デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

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番外その四

「おいおい、大丈夫なのかこれ・・・」

 

春日部、久遠、ジンの三人が森の中へ向かってしばらく時間が経過した頃・・・屋敷のある方角から赤い光と尋常じゃないほど立ち昇っている黒煙が見えていた。

どう見ても火事です本当に有り難うございます。

 

「黒ウサギ、ゲームは今のところどうなってる?」

「・・・まだ勝敗はついていないようです。」

 

黒ウサギは明らかに心配そうな顔をしながら、自身のジャッジマスターとしてのルールに抵触しない程度の返事をしてくれる。

俺は「そうか」と短く返し、再び赤い光を放つ屋敷の方へと向き直って事の決着を待つ。

 

 

 

「・・・・・・・・・{ピコーン}!やりましたよお二人とも!坊ちゃん達がガルドに勝利ました!」

 

それからさらに時間を置いた後、黒ウサギが満面の笑みを浮かべて俺達にそう言った。

逆廻はそれを聞いてニヒルに笑い、俺も無事に勝てたことに安堵する。

 

「となれば、さっさとみんなを迎えに行こう。ひょっとしたら怪我人の一人や二人位いるかもしれないしな。」

「そうですね、まずは皆さんの無事を確認しに行きましょう!」

 

そう言って、俺達は黒ウサギの耳を頼りに三人を探しに行く。

 

「こっちだ黒ウサギ!急いで!」

「ジン坊ちゃん!と耀さん!?」

 

目当ての内、ジンと春日部はすぐに見つかった。

二人とも火事の起こってる屋敷から少し離れた、そこそこ空けた場所にいて、よく見ると春日部が右腕から血を流して倒れているのと、ジンが春日部を介抱しているのが分かる。

俺は黒ウサギと逆廻とともに駆けつけながら、倉庫からクレイジー・ダイヤモンドを取り出して装備する。

 

「ニャー!『お嬢!お気を確かに!』」

 

春日部の三毛猫が、心配そうに声を出す。

俺は傷口を確認して、出来るだけ不特定多数に見られないよう地下からクレイジー・ダイヤモンドを先行させて、地面の下から春日部の傷に手を当てて彼女の傷を治す。

これであとは感染症の確認と、必要なら輸血が出来れば問題はないだろう。

 

「黒ウサギ、早く彼女を手当てしないと・・・」

 

「分かっています。皆さん!今すぐ耀さんをコミュニティの工房に運びます。あそこなら、治療用のギフトがそろっていますから。」

「あいよ、任せた。」

 

俺の返事と逆廻の合槌を確認した黒ウサギは、春日部を抱えて猛スピードでその場を離れて行った。

 

 

「・・・・・・ん?」

 

ふと、周囲を見渡すと、火の気が収まった屋敷や、周囲の森から人影がちらほらと現れた。恐らくガルドの下についていた、或いはつかざるを得なかった連中だろう。

 

 

「ガルドが負けた・・・」

「フォレス・ガロは・・・これでお終いだ・・・」

 

その人たちは屋敷の様子を見て事の次第を理解したようで、良く聞こえないがこれからどうなるのか等のことを話し始めた。

まあこの世界、面子や誇りがかなり重要だから、その象徴である名と旗印の次の行先がノーネームとなればこうなるのは仕方がないだろう。

多分この光景も、すぐに真逆のものになるだろうけど。

 

「・・・・・・・・・・僕は結局、何も出来ずじまいでした。」

 

その光景を見ていると、ジンは思いつめた様にそう呟いた。

 

「でも、ゲームには勝った。春日部が助かったのも、お前がいたからだろう?」

「けれど・・・」

「・・・得手不得手なんて生きていれば誰でも嫌でも抱えてるもんだ。本当に悔やんでるならいつまでも引きずってないでこれからのことに目を向けた方がいい。」

「・・・・・・・・」

「どうするんだ?昨日の作戦、オチビさまが嫌なら止めるですよ?」

 

未だに迷いを見せているジンに逆廻がそう言うと、ジンは口をつぐみ、周りに目を向ける。

そしてガルドの屋敷や俺達の近くにいるフォレス・ガロだった連中を見ると、力強い眼差しで逆廻に向き直って・・・

 

「いえ、やります。僕の名前が全面でてていれば、万が一の時、皆の被害も軽減できるかもしれません。」

 

はっきりとそう言った。

まだまだ後ろ向きな感じが否めないが、上に立つ者としてはこれ以上ないくらい上出来だと言える。

 

「あっそ。」グシグシ

「ふぇ!?え、えっと・・・」

 

逆廻はそれを聞いてニッと笑い、ジンの頭を乱暴に撫でた後肩を組んで元フォレス・ガロのメンバーが集まっている場所に移動する。

 

「今よりフォレス・ガロによって奪われていた誇りを、このジン=ラッセルが返還する。」

「「「「「「「「え!?」」」」」」」」」

 

逆廻のその宣言に、悲壮感を漂わせていた連中がすべて驚愕し、『コイツは今何て言ったんだ』と言わんばかりに自分たちの前に立った逆廻とジンに目を向けた。

 

「聞こえなかったのか?お前の名と旗印を、ガルドを倒したジン=ラッセルが返還すると言ってるんだ。」

 

彼らが自分の耳を疑っているのを見て、逆廻が念を押すようにもう一度そう言うと、彼らはようやく言ってる意味を理解し始め、その場で再び騒ぎ始めた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「はい、どうぞ。」

「は、はい・・・み、皆!俺達の旗が戻ってきたぞ!」

「ああ!俺達!これで自由なんだ!」

「あの、我々の旗は・・・」

「ちょっと待ってください・・・これですか?」

「は、はい!それで間違いありません!・・・・・・・ああ、俺達の旗が・・・本当に戻ってきたんだ!はは、ははは!」

「他の皆さんも、落ち着いて並んでください。コミュニティごとに必ず返していきますから・・・」

 

それから少々時間を置き、遅れて戻ってきた久遠と合流した後、別の場所に保管されていたという旗印を手にしたジンから、それぞれのコミュニティのメンバーへと一つずつ旗印が返還されていく。

自分たちの旗印を返還されたコミュニティの連中はそれぞれ綺麗に折り畳まれた旗を広げ、自分たちの名と誇りがその手に戻ってきたことを、ある者は隣の仲間と抱き合い、肩を組み、あるものは噎び泣いて喜んでいた。

写真にでも撮っておきたいな、なんてことを考えながら、俺は口元を綻ばせてそれを隅の方で眺める。

 

「男同士のあつぅ~~い話ね?随分面白いことを考えてるのね。」

「さて?なんのことだろうな?」

 

返還の様子を見ていた久遠が意味深にそう言うと、逆廻は悪戯の成功した子供の様に笑いながら誤魔化し、返還が終わってからもコミュニティの連中から礼を言われているジンの隣へと歩いていく。

 

「皆に頼みたいことがある。」

 

「知っての通り、俺達のコミュニティは名も旗印もないノーネームだ。だが、・・・どうか心にとどめておいてほしい。この、ジン=ラッセルを、俺達が、打倒魔王を掲げたコミュニティであることを。」

 

逆廻の発言により、他のコミュニティのメンバーの目がジンに集中する。ジンは少しだけ戸惑う様子を見せた後・・・

 

「あ、あの・・・・・・・・・・ジン=ラッセルです。皆さん、よろしくお願いします!」

 

誰の耳にも届くようなはっきりとした声で、ノーネームのリーダーとして名乗りを上げた。

 

 

 

 

「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ―――――――――――、疲れた疲れた。」

 

逆廻とジンによるコミュニティの宣伝が終わって、俺達はノーネームの屋敷に戻ってきた。長時間立ちっぱなしだったおかげで今日は足がパンパンだ。早い所ベッドに横たわりたい。

 

「端の方で見てただけなのによく言うわ。」

「それもこれも全て黒ウサギって奴のせいなんだ。彼女には一刻も早く帰宅準備を整えてもらわねば・・・」

 

---チラッ

 

「一刻も早く帰宅準備を整えてもらわねば!!!」( ゚д゚ )

「ね、念を押されなくても分かっておりますよ!もう。」

「あ、あはは・・・皆さん今日はお疲れ様でした。また明日から忙しくなると思いますので、今日はゆっくり休んでいてくださいね。」

「是非ともそうさせてもらうわ。」

「俺は春日部の様子を見てから自分の部屋で寝てるよ。黒ウサギ、工房はどっちにあるんだ?」

「工房はそこの通路をずっと行った先にある扉の向こうです。春日部さんは左側の一番手前にある部屋で療養中です。」

「そうか、ありがとう。」

「にゃ~~~~『オイラも一緒に連れてってくれよ兄ちゃん。』」

「ぬ?お前さんも来るか?」

 

足元に来て泣いている三毛猫にそう言うと、三毛猫は首を縦に振る。

 

「よしよし、それじゃあ一緒に行くか・・・それじゃあそう言うことだから、なんかあったら言ってくれや。出来る範囲で手伝うから。」

「「へぇ、出来る範囲で。」」キラーン

「一言付け足しておこう。『俺が承諾』出来る範囲で、だ。」

「「チッ」」

「油断も隙もないお前らの悪戯魂に草不可避。」

 

釘を刺されて明らかに聞こえるように舌打ちをした二人にやれやれと思いながら、俺は三毛猫とともに春日部のいる工房の方へと歩く。

 

 

 

 

 

「ここか・・・入るぞ。」

「ンニャァ~~~ン。」

「良し・・・{コンコンコン}ノックしてもしも~し。春日部さーん、起きてまぁ~すか~~~?」

 

返事は期待していないが、一応扉をノックしてみる。

・・・返事は無し、入っても大丈夫か?

 

「{ボソボソ}4・2・0しまぁーす。春日部さんお元気ですか?」

「ニャァ~~~~。」

 

部屋の中に入ると、ベッドに春日部が寝かされている姿が目に入った。

ベッドの隣には、最近まで使われていたと思われる治療用の機材らしきものがある。

 

「ウニャァン『お嬢!大丈夫ですかい!?』」

「ちょ、おま、寝てんだから静かにしろよ・・・」

「う、うぅ~~ん・・・」

 

三毛猫が泣きながらベッドによじ登り、春日部の様子を見に行くと、それに気が付いたのか春日部が呻き声を出しながら閉じられていた瞼を薄く開け始める。

 

「・・・三毛・・・猫。それに・・・やす・・・ひろ?」

「ニャァ――ン『おじょお~~~~!!無事でよかった~~~~!!』」

「やあやあどうも。大分大怪我を負ってたみたいだが調子はどうよ。」

 

彼女の横に移動しながら、具合を窺う。掛け布団からは怪我をしたはずの、しかし異常の全く見られない右腕が出ていた。

 

「・・・大、丈夫。ちょっと・・・血の気が足りない・・・気がするけど・・・それだけ・・・凄いね、ギフトって・・・あの怪我が・・・こんなに短時間で・・・治るなんて・・・」

「(言わぬが花言わぬが花・・・)そうだな・・・まあなにはともあれ大事にならなくてよかったよ。」

「うん・・・ありがとう・・・」

 

笑顔でお礼を言う春日部に、俺も笑顔で返す。

うん、ちゃんと休めば明日中には復帰出来るな。

 

「何か希望はあるか?欲しいものがあったら持ってきてもいいが?」

「・・・それじゃあ・・・お水持ってきて・・・ちょっと、喉渇いたから・・・」

「あいよ、水ね・・・」

 

俺は倉庫から折り畳まれた紙を二枚取り出す。紙にはそれぞれ、『紙コップ』『ミネラルウォーター』と書かれている。

 

「?なに、それ。」

「ん?これはだな・・・・・・こうするもんだ。」

 

俺はベッドの傍にある机に紙を置き、それぞれ丁寧に広げた。

 

「え・・・」

 

広げた紙の内側から紙コップのセットとミネラルウォーターの入ったペットボトルがそれぞれ出てきた事に、春日部はまだショボショボしてる目を見開いて驚く。

 

「今の・・・どうやったの?」

 

興味がわいたのか、春日部は質問しながら身を起こした。

 

「おいおい、まだ寝てろ・・・ブフォオ?!?」

 

なんでだあああああ!!なんで上半身裸のまんまで寝かされてんだよ!ああ、治療してたんだから当然かああああああああばばばばばばばばばばば!!!

 

「・・・?どうしたの?」

「な、なななななななんでもない!!いいか!これ飲んだらちゃんと休むんだぞ!!絶対だぞ!絶対だからな!!」

 

俺は返事を聞かず、それだけ言ってさっさと工房の外に出る。

あああ焦った!!めちゃくちゃ焦った!!この光景をあいつらに見られてたらどうなってたことか!あああ焦った!!

 

 

 

 

 

「・・・どうしたのかな、泰寛・・・」

「ニャ~~『あの兄ちゃんも一人の雄だったってことや・・・』」

「?何の話?」

「ウニャ~~ン『お嬢、自分の姿をよく見てみ。』」

「私?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

---カァ―――――――ッ

 

 

 

 

 

 

「・・・そろそろ、自分の部屋に戻るか。」

(いい加減足が痛くなってきた・・・部屋に帰ったらマッサージをしよう。)

本日の疲れを取るため、俺はご飯と風呂の準備ができる前に割り当てられた部屋に仮眠をとりに行く。

 

 

 

 

 

 

---ドォォォオオオオオオオオオオオオンッ

 

 

「ファ!?!」

 

部屋の前までたどり着いた直後、屋敷全体に馬鹿でかい破砕音が鳴り響く。

 

「なんだ今の・・・」

 

確かあの方向は談話室だったはずだ。

・・・何か大事が起こったのかと思い、とりあえず音のした方向に向かう。

 

「えっと確かこっちに・・・{タタタタタッ}あ!」

 

廊下を走っていると、黒ウサギやジン、久遠がさっきの音を聞いたのか走っているのが見えた。

その後に着いて行き、三人が談話室の前まで行って扉を開けると・・・

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

談話室の中に凶悪な笑みを浮かべた逆廻と、それと相対する金髪の幼女がいた。

幼女の背後には、外の光景が見えるほどぽっかり空いた壁の穴と、そこから入って来たと思われる木の根がある。どう見ても招かざる客だろう・・・

 

---サッ

 

「!駄目です十六夜さん!」

(ぬ?)

 

殴りかかろうと構えた逆廻を、なぜか黒ウサギが止める。

知り合いなのか?

 

「邪魔するな黒ウサギ!」

「違います!その方が仲間のレティシア様なのです!」

「なに?」

 

黒ウサギの言葉に、全員の目が幼女の方に注がれる。

幼女はさっきまでの只ならない雰囲気とは一転、何か申し訳のなさそうな気まずい表情になった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

一端その場を軽く掃除した後、俺達は幼女を含めて腰を落ち着け、黒ウサギから彼女についての説明を受けた。

とは言っても俺以外は話だけは聞いていたようだが。仲間外れ良くない。え?俺は仲間じゃないって?仰る通りです。

 

「そうか、アンタが元魔王の・・・」

「YES!箱庭の騎士と称される、希少な吸血鬼の純血。それがレティシア様なのです!」

 

黒ウサギは誇らしげに、改めて彼女の紹介をする。

 

「止せ黒ウサギ、今は他人に所有される身、単なる物にすぎん。」

 

しかしそんな彼女とは裏腹に、レティシアはその方が気に全く合わないほど覇気のない声でそう答える。

話によると彼女は、昔ノーネームが魔王に負けた時に人的資源として魔王に連れ去られ、その後流れに流れた結果、今はペルセウスというサウザンドアイズ傘下のコミュニティの奴隷として今に至っているらしい。

何故そんな彼女が今ここにいるのかは、主人が許可を出したのか、はたまた勝手に抜け出してきたのか甚だ疑問だが、そんな境遇ならこの覇気の無さも納得である。

 

「そんなことありませんよ!」

 

黒ウサギはそんなレティシアを心苦しく思ってか、精一杯の表情でそう言う。

 

「でも、会えて良かった・・・」

 

一方人は、レティシアの無事が確認できたのが嬉しかったようだ。いくらか安堵している。

 

「・・・・・・すまない・・・君には合わせる顔が無かった・・・」

「そんなこと・・・」

「一ついいかしら?」

 

ジンが言葉に詰まったところで、久遠が会話に入ってくる。

 

「仲間のはずの貴方が、なぜガルドに手を貸したのかしら、仲間の一人が怪我をしたわ、私には、理由を聞く権利があるわ。」

「貴方方の力量を確かめたかったのだ。このコミュニティを託すに値するのかどうか・・・負傷した彼女には心からお見舞い申し上げる。だが、貴方方のギフトはまだ青い果実、任せるにはまだ荷が重すぎる・・・」

「っ・・・」

 

物言いたげにレティシアを睨み付ける久遠だが、何か思う所もあるのか口には出さなかったようだ。

 

「そもそも私がこの階層に来たのは、このコミュニティを解散するよう黒ウサギを説得するためだった・・・ノーネームからのコミュニティ再建は茨の道だ、これ以上ジンに苦労は掛けられない。だがその矢先、貴方方が召喚されたという噂を聞いた。」

「そこでまずは俺達の力量を見極め、見込みが無ければそれを元に説得するつもりだったってことか。」

 

逆廻が納得した様に言うと、レティシアは首を縦に振る。

 

「そうだ。もっとも呼び出されたものがみんな其処の彼の様に強ければ、文句はなかったんだがな。」

「俺?」

「ああ、君はあの白夜叉と真っ向から戦って一本取れたのだろう?彼女はこの四桁街門で最強の存在だ。それこそ名のあるコミュニティが総出でかかっても、風前の灯の如く蹴散らされてしまうほどに彼女の力は突出している。そんな彼女から例え一回でも戦って勝ちを拾い、こうして何事もなく振舞っていられるということ・・・それは君がまぎれもなく常軌を逸した存在だということを如実に示している。」

 

やめてええええええ!!そんなに持ち上げないでええええええ!!なんかいろいろむず痒くてスッゴイ恥ずかしいから!!俺そっち方面で普通に褒められるの慣れてないから!!あと逆廻が滅茶苦茶ウズウズしながらこっち見てるから!!

大体あれお互いに手抜いてたようなもんだし・・・ん?なんだ逆廻、後で表出ようぜってやるわきゃねぇえだろおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

「なんでそんなことを知ってるのかはさておき・・・俺はここには・・・」

「それも既に知っているよ・・・私達が不甲斐無いせいで、君にはすまないことをした、ここにいない者たちの分も含めて心から非礼を詫びよう。だからせめて、まだ分かっていない其処の少年を見極めたかったのだが・・・・・・あれだけ派手にジンの名前を売られては、見極めたところでもう解散もできない・・・」

「でも、貴方が帰ってくれば状況も変わるのでしょう?」

「そ、そうですよ!今度のギフトゲームに勝てば、レティシア様は堂々とここに戻れます!」

 

久遠と黒ウサギがそう言うと、レティシアは諦観を漂わせながら首を横に振る。

 

「それは・・・もう無理だ。ペルセウスのリーダーは、私を賞品としたギフトゲームを中止した。」

 

レティシアのその言葉に、黒ウサギとジンが目に見えて驚いた。

 

「ど、どういうことなんですかそれは!?」

「・・・・・・ここに来る前に、私を買いたいというものがペルセウスに来てな、その時の話し合いで私に巨額の値が付いたそうだ。ゆえに、ギフトゲームは中止になったのだよ。」

 

その答えに、ジンと黒ウサギは唖然とする。

結果的に、仲間の一人を取り戻すチャンスが失われようとしているのだ。こうなるのは当然だろう。

 

「このままここに匿うことは出来ないのかしら?」

「無理な相談だ。私がここに来ていることくらい、知っているだろう。下手をすれば、サウザンドアイズ傘下の全てのコミュニティが敵に回ることになる。」

 

その返答に、ジン、黒ウサギ、久遠の顔が曇る。

 

「なるほど、自分がここに戻れないことがはっきりとしていたから急いでいたのか。」

 

逆廻は納得がいったように言うと、その座っていた椅子から立ち上がる。

 

「だったらさっさと要件を済ませちまおうぜ。その身で試させてやるよ、なあ───元・魔王様?」

 

不敵な笑みを浮かべながら、出会った時と変わらない見下すような態度で彼はレティシアに言う。

 

「・・・・・・ふふふ。ああ、やろうか少年。」

 

それを聞いたレティシアは一瞬固まっていたが、彼の返答が気に入ったのか、ここに来てから初めての笑顔を見せてそれに承諾した。

 

 

 

 

 

 

その後俺達は屋敷の庭に場所を移した。

互いに距離を取って向かい合う逆廻とレティシアを、離れた所から俺達はじっと見守っている。

 

「ルールは簡単だ。互いにランスを投擲し合い、受け止められなければ負けだ。」

 

彼女はルールの説明をした後、懐から金と紅と黒で彩られたギフトカードを取り出し、更にその中から長柄の槍を取り出した。

 

「いいねぇ、シンプルイズベストだ!」

「では、私から行くぞ。」

 

逆廻の了承を確認した彼女は背中から黒い翼を出して空に舞い上がり、ランスに赤黒いオーラの様なものを纏わせながら力を溜めていく。

 

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!ふんっ!!!」

 

そして力が最高潮に達した瞬間、彼女は一切の手加減なく逆廻に向けてランスを投げつけた。

普通なら間違いなく、触れただけでミンチにされるだろう。

 

「しゃらくせぇえ!!」

 

が、そう思えていたのもそこまでで、十六夜が向かってくる槍をただ殴りつけただけで槍は粉々になり、それが逆に散弾の様にレティシアに向かっていく。

俺は生身でそれを成し得た逆廻の身体能力に、つい呆気にとられる。

そして同じく十六夜の力に暫し呆然としたレティシアは回避行動をするのが遅れてしまい、覚悟を決めたのか目を瞑っていた。

 

---ダンッ ガバッ

 

「黒ウサギ!?」

しかし、槍が返された直後に黒ウサギが猛スピードでレティシアに飛びかかり、その場から動かしたことでレティシアは難を逃れた。

 

「レティシア様、少し失礼します・・・」

「な、何を・・・」

 

黒ウサギは彼女を抱えながら着地すると、彼女の懐からギフトカードを取り出し・・・それを見てワナワナと肩を震わせた。

 

「ギフトネーム“純潔の吸血姫(ロード・オブ・ヴァンパイア)”・・・・・・・・・・・・やはり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、あれだけあったギフトが・・・神格が残っていない。」

「くっ……」

「ハッ。どうりで歯ごたえが無いわけだ。魔王の力を味わえると思ったのによ。」

 

十六夜が期待外れだと不機嫌そうに言う。

 

「レティシア様…貴女は鬼種の純潔と神格の両方を備えていて“魔王”と自称するほどの力を持っていたはず。それなのになぜ……」

「それは……」

 

レティシアは何か言おうとしたが、躊躇うようにして俯く。何か言いたくない理由があるのだろうか、いずれにしても場に気まずい雰囲気が流れる。

 

 

 

 

 

---カッ!!

 

「・・・ん?今なんか・・・はぁ?!」

 

答えが返るのを待っていると、視界の隅で何かが光る。光った方向に目を向けると、遠方から褐色の光が猛スピードで俺達に近づいてきていた。

皆も一瞬遅いが、それに気が付く。

 

「(逆廻達は問題ない、となるとこいつらか!)逃げろお前ら!!二人ともチョイ失礼!」

「え?うわぁ!?」

「きゃ!?ちょっと、なにするの・・・」

 

俺は背後と屋敷の前にワープゲートを開き、光の照射元を目で追いながら側にいるジンと久遠を脇に抱えて全力で飛び込む。

 

「よっと、なにがどうなってんだ?」

「ちょっと!降ろしなさいよ!」

「あー悪い悪い。よいしょっと。」

 

ワープゲートを抜けた後、久遠にどやされて俺は二人を下し、さっきまで自分たちがいた所を見る。

光の柱は今のところ消えていて、逆廻、黒ウサギ、レティシアの三人は見たところちゃんと躱せていたようだ。

 

「今のは一体なんだったの?光の柱みたいなのが見えたのだけれど・・・」

「あの光・・・恐らくゴーゴンの威光です!気を付けてください!あれに触ると石にされてしまいます!」

「なにそれ怖い。とりあえず招かざる客が来てるってことでいいんだな。」

 

俺は倉庫からウェザー・リポート、マンハッタン・トランスファー、キャッチ・ザ・レインボー、キング・クリムゾンを取り出して装備する。

 

「あ、貴方大丈夫なの?今円盤みたいなのが頭に・・・」

「静かに!・・・そこだぁ!」

 

レティシアに向かういくつかの不自然な気流を読み取り、ウェザーを使ってその気流に強力な暴風を叩き付ける。

 

「「「がっ?!」」」

「「ぐはぁっ!」」

 

暴風の直後、不自然な気流の中から急に5人ほどの古代の戦士みたいな恰好をした男が姿を現して庭に落ちた。やっぱり身を隠していたのか、知り合いが使える空間跳躍魔法と似たようなのかとも思ったけど光の根本にはそんな様子はなかったし。

 

「ど、どういうこと!?何もない所から人が出てきたように見えたけど!」

「・・・いえ、飛鳥さん、あれは恐らく透明になれるギフトで身を隠していたんです。多分今の強風でギフトの効果が解けて、こうして姿を現したんでしょう。」

 

「其処の三人!こいつと似たような奴がそっちの方向から飛んできてる!数は六!うち一人は右手に首みたいなもんを持ってる!!」

 

動揺する久遠とジンの的確な説明を聞きながら、俺は離れたところにいる三人に指示する。

指示を聞いた全員が俺の指差した方向を見ると、何もないように見える夜の空にさっきの連中と同じ格好をした男たちがいきなり姿を現した。地面に落ちた連中は、今出てきた連中の元に戻っていく。

どうやら全員の靴からは光る翼が生えていて、彼らはそれを使って空を飛んでいるらしい。

ペルセウスの英雄譚でああいう靴があるというのを聞いたことはあるが・・・そうか、あれがペルセウスのコミュニティか。

 

「行きましょう二人とも!ここでじっとしてても始まらないわ。」

「え?いやあのむしろ俺達が行く方が反って・・・」

「何か言ったかしら?」ニッコリ

「アッハイナンデモゴザイマセン。」

 

面倒くさいと思いながら、とりあえず三人とペルセウスのいる場所に駆けていく。

ある程度の距離まで近づいていくと、なにやら物言いたげなレティシアをそっちのけで、黒ウサギとペルセウスのメンバーが口論をしているのが分かる。

 

「その吸血鬼は我々の所有物だ!部外者は口を挟まず、さっさとそいつを引き渡せばいい!」

「ここは我らの本拠敷地内です!無断で侵入した挙句あのようなギフトまで使っておいて、非礼を詫びる一言もないというのですか!」

「ハッ、笑わせるな。お前たちの様な“名無し”風情にまで礼を尽くしていては、我らの旗に傷がつくわ。」

(うわぁ~~、なんてうっとおしい上から目線・・・ん!?)

 

首を持ったやつが黒ウサギの要求に罵倒で返し、取り巻きの連中がそれに便乗して嘲笑していると、黒ウサギの髪がここに来たばかりの時の様な緋色に変化しながら逆立っていく。

同時に、彼女から尋常じゃないほどの時と威圧感も放たれていく。

 

「ありえない…ええ、ありえないのですよ。天真爛漫にして温厚篤実、健診の象徴とまで謳われた“月の兎”をこれほどまで怒らせるなんて…!」

 

彼女は見るからに怒りに震えていた。それもただの怒りではなく、文字通り怒髪が天を突く勢いで彼女は怒っている。

 

「いでよ、インドラの槍・・・!!」

 

彼女が右腕を掲げると、次の瞬間右手に落雷が落ちるとともに輝く槍が掲げられた。

 

「そ、それは……まさかインドラの槍!?そ、そんな馬鹿な!どうせレプリカだ!」

「その目で見極められないなら───その身で確かめるがいいでしょう!」

 

黒ウサギは槍を構え、男達に撃ち出そうとすると大きく振り被る。

そして気力を十分に溜めた瞬間―――――

 

「てい。」

「フギャ!?」

 

逆廻が黒ウサギの耳を引っ張ったせいで、インドラの槍は黒ウサギの手からすっぽぬけた。槍はそのままあらぬ方向へと推進し続け・・・天幕にぶち当たって大爆発を起こした。

さすが箱庭の貴族ってか、持ってるギフトも伊達じゃねえな。

あ、あいつら透明になって逃げだした。

 

「痛い痛い!痛いです十六夜さん!いきなり何をするんですか!!」

「落ち着けよ。相手は仮にもサウザンドアイズだ。ここで問題起こしてどうするんだ?つか・・・」

---グイッグイッグイッ

「俺が、折角、我慢して、やってんのに、一人でお楽しみとはどういう了見だオイ?」

「怒るところそこなんですか!?というか引っ張り過ぎですよ!!」

 

十六夜の理不尽な理由に涙目になる黒ウサギ。

ようやく抜け出して耳を擦りながら、逆廻に抗議する。

 

「仰ることはごもっともですが、あの無礼者は許せません!奴らには然るべき天誅を加えねば・・・」

「いやもう連中帰っちゃったから。」

「え?」

 

俺がそう言うと、黒ウサギは振り向いて既にいない連中の姿を探す。

 

「不可視のギフトで隠れたんだろ、あれくらい見逃してやれ。」

 

逆廻はそう言って、レティシアの方へと向く。

対するレティシアは相当気まずい感じになっていた。

 

「今回のことは、本当にすまない。私がここに来なければこんな事には・・・」

「別にあれくらい構いやしねえよ。結果的に誰も犠牲になってないわけだしな。オチビと梶原、お前らは春日部を見てろ。俺達はちょっと出かけてくる。」

「ちょっと待った逆廻、相手が素直にこっちの要求を聞くか?」

 

屋敷の外に出ようとする逆廻を引き留める。

今回の一件、話の持って行き方次第ではペルセウスとの決闘までは行けるかもしれないが、向こうには俺達と戦うメリットが微塵もない。そうなれば向こうもいろいろ言ってきて、最悪こっちが無条件にレティシアを引き渡して終わりになるかもしれない。

冗談じゃない、これ以上面倒事増やされて帰宅までの時間を伸ばされてたまるか。

 

「多分ねえだろうな。向こうには俺達と揉めるメリットが全くない。恐らく普通に交渉してもレティシアを連れていかれてハイお終い、ってのがオチだ。」

「さっきの連中とのやり取りを確実に立証できる場合はどうだ?」

「・・・詳しく聞かせろ。」

 

俺は倉庫からアンダー・ワールドとホワイトスネイクのディスクを取り出し、マンハッタン・トランスファーとキャッチ・ザ・レインボーのディスクと入れ替えてから足元の地面を大きく掘り返す。

掘り返した地面からはさっきの俺達とペルセウスとのやり取りが実体を持った像として現れ、それを見た黒ウサギたちが驚愕の声を上げる。

 

「これは・・・記録?」

「大地というものは、この世界で言うなら創られた時から今日まで起きた、あらゆる出来事を記録している。レティシアがここに来るために、自分の持つギフトのほとんどを魔王に献上したことを、或いは今丁度、ペルセウスのリーダーが白夜叉の店に来ていることを・・・レコード盤の様に、磁気テープの様にな。そして今使ったギフトは、その大地が持つ記録を掘り起こすことが出来る。」

「っ!!」

「れ、レティシア様、今のは本当なんですか?」

「・・・・・・・・」

 

能力を解除し、今度はホワイトスネイクでペルセウスとのやり取りをディスクにして抜き取る。

 

「それは?」

「さっきのペルセウスとのやり取りに関する記憶をディスクとして取り出したものだ。白夜叉を仲介に入れてこの記憶、或いはさっき来たやつらの記憶を抜き取って公開すればそれを出しに勝負を持ちかけるまでは出来ると思うがどうだ?」

「・・・{ニヤリ}行くぞお前ら、とっとと用事をかたずけるぜ。」

 

逆廻はそう言って、スタスタと屋敷の外へと歩いていく。

黒ウサギは何かを決意したように、レティシアは不安げに、久遠はそんなレティシアを元気づけ、俺は足を軽くマッサージしてからその後に着いて行った。

 


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