デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

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第五十五話

目の前でいきなり寝落ちした騎士たちを捕獲したあの後、俺達は連中を担いでいったん待機場所であるマンションまで転移することにした。

ちなみに現在はアルフがシグナム、なのはがヴィータ、俺がザフィーラをそれぞれ背負っている状態だ。

また、デバイスの方も没収してあるからこいつらが起きてきても対処できるだろう。

まあ・・・

 

---チラッ

 

『・・・・・・』

 

コイツ(梶原)がいればデバイスがあってもなくても同じ気はするけどな。

というか何時までそこにいるつもりなんだよ。いい加減こっちに出て来てもええんやで?そして出来ればこのマッチョを担いでくれてもええんやで?

そんな感じで梶原が映っている装甲を見ているとこっちの視線に気が付いた梶原が両腕でバッテンを作って拒否していた。ん?なになに?「後は任せた」・・・ておいちょっと待て!あ、クソ!逃げやがったあいつ!

チッ。にしても魔力で体を強化してるとは言えやっぱりこいつ重い・・・

 

「それじゃあ皆、マンションに戻るよ。」

「うん、お願いユーノ君。」

「よろしく。」

 

俺達のOKに応じ、ユーノがブツブツと中二心を擽る呪文を詠唱していく・・・・・・

 

---キィ―――――ッ シュバッ

 

そして詠唱の完了とともに視界が一瞬真っ白に染まり、次の瞬間にはさっき待機していたマンションのリビングへと転移していた。

 

「あ!お帰り皆!」

「お疲れ様。大変だったわね。」

 

部屋の中には俺達の姿を確認して笑顔を向けるプレシアさんとアリシアとリンディさん、よくやったと言わんばかりの表情のクロノ・・・・・・

 

「そんな・・・!皆・・・!!」

 

そしてなぜか皆と対面するようにソファーに座っていて、俺達が担いでる三人の姿を見た瞬間尋常じゃないくらい驚くシャマル、その彼女の膝に頭を乗せてスヤァっと寝ている八神はやてがいた。

 

「皆さん、今日はお疲れ様でした。皆のおかげで無事、彼らを捕まえることが出来ました。」

「皆よくやってくれた。予想していたよりも遥かに素晴らしい結果だったよ。」

「う、うん!ありがとうクロノ・・・」

「アタシらは正直あんまり働いた気がしないけど・・・」

「やめろアルフ、それ以上いけない。」

「「(´・ω・`)」」

「あ、あははは・・・」

 

ショボーンしているフェイトとなのはの姿にユーノの苦笑する声が響く。

実質殆どなにもしてなかった、もとい出来なかったもんな・・・まあ結果が良かったし何も言うことはねえけど。

 

「まあそれはさておきこいつらどうすんの?いい加減このマッチョマン重いんですけれど・・・」

「・・・・・・」

「彼らは其処の別室に寝かせておいてください。起きるまでにはまだ時間がかかるでしょうし・・・」

「ラジャー。なのは、アルフ、行こうか。」

「「うん(分かった)。」」

 

シャマルが睨みつけてくる中、俺達は彼女たちを指定の部屋まで運んで寝かせる。

問題なく事が済むと俺達は部屋を出て、再度リビングに行きシャマルの前に集まる。

 

「・・・さて、それじゃあいい加減事情聴取を始めさせてもらおうか?」

 

全員が集まったのを確認したクロノが、固く口を閉じたままのシャマルの方を向いて話を切り出す。

シャマルは口を固くつぐんで視線を下へ反らした。もういい加減観念した方がいいと思うがな・・・ここまで来て尚且つデバイスまで没収されていれば、正直こいつらに逆転の目なんぞ一切ない。

こいつらにまだ奥の手があれば話は別かもしれんがこの様子だとそれもなさそうだしな・・・

 

---スッ

 

「!」

 

まだ諦め切れていない様子のシャマルの傍へと・・・なのはが近寄っていき、彼女と目線を合わせて優しく話しかける。

 

「私達は、貴方達に危害を加えたいわけじゃないんです。事情があるなら、私達も力になりますから・・・お願いです。貴方達がどうして闇の書の完成を目指しているのかを、聞かせてもらえませんか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

シャマルの方は手を強く握り締めて、しばらく視線を下に移していたが・・・・・・・・やがて観念したかのようにハァ、と一息つく。

そして顔を上げ、俺達の方へと眼を向けると・・・声を震わせながらようやく話し始めた。

 

「・・・・・・一つだけ、お願いがあるわ。」

「?なんだい?」

「私達が行っていたページ蒐集に関しては主・・・この子は何も知らないの。徹頭徹尾、私たちの独断で行っていた事なのよ。だから・・・・・・罪を問うのは私達だけにして頂戴。」

「・・・だそうだがどうなるの実際?」

「そうだな・・・参考までに聞かせて欲しいが、何故彼女には蒐集していることを教えていないんだ?」

 

クロノがそう聞くと、シャマルは静かに答えていく。

 

「・・・私達がこんなことをしてると知れば、この子が悲しむからよ。」

「・・・・なるほど。艦長。」

「ええ、そうですね・・・・・・・・」

 

話を聞いたリンディさんは少し思案し・・・・・・

 

「・・・・・取り敢えず嘘をついているという訳ではないようですが、一度八神さんとお話をさせて頂いてからその要求を呑むかどうか判断する・・・ということでよろしいですか?」

「・・・わかりました。そうしてください。」

 

リンディさんにそう言われ、首を縦に振りながらそう言うシャマル。

 

「じゃあ早速本題について聞いていこうか・・・ん?」

「?どうかした?」

「いやちょっと・・・」

 

フェイトに応対しながら、シャマルの膝枕で寝ている八神に近づいていく。

 

「?なに?」

「・・・・・あ、これ起きてるな。」

「え?」

 

俺の一言で全員の目が八神へと向けられる。

肝心の本人は未だに眠っているように見えるが・・・さっき不自然に手を握りしめているのが見えたし、今のやり取りで目尻と口角が今の会話に反応したとしか思えない感じで震えたのが見えた。間違いなくこいつ起きてる。

 

「あの、はやてちゃん?」

「・・・・・・」

「おーいお嬢ちゃん、五つ数える間に起きないと擽りの刑をするぞー。笑い過ぎて声が引き攣る位擽るぞー。」

「・・・・・・」ダラダラダラ

 

両手をワキワキしながら近寄っていくと、八神の額からうっすら汗が滲み始める。

もう確定ですねこれは。

 

「さー数えるぞー。1234

「待って待って!早すぎ!早過ぎやで!・・・・・あ。」

「「「「「・・・・・・・・・」」」」」

「・・・・・・・・・・・・・・・・テヘ♪」

「よし、闇の書の完成を目指してた理由を聞かせてシャマルさん。」

「え?今の無視されるん?ちょっと悲しいんやけど。」

「うるせえ巻きだ巻き!そろそろ五時になるから!もうすぐ門限来ちゃうから!それに今日はいろいろ戦って疲れた!早く寝たい!」

「割と普通の理由だった!?」

 

 

 

「事情説明を頼めるか?其処の二人は放っておいてくれていいから。」

「あ、はい。」

 

八神とのやり取りを他所に、クロノがシャマルに呼びかけて話を進めようとしていた、

話に置いて行かれたくないから黙っておとなしく聞く姿勢に入り、八神もシャマルの方に向き直って真剣な表情でシャマルの方へと向き直る。

皆の真剣な表情を前に、シャマルは緊張を解す様に咳を一つついた後話し始めた。

 

 

「まあまず結論から話しますと、このまま闇の書を完成させなければ、はやてちゃんは近いうちに・・・その、命を落とすのよ。」

「「「「「えッ!?」」」」」

「続きをどうぞ。」

 

俺、クロノ、リンディさん、プレシアさん以外が目を見開いて驚く中、余計な中断が入らない様に俺はシャマルに話を進めるように促す。

 

「闇の書とはやてちゃんは、この子が生まれた時から常に主としての密接な繋がりを持っていたわ。そのために闇の書の抑圧された魔力の影響を未熟なリンカーコアに絶えず受けていて、おまけに闇の書の機能を維持するために少しずつだけどリンカーコアから魔力を吸われ続けているの。そのせいで私達がこの子の元に現れた時にはすでに下半身の神経が麻痺していて、今のままじゃ最悪、この症状はどんどん上に上がっていって近いうちに麻痺が心臓にまで達して命を落とすことになる。けど闇の書を完成させることでこの子が本当の意味で主として覚醒すれば、はやてちゃんのこの症状を治すことが出来るかもしれないのよ・・・・・けどはやてちゃんは多分、こんな話をしたとしても闇の書を完成させる上で誰かが犠牲になることに絶対反対するだろうから・・・だからはやてちゃんには今回、何も話さずにおいたの。」

「( ゚д゚)」←八神

「・・・以上が理由ってことでよろしいんで?」

「ええ、そうよ。」

「・・・・そんな馬鹿な。闇の書は本当に破壊することにしか使えないロストロギアだぞ。過去に主があれを完成させた例がいくつもあるが、いずれの場合も最終的に主を取り込んで暴走し、様々な次元世界を力を使い果たすまで破壊し尽すという結果に終わっている。無論この過程で、主は例外なく死んでいるんだ。もしまた完成させたら、彼女は間違いなく前の主たちの二の舞になるだけだぞ。」

「え!?(゚д゚)」←八神

「なっ!?そんな馬鹿な」

 

---ガタッ ガツンッ!

 

「~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」

 

((((((うわぁ、痛そう・・・)))))))

 

クロノの反論にシャマルが声を荒げて立ち上がろうとして、脛が机の辺に勢いよく打ちつけてしまった。

痛みで声にならず、顔を歪めながら只管脛を押さえていることから恐らく想像を絶する痛みに悶えているであろう事が窺える。

 

「あ、あの、大丈夫ですか?」

「――――――ッ」コクコクコク

「え、えっと、一緒に擦ってあげようか?」

「――――ッ」コクコク

 

なのはに心配され、八神に脛を擦ってもらっている彼女に黙祷を捧げながら見ていると、少ししてようやく落ち着いてきたあたりで、八神が先ほどのクロノの話の真偽を問う。

 

「あの、さっきの話、本当ですか?」

「勿論だ。過去に起きた闇の書に関連した事件・・・その記録の中に闇の書が完成した時の様子を克明に記録したものがある。其処の守護騎士がどう考えているかは知らないが、少なくとも我々が記録している範囲で闇の書が完成とともに暴走したことがあるという事実は変わらないぞ。」

「そんな、そんなはずは・・・!」

 

シャマルはどうやら、クロノの様子から今の話が少なくとも実際にあった事なんだと考え始め、しかしいまだに認めきれないのか目に見えて動揺していた。

八神も八神で、状況が少しずつ呑み込めてきたのか顔色が悪くなってきている。

自分が死ぬと言われているんだからそりゃそうもなるわな。

そう考えていると、リンディさんは少し思案する素振りをした後シャマルに質問をし始めた。

 

「・・・シャマルさん。貴方は過去に、闇の書が完成した時のことを覚えていますか?」

「・・・・それは・・・・・・・」

 

脛の痛みを堪えながら質問に答えようとするシャマル。しかしすぐに答えられず、むしろ段々不安げな表情へと変わり始める。

 

「シャマル?大丈夫なん?」

「う、うん、大丈夫・・・・・けれど・・・あれ?なんで?なんですぐに出てこないの・・・?」

「闇の書の機能で前の記憶がリセットされているんじゃないの?」

「そんなことはないわ!私もシグナム達も、前に仕えた主のことはちゃんと覚えているもの!けど・・・・・・そのはずなのに、お、おかしいわね。なんで思い出せないの・・・・?」

 

プレシアさんの予想をシャマルが即行で否定する。しかし肝心の記憶の方はやはりさっぱり出てこない御様子。

・・・・・・・なんかこっちの予想よりもさらにややこしそうな話になって来たんじゃなかろうか、これ。

 

「シャマル・・・」

「・・・今回のことでいろいろなことが新たに分かったけれど、同時に謎も増えてしまったわね・・・・・・どうやら闇の書には、まだまだ我々の知らない何かがあるみたい。」

「ええ。まだはっきりとは言えないですけど、この様子だとその可能性も否定できなさそうですね。」

 

リンディさんとクロノは頭を抱えているシャマルさんと不安げに彼女を介抱する八神を見ながらそう言うと、その場から立ち上がって俺たち全員に向き直る。

 

「八神さん、シャマルさん。」

「は、はい!なんでしょう!?」

「ふふふ、そんなに緊張しなくてもいいですよ。それと・・・」

 

リンディさんははやてに近寄ってかがみ、両手を優しく取って・・・

 

「私達は、出来うる限り貴方達を助けられるよう全力を尽くすつもりです。だからどうか、貴方達も私達に手を貸していただけないかしら?」

 

二人の手を見ながら、言い聞かせるようにそう言った。二人はさっきまでかなりの動揺を見せていたものの、リンディさんのその行為で少しだが落ち着きを取り戻した様子が窺える。

 

「・・・・・・・・いいんですか?なんだかもう、いろんな人達にご迷惑をお掛けしてるみたいですけど・・・」

「いいんですよ。それが私たちのお仕事ですし、なにより困っている子供を容易く見捨てるようじゃ、自分の背中を見ている子供たちに顔向けできませんから。」

「・・・・・・あの、それじゃあ、まだまだご迷惑をお掛けすることになるかもしれませんけど、よろしくお願いします。」

「ええ、こちらもよろしくお願いします。」

 

真摯な姿勢に気を許したのか、ぎこちない笑みを浮かべながら期待を込めて協力をお願いする八神。リンディさんは笑顔でそれに応える。イイハナシダナー。

とにもかくにも、これ以上俺達に何か出来る事はなさそうだ。とりあえず今回の流れを梶原に伝えたら、後の情報収集を管理局の方に任せるほかねえな。

 

「ふう・・・皆さん、今日は一先ず解散としましょう。どうやらまだまだ、私達は知らなくてはならないことが多いようですし・・・このことは本局で、今一度よく調べてみるべきだと思われます。」

「そうね、今のところ私達が出来そうなことは多分、あまりないわ。フェイトたちも明日は学校があるし、今日はひとまず自分の家に帰った方がいいと思うわよ。特にケイイチ君はそろそろ門限が近いんでしょ?」

「んー、まあそうですね。」

 

プレシアさんの言う通りそろそろ帰宅の準備しとかないとまずい。なのははともかく俺の家はここからそこそこ遠い位置にある。

転移魔法?運悪く転移先に人がいたらまずいから使わない。非常時なら話は別だけど。

 

「敬一郎君、ヴォルケンリッターの皆さんのデバイスを渡してくれませんか?」

「ん?あ、はい。どうぞ。」

「どうも。シャマルさん、後で皆さんにこちらを返しておいてくれませんか?」

「え!?い、いいんですか?」

「構いませんよ。今回の一件でそちらの目的は把握できましたし・・・あなたや八神さんの人柄も信じられると思いましたから。ただページ集めに関してはやらないことを勧めますよ。少なくとも、そのやり方で彼女を救える可能性はゼロに等しいですから。」

「・・・・・はい・・・」

「八神さん、よければ騎士の皆さんも一緒にお家にお送りしますけどどうでしょう?」

「あ、はい。出来ればよろしくお願いします。シャマル、ええよな?」

「うん、はやてちゃん。」

 

八神はリンディさん達に送られて帰るのか。車椅子に乗ってるから帰りが遅くなるんじゃないかと少し思っていたけどそれなら問題ないだろうな。

なんか八神が笑顔でシャマルに、「それはそうと、今日のことで後で皆で家族会議な♪」と言ってシャマルが涙目になっていた気がするのはたぶん気のせいだろう。きっとそうだ。

 

「あ、ちなみにユーノはまだ帰らないでくれ。本局の方で少し手伝ってほしいことがあるからな。」

「え?うん、わかったよ。」

「頑張ってくれよクロノにユーノ。本局の仕事とか俺に出来る事なさそうだし。」

「もちろんだ。」

「うん、まだ何やるかは知らないけど任せといて。」

「おう。じゃあ皆さん、ちょっと早いけどそろそろ俺帰るわ。なのは、フェイト、アリシア、また明日な。」

「うん、また明日。」

「じゃあね、ケイイチ君。」

「ばいばーい。」

 

 

 

 

クロノ達に後を託し、俺はなのはたちと別れを告げてマンションを出ていく。

そして若干の達成感と不安感を感じながら、自分の家へと歩みを進めていった。

 

 

次の日の朝、気が抜けていたせいで梶原への連絡を忘れていたことに気が付き、簡単にメールで知らせたのはここだけの話だったりする。

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

===翌朝 一巡後の世界100階===

Side:梶原 泰寛

 

「ハァ・・・ハァ・・・あ~~足イテェ・・・」

 

戦闘は基本スタンド任せだからいいけど探索そのものが今回は長いから歩きすぎて足が痛いのなんの・・・いい加減少し休むか・・・

よっこいしょ・・・

・・・あ、どうも皆さん。最近ほったらかしにされていたような気がしてならない梶原泰寛です。

昨日はとりあえずマン・イン・ザ・ミラーの鏡の世界から転移する矢島達を見送った後、結果報告を待つためにいったん自宅へと戻ってそのまま連絡が来るまで穏やかに過ごしていたわけだが・・・それでも一向に連絡が来なかったです。

結局日を跨いでしまい、今は朝食前の運動としてダンジョンでフリートライ(いつもの訓練)をしている訳だが・・・もうさすがにそろそろ連絡も来ているかな。

 

「フゥ・・・・・・・・・・・・・・さてと、そろそろ次で最後にするか。」

 

練り上げた波紋のエネルギーで足の疲労を回復し、透明な敵対策にアルプスの雪解け水を一気飲みする。

爽快な口当たりと喉越し、そして火照った体を落ち着かせる適度な冷たさを感じ、直後に眼から滝のような量の涙を流して目がすっきりしたのを確認すると、俺はアライブで砂をまき散らしながら次の階への階段を探し始めた。

 

 

---コツコツコツコツコツコツコツ・・・・・・

 

「・・・お、本が落ちてる。」

 

長い通路を渡った次の部屋で、いつもの様に落ちている本を見つける。

辺りに気を配りながらそれに近寄り、手にとる・・・

 

 

 

---ゾワッ

 

 

「うっ!?アライブ!」

 

次の瞬間、背筋に感じた尋常じゃない悪寒から逃げるように咄嗟に飛び退き、同時にアライブの手刀と引力操作で周囲に砂を撒き散らす。

 

---スゥゥゥゥッ

 

俺がさっきいた場所の砂煙が、芋虫が果物を食い荒らしたようなラインを三本残して消え、追加で地面に直径二メートルの大穴が出来上がった。

 

(やばいやばいやばい!少なくともクリームが四体はいるぞこれ!さすがにこいつら全員を相手にするのは分が悪いし、さっさと逃げるか!)

 

アライブに引き続き砂を巻き上げさせ、手に持ってる本をカバンにしまいつつ額にエピタフを出して未来の予知を開始する。

 

「ハァ―!!」バッ

 

十数秒後の未来で消えていく砂煙の軌道をエピタフを通して見て、そこを避けるように立ち回りながら廊下へと駆けていく。

 

(次の安置はあそこ、次の安置はあそこで、この次はあそこ・・・そこはあそこから十歩いったら一瞬止まって屈み・・・)

 

---ザッ ガオンッ ザッ ザザザッ ザッ ゴォンッ ガオンッ ガォ――ンッ

 

(あそこは左に前転回避したら通路の壁に波紋で捕まり、クリームが通り過ぎたら地面に降りて只管40メートルひたすら走る!そしたら・・・)

 

後ろで廊下の壁が壊れる音を聞きながら、アライブに任せて力の限り走っていく。

身体にかかる急激な慣性の変化に顔を歪めていると・・・・・・視界が一気に開けた。火花を散らしながら急ブレーキをかけて周囲を見渡すと少し大きめの部屋に入ったらしく、5メートルほど離れた所に階段も見つかった。

 

「(このまま一気に決めてやる!)キング・クリムゾン!」

 

時間が消し飛んだ世界を一気に駆け抜け、俺は地面が亜空間に飲まれていく様子に冷や汗をかきつつ階段を駆け下りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

===ホテルヴェネツィア===

 

「フゥ~~~~~~~、今回は本気でヤバいと思った・・・」

「ふむ、その様子だと今回も無事戻ってこれたみたいだね。」

「ええ、まあかなり胆が冷えましたけど・・・」

 

クリームから逃れ、目標も達成したためディアボロのDISCによって拠点へと帰還した俺は、額から流れる汗を服の袖で拭い、露伴さんに返事をしつつ彼の傍の椅子に座り込んで胸を撫で下ろした。

キング・クリムゾンを装備していて本当に良かった、それでもさすがにあのシチュエーションは胆が冷えたがな・・・

 

「しかし君もよくやるなぁ~~~~~、もう態々危険を冒す意味もないだろうに毎度毎度こんなところに足を運ぶなんてさ。おまけにここ最近は最低限の物だけ持ってかなり深く潜ってるようだし。」

「まあそうですね。そのおかげでかなり力が上がってるのを実感してますよ。今日は前の人生の時みたいに、スタープラチナやザ・ワールドが無くても時間の止まった世界に入門できるようになりましたし・・・」

 

探索の道中、階段を下りた先で吸血鬼ハウスのど真ん中に放り込まれ、六方向から放たれたストレイツォの空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギーアイズ)とセックス・ピストルズの乗った弾丸を防ごうとしたら・・・ほんのちょっと瞬きする程度だったが完全に弾丸と体液が止まった様な気がした。

当時は無我夢中だったし囲まれていたから気にしている余裕はなかったが、通路に逃げ込んで向かって来る奴を軒並み殲滅した後でそういうのがあったのを思いだし・・・それを引き出そうとしながらその後も戦っていたら、歯車がガッチリかみ合うような感覚とともに自力で時間を止められるようになったのだ。

今回は最終的に2秒弱まで伸びたが、今後はさらに伸びていく気がする。そこのベッドで寝ているDIOじゃないが、やっぱり自分の力で出来るってのはものすごくワクワクしてくるな。

 

「・・・・・・君にはいろいろダンジョン内での出来事を取材させてもらったことがあるからこう言うのも憚れるが、頭おかしいんじゃないかい?」

「・・・いやまあ否定はできませんけども、こっちもいろいろ命懸ってますし強くなれるだけ強くなっときたいだけですよ。いやほんと。」

 

危険に係わる必要のない世界に行ければ適度に鍛える程度でもよかったんだろうが、残念ながら今住んでいる地域では、余裕で戦略兵器に匹敵する友達がいたり、次元を飛び越えて干渉してくる機関、世界を破滅させる古代遺産がやってきたり気が付けば日常を悪魔に浸食されていたことがあるんだ。

これからもそう言うことが無いとは限らない。だからこそ、俺は俺の出来る事をしておかなくてはならねえ。この日常を守り抜くためにもな・・・

 

「まあ君がいいのなら別にかまわないけどね。それより今回は目新しいものはあったかい?」

「あ、そう言えば・・・」

 

露伴さんにそう言われ、俺はクリームに追い回される前に拾った本を出す。

最早やることはないと思うほどにダンジョン歩き尽くしていたはずなんだが・・・まさかここにきて新しいアイテムを見つけるとは思わなかった。

一応見た目の観察結果は・・・見た目は茶色の表紙でそれなりにしっかりとしており、下に英語で何かが書かれているのが大体の特徴だ。

一体どんな効果があるんだろうかと思い、意識を集中させると・・・

 

「・・・・・・ちょっと待て泰寛。」

「ん?」

 

ベッドで本を読みながら寝ているDIOに声を掛けられて俺は露伴さんとともにDIOの方へと顔を向けた。

 

「なんだ?そっちから俺に話しかけてくるなんて珍しいじゃねえか。どしたの急に。」

「いや、なに。何やら面白そうなものを持っていると思ってな・・・少し見せてくれないか。」

「?面白そうなものって・・・これか?」

 

俺が本を持っている手と違う手で叩きながら言うと「そうだ。」とDIOは言い、俺は椅子を立ってDIOの元へと行く。

DIOは読んでいた本を横に置いてベッドから起き上がると、俺の手から本を取り上げてパラパラとそれを捲っていく。

 

「・・・・・・」ポイッ

「うおっ!?いきなり投げるなよ!」

 

読み終わって無造作に本を投げてきたDIOに文句を言う。

だがDIOは気にせず、両手を組んで話を進めていく。

 

「・・・私の求めた天国には、実はもう一つの可能性が存在する。」

「は?」

 

もう一つの可能性?はて、そんなのあったか?

 

「これは基本世界とは違う私が到達したものだが・・・今のお前ならおそらく辿り着くのにそう手間取ること事も無かろう。どうだ?試してみるか?」

「・・・一応話は聞こうか。」

「フン・・・まず必要な物は、私のスタンドだ。それも極限までエネルギーを注ぎ込み、高めた私のスタンド。」

 

極限まで高めたスタンド・・・+99になるまで本読んで鍛えたザ・ワールドか?それならストックも含めて保管してあるが・・・

 

「次に必要な物は、私の日記だ。その私の日記を読み、私の骨をもって36以上の強大な魂をザ・ワールドに吸収させた後は、北緯28度24分、西経80度36分の場所で私のスタンドをその身に宿し、新月の時を待て。」

「・・・友と言葉はいらないのか?」

「問題はない。お前ならば耐え切れるだろう。」

「おいなんだ耐え切れるって、いったい何が起こるんだよ。」

「話は以上だ。やるもやらないもお前の自由、まあ健闘を祈っているぞ。」

「ちょ、おい!」

 

こっちの引き留めに取り合わず、DIOはまた寝転がって本を読み始めた。

 

「ふむ、話は分からないがやってみてもいいんじゃないか?(何かあればいいネタになるかもしれないし。)」

「う~~~~~~~ん、まあそれもそうですかね・・・・・あ!そろそろリビングに行かねえと!」

 

時計を見てそろそろヤバいなと思い、俺はカバンの中身を倉庫に置いて自分の部屋へと戻った。

勉強机の上に置いてあるスマフォを手にとり、メールの確認をしながら俺はリビングへと急ぐ。

よし、さすがに来てたか。けど時間もそうないし、内容のチェックは学校に行ってからにしよう。

 

「母さん父さんおはよう!」

「ああ、おはよう。」

「おはよう、ちょうどご飯が出来てたわよ。」

「あいよ、いただきまーす。」

 

朝のお天気ニュースをBGMに、柔らかい鰤の照り焼きを崩して白米と一緒に掻き込んでいく。

良く噛んで飲み込み口の中がある程度空いたら、今度はキャベツの千切りとみそ汁を口に入れて咀嚼する。

三十分ほどそれを交互に繰り返し、皿が空いたら最後に冷蔵庫からイチゴのヨーグルト和えを持ってきて、蜂蜜を適度にかけて堪能する。

ん~、イチゴの酸味をヨーグルトが和らげてくれていて、とってもうまい!

 

「御馳走様!」

 

食べ終わったら食器を流し台に置いて水をかける。

後はいつもの様に自分の部屋でランドセルを背負い・・・

 

「あ、父さん今から行くの?」

「ああ、途中まで一緒に行こうか。」

「OK、お母さん行ってきまーす!」

「行ってくるよ。」

「行ってらっしゃい!二人とも気を付けてね。」

 

今日は父さんと一緒に、母さんに見送られて家を出た。

 




矢島視点の話がかなり長かった気がする・・・
ちなみにここからはまた、梶原の視点が中心の話に戻ります。ヒョットシタラバンガイモカクカモ(小声
それでは皆さん、また元気でお会いしましょう。さよなら。

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