デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録 作:enigma
「矢島、現状で召喚出来る仲魔は・・・」
「ゼロだ。全員が全員レベルが高すぎて俺の霊基が持たない。ついでに魔力の供給が追い付かなくてマスターが死ぬ。」
「やっぱりか、そんな気はしてたけど…」
あいつらがいてくれればこれからの戦闘もかなり楽になるのだが…とりあえずここでの仕事が終わった後の作業の一つに、サーヴァントの強化が決定されたな。
「あれ?キャスターって魔術もちゃんと使えるの?」
「使えるよ、まあ俺自身はせいぜい六つまでしか覚えてないけど。この宝具が魔導書としての機能も持っているからこれを使えば結構な種類の魔術が使えるぞ。」
待機状態のGUNDAMを指差しながらそう答えると、藤丸は「へぇー。」と頷きながら返事を返す。いろいろな意味で素人だから仕方が無いとしても、これから彼女には成長していってもらわなければならないな。
例えばここでなら、どんな魔法が使えるの?とか、自分から率先して聞きに行けるようになるとかね。まあ今回は俺が聞くけど。
「所でお前自身が使えるのは?」
「昔とそう変わってねえよ。ヒートライザ、デクンダ、テトラジャ、コンセントレイト、メギドラオン、サマリカーム。因みに言っておくとこれらの効力は先に言ったものから順に、かけた者の能力上昇、かけた者の強化の解除、自身の魔術の精度と威力の向上、予めかけておくことで呪いの類を無効化、強力な爆発、疑似的な死者蘇生って具合だ。ていうかデバイスがあるんだから聞く必要はないだろ。」
「はは、ごもっとも。」
『・・・・・・一応キャスターらしいところはあったのね、貴方…』
「今更!?」
「・・・ところで所長、サーヴァントの強化が出来る設備ってそっちにはありますか?」
『当然よ。元々こういった事態を見越しての英霊召喚システムなんだから、弱い英霊が召喚された時等のためにそういった設備もちゃんと用意してあるわよ。もっともそこが解決すればその必要もないでしょうけど。』
「いや絶対これだけじゃ終わりませんよ、断言できます。」
「ああ、これだけじゃ絶対に終わらねえな。」
『不吉なことを言わないでよ!!なんでそんなに自信満々なのよ貴方達!!』
経験則かな(白目)全く、我ながら嫌な方向に成長してしまったものだ・・・
「それじゃあただ休憩してるだけってのもあれだし、いくつか作戦でも考えていこうか。」
「だな、マスターは・・・・・・俺達の話を聞きながら戦略の立て方について学んでおいてほしい。」
「う、うん…」
「なに、気を落とすことはねえよ。お嬢ちゃん達はこれから伸びて行きゃあいいんだ、一歩ずつな。」
「うん、ありがとうクー・フーリン・・・」
クー・フーリンの励ましの後、俺達は作戦会議を開始した。
大空洞の最深部…大聖杯の術式がある巨大な地下空間へと辿り着いたカルデア一行。彼・彼女等の前には、祭壇のような巨大な岩棚が存在していた。高さはざっと20~30メートルはありそうなその巨大な岩棚の上部は、大聖杯の術式から漏れ出す魔力によって若干紫色に輝いていて、その岩棚の縁からは凄まじい威圧感と魔力が放たれていた。藤丸を除く面々は、あの岩棚の上にお目当てのセイバーがいるのだと、その威圧感から直感的に気付いた。
『これが大聖杯……超抜級の魔術炉心じゃない……なんで極東の島国にこんなものがあるのよ……』
『資料によると、制作はアインツベルンという錬金術の大家だそうです。魔術協会に属さない、
「立地の問題じゃないんすかね、他の魔術師たちの目があるところでこんなもの作ってたら確実に何かしらの妨害が起こっていたでしょうし。・・・まあこんなもの勝手に作られる住民の身になると正直迷惑極まりないですけど…」
「まったくだ。舞台は街のど真ん中だし・・・英霊の戦闘なんて基本派手なものだし・・・・・・秘匿とはいったい何だったのか…」
「まあ実際参加してた身としては何とも言えねえが、冷静に考えりゃこんなところでやろうなんざ馬鹿な話だよな・・・っと、悪いな、お喋りはそこまでだ。奴さんに気付かれたぜ。」
矢島と梶原が肩を竦めながら如何にも嫌そうな表情でそう言い、クー・フーリンが苦笑しながら同意した直後に全員に注意を促す。
その直後、岩棚の上から発せられていた威圧感がさらに増大し、全員が緊張した面持ちで岩棚の方を見ると、岩棚の縁から人影が姿を現した。
「――――――。」
闇を思わせるようなドス黒い甲冑、赤い文様が浮かび上がっている甲冑よりもさらに黒い両刃の剣、くすんだ金色の髪と、同じくすんだ金色の瞳が特徴の西洋人形のような麗人。
強力な呪いによって属性が反転し、英霊としての負の側面が表在化したアルトリア・ペンドラゴンの姿がそこに在った。
その姿に、放出される魔力の膨大さに、マシュが自分の目を疑いながら疑問を口にした。
「なんて魔力放出……あれが、本当にあのアーサー王なのですか……?」
『間違いない。何か変質しているようだけど、彼女はブリテンの王、聖剣の担い手アーサーだ。伝説とは性別が違うけど、何か事情があってキャメロットでは男装をしていたんだろう。』
(Fateじゃよくあること。)
(Fateじゃよくあること。)
『ほら、男子じゃないと玉座には就けないだろ?お家事情で男のフリをさせられてたんだよ、きっと。宮廷魔術師の悪知恵だろうね。伝承にもあるけど、マーリンはほんと趣味が悪い。』
「え……?あ、ほんとです。女性なんですね、あの方。男性かと思いました。」
「胸が薄いからね、しょうがないね。」
「おいやめろバカ。それ以上いけない。」
「キャスター、それはちょっと…」
(俺もちょっと同じことを思ったことは秘密にしておこう。)
話し声が聞こえてしまったのか、カルデアのメンバーを見るセイバーの視線が鋭くなった。特にその視線は矢島に向けられており、矢島はそれに加えて味方の女性陣からも白い目で見られる。梶原は矢島と同じように白い目で見られなくて済んだことに、内心安堵していた。
「見た目は華奢だが甘く見るなよ。前にも言ったがあれは筋肉じゃなく魔力放出でカッ飛ぶ化け物だからな。一撃一撃がバカみてぇに重い。気を抜くと上半身ごとぶっ飛ばされるぞ。」
若干微妙になった空気に、クー・フーリンからのアドバイスと注意が挿まれる。
「なるほど、ロケットの擬人化のようなものですね……改めて理解しました。全力で応戦します。」
「おう、奴を倒せばこの街の異変は消える。良いか、それは俺も奴も例外じゃない。その後はお前さんたちの仕事だ。なにが起こるかわからんが、出来る範囲でしっかりやんな。」
(それは暗に、この戦いの後にほぼほぼ間違いなく何かが起こると言っているんですかねぇ……終わり次第レイシフトをやるように呼びかけないと。)
クー・フーリンの言から何かを察した梶原は、最悪の事態を考慮しながらこの戦いが終わった後のプランを内心で練り始めていた。
「――――――ほう、面白いサーヴァントがいるな。」
((・・・・・・・喋れるのかよ・・・・))
「なぬ!?テメェ、喋れたのか!?今までだんまり決め込んでやがったのか!?」
「ああ、何を語っても見られている。故に案山子に徹していた。だが――――――面白い、その宝具は面白い。」
(・・・見られている?誰に?)
梶原の思考を他所に、そう言ってセイバー・オルタはその手に持っている真っ黒い聖剣を改めて構え直し、カルデアのメンバーにその剣先を向けた。
それを見て、全員が戦闘態勢に入る。
「構えるがいい、名も知れぬ娘。その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう!」
その言葉の直後、セイバーは全身からドス黒いエネルギーを解き放って勢いよく岩棚から飛び降りた。
「来ます――――マスター!」
「うん!一緒に戦おう!」
「はい!マシュ・キリエライト、出撃します!」
マシュ達が言い終わった瞬間…地面に降り立ったセイバー・オルタは上段に聖剣を構え、剣身から自分の体から出る黒いエネルギーと同じ色の輝きを放ち始める。その光の奔流は急激に勢いを増していき、剣身を元の大きさより遥かに巨大な漆黒のエネルギーの刃へと変えていく。
それを見て、マシュの背後に全員が避難をした。
「藤丸!打ち合わせ通りだ!」
「うん!令呪をもって命ずる!マシュ、セイバーの宝具を受け止めて!」
梶原に返答し、藤丸が令呪の使用を宣言する。右手の甲に刻み込まれた深紅の紋様が強く輝き、三角の内一角が消失すると共にマシュの体に命令を遂行するための力が沸き上がった。
その漲る力を糧に、マシュは自らの宝具を使うべくセイバーの動きに注視する。
「卑王鉄槌、旭光は反転する・・・・・・光を飲め!
対するセイバー・・・・叫び声と共に、自らの宝具を立ち塞がるマシュに目掛けて何の躊躇もなく放った。
人々の願いを星が内部で鍛え上げたことで形を成した最強の幻想、その束ねられた星の息吹は、進路上の大気も地表も全て切り裂き焼き尽くしながら彼女たちを消し去るべく突き進む。
「宝具、展開します!」
その圧倒的な熱量を、マシュの盾から発生した守護障壁が真っ向から受け止める。
障壁に弾かれた漆黒の奔流は、その余波だけで彼女たちの周囲の地形を破壊し見る見るうちに変えていく。
「く、うう…!」
クー・フーリンの語った通り、軌道上に何があろうと消し飛ばせるほどの力を受けても、盾は傷一つすらつくことなく脇へと弾いていた。
しかしその盾を支えるマシュは、聖剣の威力を殺しきれず、体力を確実に消耗しながらジリジリと後ろに押されていく。
(なんて力・・・・・・いったい何時まで受け続ければ…)
---ガクッ
(足が…)
途轍もない衝撃と濁流のごとく押し寄せる漆黒の奔流を受け止め続け、マシュは余りの辛さに膝を地につきそうになる。
「マシュ…!」
(・・・いや!ここで耐えなければ後ろの皆さんが死んでしまう!先輩だって・・・・・そんなのは、嫌です!)
「く、あああああああああああああああああああああああああああああああ!」
しかし後ろに立つ自分の先輩のことを思い浮かべ、自分が受け切れなくなった時のことを想像し、雄たけびを上げることでその辛さを誤魔化し、今まで以上に力を込めて何とか体勢を立て直す。
約二十秒は経過しただろうか…ようやく聖剣の解放が終了し、漆黒の奔流が止んだ。
「・・・・・・やった…!」
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・やりました、皆さん。」
「ほう、あれを防ぎ切ったか。未熟者とはいえ一応それなりの力はあるようだな・・・・・では次は・・・」
---ヴンッ!
「ねえよそんなの!!」
「なに…!?」
---ギュィインッ!
聖剣の開放を防ぎ切り、疲弊したマシュに向けてもう一度聖剣を振るおうとしたセイバー。
しかし頭上に転移した矢島の振り下ろすビームサーベルを、直感的に魔力放出しながら聖剣で防ぐことにより宝具の開放を止めざるを得なくなる。
そしてさらに、矢島に気を取られたことによる一瞬の硬直をついて…
---ドッ
「・・・・・・・・な・・・・にぃ・・・・?」
自身の制空圏に何の予兆もなく現れた梶原の一太刀により、彼女はがら空きになった胴を見事に両断されることとなった。
(馬鹿な、いったいどこから現れたというのだ・・・?)
---バシュッ
「ぐ・・・!」
いきなりの展開に驚く彼女は駄目押しと言わんばかりに矢島に両の腕も容赦なく切断され、聖剣は彼女の手ごと十メートルは離れたところへと飛んでいく。
下手人である二人は自分の役目を終えた直後に既に距離を取っており、各々がどんなことが起きてもいいような位置取りへと移動していた。
---ドサァッ カラァ――――ンカラララン……
その場にいる者たちの中で、一瞬とも永遠ともつかない時間が経過した後・・・・セイバーの倒れる音と、宙を舞う聖剣が地に落ちた音が、彼らのいる空洞内を空しく木霊した……
side:梶原泰寛
「フゥ――・・・・・・」
聖剣が地面に落ちた音を聞いてから数秒が経ち、俺は肺の中の空気を外に押し出す。
作戦はどうやら、上手い事成功したようだ。両腕も下半身との繋がりも断ち切られ、全く動く気配を見せない・・・というより気配が急激に薄くなっていくセイバーの姿を見ながら、俺は自分の中でそう判断を下す。
まあ作戦なんて言っても、正直そんなに複雑なものは出来なかったけれどな。なんせ相手は反転しているとはいえ正統派セイバー。地形的に奇襲はし辛いし、戦闘力はトップクラス。高い対魔力のせいでキャスター勢の攻撃は通り辛く、今の俺では時間停止をしてもぎりぎり足りないくらいの距離があったし、マン・イン・ザ・ミラーの鏡の世界などに隠れて行っても予知能力染みた直感と桁外れの幸運値で察知され、回避される可能性もあった。鏡の世界を出入りする時には、必ず出る場所に直前に鏡を置いておかなくてはならないからな。
そしてそれ以上に、奴の近くには聖杯があった。もし何らかの理由で聖杯から魔力供給を受けていたら、こちらの奇襲を警戒し始めたセイバーに、こちらが全く届かない場所に移動されてエクスカリバーを際限なく連射される恐れもあった。
よって作戦内容は必然的に、出来るだけシンプルにせざるを得なかった。まず攻撃要員は余計なことをせずマシュの背後に待機して相手の出方を確認。エクスカリバーを撃って来たら令呪でブーストしたロード・カルデアスでガードしてもらい、その最中に俺は時間を止めて出来るだけセイバーに近づいてから地面を掘って下で待機。宝具の発動が終わった後の硬直中に矢島が先に奇襲した段階でまた時を止め、後ろからバッサリ…という具合だ。もし宝具を撃ってこずに白兵戦を挑んでくるようだったら、それはそれで矢島の奇襲から始まってクー・フーリンからの援護を必要に応じて受けながら後は同じ様に俺がバッサリぶった切っていた。
・・・・とりあえず今回の結果は上々だったな。エクスカリバーを受け切ったという事実がマシュの自信をより確かなものとするのは間違いないだろう。まさに大成功、万々歳だ。
『セイバーの霊基が消滅していく…やったぞ皆!』
「やった・・・・勝てたんだ、私たち・・・」
「はい!やりましたね皆さん!」
「だな。つっても俺の出番は全くなかったけどよ…」
ロマニとキリエライトのはしゃぐ声がする。藤丸は腰が抜けたのかその場でへたり込んでいた。その隣にいるクー・フーリンは元々俺と矢島の援護をするはずだったのが、予想以上にあっけなく終わってしまったせいで不貞腐れていた。
「ナイスタイミング。」
「おう、久々だけど上手くいったな。」
降りてきた矢島とハイタッチを交わす。
真面な連係プレイなんて、三年に上がってからしていなかったが中々体の方は忘れないもんだ。いや良かった良かった…
「――――フン。まさかこうも呆気無い最期になるとはな・・・」
突然喋り出したセイバーに全員が注目する。その体は、金色の粒子になって今にも消えようとしていた。
「しかもそのうちの一人が人間とは、我ながら情けない話だ。いや、むしろこのような人間がいることに驚くべきか・・・・・・いや、どちらにせよ同じことか。聖杯を守り通す気でいたが、結局、どう運命が変わろうと私一人では同じ末路を迎えるという事か。」
「あ?どういう意味だそりゃあ?テメェ、何を知っていやがる?」
「いずれ貴方も知る。アイルランドの光の御子よ。グランドオーダー―――聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだということをな。」
意味深な台詞を残し、その意味を俺達が知る前にセイバーは完全にこの世から姿を消した。その場に、聖晶石と金色の八面体だけを残して…
「オイ待て、それはどういう――――おぉお!?やべぇ、ここで強制帰還かよ!?」
セイバーに詳細を問い詰めようとしたクー・フーリン。しかし彼もタイムオーバーのようで、セイバーと同じく金色の粒子になって消えようとしていた。
取りあえず俺は聖晶石と金色の八面体を回収して倉庫の中に収容する。
「チッ、納得いかねえがしょうがねえ!お前ら、後は任せたぜ!」
「クー・フーリン!?」
「次があるんなら、そん時はランサーとして喚んでくれ!」
藤丸の呼びかけも空しく、クー・フーリンはその言葉を最後にほかのサーヴァント同様に光になって消えていった…
後に残された俺達は、その光景を何とも言えないまま見ているしかなかった・・・・・
……さて、次だな。
「・・・・・・セイバー、キャスター、共に消滅を確認しました。私たちの勝利・・・・・・なのでしょうか・・・」
「さてね。ところで所長、ロマニさん。至急カルデアへの帰還準備をお願いします。問題解決が終われば、特異点は直ぐにでも消滅を始めるんじゃないですか?」
『そ、そうね…総員、速やかにレイシフトの準備を!』
『『『『了解!』』』』
これで後は終わるまでの周囲の警戒だけだ。矢島もそれを察しているのか、周囲の警戒に当たってくれている。
さあ、鬼が出るか蛇が出るか・・・・・
---パチッ パチッ パチッ パチッ パチッ
突然、拍手の音が空洞内に響き渡る。全員がその音の発生元を知るために周囲を見渡す。
「岩棚の上だ。」
先に気が付いた矢島の指摘を聞いて、あいつが指で示した岩棚の上を全員が見る。
いったい何時からいたのか…そこにはセイバーとはまた違う一つの人影が存在していた。目を凝らしてその姿を再度確認してみれば……それはあの時、レイシフト実験で爆発が起こるまでいたはずの、あの所長の右腕的立場にいた男の姿があった。
あの時見ていた時とは違う、恐ろしくとんでもない邪悪な気配を纏って…
「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。48人目のマスター適正者。全く見込みのない子どもだからと、善意で見逃してあげた私の失態だったよ。」
「貴方は…」
「レフ教授!?」
『レフ―――!?レフ教授だって!?彼がそこにいるのか!?』
『え!?嘘!?レフ!?レフがそこにいるの!?』
マシュが男の名前を言った途端、管制室からロマニと所長の驚く声が聞こえてくる。
当然だろう。なんせ彼は、所長や管制室にいた人員と一緒に爆発に巻き込まれていたはずなのだから。
こうしてピンピンしてこの場にいることはあまりにもおかしい。
「うん?その声はロマニ君と・・・・・・オルガ?驚いたな、まさか君まで生きているとは…これは本当に想定外だ。いったいこれはどういうことなんだろうねぇ…」
皆の驚愕など全く視野に入っていないといわんばかりに、マイペースで喋り始めたレフという男は一人で勝手に驚いた風にロマニと所長の声にリアクションをし…
「ハァ――――まったく、人間というものはどうしてこう、定められた運命からズレたがるんだい?」
表面上、穏やかそうだった笑みを凶悪なものに変えた。
「―――!マスター、下がって……下がってください!」
「ま、マシュ…?」
「下がるんだマスター。君の知る彼がどんな人物だったかは知らないが、少なくとも奴は君の味方なんかじゃないぞ。」
さすがにここまでくると、マシュも奴がおかしいということに気が付いたのか藤丸の前に出て盾を構える。
矢島も状況が呑み込めていない藤丸に下がるよう言い聞かせながら武装を展開し、いつでも撃てるように準備を瞬時に整えた。
『レフ……ああ、レフ、レフ、生きていたのねレフ!良かった、貴方がいなくなったら私、この先どうやってカルデアを護ればいいかわからなかった!』
そんなこちらの空気は露知らず、所長は奴が生きていたという事実ただそれのみを認識し、ただ喜びながらこちらに何か言いかけていた奴に話しかける。
奴は一瞬だけ不愉快そうに顔を歪めたが即座に表情を笑顔に戻し、所長に向けて返事を行う。
「・・・・・・やあ、オルガ。元気そうで何よりだ。君は何とか無事だったようだね。」
『ええ、ええ、そうなのレフ!管制室は爆発するし、マスター候補は一人を除いて昏睡したままだし、その一人もただの一般人だし、よくわからない奴が勝手にマスター候補に登録されてるし、カルデアスは何時の間にか真っ赤になってるし・・・・・・!予想外の事ばかりで、気が付いたら手遅れで・・・・・本当に、本当に気が狂いそうだった!でももう良いの、貴方さえいてくれれば、こんな酷い状況だって何とかなるわよね?何時もみたいに、道を示してくれるわよね!?』
「ああ、もちろんだとも・・・・・・・・・・・・本当に予想外の事ばかりで頭にくる。爆弾は君の足元に設置していたというのに、まさかあれで生きているとは思わなかったよオルガ。」
『―――――――――――え?・・・・・・れ、レフ?あの、い、いきなり何を言っているの?ねえ…?』
「どうもこうも、私は今回の実験を利用して君達を始末するつもりだったんだ。そのためにわざわざ苦労してくだらない
そう言い捨て、奴の視線は次に俺を捉える。
「そして名も知らない漂流者。君の存在が一番の想定外だ。いったいどんな手段を用いたのかは知らないが、セイバーに渡しておいた聖杯とのリンクが完全に切られてしまった。オルガが生きているのも恐らく君のせいだろう?全く、いったいどこからこのような屑が紛れ込んだのやら・・・抑止力もそれだけ必死ということか?実に下らない話だ。」
「・・・・・・」
言い返したい気持ちをぐっと堪え、俺は黙って奴の話を聞く。恐らくだが、この手の輩は黙って聞いていれば話す必要もないことをいちいちベラベラと話し出すはずだ。この油断し切った態度なら始末するのは多分難しい事じゃないし、今は現状維持を優先しよう。
「さて、改めて自己紹介をしようか。私の名はレフ・ライノール・フラウロス。貴様達人類を処理するために遣わされた、2015年担当者だ。」
レフの話は、ロマニとの問答として続いていく。
人類が既に滅んでいること、カルデアの今の状況と外との通信が取れなくなった理由、カルデアのタイムリミット、奴が王と呼ぶ何者かの存在・・・思った通り、油断と慢心から調子に乗って俺達に話す必要のないことを得意気にベラベラと喋っていく。
---ズズズズズズズ・・・・・・
それらを話し終えた後、急に地面が揺れ始め俺達は身構える。
「!?なに、地震!?」
「いえ、違います!これは・・・」
「空間が安定していないな。ロマニ!レイシフトだ!俺達が消えないうちに!」
『わ、わかった!総員!レイシフトを開始!』
矢島の叫びに答え、ロマニが管制室でレイシフトの実行を命じる。本当なら所長が命じるはずなのだが、恐らく情報量が多すぎて向こうでパンクしているのだろう。
「では、さらばだロマニ。そしてマシュ、48人目の適正者、漂流者よ。恐らく君たちはこのまま帰還してしまうだろうが…まあ意味はない。君達程度が我々の邪魔など出来るはずもないからね。」
そう言ってレフは、俺達に背を向けてどこかへと歩いていく。
俺はその後ろ姿に銃口を向けて・・・・・・
「・・・・・・・・・・」
・・・・・・銃口を下した。今の対応で分かった。奴はこのまま生かしておいた方がこちらの為になる。
『皆!意識をしっかり持っておいてくれ!これからレイシフトを開始する!』
「はい!お願いします!」
そしてロマニとマシュのそのやり取りを最後に、俺の意識はホワイトアウトした…
「・・・・・・・戻って、来られた、のか・・・・・・?」
ふと目を覚ますと、俺は管制室と思われる空間の中で横たわっていた。
・・・どうやら俺は無事に戻ってこられたようだ・・・
「・・・・・他の皆は・・・・ツゥ~~~~~~~ッ!目の前がすっげぇ回ってる・・・」
無事に戻ってこれたことを安堵しながら起きようとすると、目の前の世界がグルングルン回っているように感じて吐き気を催し、これはまずいと思ってすぐに起き上がるのをやめた。
仕方が無いから首を回して辺りの様子を伺うと、俺と同じようにぶっ倒れているキリエライトと藤丸の姿があった。フォウは寝ているキリエライトの手を舐めているようだ。
「フォウ・・・・キュ?」
あ、こっちに気付いた。
「フォーウ!」
「…お疲れさん。お互い元気そうで何より。」
「フォウフォウ!」
お前もな!と言わんばかりにタイミングよくフォウは鳴く。やはりこのリス擬きタダモノじゃなかったか…
---ウィーンッ!!
「ん?」
自動ドアの開く音がしてその方向を見ると、ロマニとよくわからん美女が入室して俺たちのもとへと駆けつけてきていた。誰だあいつ、すごくどこかで見たことのある顔というか見た目というか…
「ああ、よかった!無事に帰ってきてくれたんだね!」
「まぁ、何とか・・・」
無事を喜ぶロマニに右手を振って返事する。
「いやー初のレイシフト、初の実戦でもオーダーを完了させるとは流石主人公君だ。」
「・・・・・・・あの、どちら様で?」
「ん?私が誰か知りたいって?宜しい。教えて差し上げよう。私はダ・ヴィンチ。レオナルド・ダ・ヴィンチといったほうがいいかな。」
「・・・は?ダ・ヴィンチ?・・・・・・どっちかっていうと、モナ・リザじゃ…」
漸く思い出した。この美女モナリザに似ているんだ。まるで肖像が三次元に出てきたんじゃないかってくらいにまんま、そっくりに。
・・・・・・どういうことだ?まさかこいつもあのセイバーみたいなパターン?
「きっと君は今、あの騎士王みたいに元は女だったんだろうなって考えているんだろうね。」
「・・・・・・違うんですか?」
「違うんだなぁ~~これが!私は生きていた時もここに召喚されてからの時も、常に自分の理想とする美を追究し続けてきたんだ。発明も芸術も、偏に美の追求のためにあった。そして私にとって理想の美とはモナ・リザだ。となれば―――ほら、こうなるのは当然の帰結だろう?」
・・・・・・要するにモナ・リザが好きだから自分の姿をモナ・リザに変えたってか。すげえなこの天才、とんでもない未来に生きてやがる。スカリエッティと同レベルの変態度だ。こんな機会でもなけりゃ、二人を合わせてみたいくらいだ。
・・・・・・天災二人がそろってどんな核融合を起こすかわかったものじゃないが。
「・・・ところで所長は?」
「・・・・・・彼女は今、医療ルームのベッドで寝ているよ。今回のことでいろいろなことが起こったせいだろうね…君たちのレイシフトを実行した直後にいきなり吐血した後、立ったまま気絶していたよ。」
「・・・・・・何というか、御愁傷様。」
「ははは…それは彼女が起きた時に改めて言ってあげてくれ。それより君は大丈夫かい?どこか具合の悪いところはある?」
「どうでしょ?さっきは起き上がろうとして目の前が回ってましたけど…よいしょ…」
ゆっくりと起き上がってその場に立ち上がり、具合を確かめる。
・・・さっきと比べれば大分マシだな。普通に活動できそうだ。
「……うん、見たところ特に問題はなさそうだね。けど一応後で精密検査を行うから、これからみんなと一緒に来てくれるかい?」
「了解。その担架で藤丸達を運ぶんだよな?良かったら手伝うよ。」
「ありがとう。レオナルド、君はマシュを頼む。」
「はいはーい。」
「ハァ~~~~~~、キッツゥ―――――・・・」
藤丸達を運び終わり、俺はシャワールームで体を洗ってから一通りの精密検査を受けた。
その後、割り当てられた部屋に入って椅子に座り、天井をぼぉ―――っと見つめる。
今日はいろんなことがあって、本当に疲れた。やっと受験が終わったと思ったら、いきなりのこの超展開……しかも自分の世界の事ならいざ知らず、地球上での出来事であるということ以外全く接点がないほどかけ離れた並行世界でこんなことになっていると来ている。
あの男の言ったとおり、抑止力的な何かが働いたのだろう。じゃなければ、フェイト要素ゼロだった俺の世界からこんなところにいきなり来れるわけがないのだから…
・・・・・・・・もしこの現状の犯人が俺を転生に関与したあの女神だったらしばき倒しに行ってやろうか…大体元々からして、転生先に碌な物がなかったし・・・・・・
止めよ、今考えてもしょうがねえや。取りあえず後で地元に帰れるかどうか試してみるとしよう。無事に帰れたら・・・・・・どうするか。もしレフの言っていた【王】とやらの目的が地球誕生の時間まで戻って過去を改竄するとかだったら俺達の世界線も消えてしまうかもしれないし・・・・うん、やっぱり最後まで見届けるくらいはするかな。
「・・・・・・・・・・・・・おっとそうだった。今までのことをメモしておかないと。」
しばらくくだらないことを考えているうちにそのことがふと頭に浮かび、俺は倉庫内からPCを取り出し、今まで見聞きした情報や、これからしなくてはいけないことをメモ帳のアプリに一通り箇条書きにして並べていく。
きっと次回からおサルをゲッチュするゲームの初代並みにいろんなところに行く羽目になるのだろう。出来る内に出来る事をしておかなくては…
「こんなものか・・・・・・・・・・・・・・・・うう・・・・・・・・」
一通り書き出した途端に、急激に眠気が思考を停止させようと襲ってくる。
正直限界だった・・・・一応体を洗っていたから特に戸惑うこともなく、俺は備え付けのベッドに横たわり・・・・・
「zzzzzz・・・・・」
そのまま気を失うように眠りに落ちた…
「・・・・・・・・んんん・・・」
ふと目が覚め、俺は部屋に取り付けられていた時計を見てみる。
・・・・・・寝落ちしてから八時間か、結構ぐっすり寝ていたんだな。
「よいしょ…ん?」
扉の方を見ると、張り紙のようなものが張られていた。
近づいて見てみると
【起きたら管制室に来てください。みんなでこれからの話をさせてもらいます。
マシュ・キリエライト】
と書かれていた。
俺は鏡を見て寝癖を直し、部屋を出て管制室へと向かう。
到着すると、そこにはロマニ、藤丸、キリエライト、矢島、フォウの姿があった。
・・・・・・・所長はやはり来ていないか。まあ当然か、あの時の感じからして、あの男のことを相当信頼・・・というよりむしろ依存に近い感情を抱いていたようだった。それが最悪の形で裏切られてしまったんだ、もうしばらく立ち直るのに時間を要するだろう。
「お待たせしました。それと、遅れてきて申し訳ありません。」
俺は一番遅れて来てしまったことに詫びる。
「いや、全然かまわないさ。今回一番頑張ったのが君たちマスター組なんだ。それよりもう疲れは取れた?」
「はい、この通りすっかり。」
「よろしい。さて、さっそくだが皆には話を聞いてほしい。」
ロマニに回復したことを告げると、集まるように促す。
俺も集合すると、ロマニは話の口火を切った。
外との連絡が一切取れないこととカルデアの外に出ていた職員たちが誰一人として戻らないこと、レフの言った通り人類が滅亡していること、カルデアスの効果でカルデアだけはかろうじで守られていること、特異点Fの消失、そしてFよりもさらに大きな歪みを発生している特異点がさらに七つ、2015年よりも過去の時代にて発見されたこと・・・・・彼はそれらを辛そうな面持ちで語った。
「・・・・・・・・・我々はこの七つの特異点を正して、人類の未来を取り戻さないといけない。ここにいる、たった百名足らずの人員でだ。しかも特異点に実際に行けるマスターは現状君たち二人以外にはいない。サーヴァントも現状マシュとキャスターの二体だけだ・・・・・・正直この状況で君たちに話すのは強制に近いと理解している。だがそれでも僕は君たちにこう言うしかない。」
ロマニはそう言っていったん言葉を切り、真剣そのものな表情で再び口を開いた。
「カルデア48人目のマスター候補生、藤丸立香。そして梶原泰寛。君たちが人類を救いたいのなら、人類の未来を取り戻したいのなら、君たちはこれからたった二人で、この七つの人類史と戦わなくてはいけない。その覚悟はあるか?君たちにカルデアの、人類の未来を背負う力はあるか?」
「無論だ。というかそれ以外の道はないでしょ。」
「はい、それが自分に出来る事なら!」
「―――ありがとう、その言葉で、僕達の運命は決定した。」
俺と藤丸の返答にロマニは喜ぶと、すぐに真剣な表情に戻って話を進めていく。
「これよりカルデアは、所長オルガマリー・アニムスフィアの予定した通り人理継続の尊命を全うする。目的は人類史の保護、及び奪還。捜索対象は各年代と、原因と思われる聖遺物【聖杯】我々が戦うべき相手は歴史そのものだ。君の前に立ちはだかるのは多くの英霊、伝説になる。それは挑戦であると同時に、過去に弓を引く冒涜だ。我々は人類を護るために人類史に立ち向かうのだから。けど生き残るにはそれしかない。いや、未来を取り戻すにはこれしかない!・・・・・・たとえどのような結末が待っていようとも、だ。」
・・・・・・・?なんだ、今の間は・・・・
「以上の決意をもって、作戦名はファーストオーダーから改める。これはカルデア最後にして原初の指名。人理守護指定【グランドオーダー】。魔術世界における最高位の使命をもって、我々は未来を取り戻す!」
「「はい!」」
「・・・了解。」
何か腑に落ちない感覚を抱えながらも、ひとまず俺達の世界の壁を跨いだ面倒事はこうして始まったのだった……