デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

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第五十三話

 

===6:20 海鳴市某所【八神宅】===

 

「ん、んう~~~・・・なんや、もう朝かいな。」

 

カーテンの隙間より刺した陽の光が顔に当たり、八神はやてはその眩しさで目を覚ました。

彼女は少し目を擦りながらふと、一緒のベッドで寝ている自分の家族・・・ヴィータが気持ちよさそうに寝ている姿を見てくすっと笑い、出来るだけおこさないようにしながらベッドの近くに置いてある車椅子に乗って、静かに自室を出て行った。

 

「{カチャ・・・}お、今日も皆ちゃんと帰ってきとるな・・・」

 

リビングへ入る扉を静かに開けて中を覗くと、ヴィータ以外のヴォルケンリッターであるシャマル、シグナム、ザフィーラがそれぞれ机、ソファー、床に寝そべっている姿が彼女の目に入る。

「ザフィーラはともかく、シグナムとシャマルは毛布もかかっとらんやん。女の子が体冷やしたらあかんのやで、もう・・・」

 

それを見てはやては肩をすくめ、やれやれと苦笑しながら二人と一匹のために掛布団を用意し、器用に車椅子を動かしてそれぞれの身体にかけた。

「これで良し」と内心で呟いた彼女は、次にキッチンへと赴いて朝食の準備を始めていく。

 

「~~~~♪~~♪~~~♪」

 

豆腐、玉ねぎ、大根、人参、若布、葱、油抜きした薄揚げを包丁で切ったら、出汁を取ったお湯に投入し、丁度良い所でその中に味噌を投入し、鍋に蓋をする。

そしてその隣の焜炉で温まっている湯に一つまみ程塩を入れ、食べやすい大きさに切ったブロッコリーをこれまた茹で、タイマーをセットしたらその間、卵、ベーコン、レタス、トマト等々・・・冷蔵庫から別の材料を取り出した後、手慣れた手つきで調理を始めていく。

流し台の中で野菜を洗い、水を切ってまな板の上で野菜やベーコンを切る音が軽快に響く。

 

 

 

 

「んん・・・・・・あ、主。」

「クゥ~~~~・・・」

「むにゃむにゃ・・・あ、はやてちゃん!おはよう!」

やがてキッチンからの物音を聞いて、リビングで寝ていたヴォルケンリッター達が目を覚まし始めた。

彼女らの目覚めを察知したはやては調理場から彼女たちに挨拶をする。

 

「おはよう、シグナム、シャマル。また遅くまで何かやっとったん?」

「あ、アハハハ。実はそうなのよ。ね、シグナム?」

「ああ、そうだな。」

「皆の事やから大丈夫やとは思うけど、あんまり夜更かししたらあかんで。」

「申し訳ありません主・・・」

「うん、そうね。気を付けておくわ。あ!はやてちゃん、何か手伝えることはあるかしら?」

「ん~~、そうやな~。じゃあお皿の準備とかしといてもらえる?」

「ええ、わかったわ。」

 

シャマルはそう言ってキッチンへと向かう。

ザフィーラは出来る事はなさそうだと考えて邪魔にならない所に移動し、シグナムは顔を洗いに洗面所へと行ってしまった。

 

 

---ガチャッ

 

「んにゅ~~~・・・・・・」

「あ、おはようヴィータ。」

「おはよう・・・はやて・・・」

 

朝食の準備が後もう少しで出来るという所で、まだ眠たげに眼を擦りながらヴィータがリビングへと入室してきた。

はやてが朝の挨拶をすると非常に眠たげに返事をし、キッチンの方から漂ってくる朝食の匂いをかぎ取る。

 

「・・・ご飯の良い匂い・・・」

「もうちょっとで出来るから、先に顔を洗ってきい。」

「うん・・・分かった・・・」

 

ヴィータはそう言って洗面所へと行った。

その間にはやては、洗面所から戻ってきていたシグナムやシャマルと一緒にテーブルへとご飯の配膳を行っていく。

 

「{ガチャッ}おお!今日もうまそ―!」

 

少ししてからヴィータも戻ってきて配膳の手伝いに加わり、準備が終わって各自席に着く。

 

「それじゃあみんな食べよっか。頂きます。」

「「「頂きます。」」」

「ワゥ。」

 

全員が一斉に挨拶をし、それぞれのペースでご飯を食べ始める。

こうして八神家の食卓は、何時もと変わらない様子で始まったのだった。

 

 

 

 

 

―――――同刻 ミッドチルダ指令室

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

---カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ・・・・・・

八神家の食卓が賑わっている頃・・・ミッドにいる局員たちは血走った眼で画面と睨みっこし、忙しくコンソールを叩き続けていた。

デスクの画面上では様々な情報が次々流れて行き、局員たちは汗水を垂らしながらそれらへと視線を向けては移し、向けては移しをひたすら繰り返していく。

 

---ウィ―――ン

「おはよう皆。」

「「「「「「おはようございます!リンディ提督!」」」」」」

そんな緊迫感に満ちた指令室へと、リンディ・ハラウオン、クロノ・ハラウオンの二人が緑茶とコーヒ―をそれぞれ片手に入室してきて、リンディが局員たちに挨拶をする。

局員たちはリンディの方へと向き直り、元気よく挨拶を返した。

 

「例の、闇の書の主と守護騎士たちはどうなっているかしら?」

コンソールを操作している局員の一人にリンディが話しかけると、局員は『少しお待ちください。』と言って通信をどこかに繋げた後いくつか話した後でリンディに報告を行う。

「現在偵察している局員によると、守護騎士たちの一部は深夜に帰宅して、その後現在に至るまで目立った動きは見せていないようです。」

「なるほどね・・・後少ししたら交代の人員が来る予定だから、皆それまで少し頑張って頂戴。」

『『『『『了解!』』』』』

 

リンディの励ましを聞いた局員たちはそう答え、引き続き自らの職務に没頭していく。

その様子を眺めながら、再びリンディが口を開いた。

 

「それにしても驚いたわね、まさか当代の主があんな幼い子供だったなんて・・・なのはちゃん達と同い年じゃないかしら、あの子。」

「そうですね・・・しかしだからと言って手は抜けません。どういう事情があるにせよあの騎士たちの実力は相当なものです。」

「そうね。」

 

二人は一息つき、それぞれ飲み物を飲む。

余談だがこの二人、今回の情報を部下の局員が報告した際、たまたまその時飲んでいた飲み物を噴き出して机に置いていた資料をビチャビチャにしてしまうくらい驚いていたりする。

 

「ふう・・・実働部隊の準備は?」

「提督の指示一つでいつでも出動できます。」

「わかりました。それではクロノ執務官、なのはさん達の授業が終わるまで私達は臨時司令室で実働部隊とともに待機しておきます。いざというときはよろしくお願いしますよ。」

「了解。」

 

そう言ってリンディとクロノは、指令室を出て地球の臨時司令室…数日ほど前借りたなのはの家の近くの住居へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「くそっ、どういうことだこれは・・・」

 

八神家から少し離れた所にあるマンション・・・その屋上から監視を行っている局員たちを見下ろしている者がいた。

(管理局のものが闇の書の主の居場所が見つかったと聞いて駆けつけてみたが・・・チッ、厄介なことになってしまった。)

屋上にいる者は局員たちの様子を見ながら、仮面で読み取れない顔を俯かせ思考を巡らせていく。

(今ここで行動を起こせば以上を勘付いた局員たちがすぐにでも駆けつけて来てしまう。

かといって何もしないままではどの道にしろアースラの局員と現地の魔導師たちが総出で騎士たちと主を捕えてしまう。

そうなってしまってはこちらの目的を果たすのが一気に難しくなるぞ。加えて現状のページ数は300ページ弱・・・騎士たち全員の魔力を使っても恐らく埋まりきらない、下手な強硬策はかえって危険だ・・・・・・いっそのこと、騎士たちに自分たちの居場所と主がばれていることを教えてやるか?

いや、それをするにしても今からでは遅すぎる。アースラや局員たちの監視の全てを一斉に、一時的にでも無力化するくらいしなければ確実に逃がすことは出来ない。

 

そのためにはいろいろと準備をしなくてはならないが・・・はたして今からやってそれが間に合うかどうか・・・クソッ!本当に忌々しいッ!誰だ情報提供者は!!)

 

『ロッテ、聞こえる?』

「!アリアか。」

 

思考に耽っていた物の顔が急に上を向き、宙に向けてそう言う。

 

『このまま止まっていても正直埒が明かないわ。私はいったん主の元に戻って意見を聞いてくるから、貴方は引き続きその場の状況を見ていて頂戴。』

「・・・分かった。」

 

屋上に立つ者は宙を向いてそう言うと会話が終わったと言わんばかりに視線を八神家とその様子を窺う局員たちへと移し、その様子を注意深く観察し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

===14:25分 聖祥小学校===

Side:矢島 敬一郎

「それでは皆さん、体調管理に気を付けてまた明日会いましょうね。日直の方は挨拶をお願いね。」

「はーい。起立!礼!」

「「「「「「「ありがとうございましたー!」」」」」」」

 

ようやく今日の授業が終わった・・・!さあこれから大忙しだ!はりきって行かなくちゃな!

 

「ケイイチ君!」

「ケイイチ!」

「おう!とっとと行きますか!アリサ、すずか!また明日な!」

 

授業が終わると同時に駆け寄ってきて俺を急かすフェイトとなのは、アリシアに答え、俺は荷物を背負って二人とともに教室の外へと向かう。

 

「ちょ!いくらなんでも急ぎ過ぎよ!どうしたのアンタたち!」

「ごめんアリサちゃん!今本当に急いでるから!」

「二人とも!また明日ね!」

 

途中で呼び止めようとしたアリサになのはとフェイトが代わりに返し、俺達は急いで校舎の玄関へと駆け出していく。

校庭を出てからどこか人目の付かない所に移動すれば、後は俺の転移魔法でアースラまで一ッ跳びだ。

 

 

 

 

 

 

 

「皆急にどうしたんだろうね?」

「わっかんないわよ・・・何か怪しいわね・・・」

 

教室に残っているすずかとアリサはお互いに顔を見合わせ、いつもと様子の違う三人について頭を悩ませる。

 

(なんだか新学期や十月初めの頃の雰囲気に似てるかも・・・また何か話せない用事なのかな・・・)

(あの三人、絶対何か隠してるわね!)

「よう!嫁たちよ!俺がいなくて寂しかったか!」グイッ

「「きゃあ!!」」ドンッ

 

二人が考え事をしている間に、何時の間に現れたのか、界統が彼女たちの後ろから現れて二人を抱き寄せ、それに驚いた二人に突き飛ばされる。

「おっと。ははは、相変わらず恥ずかしがり屋だな二人とも!」

「ちょっと!気安く触るんじゃないわよ!」

「ははははは!」

 

文句を言うアリサと怒りの篭った視線を向けるすずか。

しかし彼はそれをただの照れ隠しと考えて笑い飛ばす。

 

「・・・?フェイトとなのはとアリシアがいないな。二人はどこに行ったんだ?」

「知るわけないでしょ!とっくに出て行ったわよ!」

「なんだ、それは残念だな・・・ん?」

 

界統は残念そうに振る舞い・・・ふと、窓の外に目を向けた。

そしてその視線の先に、忙しそうにケイイチとともに校庭を走っていくなのはとフェイトとアリシアの姿を確認して驚愕し、理不尽な怒りに燃え始める。

 

「(な!?あのクソモブが三人と一緒に帰っているだと!?)すまない二人とも!名残惜しいだろうが俺も帰る!」

 

二人に別れを告げ、界統は全力疾走で後を追う。

転生特典の副次的な産物であるその小学生とは到底思えないほどの身体能力により、彼はあっという間に校門まで着き・・・

 

---キィーン・・・

 

「っ・・・?なんだぁ今の?」

 

校門から一歩外に踏み出した直後、若干の耳鳴りと目眩を感じた。

そのことに一瞬だけ疑問を覚えるが、なのはたちのことをすぐさま思い出してそして辺りを見渡す。

すると校門を出て左の方の交差点を曲がって遮蔽物の陰に隠れようとしている矢島達四人の姿が彼の目に入った。

 

「いやがったなぁのモブキャラがあ!!俺の物に手ぇ出してタダで済むと思うなよォッ!」

 

界統は額に青筋を浮かべながらそう吠え、建物の影に入って見えなくなった三人に向かって走って行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に予想通りな奴だな。」

 

校門を出て右側の交差点の陰からひょっこりと顔を出し、俺は界統が大声を出しながら走り去っていったのを呆れながら見届けていた。

界統が教室にくることを考えて俺の机の中に一個サーチャーを置いといて正解だったな。おかげでもの見事に幻覚魔法のトラップに引っかかってくれた。

ま、気が済むまでせいぜい追い掛けておいてくれ。その永遠に追いつけない俺達の幻をな。

 

「界統君は行った?」

「おう、もう大丈夫だと思う。」

 

同じようにひょっこりと顔を出した三人に返事を返すと、皆ほっとしたように胸を撫で下ろす。

 

「ケイイチ君グッジョブ!」グッ

「おう!」グッ

俺となのははお互いに親指を突き立てて応え合う。

 

「でもよかったの?界統ってとても強い魔導師だし、協力を頼んでみてもよかったんじゃ・・・」

「強い魔導師であることと協調性があることはまた別問題だよフェイト。あいつは確かにスペックは凄いけど・・・なぁ?なのは。」

「うん、強いのは確かなんだけど・・・もう一緒に事件に関わりたくはないかな?」

「あ、あははは・・・私もちょっといいかな、正直あのノリについていけないっていうか・・・」

 

俺となのはが苦い表情をしながら返答すると、アリシアもここ数日のあいつのアプローチに嫌気が差しているのか肩をすくめてそう言う。

フェイトはまだあいつに対する優しさがかろうじで残っているのか、言っている意味を理解しながらも苦笑いを浮かべていただけだったが。

なんにせよこれで鬱陶しい奴はいなくなった。改めて今日の作戦に専念できるってもんよ。

 

「さてと、とりあえずクロノ達の所に行って打ち合わせするか。」

「だね。私は戦えないから裏方にまわっちゃうけど、みんな気を付けてよ。」

「ありがとう、姉さん。私、頑張るから。」

「フェイト・・・」タラリ

「おい、鼻からなんか漏れてんぞ。」

「可愛いは正義、頑張るフェイトは可愛い、つまりはそう言うことよ。」

「ああ、なら仕方がないな。」

 

正義なら仕方がない。誰だって思う、俺だって思う。

 

「皆、そろそろ行こうよ。」

「ああ、悪い悪い。じゃあ行くか。」

 

改めて俺達は人に見られない場所へと行き、クロノ達が今待機しているであろうなのはの家の近くのマンションへと転移していった。

マンションに入ってクロノ達がいる部屋のインターホンを鳴らすと、クロノが快く出迎えてくれた。

 

「クロノ、あの人たちは今どうしてるの?」

「それは中で説明させてもらう。一先ず入ってくれ。」

「「「「うん(おう)」」」」

 

クロノに促され、俺達は部屋の中に入る。

中ではリンディさんと子犬モードのアルフとフェレットモードのユーノがやる気満々で待機していた。

 

「あの、リンディさん。整備してもらってるレイジングハートとバルディッシュは・・・」

「そのことなら心配はいらないわ。プレシア女史に少し頼みごとをしていて、後少しで来ると思うけれど・・・」

 

---キィ―――ン

 

「っと、どうやら来たみたいね。」

 

リンディさんのセリフの途中で部屋の窓側が強く光り輝き、その中からプレシアが姿を現した。

 

「ごめんなさいね、少し手間取っていたわ。」

「いえ、ご苦労様ですプレシア女史。」

「このくらいなんてことはないわ。大事な娘とその友達の為なんですもの。フェイト、なのはちゃん、ちょっとこっちにいらっしゃい。」

 

プレシアに呼ばれて二人が近づくと、プレシアはレイジングハートとバルディッシュを取り出し、二人へと渡す。

 

「かなり時間はかかったけれど、急な事態だったこともあって何とか説得して急ピッチで完璧に直しておいたわ。これで問題なく使えるはずよ。」

「良かった!すっかり元通りだねレイジングハート!」

『Yes. Let's persevere in your husband again together.』

「お帰り、バルディッシュ。」

『A master, take care, it's above all.』

 

デバイスが戻ってきたことに、すっかりご満悦の二人。大事な相棒が帰ってきてよかったな。

・・・ところで説得って誰に対する説得なんだろうか。また後で聞いてみよう。

 

「んんっ!それでは皆さん、準備はよろしいですね?」

 

リンディさんがそう言うと、全員が真剣な表情でリンディさんの話に耳を傾ける。その中リンディさんは一歩前に出て、真剣な表情で話を切り出す。

 

「皆には昨日クロノ執務官から通達があったでしょうが、昨日の7時ごろ例の騎士たちと闇の書の主の潜伏先が判明しました。私達はこれから彼らを結界内に閉じ込め、逃げ道を封じたところで彼らを捕えます。エイミィ、結界の準備は?」

『何時でもオッケーです!』

「よろしい。それではこれより、闇の書の主、および騎士たちの捕獲作戦を実行します。皆さん、相手はかなりの強敵です。決して無理はしないように。」

「「「「「はい(了解)!」」」」」

 

こんな事件、さっさと終わらせて帰ってやるぜ!

 


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