知っての通り、人形のメンタルは女性である。
故に、人形の生活圏、特に宿舎近辺は大体が女性オンリーの世界であり、その辺も慮って清掃も自分たちでするか、あるいは女性に委託して行われることが多い。指揮官が男性であれば、生活圏に男性もいることとなってある程度の外聞や一種の緊張感が保たれるものなのだが、指揮官が女性だと、女性のみの空間となってしまうので一部のズボラなやつとか一部の気にしないやつとか、そういう存在がいなくてもだんだんと「緊張感の低下」というものが発生してくる。もちろん外からは見えないが、内部からなら簡単に見えるところに下着を干していたり、あるいは格好に気を使わなくなったりする。
「59式、いるー?」
「あれ? お嬢、通信じゃなくてこっちにくるって珍しいね。どうしたの?」
「ああ、おやつ作ったからどう? ってだけ」
「食べるー♪」
今日のパンケーキはよく膨らんだ。そういえば掃除用品質の重曹だったような気もするが、まあ別にかまうまい。多分私、腐ったものを食べてもお腹壊さないだろうし。
『ピピッ』
「おや? ……ああ、カリーニン、どうしたの?」
『おやつ中でしたか、指揮官様。後にしますか?』
「いや、別にいいわ。何の用?」
ホログラフコールに応じて、パンケーキをつつきつつ向き直る。そのホログラフウィンドウの向こうでは59式がパンケーキをつついてご満悦だ。
『先日の報告書の内容について、戦略研究部から追加質問がきておりまして、』
「……ああ、それ? それはね、」
・ ・ ・ 。
「とまあそんなところね」
『かしこまりました。ありがとうございます指揮官様』
「お安い御用よ」
自分のを食べきって、話しているので食べていないので残っている私の分を食べようとフォークを伸ばす59式に抵抗しつつ、会話を終わらせる。後はコールを切断するだけ、という状況で、妙にカリーニンがキョドり始めた。
「……ん? カリーニンどうしたの?」
『いえ、その……』
しばらく挙動不審に何かを言おうとしたり、あるいは考え込んだりしていたが、三十秒ほどで意を決したのか口を開く。
『指揮官様、今後はホログラフコールを開く時には背後にお気をつけください』
「背後?」
結局奪われたので、ため息を付きつつ後ろを向いてみる。
「……おや、まあ」
なんと、そこには59式の洗濯して干している真っ最中の下着が!
さらに後ろを向く、つまり59式の方を見てみると、パンケーキを咥えた瞬間のまま固まって真っ赤になっている。
『……お気をつけください』
それだけ言われて、コールは切れた。そのまま、フォークを咥えたまま59式が飛びかかってくる。
「ちょっ!? ご、59式、こら、フォーク咥えたままはあぶな、あぶないって……! こら、人間相手に人形の全力を出すんじゃ、出すんじゃなぁっ!? こ、こら、はなしなさい!?」
・ ・ ・ 。
「へー。浴場でたまに見てたけど、指揮官の下着って、その、なんていうか……機能重視なのね?」
Five-seveNが、私の部屋の前に吊られた私の下着一式を見て感想をこぼす。
結局、59式の下着を意図せず開帳してしまったという落ち度が私にあるので、私の部屋の前に私の下着一式を数分吊るすことになった。で、たまたま通りがかったFive-seveNとグリズリーに下着の品評をされている。お前らでかい奴らにない奴の思いなんてわからねーよ。
「そうね……まあ、そのへんは人それぞれのポリシー次第じゃないかしら」
人形に気を使われているというのが割と物悲しい。
「とはいえ、指揮官様のサイズでは肌着以上の意味を持つものが必要かどうかは疑わしいところですな、はっはっは」
「……」
「……」
「……」
……。
「立ったまま死ね!」
「ぎゃああああああああああっ!」
私は、カリーニンの鼻をちぎれよとばかりに捻り上げた。
というか、狙ったように突っ込んでくるのはなんでなんだぜカリーニン……。