デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

69 / 91
第五十六話

===18:40 八神家リビング===

 

 

 

矢島達に捕まり、お話をして家に帰された八神家の生活は、いたって普通かつ平和なものだった。

いつものようにはやてが早く起き、食事の準備をしているとヴォルケンリッターの面々が徐々に起きてリビングに集合、それぞれ顔を洗ったりはやての手伝いなどをし、全員で集まって食事を終えたら各自家事を手伝いつつ、己のしたいことをのんびりと行って時間を潰す。そんなどこの家庭でもありそうな、当たり前ともいえる営みを彼らは行っていたのである。

唯一違う所と言えば矢島達との一件と彼女達が家に帰された後、行われた家族会議により他の騎士たちへの事情説明等を踏まえた説得が終わってヴォルケンリッターによるページ集めが行われなくなったことだが・・・・・・

 

---コトコトコトコト・・・

---ジュワァ――――ッ

 

「シャマル、そっちの大きいお皿取ってくれへん?」

「あ、うん。ちょっと待ってね。{カチャカチャカチャ}はい、ここに置いとけばいいかな?」

「うん、ありがとう。」

「{ガチャッ}はやて―!風呂掃除終わったよ!」

「御苦労さんヴィータ。あともうちょっとでご飯が出来るから、それまで良い子で待っといてな。」

「うん!わかった!」

「フフフフフ・・・あ、そろそろこっちのハンバーグは頃合いやな。シャマル、豚汁はそろそろいいころやから火ィ止めてくれへん?」

「はい。」

 

・・・とまあこんな具合に、むしろページ集めに使う分の時間をまた家でともに過ごすために費やすことになったため、前のように笑顔がより絶えなくなったという点ではよかったと言えるのだろう。

 

「{カチャ カチャカチャ}よし、こんなもんかな・・・シャマル、ご飯を運んだらシグナムを呼んできてくれへん?」

「ええ、分かったわ。」

 

はやてとシャマルはご飯の入ったお皿を運んでいき、途中でヴィータも加わってご飯を運び終える。

そしてシャマルはバスタオルを手にとり、窓を開いて外の縁側に出た。

 

「・・・・・・・・・」

 

---ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ!

 

そこには八神家の庭で一人自分のデバイス《レヴァンティン》を手に持ち、地面にかなりの量の汗を流しながら一心不乱に素振りするシグナムがいた。

その姿は見るものが見れば、まるで自分の中で燻ってる何かを懸命に振り払おうとしているようにも見えるだろう。

 

「シグナム。」

「{ブンッブンッブンッ}・・・ん?シャマルか。なんだ?」

 

シャマルに声を掛けられ、今気付いたシグナムがそれに反応するとシャマルは苦笑しながらバスタオルを差し出す。

 

「ご飯の準備が出来たわよ。皆待ってるから体を拭いて入りましょう。」

「そうか・・・分かった。」

 

シグナムはレヴァンティンを戻して受け取ったタオルで汗を拭いていき・・・・・・・・ふと、憂いを帯びた表情で手を止めた。

 

「・・・・・・・」

「・・・やるせないよね。やっぱり・・・」

「!・・・ああ、そうだな・・・」

 

シャマルの一言に、やり切れないようにそう答えるシグナム。

余談だが昨日の家族会議の時、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ達三騎士は最初リンディ達から八神とシャマルが言われたことを同じように説明された時、リンディ達の話を管理局が自分たちを利用するための作り話として切り捨てようとしていた。

しかしクロノ達に見せられた闇の書が完成した時の現場の正確な資料を見せられ、その内容に嘘偽りが見られないこと、加えて自分たちの記憶から闇の書の復活する部分だけが明らかに共通して飛んでいることを彼らは知った。

大事な人に健やかでいてほしい、共に穏やかに過ごしていきたい・・・そんな動機から始め、命懸けで取り組んできた自分たちのこれまでの行いが、実際は何の意味もなさないどころか大事な人の死期を決定的なものにすることだったという現実は、彼らの中の管理局への疑念を上回ってなお余りある物であった。

そのショックの大きさは推してしかるべしと言えるだろう。

 

「今まで主のためって言って、何が何でも助けようとしてきたのに・・・その行為が結局何の意味も無かったなんて・・・」

「・・・もう言うな。すでにしてしまったことだ、振り返ったところで何が変わるという訳でもない。」

「・・・・・・そう、よね。」

「フゥ・・・兎にも角にもまずはこれからだ。とりあえずは・・・」

「二人とも早く来いよ!飯が冷めちまうだろ!」

「・・・皆で食事だな。」

「ふふふ、そうね。」

 

ヴィータの急かす声を聴き、二人はそれに苦笑しつつ家の中へと入っていった。

そしてその後の八神家の夕食は、みんな揃っての楽しい談話とともに恙無く行われていったのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「主、そろそろ九時半になる。そろそろ寝た方がいいのではないか?」

 

食事と風呂が終わり、ヴィータ達と某配管工や電気ネズミなどが戦う大乱闘ゲームで四人大戦を行っていたはやてにザフィーラがそう声をかけた。

 

「え、本当?・・・あ、ホントや。」

「確か明日はすずかちゃんの家に遊びに行くのよね?寝過ごしたらいけないし、今日はこの辺にしておきましょ。」

「うん、そうやね。んん・・・・・・楽しい時間ってホント直ぐに過ぎてしまうなぁ~。」

「ふふふ、本当にその通りよね。」

「くそぅ、今回は負け越しちまった・・・」

「まあまあ、また次の機会に持ち越しにしようや。」

「むぐぐ・・・うん、そうする。」

 

テレビとゲームの電源を切り、彼女たちは洗面所に行って歯磨きを終える。

 

「じゃあみんなお休み。」

「ええ、お休みなさい。」

「うん、お休み。」

「お休み下さい、主。」

「良い睡眠を、主。」

 

シャマル、ヴィータ、シグナム、ザフィーラの順にはやてへお休みの挨拶を返し、それぞれが身分の寝室へと向かった。

はやては自分の部屋に入ると、毛布を捲ってから車椅子から器用にベッドへと移り、いつもの様に布団をかけて寝転ぶ。

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

(・・・・・・・・・ずっと一人ぼっちやったから、別に病気で死ぬこと自体はそんなに怖なかった・・・)

(せやけど今は違う。守りたい日々があって、大切に、幸せにしてあげなあかんあの子たちがおる。私はみんなのマスターやから、あの子らに悲しんでほしくないから、皆のために、笑顔でいよう、強くいよう・・・そう決心したはずなのに・・・)

(・・・死んでまうんか、私・・・・・・・・・・・・・・・・なんかこう、全然実感がわかへんなぁ・・・・)

 

---ギュッ

 

はやての布団を握る手が、自然と強くなっていく。

 

(・・・あの子らは私を助ける為にいろんな人たちに迷惑をかけてしもうた。何時の間にか、こんな大事になってしまうほどに・・・)

(・・・実感はわかへんけど、もし本当にそうなってもうたら、そんなあの子らを置いて、私はこのまま何もできずに逝ってしまうんやろか。みんなが悲しむ中、一人あっさりと・・・・・・)

「いややなぁ、そんなん・・・」

(私を助けるって言ってくれたあの人たち、リンディさんにクロノ君、フェイトちゃんになのはちゃん、あとケイイチ君やったっけ、あの変な子・・・色々と申し訳ないけど、上手くいってほしいなぁ・・・)

 

届くかどうかわからない祈りをしながら、はやては静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

===16:50 梶原家泰寛自室===

 

---カタカタカタッ カタタッ カチカチッ カタカタカタカタ・・・・

 

北緯28度24分、西経80度36分・・・この座標にはアメリカ合衆国フロリダ州中央部、ブレバード郡の大西洋上に浮かぶ砂洲が存在する。アメリカ航空宇宙局(NASA)のケネディ宇宙センター (KSC) と、同センターに隣接する空軍基地(CASS)で知られる『ケープ・カナベラル』という名のこの砂洲は物資供給の面や大都市から程よく離れていること、赤道に非常に近いこと、自転速度を利用する際の発射方向である東側は海であるため事故が起きた際でも地上への被害が少ないことなどあらゆる意味でロケットの発射に適した土地であり、宇宙開発やロケットの発射場所として世界的に知名度の高い場所でもある。

そして同時にジョジョの第六部《ストーンオーシャン》終盤では舞台をここへと移し、月の引力を最大限に受けたプッチが最後の覚醒を遂げ、その圧倒的な力をもって徐倫達ジョースター一行を追い詰めた。

さて、そんな一部の人間にとって非常に因縁深いこのケープ・カナベラルだが・・・

 

「・・・・・・」

 

DIOから意味深なアドバイスを聞き、学校で矢島から送られてきた報告を読み終えた後、俺は放課後自宅に帰ってからスマフォをネット回線の中継地点として利用してパソコンを使い、DIOに言われた座標・・・このケープ・カナベラルで新月のパワーを得られる最適の日を調べていた。

奴の言葉を信じ、とりあえず予想通りに事を運んだとすれば・・・おそらくザ・ワールドのDISCは次の段階へと進むはずだ。

 

「アライブ、鍵。」

『ヘイヘイ。』

 

アライブに倉庫への道を開かせ、中から一枚のDISCを取り出す。

 

---ドクンッ ドクンッ ドクンッ ドクンッ・・・

 

帰宅した後エルメェスのアレを使ってザ・ワールドと日記を一つずつ複製してから日記の一つをザ・ワールドに使い、そのザ・ワールドをDIOの骨に突っ込んでからあるだけの+99のDISC(スペアがある物だけ)を詰め込む作業を何度か繰り返してみた。

その結果、倉庫の中身が一気に減った事に対する物悲しさとともに出来上がったのがこの尋常じゃないくらいに鼓動し、大気と俺の危機感を震わせるザ・ワールドのDISCである。

・・・・・・これは経験から言える話だが、スタンドDISCはいずれも+99よりも数が増えることはなかった。現在は修正値の数字が分からなくなってしまっているからわかりづらくなってしまったが、それでも漫画をスタンドDISCに使えばその分パワーが上がり、99回分強化したらそれ以降はパワーが上がらなくなることも確認できている。

そしてどんなDISCだろうと、それがたとえ元祖天国へ至ったスタンドであるメイド・イン・ヘブンであろうとこの状態でここまで明らかに凄まじいと言えるほどの変化を遂げたことはない。

あのDIOが言った天国のもう一つの可能性・・・いったいどんなものへと変わってしまうのだろうか。正直怖くもあるが、それ以上に興味が尽きない。

 

「実際に見てみないと断言は難しいけど・・・・・・・・とんでもないものが生まれそうだというこの確信めいた感覚だけは間違いないんだろうな。」

 

一息つき、倉庫にDISCを収納して俺はパソコンの画面に表示されている現地の月齢の周期を見ていく。

 

「・・・・・・・・なるほど。今月の18日の夜か。」

 

俺の学校は丁度同じ日に冬休みに突入する。この分なら時間的には無理なく行くことが出来るだろう。唯一の問題は俺がパスポートを持っていないことと海外旅行はさすがに親が許してくれそうにないことだが・・・この日にちょっと付き合ってもらえないかどうか、明日矢島に頼んでみるか。アイツなら運が良ければ日帰りできるだろうし。

・・・・・・本当はダンジョンの方のケープ・カナベラルに行ければ楽なんだろうけどなぁ・・・あそこ持ち込み禁止だからなぁ・・・

 

「まあそれは今更だしもういいや・・・とにかくそうと決まればさっそく相談を・・・」

 

---トゥルルルルルッ

 

「あん?」

 

スマフォを手にとろうとした瞬間、呼出音がスマフォから鳴り響く。

相手は矢島・・・なんてベストタイミングな。取り敢えず通話ボタンを押して呼び出しに応じる。

 

「{ピッ}はいはいもしもし?」

『よう梶原。昨日はよくも帰ってくれたな?』

「だって俺もいる意味なかったじゃん?それにちゃんと手伝ったし。」

『いやまあ確かに、あれ以上の戦闘はいい加減ぐだりそうだったから助かったけどよ・・・まあそれはとりあえず置いておくとして。』

「置いとくのか。」

『置いとくのさ。それでまあちょっと聞きたいんだけど、明日暇?』

「一応暇だな。」

 

明日は確か波紋の呼吸をしながらのロードワークと鉄球をより正確に回す練習をする以外は特に決めていないはず。うん、たぶん暇だな。

明日土曜日だし。

 

「それがどうかしたのか?」

『ああ、実は明日皆ですずかの家に遊びに行こうって話が出てるんだよ。なんかすずかが新しく出来た友達を紹介したいらしくてな。で、テスタロッサ姉妹も俺も全員特に用事がねえからそれにOKして、ついでに良かったらお前やローウェルの方も誘えばいいんじゃないかってことになって・・・』

「で、お前がわざわざかけてきてくれたと。」

『そゆこと。ちなみにローウェルには既に確認済みだ。あとお前が来ないって言ったらシャッフラーかけてでも連れてくって言ってた。一応聞いときたいんだけどシャッフラーって何?』

「(アイツ最近どんどん遠慮が無くなっていくな・・・いや割と最初からか?)絶対に対策しておくべき魔法その一ってところかな・・・」

『そ、そうか・・・一応すずかの家の前で十時に集合って決めるがどうだ?』

「家の前で十時な。了解。」

 

あ、あれも忘れないように言っておくか。

 

「矢島、ついでにちょっと頼みたいことがあるんだけど。」

『ん?なんだよ?』

「いやさ、次の18日の5時くらいに俺をケネディ宇宙センターに転移魔法で送って欲しいんだけど大丈夫かなぁーって?」

『は?宇宙センター?ちょっと待て・・・・・・・・・・色々と聞きたいことはあるけどまず一つ、名前は知ってるけどそれってどこだっけ?』

「北緯28度24分、西経80度36分。アメリカ合衆国フロリダ州の宇宙開発センターだよ。グー○ル先生に聞けば分かる。」

『ま、待て。ちょっと待てよ、18日の5時だったな・・・・・一応予定がないし別にいいっちゃいいけどよ、そんなところに行ってどうするんだお前。』

「いやさ、ひょっとしたらスタンドがまた一つ増えるかもしれんのよ。で、そのためにそこに行く必要があるみたいなんだわ。」

『・・・・・・まだ増えるのか、たまげたなぁ~~~~~・・・まぁ、そういうことならいいさ。貸し1ってことで送ってやるよ。』

「サンキュー。」

『他にもう用はねえか?ないならもう切るぞ。』

「おう、じゃあまた明日。」

 

別れを告げて通信を切る。

さてと・・・・・・すずかの家ってどこだったかな?行ったことないからわっかんねえんだよな・・・

まあ住所はメモしたのがあるから調べられんこともない。グー○ル先生に聞いてからちょっとゲームをした後は今日は早いところ寝ておくか・・・そんで起きたら波紋の呼吸を維持しながら軽く外でジョギングをしてその後はのんびりと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

===翌日 10:15===

 

 

 

次の日にロードワークと朝食を終えてのんびりとすごした後、9時ちょっと過ぎに家の前に来ていたアリサとともに俺はすずか家の敷地前まで来ていた。

始めてみる規模の大きな屋敷を遠目に見ながら、俺達は感嘆の息とともに言葉を漏らした。

 

「立派なお屋敷ね。すずかちゃんの家って本当にお金持ちなんだ。」

「みたいだな。名家の御嬢さんとは聞いてたけど、いやほんとマジモンの金持ちだなおい。」

 

親が確か工業機器の開発製造を行う会社の社長だったか?話に聞いた時はあんまり実感が伴ってなかったけど・・・いやこうして実際に見ると、やっぱり金ってあるところにはあるもんなんだなぁって思うわ。

 

「バニンクスも親が日本有数の大会社の社長さんらしいし・・・ああなんたるブルジョワジー!俺もあんな生活が出来るくらい金が欲しい!」

「みっともないからこんなところで言わないでよ。そんなに欲しいの?」

「いや別に、正直喰うのに困らなくてちょっと趣味が出来る程度あれば後はそんなにいらん。まああればあるほどいいのは確かだけどな。」

「えぇ―――・・・」

「それより早いとこお邪魔しようぜ。俺らちょっと遅れてるし。」

 

現在の時刻は十時十七分、予定の時間より少し遅れてしまっている。

このままではアリサ辺りからの小言で俺のストレスがマッハなんてことになってしまう。

早く行かなきゃ(使命感)

 

「ま、まあそうね。」

 

苦笑いするアリサとともに、俺達は敷地に入ってすずかの家の前に行く。

とりあえずインターホンを鳴らして待っていると・・・

 

---・・・・・・トットットットットッ ガチャッ

 

「おっと。」

 

暫くすると誰かの足音がした後、玄関が開かれて中からメイドさんと思わしき服を着た青髪の美女が出迎えてきた。

・・・・・・・・クロノとかリンディさんとかは異世界人だからということでまだぎりぎり納得しようもあるけど地球人の彼女もこれって・・・うちの学校といいすずかと言い、今更だけどやっぱりこの世界の遺伝子はどうなっているのだろうか・・・

 

「いらっしゃいませ、梶原泰寛様にアリサ・ローウェル様ですね?」

「あ、はいそうです。」

「そうですけど・・・」

「ようこそ、お待ちしておりました。私はノエル・K・エーアリヒカイト、月村家でメイド長を務めております。」

「ご丁寧にどうも。・・・・・あの、もうみんな来てたりします?」

 

非常に優雅というか、瀟洒な振る舞いとともに自己紹介をしてくれたメイドさん・・・ノエルさんにアリサと一緒に会釈した後、他の連中も来てるか聞いてみると彼女は微笑みながら返事をしてくれた。

 

「はい、他の皆様は別室にて楽しく談話していらっしゃいました。」

「やっぱり出遅れてたわね。」

「だな。」

「ふふふ、それではお二人を皆様のいる部屋にご案内いたします。こちらへどうぞ。」

「「失礼します。」」

 

ノエルさんの先導の元、俺達は屋敷の中に入っていく。

ヤベェ、外観もそうだったけど内装もスッゴイ立派だ。

 

「すごいわね・・・こう言う所って初めてだからなんだか緊張しちゃうわ・・・」

「ものっすごい同感だ。大丈夫だよな俺?ついいつもの私服(黒い綿パンと黒いダウン)で来ちゃったけど大丈夫だよなおい。」

「た、たぶん大丈夫じゃない?」←青いジーンズと青いコート、内に灰色のタートルネック着用

「さあ、着きました。こちらです。」

 

とか何とか言っている間に、ノエルさんが一つの扉の前で止まる。

そして扉の前に立ち、中に声をかけた。

 

「失礼します、すずかお嬢様。梶原様とローウェル様がいらっしゃいました。」

「あ、はい!どうぞ中に入れてください。」

 

中からすずかがそう言うのが聞こえると、ノエルさんは扉を開けて中に入るよう促す。

扉をくぐるとそこは大きいテラスの様になっていて、中では皆が長テーブルの前で椅子に座ってこっちを見ていた。

 

 

 

・・・・・・ていうか・・・・・・

 

「?」

 

・・・・・何故か彼女たちの足元に数匹猫がいるがそんなことがどうでもよくなる姿がそこにある。何故か皆の中に交じって八神はやての姿があるように見えるんだが・・・なんかアリサ(バニンクス)とアリサ(ローウェル)をすごい交互に見てるんだが・・・

どういうことだと言わんばかりに矢島の方を見ると、あいつはただ苦笑いと訳わからんと言わんばかりのジェスチャーを俺の方に返していた。

知らないのか・・・まあいい、とりあえずみんなに挨拶をしよう。

 

「おはよう皆。」

「元気してた?」

「もちろんよ。待ってたわ二人とも。」アリサ

「おはよう泰寛、アリサ。」フェイト

「ヤッホー二人とも!」アリシア

「・・・・・・やはり同じ名前が二人いるとややこしい件。」矢島

「にゃはは、私も今ちょっと思っちゃった・・・」

「さらに見た目まで似すぎててさらに倍プッシュ。」

「ほんまやなぁ。話には聞いてたけどこんなに似とるなんて・・・二人って実は双子の姉妹とちゃうん?」

「残念ながら違うらしい。」

「ほんまかいな・・・世の中不思議な事ってあるもんやなぁ・・・」

「俺達がそれ言ったらお終いだと思われ。」

 

なんか矢島と八神がえらく意気投合してるな。

 

「いらっしゃい、二人とも。」

「ん?ああ、今回は招待してくれてありがとうすずか。」

「ありがとうすずかちゃん。」

「どういたしまして。さっ、二人とも空いてる席に座って!」

「あいよ。じゃあ俺は・・・ここ失礼するよ。」

「じゃあ私はここにするわ。」

 

俺はフェイトと斜め左にある席に座り、アリサ(ローウェル)はその隣にある席に座る。

そして俺はすずかの方に向き直り、早速本題を切り出した。

 

「えっと・・・今回矢島からは紹介したい友達がいるって聞いてたんだけど、ひょっとしてその子が?」

 

俺がクッキーをおいしそうにサクサクしている八神のことを手で示しながらすずかにそう聞くと、彼女は嬉しそうにその問いに答える。

 

「うん、そうだよ。はやてちゃん、この人たちがさっき話してた泰寛君とアリサちゃんだよ。」

 

「八神はやてです。すずかちゃんとは街の図書館でのちょっとした出会いから仲良くなりました。よろしゅうな。」

 

すずかにそう言われ、八神は俺達に顔を向けてにっこりとお辞儀しながら挨拶をする。

内心では色々と思うことがあったが、とりあえずそれをおしこめ俺は彼女にも挨拶をした。

 

「始めまして、梶原泰寛です。割と取り柄とか期待されてもお手上げするしかない一般人です。」

「「「「それはひょっとしてギャグで言っているのだろうか・・・」」」」

「なんだその眼はァッ!?」

「まあそこのは放っておくとして・・・私はアリサ・ローウェル、すずかちゃんは泰寛の伝手で知り合ったわ。よろしくね。」

「うん!よろしゅうなアリサちゃん!」

「解せぬ。」

 

なのはとアリシアと矢島とアリサ(ローウェル)の残念な物を見る目に突っ込みを入れるも流され、アリサ(ローウェル)が引き続きはやてとの挨拶に移ってしまった。

まあ俺も自覚はあるし知ってる奴が聞けばどう聞いてもギャグかネタにしかならないのは内心はっきりわかってるからもうそれ以上は追究しないが。

 

「失礼します。お二人のお茶をお持ちしましたよー。」

 

そんなことをやっていると、そんな声とともにノエルさんとは別の、明るい雰囲気を纏ったメイドさんが二人分のティーセットを持ってテラスに入ってきた。

おそらく俺とアリサの分だろう。ティーセットは俺とアリサの目の前に置かれ、ポットを持ったメイドさんによってカップに注がれていく。

 

「良い香り・・・ありがとうございます。」

「どうも・・・」

「いえいえ、どうぞごゆっくり。」

 

俺達がお礼を言うとお盆を両手でもって優雅にお辞儀し、彼女はにこやかにその場を去って行った。

アリサはティーカップを手にとって香りを楽しみ、口に含んでいく。

 

 

「おいしい・・・今住んでるところで偶に淹れて飲んだことはあるけど、それとは比べ物にならないくらいおいしいわ。これすごく良い物なんじゃ・・・」

「そんなことないよ、確か150gで8600円くらいだったと思うし。」

「「「「「「「ふぁっ!?」」」」」」」

 

この御嬢さん、今なんと申した?150gで8600YEN?

た、確かに高級食材などは総じて馬鹿にならない値段の物が少なくないが・・・それをこの御嬢さん大したことが無いと?

 

「あ、あのすずかちゃん?その値段になると確かダージリンの中でもファーストフラッシュレベルの物じゃ・・・」

「?そうだけど、そんなに驚くようなものじゃないと思うよ?ねえアリサちゃん。」

「まあそうね。これくらい家でも普通に使ってる代物だし。」

 

そのやり取りに、『にゃはは・・・』と苦笑を漏らしているなのは以外のほとんどが絶句し、改めて自分たちの飲んでいた紅茶をまじまじと見ていた。

 

「{ボソボソ}す、凄い格差を感じる事実だったね・・・」

「{ボソボソ}う、うん・・・アリサもすずかも、いろいろとすごいよね・・・」

「{ボソボソ}お、俺いつもお茶会の度にそんな高級なお茶を飲んでたのか・・・ぜんぜん知らなかった・・・」

「{ボソボソ}なんか、住んでる世界の違いを一瞬で見せつけられた気分や・・・二人との距離がスッゴイ遠く感じてしまうで・・・」

「「??」」

 

アリシア、フェイト、矢島、八神の順にそんな小声が聞こえてくる。

俺自身も似たようなことを内心で考えたりする。

ヤベェ、この二人マジパネェよ。昔読んだあの江戸っ子警官が出てくる漫画の二人の金持ち警官並みに半端じゃねぇよ。

惜しむらくは、紅茶という物に対して趣向があっていない俺自身と言ったところか・・・

 

「ホラ、泰寛も早く飲みなさいよ。折角の紅茶が冷めちゃうわよ。」

「お、おう・・・」

 

アリサ(バニンクス)に促され、俺は自分の分のティーカップの乗った皿を左手で持ち上げる。

・・・・・・さすがに空気をぶち壊しかねないからここでは言わないが、実は紅茶や緑茶などの渋みがあるお茶は好きじゃないんだよなぁ、俺。苦みというか渋みというか・・・特に紅茶はあの独特の香りが苦手なんだよ。

チャイ(インド式の紅茶)は匂いがそこまででもない上に多量の砂糖による甘さと香辛料のもつ香りと味わいが完全に上回ってるからそこそこ好きな部類に入るんだが・・・

ここは一つ、ミルクと砂糖を入れて誤魔化すか・・・いや、折角の高級品に、一口もつけずそう言うのを入れるのはさすがに失礼か。よし、一口だけ我慢して飲んで、後はミルクと砂糖で誤魔化そう。そう考えながらティーカップを手にとって、湯気と香りが出ている紅茶を口にする。

 

---ゴクッ

 

「・・・・・・・・・」

 

・・・・・・確かに高級茶葉というだけあって、昔試しに飲んだ物とは決定的に違うな。

なんというか、雑な感じの無い味わいというか、花の香りを思わせる風味というか、上手くは言えないけどなんとなく良いものだと思わせるような何かがある、そんな感じがする・・・

 

「どう?おいしい?」

「そうだな・・・・俺、あんまり紅茶とか飲まないけど少なくとも【良い物】だってことは分かるよ・・・」

 

すずかの問いに、俺は思ったことをそのまま話す。

するとすずかはよかったと微笑みながら言い、御代わりはいくらでもあるから好きなだけ飲んで欲しいと進めてくれた。

俺はそれに「ありがとう。」と言って返し、持っていたカップと皿を机に置く。

 

・・・・・まあ良い物とは言ったが、それでもやはり紅茶だ。悪くはなかったが発酵したもの特有の妙な風味はやはり俺にはきつい。

今度ここに来ることがあったらさり気無く、麦茶とかの後味が良い物の方が好きだと言っておこう。

 

 

という訳で・・・・

 

(アライブ・ザ・ワールド。)

 

---ドォ―――z__ンッ

 

スタンドパワーの解放とともに、この世の全ての速さを超越した経過時間ゼロの世界へと踏み込む。

全てがモノクロ―ムの様な色彩になったのを確認すると同時に、俺はテーブルの上の砂糖とミルクと書かれた容器に目を向けた。

 

 

(今世の現実での時間停止初お披露目がこれとか、なんていうか笑えるなぁ・・・)

『コッチハチョット泣キタイクライナンデスガネェ・・・』

 

そんなことを考えながら、愚痴を溢すアライブを使って急いで砂糖適度に、ミルクを多めに自分の紅茶に入れていく。

 

(・・・一秒経過・・・・・・よし、だいたいこんなもんだろ。)

 

ある程度入れた辺りで浮いてる砂糖とミルクをアライブの手で押し込ませ、砂糖とミルクの容器を手早く元の位置に戻す。

そしてアライブを自分の中に戻し終わり・・・

 

(二秒経過・・・・・時は動き出す。)

 

世界に、元通りの色と動きが戻ってきた。

俺はまたティーカップを持ち、また紅茶を少し口に入れる。

・・・うん、さっきよりは良いか。

 

「はやてちゃんって何か趣味とかある?」

「んー、趣味か。そうやなぁ~~~、本読むのは勿論好きやし、アニメを見るのも好きやし・・・あ、後お料理作るも好きやで。家の皆がおいしいって言って喜んでくれるとすっごく嬉しいから、最近特に勉強しとるんよ。」

「良いセンスだな。」

 

作った料理が誰かに高評価される楽しさ、俺も自分の家で作ってるからよくわかる。俺の場合はリアルでパール・ジャムを持ってなかったらクオリティと頻度は若干落ちてたかもしれないが。

 

「ロボット系のアニメに興味があったらぜひ俺に行ってくれ。お奨めにの物について熱く語ってみせよう。」

「ほほう、ええよええよ。矢島君はどんなのが好きなん?」

「俺か?俺はなぁ・・・」

「ちょっと、盛り上がるのは良いけど女子組が付いていけないのは後にしてよ。」

「そうね、その手のは私もあんまり知らないから置いてけぼりを食らっちゃうわ。」

「「はーい。」」

 

ダブルアリサにストップを掛けられ、寸分の狂いもなく同時に返事をする二人。こいつら仲がいいな。

 

 

 

 

 

 

その後は特に恙無くお茶会が進んでいき、途中で部屋を移ってゲームをするなどしてその日の集いを楽しむこととなった。

ちなみに帰り際で、八神とは料理の話で意気投合する仲となってきたのはここだけの話である。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。