デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

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また長いこと期間が空いてしまった・・・ちょっと最近また仕事が忙しくて・・・



諜報機関の養成所が、こんなに緩くていいんだろうか?(対魔忍)

新作のライダーシステムの試運転から、一ヶ月弱が経過した。

この間やってきたことといえば、転生してから今までの長期休暇の過ごし方とあまり違いはないと言って良い。

早朝に起きれば、体力作りと手持ちの技術の研磨、もしくはアイテム収集を兼ねたダンジョンの探索を行い、パールジャム入りの朝食による回復をする。

その後は各支部から送られてきた報告書の閲覧とそれらに基づいた必要な資金や資材の割り振り、証券売買、或いは五車町を抜け出し、東京キングダムやヨミハラなどの暗黒街を駆けずり回っての金策や物資の調達などを時間の許す限り毎日行っていた。

・・・・・・正直めっちゃしんどかった。空間転移の技術が確立していなかった昔と比べれば、今は移動にかかる労力が遥かに軽減している分マシにはなっている。

だがそれでも、常にどこから狙われるかを意識しなければならない環境の中ギャンブルに参加したり、襲っても証拠を残さずに済みそうな非合法の店を見繕ってそこを襲撃するというのは万全の態勢を持って臨んでもなおこっちの精神力を消耗させられる。

後単純に、裏社会の実態そのものがこっちのSAN値をゴリゴリ削ってきやがる。

賭博場からその辺の風俗、果ては路地裏や大通りなど、時間や場所、老若男女を問わず敗者は尊厳の尽くを蹂躙され、最後は塵の様に打ち捨てられる・・・・・そんな最後ならまだましなもので、下手に何かしらの特異な素質があろうものなら凶悪な科学者や魔術師に文字通り面白半分で原形を留めないほど改造しつくされた挙句、正気のまま永劫モルモットやカレンデバイスみたいな状態にされたり、呪術の道具に取り込まれて呪いの一部になったり・・・あれこそまさにこの世の地獄。悪徳と堕落と残酷の坩堝だった。

そんな状況に幾度となく遭遇し、無論、相手が一般市民ならば助けられる範囲で何とか助けるようにはしてきたが・・・それでも、どうにもならなくなってしまったものは決して少なくない。

何が悲しくてこんなことをやっているのかと、心の底から思わない日はなかったと思う・・・・・それでも、やるしかないんだけどな。

あんな末路はそれこそ死んでも御免だし、望んできたわけじゃない奴をそこに置いてけぼりにしていくのも後味が悪いからな・・・・・・

 

・・・・・・・・・・話を戻そうか。

前述のような流れで、偶に寮を訪れる姉達の誘いを学校での鍛錬以外断り、一月ほど過ごして・・・とうとう俺は五車学園に正式に入学した。

精神的な年齢の問題ではあるが、まさかこの年になって昔見たことのある転校生入学時の質問攻めイベントをやらされるとは思っていなかった・・・初めて味わったけど、あれって相当きつかったんだね。記者会見とかで質問攻めをやり過ごせてる偉い人達、素直に尊敬するわ。

・・・・・とまあ、そんなわけで慌ただしい初日を終了し、俺の学園生活はスタートした。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

入学して一週間が経過した頃・・・時刻は午前7時半。

俺は学生寮から出て、懐かしき日本家屋の並ぶ街並みを抜けて、五車学園の校門からグラウンドに入る。

 

 

「「「「「イッチ!ニッ!イッチ!ニッ!イッチ!ニッ!」」」」」

 

 

---ガキンッ!シュババ!ガガガガガガガガッ!

 

「おおおおおおおお!!」

「ちぃっ!また腕を上げやがったな!」

 

グラウンドでは運動部の部活に入っている連中や、全身ピッタリスーツの対魔忍の装束を着た熱心な候補生達が蒸し暑い空気の中暑苦しく汗を流しながら頑張って組み手をしている様子が窺えた。

きっと地下では、似たような感じで先輩方や先生達も訓練に励んでいることだろう。

そんなことを考えながら校庭を抜け、校舎の玄関口で靴を履き替えて自分の教室を目指して歩いていく。

 

 

 

---ガラガラガラッ

 

「あ、おはようございます、委員長。」

「あら、梶原さん。おはようございます。」

 

教室に入るとすっかり見慣れた少女・・・紫陽花色の髪を長く伸ばした気の強そうな鋭い視線を持つスレンダーな身体つきの少女が、自分の席で教科書とノートを広げて自習をしていた。

 

彼女は氷室 花蓮。今では見知った顔となった彼女は現在クラス委員長を任されており、クラス内の纏め役として活躍している。

俺が今まで通っていた学校なんて、前世でも今世でもクラス委員とか形だけのようなことが多かったが、彼女の場合はそんなことはなく、傍から見ても立派に先生に変わってクラスメイト達を纏められている。

風紀委員を務めている上級生や規律を重んじる傾向にある先生達からの覚えもよく、成績も優秀で、まさに優等生といった人物像の持ち主である。

あえて欠点を上げるとすれば、こんな阿漕な裏家業に関わる組織の人間でありながら感性は一般的な善人で、尚且つ中々融通の利かない性格をしているというところか。

普通の一般社会でなら文句なしの好人物だが、闇の住人からすればそんな人間はちょいと搦手を使えばすぐに釣れる絶好のカモだからな。

おまけに美少女で、実力もこの年にしてはかなりのもの、将来性を考えれば煮て良し焼いて良しヤって良しの色々な意味で旨すぎる獲物になるだろう。

 

彼女を見ていて、ふとそんなことを考えながら、俺は彼女と挨拶を交わして自分の机に近寄っていく。

・・・・教室内には彼女以外の姿はないが、幾つかの席にカバンが置いてあるところを見るとどうやら他の面子は外にいるのかもな。今日は確か朝のホームルームの後から戦闘訓練があるらしいし、今のうちにウォーミングアップでもしているんだろう。

氷室自身も、よく見ると制服の下に対魔装束を身に纏っているのが見える。

俺?俺は学校に来る前に既にウォーミングアップも終えてるし、装束も制服の内側に着てきてるから問題ない。着替えてるときに自分の対魔忍装束を着た姿を姿見で再確認して気恥ずかしくなったのはここだけの秘密だけどね。

・・・・・この服、マジで自分の着る分だけでも将来的にどうにかしないと。こんなピッチピチのレオタードみたいなのを男が着るとかいろんな意味で辛すぎる。

 

「どうですか?梶原さん。クラスには上手く馴染めそうですか?」

 

机に持参した教科書と筆記用具を入れていると、勉強していた彼女が横からそう声をかけてきた。

 

「そうだね・・・色々と大変ではあるけど何とかやっていけそうだとは思う。」

「そうですか、それはなによりです。」

 

俺の返事に、どうやら委員長は喜んでくれたようだ。

正直なところ、彼女にはいろいろと世話になっている。

校内の利用できる施設や気を付けることなんかは夏休みの間に教師や姉達から概ね聞いて知っていたが、流石に編入するクラスの人間関係なんかはよく知らなかったからな。

先の質問攻めや通常のクラス内交友で足りない部分を彼女にフォローしてもらうことも少なくなかった。

おかげでクラスメイトの人柄や傾向なんかも今はそこそこ掴めているし、今のところ可もなく不可もなく、厄介な揉め事なんかもなくやっていけていると思う。

 

「何かお困りのことがあったら、いつでも行ってくださいね。委員長としてできる限りお手伝いさせていただきますので。」

「ありがとう。その時は是非とも頼らせてもらうよ。」

 

・・・・そこで会話が終わり、彼女はまた自習に戻った。

俺も俺で教科書を取り出し、ぼんやり読みながら適当に過ごすことにする。

それから暫くすると、自主練から戻ったであろう連中や、今登校しましたといった感じのクラスメイト達がちらほら教室に集まってきて、各々ホームルームが始まるまで適当に席に座ったり雑談を始める。

隣で氷室に話しかける生徒もいて、内容を盗み聞きしていると、どうやら彼女は誰よりも早く来て軽く一通り自主練をしてからここで自習をしていたこともわかった。だからと言ってどうというわけじゃないが・・・

 

---ガラッ!

 

「ホームルームを始めるぞ。全員席に・・・ついているな。結構。」

 

時計が八時を指し示す頃、うちの担任教師(男)が教室の扉を開けて中に入ってくる。

入るなり着席を呼びかけようとはしていたが、そこは我らがクラス委員長。事前に呼びかけて全員座らせていたから問題はなかった。

 

「では本日の日程と必要事項を説明していくぞ。まずは・・・」

 

その後、今日の連絡事項を話してホームルームが終了し、俺達は時間割通り着替えてグラウンドに集合することととなった・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「「・・・・・ハァアアアアアアアアアアアッ!!」」

 

---ギュィイイイインッ!

 

・・・・・残暑の煮え滾る様な熱が満ちる日差しの中、二人の男の姿が俺の眼前で交差する。

姿が重なると同時に響き渡った金属音は、彼らの各々の手に握られた忍者刀の衝突音だ。

 

---ギィンッ!ガキンッ!ガンッ! ギャリィンッ!

 

攻防は、実にぎりぎりのところで行われていた。

袈裟切り、逆袈裟、刺突、横薙ぎ、切り上げ、足払い、フェイント、掌底・・・・互いの繰り出す白刃を互いに躱し、いなし、防ぎ、弾き、反撃する。時に互いに距離をとれば、野生の虎や豹を思わせるしなやかさと瞬発力をもって周囲を縦横無尽に駆け回り、隙を窺って、また鋭い剣戟を、或いは他の四肢を用いた体術を互いに向けて繰り出す。

歳にすれば思春期に入ってそこまで経っていないであろう彼らの見せる身体能力は、さすが魔族と戦うために生まれ、育てられてきただけあって既に常人のそれを遥かに上回る境地に達していた。

特殊な訓練を受けた軍人や兵士であっても、これを前に一合と持つような輩はそうそうお目にかかることはできないだろう。

 

「やああああああっ!」

 

何十という攻防の後、一方の男が足への刺突を途中で切り返し、上段に忍者刀を持ち替えてもう一方の男に切りかかる。

 

「!シッ!」

 

---ガッ!

 

「がぁっ!?」

 

その剣戟をもう一方の男が、咄嗟に逆手に持ち替えた忍者刀で左に受け流しながら相手の右脇腹に右膝蹴りを叩き込んだ。

衝突の瞬間、一方の男は咄嗟の判断で半歩後ろに飛んでダメージを軽減させていたが、その後のやり取りは先ほどと比べて打たれた男の方の動きに陰りが見え始め、徐々に追い詰められていっている。

その後さらに数十合の打ち合いの後、体の所々に切り傷を負い、防戦一方となっていた一方の男が相手の手元に集中しすぎた瞬間の意識の隙間を見事に突かれ、視界の外で足を払われて体勢を崩した。

そしてその後、体勢を立て直す前にタックルを食らい一気に地面に引き倒されて、馬乗りになられ動けなくなってしまう。

そのまま一方の男が、持っていた忍者刀をもう一方の男の首へと振り下ろし・・・・

 

「そこまで!」

 

突如グラウンドに力強い声が轟いた直後、戦っていた二人の動きが止まる。

馬乗りになっていた男の忍者刀は、相手の喉元を切り裂く寸でのところで止まっていた。

そのまま、数秒ほど二人の間で睨み合いが続き・・・・・上に乗っていた男が「ふう」と一息漏らすと上から退いて、忍者刀を背中の鞘に納めた。

押し倒されていた男も首元を摩りながら起き上がり、同じく忍者刀を鞘に納めて相手の男とともに、自分たちの戦いを見守っていた生徒たちの方へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「お、今回は上村の奴が勝ったのか。」

「あいつもまた腕を上げたよな。こりゃうかうかしてらんねえぜ。」

「ねえねえ、次はどの組がするんだっけ?」

「確か次は・・・」

 

---ざわ・・・ざわ・・・ざわざわ・・・ざわ・・・

 

「隠密機関の学校とはいえ、小学生の歳ならこんなもんか。」

 

授業に参加している生徒達の緩い雰囲気から、俺は今更ながら何とも言えない気分でそう呟く。

俺のクラスは現在、対魔忍の装束に着替えてグラウンドで4つの班に分かれ、それぞれ一対一で一組ずつ戦闘訓練を行っていた。

ちなみに入学した当初、俺は基礎体力と武器の扱い方の訓練だけして実践訓練は見学していたが、教師からOKを出されて俺も今日からは実践訓練を受けることになっている。とりあえず今回は、事前に対魔忍側に知られている情報以上のことはせずに訓練を無難に終えることを目標にしていこうと思っている。

波紋法も肉体の強化には使うが、これを使った相手への肉体への干渉はここぞという時以外は控えていくつもりだ。

 

「クソ!まんまとやられちまったぜ・・・」

「ヘッ、これで今回も俺の勝ちだな。これで体術勝負は連続10勝目、今日は稲毛屋で何奢ってもらおっかな~?」

「言ってろ。午後の忍法ありの訓練じゃ俺が勝って巻き返してやるからよ・・・・にしても今日もあっちぃ~な。」

「炎天下の中だろうと平常通り動けるように訓練するため、だっけ?ほんとにこんなの意味あんのかよ?上級生たちは皆地下の訓練場でやってんだろ?」

「だよなぁ・・・・まったく、上級生たちがうらやましいぜ・・・」

 

ふと耳を澄ますと、さっき戦っていた俺の班の一組目が後ろの方で、用意されていた麦茶を片手に持って話している声が聞こえる。

さっきまで死闘を繰り広げていたとは思えないほど、お互い平和的なやりとりだった。ノリが表社会の普通の学校と違わなすぎるくらいだ。

・・・・・・正直なところ、裏社会を渡っていく連中の養成機関がこんなに緩い環境でいいのかと思わないこともない。ここの実態を知る前の俺の予想では、もっとこう、自衛隊の訓練内容をさらに先鋭化させたような、効率だけを最大限に突き詰めたようなえげつないカリキュラムを死に物狂いでやらされているものかと思っていたのに・・・まあそれはそれで、俺の予定を挟む余地がなくなっちまうから正直助かるっちゃ助かるが・・・うーん、なんだかなぁ~~~

 

 

「・・・・それはそれとして、相変わらずいつ見ても凄まじいな、対魔忍の身体能力は。」

 

取り留めのない考えに耽りかけていた思考を切り替え、そう言って思い出されるのは、さっきまで見ていた他の組の訓練の様子。

基本的に対魔忍は、生まれつきの高い身体能力に加えて幼少の頃に忍法と呼ばれる超常的な力に目覚める。

対魔粒子と呼ばれる魔族由来の物質を体内で生成し、エネルギーに変換することで発揮されるこの力は、使用者の肉体を特撮のヒーローのような超人染みた肉体に変え、スタンド能力のような物理法則を超えた現象を引き起こさせる。

そのため現場に出て仕事をしている対魔忍のほとんどは、以上の能力に加え今行っているような戦闘訓練を積み重ねることによって技術を身につけ、その技術で力を最大限に生かし、通常の軍隊が束になっても普通に壊滅する恐れのある魔族が、真面に戦えば束になってもかなわないほどのとてつもない戦闘能力を発揮する。

これが人手不足極まる対魔忍という組織が日本の裏社会で一勢力として恐れられている理由であり・・・・・同時に、俺が対魔忍になりたくなかった理由の一つでもある。これがまた本当に厄介なんだよ・・・

 

 

 

「そこ!休憩中でも私語は慎むように!次の組!早く配置につけ!」

 

そんなことを考えている間に休憩中に喋り捲っていた生徒達を教師が注意し、次の組の戦闘を促す。次の班は・・・・俺か。

 

「お、次は俺達の番みたいだぜ転校生。」

「どうやらそのようで。」

「そこ!もたもたするな!早く訓練を始めろ!」

 

立ち合いの先生に急かされ、俺と俺の組手相手はそれぞれ配置について支給されている武器を構える。

相手は忍者刀とサブウェポンに全身に身に着けた苦無。

俺は支給された小太刀を右手に持ち、左手には持参した十手を持っている。

十手は柄の下部分が輪になっており、腰につけてある巻き取り器の付いたワイヤ―ロープを取り付けて鎖鎌の分銅のように扱える仕様だ。

 

「そんじゃあいっちょ掛かってきな、転校生。対魔忍の戦い方ってやつを教えてやるよ!」

「・・・お手柔らかに。」

 

気合十分といった感じのクラスメイトに、俺は波紋の呼吸と全身の適度な脱力を保ちながら端的にそれだけ返す。

 

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・ッ!」

 

互いに構えをとったまま睨み合いが十秒ほど続いた後、クラスメイトの体が深く沈み込んだ。

その直後、10メートルは離れていたクラスメイトが俺の眼前1メートルの位置に一足飛びに現れ、構えていた忍者刀で俺の喉元向けて刺突を放つ。

俺は右足を引き、迫ってくる刀身の横に十手を添わせながら右足を引き、半身になって躱す。

攻撃が防がれたと判断するや相手はすぐに刀を引き、次の攻撃を行った。

 

「オラァアアアアアアアア!!」

 

逆胴、首への薙ぎ払い、腰を落として足への振り下ろし、肩・・・に見せかけた腕への攻撃、下からの振りあげ、鍔迫り合いから鳩尾を狙った蹴り・・・下手をすれば第一部のディオやストレイツォと正面から真面に戦えるであろう速度の攻撃を、俺は相手の目線や構え、筋肉の動き、呼吸、重心の移動や踏み込み方などから持ち前の経験を基に予測し、単純な速力の差を動作の最小化と初動の差で補い回避や防御を淡々と行って、偶によさそうなタイミングがあれば反撃を試みる。

 

「おもしれえ!思ってたよりやるじゃねえか!」

 

七十は越えたであろうやり取りの後、鍔迫り合いに持ち込まれると相手のクラスメイトが唐突に楽しそうにそう言う。

俺はだんまりを決め込み、今後の展開に思考を巡らせる。

正直なところ、こいつ自身は今の縛りを維持したままでも勝てる相手だ。身体能力はおそらく諸々含めてこいつの方が上だろうし、実際攻撃の鋭さも重さもまともに防御してはいけないと思われるほどだが、未熟な所為か俺を無意識に見下しているからか、行動が単調で分かりやすい。経験と波紋法による強化で十分補える範疇だ。

ただ、こっちは呼吸が乱れれば練り上げた生命エネルギーによる強化が激減していくのに対し、向こうは意識があれば対魔粒子が尽きない限りいつまでも超人的な身体能力を発揮し続ける。

まだまだ息切れには早い状態だが、長期戦になればなるほどこっちが不利になるだけだろう。程々なところで隙を作って一気に決めるのがベストか・・・

 

「へっ、だんまりか・・・よッ!」

「!シッ!」

「な!?」

 

クラスメイトが俺を力尽くで押し返そうとしているのを読んで、相手が俺に向けて更に力を籠めると同時に相手の刀を十手の鉤で抑え、身を引きながら自分の右に相手を投げる。

 

「ジャッ!」

「グハッ!?」

 

すかさず鳩尾に左足で波紋エネルギーを一点集中させた爪先蹴りを放ち、内部に浸透させつつ相手を吹っ飛ばした。

咄嗟に反対向きに飛ばれたせいで蹴りの威力自体にはダメージを期待できないが、今はこれでいい。

相手の立て直しに時間がかかると踏んだ俺は、十手とワイヤ―ロープを接続しながらすぐに距離を詰めて追撃を試みる。

 

「ゲホッ、なめんな!」

 

クラスメイトは地面を転げながら左手で地面を叩き、跳ね上がると同時に足のホルスターから苦無を複数取り出して投げつけてくる。

俺はスピードを落とすことなく摺り足で斜め前にかわし、相手の着地を狙って最小の動きで十手を投げ、足に当てて体勢を崩させる。

持ち直そうとしているクラスメイトに、俺はロープを巻き取って十手を回収しながら接近して攻撃を繰り出す。

 

「ハァ・・・!ハァ・・・!ぐ、この・・・!」

 

十合ほどの斬り合いの後からだろうか、クラスメイトの顔色が徐々に悪くなっていった。顔からは血の気が引いていき、心なしか額から流れる汗の質が脂汗に近いものになっていっているように見える。

斬り合いが進むにつれて段々と太刀筋も鈍くなり、足はまるで何かに必死に耐えているかの様に内股になっていく。

その様子からさっきの一撃が狙い通りにいってくれていることに内心ほくそ笑み、俺は透明化していた矯正マスクを瞬時にアライブに外させ、態と乱れた荒い呼吸で自身の消耗を装いながら相手に攻撃を仕掛けていく。

 

---グルッ グギュルルルルルッ

 

更にそのまま数十秒ほど経過すると、段々クラスメイトの腹のあたりから腸が激しく動く音が鳴りだし、相手の攻撃の勢いが更に落ちていく。

防御の質も目に見えて落ちているため、その粗さを突いて俺は攻撃のための手数を増やし、相手を追い詰めていく。

 

「グ・・・オ・・・ああ・・・な、なんでだ!?なんでいきなり腹が・・・」

「ジェアアアアアアアア!!」

「ちょ!ま、待て!」

「そういわれて待つ敵はいねええええええええ!!」

 

相手の待ったの声を切り捨て、休む間を与えないよう攻撃の手数を更に増やしていくと、最初の威勢よく切りかかっていた様子がほぼ完全に消え、今ではほぼ向こうが防戦一方となっていった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・{ギュルルルッ}はぅあっ・・・!くそっ、なんだって急にこんな・・・」

 

---ギィンッ!

 

「あ!?」

 

腹の状態に気をとられた隙を突き刀を十手で弾き飛ばし、小太刀を首に突き付けた。

 

「どうする?」

 

そのことに呆気にとられたクラスメイト・・・彼は自分の首に突き付けられた刃と突きつけている俺を睨み、何とか逆転のチャンスを必死に探している風であった。

 

「そこまで!」

「!?待ってください先生、まだ・・・{グギュルルルルッ}ぐぅうう!!」

「いや、駄目だ。どう見ても勝負はついている。二人とも、場所を退いて次の班に番を回せ。」

「了解です。」

「・・・・・・・・・クソ!!」

 

俺が突き付けていた剣を引き、武器を収めながらグラウンドの隅に移動していくと、食い下がっていたクラスメイトも不満そうではあるが諦め、ヨタヨタとしながら手放した忍者刀を回収してこっそり校舎の方に向かっていった。

その様子を見届け、俺は配置されている紙コップをとってポットから麦茶を注ぐと、周囲の生徒から離れた隅の方で座って一息つく。

 

「ふう・・・・・午後の授業はどうするかな。」

 

他の戦っている生徒達の様子を遠目から伺いながら、午後の授業について考える。

俺が戦う前に他の生徒が言っていたが、午後の授業では忍法ありでの実践訓練だ。

さっきまでの超人的な戦闘能力にプラスして、個々の超能力の使用許可が出る。

それらに対し、俺がその時に使える能力は事前に通達しておいたアライブの倉庫を呼び出すことだけ。

一応倉庫内に入れている武器の使用許可は出ているが、使える武器は現代の技術力に合わせて作られた忍者の道具や裏社会でなら普通に手に入れられる程度の安く威力も低い火器弾薬、鎮圧用のスタングレネードや催涙煙幕、捕縛用の各種道具類やトラップツールなど。

今の戦いをちゃんと見ていた奴らと当たったら、俺の評価を上方修正してそれらしい立ち振る舞いに変えてくるだろうし・・・

 

「ま、なるようになるしかねえかなぁ・・・」

 

そう言って、コップに残った麦茶を飲み干し、俺はお代わりを求めて麦茶のポットの方に再度向かった。

 


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