デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録 作:enigma
あの一騒ぎの後、俺達は白夜叉の屋敷に行って現ペルセウスのリーダー:ルイオスと白夜叉に対面した。
最初のあたりはルイオスが黒ウサギを勧誘したり、それに悪乗りした白夜叉、逆廻、久遠たちが黒ウサギをからかったりすることが多くて話がいつまでも進まなかったりといろいろあったものの、対談している茶の間に入って来たレティシアを見たルイオスが、レティシアの返還を求めてきたあたりから話をようやく切り出せ、それからノーネームの領地で起きたことを黒ウサギが説明し、レティシアが自白し、俺がホワイトスネイクの記憶のディスクとアンダー・ワールドを使って立証した。
ルイオスはそれに反論したものの、白夜叉が記憶に嘘偽りは見られないと宣言してくれたおかげでそれも虚しく、レティシアは一時的に向こうに返還することになったものの、俺達は予定通りペルセウスとギフトゲームを行うまでに至った。
予定は春日部の調子等を踏まえて二日後の早朝から。黒ウサギは明日の内に俺の帰宅手続きが出来ると言っておいたから、時間的には大した無駄もないし、現状では上出来である。
「あぁ~~疲れた。さっさと飯と風呂を終えて今日はゆっくり休みてぇ。」
白夜叉の屋敷から出て数分ほど歩き、俺は後のことを考えながらそう言う。
さっきのでだいぶ足が休まったけど、さすがに今日はもう限界だわ。
「はい!お疲れ様でした梶原さん!今日明日は皆さんも、十分に休んで英気を養ってください!」
「言われるまでもないな。」
「ええ、けど何もしないのもつまらないから適当に散歩くらいはさせてもらうわよ。」
俺と久遠は笑いながら黒ウサギにそう返し、街灯と月の光で照らされた誰もいない道を闊歩していく。
「梶原。」
ダラダラとしていると、逆廻が俺を呼ぶ。
「なんだ?」
「お前が使ってたあのディスクは誰でも使えるものなのか?」
「・・・どうした急に。」
俺は流し目で逆廻を睨んだ。
逆廻は警戒していると考えたのか、胸の前に両手を出して否定する。
「そう怖い顔すんなよ、別に盗ったりするわけじゃねえ。ちょっと気になっただけだ。」
「・・・さあな。あのディスクは端的に言うと、精神の才能や素質が俺の様な特殊な形で発現したものを、とある能力によってああいう形で物質化したものだ。」
「特殊な形・・・というと、あの人型のぼんやりした輪郭の像ですか?」
「そうだ。俺はこの類の能力を『傍に立つ者』あるいは『立ち向かう者』という意味でスタンドと呼んでる。ああ、ちなみにこれは知り合いから聞いた話なんだが、精神の一面が神話の悪魔や神の名前を冠して出てくる『ペルソナ』と呼ばれる能力もあるらしい。」
「神や悪魔、ですか?」
「ああ、これはマイナー過ぎて名前が知られてないようなものから、有名な神話の創造神やら破壊神、果てはラヴ・クラフトの創作神話の神様等等、タロットカードに準えた属性の元に本人の精神性を表す存在を心の鎧として具現化する。中には複数のペルソナを同時に所持し、それらを入れ替えて扱う奴なんてのもいるらしい。俺は出会ったことはないがね。」
「な、なんだかとんでもない話でございますね。」
「自分で言っておいてあれだけど俺もそう思うよ。」
「・・・・・・まあそれはともかくとしてだ、お前はどうやってそんなものを集めたんだ?」
黒ウサギは感心したように漏らした言葉にそう返答すると、逆廻が鋭い目つきで俺にそう言ってくる。言ってる意味を理解したのか、久遠も俺を睨んできた。
(まあそうなるわな。こんな物をいくつも、それもわざわざ取り外して持ち合わせているなんて状況、真っ当な奴なら俺が能力を他人から奪って集めたと考えるのは自然だ。ましてや、あんな修羅道地獄を駆け抜けながら必死にかき集めたものだなんて夢にも思わねえだろうよ。)
・・・上手い言い訳も思いつかないし、とりあえずありのままを話すか?けどこれを話すと俺のトラウマが・・・
「大方他人から奪ったのかと考えてるんだろうが違うぞ。ただこれを説明していくとなると俺の身の上についてそこそこ話さにゃならんが・・・聞くか?」
「面白い話か?」
「それはお前の主観によるが・・・・・・・・思い出の99割・・・もとい99%以上がトラウマで構成されてるからな、正直あんまり話したくはないが・・・・・・・・・・どうしてもというなら話さないこともない。」
眼を閉じれば今でも鮮明に思い出せる、あの迷宮地獄・・・だがここで信頼を失わないためならば、例えこれを掘り返すことになっても問題は・・・・・問題は・・・ない!!
「・・・・・・・・・」
(・・・・・・・・・・・・コイツがここまで青褪めるほどか・・・それはそれで面白そうではあるが・・・)
「・・・わかったよ、ここはひとつお前を信用してやる。レティシアの件もあるしな。」
「・・・そうね、付き合いは短いけどあなたが外道ではないことは今までの行動で良くわかっていることだし。」
少し眺めの沈黙の後、逆廻と久遠は仕方ないっと言った感じでトラウマを語るのは無しにしてくれた。
よかった・・・古傷をこれ以上抉ることにならなくて・・・
「ありがとう・・・・・・それで話は元に戻るが、あのディスク・・・というよりスタンドは、大抵使い手の精神性の最も根深く強い部分が超能力として発現することがほとんどだ。そしてこれは人と人との相性の様によっぽどウマが合うか、ある種の例外みたいな要素が無い限りは拒否反応が起きてディスクに弾き飛ばされるんだ。おまけに仮に身につけられたとしても肉体や精神の容量的にせいぜい付けていられるのは一度に一つが限界だし、フルに性能を生かすとなるとこれまた相当な練習がいる。下手に欲を出すよりは自分の長所を磨いた方が早いと思うぞ。」
「俺はあったら面白い玩具程度にしか見てねえぜ。」
「それはよかった。」
(さすがに世話になったところに被害を出すのは気が引けるからな。)
「そう言えば、レティシアを襲ったペルセウスの手の者を見抜く時も同じような円盤を頭に入れてたわね。あの円盤はどういうものなの?」
「野外で言うのは勘弁。」
「・・・私たち以外誰もいないわよ。」
「それでもだ。聞きたきゃペルセウスとのギフトゲームで必要な分だけは明かしてやるよ。」
呆れている久遠を背に、俺はそう言って今までより少し足早に拠点へと歩く。
足が・・・足が痛い・・・
(ふう、ようやっと休める・・・)
漸くノーネームの屋敷に戻ってきて、これで足を休められると内心安堵しながら俺は玄関のドアノブに手をかけ、ドアを開ける。
---ガチャッ
「あっ」
「お帰り皆。後オハナシがあるから、泰寛。」
そこには何と、イイ笑顔で待ち受ける春日部の姿が!
「じゃあ俺部屋に戻って・・・」
---ダッ ガシッ
ダッシュで駆け抜けようとしたら一瞬で組み付かれたでござる。
「あ、あのぅ春日部さん・・・」
「ジンからある程度聞いたよ。向こうとの話は上手くいった?」
「ああ。明後日の早朝からペルセウスとギフトゲームをすることになったぜ。ていうかどうしたんだお前ら?」
「なんでもないよ、ちょっと話があるだけ。」
「ふーん、まあいい。俺はちょっと寝てるぜ。」
良くない!非常に良くないよ逆廻君!あ、でもお前と久遠はやっぱいい。どうせ茶化されるから。
「さっきは聞きそびれたけど具合は良いの?」
「うん、ちょっとまだふらつくけど明日には多分治ってると思う。」
「そう、ならいいわ。明後日は頑張りましょうね。」
「うん、頑張る。」
そう言って久遠は逆廻に続き、屋敷の奥へと行ってしまった。黒ウサギも、若干心配そうな表情を俺に向けながら、同じように屋敷の奥へと行ってしまう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「泰寛・・・」
「ま、まあまあ待つんだ春日部さんや。あれは一種の不可抗力ってやつででしてね・・・」
「でも見たよね。」
「え、えっと・・・」
「でも見たよね。」
「あの・・・」
「でも見たよね。」
「・・・はい・・・」
「・・・貸し一で。」
「ぜ、善処いたします・・・」
===明後日の朝===
「みなさーん!契約書類を持ってまいりましたよー!」
二日後の明朝。黒ウサギがペルセウスとのゲームの“契約書類”持って帰って来た。
俺達は屋敷の前に集まり、黒ウサギが差し出したその契約書類に目を通していく。
『ギフトゲーム名:“FAIRYTAIL in PERSEUS”
・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜
久遠 飛鳥
春日部 耀
梶原 泰寛
・“ノーネーム”ゲームマスター ジン=ラッセル
・“ペルセウス”ゲームマスター ルイオス=ペルセウス
・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒
・敗北条件 プレイヤー側ゲームマスターによる降伏
プレイヤー側のゲームマスターの失格
プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合
・舞台詳細 ルール
*ホスト側ゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない
*ホスト側の参加者は最奥に入ってはならない
*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない
*失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行できる
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。
“ペルセウス”印』
契約書類に全員が目を通し、その内容に同意する。
---キィ――ン
「ぬ?」
するとその直後、視界が光に包まれた。光が止んで目を開けると、俺達は巨人でも通れそうな大きさの門前にいた。この奥が白亜の宮殿なのだろう。
本当にきれいな宮殿だな・・・昨日のあのチンピラが何でこんなところに住めているのか、世の中間違ってるとしか思えねえ。
「姿を見られれば、即失格か。ペルセウスを暗殺しろ、ってか?」
「それなら伝説に倣ってルイオスも睡眠中ということになりますよ? 流石にそこまで甘くないと思いますが・・・」
門を見上げる逆廻に、ジンが応える。
「YES。そのルイオスは宮殿の最奥で待ち構えているはずデス。それにまずは宮殿の攻略が先でございます。伝説のペルセウスと違い、黒ウサギたちはハデスの兜を持っていませんので綿密な作戦が必要です。」
「見つかった者はゲームマスターへの挑戦資格を失ってしまう。同じく私達のゲームマスター―――ジン君が見つかれば、その時点でこちらの負け。中々厳しいゲームね。」
久遠の呟きに春日部も頷いた。まあ本来ならこのゲームは、最低でも十人単位、下手をすればもっと桁違いの人員を使って仕掛けるべきなんだろう。さらにこっちはジンが発見されればゲームオーバーなのに対し、向こうは不可視のギフトもフル稼働で強襲してくる。傍から見れば分かり易過ぎるほど不利で、寧ろ反って笑いたくなるレベルだ。
「梶原、何か都合の良いギフトはねえのか?」
「あるよ。」
「あるのね・・・」
久遠たちの呆れが篭った視線を軽く流しながら、俺はアクトゥン・ベイビーと他の適当なディスクを取り出して装備し、試しに地面に触れて透明化能力を発動する。
「え!?じ、地面が消えた!?」
「これは?」
「自分、および自分が触れたものを透明にする能力だ。今回のゲームにはうってつけだろ?」
「はい!これなら確実にルイオスのいるところまで全員でたどり着くこともできます!」
「なんだか不思議ね・・・見えないのに何か踏んでるのが分かるっていうのは・・・」
「うん、なんか変な感じ。」
他のスタンドは・・・動作チェック終了。体調は良好。何も問題はねえ。
「よし、となると後は、念のために囮と露払いを失格覚悟でやる役がほしいな。」
「うん、ルイオスを倒すまでに誰かがかけつけてきたら困るもんね。」
「そうね、問題は誰がその役をやるかだけど・・・」
「ちなみに黒ウサギは審判役ですのでゲームに参加できませんよ。」
黒ウサギがそう言うと、逆廻、春日部、久遠は三人で睨み合う。
「ここは公平にジャンケンなんてどうだ?この三人のうち負けた一人が囮役になるってことで。」
「ええ、いいわよ。どうせ皆おいしい役は譲らないでしょうし、そっちの方がすっぱり決められるもの。」
「わたしもそれでいい。」
「それじゃあ・・・最初はグー!」
「「「ジャンケンポン!!」」」
三人は掛け声とともに、お互いの手を出す。
「よし!」
「やった。」
「くっ、まさかこんなところで負けるなんて・・・」
結果は逆廻と春日部がグー、久遠がチョキを出して久遠の負けに終わった。
勝った二人は小さくガッツポーズを決め、久遠は自分の出した手を睨んで憎らしげに呟く。
黒ウサギはそんな三人の様子を見て多少安堵の表情を見せたものの、すぐに神妙な顔になって不安を口にした。
「………皆さん、一つ注意して下さい。ルイオスさん自身は大した事はありませんが、彼の持つギフトは・・・」
「隷属させた元・魔王。」
「そうそう、相手は元・魔王・・・え?」
黒ウサギに続けてそう言った逆廻を、え?と言いたげな表情で全員が見る。いつもの様に、不敵な笑みを浮かべながら逆廻は先を続けていく。
「もしペルセウスの神話通りなら、戦神に奉げられたゴーゴンの首はこの世界に存在しない。それにも関わらず、奴らが石化のギフトを使ってるところを見ると………ルイオスが使役するのはアルゴルの悪魔ってところだろ。」
いや、そこまで神話とかに詳しくないからいかんとも言い難いが・・・とりあえず相手の切り札はある程度読めているということか。
「十六夜さん………まさか、箱庭の星々の秘密に………?」
信じられないものを見る様な目をした黒ウサギに、十六夜は自慢げに笑った。
「まあな。このまえ星を見上げた時に推測して、ルイオスを見た時にほぼ確信した。あとは大急ぎでアルゴルの星を観測して、答えを固めたってところだ。」
「十六夜さん・・・実は以外に知能派だったのですね!」
「おいおい失礼だな。」
ああ、昨日の夜に望遠鏡を持っているのを見かけたと思ったらそんな事をしていたのか。つうかどんな頭の回転してんだよこいつ。俺絶対知恵の勝負でこいつに勝てる気しないわ。
「さ~て、じゃあそろそろ行くか。」
逆廻のその一言の下、全員が門に向き直る。
「さあ、ゲーム開始だ。」
---ドォォォォォンッ!!
逆廻が力任せに殴りつけた爆発した様な衝撃音と共に、粉砕する扉。門の残骸が崩れ去る音と共に―――ギフトゲーム“FAIRYTALE in PERSEUS”は始まった。
「それじゃあみんな、後は頼んだわよ。」
「おう、任せとけ。」
「春日部、次はどっちだ?」
「待って・・・・・・皆、こっち。」
「全員お互いの位置把握はしっかりしとけよ。俺が解除しなければ姿が見えないとはいえこんなところで迷子になったら洒落にならねえ。」
「はい。」
門の破壊から約十分・・・俺達は互いの位置を確認しながら、ルイオスのいるであろう場所を目指して移動を行っている。
警備しているはずの敵さん達は、開始の痕に久遠がきっちり囮役をしてくれているおかげか、俺達の通るルートには全くいなくて進んでいくのに苦労は全くないと言ってよかった。
「待って。」
宮殿の中心辺りにある中庭に来たところで、春日部の待ったを受けて俺達はその場で止まる。
「{クンクン}・・・もうそろそろだよ。あの建物の上に多分いる・・・けど、中庭の四隅と中央付近に二人、たぶん透明化のギフトを使ってる奴がいるよ。」
「いや待て、建物の入り口前にもう一人いるぞ。」
「え、本当?」
ウェザー・リポートが気流を元に感知している。間違いなくあそこに敵がいるな。
「多分、本物のハデスの兜を持った奴が潜んでいるんだろ。それもレプリカと違って、音も臭いも消せる奴が。」
姿を消している逆廻が隣でそう言う。なるほどね、それなら春日部の五感には引っかからんわな。
「春日部、逆廻、他の分かる奴はまかせるぞ。俺は本物の方を倒してくる。」
「おう。」
「うん。」
俺は三人の元から離れ、目標のいるであろう所へと近づいていく。そして・・・
---ビュォオッ!!
「なっ・・・グハッ?!」
大体の位置に向け、ウェザーの暴風のパンチをぶち込む。
すると確かな手応えとともに進行方向の壁から誰かの声と何かがぶち当たる音が聞こえ、鎧姿の男が現れて兜を落としながら地面に倒れ込んだ。
ていうかこいつ、よく見たら昨日家を強襲した連中のリーダーじゃねえか。
・・・とりあえずまた隠れられても面倒だから兜は没収しとこう。
「ぐはぁっ!」
「がっ!?」
「な、何だ!?いったいどこから・・・ウゲェ!?」
後ろを見ると、呻き声とともに透明化が解除されたここの兵士たちが次々と呻き声を上げながら現れ、地面に倒れ伏していく。
大体六人ほど現れた時点で、他にはいなくなったのか春日部や逆廻が声をかけてきた。
「こっちは片付いたぜ。」
「お疲れ様。」
「おう、ジン!もう来ていいぞ!」
「は、はい!」
「う・・・ぐぐ・・・」
ジンを呼ぶために声を出すと、それによってさっき俺が吹き飛ばした奴が目を覚ます。
「そこにいるのは・・・ノーネームの者か・・・」
「やあやあどうも、そんなわけで俺達先に進ませてもらうから。」
「・・・フン、無様な負け方はするなよ。」
「お、おう・・・一応応援ありがとう。」
「何やってんだ、早く行こうぜ。」
「ああ、わかった。」
てっきり恨み言の一つでも吐かれるかと思ったがそんなことはなく、俺達は建物の中に侵入し、道中の敵に不意打ちを掛けながらルイオスのいる最上階を目指してどんどん進んでいく。
「・・・・・・!次で最後の階だよ。先に黒ウサギと誰かがいる。」
「多分ルイオスだな。」
「一気に行くぜ。」
「はい!」
次の階への階段を一気に駆け上がっていく。
やがて見えて来た出口から出ると、まるっきり中世のコロシアムの様な場所に俺達は立った。
その中心部では、黒ウサギがそわそわとしながら立っている。
「梶原、俺がいいというまでまだ透明化は解くなよ。」
「は?」
逆廻が小声で言った事に首をかしげていると、逆廻は黒ウサギの方へと歩いていき・・・黒ウサギの脇腹を思いっきり擽り始めた。
「あはははははははははははは!くくすぐったい!くすぐったいです!い、いったい何が起こってるんで、あはははははははははははははははは!!」
「もう、何やってるんですか・・・」
ジンがそれを見て呆れの声を漏らしたようだ。こら春日部、その手をワキワキさせるのやめなさい。
「本当に何やってんだか・・・よし、もういいだろ。」
適当な頃合いで能力を解除する。春日部の不満そうな眼差しを無視して俺は二人のところに向かう。
「はぁ、はぁ・・・って十六夜さん!ジン坊ちゃん!それに春日部さんに、梶原さんも………!というかこんな時にまで何をやってらっしゃるんですかこのお馬鹿様!!」
俺達の姿を確認した黒ウサギが、どこから取り出したかはわからないがハリセンを使って逆廻の頭を叩く。
「あいつら・・・チッ、無能だとは思っていたけどまさかここまでとはな。今回の件が済んだら、纏めて粛清するか。」
聞き覚えのある声の下方向に視線を向けると、コロシアムの最上部に玉座が置かれていて、そこに腰かけていたルイオスは、自分達を見ると不満そうに鼻を鳴らす。
「ともあれ、ようこそ白亜の宮殿・最上階へ。ゲームマスターとしてお相手しましょう………と言いたいところだけど、一つ提案があるんだ。君達さ、わざと負けない?」
「………はぁ?」
突然の提案に、隣にいた逆廻が胡乱げな声を出す。ルイオスはそれを気にする事無く、先を続けた。
「だって無駄だろ? 僕の圧勝は目に見えているけど、それでもこっちからしてみれば余計な手間をかける事になるんだ。ただでさえ君達“ノーネーム”に本拠を滅茶苦茶にされた上に、あの吸血鬼の商談だって決まってないんだ。」
そう言いながら、空飛ぶ靴を使ってこちらへ降りてくるルイオス。その顔はこのゲームの勝利以外特に興味を持ってなかった俺でも腹立つくらいに俺達を舐め切ったものだ。
「今なら全員、すぐにでも無傷で返してやるよ?なんだったら、あの吸血鬼も付けてやっていい。もちろん“月の兎”と交換だけどね。どうだい? 悪い話じゃないだろ。」
そう言ってルイオスが手をかざすと、彼の隣にレティシアの姿をした石像が現れる。それを見た黒ウサギが、憎らしげにルイオスを睨んだ。ディストーンどこにやったかな・・・
「あ、貴方はギフトゲームを何だと思っているんですか!!」
一方この期に及んで“契約書類”の取り決めすら平然と無視する様なルイオスに、ジンが怒りの声を上げる。ギフトゲームによる取り決めが大きな意味を持つこの世界で、野郎の提案はぶっちゃけ非常識以外の何物でもないだろう。しかし、ジンの抗議をルイオスは鼻で笑う。
「そんなもん、ただのゲームだろ? 面倒なだけで、景品を得るのに割が合わないね。それに今回ウチは旨味のないゲームをやっているんだ。“月の兎”を渡して貰わないと損なだけだね。」
この世界のルールそのものを軽んじる様なルイオスに、ジンが言葉を詰まらせる。さっきから一言も喋っていない黒ウサギも同様・・・いや、こっちは頭にき過ぎて言葉が出ないだけか。
「どうだい、ここはどっちが得か考えた方がいいんじゃない?」
まるで握手を求める様に、こちらに手を差し出すルイオス。
「嫌だ。」
「………何だと?」
「嫌だ、て言ったんだ。私達はレティシアも、黒ウサギも、誰一人掛けることなくホームに帰る。だから、貴方の出した条件じゃ意味がない。」
「勝負事というのは勝者を決めて終わるんじゃない。敗者が決まって終わるもんなんだよ。」
春日部と逆廻はそれぞれファイティングポーズを取る。
「かかって来な。特別に試させてやるよ。」
「僕も………僕だって、コミュニティのリーダーです! ゲームを前に、逃げ出す事なんて出来ません!!」
ジンも拳を握りしめてルイオスを睨む。よく見ると足が震えており、顔から冷や汗が出ている。誰が見ても虚勢にしか見えないが、今はそれが出来るだけでも十分だ。
「貴方が僕たちの前に立ち塞がるのであれば、“ノーネーム”の誇りにかけて“ペルセウス”を打倒しますっ!!」
「ジン坊ちゃん……皆さんも………」
感嘆極まった様に呟く黒ウサギ。
「んじゃまあさっさとケリつけようかぁ?そっちの方が無駄が無くていいからな、ハハハハハハハ!!」
俺はそう言いながら、ディスクを外して倉庫に戻し、ジンが巻き込まれないように彼の前に立つ。
「フン、本当に馬鹿な奴ら。いいさ、そっちがその気ならお望み通り戦ってやるよ。」
それに対してルイオスは心底つまらない物を見たという感じで首のチョーカーに手をかけ、そのままチョーカーについた飾りを外し、天に掲げた。それは前に見たゴーゴンの威光に似た不気味な褐色の光を放ちながら、脈動する様に徐々に大きくなっていく。春日部と逆廻は身構え、俺はジンを庇うために前に出る。そして―――!
「目覚めろ!魔王“アルゴール”っ!!」
ルイオスの宣言と共に一際大きな光が自分達の視界を埋め尽くす。その直後、宮殿の隅々まで響き渡る様な甲高い声が耳を揺さぶる。
「ra………Ra、GEEEEEYAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaa!!」
正気なんて微塵も感じられない、まるで発狂した女のような声に堪らずに耳を塞いでいると、大きな光の中から全身の至る所を拘束具と捕縛用のベルトに巻かれ、膝下まである紫色の髪が尋常じゃない程に乱れている女が現れた。よく見ると両目は血の様に真っ赤に染まり、狂乱の顔を彩っているのがわかる。あれがアルゴールか・・・
「星霊・アルゴール………! 白夜叉様と同じ、星霊の悪魔………!」
「RaAAAAA!! LaAAAAA!!」
アルゴールの威圧感を感じ取ったのか、黒ウサギは冷や汗を流しながらそう呟く。
対するルイオスは俺達を見下しながら得意気に話してくる。
「君らは簡単には終わらせないよ。ノーネーム風情が僕に楯突くとどうなるか、たっぷり教えてやらないとね。」
「GYAAAAAAaaaaaa!!」
ルイオスの言葉の後、アルゴールが背中の黒い羽を縛ってる拘束具を自力で外し、空へと飛び上がってコロシアムの至る所に拘束具の一部を鞭のように振い、破壊していく。
それによって発生する床の揺れで、ルイオスの玉座の横に置かれている石化したレティシアが倒れた。
「レティシア様!!{ガァァンッ!}うっ!?」
黒ウサギはレティシアのもとに駆けつけようとするものの、アルゴールの拘束具がすぐ前を抉ることで中断された。
「春日部、あれにただ真正面からぶつかるのは勇気と言っていいのかな、俺。」
「・・・・・・」
言いたいことを理解したのか、春日部は冷や汗を垂らしながら俺の隣まで下がる。
「くっ・・・」
「あてが外れたな、オチビ。レティシアが戻ってくれば、魔王に対抗できると思ってたんだろ?」
苦々しい表情のジンに、逆廻はいつもと変わりない調子で話しかけた。
「・・・・・・・・・」
ジンはかなり切羽詰った感じで押し黙ってしまう。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・!!それでも、僕らにはまだ貴方がいます!貴方の力、この舞台で証明してください!」
・・・・・・・・・が、次に逆廻がジンの方を見て、今彼が自分の答えを待っていることを感じ取ると、逆廻に全てを託した。
「・・・ヘッ、OK。よく見てな!」
「GYAAAAAAaaaaaa!!」
逆廻が了承したと同時に、アルゴールが空から両手の拘束具の一部を彼に振るった。
その衝撃による粉塵で、彼の姿が隠れる。
「ハッ、所詮は人間か・・・なに!?」
粉塵が晴れると、逆廻が振われた拘束具を事も無げに掴んで防いでいた。
「さあ始めようぜ、元魔王サマ。」
「GYAAAAAAaaaaaa!!」
そこからの勝負は、ほとんど一方的だった。
アルゴールが拘束具を大蛇に変えて彼を絞め殺そうとするものの逆廻るは軽くそれを引き千切り、アルゴールが体を巨大化させて逆廻に掴みかかるものの、彼が容易くアルゴールを持ち上げて床に叩き付けた。
ルイオスが空から曲刀で奇襲をかけるものの、無駄なく躱してカウンターを決めた。
そしてヤケクソになったルイオスがアルゴールに石化の光を最大出力で放つよう命じ、アルゴールがあの禍々しい輝きを口元に収束させて放たものの、逆廻がそれを踵落としでガラス細工でも割るかのように消し飛ばし、追撃の左ストレートでアルゴールに止めを刺した。
「凄い・・・」
「ギフトを無効化?いや、破壊した!?」
「そんな!ありえません!天地を砕く恩恵と、恩恵を砕く力が両立するなんて!」
「人外魔境が入り乱れてるこの世界でそれを言っちゃうの?」
黒ウサギに突っ込みを入れつつ、俺は逆廻の力に舌を巻いていた。
これも多分あいつからしてみれば全力と言うには程遠いのだろうと考えると、あそこまで傲慢な態度が取れることも少しは分かる気がする・・・・・・まあ分かるだけなんだが。
「ところで黒ウサギ、これ勝負の判定はどうなるんだ?」
「あ、そうだ。ルイオスはこうして倒されてる訳だし、私達の勝ちなんじゃ・・・」
「はっ!そ、そうでした!このギフトゲームはノーネーム側、」
「待った。」
黒ウサギの宣言に水を差すように、逆廻が黒ウサギの耳を引っ張った。
「アイタタタタ!? いきなり何をするんですか十六夜様!!」
「その前に確認したい事があるからな。」
そう言うと、逆廻はアルゴールを役立たずだの使えないだのと罵倒しているルイオスへと歩み寄った。
「おい、ボンボン。」
「な、何だ! まだ何か用か!?」
「そいつ、まさかこれで終わりじゃねえだろうな?」
顎をしゃくって、逆廻はアルゴールを示す。だがルイオスより先に、黒ウサギがその問いに答えた。
「残念ながら、それ以上は無いと思います。拘束具をつけられていた時点で気付くべきでした・・・・・・・・・ルイオス様は星霊を制御するには未熟なのでしょう。」
途端、ルイオスの瞳に憤怒の炎が燃え上がる。黒ウサギを射殺さんばかりに睨んでいるが・・・・・・・・・奴さんは終ぞ否定の声は上げられなかった。
「同所詮は七光りのボンボンか。長所が破られたら、呆気ないな。」
心底から失望したように逆廻は溜め息をつき―――そこからすぐに凶悪な笑みへと切り替えた。
「ああ、そうだ。ここで負けたら、お前達の旗印がどうなるだろうな?」
「な、何?」
ルイオスがその言葉に驚愕の声を上げる。俺は何となくだが、逆廻のあのSっ気全開の表情からこの後の展開を察した。
「そんなのは後でも出来るだろ。そんな事より旗印を盾に、即・もう一度ゲームを申し込む。そうだな・・・・・・・・・次は名前を貰おうか。」
サァッと音を立てて、ルイオスの顔から血の気が引いた。だが逆廻は容赦なく先を続けていく。
「その二つを手に入れた後、“ペルセウス”を徹底的に貶めてやる。お前達が泣こうが喚こうが、どうしようも無いくらいに徹底的に、だ。どうなるか分かるよな?」
「うわぁ・・・なんて言うか・・・うわぁ・・・(棒)」
そうなってしまえば、“ペルセウス”はもはや壊滅したのと同じだ。最悪ジン達と同じ・・・いや、黒ウサギのような伝手が無ければそれよりさらに悪い状態まで一気に転落していくだろう。
「名無し風情には向かうとどうなるか、たっぷりと教えてやるぜ。」
「や、やめろ・・・・・・・・・!」
ようやくそれが理解できたのか、ルイオスは震えた声でドSの笑みを浮かべる逆廻に懇願するように声を上げる。
「そうか、嫌か。なら―――方法は一つしかないよな?」
それを聞いた逆廻は拳を構えて、挑発する様に手招きする。
「命を賭けろよ。ひょっとしたら、俺に届くかもしれないぜ?」
頼れる物はもはや己のみ。そんな絶望的な状況に立たされ、ルイオスは覚悟を決めて叫ぶ。
「負けられない―――お前達なんかに、負けてたまるかあぁぁぁっ!!」
かくしてペルセウスの末裔は敗北を覚悟しながら、星霊殺しの鎌・ハルペーを振りかぶって、逆廻へと駆け出した―――。
「・・・・・・そう言えば何でこいつの部下たちはここに来ないんだ?あれだけ騒いだんだからそろそろ駆けつけてきてもいいと思うんだが・・・」
「アルゴールが出現する時の光で、コロシアム以外の全てが石化していたんですよ。」
「マジで?」
「マジでございます。」
(あいつ・・・本当にアホすぎる・・・)
そう思いながら、逆廻にぶっ飛ばされるルイオスを俺は眺めていた。
「さてと・・・こんなもんかな。」
逆廻によるルイオゲフンゲフン、もといペルセウスの蹂躙が行われた日の夜・・・俺は特にない荷物を纏め終える。
「ここももう見納めだな・・・」
長い様で短い・・・そう思えるくらい色々なことがあった数日だったな・・・正直もう超展開はしばらくいらねえわ。
(・・・・・・そろそろ行くか・・・)
別れは既に皆にしてある。春日部には貸しとその他もろもろの件で、黒ウサギには後日に行うパーティの件でかなり引き留められたが、これ以上長くとどまっても正直別れ辛くなるだけだ。
・・・けど・・・・・・今更かもしれないが、唯一、あの三人の心構えだけが心配だ。魔王の力量とやらは力の落ちた白夜叉以外知らないから何とも言えないが・・・もしあいつらがいつか本物の魔王とやらに出逢った時、多分あいつらは本当の意味で理不尽で、不条理な、命懸けの選択肢を迫られることになるだろう。俺が前世でひたすら駆け回った迷宮世界のような、あるいはそれを遥かに超えるかもしれない事を・・・
・・・・・・・・・・・せめてあいつらが、それらを越えられるように願っておくか。
俺はギフトカードをポケットから取り出し、一枚のチケット・・・昨日黒ウサギが箱庭の上層で調達してきた例の帰宅手段を取り出す。
「切り取り線に沿ってこれを切ればいいんだっけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ここでの思い出を静かに振り返りながら・・・
---ビリッ
俺は勢いよく、チケットを切った。