デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

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皆さんおはこんばんにちわ、約一年ぶりの執筆です。
今回は執筆の感覚を取り戻すのと、最近対魔忍RPGを始めたということで書いてみました。題名はふざけて適当につけてみました(錯乱)

この世界戦での泰寛君は、本編よりも自重を投げ捨ててお送りしております。


目指せ!脱・公営生オ〇ホ!(対魔忍)

闇の存在・魑魅魍魎が跋扈する近未来・日本。

 

 人魔の間で太古より守られてきた「互いに不干渉」という暗黙のルールは、人が外道に堕してからは綻びを見せはじめ、人魔結託した犯罪組織や企業が暗躍、時代は混沌へと凋落していった。

 

 

 

 しかし正道を歩まんとする人々も無力ではない。時の政府は人の身で『魔』に対抗できる“忍のもの”達からなる集団を組織し、人魔外道の悪に対抗したのだ。

 

 

 

 人は彼らを“対魔忍”と呼んだ―――

 

 

この物語は、幸か不幸か、そんな対魔忍の道へと引きずり込まれた、とある男の話である。

 

 

 

 

 

 

 

2度目の人生は、最低最悪だった。

多分この俺、『梶原 泰寛』は、これから先このセリフを生涯に渡って叫び続けるだろう。

 

・・・俺という人間は、まあわかりやすく一言で表すならば、前世の記憶を持った「転生者」だ。

それもインドの宗教でいうところの者とは少し違い、近年二次小説やライトノベルで流行している、一度死んでアニメやゲームの世界に転生した「転生者」である。

前世での俺は・・・まあ、『ある時』まではその辺のどこにでもいる、別段特筆するところのない一般大衆の一人だった。

少なくとも俺は『その時』まではまさしくどこにでもいる一般大衆の一人だったし、『ある時』を迎えてからも、社会にとって自分はそういうものであると認識されるように努めてきたと自負している。

まあそのあたりの説明は時間がある時に追々していくとして・・・とにかく、俺は比較的平凡に人生を満喫し、人生の終わり際、自分の『能力』を少し使って細やかな人助けをし、あの公園で大往生を迎えた・・・はずだった。

だがふと気が付いてみれば、どういうわけか俺は見覚えのない日本のどこかの一般家庭で、赤ん坊の姿で目を覚ますことになっていた。

前の人生のあの時以来の意味の分からない事態に、さすがの俺もそのことを認識したときはかなり困惑した。

その時の驚きの声で、今にいた両親がすっ飛んできたくらいだ。さらにその時は、見知らぬ大人が急にどこからともなく現れて詰め寄ってきたことにより、さらに驚くことになったのは言うまでもないことだと思う。

 

・・・・・・・ゴホンッ!

 

まあそんなわけで、突然の状況の変化に一通り驚いた後自分の気持ちに整理をつけた俺は、わからないなりに自分の置かれている状況を把握するためにひたすら情報収集と現状の環境への適応に従事し、徐々に自分のいる世の中の事や、それに対応するための自分の身の振り方を学んで、分相応の生活を行っていたのだった。

 

あの、忌々しい日を迎えるまではな・・・・・っ!!

 

・・・12歳を迎えたあの日、俺の両親は俺の誕生日を祝うため、安い給料から頑張って遣り繰りし、とあるホテルの洒落たレストランに予約を入れていた。

3つ上の長姉と2つ上の次姉が、本人達曰く学校の行事の関係で残念ながら一緒に来ることができなかったことを、電話越しにかなり口惜しそうにしていたのを今でもはっきりと覚えている。

そして、来れなかった本人達がもっと羨むほど楽しい誕生日会にしてやろうと、両親と俺は張り切って件のレストランに行ったのだが・・・そこで事件が起こってしまった。

俺達が厨房から運ばれてきた前菜に舌鼓を打っていた時、そのホテルを重火器で武装した者達が突然襲撃してきたのだ。

これは後になって知ったことなのだが、当時そのホテルには『米連』と呼ばれる、俺の前世でいうところのアメリカ合衆国と、太平洋沿いのいくつかの国を合併したような組織の人間が秘密の会談のために泊まっていたらしく、その情報を事前に入手したテログループがその米連の人間を拉致するために襲撃したらしい。

で、その襲撃に俺達家族もものの見事に巻き込まれてしまい、何とか間一髪のところで俺が苦渋の決断で「能力」を使い、家族を逃がしたわけだが・・・同時にこの決断と行動が、ただでさえきつい人生になることが予想されていた俺の人生をより過酷なものにしてしまった。

 

あれはあの事件が起こってから一週間が経過した頃・・・・・・・・・サングラスをした黒服の男二人が突然我が家を訪ねてきた。

身の振り方を考えるために情報収集をする傍ら、この世界の日本の闇の部分もかなり詳しい事まで調べていた俺は、この出来事がどのようなものかも代替見当がついていた。

 

話は変わるが・・・この世界では、俺の前世では架空の存在として伝えられていた妖怪だの魔物だの、挙句の果てには神様といった存在やそういった存在が住む異世界が遥か太古の時代から存在しており、俺の国ではそういった存在に対処する為に古くからその技や血筋、知識、能力等を受け継いできた者達が存在する。

今生の俺の家系は、そういった者たちの一派である『対魔忍』と呼ばれる組織の分家・・・それも、家系図のかなり端っこの方に位置するような所謂下っ端の立場で、昔曾爺さんの代で、対魔忍の血筋に代々受け継がれる能力が発現しなくなったことを理由に、本人たちの希望でいくつかの条件の下市井に放逐されたという歴史を持つ。

で、この時に結ばれた条件というのがまたクッソ厄介なんだが・・・ざっくり言うと、万が一、家の家系の中で能力や素質に目覚めた者がいた場合や、そうでなくとも本家からの号令があった場合、指定された者を対魔忍の本家に差し出さなくちゃならないというものが合ったらしい。

それが理由で俺が9歳を迎える前に、対魔忍の能力に目覚めてしまった家の姉二人があれによく似た奴らと一緒に家を出て行ったこともある。

俺はその時のことを思い出し、色々な理由でどうにもならなくなってしまったことを悟り、黒服連中と両親の意までの話を聞き流しながらそのことについて頭を悩ませ・・・・結果、不本意極まりなかったが最終的には大人しく捕まることになった。

 

 

 

 

 

そして俺もまた姉達と同じように、若干12歳という年で悪意渦巻く社会の闇に身を投じざるを得なくなってしまったわけだ。

 

・・・・・絶対に抜け出してやるぞ。そんで姉達の仕事振りを見守りながら、また平和に老衰で人生の幕を閉じるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

===7月22日 某県某所===

 

---ミィ~~ンミィンミィンミィ~~~~ン・・・ミィ~~ンミィンミィンミィ~~~ン・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

洗濯物の生乾きと単純に湿度の高さにイライラさせられた梅雨時が漸く去り、羽化した蝉がまだ玄関を出ていないはずの俺の両耳の鼓膜を容赦なく叩く。

このまま扉を開けて一歩外に出てしまえば、雲一つない青空とそこから降り注ぐ太陽光、それによって熱せられたコンクリートの輻射熱が俺を出迎えてくれることだろう。

 

「・・・泰寛・・・」

 

背後から聞こえてきた男のものと思われる呼び声に、ふと後ろを振り返る。

玄関とリビングを繋ぐその廊下には、目元の腫れた二人の男女・・・根性における俺の両親が、今にも泣きだしそうな表情で並んで立っていた。

 

「何?父さん。」

 

俺がそう聞くと、父さんは少しだけ躊躇う様に視線を逸らした後、再び俺に向き直って口を開く。

 

「・・・・また、必ず帰ってきてくれ。向こうでどんな誹りを受けたって言い、どんな評価を下されたって構いやしない。ただ無事に戻ってきて・・・・またお前の誕生日を祝わせてくれ。」

「・・・うん、約束する。」

 

正直行先が行先なだけに絶対なんて言えないけど・・・まあそこは何とかしていく他無いだろう。

 

「・・・泰寛・・・」

 

父さんへの返答後、今度は母さんが俺の名前を呼びながら近寄ってきて・・・その場でしゃがみ、俺を抱き寄せる。

俺はそれに、無言で抱き返すことで応える。

・・・・・・思えば、今生での姉二人を見送る時は、俺がこうやって両親と一緒に二人を見送ってたな。

あの時から既にあの組織の内情を掴んでいただけに、二人には出来ることなら行ってほしくはなかったが・・・国家権力を笠に着た『連中』に逆らうのはあらゆる面で非常に高いリスクがあり、残念ながら俺も両親もその辺のカバーまでをすることはできなかったのと、幼い頃の本人達がその組織の連中の話を聞いてかなり乗り気になってしまったせいで止めようにも止められなかった。

・・・・・・・・・・・俺も出来る事ならあの組織には・・・というよりこの国の社会の闇とは極力関わることなく生きていたかったが・・・まあ一度やってしまったことはもう仕方がない。

幸い今回のような事態を想定して、武力でも資金面でも情報面でも準備は可能な限りほどしてきた。

後はこれらを基に俺用の生存戦略を練り上げるしかないだろう。

 

---ピンポーンッ

 

そんなことを考えている内に、玄関のチャイムが鳴り響く。

(不本意だが)待っていた迎えが来た事を告げる合図だ。

 

「・・・・母さん、そろそろ行くよ。」

「・・・気を付けてね。」

「・・・うん。」

 

互いに離れて、俺は少ない荷物を手に持ち玄関の扉を開ける。

むわっとした都会の初夏の熱気が家の中に入り込み、扉を開けた先には・・・二人の少女と思われる人の姿があった。

 

「泰寛、久しぶりだな。お父さん、お母さんも久しぶり。」

 

立っていた女性の一人が俺と後ろの両親に声をかける。

首の中ほどまで伸ばしたおかっぱヘアーと大和撫子然とした整った顔立ちで、肌の色はきめ細かな薄い肌色。

口元は分かり難いがよく見ると僅かに笑みを浮かべており、僅かに釣り目気味なその目は真っ直ぐな眼差しで俺を見つめている。

身長は175cmといったところか。上半身は黒い肌着の上から薄地の白いカーディガンを羽織っていて、下は紺色の面パンを履いている。

体系はスレンダーで良く絞り込まれており、同時に妙齢の女性らしい柔らかさも感じられる。

 

「やっほ!三人とも、元気してた?」

 

続いてもう一人の女性が声をかける。

こちらは・・・・身長170cmってところだな。上半身は緑と黄色の横縞模様のTシャツと薄手のパーカーを着ており、下は藍色のジーパンを履いている。

髪は緩いパーマがかかっていると思われるブラウンの髪を左側にサイドテールにして纏めている。

顔立ちは、さっきの女性と同じくらい整った顔をしているが、印象としては学校のカースト上位にいるギャルという感じだ。

因みに肌色はさっきの女性よりも少し日に焼けて黒いが、まあ日本人としては標準だろう。

体系は、出るところは出て引っ込むところは出た、いわゆるグラマラスボディと呼べるものだ。実はグラビアアイドルをやっていると言われても納得がいくと思う。

 

 

 

・・・・・・・・とまあ、こんな感じで他人事のように長々と説明したが、こちら、俺より先にあの組織に入ってしまった姉二人である。黒髪の方が長姉の和葉、茶髪の方が次姉の亜希羽だ。

夏季休暇間近ということもあり、本来なら今年は実家に帰ってきて家族皆で無事を祝ったり何かしら遊んだりして過ごすんだが・・・今回は俺のことがあり、向こうでの生活や手続きを一緒にするために一緒に向こうに残らなくてはならなくなったのだ。

非常に遺憾だが、まあそこは巡り合わせが悪かったと思うしかない。

 

「ああ・・・久しぶりだな・・・和葉、亜希羽・・・」

「・・・久しぶり、和葉姉さん、亜希羽姉さん。正直気分は良くないかな。」

 

正月以来の再開がこんな形になってしまったことに苦笑いを浮かべながら、父さんに続いて二人に返答する。

 

「む、そうなのか?熱は測ったか?咳や喉の痛みとかは・・・」

「いや、お姉ちゃん、多分そういうことじゃないと思うわよ。」

 

若干天然の入った返しに次姉のツッコミが入る。

平和なやり取りに吹き出しそうになりながら、俺は二人に話しかけた。

 

「そうだよ姉さん。今のは単純に心理的な問題というか・・・」

「そうか・・・何かあればすぐに言うんだぞ。これからは少しの不調でも大事に繋がる事になるんだからな。」

「分かってるよ。それより二人とも、お父さんやお母さんにも何か言いたいこととかあるんじゃない?」

「「・・・・・・」」

「あーー、うん、そうしたいのはやまやまなんだけど・・・今回はあんたの送り迎えであんまりのんびりもしてられないのよね。」

「ああ、実は外で人も待たせている。あまり長居は出来ないんだ。」

「そうか・・・・・わかった。泰寛の準備はもう終わっている。二人とも、後のことは頼んだぞ。」

「三人とも無事に戻るのよ・・・」

「ああ、わかった。」

「任せてよ!私達、まだ課外授業は出てないけど、向こうじゃ優等生なんだから。」

 

和葉が頷き、亜希羽が笑顔で力強くグーサインを突き出す。

 

「それじゃあ行こう、二人とも。お母さん、お父さん、また落ち着いたら連絡するね。」

「ああ、気をつけてな。」

「とりあえず死なないように全力で頑張ってくるわ。」

「ええ、行ってらっしゃい。」

 

名残惜しそうな二人を背に、俺達は玄関を出て行く。

家の敷地を出て左へ少し移動すると、空き地にエンジンがかかった一台の白い小型のキャンピングカーが止まっており、和葉がそれを指さす。

 

「あれが迎えの車だ。」

 

そう言って、亜希羽と一緒にキャンピングカーに近寄っていく和葉。

それに付いていくと、和葉が運転席の窓を軽く叩く。

すると運転席の窓が開き、若い青年が窓から顔を出す。

 

「佐々木先輩、連れてきました。」

「お、ご苦労さん。後ろの鍵は開けてあるぜ。中に入ったらあれを忘れるなよ。」

「分かりました。二人とも、中に。」

「はーい。さ、乗るわよ。」

「オーケイ。」

 

三人に促され、俺は亜希羽が開けた車の後ろの扉から中に入る。

車の中は結構シンプルな作りで、応接用のセット、冷蔵庫、台所、テレビなど科配置されており、上には荷物を置く台がある。

窓は車体の全面と運転席、助手席以外はスモークテープが張られており、またさらにその内側にカーテンが引かれているようだ。

 

「亜希羽ちゃん、あれ。」

「あ、そうだ。泰寛、五車町へのルートはまだあんたに把握させるわけにはいかないから、向こうに付くまでには目隠ししとかないといけないんだってさ。」

 

車に搭乗した後、応接セットを動かしてベッドスペースを作った俺達の方へ、佐々木先輩と和葉が呼んでいた男が顔を向けて亜希羽に話しかけ、それで思い出したように亜希羽が俺にそう告げた。

 

「マジかよ。」

「マジよ。えっと、確かこの辺りに・・・あった!ほら、後ろ向いて。」

 

戸棚から亜希羽が取り出したのは、鍵付きの目隠しだった。

仕方がないため、俺は目隠しを手に持つ亜希羽に背を向け、目を閉じる。

目元と頭の周りを何かが覆ったような感じがした後、後頭部で鍵が掛かる音がする。

 

「先輩、準備できました。」

「オッケー。それじゃあ泰寛君、でよかったっけ?これから少し長い道程になるから、暫く横になるなり、家族との積もる話なりして待っといてくれよ。」

「あ、はい。わかりました。」

「よし、じゃあ三人とも出発するぜ。」

「はい、お願いします。」

 

和葉と佐々木さんの合図が聞こえると同時に、サイドブレーキが外される音と、エンジンをふかす音とともに車体が揺れ動く。

・・・・・・・とりあえず緊急事態に対応できるように休んでおくか。何事もなければ、向こうに付くまではどうせ暇だし。

 

「亜希羽姉さん、俺は到着するまで寝とくから、何かあったら起こしてくれない?」

「えぇ~~、別にいいけど・・・・折角こうしてあったんだから、何か色々話すことがあるんじゃないの?」

「それはまあ・・・向こうの家についてからにしねえ?ちょっとここ最近色々ありすぎて疲れてんだよ俺。」

「ん~~~~、わかった。今のうちに休んどきなさい。」

「おう。」

 

そういって俺は、手荷物の中に入れてきたタオルを何枚か重ね、枕代わりにしてその上に頭を乗せ横になる。

聞き耳を立ててみると、車内の他三人の話声が聞こえてくる。

それをBGMにしつつ、俺は向こうに行ってからやるべきことについて、昨日までに纏めていたことをもう一度頭の中で確認することにした。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

---ブロロロロロロロロ・・・・

 

視界が全く聞かない状況の中、車の駆動音と車体の揺れを感じる。

脳内でのやるべきことの纏めはとっくに終わっており、いったいもう何度目の回想になるだろうか、封じられた視界の中に昨日今日の家族との別れのシーンを思い浮かべていると、ふと聞きなれた声が俺に話しかけてくる。

 

「亜希羽、そろそろ五車に着く。ここならもう目隠しの方はもうとっていいぞ。」

「オッケー。泰寛、起きてる?もう目隠しをとってもいいってさ。」

「・・・とって良いも何も、これ鍵付きじゃねえか。そっちで外してくれねえとどうしようもねえよ。」

 

左前に座る和葉の許可が出て、俺にそう告げる隣の亜希羽に、俺は不機嫌であることを主張するように返事をする。

それに対し、姉は俺の頭に触りながら溜息交じりに言葉をかける。

 

「わかってるっての。もう、あの時からすっかり可愛げがなくなっちゃったわね。そんなにこれから行くところが嫌?」

「自分の国の暗部に地獄の一丁目に引きずり込まれたとあったら、そりゃ可愛げの一つや二つなんて吹っ飛ぶに決まってんだろ!ああ、ほんとマジでどうしたもんか・・・」

「じ、地獄の一丁目って・・・あんたね・・・。」

「はは、言いえて妙だな。」

 

俺の発言に次姉が何とも言えないような返事をし、佐々木さんがツボにはまったのか笑う。その後に、前に座っていた長姉が言葉を続けていく。

 

「まあそう気を落とすこともないぞ?確かに大変な仕事には違いないが、私達の先輩や先生方は皆とても素晴らしい人達だ。お前自身も昔から頭も良く、とても用心深い。あそこで精一杯精進すれば、あの人達の様に一人前の『対魔忍』になれるさ。」

「(能力に依存しすぎてゴリ押ししかできないような連中になんて死んでもなるか!)二人のことを考えても、出来る事なら一生関わりたくなかったよ・・・というか今すぐにでも逃げ出してぇ。」

「ここまで来たらもう諦めなさい。{カチャッ}はい、とれたわよ。」

 

頭の後ろで、鍵が外れる音がすると同時に視界が一気に明るくなる。

俺は両方の目頭を軽く揉み、光に目を鳴らしながら徐々に目を開けた。

 

「どうも・・・ハァ~~~~~~~~~~~~」

 

 

 

---ブロロロロロロロロ・・・・キキッ!

 

それから少しした後、車が停止し、運転席の方から黒髪の青年・・・佐々木さんが身を乗り出し、俺たちに声をかける。

 

「三人とも、車での迎えはここまでだ。ここからは歩いて行ってくれ。」

「はい、ここまでありがとうございました。亜希羽、泰寛、行くぞ。」

「オッケー。行くわよ、泰寛。忘れ物はない?」

「問題ねえよ。すみません、ここまでありがとうございました。」

「ああ。今度会う時は是非とも有能な忍びになっていてくれよ?使える人間が増えると俺の負担も少しは軽くなるってもんだ。」

「なれなきゃ死ぬだけですよね、それ?」

「ははは!むしろ死ねる方が楽かもしれないな?」

「わぁーいオラワクワクしてきたゾ。」

 

ほんとこの世は地獄だぜ。前世のあの体験とは別ベクトルでやばすぎる。マジで今すぐにでも逃げようか?

 

「佐々木先輩、あまりそういうことを言うのは・・・」

「心配のし過ぎだよ和葉ちゃん。君の弟君はそんな柔な奴じゃないさ。むしろ五車にいる人間の中じゃ誰よりもしぶとくなる奴だと俺は踏んでるぜ?」

「しかし・・・」

「それよりお前ら、この後もいろいろと用事が残っているんだろ?俺もそろそろこの車返しに行かねえといけねえし、ほれ、早く行った行った。」

「・・・わかりました。」

 

まだ言いたいことがあったのだろうが、和葉は渋々とそれに頷いて車から出ていく。

俺と亜希羽も、それに倣ってドアから外に出ていく。

再び初夏の熱気に煽られながら見た外は、いかにも都会から隔絶された田舎の町、という表現が適切な場所だった。

見慣れたマンションやアパート、高層ビルといったものは見渡す範囲には存在せず、周囲を緑あふれる山々に囲まれ、一応見える範囲内の道路などは軒並みコンクリートで塗り固められてはいるものの、洋風建築の建物はほとんどないといっていい。

ほとんどは、懐かしい雰囲気を感じさせる日本家屋ばかりで構成されている。例外は、あの遠くの方に見える学校を含めた、片手で数えられる程度の数の建物くらいか。

これから住む街を見渡してそんな風に考えていると、ふと思い出したかのように運転席の窓から顔を出した佐々木さんが俺達に声をかける。

 

「あ、そうそう。俺がここで言ったことはオフレコで頼むぜ?別に言っても俺が困るわけじゃねえが・・・うちの校長の耳に入っちまった日には、なぁ・・・?」

「二人とも!ここでの話は絶対に他言無用だからな!いいな!?絶対だぞ!いやほんとマジで!!」

「あ、ああ・・・別にそれは構わないが・・・」

「なんでそんなに警戒してるのよ・・・言っておくけど、アサギ校長は本当に良い人なんだからね?私たち対魔忍の規範そのものといってもいい人なんだから。」

「と、いうわけだ。わかったな?少年。」

「はい!ありがとうございました佐々木先輩!俺、どんな手を使ってでも絶対に生き残ります!!」

「その意気だ。それじゃあ三人とも、良き学園生活を。」

「「は、はい・・・ありがとうございました。」」

 

そういって佐々木さんは車を走らせその場を去った。

それを見届けた後、俺は姉二人の先導の元、道を歩いていく。

 

 

「・・・・・・なんか納得いかないのよねぇ。私たちの時は終始嫌そうにしてたのに、最後の佐々木先輩との話の時だけあんなにハキハキと答えるのよ。」

「あん?当たり前だろ。あの先輩は暗にとても有意義な情報を提供してくれてたんだからよ。良い情報を出してくれる人には積極的に取り入らないと。」

 

まあ、教えてくれた情報はどれも事前に調べていた物以上には出てこなかったが・・・それでも諜報として大事な部分はしっかり抑えているように感じたし、自分の所属している組織やそのトップに関してああいう評価を下せるなら、それなりに有能な奴なんだということはわかるってものだ。

 

「まあ確かに、先輩の話には私に勉強になることがあったと思うよ。任務中での味方の指揮や安全管理の話なんかは、とてもためになるものだった。」

「そう?確かにその辺りはわからなくもないけど・・・あの人、会う時は大抵適当な感じばっかりが目立つからなんか納得しづらいのよねぇ。忍法もいまいちパッとしないし・・・」

 

俺の言い分に納得の意を見せる長姉と、どこか納得のいかなそうな次姉。

 

「というか泰寛、その言い方だと私達の話はあんまりためにならなかったみたいに聞こえてくるんだけどぉ~~?」

「いや、ならないわけじゃないけど・・・・俺を気遣ってくれてるのはわかるんだけど二人の話はちょっと対魔忍に対してポジティブな捉え方が多すぎっていうか・・・」

「・・・そうだろうか?」

 

自覚がないのか、不思議そうな表情を浮かべる長姉。

あまり身内相手にこういう評価はしたくはないが、俺が二人を見送ってからのこの3年余りで二人は大分この組織に蔓延る思想に頭をやられてしまっている。対魔忍の内部調査の傍ら、二人の様子も調査させたり、俺自ら出向くこともあったから知ってるんだよ・・・特に和葉なんかは、今通っている対魔忍養成学校ではトップクラスの優等生で通っており、このままいくと夏明けには先輩方に交じって課外授業を受ける話が教師の間で上がっていて・・・・・

 

不安だ。ただでさえ元から天然が入っていて、更に対魔忍の悪癖に染まってしまっている今の和葉が課外授業なんて受けるとか・・・

 

「どうしたのよ、そんな深刻そうな顔して・・・」

 

そんなことを考えていると、怪訝そうな様子の亜希羽が尋ねてくる。

いかんいかん、つい考え込んでいた。

 

「いや、何でもないよ。」

「・・・そう?」

 

納得がいかなそうだったが、特に気になるようなものでもなかったのか、亜希羽は視線を前に戻した。

また暫く歩いていると、和葉が遠目に見えてきた大型のマンションのような建物を指さす。

 

「あれがお前の住む男用の学生寮だ。その隣に建っているのが私たちの住む女子寮で、あそこに見えるのが私たちの通う学校だな。」

「一応書類上必要な手続きはあんたが来る前に先生や役人の人達が粗方済ませたって言ってたから、今日から寮に住めるわよ。自分の部屋のカギを受け取って必要なこと済ませたら、先にご飯を食べてから学校に挨拶しに行くわよ。」

「わかった。」

 

二人の案内でそのまま学生寮の前まで案内され、俺は受付で鍵を受け取り、自分の割り当てられた部屋に向かう。

途中で特に誰かと会うかとも思ったが、特にそういったこともなく、俺は自分の部屋に到着した。

内装は当初予想していたよりも広く、まず間取りは1LDK(洋室5・LDK13)で、ぱっと見では電子レンジや洗濯機、エアコンなどの必要最低限の家電や家具などは揃っている。

風呂とトイレを覗けば、それぞれが別個になっており、風呂場の前には洗面所もちゃんと用意されている。

姉二人の話では学生寮ではネットも完備されているということだし、日々の食費や日用生活の費用も対魔忍の経理部門を通して国が支払ってくれているとのこと。

・・・・・・これから待ち受けることに見合うとは全く思わないが、それはそれとしてなかなかリッチな学生生活を送れそうだ。

 

 

・・・・・・・・・さて、と・・・

 

「なにかあったのか、イルーゾォ。」

 

さっきからベランダに行くための窓ガラスに映っている、臍丸出しのダウン生地のような厚手の服を着た男に呼びかける。

そいつはようやく声がかかったかといわんばかりに、窓ガラスに浮かんだ虚像の中だけで、リビングの椅子に座りながら優雅にコーヒーカップを傾け、俺の呼びかけに応えた。

 

「お前が作らせていた道具がまた完成したから持ってきといたんだよ。まったく、ここは相変わらず遠いぜ・・・」

 

イルーゾォの声がどこからともなく耳に届き、彼は足元に置いてある2つのアタッシュケースの内一つを拾い上げて示す。それは奴の左手と手錠で繋がれており、もちろんそれも鏡の向こうの虚像の一部でしかない。

 

「お疲れ様。第二支部の開発・・・ということはT2が完成したのか?」

「ああ、AからZまでの26本とあんた用のドライバーとメモリが一本だ。詳しくは中に一緒に入れてる報告書で確認しといてくれ。」

「わかった。使用後のデータはまた後日渡せるようにしておく。向こうで何か足りないものはないか?」

「金がまたそろそろ尽きそうだってよ。後新しい機材もいくつかほしいそうだ。その辺も詳しい話を報告書に纏めてるらしいぜ。」

「分かった、今日中に確認して明日手配しておく。」

bene(よし)!じゃあ俺は先に帰るぜ。また何かあったら連絡する。」

 

そういうとイルーゾォは手首の手錠を外し、飲み終わったコーヒーのカップを片付けて玄関に歩いていく。

 

「ああ、arrivederci(さよならだ)。」

 

俺の挨拶に背中を向けたまま掌を振り、イルーゾォの虚像は外へと出て行った。

それを見届け、後ろへ振り向くとさっきまで存在しなかったイルーゾォの置いていったアタッシュケースと同じものが机の上に置かれており、俺はそれに近づいてそれぞれのケースの生体認証を解除して中を検める。

ケースのうち一つには、端子の色が青色に統一された色とりどりのUSBメモリ26本と、それとは規格の違う小さめの一本のメモリが収められている。

そしてもう一方のケースには、黒い穴に星屑が吸い込まれていく様をイメージしたような『S』の文字とその横に『Singularity』と刻印された白いUSBメモリが一本、それからベルトのバックルのような形状の機械が収められていた。

ベルトは黒を基調としたフレームで、両サイドにUSBメモリが入る大きさの覗き窓のようなものがついた縦穴があり、それらの接続部を繋げるように銀色のΩの意匠が入っていて、中央には赤く丸い透明なパーツがある。機械の上部分には透明のカバーで覆われたスイッチがあり、両サイドのメモリ装填部らしきパーツの少し後ろからは左右に向けてグレーのレバーが伸びている。

 

「これが新しいドライバー・・・・これでとりあえず、能力が使えなくなった時の保険は出来たか。」

 

中身の確認が出来たところで、一旦アタッシュケースを閉じて再度ロックをかけ直す。

・・・・・・俺の能力は現在、対魔忍連中には生物は俺以外入ることのできない、ビジネスホテルサイズの異空間を作って出入りできるものとして伝わっている。現状では荷運びに便利な奴くらいにしか思われていない。

この評価のまま何とか可もなく不可もない評価を受け続けられれば、おそらく長くて後5年間は実戦に投入されることはないはずだ。

この間に何としてでも揃えなくてはならない・・・備えを。

いざという時逃げ込む為の場所を、いざという時を察知する為の情報網を、いざという時を乗り越える為の力を。

万全を期して、いつの日かこのクソッタレな業界から抜け出してやるために。

 

「泰寛―!準備できた―!?」

「・・・・・・・亜希羽の奴、恥ずかしい真似してんじゃねえよ、全く。」

 

待ちきれなくなった次姉を止めるため、ケースをポケットから取り出した六角形のカギに嵌め込まれた赤い宝石部分に押し込む。

ケースが宝石部分の中に消えたことを確認し、俺は姉の蛮行を止めるために外へ出た。

 

 

 

 

 


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