デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

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第六十三話

side:矢島敬一郎

 

===3月1日 19:10 矢島家===

 

「はぁ~~~~、やだやだ。なんでこう、いきなり嫌な案件が持ち込まれてくるのかなぁ~~・・・・・・」

 

遊びに来た皆が帰路についた後、俺は風呂と飯を終えて自室の椅子に座り、背もたれに体重を預けながら愚痴を溢していた。

魔法少女達が友情、努力、勝利の三原則の元可憐に戦う世界だと思っていたのに・・・・また去年のような血生臭さで吐き気を催すような厄ネタが潜んでるかもしれないとかどんなダークファンタジーだよ。シミュレーション能力を持っているのに視界0パーセントってくらいにお先真っ暗じゃねえかまったく・・・・

まあ今更愚痴をこぼしててもしょうがねえ。とりあえず梶原と来週の土曜日に辰巳ポートアイランドとやらの調査をする約束をしてしまったわけだし、それまでに俺は俺で出来る事をしておかないとな。

 

「よし、とりあえず現地調査のための道具をいくつか作ってみるか。何事もまずは地道な努力からってね。」

 

部屋の鍵をかけた後、押し入れの中からヘッドギアと水晶型のスパコンを取り出し、ベッドの近くに持って行ってヘッドギアを被る。

 

---カチッ キュイィーーーーーン・・・・・・

 

ヘッドギアの横にあるスイッチに触れて数秒後、スパコンの起動が完了していつもの意識がどこかに引っ張られていく感覚に襲われる。

それに身を委ねて十数秒ほど経つと・・・自分の意識がはっきりしたと同時にいくつもの計器や実験機材が並ぶ実験室で直立していた。

まあここは電脳空間だし、こうして見えているものは言ってしまえば夢の中のイメージのようなものなんだけどな・・・まあそれはいいとして。

 

「さっそく設計から始めていくか。」

 

グーグルアースで調べてみた結果、現地の人工島とその周辺地域は結構広い。

これを来週までに調べておくとなるとそこそこ物量が必要だ・・・・・・・まずは、都市部調査用のステルス機能を持たせた飛行ドローンを百基くらいと、そのデータを収集するデバイスを幾つか新しく作るか。

移動方法はバッテリーの消耗を抑えるために何時もの反重力装置じゃなく可動式ローターを採用。梶原の話だと、異界内部では電子機器の類が軒並み停止していたらしいし、バッテリーは二つとも電気式じゃなくて魔力式にしておかないと。

エネルギー補充は宇宙に浮かせている人工衛星の一つからからビームで送信する方式がいいか。ただそうなると受信機も必要になるからデバイスの設計にそれも組み込んで・・・よし、ある程度の設計の方針が固まったところで次は図面作製の画面を開いて線を引いていく・・・・・・

 

 

 

 

「うし。大体こんなもんだな。」

 

飛行ドローンのハードの図面を10分、収集装置のハードウェアの図面を一時間かけて書き上げ、その後ドローン用のAIと観測システムのソフトウェアはOSをGUNDAMから流用して、二時間かけて構築し終わった。

本当にシミュレーション能力様様だ。本来なら相当な数の専門家やプログラマーたちが長い時間と多大な労力を費やして漸く作り上げられるようなものも、こうしてたった一人で作り出すことが出来る。

偶に貰い物の力で調子に乗っていると言えなくもないと思って正直少し微妙な気分になってくるが、こうして望んでいたSF的な物を自分で作り、使える楽しみに比べれば屁みたいなものだとその度に思う。

 

「さてと、時間もそろそろやばいし今日は寝るか。」

 

時計を見ると、時間はすでに11時を大きく回っていた。俺は電脳空間から帰還してヘッドギアとスパコンを押し入れに戻し、改めて床に就く。

確かそろそろ資材の在庫が心許無くなってきてたし、明日は海外のスクラップ置き場から廃棄しきれなかった適当なスクラップを持ち帰って、それを材料に機材を作っていくか。

 

 

zzzzzz・・・・・・・・

 

 

 

 

===3月2日 14:04 矢島家===

 

「ふう、今日もたんまり集まったな・・・」

 

今日は8時から起床し、わざわざ中国まで転移して不法投棄されたスクラップの溜まり場から適当なゴミを拾い集め、帰宅した。

結構な量の資材が集まって、今日も今日で大満足だ。

・・・にしても相変わらず海外はひでぇなぁ。ゴミの分別なんてあったもんじゃねえ・・・まあちゃんとしてるところはちゃんとしてるんだが、国土の広い所と人目につかない所程捨て場所に困らないせいかそのあたりが雑でいけない。

ま、そのあたりは俺が気にしてもしゃあねえ。それよりも俺は俺でさっさと作業を済ませないとな。

 

「{ゴトンッ}よいしょっと!」

 

押し入れの奥から取り出したトランクケースのような形の物体を取り出し、蓋を開ける。

 

---カチャッ ガチャガチャガチャッ! カチンッ!

 

中から飛び出た二本の機械的な柱が組み合わさり、ドラえもんに出てくるどこでもドアのような一枚の扉を構築する。

そのドアが組み込んだ機能通りに自動的に開いたその先には、何時ものように俺自慢の工房へと続く廊下と、いつどんな事故が起こっても大丈夫なように厳重な隔壁が存在していた。

俺は水晶型のPCからヘッドギアのコネクターを取り外して中に踏み込み、通路を突き進みながら隔壁の解除コードを遠隔操作で入力、重厚な音を立てながら開いた隔壁の先にあるメインの作業場に入る。

そこにはあらゆる作業用メカや作業台、装置が床、壁、天井の中に埋め込まれており、今は使われていないため内部は割とこざっぱりとしていた。

 

「GUNDAM、資材の状況はどうなった?」

『転送されたものから順に圧縮処理が行われております。現在処理が完了したスクラップは30トン、後1分ほどで残り三十トンのスクラップの圧縮が完了する予定です。』

 

工房のメインシステムと接続したGUNDAMが情報を引き出し、状況を分かりやすく報告する。

 

「デバイスとドローンの製造状況は?」

『現在、圧縮処理が完了したスクラップから必要量を元素変換器に投入し、出来上がった資材を製造用3Dプリンターに送って製造しています。ドローンは現在目標数100機の内14機・・・15機の製造終了を確認。十秒に一機のペースで製造中です。デバイスは製造終了まで後30分、その後ソフトウェアのインストールとシステムチェックを行う予定です。』

「なるほどな・・・OKOK、それじゃあ全部終わるまで休憩室で待機しておくか。デバイスの配置場所とドローンの探索ルートも考えないといけねえし。」

『了解いたしました。何時ものように何か異常がありましたらお知らせします。』

「ああ、頼む。」

 

GUNDAMにそう返答した後、工房へ入って左側にある壁面へと移動する。

 

---カシャッ ピピピピ・・・ピンポーン!

 

壁の一部が開き、現れた液晶画面に掌をあてるとロックが解除されて休憩室への入り口が姿を現す。

 

「え~っとグーグルマップグーグルマップ・・・」

 

開かれた扉に入りながらネット回線に繋ぎ、空中に巌戸台とその周辺地域の地図を映し出して椅子に座り込む。

 

---ウィーーーンッ

 

『お茶をお持ちいたしました。』

「おう。」

 

椅子に座って落ち着いたら、休憩室の隣にある調理場からベネット君(お手伝い用ロボットの一体)が梶原の持ってきた最中と煎茶をお盆において入室する。

 

---コトッ コトコト・・・ウィーーーンッ

 

『では、どうぞごゆっくり。』

 

最中と煎茶を並べ終えたベネット君が机再び厨房へと戻っていく。

その後ろ姿を見届けたら、俺は最中を一口齧りつつ地図を見て良さ気な場所を検討し始める。

 

「ん~~~~・・・・・・お、こことかいいんじゃねえか?」

 

暫く見ていると、巌戸台の北の外れの方に廃屋が立ち並ぶ一帯が存在しているのが確認できた。

一応デバイスと周辺には人避けの結界と光学迷彩を張っておくつもりだけど、それでも人の目に映る機会が少ないのに越したことはないからな・・・ここを取りあえずの第一候補にしてもいいだろう。

よし、じゃあ他のところも見ておくか。えっと、梶原曰く異界でも特に目立つ巨大な塔ってのがこの学園と同じ位置にあるから・・・うん、この近くの人目につかなそうなところにも一つ置いておいて・・・

 

 

 

===30分後・・・===

 

 

 

『マスター、デバイスとドローンのシステムチェックが終了しました。全行程、クリアーです。』

「ん、よし。それじゃあそろそろ現地に行くか。」

 

デバイスの配置場所とドローンの巡回ルートが一通り決まったところで、GUNDAMから製造完了の知らせが入る。

俺は食べかけの最中を口に放り込み、咀嚼して飲み込んだ後の口の中の甘さを煎茶で押し流すと椅子から立ち上がって休憩室から、工房から出て行って第一候補地に定めていた巌戸台の廃屋地帯・・・・・・その一キロ上空へと転移を行う。

そしてステルス迷彩を起動して自分の姿を消した後地上へと降りていき、丁度よさそうな廃屋の上に降り立って・・・

 

「よし、このあたりだな・・・」

 

GUNDAMから工房へとアクセスして、デバイスとドローンをこの場所に転移させる。

それぞれの機械は転移の数秒後起動し、ドローンはそれぞれ六つのローターを回転させてホバリングし、光学迷彩で姿を消した後人工島の方へと飛んで行く。

データ収集デバイスはその一辺一メートルほどの立方体の灰色の筐体を廃屋の中央へと移動させ、人除けの結界を張って更に光学迷彩で自らの姿を完全に消す。

システムは・・・よし、正常に起動しているな。他ドローンも異常なし。

 

「後は他の数か所に同じものを置いて終了・・・次の土曜日が楽しみだな。」

 

その後俺は、他の場所にも同じようにデバイスを配置、一通りの動作チェックを済ませた後帰宅した。

・・・・・いったいどんな結果になるんだろうな・・・

 

side out

 

 

 

 

 

side:梶原 泰寛

===3月7日 23:10 辰巳ポートアイランド===

 

人々が寝静まる深夜帯・・・殆どの建物は仕事を終えた人々がいなくなったために非常灯以外の明かりがすべて消え去り、人通りの無さによってその人工島のほとんどの場所は静寂に満ちたものとなっていた。

街の中を主に照らす光は今や街頭、信号機、24時間営業のコンビニの窓ガラスから漏れる室内灯といったものだけとなり、日の光に照らされた活気ある時間帯とはまた違った、不気味な雰囲気を漂わせている・・・・・・

 

---ザリッ

 

「さあて・・・いよいよやってきてしまったな、実に9か月ぶりに。」

「ここがポートアイランドか。パッと見はただの都会的な人工島に見えるんだが・・・」

「パッと見、はな。まあ時間になれば嫌でもわかるだろ。」

 

そしてかく言う俺と矢島は遠く離れた海鳴市から矢島の転移魔法を使って、そんな暗く静かな辰巳ポートアイランドの街並みを見下ろすように商業ビルの一つの天辺に降り立っていた。

なお、身バレしないために俺自身はいつもの装備を身に纏い、矢島もとっくにバリアジャケットを装着している。

 

「予定の時間まで後50分・・・何時もなら寝てる時間だぜ・・・ふぁ~~・・・・」

「まあそう言わず何とか堪えてくれ。」

 

欠伸を堪えきれない矢島にそう言いながら、俺は目的の場所である月光館学園がある方角を見る。

去年の七月、あの日俺が倉庫で寝る前に感じたあの感覚・・・0時丁度を時計が示した瞬間に感じたあの違和感と、悪魔たちのいる異界に入った時の感覚をここに来る前にザ・ブックで交互に再体験してみた。

どちらもかなり酷似した感覚だったことから考えてみると、恐らくあの0時の段階で俺はこの場所の異界に引き込まれていたのだろう・・・情報が少なくて如何とも言い難いがとりあえず明日の0時までは待つことになる。

 

「矢島、周りの状況はどうだ?」

「・・・・・・一般的な地域よりもマグネタイトの値が大きいな。まあ悪魔が現界出来るほどの値じゃないから逆を言うとそれ以外は特に何かあるってわけでもないと思うが・・・」

「なるほど・・・よし、とりあえずここから移動するか。」

「そうだな・・・・・あ!本命に行く前にちょっと寄りたいところがあるんだけどいいか?」

「ぬ?まあいいけど?」

 

どこに行くんだ?と思っていると、矢島が俺達の足元に魔法陣を展開し、目の前が一瞬真っ白になる。

そして気が付くと、さっきまでの町中とは打って変わって人気の無い廃墟の屋上のような場所に俺達は立ち尽くしていた。

 

「どこだ此処・・・」

「ちょっと待て。収集データ、ダウンロード。」

 

矢島がそういうと、空中に砂時計マークが投影され、それが二十秒ほど回転した後消えた直後にいくつものホログラム映像が表示される。

街のどこかを撮影したような画像、波線グラフ、円グラフ、棒グラフ等々・・・中には俺が見たことのある巌戸台の風景や、去年入ったあの棺桶と地のように赤い血が散在する異界の風景まで存在した。

 

「よ~~しよしよしよし、業腹だけど去年の経験が生きたな。今回一番重要な要素だった異界内への侵入がうまくいってる・・・ふんふん・・・・・・なるほどなるほど・・・」

「何時の間にこんなものを・・・やっぱり頼りになるよお前。」

 

空中に投影されるデータ群に次々と目を向け、解析を行っている様子の矢島に思わずそう言葉を溢すと、矢島は作業をしながらにやりと笑い、言葉を返す。

 

「当然だろ、元々こういう作業のために俺を頼ったんだろうが。調査ってのは時間と正確な情報が命なんだから思い立った時に行動しないといかんでしょ。」

「さっすが!それじゃあ時間までは解析よろしくな。」

「おう。えっと・・・・・・GUNDAM、工房のコンピューターにこのデータを送って解析した奴を後で送ってくれ。」

『了解しました。』

 

GUNDAMの機械的音声が響き、引き続き矢島は目の前のデータに目を通していく。

 

「ふん・・・・・・ふんふん・・・・・・・なるほどなるほど・・・・・・ここがこう、こうなって・・・・・・なるほど、やっぱり結界抜けの術式に異界内での活動データを元にしたアレンジを加えたのが良かったか。悪魔のいる異界と現実世界じゃ時間の流れや存在する位相が違うからな、それを認識し飛び越えられるよう組んでみたけど大正解だったわけだ。まあこの辺りはミッドで使う結界も似たようなことはできるし余り特別な物じゃねえがマグネタイトとリンカーコアの魔力じゃエネルギーの根幹が違うからな、それがわからないと向こうの魔導師でも対処は出来ない。となるとここがこう、こうで・・・」

「・・・・・・・ウォーミングアップでもしてるか。」

 

デジタル時計を見てみると、0時まで後40分あった。

あの調子では俺の出番はないと見て、俺はこっそりその場を離れた。

そしてタイマーを仕掛けて軽い準備運動をした後、塔の中で戦った怪物たちを思い浮かべて静かに瞑想をしていることにした。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

---ジャラ・・・・・ジャラ・・・・・・

 

(・・・・・・)

 

薄暗い廊下の向こう側で、通路の角から現れたあの黒衣の死神のような怪物が身に纏った黒い鎖を微かに鳴らし、無機質な視線に殺意を漲らせて俺の前に立ち塞がっている・・・

距離はざっと40メートル・・・・・・俺はその姿に全身の鳥肌が立つのを感じながら呼吸を整え、意識を張り巡らせて相手の一挙一動に集中する。

 

(・・・・・・・・・・!)

 

---ジャラッ!

 

ユラユラと揺れる死神の放つ殺気の膨張を察知し、相手の銃口の照準が俺に定まる前に渾身の力を込めて左右にジグザグ移動をしながら駆け出す。

同時にアライブの銃口を奴の銃口に合わせる。

 

---カチッ・・・

 

互いの距離が30になったところで相手の照準が定まり、奴の引き金が動く。

撃鉄が上がりきる直前に、俺は体を射線上からずらそうと左斜め前に大きくダイブする。

 

---ドンドンドンドンッ!

 

次の瞬間に二つの銃口からマズルフラッシュが閃き、火薬の炸裂音と共に弾丸が大気の壁を容易く貫きながら襲い掛かる。

コートの裾に弾丸が掠め、黒い生地が和紙のように簡単に千切れていく。

 

(駄目だ!避けきれない!)

 

俺は速度を落とさないために手を地面についてハンドスプリングを行い、飛び上がりながらアライブの体に捕まって右上に方向転換し、更にアライブにリボルバーを奴目掛けて撃たせる。

俺の放った弾丸は奴の弾丸に掠るように当たり、弾頭が砕け散る代わりに敵の弾丸の軌道を僅かにだが変えた。軌道の変わった弾丸はコートの端や髪の毛を僅かに千切って背後に消えていく。

 

(おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!)

 

咽喉が裂けそうなほどの雄叫びを上げる俺と、死神の距離は徐々に詰まっていく。

だが距離が詰まるにつれて奴の拳銃の精度も徐々に上がっていき・・・・・

 

---バキャァッ!

 

距離20メートル・・・・・・着地点を奴の弾丸が抉ることで足場が崩れ、俺の体勢が一瞬乱された。

 

---ドゥンッ

 

その隙を逃さず、奴の弾丸は寸分の狂いもなく俺の胴目掛けて乱射された。

照準を合わせるにはあまりにも時間がなく、弾丸を当てて逸らすこともままならないだろう。拳で弾けたとしてもせいぜい一発が限度・・・

 

(アライブ・ザ・ワールド!)

 

ここが限界と考え、止むを得ず時間停止を行うことで服の数ミリ手前で弾丸が静止する。

俺の使える時間は現在6秒ちょい、これで勝負を決めるために弾丸を避けて一気に加速する。

 

(・・・アライブ!)

『ギルァラララララララララララララララララララララララァッ!!』

 

---ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ

 

1秒で距離は残り10メートル弱まで縮まり、リボルバーを背中に仕舞い先に到達したアライブの拳打の嵐が奴を激しく打ち付ける。

拳を伝わる感触は生身で鋼鉄の塊を殴っているかのように硬く、柳を突いているかのように手応えがなく、山脈を抉じ開けようとしているかのように果てしなく感じる。

何時まで殴ればいい?幾ら殴ればいい?どこまでやればこれは打ち砕ける?

 

(・・・・・・・・決まっている、ぶっ壊れるまで殴り抜ける!!壊れないなら壊れるように殴るまで!)

『ギィルァアアアアアッ!!』

 

目標を拳銃を持った右手に切り替え、引力操作を新たに使いながらの拳打により先ほどまではビクともしなかった死神の体から、微かに、だが徐々に何かが割れ砕ける音がし始めた。

敵に当たった瞬間に敵の強度を下げることで、先ほどよりもダメージが通るようになったらしい。

 

(あああああああああああああああああ!)

 

---ギィンッ!

 

残り4秒を切ったところで、ラッシュに加えて俺も腰の閻魔刀を抜いて奴の左手首目掛けて切りかかる。

鞘から抜かれた閻魔刀の鋼鉄をも容易く切り裂けるはずの一太刀は、しかしその体を覆う襤褸に掠り傷を負わせるだけに留まる。

 

 

---ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ!!

 

舌打ちをしながら、だがここで諦めてはならないと言い聞かせ、同じ個所に同じ軌道で斬撃を加え続ける。

その成果あってか、残り時間が2秒を切ったところでようやく襤褸が切れてその下にあるどす黒い腕が姿を見せる。

だがこの調子では左手首を叩き切ることは不可能と断じ、閻魔刀を手放してコートを脱ぎ、飛び上がってその血塗られた覆面の上から巻き付けることで視界を封じておく。

 

---ビキビキビキビキ・・・・バキャァッ!!

 

残り一秒を切ったところで、アライブに全力で殴らせていた右腕がとうとう砕け、リボルバーが奴の断片ごと奴から離れる。

俺はアライブに自分を下に投げさせ、俺は空中に留まったままの閻魔刀を拾い直して奴の背後に回ろうと駆け出した。

そして背後に完全に回りきる前に世界に色が戻り、時が再び動き始めてしまう。

 

---キョロキョロ・・・

 

同時に動き始めた死神は、いつの間にか自分の右腕が軽くなっていることと自分の視界が暗闇に覆われていることに気付いて、状況把握のためか周りを見渡し始める。

その隙を見逃さず、アライブが残った左腕目掛けて肘打ちと膝蹴りを挟み込む様に行う。

 

今度こそ行けるか・・・そんな淡い期待が俺の内心を過る・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

その次の瞬間、アライブを振り切って天井へと向けられた奴の銃口から真っ白い光が溢れ出し、俺の眼前は白く染められた・・・・・・

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

---ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ 

 

「・・・・・・・時間か。」

 

14回目の意識内での戦闘の直後、鳴り響くタイマーの音によって俺は現実へと引き戻された。

ただその場に立っていて、脳内でのイメージトレーニングに勤しんでいただけだというのに、全身が汗で濡れていた。

 

(・・・・・やっぱり駄目だったか・・・何度やってもあそこから先へと進むことができない。)

 

他の雑魚はいくらでも勝つ手立てが思い浮かんだ。それこそアライブなしでも今の俺なら十分対処できる奴ばかりだった。

だが、このリボルバーの持ち主であるあの死神のような化け物に関しては、どうあがいても倉庫のものを自重なく使う以外勝ち筋が全く見えない。

自分が出来得る限りの好条件を揃えても、押しきれずに最後はあの大爆発で薙ぎ払われて瀕死になったところに止めを刺されてしまう。

去年と違って一撃で消し飛ぶイメージじゃなく最悪でも一発はぎりぎり耐えられると思えるようになったのはいいが、どの途あれを連発されたらアウトだ。おまけにあの爆発と銃撃以外に、俺攻撃手段を知らないんだよな・・・勘だけど、絶対あれは何か他にもあると思う・・・・・

それでも自重しなけりゃ難しくはねえんだけど・・・やっぱりあのレベルの敵がいると分かった以上素であれを打倒できるようになりたい・・・この問題にかかわっていて、もしあれよりも強い奴と倉庫無しで闘わなければならない時が来たら・・・その時、自分が負けて死んでしまうことの無い様に・・・・・・

 

 

 

(まあそんな事態にならないよう最大限警戒はするけどな・・・・・・)

 

ふぅー、と一息つき、俺はタイマーを止めて矢島のいる屋上へと飛んで戻る。

矢島の周りにあったホログラム群は消えており、足元には転移用の魔法陣を敷いていていつでも現場に向かえる様子だった。

 

「戻ったか梶原、そろそろ行くぞ。」

「おう、待たせて悪いな。」

「まああと二分くらいあるからいいけどな。取りあえず月光館学園の屋上に転移するぞ?あそこには監視カメラがないからな。」

「おk。」

「じゃあ転移開始。」

 

二人とも魔法陣に入り、再び浮遊感と共に俺の視界は真っ白に染められる。

次の瞬間には、俺達は学校の屋上に移動していた。転移の完了後、俺達は周辺を見渡して誰もいないことを確認し、監視装置を避けつつこそこそと移動していく。

 

「やっと到着・・・!」

「あと十秒か、思ってたよりギリギリだったな。」

 

門前の監視カメラの視覚で一息ついていると、矢島から残り時間を告げられて急いで息を整える。

そろそろか・・・

 

「5,4,3,2,1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  0だ。」

 

 

矢島がそう告げると同時に目に見える全ての時計が0時を指し示し・・・・・俺達を取り囲む全てが別のものへと姿を変えた。

去年と全く同じ・・・夜の墓場のように暗く陰鬱で、先ほどよりも更に近く感じる月の明かりだけが全てを照らす・・・そんな死後の世界のような異質なものへと・・・・・・

 

 

 

 

 




タルタロスの出現は次回からになります。

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