尋常じゃない勢いで吹っ飛ばされて150メートルほどの位置で止まる。

 

(よし、ここを置いてもうスタンドを切り替えるチャンスはねえ!)

 

泰寛は閻魔刀を鞘に戻し、鍵の宝石部分に倉庫への出入り口を出して使うディスクを見繕う。

そして彼女が地面をバウンドしている間に、始めに使うディスク四枚を取り出して自分の頭に差し込み、エピタフを額に出して予知を視ながら形兆のディスクケースを一つ持つ。

足には波紋を流して治癒能力を促進し、痛みに耐えながら踏ん張った。

 

「さあ、来いよ!立ち上がってこい!第二ラウンドといこうじゃあねえか!」

 

彼女が吹っ飛んでいった方向を睨み付け、泰寛は刀の鞘に手を掛けながら叫ぶ。

その様子を見学しているノーネーム組は、固唾を飲んでその様子を見入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

(・・・・・・・・・・・・・・・・・遅くねえ?)

 

準備完了から数十秒・・・予知を見ながらひたすら待機していた泰寛は、余りにも反撃までの時間が長いことに疑問を抱いた。

泰寛は目を凝らして、白夜叉の倒れた地点を注視する。

 

(・・・・・・まったく動かねえな・・・・・・・)

 

対する白夜叉は、雪の未だに上に倒れ伏したままで全く動く様子を見せない。

頭に疑問符が浮かびそうな表情をしながら、泰寛はもう一度エピタフで予知を見る。

 

「・・・・・・・えぇ~~~~・・・・・」

 

予知を見た泰寛は、白夜叉と予知の映像を見比べながら拍子が抜けたような声を出す。

それとほぼ同時に、黒ウサギが白夜叉の元に駆けつけた。

 

「梶原さん、少し待ってもらえますか!・・・うわぁ、こ、これは・・・」

 

倒れている白夜叉の様子を確認した黒ウサギは青い顔をしながら困惑気味にそう漏らし、一先ず意識を集中して自分の耳をぴくぴくと動かす。

 

そして・・・

 

「・・・しょ、勝負あり!ギフトゲーム“太陽と超人の戯れ”の勝者は梶原さんでございます!」

 

黒ウサギは若干の戸惑いを含めながら、雪原中に響き渡るように高々とそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:梶原 泰寛

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

(・・・・・・・結局他のスタンドは使わずに終わっちまった・・・)

 

黒ウサギの決着宣言を聞き、俺は白夜叉を担いで皆の元に走っていく黒ウサギを見ながら、出していた武器を戻す。

 

(奴さんが不用意に近づかなけりゃディスクの方も何枚か使ってただろうにな・・・・・・ま、そこそこ気分も晴れたし、武器の方も埃被りそうなくらい最近使ってなかったし、半分くらいは目的達成したとみてもいいか・・・ッつつつつ・・・)

緊張が解けたせいか、全身・・・特に両足に猛烈な熱感と痛みを感じた。見える部分を確認しると、皮膚の露出しているところを筆頭に火傷のような赤みがさしていてかなりヒリヒリする。

とりあえず靴と靴下を脱ぎ、ズボンの裾をまくると、やっぱりというか、足の裏と足関節周辺の皮膚が若干焼け爛れていた。

(動作確認は・・・よし、白夜叉に実際に触れた部分でもまだしっかり痛みを感じられている上にちゃんと足が動くから、手遅れと呼べるレベルじゃないのは幸いだろう。手遅れだったら回復アイテムくらいじゃどうにもならないから、あらかじめ作っといたパーツと取り替えなくちゃならなかったところだ。)

傷の確認が終わったところで、倉庫から宝玉を一個取り出し、それを傷に近づけて念を込める。

 

---バキンッ シュウゥ――――――・・・・・・

 

すると宝玉が一瞬で粉々に砕け散り、中から出てきた光が全身を覆い、見る見るうちに火傷した部分を中心に元の肌色の皮膚に戻った。

 

「・・・これで良し。さっさと戻るか。」

 

処置が終わったところで道具を倉庫に戻し、靴と靴下を履いて皆のいるところまで歩いていく。

 

「お疲れ、思ってたよりもなんともないみてぇだな。」

「んなわけあるかい。さっき治療したからそう見えるだけでしっかり火傷してたわ。」

 

ケラケラと笑いながらそう言ってきた逆廻に、右足をプラプラと振りながら反論する。

 

「ヤハハハ、むしろその程度で済んでよかったじゃねえか。アレをまともに食らってたら無事じゃすまなかったろ、お前。」

「本当よ。未だにこうして平然としているのが不思議なくらいだわ。」

「とにかく凄かった。昔読んだ古典にあったけど、『ヤムチャ視点』てああいうのを言うのかな。」

「そ、それはちょっとわからん(;^^)」

 

というか春日部のいた所だとあのマンガ古典扱いなのかよ。

 

「・・・・・・ところで白夜叉はまだ起きないのか?しこたま殴っといてこう言うのもなんだが早い所起きてもらわにゃ日が暮れるぞ。」

「こ、ここまでズタボロにしておいてその言い草とは・・・おんし鬼か・・・」

 

そんなことを言っていると、黒ウサギに介抱をしてもらっていた白夜叉の口からそんな声が途切れ途切れに聞こえてきた。

 

「白夜叉様!大丈夫ですか!」

「・・・あたたた、黒ウサギの身体を思う存分堪能すれば傷が癒えるのだが・・・」

「そんなことさせません!!まったく、白夜叉様も白夜叉様で無茶し過ぎですよ。そもそも貴方様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか。」

「何?じゃあ本当は元・魔王様ってことか?」

「はてさて、どうだったかな?」

 

見た目ズタボロになっているにもかかわらず、ケラケラと口から血を垂らしながら悪戯っぽく笑う白夜叉に、『えぇ~~~』という感じで白夜叉を見る五人。

全盛の頃だとこれよりさらにヤバかったのか・・・

 

「ゲフッゲフッ・・・まったく、骨も肉も内蔵もズタズタだぞ。まさか一方的に殴られるとは思わんかったわ。」

「俺だって一歩間違えば消し炭になるところだったぞ。というかそれはアンタの手抜きと油断の結果だろ。」

「むう、そこを突かれると耳が痛いのう。」

「やれやれ、元・魔王は伊達じゃないってか・・・ところで、取り決め通り俺達の戦利品も早いとこ見せてもらいたいんだけど。」

「まあまあそう慌てるでない。慌てる乞食はもらいが少ないとゴハァッ!・・・も、もうちょっと待っておれ小僧。あともうちょっとで・・・・・・」

「お、おう。」

 

そう言って少し力んだ様子を見せると同時に、白夜叉の傷が瞬く間に治っていく。

俺も含めた異世界組は、驚きながらその光景を凝視する。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・良し。」

 

外面の傷が治ってからさらに時間を置いた後、彼女は立ち上がってその場で何度か飛び跳ね、調子を確かめる。

そして確認が終わったのか小さく「良し」と呟いた後、口元に付いた血を拭ってから俺達の方へと向き直り・・・

 

「んんっ!それでは皆の衆、少々早いがわしからのコミュニティ復興の前祝じゃ。受け取るがよい!」

 

咳払いの後そう言って、軽く手拍子を行った。

すると俺たちの頭上が小さく発光し、俺、逆廻、久遠、春日部の手元にそれぞれ黒、青、紅、碧のカードが一枚ずつ降りてきた。

俺達がそれぞれカードを手にとってカードを不思議そうに見ていると、黒ウサギは驚いたような、興奮したような顔でカードを覗き込んだ。

 

「ギフトカード!」

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

「粗品という名の在庫処分?」

「ち、違います!というかなんで皆さんそんなに息が会っているのです!?後梶原さんはいろいろひどいです!このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる上に、各々のギフトネームが分かるといった超高価なカードですよ!耀さんの“生命の目録”だって収納可能で、それも好きな時に顕現できるのですよ!」

「便利なのはわかった。」

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」

「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」

「我らの双女神の紋のように、本来はコミュニティの名と旗印も記されるのだが、おんしらは”ノーネーム”だからの。少々味気ない絵になっているが、文句は黒ウサギに言ってくれ。」

 

白夜叉は自分のカードを取り出し説明を進める。

俺はそれを聞きながら、自分のカードの表記をもう一度よく見る。

 

 

『“転生者/例外(イレギュラー)”

“判別不能”          』

 

・・・これ本当に機能しているのか?転生者は何となくわかるけど下の欄はなんだよ、“判別不能”って。別にいいけど。

 

「ふぅん・・・・・・もしかして水樹って奴も収納できるのか?」

 

十六夜は何気なく黒ウサギの持つ水樹にカードを向ける。

すると水樹は光の粒子となってカードの中に呑み込まれた。

見ると十六夜のカードは溢れるほどの水を生み出す樹の絵が差し込まれ、多分ギフトの名前であろうギフト欄の“正体不明”という表記の下に“水樹”の名前が並んでいる。

 

「おお?これ面白いな。もしかしてこのまま水を出せるのか?」

「出せるとも。試すか?」

「だ、駄目です!水の無駄遣い反対!その水はコミュニティのために使ってください!」

 

チッ、とつまらなそうに舌打ちする十六夜。黒ウサギはまだ安心できないような顔でハラハラと十六夜を監視している。

白夜叉は両者の様子を高らかに笑いながら見つめていた。

 

「そのギフトカードは、正式名称を“ラプラスの紙片”、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった”恩恵”の名称。鑑定はできずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというものじゃよ。」

「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」

「なに?」

 

俺と十六夜の言った事に眉をしかめ、白夜叉がまず逆廻のカードを覗き込む。

そしてカードに書いてある“正体不明”の文字を見て、ヤハハと笑う十六夜とは対照的に白夜叉の表情は劇的に変化した。

 

「・・・・・・いや、そんな馬鹿な。」

 

パシッと、表情を変えた白夜叉がカードを取り上げる。

真剣な眼差しでカードを見る白夜叉は、不可解とばかりに呟いた。

 

「“正体不明”だと・・・・・・?いいやありえん、全知たる“ラプラスの紙片”がエラーを起こすはずなど・・・」

「何にせよ、鑑定は出来なかったってことだろ。俺的にはこの方がありがたいさ。」

 

パシッと十六夜がカードを取り上げる。

だが、白夜叉は納得できないように怪訝な瞳で十六夜を睨む。

よっぽど見たことが信じられないらしい。

 

(そういえばこの童・・・・・・蛇神を倒したと言っていたな。種の最高位である神格保持者を人間が打倒する事はありえぬ。強大な力を持っていることは間違いないわけか・・・・・・しかし“ラプラスの紙片”ほどのギフトが正常に機能しないとはどういう・・・・・・)

(ギフトを無効化した・・・・・・?いや、まさかな。)

 

・・・・・・俺も似たような表示になっとるけど黙っとこ。コイツじゃわからんだろうし。

 

 

 

 

 

あの後考えることをやめた白夜叉に見送られ、俺達はサウザンドアイズの暖簾をくぐって店前に移動した。

 

「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい。」

 

店の前で、春日部は白夜叉に向きなおって一礼しながらそう言う。

 

「あら、駄目よ春日部さん。次に挑戦するときは対等の条件で挑むものだもの。」

「ああ。吐いた唾を飲み込んだ挙句先を越されたままなんて、格好付かねえからな。次は渾身の大舞台で挑むぜ。」

 

他の二人は、やる気に満ちた表情で白夜叉に挑発的なことを言う。この様子なら、準備を怠らなければ十分やって行けるだろう。ここに来た時の胆の据わり様とか頭の回転の速さを見ると、皆俺よりは素質も才能もありそうだし。

 

「ふふ、よかろう。楽しみにしておけ。」

 

白夜叉はそれを聞いて、にやりと笑いながら二人に返事を返した。

俺も何か言っておくか。

 

「またなんか機会があったらそんときゃよろしく。つっても数日もしたら俺はさよならバイバイだけどね。」

「むう、そうか。個人的には少し不完全燃焼だから惜しい気もするが、まあ仕方ないのう・・・・・・・・・・・・・ところで。」

 

白夜叉は微笑を浮かべるがスっと真剣な表情で逆廻達を見る。

 

「今さらだが、一つだけ聞かせてくれ。おんしらは自分達のコミュニティがどういう状況にあるか、よく理解しているか?」

「ああ、名前と旗の話か?それなら聞いたぜ。」

「なら、“魔王”と戦わねばならんことも?」

「聞いてるわよ。」

「・・・・・・・・・では、おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」

 

横目で黒ウサギがを見てみると黒ウサギの目は俺達から視線をそらしていた。

 

「そうよ。打倒魔王なんてカッコいいじゃない。」

「さっきのアレを見たうえでまだそう言えるのか。」

「勿論、むしろさっきよりもやる気が出てきたくらいだわ。」

(・・・大物なのかはたまた馬鹿か・・・)

「“カッコいい”で済む話ではないのだがの・・・・・・・・・全く、若さゆえなのか。無謀というか、勇敢というか。まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰ればわかるだろ。それでも魔王と戦う事を望むというなら止めんが………そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ。」

 

予言するように断言された耀と飛鳥は言い返そうとするが言葉が見つからないのか、それとも同じ元魔王の白夜叉の威圧感に黙ってしまう。

 

「これ以上ないくらいストレートな警告だな。変に回りくどい言い回しよりはよっぽどいいが。」

「これでも伊達に長生きしておらぬ。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬ様は、いつ見ても悲しいものだ。」

「ヤハハハ、ご忠告痛み入るぜ。だが、それを断言するのはまた今度本気のゲームをしに行った来た時にしてくれや。」

「ふふ、望むところだ。私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い。………ただし、黒ウサギをチップに賭けてもらうがの。」

「嫌です!」

「望むところだ!」

「望まないでください!」

 

黒ウサギが即答で返し、白夜叉は拗ねたように唇を尖らせた。

 

「つれない事を言うなよぅ。私のコミュニティに所属すれば生涯を遊んで暮らせると保証するぞ?三食首輪付きの個室も用意するし。」

「三食首輪付きってソレもう明らかにペット扱いですから!って、十六夜さん!『その手があったか!?』という顔しないでください!?」

「常識枠は不憫、これも世の常か・・・」

「悟ったようなことおっしゃってないで梶原さんもどうにかしてください!」

 

怒る黒ウサギに笑う逆廻、白夜叉、苦笑する俺。

久遠や春日部も、それを見て笑いながら茶々を入れる。

 

「さあ皆さん!そろそろ出発しないと日が暮れてしまいます!予定も押してますからキリキリ行きましょう!」

「やれやれ、それじゃあな白夜叉。」

「うむ、またの。」

「今回は無理を言って済みませんでした、店員さん。」

「・・・今度からはちゃんとルールを守ったうえでお越しください。」

 

一頻り騒いだ後、黒ウサギに急かされて俺達は白夜叉と無愛想な女性店員に見送られながら“サウザンドアイズ”二一〇五三八〇外門支店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

“サウザンドアイズ”の支店から一時間は歩き続けた後、“ノーネーム”の居住区画の門前に着いた。門の周辺は多少ぼろくなってはいるものの、掃除や手入れくらいは一応されているようだ。

 

「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口から更に歩かねばならないので御容赦ください。この浜辺はまだ戦いの名残がありますので………」

「戦いの名残?噂の魔王って素敵ネーミングな奴との戦いか?」

「は、はい。」

「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら。」

 

どうやら先程の一件により機嫌が悪い久遠。プライドが高い彼女からしてみれば見下された事実に気に食わなかったのだろう。

久遠の言い分に躊躇いながら門を開ける黒ウサギ。すると、門の向こうから乾いた風が吹いて砂塵が舞い、俺達の視界を遮る。

 

「っ、これは・・・・・・・・・!?」

「おいおい・・・」

 

風が落ち着いて砂塵がある程度視界から消えると―――俺達の眼前に、廃墟同然の荒れた大地がひたすら広がっていた。

 

「「・・・・・・・・・・・・・」」

 

街並みに刻まれた傷跡をみた久遠と春日部が息を呑んでいる音が聞こえる。逆廻はこの光景にスっと目を細めながら木造の廃墟に歩み寄り、ふと、しゃがみこんで囲いの残骸を手に取った。そのまま少し握り込むと残骸はあっさりと音を立てて崩れてしまった。

 

「・・・・・・・・・おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは――――今から何百年前の話だ?」

「僅か三年前でございます。」

「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化しきった町並みが三年前だと?」

 

逆廻の言う通り“ノーネーム”の街並みは何百年の時間が経過して滅んだように崩れ去っているのだ。とても三年前まで人が住んでいたとは思えない程の有様だ。

 

「・・・・・・・・・・・・・断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない。」

(・・・・・単純な力ならな。けど魔王はもとより、超常の類はそもそも自然現象や物事のありようそのものを形にしたような・・・いわゆる概念存在だ。『朽ち果てる』という現象が具現化した魔王がいると、ありえん話じゃねえ。)

 

俺は額に皺を寄せて周囲を俯瞰し、逆廻はあり得ないと言いながら、目の前の廃墟を見て額に心地よい冷や汗を流している。

久遠と春日部も廃屋をみて複雑そうに感想を述べた。

 

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない。」

「・・・・・・・・・生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて。」

 

二人の感想は逆廻よりも重く感じた。黒ウサギは廃屋から目を逸らしながら朽ちた街路を進みだす。

 

「・・・・・・・・・魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊ぶ心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ・・・・・・・・・コミュニティから、箱庭から去って行きました。」

 

黒ウサギは感情を殺した瞳で、耳を垂れ下げながら風化した街の中を進んでいく。久遠や春日部も複雑の表情でその後に続き、俺もそれに着いて行く。

 

「魔王―――か。」

「ん?」

 

逆廻のつぶやきが聞こえて、後ろを振り向く。すると不安そうな表情をする皆の中で、逆廻だけは瞳を輝かせ不敵に笑っていた。

 

「ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか………!」

(・・・『怖いもの知らず』だな、本当に。大事になる前に『上には上がいる』ってことに気がつければいいが・・・)

 

呟く逆廻にそう考えながら、黒ウサギ達の後について行った。

さらにしばらく歩いていると、廃墟を抜け、徐々に外観が整った空き家が立ち並ぶ場所に出る。俺達は水樹を設置するため貯水池を目指していると・・・

 

「あ、みなさん!水路と貯水池の準備は調ってます!」

「ご苦労さまですジン坊っちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」

 

俺達よりも先に言っていたジンと、その周りにいるコミュニティのメンバーと思われるたくさんの子供たちが先客としていた。

黒ウサギが子供達に近寄っていくとワイワイと騒ぎ出して黒ウサギの元に群がっていった。

 

「黒ウサのねーちゃんお帰り!」

「眠たいけどお掃除手伝ったよー」

「ねえねえ、新しい人達って誰!?」

「強いの!?カッコいい!?」

「YES!とても強くて可愛い人達ですよ!皆に紹介するから一列に並んでくださいね。」

 

パチン、と黒ウサギが指を鳴らすと、さっきまで黒ウサギに群がっていた子供達は綺麗に一列で並びだした。人数は二〇人程で、中には猫耳や狐耳の少年少女もいた。

 

(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)

(じ、実際目の当たりにすると想像以上に多いわ。これで六分の一ですって?)

(・・・私子供嫌いなのに大丈夫かなぁ。)

(仮にここで『俺はコミュニティに入らねえぞ』なんて言おうものなら俺は完全に悪役になるぞ。後で黒ウサギの口からしっかり説明させないとな。)

 

そんなことを考えていると、黒ウサギが俺達四人を紹介し始めた。

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さんです。ここにいらっしゃる梶原泰寛さんは・・・ちょっと事情がありまして、あくまでもお客様として迎えて下さい。」

(・・・とりあえずあたりさわりのない言い方で収めたか。)

「皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません。」

「あら、別にそんなの必要ないわよ?もっとフランクにしてくれても。」

「駄目です。それでは組織は成り立ちません。」

 

久遠の申し出を、黒ウサギが今までで一番厳しい声音で却下された。

 

「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きていく以上、避ける事が出来ない掟。子供のうちから甘やかせばこの子供達の将来の為になりません。」

「・・・・・・・・・そう。」

 

黒ウサギが有無を言わせない気迫で久遠を黙らせる。

三年間実質コミュニティを女手一つで支えてきたのだからその厳しさはだれよりもよく知ってるのだろう。

 

「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言いつける時はこの子達を使ってくださいな。みんなも、それでいいですね?」

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

二〇人程の子供達が一斉に大声で叫ぶ。

 

「ハハ、元気がいいじゃねえか。」

「だな。湿気た雰囲気よりはよっぽどいい。」

「そ、そうね。」

 

その大声に俺と逆廻は笑い、久遠と春日部は複雑そうな表情を浮かべていた。

二人に関しては時間とともに慣れる様祈っておこう。

 

「さて、自己紹介も終わりましたし!それでは水樹を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれますか?」

「あいよ。」

 

逆廻はポケットからギフトカードを取り出し、水樹の苗を発現した。黒ウサギはその水樹の苗を受け取る。

しかし、水路自体は残ってるみたいだが所々ひび割れが目立つ。

 

「大きい貯水池だね。ちょっとした湖ぐらいあるよ。」

『そやな。門を通ってからあっちこっち水路があったけど、もしあれに全部水が通ったら壮観やろうなあ。けど使ってたのは随分前になるんちゃうか?ウサ耳の姉ちゃん。』

「はいな、最後に使ったのは三年前ですよ三毛猫さん。元々は龍の瞳を水珠に加工したギフトが貯水池の台座に設置してあったのですが、それも魔王に取り上げられてしまいました。」

(龍の瞳・・・厨二心を揺さぶられるな。)

「龍の瞳?何それカッコいい超欲しい。何処に行けば手に入る?」

「さて、何処でしょう。知っていても十六夜さんには教えません。」

 

逆廻が瞳を輝かせ、黒ウサギに問いかけるが黒ウサギは適当にはぐらかす。それは妥当な判断だろう。逆廻がそんな面白いことを教えた瞬間、絶対龍がいる場所に向かうからな。これ以上この話題が不味いと思ったのか話を戻すためジンが貯水池の詳細を説明する。

 

「水路も時々は整備していたのですけど、あくまで最低限です。それにこの水樹じゃまだこの貯水池と水路を全て埋めるのは不可能でしょう。ですから居住区の水路は遮断して本拠の屋敷と別館に直通している水路だけを開けます。此方は皆で川の水を汲んできた時に時々使っていたので問題ありません。」

「あら、数kmも向こうの川から水を運ぶ方法があるの?」

 

飛鳥がふっと思った疑問を忙しい黒ウサギに代わってジンと子供達が答えた。

 

「はい。みんなと一緒にバケツを両手に持って運びました。」

「半分くらいはコケて無くなっちゃうんだけどねー」

「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外で水を汲んでいいなら、貯水池をいっぱいにしてくれるのになあ。」

「お前ら・・・大した根性だよ。」(´Д⊂ヽ

「・・・・・・・・・そう。大変なのね。」

 

飛鳥はちょっとがっかりした顔をしている。

多分もっと画期的で幻想的なものを期待していたんだろうが、そんなものがあればそもそも水樹であんなに喜ぶはずがないだろう。

 

「それでは苗のひもを解きますので十六夜さんは屋敷への水門を開けてください。」

「あいよ。」

 

十六夜が貯水池に下り、水門を開ける。

黒ウサギが苗の紐を解くと・・・

 

---ドバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ

 

「おおおお~~~」」

 

大波のような水が溢れかえり、激流になり貯水池を埋め尽くしていく。

それに関心の声を漏らしていると、肝心の水門の鍵を開けていた逆廻は驚いて叫んでいた。

 

「ちょ、少しマテやゴラァ!!流石に今日はこれ以上濡れたくないぞオイ!」

 

世界の果てで散々ずぶぬれになったらしい逆廻は、あわてて跳躍して水の届かない場所まで避難した。

 

「うわあ!この子想像以上に元気ですね。」

「そうだな。水樹の貯水量がいかほどかは知らねえけどこの分なら相当持つだろ。」

 

全く水気のなかった水路や貯水池があっという間に水で一杯になる様子は見ていて壮観だった。横に目をやると、これで水を態々ギフトゲームで獲得する手間も省けて他のことに余力を回すことができるだろうとジンも喜んでいた。

 

「・・・ところで黒ウサギ、俺たちの寝るとこはあるのか?」

 

ふと、気になったことを黒ウサギに聞く。俺は自分用のキャンピングスペースも飯の蓄えもあるからないならないで別にかまわねえけど・・・

 

「皆さんが泊まるところは、これから子供たちに案内させます。皆、よろしく頼みますよ。」

 

黒ウサギがそう言うと、子供たちの中から何人か出てきて、俺達の前に一人ずつ立った。

俺の担当は、狐のような耳と尻尾を持つ少女になったみたいだ。

 

「リリと申します。よろしくおねがいします。」

「こんにちわリリちゃん、梶原泰寛だ。それじゃあさっそくだけど案内よろしく。」

「はい、こちらへどうぞ。」

 

リリちゃんに案内され、俺達はノーネームの屋敷に入った後それぞれ別れて自分たちの部屋に送られる。

「ご飯とお風呂の用意をしますから、しばらくしたら御呼びしますね。」

「・・・飯はともかく風呂も使えるのか?」

「はい、今までは水がもったいなくてほとんど使う機会が無かったんですけど、今回皆さんが水樹の苗を持ってきてくれたおかげで大浴場が使えるようになりました!これから毎日皆で入れますよ!」

「そうか。」

 

事情が事情とはいえさすがにここまで至れり尽くせりだと気が退けるな・・・大浴場か・・・使う水の量とそれに見合う熱量を考えると・・・いやでもこいつらの仕事を勝手にとるのもそれはそれでだめだろうし・・・

 

「(・・・よし、明日黒ウサギに相談しよう。)それじゃあ準備ができるまで適当に寛いでるから、頑張りなよ。」

「はい、ゆっくりしていてください。」

 

そう言ってリリちゃんは、扉を閉じてどこかに行った。

 

 

 

その後は割り当てられた部屋でPSPのアーマード・コアをやってる最中に爆発音が聞こえたり、その原因を調べに行ったら侵入者らしき連中を逆廻が対処してたから放っておいたり、コミュニティで泊まっている間に出来そうな仕事を考えたり、風呂場を無重力にして遊んだり風呂焚きを俺が引き受けたりしながら、夜が更けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

===翌日===

 

「ふぁ~~~~、よく寝た・・・」

 

いつもの習慣通り、七時にばっちり目が覚めた。

窓を開けて外を見ると、太陽はとっくに地平線から顔を出している。

 

「さてと、行くか。」

 

服を着替えて、外に出てから軽く柔軟と準備運動をして、昨日行った食堂まで歩いていく。

食堂の中に入ると、子供たちがせっせと食事の用意をしている姿があった。

 

「あ!おはようございます!」

「おはよう。」

 

様子を眺めていると、何人かがこっちに気が付いて挨拶をしてくれた。

 

「もう少し待っていてくださいね、すぐに用意しますから。」

「ああ、楽しみにさせてもらうよ。」

 

子供に言われ、隅の方で待機しておく。

 

「{ガチャ}あら、もう起きてたのね。」

「おはよう。」

「おお、おはよう。」

 

飯の用意が大体終わったところで、扉を開けて逆廻、久遠、春日部、黒ウサギ、ジンが食堂に入って来た。

 

「おはようございます、梶原さん。昨日はゆっくり眠れましたか?」

「ああ、なかなか寝心地の良いベッドだったよ。」

「それでは皆さん、好きな席に座って頂きましょう。」

「ええ、そうさせてもらうわ。」

「どれもおいしそう、楽しみ。」

「そうだな。」

 

その後は席について皆各々のペースで朝食を食べ、お腹がこなれてきたあたりで本日のギフトゲームのために屋敷を出た。

ちなみに、春日部がうちの父さん並の大食いだったことに驚いたのはここだけの話だったりする。

 

 

 

 

 

 

===箱庭二一〇五三八〇外門。ペリベット通り・噴水広場===

 

 

「あー!昨日のお客さん!もしや今から決闘ですか!?」

 

“フォレス・ガロ”のギフトゲームを挑むためにコミュニティの居住区に訪れようとする道中、昨日の“六本傷”の旗が掲げられている昨日のカフェテラスで俺達のオーダーを取っていた猫耳店員が近寄ってきて、俺達に一礼した。

 

「ボスからもエールを頼まれました!ウチのコミュニティも連中の悪行にはアッタマきてたところです!この二一〇五三八〇外門の自由区画・居住区画・舞台区画の全てでアイツらやりたい放題でしたもの!二度と不義理な真似が出来ないようにしてやってください!」

 

憤慨していると言わんばかりにブンブンと両手を振り回しながら、店員は応援してくれた。

心の中で苦笑していると、久遠が強く頷き返す。

 

「ええ、そのつもりよ。あんな外道ごときに後れは取らないわ。」

「おお!心強い御返事です!」

 

俺達の言葉に満面の笑みで返す猫耳店員。しかし急に思い出したように、声を潜めて俺達に喋りかけてくる。

 

「実は皆さんにお話があります。“フォレス・ガロ”の連中、領地の舞台区画ではなく、居住区画でゲームを行うらしいんですよ。」

「居住区画で、ですか?」

 

それに黒ウサギが不思議そうに尋ね返した。その言葉を知らない久遠は不思議そうに小首を傾げて尋ねる。

 

「黒ウサギ。舞台区画とはなにかしら?」

「ギフトゲームを行う為の専用区画でございますよ。」

「・・・昨日白夜叉が俺達を飛ばしたあのゲーム盤みたいなものか?」

「YES。その通りです、梶原さん。ちなみに他にも、商業や娯楽のための自由区画や、寝食や菜園などがある場所を居住区画と言います。」

「へぇ~。」

「しかもガルドの奴、なぜか傘下に置いているコミュニティや同士を全員ほっぽり出してしまったようなんです。」

「・・・・・それは確かにおかしいわね。」

「でしょ、でしょ。何のゲームか知りませんがとにかく気を付けてください。」

「御忠告感謝します。」

 

猫耳の店員に礼を言い、俺達は再びギフトゲームの行われる場所まで歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、皆さん!見えてきました・・・けど・・・」

 

暫く歩いてようやく目的地が見えるようになり・・・・・・なぜか、居住区のはずの場所が森のように木々が鬱蒼と生い茂っていたことに黒ウサギは目を丸くしていた。他のメンバーも同様の反応を見せている。

とりあえず門を通って中に入り、あたりを見渡すと、奥の方に見える一軒の屋敷を中心に森が広がっていることが分かる。

 

「・・・ジャングル?」

「虎の住むコミュニティだし、おかしくないだろ。」

「いえ、フォレス・ガロの本拠は普通の居住区だったはず。しかしこれはいったい・・・」

 

どう考えても何かあったとしか思えねえな、この状況。

 

「うにゃぁあああああああ!?『な、なんじゃこりゃあああああああ!?』」

「三毛猫!」

「・・・どうなってんだ?」

 

春日部の三毛猫が、周囲に生えているのと同じと思われる木の根に巻き付かれ、宙に浮いていた。

春日部が猫を助けるために近寄る。その後を追って木に近づいたジンは、気になることがあるのか木にそっと手を伸ばした。

 

(鬼・・・これは鬼種化の恩恵。まさか、彼女が・・・?)

「ジン君、ここにギアスロールがあるわ。」

 

何かに気が付いた様子のジンを、久遠が呼ぶ。久遠の方を見ると、門の近くの柱にギアスローrが張られていて、俺達はその内容を確認するためにそれに近寄った。

 

 

『ギフトゲーム名“ハンティング”

 

 ・プレイヤー一覧 久遠 飛鳥

          春日部 耀

          ジン=ラッセル

          

 

 ・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐。

 

 ・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は“契約ギアス”によってガルド=ガスパーを傷つける事は不可能。

 

 ・敗北条件  降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 ・指定武具  ゲームテリトリーにて配置。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

                               “フォレス・ガロ”印』

 

 

「ガルドの身をクリア条件に・・・指定武具で打倒!?」

「こ、これはまずいです。」

 

ジンと黒ウサギから悲鳴のような声が聞こえてくる。

久遠はそれを聞いて心配そうに問うた。

 

「このゲームはそんなに危険なの?」

「いえ、ゲーム自体は単純ですが問題はこのルールです。このルールだと“恩恵”ではなく“契約”で身を守られているので、飛鳥さんのギフトで彼を操ることも耀さんのギフトで傷付ける事も出来ないことになります。」

「へえ?つまり出来レースのはずが一転、五分と五分のゲームになっちまったってことか。先にルール内容まで決めておくべきだったなぁ、御チビ様?」

「・・・・・・」

「指定武具ということは、何らかの形で指示されている、と思えばいいのね?」

「YES、勿論です。」

「なら大丈夫よ。あの外道を倒すなら、この程度のハンデで丁度良いもの。」

(フラグ乙・・・というのはやめとくか。)

「し、しかし・・・」

「どっちにしても弱音を吐いていい段階じゃねえのは確かだ。まあ勝負として成り立ってる以上勝ちの目が無い訳じゃないんだし、三人のギフトの効果があいつ自身に対して無意味だということと、あいつの身体能力をちゃんと視野に入れて立ちまわっていれば何とかならないこともないだろうよ。」

「そ、そうですよ。武具が指定である以上何かしらのヒントがあるはずです。もしなければフォレス・ガロの反則負けですから。」

「大丈夫。黒ウサギもこう言ってるし私も頑張る。だから自分だけを責めないで。」

「耀さん・・・」

 

黒ウサギ、春日部、久遠の言葉に、暗い雰囲気を出していたジンの表情に明るさが少し戻る。

そこに、逆廻が近寄ってジンに何かを言った。

 

「{ボソッ}この勝負に勝たないと、俺の作戦は成り立たない。予定に変更はないぜ。」

「・・・はい!」

 

ジンは覚悟を決めたように、逆廻の言葉に頷く。

その後、ジン、久遠、春日部の三人は俺達と別れ、ガルドを打倒すべく森の中へと進んでいった。

 

 

気をつけろよ、三人とも・・・


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