デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録 作:enigma
この世界への転生を実感して気持ちの整理に3日を費やした後、俺は久々に鏃が抜けて元の姿に戻っていたアライブに命じ、親のパソコンを勝手に拝借して情報収集に勤しんでいた。
なんせ自分の状況が状況だ。前世じゃ心臓の位置を鉄筋がぶち抜いて死んだと思ったらあのダンジョン世界に叩き込まれていたこともある。
ここも一見平和な日本に見えて、世間の裏で超常的な事件が起こっている、なんて可能性を否定する事は出来なかったからな。
で、色々と調べている内に最初に明確に違和感を覚えたのが、この世界における日本の圧倒的な治安の悪さと死者数の多さ、そして何よりも各地で発生している事件の特異性だ。
30年ほど前、中華連合・・・中華人民共和国が東南アジアの一部、中央アジアの一部、朝鮮半島の一部を支配下に置いて改名した国と、米連の軍事衝突事件・・・所謂台湾危機が発生した。
この戦争により、日本は当時開発していた人工島にミサイルを叩き込まれたり、隣国から多数の難民が流れ込んだり等の事情により経済に恐慌レベルの大打撃を受け、そのダメージを回復しきれないまま今日までに至っている。
これだけならまあ、まだ前世との世界情勢の違いに違和感を感じるだけで済んでいたのだが・・・問題はこの泥沼化した台湾危機を境に、不自然な事件や目撃例が日本を含めて世界中で多発するようになったことだ。
ある日突然、山間部の高速道路を走るバスがトンネルを抜ける過程で姿を消したり、人間が住宅街で、まるでゴリラかオランウータンが玩具にでもしたような惨殺死体となって発見されたり、開発中止になったゴーストタウンで、緑色の肌をした人型の化け物や触手の塊のような奇怪な生物が移っている写真がネットに出回っていたり・・・
こんな只事ではない事態に、自分の能力のような異常なものの気配を感じ取ってから、俺は昔瓶詰にして保存していたダンジョン内の敵にヘブンズ・ドアーを使って人海戦術で社会の裏側まで探らせ・・・結果、この世界がクトゥルフ神話並みの異常に侵されている実態を知った。
---まずい・・・
事実を知った時、心の底からそう思った。この当時から既に、裏社会の闇が日本政府の力を遥かに超えて、内側から自分の国が中ほどまで食われかけていたことを知った時なんて猶更そうだった。
このままではいつか、逃げ切れなくなって俺も飲まれる・・・・ほとんど確信に近い感覚でそれを悟った俺は、只管備えることに従事した。
道端の小銭拾いに始まり、裏表を問わない賭博での資金調達や再利用できそうなスクラップの収集、非合法組織の強襲と物資の強奪、人目の付かない僻地や郊外での秘密基地の作成、試行錯誤の末何とか身についた証券取引等々・・・・
【超常科学研究所】・・・このネーミングセンスの欠片もないような安直な名前の研究施設も、そういった活動の過程で出来上がったものの一つだった・・・
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場所は太平洋、日本近海のとある無人島。
沖縄と熊本県の間の洋上に浮かぶ、面積480㎢程のその島は、豊かな自然とかの屋久島ほどではないものの険しい山々が存在する場所であり、普通に見る分には人の気配など微塵も見受けられないようなところだ。
・・・・・・あくまでも表面上は、だが。
このような何の変哲もない島・・・・その南西の沿岸部に存在する切り立った崖には、潮の流れの影響で出来た深い横穴がある。それは小型の船舶くらいなら余裕で入れる程度の大きさはあり、奥深くでは島内に幾つか存在する地底洞窟の一つ・・・現在はとある少年の意向により、巨大地下研究施設へと作り替えられた空間に繋がっていた。
この施設は、その少年の目的遂行を補助するための様々な技術開発・・・主に本土で作られた試作品の試験運用を目的として運営されている。
そんなこの施設で、今日もまた一つの実験が行われていた・・・
---ガシャガシャガシャガシャガシャ!!
『排除、排除、排除。』
---ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!
それは、島の内部の実験場の一つ・・・都内の首都圏外郭放水路に似せて建造された、幅と奥行きが300メートル、高さが50メートルほどの構造の空間での出来事であった。
その内部では、銃剣の付いたセミオートライフルのような銃器などの火器弾薬で武装した人型ロボット40体、左腕の荷電粒子砲と右腕のガトリング砲、背部のミサイルポッドと両肩のプラズマ砲が特徴の重装歩兵のようなロボット30体、重厚な装甲を身に纏った4つ足の移動砲台のようなロボットが5体、背中に銃火器を載せた猟犬のような見た目のロボット20体、計95体の戦闘ロボットの軍団が、足元に転がる仲間だったであろう残骸を踏み越えて統率の取れた動きである存在を狙い撃っていた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ロボット達の弾幕の嵐を駆け抜け、狙い撃たれていた存在が柱の陰に身を隠す。
それは、一言で表すならば怪人と呼べる存在だった。
まず身長は約2m、ややマッシブな全身は、ホワイトシルバーの外骨格と、その隙間を埋めるように全身を這う黒いラインのようなもので覆われている。
黒いラインは両肩・胸部中心・背部上方中心・両手両足のアンクレットのようなものにそれぞれ存在する金色の枠で縁取られた黒曜石のような球状の物質と、腰に巻き付けられているベルトのような機械に繋がっており、何かを流すパイプとしての役割を持っているように見える。
頭部は体と同じくホワイトシルバーの外骨格で覆われており、口や耳、鼻に当たる器官はぱっと見では窺えず、眼は赤黒い複眼、額には5㎝大の黒色の水晶体、その水晶体を中心として伸びるブレードのようなV字状の二本のアンテナを特徴としている。
「クソ!第二のカーズの奴、何がそのドライバーを使いこなせれば問題無いだ!いきなりかっ飛ばしてきやがって!」
身を隠した怪人は絶え間なく続く銃撃音に体を震わせながら、口がないはずの顔から誰かの名前と、その人物への文句を叫ぶように発する。
「はぁ~~~・・・・けどロストドライバーで変身した時よりは断然調子が良くなってる。これなら前みたいに数分で限界が来るなんてことにはならなそう・・・・」
ふと、何があったのか怪人はセリフを中断し、右斜め前方向に一歩踏み出す。
次の瞬間、怪人の頭部と、人間なら心臓があったであろう位置を口紅ほどのサイズの円錐形の物体が高速で通り過ぎていき、進路上のコンクリート製の柱を貫通して二つの風穴を作り出した。
物体が通ってきた道程を怪人の目が辿ると、その先には怪人を襲撃しているロボットのうち2体が、実験場の壁際から柱の間を縫うようにライフルを構えている。
『狙撃失敗、ポイント変更開始・・・』
---ガシッ
『!?』
狙撃を交わされ、すぐさま位置を変えようとするロボット達。
しかし、突然後ろから現れた手のようなものに首を掴まれたロボットは、二体ともそのまま後ろに引っ張られ、その場から姿を消し・・・
---ガガガガガガガガガガガッ
同時に怪人の両手にそれぞれ掴まれた状態で姿を現し、先ほど自分が撃った柱の陰や、それとは別の柱の陰から姿を現したロボット達の銃撃の盾にされ、襤褸屑のような姿となってその動きを停止させる。
「大分回り込んで来てやがるな・・・そろそろ真面目に動くか。」
全身が弾痕で穴だらけになり、内部からスパークが出るロボットの残骸を怪人はそう言いながら今襲撃してきていたロボット達に目掛けて回し蹴りで蹴り飛ばし、蹴撃の破壊力により空中でバラバラになったロボットの残骸は散弾のように進行方向のロボット達に襲い掛かった。
対するロボット達は、人型のものはそれを柱の陰に隠れてやり過ごそうとし、猟犬型は最低限の動きで躱しながら銃口を怪人へと向け反撃を試みようとする。
「よっと。」
それを確認しながら、怪人は自分の前に手を翳しながら前に向かって駆け出す。
すると怪人の進行方向の空間に突如として黒い渦のような、穴のような何かが形成され、猟犬型ロボットの発砲とほぼ同時にその渦に飛び込むことでその場から姿を消す。
標的の突然の消失に、ロボットたちは備わっているセンサー・カメラを総動員して周囲を警戒するが・・・
---ゴシャアッ!
次の瞬間、身を隠したロボットの内数体のすぐ左側にさっきと同じ黒い渦とともに姿を現し、突然の出現に反応が追い付かなかったロボットたちの頸部を擦れ違いざまに手刀で切り頭を跳ね飛ばした。そしてそれに他のロボット達が反応し反撃を試みようとするも、その前にすぐさま先ほどと同じように姿を消して・・・
---ゴシャアッ!
また、別の柱に隠れていたロボット達を同じように破壊し、同じように姿を消して別の柱の陰のロボット達を襲撃する。
そして隠れていたロボットの掃討が終わると、今度は猟犬型ロボットたちの死角を取る様に現れながら足元の残骸と共に落ちているアサルトライフルを二丁蹴り上げ、両手に持って姿を消した怪人を探している猟犬型に向け、頭部を正確に撃ち抜いて始末していく。
そうして、残骸の散弾の全てがようやく壁や柱に叩きつけられ、床に転がり落ちた頃・・・凡そ常人には瞬くほどの余裕があったかどうかという刹那の時間に、最終的に30体ほどのロボット達は、それと同じ分の残骸へと変えられることとなった。
『損耗甚大、標的の戦闘能力、上方修正。』
その様子を被害の範囲外から確認していた他のロボット達は、一度自軍の戦力を集め、通常歩兵と猟犬型を下がらせて重装歩兵を前に並ばせる。重装歩兵の後ろには砲台型が並び、歩兵とともに怪人に向けて銃口を向けた。
怪人はそれを確認すると、射線上に出ない様に柱の陰にまた身を隠した。
「そっちから集まってくれるとは嬉しいねえ。それなら今度はこれを使わせてもらおうか。」
『トリガー!』
怪人はそういいながら、腰についているベルト型の機械・・・その機械の左右に装填されている二本のUSBメモリのうち、左の道化師の靴のようなデザインのJの文字が刻まれた黒色のメモリを抜き取る。
そして、どこからともなくオートマチックタイプの拳銃を模したTの字が刻まれた青色のUSBメモリを取り出し、メモリのスイッチを押してから代わりにそれを装填してメモリの後ろのレバーを一回倒す。
『トリガー、ダウンロード。』
腰の機械が音声を発すると同時にTのメモリが光り、怪人の複眼が青みを帯びる。
更に怪人の左手に、大型の拳銃のような機械が青色の光とともに出現する。
拳銃はトリガーより先の銃身が下向きに45度折れて、その折れている部分からさらに黒い銃口が出ていた。
怪人は拳銃を構えると、一度挿したTのメモリを再度抜き取り、銃の上部から折れている前身の方にメモリを装填して前身を真っすぐに伸ばした。
『トリガー、マキシマムドライブ!!』
すると銃身から音声が鳴り響き、高音とともに怪人の各部にある黒色の球体から発せられるエネルギーが全身の黒いラインを通じて銃の内部に収束されていく。
収束したエネルギーは銃口の先に出てさらに収束を続け・・・
「・・・・・っ!」
怪人が柱の陰から躍り出て、額の水晶体と複眼を輝かせると同時に、銃口の先10㎝の位置で収束したエネルギーは極小の点になった後、直径10㎝程の黒い球形のナニカへ変貌する。その黒球の周囲は黒球に近づくほどに空間が大きく歪み、光すらも黒球に引き込まれていく。
それこそはまさに、本来地球上で現れるはずのない存在・・・【
所謂ブラックホールと呼ばれる存在が、今まさにそこで誕生していたのだった。
「消え失せろ。」
『標的、排除。』
ーそしてそれは、怪人が銃のトリガーを引いた瞬間前方のロボット軍団目掛け射出される。
ー対するロボット軍団は、姿を現した怪人目掛け、重装歩兵と移動砲台が各々の武装を放つ。
大小様々な弾丸やミサイル、収束したプラズマやレーザーが空間を飛び、弾幕となって怪人目掛けて殺到するが・・・
---ゴオオオオオオオオオオオオオオ
轟音を立てながら突き進む黒球が、放たれた弾幕の全てを自らに吸い寄せ、飲み込んでいく。
やがて一定の距離まで黒球に接近されたロボット達も、自分たちが放った弾幕と同じように引き寄せられ、圧壊し、同時にその強力な潮汐力の作用でスパゲッティのように引き伸ばされながら飲み込まれていく。
後ろに控えていた他のロボット達も、前のロボット達の様子から即刻退避しようとしていたが、既に遅かったのか地面に踏ん張ることすら許されず、柱の傍にいたものはそれにしがみ付いていて多少耐えていたものの、健闘空しく同じ結末を迎えていった。
そうして、やがて黒球はロボット達のいた場所の中心まで行きつくと、不思議な事にロボット以外にはさほど大きな影響を及ぼすことはなく、そこで静止した後収縮し、消えてなくなった。
「・・・・・・」
---ビィーーーーーーーーッ!!
『報告。敵陣営、全滅。ただ今をもって、訓練プログラムパターン79を終了いたします。お疲れさまでした。』
怪人が辺りを見渡し、知覚範囲から全てのロボットが消失したのを確認した直後、どこからともなく鳴り響く喧しい音とともに抑揚のない電子音声がそうアナウンスした。
それを聞いた怪人がベルトと銃に装填されたUSBメモリを引き抜くと、その直後に怪人の外骨格が砕け、ベルト中心の赤色のパーツに吸い込まれ始めた。
同時に外骨格の中身は光に包まれ、あっという間に150㎝程の身長に縮んでいき・・・
「あ゛ぁ゛~~~~、つっかれた・・・」
白いTシャツと黒い綿パンを身に纏った、少年へと姿を変えたのだった・・・
「ゴク、ゴク、ゴク、ゴク、ゴク・・・・ぷはぁ!運動後のポカリうま!」
一昨日届いたドライバーとメモリの試運転を終え、俺は実験場の待機室で両手にウイ〇ーインゼリーとポカリスウェットを持って休憩をとっていた。
久々に変身して戦った結果が想像を超えて満足のいくものだったことに、俺の気分はかなり良くなっていた。
あれ程の力、人間界に訪れている魔族や米連の最新鋭のサイボーグでも使える奴はそうそういない。
俺の知っている中じゃ、現在人間界で活動している裏の勢力の中でこれに単純なスペックで迫れる、あるいは凌駕してきそうな奴は、今のところ井河アサギや、ノマドのトップや一部の幹部、後は吸血鬼の国の女王様くらいなものだ。
まあもちろん、搦手を使われることを考慮すれば他にも気をつけなくちゃいけないメンツは山ほどいるし、これくらいのことで調子に乗ってはならない事も十分に分かっている。
この業界は、一つのミスがいっそ死んだ方が救いになると言えるほどの悲惨な末路に繋がるこの世の地獄だ。
緊張の度合いはリトライのチャンスがない分、昔のダンジョンでの探索を余裕で上回っている。
気を引き締めてかからねえと。
・・・・・・・・・ただそれはそれとして、やっぱりこの手の実験は楽しい。
立ち向かうべき状況は中々酷いもんだが、子供の頃憧れたヒーローと同じ力で戦うという、子供時代からの夢の一つがこうして叶っていることはなかなか悪くない。
---ウィーーーンッ
「ん?」
急に廊下側の自動ドアが稼働し、俺は反射的にそっちの方に首を動かす。
・・・・扉の前には、今では違う意味で見慣れてしまったやつの姿があった。
「今回は中々良いデータが取れたぞ、泰寛。このカーズが作り出したドライバーは余程使い心地が良かったようだなぁ。」
「ああ、前回の数分で変身機構がゴミに変わってた頃が嘘みたいだ。これなら安心して実戦で使える。」
空いた扉から部屋に入り、俺にそう声をかけてきたのは、身長190㎝大のローマの彫刻みたいな美しい肉体美を誇る、頭部に三本の角を持ったほとんど裸のマッチョマン・・・昔ダンジョンで捕まえ、ヘブンズ・ドアーで協力者に仕立て上げたカーズの一人だった。
遡ること9年前、俺が将来を見据えた資金集めをしていた頃・・・前世では一生お目にかかることが出来なかったであろう桁数の資金を調達し終えた俺は、次の段階への移行を考えていた。
それは、自分のスタンド能力に頼らない武力や生存手段の確保だった。
前にも言ったが、この世界の裏社会ではスタンド能力並みに多種多様な能力を持った存在が跳梁跋扈している。
その中に、他者の能力を問答無用で奪い取ったり封殺することが出来る奴がいる可能性を考慮した俺は、そんな奴の所為で自分の能力が使えなくなった場合の対処方法を安定して入手するための手段として、当時既に倉庫の使い過ぎで眠っていても倉庫との接続を維持できるようになっていた事を利用し、ダンジョンで捕らえたカーズに命令を書き込んで技術開発をさせる方法をとった。
万が一洗脳が解けて反逆されたら、とは考えたが、闇の連中との関わりの方が軽視するとまずいと考え、開発に携わる際にはG・E・レクイエムを装備することを条件に利用することを決断した。
不安は今もなお付きまとっているが、ダンジョンの敵とはいえさすが石仮面を作り上げた天才だけあって、得られた成果は絶大だった。
初期に挙げていた【俺の手持ちのスタンド能力を科学技術で再現する】という目的はその圧倒的知能と膨大な資金により俺が7歳の誕生日を迎える頃にある程度達成され、そこから得られた数々の知識や技術などの成果を基に、偶々思いついた仮面ライダーのテクノロジーを再現するプロジェクトを含め、様々な超常的兵器の開発が現在着々と進行している。
この、今回俺が使ったドライバーとガイアメモリのように。
因みにこれらの道具は、アンダー・ワールドやホワイトスネイク、ハーミット・パープルなどの記憶や魂を扱ったりするのが得意なスタンド能力の再現技術を基に作られたものだ。
俺が言うのもなんだが、本当に良くできていると思う。
この調子で、他の部署の成果にも是非期待したいところだ。
「・・・・・・・」
「?なんだよ。」
「いや、何でもない・・・それより泰寛よ、念のため医務室で身体検査を受けてくるといい。貴様のシンギュラリティーメモリにはまだ私ですら把握しきれない力が秘められている。今のところ貴様の状態は想定の範囲内だが、万が一ということもあるだろう。」
「そうか・・・分かった。」
「ドライバーとメモリは一度こちらで預からせてもらおうか。データ次第では調整も必要だからな。」
「ああ・・・ほい、これ。」
「うむ、確かに。」
言われた通りドライバーとメモリを引き渡し、俺はゼリーとポカリを一気飲みして部屋内のごみ箱に容器を投げ込む。
「じゃ、行ってくるわ。後よろしく。」
「うむ・・・・・・・・・・そうだ泰寛、その前に少し話がある。」
「?なんだ。」
カーズの隣を通り、部屋を出ようとしていたところで声がかかり、俺が振り返ると、行ったいどっから取り出したのか、カーズは東京のとあるおもちゃ屋のチラシを突き出していた。
「・・・・・・なにこれ?」
「フッ、実は来週からポ〇モンの等身大ぬいぐるみが入荷するとの知らせが入っていてな・・・全種をコンプリートするために追加の予算をよこせ。」
「お前はいったい何を言ってるんだ。」
思わず困惑しながら聞き返してしまう。
「ちなみにこのカーズ以外にも、他の支部のカーズも同じ予算を要求している。というわけで来週までに口座に振り込んでおけよ?」
「ちょっと待て、いろいろ突っ込みたいことはあるけどその前に、普段お前らに振り込んでいる給料やらなにやらはどこ行った?自分で言うのもあれだけど結構渡してるはずだよな?」
因みにだが、俺はダンジョンで捕まえた連中に対しある程度働きに見合った金を払っている。
洗脳してやらせていることとはいえ、こういうのがあった方が当人たちもやる気を出すだろうと踏んでのことだ。
おかげで出費は割と嵩んでいるし、どれほどの効果があるのかは正直分からない。これに関してはほとんど気分で始めた制度だし。
「そんなもの夏のイベントで使い切ったわ。」
「まだ夏はこれからなんだけど!?お前らほんとに俺の知らないところで何やってんの!?」
「というわけで任せたぞ!」
「あ、おいこら!待ちやがれぇえええ!!」
・・・・・・・・・・結局その後、言われた通り俺は奴らの口座に予算を振り込むことになった。あいつ、昔掲示板で見た荒木荘の奴に段々行動パターンが似てきてないか?
・・・・せめてあいつらが買ってきたものを俺もモフらせてもらうことにしようと、金を振り込みながら誓うことにした。
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8月31日、まだまだ夏の暑さが引かぬ今日この頃、五車学園初等部の夏休みも終了し、校舎内では2学期の始業式を終えて教室に集まっていた学生達の大半が、担任が来室するまでの時間を夏休み中の話で盛り上がることで過ごしていた。
「なあ、聞いたか?あの噂・・・」
「噂?…ああ、あれか。確か転校生が来るってやつ。」
「お兄ちゃんから聞いた話なんだけど、何でも上級生の弟さんが対魔忍の力に目覚めて急遽転校してくることになったんだってさ。」
「私、見たことあるかも。ほら、確か中等部の三年と二年の梶原先輩達の・・・」
「なにそれ?詳しく聞かせてよ。」
---ガラッ
「全員、静かに。これよりホームルームを始める。」
生徒たちが賑わう教室の扉を開き、一人の女性教師が一人の少年を伴って入室する。
生徒達は教師の言葉に従い、一度は口を閉ざしたが、教師の後についてきた少年の姿を確認するとヒソヒソと話し声がどこからともなく教室内に響く。
「今日から新しく、お前達とともに一人前の対魔忍を目指して入学することになった。おい、挨拶をしろ。」
少年は「はい」、と一言だけ返すと、気だるげな眼差しで後ろの黒板に向き、手に持ったチョークで自分の名前をサラサラと書いていく。
「{コトッ}今日からここに入ることになりました、梶原 泰寛です。皆さん、よろしくお願いします。」
書き終わってチョークを置き、少年は生徒達へと向き直って挨拶をする。
突然の転校生の登場に好奇心が刺激されているのか、それとも少年の持つ年頃の子供とは思えないような、どこか異質な雰囲気を感じ取ったのか、生徒達のヒソヒソとした話し声は一向に止む気配がない。
---パンパンッ
「皆さん!今は自己紹介中です。先生と転校生の方の話をちゃんと聞きましょう!」
それを見かねたのか、席の二列目、教師と少年が入ってきた扉側に座っていた一人の女子生徒が立ち上がり、生徒たちに注意を促す。
それを聞き、生徒たちは一旦話を止める。
「ありがとう、氷室。梶原、他に何か言うことはあるか?」
「いえ、特には。」
「そうか・・・お前の席は氷室・・・そこに座っている女子の隣だ。クラスの事で何か聞きたいことがあれば彼女に相談するといい。」
「わかりました。」
少年は一言そう言い、先ほど注意をしていた女子生徒の隣にある空いている席に荷物を下ろし、少女にお辞儀と挨拶をする。
「よろしくお願いします。」
「は、はい!こちらこそよろしくお願いします。」
「それではこれよりホームルームを始める。まず2学期の日程についてだが・・・」
こうして、新たに加わった対魔忍のお迎えは、何事もなく当たり前のように終わったのだった・・・