デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

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人理焼却?なにそれ怖い その二

---ジジィーーーッ ジジィーーーッ ジジィーーーッ 

 

「・・・・もうそろそろか。」

 

あの通路から移動し、俺は壁の中をスティッキーフィンガーズのジッパーで切開しながら進んでいた。

まず最初に目指すのは、地図に載っているこの施設の中央部分。見たところここの中で一番巨大な空間であるここから施設の規模を大凡把握し、徐々に内部を移動しつつ俺の今置かれている状況を把握していくことにしよう。

・・・・・・・それにしてもなんだろうな、この背筋のあたりに得体のしれない何かが這ってるようというか、何とも言えない嫌な感じ。こんな状況になってて今更どうということでもないはずなんだけど、それとは別に何かが落ち着かん。

……前にもこんなことがあったな。高校入学の引っ越し先とか、高三の時に田舎にグルメツアーに行った時とか・・・・あれはどっちも最終的に関わらざるを得ない面倒事だったな・・・

 

---バシッ バシンッ ジジィッ ジジィーーーッ ジジィーーーッ 

 

「・・・・・・・ぬ!?外に繋がったか!」

 

暫くして、開きかけたジッパーから光が漏れてきて反射的に目を細める。

外から人が見ているかもしれないから取りあえずジッパーを一度閉めておき、ザ・ワールドを先に外に出して周囲の状況を把握しにかかる。

 

 

「・・・おぉ~~~・・・なんだこりゃ・・・」

 

ザ・ワールドの視界を共有した結果、自分の目に入ってきたのは山一つ刳り抜いて作ったんじゃないかと思われるほどの、円柱状の巨大な人口の空間だった。

空間の内側の壁面は、巨大な板のような物が横向きに無数に、規則正しく平行に突き刺さっているかのような外観で、それが俺のいる位置から300メートルくらい下まで続いている。

そしてその最下層には広場の様な場所がある。

床にはここのエンブレムらしき、【C】の字を大きい植物で囲んだような紋章が描かれており、部屋の中央には真円形の池の様なものが作られている。

その池の真上では土星の輪っかの様な五つのサイズの違うリングがゆっくりと回転運動を行っていて、さらにその周りを青白く光る謎の長方形が旋回していた。

そして・・・・・五つの輪っかの中心にあるものが目に映った途端、俺は無意識に生唾を飲み込んだ。

 

「・・・・・・たまげたな、なんなんだあれは・・・」

 

回転の中心にあったのは、青白く光る地球儀の様なものだった。

ただそれが光るだけのものなら別になんてこともないのだが・・・問題はあれから感じられるエネルギーだ。

距離があるせいか正確なことは何とも言えないが、あの地球儀の様なものを見ていると、前に矢島とスカさんに見せてもらった稼働中の縮退炉の試作品を見ていた時と同じ気分になる。

・・・・・・・・・・まあエネルギーの循環自体はかなり近づかなければ問題ないくらいには高度に安定しているみたいだし、これは今は置いておこう。

 

「・・・・・ん?あの辺りに人がいるな。」

 

最下層の外周部をよく見るとガラスで空間が区切られたでっぱりのような部分があり、その内部はロボットアニメでよく見るような管制室、あるいは指令室のようだった。

 

「この角度じゃよく見えないな・・・・・話が聞こえるところまで行ってみるか。」

 

ザ・ワールドを戻して再び壁を切開しながら移動していく。

 

「・・・・・とは・・・・・・でし・・・・・・ろったようですね。」

 

ある程度進むと段々女性の声が聞こえてきた。

俺はその声がはっきりと聞こえる位置で止まり、耳を澄ませて話している内容を聞き取り始める。

 

「特務機関カルデアへようこそ。所長のオルガマリー・アニムスフィアです。」

「貴方達は各国から選抜、或いは発見された稀有な才能を持つ人材です。才能とは、霊子ダイブを可能とする適性のこと、魔術回路を持ち、マスターになる才能を持つ者。想像すらできないでしょうが、これからは各々、その事実を胸に刻むように。」

 

【カルデア】、【霊子ダイブ】【魔術回路】に【マスター】・・・・・・先二つについてはわからないが、あと二つの単語の組み合わせはものすごぉ~~~く聞いたことがあるんだが・・・いやよそう、まだ決定的ではないはず。

でも一応、今すぐヘブンズ・ドアーで記憶を思い出す命令を書き込んでおくか。万が一があると嫌だし。

 

 

 

 

 

 

「貴方達は今まで前例のない、魔術と科学を融合させた最新の魔術師に生まれ変わるのです。」

 

 

・・・ま、まだだ…まだ結論には早いはず・・・あの時空では魔術と科学は水と油のごとく相性が悪くて複合なんてしようがないほどだったはず・・・そう、まだ結論を出すには早い(震え声)

ていうか、魔術と科学の融合か…一応、矢島が構築した悪魔召喚プログラムは完全にそれを成してるんだよな。

万が一の時のために今は俺もPCの方にインストールしてもらってるし・・・使う機会が無いと良いな・・・

 

「・・・・とは言えそれはあくまでも特別な才能で、貴方達自身が特別な人間ということではありません。貴方達は全員が同じスタート地点に立つ、未熟な新人だと理解なさい。特に協会から派遣されてきた魔術師は学生意識が抜けきっていないようですが、直ぐに改めるように。ここカルデアは私の管轄です。外界での家柄、功績は重要視しません。まず覚えることは、私の指示は絶対ということ。私と貴方達では立場も視座も違います。意見、反論は認めません。貴方達は人類史を守る為だけの、道具に過ぎないことを自覚するように。」

 

・・・人類史を守る?またえらく重要そうというか場合次第じゃ物騒な話だな・・・・・・それにしても、本当にいったいどんな場所なんだ、ここ?施設の規模自体もそうだが、所長のあの一言一言に乗る緊迫感や気迫からして話の内容自体も文字通り人類の危機に立ち向かおうとしてる感じがしてくる。マジでただ事じゃなさそうだ。俺は果たして、どこにきてしまったのだろう…それもこれからの話の中でわかることなのだろうか…

・・・それはそれとして、やっぱり人前で迂闊にスタンドを出さなくて正解だったな。何時ぞやの件みたいにスタンドを知覚出来る奴がいたらあっという間に俺の存在がばれてしまう。まったくの部外者である俺が出て行ったりなんかしたら絶対碌な事にならなかったぞ。

 

「なによそれ、話が違うわ!私たちは才能を評価されて集められたエキスパートです!どうしてもというからこんな山奥までやってきたのに、絶対服従とか馬鹿じゃないんですか!?」

「その通りだ!愚弄するにも限度がある!魔術師にとって血筋は最重視されるものだ、それをないがしろにするなんて!」

 

---ガヤガヤ・・・ザワザワ・・・

 

そんなことを考えていると、いつの間にか所長を名乗っていた女に向けてのものであろう、抗議の声が上がるとともに壁の向こう側が騒がしくなる。

割と個人的というか、組織的に動くには些か勝手な理由が飛び交うのを黙って聞いていると・・・

 

「静粛に!私語は控えなさい!それだから学生気分が抜けていない、なんて言われるのよ!」

 

痺れを切らしたのか、所長が声を張り上げて騒ぐ者たちに怒鳴る。

 

---ザワザワ・・・ザワザワ・・・

 

「私は現状を打破する最適解を口にしているだけ、納得がいかないのなら今すぐカルデアを去りなさい!・・・もっとも、貴方達を送り返す便はないけどね。標高6000メートルの冬山を裸で降りる気概があるのなら、それはそれで評価しましょう。」

 

ただ怒鳴っただけでは騒ぎは収まらなかったが、次の実質「はい」か「イエス」しか選択肢がないような選択を迫られて全員が一様に押し黙った。

6000メートルか・・・・まあ降りられないことはないか。

 

「結構、脱落者はいないようね。まったく、くだらないことに時間を使わせないで。私たちの、いえ、人類の置かれた状況がそれぐらい切迫しているものと理解してほしいものだわ・・・それでは話を続けます。いいですか?今日というこの日、我々カルデアは人類史において偉大な功績を残します。学問の成り立ち。宗教という発明。公開技術の獲得。情報伝達技術への発着。宇宙開発への着手。そんな数多くある『星の開拓』に引けを取らない、いえ、全ての偉業を上回る偉業。文明を発展させる一歩ではなく、文明そのものを守る神の一手。不安定な人類の歴史を安定させ、未来を確固たる決定事項に変革させる。霊長類である人の理―――即ち、人理を継続させ、保障すること。それが私たちカルデアの、そして貴方達の唯一にして絶対の目的です。」

「カルデアはこれまで多くの成果を出してきました。過去を観測する電脳魔ラプラスの開発。地球環境モデル【カルデアス】の投影。近未来観測レンズ【シバ】の完成。英霊召喚システム【フェイト】の構築。そして霊子演算機【トリスメギストス】の起動。これらの技術をもとに、カルデアでは百年先までの人類史を観測してきました。未来予測ではなく、未来観測です。天体を見るようにカルデアは未来を見守ってきました。その内容がどのようなものであれ、人類史は百年先まで続いている、という保障をし続けてきたのです。頭上を見なさい。これがカルデアが誇る最大の功績―――高度な魔術理論によって作られた地球環境モデルである、私のカルデアスです。」

 

・・・今ちょっとだけ【私の】の部分を強く言ったな。まあ今はどうでもいいが。

そう、そんなことは本当にどうでもよかった。彼女の語ったカルデアの偉業とやらに聞き覚えのある言葉が出てきた時点でそんな感想は、便所に吐き出されたタンカス並みにどうでもよくなった。

彼女の語った〔英霊召喚システム【フェイト】〕という単語の時点で、俺が型月時空に放り込まれてしまっていることが完全に確定してしまったのだ。しかも寄りにもよって、厄介事が起こると確定してしまっているところに。

型月のこういった厄介事が、絶対に穏便に済むはずがない…確信めいた感覚が俺の内心を占めていくさなか、所長の話はさらに続いていく。

 

「これは惑星に魂があると定義し、その魂を複写して作られた極小の地球です。我々とは異なる位相にあるため、人間の知覚、知識では細やかな状況は読み取れません。ですが表層にある物、大陸に見られる都市の光だけは、専用の観測レンズ【シバ】によって読み取れます。現在はその状態を百年後に設定しています。このカルデアは未来の地球と同義なのです。カルデアスに文明の光がともっている限り人類史は百年先の未来まで約束されています。だって光がある限り、年には人間が暮らし、文明が継続していることを証明しているのですから。ですが―――レフ、レンズの変更角度を正常に戻して。」

 

その言葉を聞き、俺はおそらく先ほど見た地球儀のことであろうと考え、地球儀の表面をPC上に念写する。

すると画面上には、さっきまで青色に光っていたはずの地球儀の表面が見る影もない灰色へとその光を変えていた。

さっきまでの話が本当ならば、この映像が意味することは…この世界の地球には、現存する人類の大部分が存在するはずがないという結論である。

ゾッとしながらも、なぜこんなことになっているのかを聞くために再度声に耳を傾ける。

 

「現状は見ての通りです。半年前からカルデアスは変色し、未来の観測は困難になりました。今まで観測の寄る辺になっていた文明の光…その大部分が不可視状態になってしまったのです。」

 

---ガヤガヤガヤガヤ・・・

 

「ふん、いい反応ね。少しは頭の回る子がいてくれて助かるわ。そう、明かりがないという事はこれは極秘事項として秘されていたことですが、貴方達には知る権利があります。文明が途絶えたということよ。観測の結果、地球に人類の明かりが確認出来るのは2016年7月まで―――つまり人類は2016年7月をもって絶滅することが観測、いえ、証明されてしまったのよ。いうまでもなく、こんな未来は有り得ません。あってはならないものだし、物理的に不可能です。経済崩壊でも地殻変動でもない。ある日突然、人類史が途絶えるなんて説明がつきません。私たちはこの半年間、この異常現象―――未来消失の原因を究明しました。現在に理由がないのなら、その原因は過去にある。我々はラプラスとトリスメギストスを用い、過去2000年まで情報を洗い出しました。今までの歴史になかったもの、今までの地球に存在しなかった異物を発見する試みです。その結果、ついに我々は新たな異変を観測しました。それがここ―――空間特異点F。西暦2004年、日本のある地方都市です。ここに2015年までの歴史には存在しなかった“観測できない領域”が発見されたのです。」

 

西暦2004年…確かStay Nightの時の聖杯戦争がその年代で起こってたよな・・・まさかあの厄物になった聖杯が完成して暴走したことになったとか?

・・・・・・・落ち着け俺、今の話の内容をちゃんと整理して考えろ、最悪のケースを。

今までの話からすると、今俺がいる年代は2015年。俺がいた時代よりも3年先の時間だ。

今問題になっているのは、2004年の日本の地方都市・・・まあ十中八九あの冬木市であっているだろう。そしてこの世界の『今』はあの聖杯の完成が防がれた結果行き着いたもののはずだ。

だがそれが今になって、その聖杯戦争時の年代に何らかの時間的干渉があって今に至る因果律が歪んでしまっている。そしてその結果、実際に解決するはずだった主人公組は軒並みぶっ倒れて今まさにその特異点Fとやらでは聖杯の完成が近づいている。一刻も早くそれを解決しなければこの今いる時間そのものがなかったことになってしまうのだろう。

あの土地の聖杯は三回目の聖杯戦争の時にどんな願いをかけようが生物絶対ぶっ殺す装置になってしまっていたのだから。

 

 

ま あ 別 に そ れ は ど う で も い い。

 

 

あの所長とやらにはそれを解決するための案があり、その案にこの事態を解決できるだけの確信を持っているだろうからそれはいいのだ。

 

 

「カルデアはこれを人類絶滅の原因と仮定し、霊子転移(レイシフト)実験を国連に提案、承認されました。」

「霊子転移(レイシフト)とは人間を霊子化させて過去に送り込み、事象に介入する行為です。端的に言えば過去への時間旅行ですが、これは誰にでも可能なことではありません。優れた魔術回路を持ち、マスター適性のある人間にしかできない旅路です。さて―――ここまで説明すればわかるでしょう。貴方達の役割はこの特異点Fの調査。今から12年前の過去の日本に転移し、未来消失の原因を究明、これを破壊する。この作戦はこれまで例のないものです。何が待っているかは予測できません。ですが、世界各国から選抜された貴方達なら十分に可能だろう、と多大な期待が寄せられています。上層部は一刻も早い原因究明を求めています。無駄に使う時間はありません。これより一時間後、レイシフト実験を行います。仮想訓練はもう十分でしょう。」

「第一段階として成績上位者8名をAチームとし、特異点Fに送り込みます。後発組には伝えてありませんが、彼らはカルデアから選抜されたマスター適性者です。Aチームは一か月前からチームとして機能しています。一人前の兵士、といってもいいでしょう。彼らAチームが先行し、特異点Fにてベースキャンプを築き、後に続く貴方達の安全を保証する。Bチームは彼らの状況をモニターし、第二実験以降の出番に備えなさい。では人間を霊子に変換し過去に転写する量子の筐・・・・・・クラインコフィンの個人登録に移ります。あれは一人一基のものですから替えは利きません。各自、慎重に、丁寧に扱うように。BからDチームは登録が済み次第、コフィン内にて待機。Aチームに問題が発生した場合に備えます。」

「―――何をしているの。やるべきことは説明したでしょう?マスター適性者として招集に応じた以上、貴方達はもう軍人の様なものなのよ。命令には従う。どんなときにも戦いに順応する。いちいち言わせないで、こんなこと。それとも、まだ質問があるの?」

 

まあこんなところだ。ぶっちゃけ実動隊の人数×英霊の数と考えれば、誰か一人くらいは狂化したヘラクレスかどこぞにいる魔力供給の追いつかない慢心王、あるいは黒化したアーサー王を難なく倒せる英霊を呼べそうだし。ただ冬木市の動乱を収めるだけなら現状どうってことはない。

 

 

 

 

 

 

問題が冬木市の聖杯戦争だけならな。

 

 

 

さあ、そうなると一つ問題がある。

そもそもなぜ、とうに過ぎ去った過去の聖杯戦争の時代がこんな事態になってしまっているのか?

偶然?有り得ないな。この世界の抑止力はそんななまっちょろいものじゃない。

一番可能性があるのは何者かの企みであること。ならその何者とは何なのか?

仮に同じ時代にいる、同じ技術を持った誰かの仕業なら別に構わない。こんな設備そう簡単に準備できるわけでもないし、多分一度判明すればそれでほぼほぼ解決するだろう。

だが…もしこれをやっているのが人間の手に負えない存在で、歪めた時間が冬木の聖杯戦争だけじゃなく最悪紀元前、あるいは人類という種の始まりにまで及んでいたら…しかも目的が最終的に人類種の抹消に繋がる様なものだったりしたら…間違いなく俺のいる世界線まで綺麗さっぱり消えてしまう恐れがある。

時間の流れというものは上から下へと流れゆく川の流れの如く、後に進むにつれて可能性という名の分岐をもって幾多にも別たれていくものだ。逆を言えばその可能性の分岐というものは時間を遡れば遡るほど少なくなっていくものであり、行くところまで行くとこの世界線と俺のいる世界線が分かれる為の分岐点に必ず差し掛かる。もしその分岐点より前を抑えられていたらもう駄目だ。

俺の時代に至る全てが消えてしまい、俺の存在は俺のいた時代ごと無かったことになってしまう。

有り得ない・・・なんてことは有り得ない。人間の想像し得ることなんてのは大概は現実で有り得てしまうことだ。前の人生じゃ神様転生なんてフィクションでしかない存在と思われていたのに、現実俺や矢島の身にはそれが起こってしまっているくらいなのだから。

・・・・・・・・・せめてこの世界の月が俺の世界のあれと違うものであればまだ希望的観測に期待を載せてこのまま自分の世界に安心して帰れたかもしれないというのに…現状じゃ調べるのに時間が足りなさすぎる!!

クソ、いつもなら異世界のことなんていちいち首を突っ込んでたら命がいくつあっても足りないと割り切って、D4Cなりオーバーヘブンなりレクイエムなり使ってとっとと帰っているはずなのに、事と次第によってはそんなことも言っていられなくなってくるぞ。

幸いここならそう言った因果律による消滅を防いでくれるかもしれないが・・・だがそれだけだ。俺は部外者だからこの作戦に参加することはほぼほぼ不可能だろうし…どうする?今のところこいつらの行く末を見届ける以外の方法が思いつかないぞ・・・

 

 

「・・・・・・・・・・・・ハァ~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・」

 

 

・・・・・・・・・・・・・落ち着け、こういう行き詰った時は思考の転換が重要だ。

何が出来るかはまず置いておく。問題は、これからどういう展開になることが最悪かだ。

まず第一、今回の過去の異常が何者かの思惑によってなされているとしたら、こういう自分の邪魔になる存在を野放しにしておく道理があるだろうか?

もし相手が人間を舐め切っているような頭の緩い輩なら程度が知れるが…もしディアボロのような障害というものに対しとことん神経質になって潰しに来る類ならば、必ずこいつらを潰す為の何かしらの仕込みを行うはずだ。

なら潰そうとしているのは誰か・・・人物像としてはこの組織に所属しているにいる時間が相当長く、周りからある程度信頼されている奴だろう。それくらいじゃなければ、この一大事のピリピリした状況下でそんな仕込みをすることなどできないだろうからな。

だとすれば必然的にマスター候補たちはここで除かれる。彼らは最長でも、ここ一、二か月のうちに集められたメンツだ。そんなことが出来る余裕などあろうはずもない。

となると残りはここの職員だが・・・・・ふむ、こういう時はほとんどの施設が万が一不備がないようにと何度も何度も入念に綿密にチェックを行われるものだ。そのチェックを潜り抜けて仕込みを入れるにはレイシフトのシステムに深くかかわっているか、ある程度地位があること、あるいはその両方を併せ持っている奴じゃないと無理だ。

憶測の域は出ないが、これらに該当する人間が一番怪しい・・・・・これ以上は情報が少なすぎて割り出しは不可能だな。次だ次。

となると今度はレイシフトを失敗させる方法だが・・・・・・レイシフトを行う際、マスターは『コフィン』の中に入れられるそうだよな?そのコフィンのある位置に上手く爆弾とかを仕込んで実行すると同時に起爆すれば・・・・・・いやコフィンだけじゃ完璧とは言えない。施設内の重要な機材や資材、エネルギーのジェネレーターなどにも似たような仕込みが行われているとみて間違いないはずだ。

・・・どうする?今すぐコフィンの辺りにあるであろう仕込みを抜き取りに行くか?いやだがコフィンの周りのデータは常にチェックされ続けているはずだ。さすがに誰にもばれずに施設のセンサー類を全て正常に見えるように狂わせ、それを行いながら処理を行う方法なんてない。絶対不審な点が出てくる。

・・・それに仮に爆弾を抜き取ったとしてそれが何になる?確かに一時はどうにかなるかもしれないが・・・犯人は依然施設内に、何一つ疑われることもないまま澄まし顔で残ったままだ。また別の手を講じられて同じことを繰り返しかねない。

仮に犯人を見つけ出せて、それを誰かに告発させたとしよう・・・それは十中八九「馬鹿な」の一言で終わりだ。相手はこの組織内で信頼を得ている奴だ。よっぽど確かな証拠を突き付けなければ確実に追い詰めることはできない。なによりこの一度目で失敗した場合、今後は絶対に尻尾を掴ませる様なヘマはしなくなるはずだ。

そして万が一上手く告発が成功したとしても・・・・・それはそれで大問題だ。さっきのマスター候補達の感じからして、内部にスパイがいたことが知れれば確実に所長やカルデアの人員達が信頼を失う。そうなればいよいよ組織としての破滅は逃れられないものとなるだろう。

何せトップの信頼度は実質お飾り以下、兵士たちはエリート気質で上昇志向が抑えられない奴ばかり、おまけに魔術師という人種は基本人でなし揃い、更にこれからマスターたちは人間を超えた存在であるように設計された存在である英霊たちを呼び出すから内乱とかが起こったら結構高い確率でここが取り返しがつかないくらい破壊されたり俺の存在がばれたりすることもあったりして・・・・

 

 

 

 

 

              詰 ん だ か も し れ な い ! !

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・もうね、だれがどう見てもオワタ式だわ。お手上げ侍だわ。こんなんヘブンズ・ドアーで全員に命令し終わる前に終わるわ。

犯人を探し出して始末しても結局スパイ疑惑が発生して同じ結果に行き着いちゃうし…もう無理だろこれ。どう足掻いてもここは壊滅だよ畜生が・・・!!!

 

「{ブツブツブツブツ}お、落ち着け梶原泰寛、こういう時こそ冷静にならないでどうする?お前はいつだって生き汚さと根性と諦めの悪さでどんな苦難も最後には笑って乗り越えてきただろうが・・・落ち着け、落ち着くんだ、こういう時こそ素数を数えて心を落ち着かせるんだ。2、3、5、7、11、13・・・・・・」

 

まずこの状況、俺が敵ならどうする?一先ず仕込みが機能して期待通りの成果を出したのならば、ここの施設はほぼ使い物にならなくなるだろう。だが物がぶっ壊れる程度ならクレイジー・ダイヤモンドをフル稼働させれば多分一日か二日かからないくらいの時間で全て直せる。

なら人員的な被害は?これもクレイジー・ダイヤモンドで死にかけている奴は直し、死んでいる奴は・・・・若干泣きたくなるがオーバーヘブンで片っ端から爆発に実は巻き込まれていなかったという真実に上書きしていけば多分大丈夫。施設の運営に必要な職員は元通りだ。

問題はマスター候補者たちだが・・・どうしよう、出来る事ならやりたくねえけど復活させるついでに今回の出来事の記憶をマスター達から消しておくぐらいしかない。連中を作戦に組み込むには少なくともそれくらいしなければどうしようもないぞ。

 

 

「・・・・・・よし、もうここから先は考えてどうにかなることじゃない。」

 

時計を見ると、レイシフト開始まで後30分という時間になっていた。

もう考えられるだけのことは考えた。ならここから先は、どれだけ被害を減らせるかにかかっている。

一度倉庫内に戻って、ホルマジオの瓶を取り出し中に入っている敵を確認する。

・・・・・・仗助が6体か、けどこれだけだと向かわせるわけにはいかない。スポーツ・マックスが呼ぶ透明のゾンビとしてか、ブチャラティを一緒に行動させないと怪しい奴が施設内を、この一番大事な時になぜか徘徊していたと言う証拠が残りかねない。そうなればその出処である俺に行き着いて最悪俺が犯人扱いされて終わる。

そして悲しいことに透明のゾンビもブチャラティも在庫はゼロだ。少なくともここ以外の施設のダメージを仕込みが起動すると同時に一気に減らすということはできない。

それに俺はここから離れるわけにはいかない。ここが一番大事なところだ。ここで成功するかどうかは俺自身が見届け、対応できるようにしておかなくてはならない。

 

「・・・・・・結論、結局今出来る事は無しか。ハァ~~~~~~~~~~~~~~~・・・・」

 

倉庫内であるため、他に憚ることもなく盛大に溜息をつく。

もういい、最悪のパターンも出来る事も一通り考え終わった。後は実際に起こることを見守るだけである。

ま、ここまでの思考全部憶測にすぎないし、ひょっとしたら今考えたこと軒並み起こらないかもしれないしね!

起こらないかもしれないしね(強弁)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・メイド・イン・ヘブンとクレイジー・ダイヤモンドとオーバーヘブン装備しとこ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---ドグォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッ!!!!!

 

 

 

 

    知 っ て た 。

 

・・・・・・・・・コフィンのある場所は完全にアウトだな。今のは人間なら即死レベルの大爆発だった。管制室の方もその余波を受けて被害は甚大だ。全員生きているのかどうか極めて怪しい・・・・

・・・・・・・・・・さ、行くか。先ずは念のため、コフィンの周りをまわってから人員の治療、あるいは蘇生を行う。その後で管制室の職員達、それから他の被害にあった施設を順に回って最後にあのコフィンのある所に戻ってくることにしよう。

なに、自分の時間だけ加速すれば戻ってくるのに2分とかからないはずだ。

 

 

「{スタッ}ハァ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・・・・・・泣きてぇ・・・」

 

灰色になった地球儀の前に降り立ち、ぼやきながら俺は時を加速させた。

 

 


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