デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

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人理焼却?なにそれ怖い その七

クー・フーリンが新たに戦力として加わり、藤丸が彼とマスターとして仮契約を行った後、俺達は彼の道案内の元で大聖杯のある地下空洞までの道を問題なく進んでいた。

途中、マシュが宝具を使えるようになるためにキャスターが俺の服に厄寄せのルーンを刻んでスケルトン軍団や火炎弾を撃ってくる腕の化け物と乱闘したり、キャスターがマシュに宝具をぶっぱして無我夢中になったマシュが何とか宝具を展開してそれを防ぐなど、色々とイベントもあったがそれはここでは割愛しておく。話すと長いしね。俺ほとんど出番なかったし。

 

「いやー、道中が楽でいいわー。ここに来たばっかの時とは大違いだ。」

「そうだね、いくらみんなが強くても、やっぱり余計な消耗はできれば避けたいし。」

「まあ雑魚ばっかり相手にしても疲れるだけだからな、気持ちは分かるぜ。」

 

俺は皆と一緒に廃墟の中を進みながら呑気にそんなことを宣い、藤丸とクー・フーリンがそれに同意してくれる。

クー・フーリンの使った厄除けのルーン魔術と、矢島のCOMPにある自分より弱い敵との遭遇率を減らすソフトのおかげで、道中の敵とはほとんど会うことがなくなっていた。

仮に出会うとしてもせいぜい一度に一、二体程度であり・・・

 

---ガシャッガシャッ

 

「ぬ、来たか…」

 

---キィンッ!

 

物陰から現れた骸骨に次元斬を放ち、粉微塵にする。

・・・・・とまあこんなふうに、急に団体さんで来られるということは今のところなく、比較的楽に進むことができていた。

 

「…ねえ、マシュ。今の何が起きたか見えた?」

「はい。梶原さんが刀を構えた直後、手元が一瞬だけ光ったと私が認識した瞬間に、出てきたスケルトンの周囲の空間に光の線のようなものが現れて、そうしたらスケルトンがバラバラになって崩れ落ちていました。先輩、あれが日本の剣術で言う居合というものなのですか?」

「いやいや、私の知ってる居合は斬撃が空間を飛び越えるようなものじゃないんだけど…」

『藤丸ちゃんの言う通り、斬撃が空間を飛び越えた現象は彼の持つ刀による面も大きいようだよ。こっちで解析してみた結果、あの刀は宝具に匹敵する程の強力な神秘が宿る霊刀のようなんだ。多分扱う人の技量次第ではさっきのような芸当もできるんだと思う・・・・・まあその技量自体が彼みたいな人間技とは思えないほど高いものなんだけど…』

 

後ろで藤丸とマシュとロマニの話声が聞こえてくる。

バージル鬼いさんや戦国BASARAの石田三成をリスペクトして、ダンジョンで練習しまくった甲斐があるというものだ。

 

「ヒュー♪良い技持ってるじゃねえか坊主。もしランサーのクラスとして呼ばれていたら一戦申し込んでたかもしれねえな。」

『・・・・もはや人間かどうかも怪しいところね、アンタ。その礼装の力によるところも大きいんでしょうけど、それでもライダーたちを倒した時のことと言い、人間に出来る芸当じゃないわよ。マシュを見てみなさい、デミ・サーヴァントになって漸く宝具も使えるようになったっていうのにアンタに活躍の場を奪われて見るからに落ち込んじゃってるじゃない。』

「しょ、所長!?決してそんなことはありませんよ!私はこの通り平常運転です!」

「失礼じゃないですかねぇ所長?ちゃんとこれでも人間やってますよ自分は。」

『スケルトンや竜牙兵を五十体近く、息も切らさずに倒してのけるのを世間一般では人間扱いしないわ。』

「波紋戦士があの程度で息を切らしてたら死んじゃうんで。」

 

呼吸の乱れが即、死に繋がるのが波紋戦士だ。乱れた時点で波紋が練れなくなるからな。

・・・いやまあそれとは別として、確かにこんな真似普通の人間は出来ないだろうが普通に生きようとしてたら元の世界じゃいつ危険が降りかかるかわかりゃしねえんだよ。地元に住んでた頃とか一度本物の悪魔が徘徊するようにもなってたんだぞ。

あーやだやだ、もっと心穏やかに生きたい。金は一生食っていけるくらいはあるんだからそれでやりたいことだけやって生きていきたい。

けど今はそんなこと言ってられない…・泣きたい…・

 

「まあ気を落とすなよ、これからのことを考えればお前さんみたいなのがいてくれた方が心強いもんだぜ。」

「…どうも・・・」

 

キャスターの慰めに苦笑しながらそう答える。

 

「洞窟らしきものが見えてきたぞ。大聖杯へはあそこから行くのか?」

「ん?ああそうだ。ちぃとばかり入り組んでるんで、はぐれないようにな。」

 

矢島が遠くを指さしながら言ったことに、キャスターが返事をして皆にはぐれないように言い聞かせた。

そろそろか…気合、入れ直していかないとな…この聖杯戦争で敗退したサーヴァントたちはシャドウ化(所長曰く)していて全員が敵だ。残ったサーヴァントの内バーサーカーは、クー・フーリン曰くある場所に近づかなければ戦うことにはならないらしく、セイバーは大聖杯の前から動くことはなく、恐らく次に戦うのはアーチャーとのこと・・・・・・そしてそのアーチャーは、クー・フーリンから聞いた戦い方から考えて間違いなく奴だ。気を付けていかないと…

 

「天然の洞窟・・・・・のように見えますが、これも元から冬木の街にあったものですか?」

『でしょうね、これは半分天然、半分人口よ。魔術師が長い年月をかけて広げた地下工房です。それより、クー・フーリン。大事なことを確認していなかったのだけど。』

「なんだ?」

『貴方、セイバーのサーヴァントの真名は知っているの?何度か戦っているような口ぶりだったけど。』

「ああ、勿論知っている。奴の宝具を食らえば誰だって真名……その正体に突き当たるからな。他のサーヴァントが倒されたのも、奴の宝具があまりにも強力だったからだ。」

「強力な宝具・・・・・・ですか?それはどういう?」

 

キリエライトの問いに、クー・フーリンは答えを述べていく。

 

「王を選定する岩の剣の二振り目。お前さんたちの時代においてもっとも有名な聖剣。その名は…」

約束された勝利の剣(エクスカリバー)。騎士の王と誉の高い、アーサー王の持つ剣だ。」

「「「『『!?』』」」」

 

クー・フーリンに続くように洞窟の先から放たれた聞き覚えのある声に驚き、俺達はその声の発生した方向を見た。

矢島のライトで照らされたその先五十メートルほどのところに、黒い靄で覆われた大柄な人型の姿を俺達は確認する。

 

『アーチャーのサーヴァント……!』

「おう、言ってるそばから信奉者の登場だ。相変わらず聖剣使いを護ってんのか、テメェは。」

「・・・・・・ふん、信奉者になった覚えはないがね。つまらん来客を追い返す程度の仕事はするさ。」

「ようは門番ってことじゃねえか。なにからセイバーを護っているかは知らねえが…」

 

---ザッ

 

「ここいらで決着をつけようや。永遠に終わらないゲーム何ざ退屈だろう?良しにつけ悪しきにつけ、駒を先に進ませないとな?」

 

クー・フーリンはそう言いながら一歩前に出て、自分の持つ杖をアーチャーに向ける。戦闘の始まりを予感したマシュは藤丸の前に立ち、矢島はバリアジャケットを装着、俺はアライブに拳銃を持たせ、呼吸を整えながら閻魔刀の鞘を右手で持つ。あと序でに懐のPCのCOMP機能を起動させておく。

アーチャーは俺たちのその姿を見てフン、と鼻を鳴らした。

 

「その口ぶりでは事のあらましは理解済みか。対局を知りながらも自らの欲望に熱中する……魔術師になってもその性根は変わらんと見える。文字通り、この剣で叩き直してやろう。」

 

---ドギャッドギャッドギャッ!!

 

「むっ!?」

 

アーチャーなのに剣で叩き直すとはこれ如何に…まあそれはともかく、これでお互い言いたい事は言い尽したと思ったので、俺は言い終わると同時にアライブに拳銃を連射させた。

アーチャーはそれに即座に対応し、タネを知らなければ何をしたのかもわからないであろう速度で瞬時に両手に剣を投影する。

そして最初の数発は避けて、後から続く銃弾の内どうしても当たりそうな銃弾に右手の剣を振るう。

 

---ガィインッ!!

 

「なにっ!?」

 

銃弾と剣がぶつかり、洞窟内に凄まじい金属音が響き渡る。

多分弾道をそらすつもりだったのだろうが奴にとっては予想以上の威力だったのだろう、アーチャーは声をあげながら剣から伝わってきた衝撃で大きく仰け反り、しかし決して隙を見せず、右手の剣を手放して次の弾丸を後ろに下がりながら丁寧に躱していた。

 

(相手はあのエミヤだ。遠距離戦に徹するようになったら最悪泥沼な戦闘になってしまう。ここは!)

 

俺は銃の連射を継続したまま、前のめりになってアーチャーへと突っ込んでいく。

靄に覆われていて表情など読み取りようがないが、アーチャーは何か呟きながら新たに弓を投影し、残った左手の剣を矢玉に変えて番え、こちらに撃ってくる。

当然こっちは撃ってそれを相殺するのだが…向こうは弓を撃った直後に何事もなかったかのように次の矢を装填しており、それを撃ってはまた同じように装填する。

 

---ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ・・・

 

「チッ!」

 

弓矢という武器では凡そあり得ない、重機関銃でも向けられているのではと錯覚してしまいそうな、そんな常軌を逸した速度の連射を行ってきた。

しかもそのどれもが正確無比と言わざるを得ないほどの精度であり、こちらの急所を的確に狙ってきている。

けど俺だって、最近はやっていなかったとはいえスター・プラチナやザ・ワールドのラッシュを真正面から捌く日々を送ってきた身だ。今更この程度では止まらない。

相手の矢の軌道を見切り、一本一本を確実に撃ち落とし、決して落ちている剣には近寄らないようにしながら前進していく。

 

「チィッ、この男本当に人間なのか!?」

「うっせ!ほっとけ!」

「ラチが明かんな・・・I am the bone of my sword(我が骨子は捻れ狂う).」

 

アーチャーがそう言うと、奴の上空に次々と刀剣類が投影されてそれらが一斉に俺に剣先を向ける。

あれは面倒だな…

 

「おいおい、こっちのことも忘れんじゃねえぞ。そらよっ!」

 

そう考えていると走る俺の後ろからクー・フーリンの掛け声が聞こえ、直後に頭上を複数の火炎弾が通って行く。

 

「馬鹿な、どこを狙って…っ!」

 

---ヴゥンッ ドゴォッ!!

 

「がっ!?」

 

明らかにアーチャーに当たる弾道ではなかった火炎弾を一瞥してアーチャーが評している間に、矢島が奴の後ろに転移してアーチャーが少し遅れて気づくのとほぼ同時に火炎弾の軌道上へと思いっきり蹴り上げた。

蹴りの精度は文句無しで、あれなら間違いなく奴は火炎弾に直撃するだろう。念の為のダメ押しで、俺からも銃弾をアーチャー目掛けて放つ。

クー・フーリンの火炎弾と俺の銃弾が、アーチャーを蹂躙すべく真っ直ぐ向かっていき・・・

 

熾天覆う七つの円環(ローアイアス)!!」

 

アーチャーの掛け声と共に宙に咲いた七つの花弁が、それらを完全に防ぎきる結果となった。

 

「はあっ!?なんだそりゃ!?」

『ロー・アイアスだって!?まさか彼は…』

 

驚愕するクー・フーリンとロマニの声を意識から意図的に外して、俺は花弁を出しながら落下してくるアーチャーを睨みながらできうる限り脱力する。奴との距離は、もう二十メートル前後になっていた。矢島もビームライフルからビームサーベルへと手持ちの武器を持ち替え、ドラグーンを展開しながらアーチャーに向かって飛び掛かろうとしている。

アーチャーはそんな俺達を一瞥しながら花弁の盾を消し去り、間を空けずに両手には先ほどの両手剣を、さらにさっきの分に追加して空中には追加で五十以上はあるであろう数の刀剣類が片っ端から投影され、俺と矢島にその剣先を向けた。

流石にあの数の武具が全部向かってくると、ブロークンファンタズムをされた際にこちらが負傷してしまう。

 

『オオォォォオオォォォオオオッ!!!』

 

---ズンッ!!

 

「なっ!?{ドォンッ!}カハッ!!」

 

だから発射される前にアライブに能力を使わせ、奴と投影された剣のある範囲の引力を一気に増大させてさっさと地面に叩き落とした。

落下中だったアーチャーは急激な自重の増加に驚きながら、自らの作った剣のミサイルと共に大きな音を立てて地面に激突する。その落下のエネルギーにより、地面は軽く陥没してしまっていた。

 

---ガションッガションッガションッ

 

「ターゲット、ロックオン。重力場の変動を計測、射角修正完了。」

 

そしてその隙を見逃さず、矢島はバリアジャケットからカートリッジを排出。腹部の複相ビーム砲を必死に起き上がろうとするアーチャーに向け…

 

「チェックメイトだ。」

 

横たわる彼に容赦なくそれをぶちかました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ、これで私も御役御免というわけか・・・・・・存外呆気無い物だったな・・・・・・」

 

矢島のビームによる爆発で起きた煙が晴れると、ズタボロな状態で仰向けに寝転がったアーチャーが皮肉めいた口調でそう言った。

その体の所々はもうほとんど消えかけており、出会った当初と比べてその存在感はもはや無に等しいといっていいだろう。

 

「最後の最後までキザったらしい野郎だな。オラ、未練なくとっとと消えろ消えろ。聖剣攻略は俺とお嬢ちゃん達でやってやる。」

「貴様に言われずともそうしてやるさ。今はもうそれ以外に道はないのだからな・・・・・・・しかし。」

 

チラッ、とアーチャーは自分の首を回し、その視線で藤丸の前に立つマシュを捉える。

 

「やれやれ、考えたな花の魔術師……まさかあの宝具に、そんな使い途があったとは……」

 

何か訳でも知った風にそれだけ言い残すと、未練がなくなったのかアーチャーは綺麗さっぱりこの世から姿を消した。

後には彼の霊基の欠片である、聖晶石だけが残されていた。

俺が残ったそれを拾い上げて、矢島と共に藤丸達のところへと行く。

 

 

 

『やっぱり貴方人間じゃないわね。』

「そう思うのならそうなんだろうな、アンタの中では。」

 

戻って早々に所長から人外扱いされ、もう面倒だから俺は否定するのをやめた。自分がそうだと分かっているからそれでいいさ。

 

「戦闘お疲れ様でした。」

「皆お疲れ様。怪我とかはない?一応カルデアの制服の効果で簡単な治療くらいはできるらしいんだけど。」

「ん、大丈夫だよ。この通りピンピンしてるさ。」

 

藤丸とキリエライトから労いの言葉を受け取る。

そうだよ、普通こういう一言が先だろ。いくら俺が非常識なことばっかりやってるからといってもさ、まずはお疲れ様の一言がほしいよ。

 

「うっし、後はこの先にいるセイバーを倒すだけだ。一応直前になったら伝えてやるぜ。」

「「うーっす。」」

「うん、わかったよ。」

「はい、わかりました。」

「フォーウ。」

 

クー・フーリンを先頭に、また俺たちは道を進み始める。

 

「……あの、クー・フーリンさん。」

「あん?なんだお嬢ちゃん。」

 

キリエライトが思い詰めた顔でクー・フーリンに話しかける。

 

「その・・・・・・信頼していただけるのはうれしいのですが、私に防げるのでしょうか……その、音に聞こえたアーサー王の聖剣が。私には過ぎた役割のようで、指が震えています。」

 

キリエライトの言う通り、彼女の手はどことなく震えていた・・・・・・確かに、あのアニメで見たような超火力の極太ビームを真正面から受け切るとなると、こういう反応になってしまうのも仕方が無いとしか言いようがない。

ましてつい最近強力な力が使えるようになっただけで、彼女は本来普通の女の子のはずだ。一応戦いに赴く覚悟が出来たとはいえ、相手があれではそれも揺らぐのは無理はない。

まあどういう心境であれ、彼女に頑張ってもらわないといけない。壁役が倒れたら俺達が落ち着いて攻撃に移れないからな。

 

「そこは根性(ガッツ)で乗り切るしかねえわな。だがまあ、俺の見立てじゃ相性は抜群にいい。まずその盾が壊されることは無い。負けることがあるとしたら、そりゃ盾を支えるお嬢ちゃんがヘマをした場合だろうよ。そしてお嬢ちゃんが盾を手から離せば、その後ろにいるマスターは一瞬で蒸発する。」

「・・・・・・」

「良いか?聖剣に勝つ、なんて考えなくていい。アンタは、アンタのマスターを護ることだけ考えろ。得意だろ?そういうの・・・・・・・・・・まあなんだ、セイバーを仕留めるのは俺やそこのキャスター、それからこの坊主に任せて、やりたいことをやれって話さ。」

「そうだな、宝具を使えるようになった時にもクー・フーリンが言っていたが、キリエライトの本質は戦う者じゃなくて護る者だ。壁役に徹してくれれば、後は俺達で何とかする。」

「そういうこった。大丈夫大丈夫!元々俺は火力要因で呼ばれただけだし、機動力もあるからよっぽどのヘマしなきゃ俺は動き回ってるだけで当たらん。こいつもゼロ距離で解放した聖剣が直撃してもケロッとしてるだろうし。」

「いやそれはおかしい。」

『なに馬鹿なことを言ってるのよ。』

『キャスター、さすがにそれは僕も嘘だってはっきりわかるよ。』

「本当の事なのに…(´・ω・`)」

 

藤丸と所長とロマニに速攻で否定され、打ちのめされる矢島であった。

まあ強ち嘘というわけでもなかったりするのだが…20'th century boy使えば防ぎきれるだろうし。

 

「…ところでしれっと俺が仕留める要員に入っている件について。」

「今更何言ってやがる。この中で前衛任せられるのはテメエと嬢ちゃんだろうが。」

「諦メロン。」

「フォウ。」

「うーんこの厚い信頼(´・ω・`)」

「物は言いようだな。」

「はははっこやつめ。」

 

「・・・・・フフフッ。」

 

矢島は後でしばくとして、しょうもないコントを見て緊張が解れたのか、マシュの逼迫した表情が緩んで笑みを浮かべていた。

よしよし、これでなんとかなったかな。

 

「よーしじゃあ行くか。ここにいても何にも始まらねえし。」

「うん、そうだね。行こう、皆。」

「おう!」

「はい!」

「了解だ。」

 

適度な雰囲気になったところで、俺達はまた薄暗い洞窟の中を進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道中に出てくる竜牙兵達を倒しながら、偶に休憩を挿みつつ俺達は数十分ほど洞窟の中を歩き続けた。

どこまで続くかわからないという焦燥と次第に強くなってくる悪寒を我慢しながらの行軍は、久々だがやっぱり好い気はしないものだ。

 

「そろそろ大聖杯だ。ここが最後の一休みになるが、やり残しはないな?」

 

何度目かわからない溜息を付きそうになった瞬間、漸くクー・フーリンからお待ちかねの言葉が発せられた。

待ち侘びたぜ、早く倒して帰還させてもらうとしよう。

 

「大丈夫、準備万端だよ。」

 

藤丸がそう返し、他全員が無言で頷くと、彼は機嫌良さそうに笑う。

 

「そりゃ頼もしい。ここ一番で胆を決めるマスターは嫌いじゃない。まだまだ新米だが、お前には航海者に一番必要なものが備わっている。運命を掴む天運と、それを前にした時の決断力だ。その向こう見ずさを忘れるなよ?そういう奴にこそ、星の加護って奴が与えられる。」

『なにを言っているんだか。進むにしろ戻るにしろ、その前に休憩が必要でしょう。ドクター、きちんとバイタルチェックはしているの?彼女の顔色、通常より良くないわよ。』

『え!?あ……うん、これはちょっとまずいね。突然のサーヴァント契約だったからなあ……使われていなかった魔術回路(しんけい)がフル稼働して、脳に負担をかけている。』

 

所長とロマニの言う通り、藤丸の顔色…というか体調は大分良くなかった。このままいけば肝心のセイバー戦で倒れてしまうのではないかというくらいには疲弊しているように思える。

元々クー・フーリンも言っていたが、ここで最後の一休みをしてから行くべきだ。

 

『マシュ、キャンプの用意を。暖かくて蜂蜜のたっぷり入ったお茶の出番だ。』

「了解しましたドクター。ティータイムには私も賛成です。」

「お、決戦前の腹ごしらえかい?んじゃ俺は猪でも狩ってくるか。」

『いないでしょ、そんな生き物。そもそも肉はやめなさい肉は。どうせなら果物にしてよね。』

「流石に肉は消化に時間がかかるしな~~。まあそれはそれとして、ティータイムとなれば何か摘める物が欲しいのも確か。実は色々と食えるものも持ち合わせてるよ、俺。」

 

そう言って俺はアライブの差し出した鍵の宝石部分に触り、倉庫の中に入っていく。

外で「え!?泰寛君どこ行ったの!?」という声や、矢島がそれに対して皆に説明する声が聞こえてくるがそれはまあ聞き流し、食品棚の中を探す。

ン―――、あんまり食いすぎるのも問題だから、所長の言う通りドライフルーツとか、簡単に栄養やエネルギー補給の出来るものが良いよな――――。適当に林檎とか蜜柑を剥いていくのもありだけど。

 

「…ま、これでいいか。」

 

適当にいくつか見繕って皿に盛りつけ、適温の状態で紙に封じておいたレモネードや紙カップ、後は折り畳み式の机と椅子を持って出口に向き直る・・・っておい。

 

「なにやってんだクー・フーリン。」

 

出口に、不思議そうな顔をしながらこちらを見るクー・フーリンの顔がドアップで写っていた。やめてくれよ、男のイケメンの拡大映像なんて得しないんだよ俺にとっては。

 

「ん?いや、なかなか興味深いもん持ってるなぁと思ってよ・・・ほ~~~~ん、なるほどねぇ~~~~。」

「・・・・・・・・良いけどそこからどいてくれよ、俺が出られないだろ。」

「おう、わりいな。」

 

そう言ってクー・フーリンは出口の前から離れた。俺はさっさと外に出て、倉庫を解除する。

 

「ほい、皆。甘味類とレモネード。好きなのを食べてくれ。」

「おおー、本当に出てきた…ありがとう、泰寛君!」

「はい、とても助かります。」

「どういたしまして。…あ、キリエライトはいいけどそこの英霊組、食いすぎるなよ。」

「「わーってるわーってる。」」

 

男の英霊組の適当な返事に大丈夫か?と思いつつも、机と椅子を立てて皿とコップを置く。

皆が椅子に座り、それぞれのコップを手に取ってそれぞれが休憩に入り始めた。

 

「・・・・・・いただきます。」

 

その様子を見ながら、俺も自分のコップを手に取って休憩をとることにした。

こんな状況下なのに、美味い物はどこにいても美味い物なんだなって、改めて思ってしまった。


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