デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録 作:enigma
やったぜ。
特異点で意識を取り戻してから20分が経過した・・・アヌビス神に体を貸して、その辺をうろうろしながらこちらを狙う何者かのアクションを待っていたが一向に出てくる気配はない。
(・・・・・・チッ、なかなか誘いに乗ってこねえな・・・)
なかなか姿を現さない敵に、アヌビス神が徐々に焦れてきて遂に舌打ちをし始める。
ようやく敵が斬れると思って意気揚々としていたのに、肝心の相手が出てこないのだから当然と言えば当然か…多分さっきの戦闘で迂闊に突っ込むことに向こうも危機感を覚えたんだろうか、将又こっちの気力が果てるまでの根気勝負ということなのだろうか…
どっちにしろ面倒臭いな・・・・・・俺も本命でもない奴相手に根気比べをしていられるほど暇ではないし、ここから十分ほど歩いたところに探している二人と一匹がいることも聖杯がある地下空洞の場所も掴んでいる。相手の位置も、念写では大体の方向くらいしかわからなかったが更にウェザー・リポートの気流探知を行うことでほぼほぼ割り出しが済んでいる。
ちょくちょく場所を変えているようだが今の位置だってほぼ特定できているし、そろそろこちらから仕掛けるか。
(アヌビス神、左後ろ十五メートル、そこの瓦礫の陰だ。)
「(よし来た!!)シャアアアアアッ!!」
「!?」
俺の合図とともに一気に相手との間合いを詰めたアヌビス神。
敵を瓦礫諸共切断せんと抜刀と同時に振るわれたムラサマの一太刀はコンクリートがまるでそこに存在しないといわんばかりに切り裂かれる事なく通り抜けていき・・・・・・
---シパァ――――z_ンッ
途中で肉と骨を切り裂く音を出しながら思いっきり振りぬかれた。
「{バッ}グヌァアアアッ!?!」
その後一瞬遅れて、右腕だけが異様に長い黒い靄の様なものを身に纏った人型が物陰から出てきて、呻き声をあげながら鮮血が迸る胸元を抑えつつ大きく後ろの廃墟へと跳躍した。
人型は軽く五メートル以上は上昇した後、廃墟の窓枠に掴まって廃墟の中へと入っていく。
「逃がすかよぉッ!!ハァア!!」
アヌビス神も追従するように高く飛び上がって廃墟の壁面に着地し、波紋の効果で壁にくっつきながら奴が入っていった窓枠へと近づいていく。
---バッ
---ヒュヒュンッ ヒュンッ
---ギギンッギンッギンギンッ
枠に足をかけて体を入れた瞬間、四方から音もなく連続で飛んできた短剣をアヌビス神は流れるような動作で瞬時に切り払う。
「ホレ。」
---ギィンッ パシバシッ
「ナニ!?」
短剣が途切れた直後に頭上から降りてきた人型の突き出す短刀を、アヌビス神が太刀を振り上げながら難なく弾き、互いの武器の衝突とともに奴の口から放たれた含み針をキング・クリムゾンとウェザー・リポートが防ぐ。
自分の波状攻撃を悉く躱されて、人型は信じられないといった声を上げる。
「ウシャアアッ!!」
「ッ!」
その驚愕からくる意識の隙をついてアヌビス神は向こうの持つ短刀を弾き、返す刀で人型に切りかかった。
---ザシュッ バババッ
「グヌゥウッ!!」
「チッ!」
人型は即座に体を捻り、左腕を盾にすることで致命傷を避けてそのまま地面に転がり込んだ。そしてアヌビス神がまた切りかかる前に素早く転がりながら体制を立て直し、斬り飛ばされた箇所を押さえながら俺達を睨み付ける。
「ハァ…ハァ…ハァ…オノレェッ!!我ガ人間相手ニコノ様トハ・・・ッ!!」
「クックックックックックックッ・・・いやいや、惜しい惜しい。今のは真っ二つに出来たと思ったんだがなぁ~~?」
(此方の意識の隙を突く様に投擲した短剣の陰に隠れるように短剣を投げる技術、卓越した気配を断つ技術、あの状態からアヌビス神の攻撃を躱し致命傷を避ける身のこなし・・・身を隠しながら接近してきていたことからもわかっていたが完全にアサシンのサーヴァントだな。この上さらにこいつ自身の宝具が加わればどんなことになっていたか・・・)
その身と発せられる声は怒りで震え、視線には途方もないほどの激情が込められていた。それをものともせず、いつものことのようににやけながらアヌビス神はムラサマの剣先をアサシンに向け、俺は冷静に相手を分析する。
(アヌビス神、後は残りの手足を切り落としてホワイトスネイクで魂と記憶をディスク化するぞ。宝具で逃げられたりしたら面倒だから迅速にな。)
本当なら息の根を止めてしまうのがベストなんだが・・・そうすれば聖杯に注がれてしまう。こんなところでうろうろしていた時点で他にもサーヴァントは残っているだろうが、何体残っているのかがわからない以上迂闊に倒すのは余り良い手ではない。
「あぁ?なんだそりゃ…まあいいけどよ。もうどの程度気配が消えるのかも、今の奇襲の仕方も大体覚えたしな。次は斬れる。」
「ナンダト・・・?ホザケ若造ガッ!!我が暗殺ノ妙技、ソウ易々ト見切ラレテタマルモノカ・・・!」
「ほほう?ならば試してみるか?」
・・・・・・空気がより一層張り詰める。
アサシンは残った右腕で短剣を構え、アヌビス神はムラサマの高周波機構をONにして稲妻の走る刀身を下段に構える。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「!」シュバッ
「フンッ!」
常人離れした踏み込みとともにアサシンの右腕がこちらの胴目掛けて突き出される。
しかしスタープラチナのスピードさえ覚えているアヌビス神の反射能力は最低限の動きでそれを躱しながら逆に突き出された右腕の肘に刃を滑り込ませる。
「シッ!」シュバッ
「むっ!?」
刀身が腕の半分まで食い込んだと同時にアサシンの右足が浮いてその足を振り向く。距離的に絶対届かないはずのその足の指先には、右手のとは別の短剣が挟み込まれていて振り抜くと同時に短剣が腹目掛けて飛んでくる。
---バシィッ
毒を塗っている可能性を考えてキング・クリムゾンで弾こうとしたが、先にアヌビス神が柄から左手を離してコートの裾でダガーを弾くことで防いでしまう。
受け方がうまかったのか腕には傷すらないがお前ぇ・・・
---シパァーンッ
短剣を弾いた直後にムラサマの刀身を押して途中まで切れていた奴の右腕を完全に切断し、そして斬られた腕が体から別たれてしまう前にアヌビス神が太刀筋を変えて・・・
---スパァッ
アサシンの両方の太腿を、その極限まで鍛え抜かれたものであろう骨格や筋肉を一直線に、太刀筋をぶらすことなく一瞬にして切断しきった。
---・・・・ズル・・・・・ブシュァアアアアアアッ
「グアアアアアアアアアアアアア!?」
数瞬ほどの遅れの後、腕と両の太腿が太刀筋通りにズレて血の様な暖かく黒い液体が周囲に飛び散る。
交感神経の働きが極限まで高められているせいかゆっくりと倒れこんでいく様に見えるアサシンは、四肢が繋がっていないために重力に逆らう術がなく、叫び声をあげながらそのまま背中から地面に倒れこんだ。
(ここまでだな・・・)
俺はアライブを使って倉庫内からあれを探し出す。入れ替えるディスクはハ―ミット・パープルでいいだろう…
(アヌビス神、これと入れ替えて能力を使ってくれ。)
(おう、これか。)
アヌビス神は受け取ったディスクをハーミット・パープルと入れ替える。
「グゥ・・・・・オノレェ、オノレオノレオノレオノレオノレオノレェェ―――――――――ッ!!」
「元気な野郎だぜ・・・ホレ。」
---ドシュッ
「ガッ!?」
怨嗟の声を吐き続けるアサシンに向けて一言そう言ったアヌビス神は、自分の隣に今装備したスタンド・・・ホワイトスネイクを出し、その手刀を頭に突き刺す。
「ウ、ウオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「・・・よし。」
アサシンの絞り出すような咆哮を他所に、ホワイトスネイクの手が引き抜かれる。
引き抜かれた手にはディスクが二枚、こいつの記憶と魂がそれぞれ予定通りに握られていた。
「オ、ノレ・・・オ・・・・・ノ・・・・・レ・・・・」
ディスクを引き抜かれたアサシンは、地面に落ちているダガー諸共粒子状になって跡形もなくこの世から消え去る。その後には、虹色に輝く掌サイズの金平糖の様なものが残っていた。
・・・・・なにこれ?
「クックックックックック・・・・このアヌビス神、一度見た攻撃には必ず対応する。たとえどんな攻撃だったとしても、どんな相手だったとしても…!一度見た以上は絶対に、絶対に、絶対に絶対に絶ぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ対に負けなぁー――――い!!」
(敵がいる間に言っていれば決まってたのになぁ・・・・・・まあいいか。アヌビス神、初めての対サーヴァント戦はいかがだったかな?)
「天国深層の連中に比べたらなんてことねえな。」
(あれを比較対象にするのはちょっと…)
レクイエムや20th century boyがなかったらチンピラや浮浪者にさえ防御の上から消し飛ばされるような意味不明領域はさすがにそうそうないと信じたい。
「もしくは昔戦ったあの青い姉ちゃんとかの方が断然強かったぜ。」
(おい止めろ馬鹿!あれはゲームでいう隠しボスだから!普通に出てきちゃ駄目な部類だから!)
奴のメギドラオンは・・・駄目だ・・・死ねる・・・・・・・・というか比較対象のランクが一々高すぎる。もうちょっと普通の奴を選ばないか?
「ま、いずれにしてもお前の記憶にあった宝具とやらを結局使ってこなかったのはちょいと残念だったぜ。」
(お前ぇ・・・けど確かに、その点は気がかりだな。なんで使ってこなかったんだ?)
奴が黒い靄に覆われていたことが関係しているのか…まあこの段階では考えても答えなんぞ出てこないか・・・
(はぁ、やれやれ。まあ取りあえず栄えある第一戦は無事勝利で飾れてよかったと考えるか・・・・・・・・よし、周囲に気配はない。アヌビス神、早くあの二人と合流するぞ。降りたらもう一回ハーミット・パープルを使ってくれ。)
「了解だ。」
アヌビス神は言葉を返した後足元に落ちている金平糖擬きを拾い上げ、入ってきた窓から出て波紋を使って壁面に張り付き、スムーズに地面に降りる。
その後念写で位置を確認してから、彼女達の下へと歩いて行った。
side out
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一方その頃梶原たちの探している二人はというと・・・・・・・・梶原が起きる少し前に両名とも目を覚まし、群がっていた骸骨たちをマシュが蹴散らし終わった後でカルデアとの通信ラインが回復。
管制室と現場のお互いの現状を、所長のオルガマリーがマシュの件について藤丸に問い詰めるなど一悶着あったものの最低限のことは一応確認し、その後所長の指示の下回線を安定させるために市内の霊脈のターミナルがあるポイントへと向かい、そこをベースキャンプにしてカルデアからの支援を受けられる状態にしていた。
そして・・・・カルデア側はベースキャンプが出来た当時、状況確認などで非常に立て込んでおり、中でもカルデア施設内で起こった爆破の原因の調査と解析、レイシフトのシステムがいつ復旧するかわからず二人の回収が今のところ出来ないこと、それと特に、マシュや藤丸以外のマスター候補者たちがあらゆる方法を試して覚醒を促そうとしたものの一向に目を覚まさないという事態に陥っていたこと。それらの何時解決の目途が立つかわからない事を何とか良い方向にもっていくための苦肉の策として、オルガマリーは当初の予定を大幅に変更し、特異点Fの異常事態の原因を一先ずマシュと藤丸の二名で出来る限り捜索させ、カルデア復興後に第二陣を送り込んでその解析及び排除を行うという決定を下した。
普通ならば無謀と言う他ない決定ではあるが・・・正直な処、現状の彼女の選択肢はそう多いものではなかった。人理の保障のために行われた今回の作戦、それが施設の爆発により大切なマスター候補者達の命を危険に晒し、作戦に大きな支障を齎したとなればその管理責任の全てを所長であるオルガマリーが背負わされてしまう。そうなれば最悪カルデアは解体され、彼女は今まで積み上げてきた功績も地位もアニムスフィアとしての誇りも全て失ってしまう。彼女からしてみれば、そんな事態だけは何が何でも避けなくてはならなかった。なんとしてでも、何か有用な成果の一つでも持ち帰らなくては・・・そんな焦りが、この決断に至らせたといっても過言ではないだろう。
とは言え流石にまったくの無謀と言うわけではなく、幸か不幸か現状は武器を持った骸骨や亡霊などの比較的低級な怪物くらいしか確認されておらず、尚且つ藤丸たちがレイシフトする前後の間にマシュがデミ・サーヴァントになっていたために藤丸という一般人を抱えながらでも一応何とかならなくもない状態になっていた。
そのため、とにかく異常事態の原因を発見することに努め、こうしてほとんど何の準備もないままに特異点へと旅立った二人は現在、命令に従って度々襲い来る敵を片付けながら探索をし続けていたのだった・・・
「はぁ~~~~…な、何とかここまでこれたね…」
「お疲れ様です先輩。少し休まれますか?」
「ん~~~、出来れば…マシュには悪いけど正直クタクタというか・・・」
「いえ、私と違って先輩の体はごく普通の人間です。いざという時のためにも適度な休息を挟むのは大切な事ですよ。」
「あはは、ごめんね、いろいろと。我ながら情けないなぁ…よいしょ…」
そう言って藤丸は、河川敷の雑草地に腰を落とす。その傍にフォウが走って行って、彼女の体に凭れ掛かった。
「大分戦闘にも慣れてきたよね、マシュ。この分なら何が出てきても大丈夫じゃない?」
「それはさすがに言いすぎですよ。確かに今までの戦闘から、自分のスペックについては大凡理解できるようになってきましたが、まだ戦い方が今一つ確立されていないのです。」
「そうなの?」
「はい。自分がいったいどのような戦い方に向いているのか、どのようにこの盾を扱っていけばいいのか、それらがまだまだ分からない状態です。今のところはまだ相手が弱いから力押しだけでもなんとかなってはいますが・・・今よりもさらに強い敵性生物と戦うとなると、現状のただの力押しだけでは…」
『ごめん二人とも!話は後にしてくれ!近くに反応がある!しかもこれは―――』
「!!先輩!急いで立ってください!」
マシュのセリフの途中で、突然カルデアの通信ラインを通じて男の声が響き渡る。
その男性の声が「これは」と言いかけたあたりでマシュが藤丸にそう言いながら盾を構えると・・・・
---ザッ
「「っ!」」
いったいどこから現れたのか…彼女達から20メートルほど離れた位置に、突如として黒い靄を纏った人型が空間に滲み出る様に姿を現した。
明らかに今まで出てきた敵とは桁が違う、異質な存在感を感じ取った二人はその場で息を飲み、その現れた人型から片時も目を離すことなく注意し続ける。
その緊張の抜けない状況下の中、さらに通信ラインから男の声が響いてくる。
『なんてことだ…!そこにいるのはサーヴァントだ!戦うな藤丸ちゃん、マシュ!君たちにサーヴァント戦はまだ早い!』
「そ、そんなこと言われても…」
「はい・・・・・この状況では恐らく逃げることは出来ません。」
男の声に、二人は苦言を呈する。これから逃げることは不可能・・・二人とも、本能のレベルでそれを嫌でも理解していた、せざるを得なかった。
ならばどうするか・・・
『マシュ、戦いなさい!同じサーヴァントよ、何とかなるでしょう!?』
自ずと出すことになったであろう答えを、通信ラインから送られてきたさっきとは違う女の声が先に出す。
「・・・・・・・・・・・・・・はい。最善を尽くします……!」
それを聞き、マシュは長い沈黙の後に覚悟を決める。
『二人とも、解析した結果そのサーヴァントのクラスはライダーであることが判明した!それとそのサーヴァントは宝具が使えない状態にあると同時に、どういうわけかマスターがいない状態で活動を行っているようだ。苦しいけど何とかその危機を潜り抜けてくれ!』
「気を付けてねマシュ…!」
「了解で…!?」
藤丸の応援に返事を返そうとした次の瞬間、敵サーヴァントは上半身を地面ぎりぎりまでかがめてその態勢から地面を蹴り、両手に鎖のついた杭の様なものを取り出してその勢いのままマシュの突き立てようと襲い掛かる。
---ガギィィィンッ!!
「くっ!?やぁっ!!」
「!」
なんとか盾で攻撃を防ぎ、次に盾で殴りかかろうと力を籠めるマシュ。
しかしサーヴァントは素早く身を翻し、まるで宙を舞う羽のように避けながら後ろへ飛び下がる。
そして着地と同時にまたしても地を駆け、マシュの周囲を付かず離れず高速で不規則に飛び回りながら、手元の杭を鎖鎌のように投擲したり不意を打つように偶に飛び掛かったりしながら攻撃を行っていく。
---シャッ
「!先輩!」
---ガンッ!
「きゃっ!?」
「この・・・!いやぁああ!」
突如進路変更し、藤丸目掛けて突き出された杭を何とかマシュが間に入って防ぎ、力任せに盾を突き出して何とか吹き飛ばす。
だがそれもあまり効果はなく、さらにその後もマシュが自分への攻撃に集中した頃を見計らったように、藤丸へ飛び掛かったりマシュへ杭を投げながらもう一方の手の杭も投げつけたり、将又マスター狙いと思わせて急に向きを変えてマシュに攻撃を仕掛けたりなど、マスターを出汁にした搦め手まで交えられ、彼女はますます迂闊に動くことが出来ない状況に追い込まれる。
「く!これは・・・」
マシュは防戦一方であった。あまり前に出過ぎれば後ろにいる藤丸に何かあったときの対処が出来ず、かといってこのまま防御に集中していても敵を攻撃することは間違いなく出来ない。彼女自身がもう少し戦闘経験を積んでさえいれば、落ち着いて相手の動きを見計らい反撃の機会を見出すこともできたかもしれない…しかし現状はそうはいかなかった。
己自身の技量の至らなさ、戦闘者としての明らかな経験不足、自身とマスターの生命危機、そして襲い掛かる敵に未だに有効打を与えられない現状は、時間とともに彼女から冷静さと精神的余裕を奪っていく。
「ハァ――――これで、どうだっ……!」
真正面から突撃してくるサーヴァントへ盾を構えてタックルしにかかるマシュ。しかしそれも容易く見切られ、真上に飛ばれて問題なく避けられる。
サーヴァントは川側の策の上に軽やかに降り立ち、マシュたちを冷ややかな目線で見下しながら女性の様な高く、どこか艶やかで色気のある声で話しかけた。
「・・・・・・フフフ、実ニ良イ目デス。自ラノ命ヲ脅カサレル事ニ怯エナガラモ、何トカ活路ヲ見出ソウトモガキ苦シム者ノ目・・・素材モ悪クハナイ。二人トモ実ニ嬲リ甲斐ノアル生贄ノヨウデスネ。」
「・・・マシュ、出来るだけ呼吸を整えて・・・少しずつだけど焦ってきてるように見えるから・・・・」
「はい・・・・・・・ありがとうございます、先輩。」
「うん・・・・・・」
「・・・・・・・・・シカシソレ故ニ、実ニ残念デス。ソンナ楽シイ時間ガ、コンナニモ早ク終ワッテシマウトハ・・・」
「?いったい何を言って・・・・・・・」
「危ないマシュ!そこから下がって!」
「え・・・っ!?」
藤丸からの警告を聞いた直後、マシュは自らの直感に従って大きく後ろに飛び下がる。
その一瞬後に、彼女が立っていたところに棒状のものを持った黒い影が武器を思いっきり叩き付け、石畳を粉々に打ち砕いた。
地面を打ち砕いた影は手に持っていた武器を持ち直すと、マシュたちが戦っていたサーヴァントと同質の気配と威圧感を放ちながら彼女たちに向き直る。
『馬鹿な!もう一体のサーヴァントだって!?』
『そんな…ただでさえ一体相手でも押されているのに、二体同時に襲ってくるの!?』
「そんな――――――」
ただでさえ苦戦していたのにもかかわらず、さらに絶望的な窮地へと追い込まれたカルデアのメンバー。
特に真正面からその危機を実感しているマシュは、藤丸のアドバイスで取り戻しかけていた余裕も消し飛んで恐怖に心を飲まれかけていた。
「残念ナガラオ遊ビハドウヤラオ終イノヨウデス。イッタイドコノ英霊カハ存ジ上ゲマセンガ・・・・・オ覚悟ナサイ、哀レナ漂流者ノ方々・・・」
「・・・ハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
心折られそうになっている二人の様子を見ながら、嘲笑う様な言い方で女のサーヴァントが鎖付きの杭を構えて歩み寄る。
棒状の武器を持ったサーヴァントも、悪意に満ちた笑い声をあげながら同じく彼女達との距離を詰めていく。
『マシュ、しっかりするんだ……!足を止めちゃいけない!』
『そんな…こんなことって・・・・・!ああ、レフ!何でこんな肝心な時に貴方がいないの!?こんな時貴方がいれば…!!』
「フォウ、フォーウ!」
「ハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「くそ、マシュは飲まれてしまっている……指示を、藤丸ちゃん!冷静なのは君だけだ!」
「!・・・はい!マシュ!こうなったら戦うしかないよ!」
「・・・・・・了解です。もう、それしかありません……!」
指示を受け、何とか維持していた精神的な余裕を動員してマシュに指示を出す藤丸。
それを聞いたマシュが二体のサーヴァントによる恐怖の呪縛を振りほどき、決意を固めて盾を構え直す。
「フフフフフ、戦ウ手モ詰ミ、逃ゲル手モ詰ミ。未熟ナ者ノ末路トハ、何時ノ世モ無様ナモノデスネ。」
「ソレデヨイ。藻掻クガヨイ。無様ナ者ホド面白イ!」
『た、戦うって正気なの!?こんなのどうあっても勝ち目がないじゃない!!』
「・・・・・・それでも戦うしかありません。死中に活を見出します……!」
通信からの悲鳴が混じったような警告を聞きながら敵の動きを見計らうマシュに、敵サーヴァント2体は殺気をより強く放つ。
「ソレデハ…オ覚悟ヲ。」
女のサーヴァントのその一言を皮切りに、二人の少女たちを蹂躙すべく二体のサーヴァントが駆けた。
対する彼女らは迎え撃つ。立ちはだかる人の形をした理不尽を前に、崩れ落ちそうな心を繋ぎ止め、自らを無理やり奮い立たせて立ち向かう。
「良い啖呵だ。恐怖を正しく知りながらそれでも立ち向かうその勇気。人間賛歌はやっぱりこうでなくっちゃな。」
そのまさに衝突しようとする刹那の時間に、カルデアの通信からではないどこかからそんな言葉が響いた。
「ナニ!?ダレデスカ!?」
正体不明のその声に、マシュたちへと駆けていたサーヴァントが二体とも彼女たちの10メートル手前で急停止し、周囲を探る。
---ズァア――ッ
「「ッ!?」」
その直後に、マシュたちとサーヴァントの両者の眼前に黒い穴が瞬時に開く。咄嗟にその穴に対して、本能的に不吉な気配を感じた敵サーヴァントが後ろへ飛び退いた直後・・・
---ドゥンッ ドゥドゥドゥンッ ドゥンッ
その穴の中から火薬の炸裂する音が何度も鳴り響き、敵サーヴァントたちは身体に何かを叩きつけられたかのように空中で血を流しながら、不自然に体を回転させつつ吹き飛んでいった。
「「・・・・・・・え?」」
訳の分からない事象に驚くマシュと藤丸。
「クッ・・・・・イッタイナニガ・・・」
「・・・オノレ・・・!ナンダ今ノハ・・・!?」
マシュたちがいる場所から30メートルほど前方の位置に着地した敵サーヴァント達。彼、彼女達はよく見れば二体とも身体の所々が抉れていて、苦悶の声を漏らしながら呼吸を乱していた。
今まで確実に自分たちが追い込まれていたはずなのに、気が付けば想定外が過ぎるその状況に、弦間の二人はもちろんのこと、カルデアで彼女たちのサポートをしているメンツも総じて開いた口が塞がらなくなっていた。
そして更に立て続いて、彼女たちの理解を超えたことは起こった。
---ズズズズズ・・・・・ザッ!
「あ、どうもどうも。お待たせお二人さん。何とかパーティーには出遅れずに済んだみたいじゃない?」
「あ、貴方は・・・・・・」
目の前の穴が大人一人を優に上回る大きさになったと同時にその中から現れた、自分たちと共にレイシフトに巻き込まれたはずの男を見て、彼女たちの思考は現状に対する理解を一時的に止めてフリーズすることを選んだのだった。