デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録   作:enigma

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皆さん、大変お久しゅうございます。
今年の夏はどうでしたか?私はFGOの水着ガチャでノッブ、フランちゃん、槍頼光さん、エレナさんをお迎えすることが出来ました。
後はオルタ…オルタさえ引けば…!


第六十六話

===3月8日 AM6:00 梶原家===

 

---ジリリリリリリリッ!ジリリリリリリリリッ!

 

「ぐ、相変わらずうるせぇ・・・」

 

心地良い微睡の中に自分の心を漂わせていた朝・・・・・不意に俺の鼓膜を揺らした目覚まし時計の喧しい音によって、俺の意識は今日も又寝床の中で現実へと引き上げられる。

本当のところを言えばこの音を無視してずっと微睡に浸っていたい気持ちはあるが、一度そうやって甘い気持ちに流されてしまうと後で持ち直すのが非常に難しくなるため、意を決して布団を捲って自室の床に立ち上がり、ベッドから離れる。

 

---ジリリリリリリリッ!ジリリリリリリリカチッ・・・・・・

 

ベッドから数歩離れた机の上でけたたましく鳴る時計のスイッチを切る。これでもう煩い音はなくなり、部屋の中にはまた静寂が戻った。

 

「ファア~~~~~~・・・・・眠い・・・」

 

ふと、我慢できずに欠伸を漏らしてしまう。

・・・・・・・・まだ今一目が覚めていないのか、思考に霞がかかっているような感じがした。

取りあえずちゃんと目を覚ますために、まずは台所に行って食器棚を漁ることにする。

 

「{カチャカチャ}・・・よいしょっと。」

 

食器棚から手近なコップを一つ取り出し、冷凍庫から出した氷と浄水器の水を混ぜて氷水を作り、コップの端に口をつけてそれを一気に呷る。

キンキンに冷えた水の冷たさが口内を通って食道を下降していき、胃に到達する度に頭の中の靄が晴れていくような気がした。

 

「{ゴッゴッゴッゴッ}・・・・プハァッ!!ウメェッ!」

 

コップの水を全て飲み干した後には、完全に思考が覚醒状態になっていた。

昨日の探索のせいなのか若干の倦怠感があるけど、何時ものように全身の感覚が冴え渡っていく事を実感出来る。

 

「んん~~~~・・・はぁっ!やっぱり起き抜けはこうじゃないと調子が出ないな・・・・・うし、じゃあ早速やることやるか。」

 

空っぽになったコップを置いて軽くその場で背伸びをした後、コップを水で洗って自室に戻る。そして何時もの戦闘服・・・・ではなく、今回はこれから始める作業で汗だくになることを考慮してタンクトップと短パンへと着替えを済ませて軽く準備運動をした後、いつもの様に倉庫の中に入る。

 

「アライブ、オーバーヘブンと例のアレ持ってきて。」

『アイアイサー。』

 

俺の呼びかけに答えて出現し、壁際にある棚へそれぞれのディスクが入った紙を取り出しに行くアライブ。

・・・・・うん、まあこれはあれだ。昨日言っていた呪殺や状態異常の耐性が身に着けられるかという話。

昨日は時間も遅かったのと今日に疲れを残さないためにさっさと寝てしまったから試すことは出来なかったけど、今試して成功すればこれから先の探索にもいろいろと役に立つはずだ。

幸い悪魔事件の時にムドを食らったことがあるし、憑り殺される経験は過去に腐るほどあるから、後はその正確な体験を【アレ】で再び思い出してどんなふうに上書きすればいいか、そのイメージを固めるだけだ。

 

『マスター、コレヲ。』

「おう、ありがとう。さぁて、それじゃあいっちょやりますか・・・」

 

アライブの持ってきてくれたオーバーヘブンを頭に差し込み、体の奥深くから湧き上がるスタンドパワーとともに俺の肌が真っ白に変色する。

次に二枚目のディスクを差し込んで右手にスタンドのヴィジョンを出現させようと意識を集中した。

 

---・・・ズズズズッ

 

その一瞬後に、縦19センチ、横14センチ、厚さ3センチくらいの大きさの、題名が書かれていないダークブラウンの背表紙の本が右手から浮かび上がるように出現して俺の掌に収まる。

準備はこれで完了だ。

 

「スゥ―――――・・・・・フゥ――――・・・・」

 

軽く深呼吸を終えた後、隣に真っ白に変色したザ・ワールド・・・・・・・ザ・ワールド・オーバーヘブンを出して精神を研ぎ澄ませ、本のページを見ないようにしながら去年の悪魔事件のある出来事を思い出そうとする。

 

---パララララララララララ・・・・

 

同時に、その意思に呼応するかのように右手の本はそのダークブラウンの革表紙が勝手に開いて、大量の文字が細かく記されたページがものすごいスピードで独りでに捲れていく。

 

---パララララララララ・・・・・ピタッ

 

時間にすれば恐らく瞬き一度程の時間であっただろうか・・・紙の動きがピタッと止まり、見たいページのところで捲れる音が終わる。作業の終了を確認し、また軽く一呼吸をした後、俺はその開かれたページを自分の視界に入れた。

そしてページに書かれた文字が目に入った瞬間に・・・目の前の本に引き込まれるような感覚に囚われて俺の頭の中にイメージが浮かんでくる。

 

 

『ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・』

 

倉庫の中で突っ立っていたはずの俺の眼前は、いつの間にかどこかの廃墟の内部と思われる、埃が宙を舞う汚らしい廊下のような場所に切り替わっていた。

周辺の床には悪魔達の物と思われる見覚えのある細切れになった残骸があちこちに散らばっており、それらは現在進行形でマグネタイト特有の光となって宙に消えていっていた・・・俺はその光の中で、息を切らしながら突っ立っているようだ。

 

(この場面じゃないな、もう少し後だ・・・)

 

そう考え、もう少し先の場面を望むと目の前の景色や自分の行動がビデオの早送りのように高速で流れていく。

自分の口が早口で勝手に言葉を発し、何かを察知したかのように途中で台詞を打ち切って建物の内部側の壁を鋭く睨みながら腰の閻魔刀の使に手を添える。

その自分の行動や感情の動きを、そこにいる自分とはまたどこか別の視点から俯瞰しているような感覚でいると・・・

 

---バゴォオッ!

 

『グォオオオオオオッ!!』

『ジェアアアッ!!』

 

直後、建物の内部側の壁を突き破って、虎柄の毛皮で全身を覆っている狒狒のような顔の化け物が現れ、雄叫びを上げながらその右の前足を俺の頭上から叩きつけてくる。

俺はそれを難なくアライブに防がせて、どてっ腹に思いっきり右足で蹴りを叩き込む。

そして怯んだ化け物に向けてさらに、追撃の一太刀を加えようと鞘から刀を抜いていく。

 

(このあたりか。)

 

場面の早送りが終わり、状況の展開速度が元に戻る。

化け物と相対している俺は鞘から完全に抜き放った閻魔刀の刀身を、今まさに悪魔を真っ二つにしようと振るっていた。

 

『ムド。』

 

しかし俺のその行動は化け物の後ろに突然現れた、漆黒の馬に跨った赤色の鎧を身に纏う悪魔・・・・エリゴールの呪文の発声によって中断させられた。

聞き覚えのある呪殺の魔法とともに禍々しさを感じさせる魔法陣が俺の足元に絶妙なタイミングで現れ、俺は一瞬硬直してしまい対処が遅れてしまう。

 

『ぐ・・・うおおおおおおおおおおお!!?』

 

魔法陣が毒々しい紫色のオーラを発した。それは炎のように揺らめきながら回避が遅れた俺の体に纏わりついてきて・・・その次の瞬間に俺は、自分の命そのものを蝕まれるような感覚に襲われる。

格は違うが、それはまるであのどす黒い絵の力によって現れた祖先たちの死に触れた時のように、あるいは振り返ってはいけない小道で振り返ってしまった時に迫ってきた無数のナニカの手のような、問答無用の無慈悲な死を与えるような力だった。

 

『う・・・こ、の・・・』

 

体の中を得体の知れない何かが貪っているような感覚とともに全身から生きる気力、生命力が急速に失われていく。

アライブのヴィジョンも、俺自身の精神力が弱っていっているせいで薄くなっていっており、こっちの力が弱まったことを好気と見てか体勢を立て直した猛獣のような化け物が魔力を集中させている。

 

『ま・・・だ・・・だぁっ!!』

 

閻魔刀の柄で眉間を打って意識を現実に無理やり引き戻し、力を振り絞って閻魔刀を振るう。魔法陣は纏わりついているオーラ諸共切り裂かれて消え去り、体を蝕んでいた悍ましい感覚がフッとどこかへと抜けていった。

 

『マハジ・・・』

『ジェアアアアアアアッ!!』

 

---ザシュッ!

 

電撃の魔法を唱えかけていた化け物に向けて俺は飛び掛かり、相手の頭上をすれすれで飛び越えながら首を切り落とす。さらに返す刀で、着地しながら目の前の呪殺魔法を使った敵を殲滅すべく床を駆ける・・・

 

 

 

 

---パタンッ

 

「・・・・・ふぅ。」

 

本を閉じて一息つく。

気が付けば何時の間にか俺は全身から滝のように汗を流していたらしく、床は落ちた汗で水溜りが出来ており、ベッドから起きたばかりのはずの体はついさっきまであの戦闘を実際にしていたかのような強い疲労感と高揚感に包まれていた。

 

「相変わらずのリアリティだな、この小説は・・・」

 

 

 

―――この本、【The Book】は、本体の記憶の全てを文字にして記録しているスタンド・・・・言うなればこの場合は俺という一人の人間の、一人称視点から綴られた伝記だ。

何時何時に何をしたか、何を感じたのか、何を思ったのか、今まで食べたパンの枚数は何枚なのか、寝ている時にどんな内容の夢を見たのか、自我すらなかったような赤ん坊の頃の思い出、流し読みした詰まらない四コマ漫画の絵、聞き流していた寒いオヤジギャグ、今はもう二度と会えない前世の母さんの料理、父さんに怒られて拳骨を食らったこと、昔俺にちょっかいをかけてきた腹立たしいクラスメイトの面、ダンジョンの中で幾度となく死にかけた、或いは死んだ事等々・・・・・とにかくどんな些細なことであろうと、どういうわけか前世の俺が有精卵だった時から今日まで体験してきた出来事の全てをこいつは記録している。

そしてページに記録された記憶の記述を視界に入れた人間は自他を問わず、先程の俺のようにまるでその当時の俺そのものになったかのように記憶を再体験することが出来るのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・これ、もっと早い段階で手に入れておきたかったなぁ・・・・初めて拾ったのが去年の年末大掃除の後とかどんだけタイミングが悪いんだよ。これがせめて去年の3月末くらいに手に入っていれば、追体験して原作の情報をちゃんと思い出すことができたかもしれないのに・・・・というか俺、リリカルなのはのアニメと漫画全部ハードディスクに仕舞ってあったことも思い出してマジで凹んだぞ・・・他のアニメとか動画のファイルに深く埋没してて全ッ然気づかんかった・・・今思い出してもあれは本当に泣ける・・・・・・

はぁ―――・・・・・・話を戻そう。ただこれには一つ問題として、再体験のリアリティが余りにも当時体感したそのままの通りのものだから見る記憶次第ではかなりまずい事になることがある。例えば病気にかかった時や大怪我を負った時の記憶を見てしまうとその当時の辛い感覚を百パーセントそのまま追体験してしまうし、後このスタンドの元々の持ち主と違って俺の場合は冗談抜きで死んだことがあるためそう言った時の記憶を見てしまうとその精神的ショックでそのままぽっくり逝ってしまう恐れがある。流石にそんなミスは犯したくないから、今回みたいな例外的事情がない場合はそのあたりの記憶は本来の持ち主と同じように禁止区域として指定しており、普段は絶対に見ない。

更に他にもいくつか注意点はあるが・・・まあ今のところはここまでにしておこう。今の記憶の追体験で、上書きする内容のイメージははっきりしてきた。

後はこれにドス黒い絵の呪いを受けた時の体験を加えて上書きを開始するだけだ。

 

「スゥ―、ハァー、スゥー、ハァ―・・・よし、次に行くか。」

 

気合を今一度入れ直し、記憶の検索を再度開始する。

検索条件は【黒い絵の幽霊の攻撃を受けた時】【ヘブンズ・ドアーでのやり過ごしに成功した場合】の二つ。

検索数は・・・・・・うん、やっぱり数え切れないほどあるな。まあ一番最新のものを見るか。

 

---パララララララララララララララララララララ・・・・・・・

 

 

ページの捲りが始まる。それとともに、俺の頭の中で膨大な量の記憶が浮かび上がっては次の浮かんだ記憶に埋もれるように消えていく。

 

---パララララララララララララララララララララ・・・・・・・

 

今度は先ほどとは違い、瞬きを二、三度行ってもページが止まる気配がなかった。

・・・まあ当然だろうなぁ。今検索している見たい記憶は、前世のダンジョン世界から脱出しようと奮闘していた頃・・・・・即ち時間にして150年以上昔の出来事まで遡らないとないのだから。

自慢じゃないが、俺は現実でダンジョン世界の事を思い出してから今日までの探索で、あのドス黒い絵の罠を作動させたことは一度もない。

だってあれで現れた幽霊に一度でも触れられたら最後、有無を言わさず死に追いやられるからな。

ヘブンズ・ドアーがあれば一応、自分の記憶の全てを一時的に忘れる事であれの持つ呪いの影響から逃れることは出来るが代わりに記憶が戻るまでの間はほぼ完全に無防備な状態になってしまう。そんな状態でもし何の状態異常にもなっていない他の敵と出会うようなことがあれば目も当てられない事態になるのは明白だしな。

そしてさっき語りかけたこのスタンドの特徴の一つとして、記憶を検索する時は必ず現在の記述から順に遡っていくことになる。ページをどこから開いたとしても必ずだ。途中から見開くといったことは一切できない。

だから検索する記憶が昔になればなるほど、ページを開く時間が長くなってしまう訳だ。(それでも、常人からしてみれば大体一瞬という言葉で十分片が付いてしまうほどの時間には違いないが・・・)

 

---パララララララララララララララララララララ・・・・・・・ピタッ

 

(終わったか・・・・・・やべぇ、やっぱりいざ見るとなると結構躊躇うわこれ・・・)

 

ページ送りがいよいよ終了した。開かれたページの記述に目を向けようとして・・・急に恐怖心が湧いてきて躊躇ってしまう。正直な話、この体験はさっきよりもさらに辛いからな・・・

俺はゆっくりと深呼吸を行い、心を落ち着かせていく。

・・・・・・一度乗り越えた出来事の記憶、この記述によって死ぬ事はないとは言え、やはり自らを脅かされる体験というのは何時になっても嫌な物だ。

しかしここでチャンと経験を思い返しておかないと後で呪殺されてしまうことを考えると・・・・・・・・・・・・・・・よし、踏ん切りがついた気がする。

 

「{チラッ}ぐ・・・!」

 

意を決してページの記述に目を向けると、頭の中に明確なイメージが浮かび上がった。

イメージの中では俺の周囲を罠を踏み抜いてしまったことによって出現した幽霊たちが俺を取り囲んでおり、そのうちの3体が俺に今まさに触れようとしているところだった。確かこの時は、仗助のクレイジー・ダイヤモンドと俺のチリ・ペッパーが殴り合っている所にエコーズact2が【ドヒュウウウッ】の尻尾文字を投げ付けてきていて、それを回避するためにチリ・ペッパーの発光で目晦ましを行いながら軌道から身を躱したのだ。だけど少し離れた位置にいた億泰がやたら滅鱈空間を削り取ったせいで尻尾文字の軌道に空間ごと無理やり引き戻されたせいで文字に吹っ飛ばされ、その着地した位置にたまたま罠があったせいで仕方が無く作動させてしまうという謎の珍体験だったな・・・

 

『ヘブンズ・ドアーッ!俺自身に命令を書き込めぇ―――ッ!!』

---ガシィッ!!

 

そう叫びながらヘブンズ・ドアーを出した直後、幽霊のうち背後から忍び寄ってきた一体に触れられて、途端に肺の中が何かの液体で埋まっていくような感覚に襲われる。

同時に全身が急速に水を入れた風船のように膨らみ始め、穴という穴から水を噴き出し始めた・・・まるで今まさに自分が水底に沈んでいて、水中で無様にもがきながら溺れていっているようだった。

 

『ゴボッ ゴボボボッ ゴボゴボッ』

 

その状況において自分の命が消えていこうとしている中、俺は自分の体に襲い掛かる苦しみに意識を落とされそうになりながら、必死に自分の右手の人差し指を左の前腕に向けて動かしていた。

そして完全に意識が途絶えようとした・・・・・・・・・・その直前にふと、いつの間にかそんな事など最初から起こっていなかったかのように膨張していた体が元通りになっていた。俺に触れていた幽霊や、俺を取り囲んでいた幽霊達もどういうわけか姿を消している。

 

『ハァー!ハァー!ハァー!う、うあう・・・・・グギギギギ・・・』

 

記憶の中の俺は、荒く息を吐きながら床に倒れ込む。

そしてふと気づくと、自分の左腕に文字が書かれていることに気が付いた。

 

【全ての記憶を消す 何もかも】

【鞄の中の鳥の姿が映ったディスクを頭に刺して誰もいない所に跳べ】

【自分以外の動くものが周りにいなくなったら上二つの記述を擦れ】

 

『ハァー!ハァー!・・・・とり・・・?でぃす、く・・・』

 

たどたどしく意味が分からないといった感じで呟く。しかし俺の体はそんな俺の意思とは関係なく背負っていた鞄の中を漁り、中から一枚のディスクを取り出して自分の頭に刺し込む。

そして次の瞬間、俺の体は浮き上がり、雲一つない青空へと向かって飛翔した・・・・・

 

---パァンッ!!

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・きっつぅい・・・ッ!」

 

見るべき物を見終わると同時に勢いよく本を閉じた。追体験の辛さのためか、精神的に強いダメージを受けた為に肩で息をしながら思わず床に膝をついてしまう。

これは後で、トニオさんの料理を初めて食べた時の記憶で癒さないとな・・・・・しかしこれで、上書きすべきイメージが俺の中で完璧に固まった。後はこれを実行するのみだ。

 

「ハァー、ハァ―、ハァ―・・・オーバーヘブン。」

 

呼吸が落ち着いてきたらまた両の足で立ち上がり、隣に立っていたオーバーヘブンの右手が俺の右肩を掴む。

思い浮かべるのは、さっき再体験した呪いの感覚。あの容赦なく死へ引きずり込まれるような悍ましい力・・・・・・そしてその呪いの力を、20'th century boyを使っている時のように何時如何なる時も問答無用で防ぐ事が出来る、そんな存在へと自分を上書きするイメージ・・・

 

「上書き開始だ。」

 

---ジジジジジジジジ・・・・・

 

そう言った直後、オーバーヘブンが掴んでいる右肩から力が流れ込んできて、俺の体がテレビ画面のノイズが走ったようにブレ始めた。

それと同時に、自分の中の言葉にしにくい何かの要素が急激にその質を高められていくような感覚を覚える。

そしてその感覚は、時間が経つにつれてどんどんその強さを増していき・・・

 

「・・・・・・・はぁ~~~、こんなものか?」

 

時間にすれば五秒ほどもかからない間にノイズが消え、、上書きが終了した。

内蔵エネルギーの消費量は・・・順当に一回分といったところだな。

途中作業は正真正銘の苦行だったが、こうして終わってみると案外呆気無い物だと思う。

 

「さぁて、後はこの成果をダンジョンで確かめるだけだ・・・その前に休憩を挟むけど。」

 

本当のところを言うと耐性のチェックは事前にしたいけど、俺のステータスは残念ながら矢島のアナライズでは確かめられなかったからな。去年の悪魔騒動の際、事後処理をするためにもらった悪魔召喚プログラムのアナライズ機能で俺のデータをこっそり取ろうとしたけど、全ての表記が謎のバグで埋め尽くされていてびっくりしたもんだ、当時は。

けどよくよく考えたら、俺がこの世界に送られたそもそもの理由が【神様を名乗る上位存在が管理していたらしい俺の人生記録とやらにバグが発生していた】事だったんだからある種当然と言えば当然なのだろうか・・・あいつの技術開発の要であるシミュレーション能力も元を辿れば特典だし・・・

そんなことを考えつつ元有った場所にオーバーヘブンを仕舞い、汗まみれになった服を着替え直して床の水気を雑巾で拭き取ったら、洗面台で手を洗って長椅子の上に寝転ぶ。後は仰向けの姿勢になったら、疲労を癒すべくページを捲っていく。

 

---パラララララララ・・・・・・ピタッ

 

最初に開かれたのは・・・ああ、これかぁ。懐かしいな、初めて食べたトニオさんの娼婦風スパゲッティ。

危機的状況にも拘らず馬鹿みたいに時間をかけて悩みまくって・・・挙句に一番効果が使い難そうなプロシュート兄貴の記憶ディスクで足りない金を補って買ったんだっけ・・・腹が減っては戦は出来ぬとはよく言うけど、それを加味しても馬鹿だったよなぁ、あの時は。

そんでまあその場で実食した時は・・・本当に、心の底から美味いと思ったんだよな・・・・何度か俺も似たようなのを作って食べたことがあるけど、あれはそれらとはもう比べ物にならない出来だった。

スパゲッティから香り立つニンニクやバジル、オレガノや唐辛子等のハーブやスパイスの風味は市販品とは比べ物にならないほど良く、匂いに魅かれて口にしたスパゲッティは絡みついた唐辛子の辛さとトマトの酸味がオリーブオイルやアンチョビの塩味、コクのあるパルミジャーノ・レッジャーノと合わさることで筆舌に尽くしがたいほど絶妙な味へと昇華されていた。

きっと全ての素材を、彼が自ら厳選した代物だったのだろう・・・夢中になりすぎて、食べ終わるまであの時はスプーンとフォークが止まらなかった。

・・・・・・・あれ、そういえばこの後何かあったような・・・・

 

『トニオさん、どうもありg・・あがが!?』

 

---ゴキゴキゴキッ バシュッ! ズビシィッ!!

 

『ヘブゥ!??』

『{メキメキメキ・・・}・・・・と、トニオさあああん!?だ、大丈夫で・・す・・・・か・・』

『・・・・フ、フフフフ・・・・』

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

こ、こんなこともあったっけな(・_・;)

 

 

 

 

 

 

 

「{パラ・・・・パラパラ・・・パラ・・・}・・・・・・よし、そろそろいいかな?」

 

30分ほどの休息の後、【The Book】を閉じて起き上がる。

 

「・・・よし、これなら大丈夫か。」

 

シャドウボクシング等で体を軽く動かした結果、大分調子が良くなったことがわかり、【The Book】のディスクも外して元有った所に戻す。

それから戦闘服に着替え直して、食料品や他の必要なディスクが入ったカバンに今回はアンダー・ワールドのディスクを入れる。

安全の為に出来るだけ敵の弱い低階層で上書きの出来を確認したいからな・・・それが出来たら後はいつも通り探索に移らせてもらうが。

 

「{カチャカチャ・・・}これでよし。」

 

鞄を担いだらシンデレラのディスクを使ってアイテム運を上げる人相にし、天井から拠点のヴェネツィアホテルに出て室内に一つしかないベッドの方に向く。

そこにはいつも通りベッドに寝転びながら聖書を読んでいるプッチ神父と・・・・・・・・・恰好がアイズオブヘブンのラスボス仕様になってしまったDIOがいた。

まあこうなった原因の半分は俺にあるんだけど。今年の正月の期間が終わる頃にDIOにオーバーヘブンのディスクを譲るように(上から目線で)頼まれ、仕方が無く一番要領の少ないディスクを渡したら案の定こうなったのだ。因みに元の姿に戻ろうと思えば戻ることも出来るそうな(もっとも、本人にはそんな気は一切ないらしい)

後この状態になった直後、新たなダンジョンが開通されてこいつに話しかけると行けるようになったらしい。ダンジョン名は確か【天国の目】だったか・・・まあ手持ちのアイテムが持っていけないと聞いた時点でそのダンジョンの探索は見送ることにしたが・・・新しいアイテムが手に入るようなら何時か挑戦してもいいかもな。

 

「プッチ神父、またよろしく頼む。」

「ム、今日は私の方か・・・まあ良いだろう。」

 

それはそれとして、一巡後の世界に行く旨をプッチ神父に伝えると彼は読んでいた聖書を閉じてベッドから起き上がり、俺に向き直る。

因みにDIOはこちらをほんの少しだけ一瞥した後、また読んでいた本に視線を戻したようだ。

 

「では存分に戦ってくるといい。月並みだが、君の行く末に祝福があらんことを。」

「ありがとう。」

 

祝辞を貰い、それに返事をした直後、俺の視界はいつものように暗転し・・・・俺の立っていた場所がホテルの一室から今回はどことも知れない荒地へと変わっていた。

直ぐに周囲を見渡して敵の姿がない事を確認したらアンダー・ワールドを頭に刺し込み、黒い絵の罠を掘り起こしてそれを作動させる。

罠を正常に作動したようで、実に一世紀ぶりに、俺の周囲を取り囲むように絵の幽霊達がザッと六体程出現した。

 

「・・・・・・」

 

・・・・今までなら見た瞬間に本能レベルで死を予感し、全身全霊で逃げる算段を考えていた幽霊達を前に、今の俺は全くと言っていいほど生命の危機を感じなくなっていた。

触れれば間違いなく殺されるはずの存在がこちらにゆっくりと歩み寄ってくるのを、自分でも不思議に思うくらいぼんやりと見つめていると・・・

 

---ヒタッ ピタピタッ ガシィッ

 

ついに呪いの化身達が俺の体に触れ、若しくは俺の体を掴んだ。

 

「・・・・おぉ~~~、なんともねえ・・・こりゃいいな。」

 

いつもなら一体でも触れれば俺の祖先の中の誰かの死に方を辿ることになるはずだが、肝心の俺は呑気に自分の体を確認していられるほど何の問題もなかった。

不気味な集団に掴まれているという状況が正直気持ち悪いが、それ以外は全くと言っていいほど見られない・・・・・目論見は見事に成功したというわけか。

よしよし、今のところ十六階から先には上がれないが、これで状態異常の耐性を後で上書きすればあの塔の探索が一気に捗るぞ。

 

「よし、目的その一は達成したし何時もの探索をするか。」

 

掴んでいる幽霊たちを振り払ってアライブとともに飛び上がり、部屋内に落ちている漫画やディスクを能力で引き寄せながら一番近い廊下に飛び込んでいった。

さぁ、今日はどこまでいけるか・・・・・

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「・・・・・よぉ~~しよしよしよし、今日も無事帰ってこられたか・・・」

 

現実の時計が7時42分を指した頃、俺は自分が今日も無事拠点に帰還できた事を認識して大きく息を吐き出しながら安堵していた。

それにしても最後の階層は危なかった・・・あまりよく見えていなかったが降りた先の大部屋モンスターハウスでエンポリオが少なくとも6、7人はいた。一巡後の世界だとウェザー・リポートを引っ提げた奴も普通に出てきて、同じ部屋に入った途端あっという間に大気の成分比率を弄られて真面に動くことすら出来なくなってしまうんだよな。

大部屋で階段もかなり遠い位置にあり、どう足掻いても無差別攻撃からは逃げられないし、その程度の環境変化なら平然と適応できる究極生物とか吸血鬼連中もいたから近場のアイテムだけ拾ってでディアボロのディスク使って離脱してやった。

・・・・・命あっての物種だけど、やっぱり荒木先生のサイン色紙とか結構いろいろ落ちていたからちょっと勿体無かったな・・・・

 

 

「・・・・ま、くよくよしていても仕方が無い。それより後は今夜のことだ。」

 

夜になったら、また巌戸台に行くことになる。どんな秘密があそこにあるかはわからないが、それまでは取りあえずのんびりと過ごしますかね。

 

---グゥ~~~~~ッ

 

・・・・・まあまずは朝食だな。今日は何が出るかな?

 

 


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